どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百四十四章

 

 不要カードをマサドラのトレードショップで売却、必要な分だけお金を下ろし、私達はスノーフレイへと『同行』で舞い戻る。

 

 途端、雪とともに冷たい風がビュウッと吹きつけた。

 

「うっひゃあああッ! さぁっぶぅぅぅ!?」

 

 ベルさんが両腕を抱えて足をバタバタさせる。

 

「だからもう少し厚着しろって言っただろ」

「だぁって時間がなくて──ぅあー、さぶさぶっ!

 ……それでアンタ達、そんな重装備だったのね」

 

 モタリケさんに言い返していたベルさんが、羨ましそうに私達を見てくる。

 

「そりゃお前、俺達さっきまで雪山登ってたんだぞ?

 ガッチガチに固めてるに決まってんだろ」

「この街に慣れた私達でも、暖かいところからコレだと流石に寒いですけどね。

 シーム。私達のマフラーを出すついでに、お2人にカイロを」

「分かった!

 ……おねーちゃんも、カイロいる?」

「もらっとく」

 

 さっきからメレオロンも寒そうだしな。大人しくしてるし、尚更だろう。

 

 

 

 雪に備えた靴ではない夫婦と足並みを揃えて、鮭鍋料理店へ向かう。なので移動速度は遅めだ。

 

「さむーぃ。歩きにくーぃ」

「分かりきってただろ、そんなの。

 ちゃんと冬の寒さ味わっとけ。じゃないと鍋も温泉もありがたみ無いぞ」

「それは分かるけどー」

 

 ベルさんが道中文句タラタラなのを、ウラヌスがいちいち相手してる。その後ろを少し離れて付いていき、そのやりとりを私が苦笑しながら聞いていると、

 

「はぁー……

 ごめんな、ウチのがずっと大騒ぎしてて。

 うるさいし、迷惑だろ?」

「アハハ。いえいえ」

 

 隣を歩くモタリケさんが、私に小声で謝ってくる。別にこの人が悪いわけじゃないし、謝る相手も私じゃなくてウラヌスの方だろう。

 

「モタリケさんはどうなんです?

 無理やり連れ出されたんだと思いますけど、急で困ったんじゃないですか?」

「ああ……そうだよ。

 明日はともかく、今晩合流するって話は突然聞かされた。

 ただまぁ、迷惑も何もいつものことだしな。アイツの気まぐれは」

 

 ですよねー。普段からすんごぃ振り回されてるんだろうな、このヒト。

 

 ……ちょっと気になるな。試しに聞いてみるか。

 

 ベルさんに聞かれないよう、私は更に小さな声で、

 

「もし……。

 もし、ですよ? ベルさんが現実に帰りたいって言ったら、あなたはどうします?」

 

 私の目を意味深に見返した後、ベルさんの後ろ姿を眺め続けるモタリケさん。

 

 道中、彼は考え込んだ様子で、ずっと黙ったままだった。

 

 

 

 くつくつくつくつ……

 

 このね。ちょっと揺れるフタの隙間から湧き立つ香りと音。食欲そそるなんてもんじゃないよ、こんなのお腹減ってなくても食べたくなっちゃうよ。

 

 今、この場にウラヌスはいない。隣のお座敷で同じような注文をした夫婦に付き合って、色々話してるようだ。食べ頃になったら戻ってくるって言ってた。

 

「お腹すいたねぇー」

「雪山でさ、身体が芯まで冷えちゃってるからさ。

 こう……お鍋待ってるこの時間だけで、癒されてくのがすごい分かるのよね」

「ふふ。お2人とも、今日はお疲れ様でした。

 明日はウラヌスの体調のこともありますし、修行はお休みにします。

 しっかり息抜きしてくださいね」

「……マジで?」

「マジですよ」

「ぅっ──

 しゃああああああーっ! 明日修行あんのかないのか、気になってたのよね!

 ドリアスってバトルとか運動とか、そういうのないわよねっ!?」

「ええっと……

 うろ覚えですけど、確かあるんですよね、そういうのも……

 でも挑戦するとしても、私が全部引き受けるつもりです」

「ボクも? ウラヌスは?」

「あなたもウラヌスもですよ。休んでいただきます。

 明日はお休みと言うより、遊びに行く感じだと思いますから、次の日に疲れを残さない程度に楽しんでください」

「アイシャは疲れてないの?」

「ご心配なく。

 疲れていないわけではありませんが、あなた達よりはずっと元気ですよ」

 

 2人が急にウキウキしだしたのが手に取るように分かる。……休みって大事だなぁ。

 

「ウラヌスとそういう話ってした?」

「えー……具体的にはしていませんね。

 なので、この後お話しします」

「ちゃんと休ませてあげてね。すっごいしんどそうだったし」

「もちろんです」

 

 まぁ私が戦う場合は、どうしてもウラヌスのオーラに負担いっちゃうけどね。……そうすると、私もバトルイベントなんかは遠慮した方がいいかもしれないな。

 

 隣の気配が廊下を通り、こちらのお座敷に近づく。戸を開けて、ウラヌスが入ってきた。

 

「なんか騒いでた? ……なんで2人とも喜んでるの?」

 

 ウラヌスが姉弟を見て、不思議そうな顔をした。ぱっと見で分かるよね、喜んでるの。

 

 

 

 ぐつぐつぐつぐつぐつ……

 

「──ああ、そういう話か。

 確かに闘技場へ参加して取れるカードもあるけど、明日は流石にしないよ。

 ……元々は取るつもりだったんだけどね。

 あの2人に休めって怒られたから、ああダメだなって諦めた」

「私も怒ってますよ?」

「……ごめん」

「まぁまぁ。じゃあアレね。

 明日は純粋にギャンブルを楽しめばいいわけね」

「うん。攻略法もなくはないけど、基本それでいいよ。難しく考えても楽しくないだろ?

 大体のカードは、時間さえかければ取れるのばっかりだし」

「レインボーダイヤなんて、スロット回し続けるだけですもんね」

「軍資金さえあれば、誰でもできるからね」

「ぼく、お店でお金かけてやるギャンブル初めて!」

「ハマるなよー?

 博打で身を滅ぼすヤツはたくさんいるからな」

 

 メレオロンがうんうん頷いてる。本当は教育上よろしくないんだろうけど、ゲームの中だしな。固いことは言うまい。

 

 ……。そわそわ。

 

「ところで、鍋奉行的にコレってまだですかね?」

「あ、もういいと思うよ。鍋奉行ちがうけど」

 

 ウラヌスがカパッと鍋蓋を開けると、味噌で煮立てられた甘い薫り。あー……ぁー……

 

「やっぱりいいですねぇー……」

「そうだねぇ。薫りがもうたまんないよね」

「ちょっとお酒の匂いがしない?」

「うん、酒粕(さけかす)が入ってる。酒粕と味噌と牛乳辺りかな。

 昨日も食べたから分かるだろうけど、まろやかな味で身体も温まるよ」

「お鍋って感じがするね」

 

 うん。雪山で頑張った分、ご褒美にこういうの食べるって……贅沢してる気分になれるよね。冬の鍋は最高だな!

 

「さ、そろそろいただきましょう」

『おーっ!!』

 

 

 

 大盛り白ゴハンを親子丼にして一口頬張る。あー、めっちゃウマー。これだけでゴハン何杯でもいけちゃうよ。

 

「もぐもぐもぐもぐ……

 そういえばウラヌス、お隣はどんな様子でした?」

「あ、うん。

 お鍋はすっごい喜んでたね。来てよかったー♪ って手の平返してた」

「ふふ。まぁ分かりますけどね。

 冬のお鍋って、それだけで幸せな気分になれますから」

「まぁねー。奮発した甲斐があるよ」

「春菊と白菜足すわね」

「おう。どんどん入れていいよ」

「おねーちゃん、キノコも入れてー」

「はいはい。

 あー酒飲みてぇー」

「ダメだぞ。隣の2人にも言ったけど、酔っ払ったら何すっか分かんないからな。

 このあと温泉も入るし、まだアルコールは摂るなよ」

「……アトならいいの?」

「寝る前にビール1本ぐらいならな。隣にもそう言ってる」

 

 鍋でお酒か。気持ちは分かるんだよな。でも今回はご遠慮いただこう。まだ夜の雪道を歩くから危ないしな。

 

 

 

「はい、あーん♪」

「あーん」

「あーん」

「ちょ、オマエラ……いい加減にしろよ。

 俺をなんだと思ってんだ」

「なにカッコつけてるんですか、にゃんこ姫のクセに」

「ちょっと!?」

「いいから。冷めないうちに、早く口開けてください」

「ぅぇー……なんで俺が怒られんのぉ?」

「いいから、あーん!」

「……。ぁーん」

 

 雑炊によるウラヌスの集団餌付け祭りで今日も笑わせてもらった後、同じく鮭アイスでシメて夕食は終了と相成った。ホント、この街の鮭は絶品だよ。また食べに来たいな。

 

 夫婦が遠慮なく追加注文したらしく、お会計が5万突破してウラヌスがレジ三度見する有様を晒し、まぁまぁと宥めながらお店を後にした。

 

 雪道を歩きながら、ウラヌスはガックリうなだれ、

 

「マジかぁー……」

「アハ♪ ごっめーん。

 お酒飲まないから、逆に箸が進んじゃってさー♪」

「悪かったよ。タダメシだと思ったら我慢できなくて、ついつい頼みすぎた。

 あんな美味いモンたらふく食ったの、いつぶりかな……」

 

 モタリケさんが遠い目で白い息を吐く姿が、また涙を誘う。そりゃゲーム攻略しない、怪物倒さないんじゃ、贅沢なんてできないもんね……

 

「……まぁ贅沢堪能できたんならいいよ。

 奢った甲斐があったってもんだ」

「ホント美味しかったよね、ウラヌス。雑炊とか」

「雑炊とかですね」

「ちょっとヤメテ2人とも」

「どれも美味しかったと思うけど、そこまで雑炊よかった?

 それともあなた達、なんかしてたの?」

 

 ベルさんが食いついてきたので、ウラヌスが慌てて手を振り、

 

「ないない、なんでもないからっ!」

「……あっそぅ。

 ところで肝心のお宿はどこなの?

 混浴温泉? ペンション○ヌルプ?」

「ちげぇよ。つかなんだク○ルプって。どっかで聞いたことあるけど。

 混浴があるトコは、指定ポケットカードのイベントが発生すっから、他のプレイヤーと接触する可能性高いし行きたくないんだよ。

 2人で勝手に泊まりに行くなら止めないけど、俺達はもう別の宿取ってるからお前らの安全まで保障しないぞ。

 そのせいでこっちのカード盗られたりしたら、弁償してもらうからな」

「えー……」

「安全に温泉入りたきゃ、普通のトコで我慢しろ」

「普通の温泉宿で充分じゃないか。

 安全どころか金まで出してもらってるのに」

 

 モタリケさんがそう言っても、ベルさんはイヤイヤ首を振り、

 

「混浴楽しみにしてたのにー。

 あなた達だけずるーい」

「……ズルイの意味が分からんが、そんなに混浴したけりゃ男湯か女湯に2人で入れよ。

 他に客がいなけりゃ別に構わんだろ」

 

 ベルさんは目を丸くして、ポンと手を打つ。

 

「あ、なーるほど。アンタあったまいいー♪

 そんな格好してるだけあって、発想が自由なのねー♪」

「オマエ……」

 

 うぅ。ウラヌス越しに私までダメージが。……普通の発想じゃないのか。

 

 

 

「へー。よくこんなとこ見つけたわねー」

 

 湯煙温泉旅館『古都の余韻』を一目見たベルさんの感想だ。モタリケさんも複雑な顔で旅館の外観を眺めつつ、

 

「普通って言うからスパみたいなところ予想してたが、結構するんじゃないかココ?」

「……一泊二日一食付きで、二人部屋二名泊まりだと30000だったかな。

 俺達は四人部屋だから56000だけど」

「本当にいいの?」

「……二言はないよ。

 その代わり、明日はちゃんと協力してくれよ」

「わかってるってば♪

 取れたカードとか儲けはちゃんと全部差し出すわ♪」

 

 めっちゃ上機嫌だな、ベルさん。……やっぱり気前よすぎたんだろうか。

 

 

 

 ようやく部屋に戻り、一息吐いた頃には7時を回っていた。

 

「さぁて、この後どうするー?」

 

 こたつでつぶれながらメレオロン。全然やる気ないな。

 

 ウラヌスは疲れた顔でお茶をすすりながら、

 

「俺はカードの整理とか、明日のこととか……あいつらの説得とか色々あるしな。

 メレオロンは風呂入って、『練』して寝るぐらいじゃね?

 ヒマならゲームでもすりゃいいし」

「桜ー」

「まて、シーム。ちょっと考えさせろ。

 つかお前も容赦ないな」

「あ……そっか。ウラヌス疲れてるもんね」

「うん……

 出してやるつもりではいるけど、今日は延長無しな。

 流石にこれ以上消耗したら、安全を保障しかねる」

「……無理せず、今日はやめておいた方がいいんじゃないですか?」

「アイシャ……

 そんな顔で言われても説得力ないんだけど?」

 

 ぐ。……だって私もサクラもふりたいもん。

 

「まぁ桜出す前に、とりあえず温泉かな」

「そういえば、あのお2人はいつ入るんですかね?

 鉢合わせしないようにしないと……」

「おっと確かに。ちょっと聞いてくるよ」

 

 ウラヌスがこたつから出て、部屋を出る。四人部屋と二人部屋だから、隣にできなくて少し遠いんだよな。隣同士だと、それはそれで気が抜けないけど。

 

 5分ほどして、ウラヌスが戻ってくる。

 

「先に入っていいってさ。

 俺達の方が先に休むだろうからって」

「じゃあ、早速入ります?」

『おー』

 

 コタツに入ったまま、こぢんまりと姉弟が同意した。

 

 

 

「なんだかアタシ達だけで入るってのも、違和感あるわよねぇ」

「アハハ……」

 

 脱衣所でメレオロンにそう声をかけられ、私は否定できずに乾いた笑いを返した。慣れって怖いなー。少し前の私なら、そんなの有り得なかったよ。

 

「シームと一緒に入りたかったですか?」

 

 からかい半分で尋ねると、メレオロンはにんまり笑い、

 

「その言葉、リボン付けてお返しするわ」

 

 ……。どういう意味なんだか。

 

 

 

 ここの温泉も少し小さいながらも同じような露天風呂で、快適は快適だったんだけど、何だか物足りないのも事実だった。雪一つチラついていない。

 

「あー……癒されるー」

 

 湯船の中で、だらんと手足を伸ばすメレオロン。ご満悦だな。雪山で散々寒い思いしただろうし、そこは私も同感だ。

 

「なんだかんだで、気楽に入れるのもいいもんですよ」

「まぁねー。

 一緒だと面白いんだけど、気を使っちゃうからねぇ。余計なこと喋っちゃうし」

 

 うん。それは昨夜思い知ったよ……

 

「ウラヌスも疲労を溜めているようですし、これでよかったのかもしれませんね」

「そうね。

 ……あの子はがんばりすぎるから」

 

 言葉もなく頷いた後、湯船の温かさに気持ちをゆだねる。

 

 

 

 心地よく温泉を堪能し終え、脱衣所で買った新品のバスタオルで髪を拭いていると、

 

「……? メレオロン?」

 

 気配がない。と認識した瞬間、むにゅにゅっと胸をつつかれた感触。

 

「わッ!? ちょ、メレオロンッ!!」

 

 感触と同時に目の前に現れる変態。両手を上げ、舌をべろべろ出した小馬鹿にした顔で、

 

「ぷよんぷよん、ごっちー♪ 油断が過ぎるわよーん♪」

 

 ああああ、めっちゃムカつく!! 触られたことより、心底おちょくられてるのが腹立つ。

 

「やめてくださいって何度も言ってるじゃないですか!

 もうっ!」

「ふふん、余裕なさげね。

 ……その様子だとアンタも疲れてるみたいだし、ちゃんと休みなさいよ」

 

 満足げに優しく言ってくる。おのれぇ……確かに油断してたけど、まだこんなことしてくるのか。くそっ……気配が消えたことには何とか気づけるけど、どっから来るかまでは分かんないんだよな。正面だけ警戒してたら、後ろからオシリ揉まれたことあるし……

 

 どうせなら修行に組み込んでやろうかな。多分この1ヵ月しか修行できる機会もないし、こういう見えなくなる能力を今後もボス属性で防ぎ切れるとは限らないからな。見えない何かが接触してきた時、反射的に対応することができれば──

 

「ん? もしかして、すごい怒ってる?

 なんか怖い顔してるけど」

「あ、いえ。

 ……その、怒ってないわけではないですけど、メレオロンのその能力、私の修行に利用できないかなって」

「へぇ。【神の不在証明/パーフェクトプラン】相手に修行したいの?

 アンタ、すごいこと思いつくわね」

「ダメですか?」

「うーん……

 軽く答えられることじゃないかな。ちょっと考えさせてちょうだい」

「ええ、お願いします。

 急かすわけではないですけど、私が復活したら効かなくなるんで、それまでには……」

「ん、覚えとくわ。

 ……ん? でもそれなら、修行なんて必要なくない?

 どうせ効かなくなるんだし、警戒なんかしなくたって」

「いえ、そういうわけじゃないですよ。誤解しないでください。

 別にあなたを警戒してるわけじゃなくて、そういう能力を必ず防げるとは限らないんで、触れられた時に反応できるかどうかを──」

「あーはいはい、了解。

 っと、まだ了承したわけじゃないけど、理由は分かったから。

 まったく、アンタも修行熱心ねぇ」

 

 苦笑するメレオロンに、なんだか気恥ずかしくなり顔を背ける。

 

 ……そうだよ、それの何が悪い。フンだ。

 

 

 

 

 

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