あー。いちごゼリー、うまー。温泉で火照った身体にヒンヤリした食感がたまんないよ。いちご大福にしようか悩んだけど、こっちで正解だったな。
「アンタ、あれだけたらふく食ってまだお腹に入るんだ……」
「甘味は別腹ですよ。
メレオロンだって食べてるじゃないですか」
「甘味は別腹だもん。
とは言え、アンタみたくクリームたっぷりのはね……
アタシのは可愛いもんでしょ」
売店そばのテーブルに同席するメレオロンが食べているのは、小さなメロンゼリーだ。子供が食べるようなサイズだな。おいしそうだけど。
「よくメロン食べてますよね。好きなんですか?」
「メレオロンだけに?」
アハハハ、と笑い合う。こういう下らないこと喋るのってホント楽しいよ。
「にしても、あの子達おそいわね?」
「そうですね。私達も結構のんびりしてたと思うんですけど」
温泉の入口付近の売店で、私達は2人が上がってくるのを待っている。買った飲み物を1つ空けて、こうしてオヤツを食べてるけど2人はまだ来ない。男湯から気配はするし、単純に長湯なんだろうけど。
「ま、どーせイチャイチャしてるんでしょ。
どうする? このまま待ってる?」
「あんまり遅いようなら部屋へ戻りますけど……
心配ですし、もうしばらく待ちましょう」
このメンバーで現状一番戦闘力が高いのはウラヌスだけど、一番健康に不安があるのもウラヌスなんだよな。温泉で不調に陥ったとしても不思議はない。
「直接覗きに行きゃいいんじゃない?
別に今更でしょ」
うん? いや待て。
「あのですね。
混浴ならともかく、相手の了承なく故意にそんなことするのは犯罪ですからね?」
「そうねぇ。
誰かさんに了承なく全身フキフキされたから、今更見られても平気ー、なんて言えないわよねぇ?」
ぅ、ぐ。……くそ、ダメだ。この手の話題はメレオロンが一枚上手だ。
「その話は蒸し返さないでください。
とにかく、声をかけるくらいならいいですけど、覗くのはダメです」
「はいはい。
もう少し待って上がってこないようなら、そうしましょうか」
しばらくして、2人が上がってきた。私達もそれに気づいて、2人がこちらへ来るのを待つ。
ウラヌスと一緒に歩いてきたシームが、テーブルの上にあるカラ容器を見咎め、
「あー。なんか美味しそうなの食べてるー」
「アンタ達が遅いからでしょ。待っててあげてたのに何よ。
飲み物とゼリー食べただけよ」
自分が言われる立場だと強気だな、この変態は。確かに大して飲み食いしてないけどさ。
ウラヌスは、シームの肩をぽんぽん叩き、
「まぁ遅かったのも事実だしな。
シームも、食いたきゃ何か頼んでいいよ」
「うん!」
浴衣をひらひらさせて、売店のカウンターに走っていくシーム。まー現金だこと。
「やけに遅かったけど、なんかあったの?」
「うん? ……いや、内緒の話だよ。
悩み事が色々あって、つい話し込んでた」
「ちょっとウラヌス! 内緒にしてって言ったじゃん!」
「おっと、ゴメン。
これ以上は喋らないよ」
「悩み事って何よ?」
「お前、今のやりとり聞けよ。喋らないって言ってるだろ」
「それはシームの話でしょ。
アンタも悩み事あって、相談したんじゃないの?」
「……内緒」
2人で内緒話か。気になるけど、教えてくれないんじゃ仕方ないな。……気になるけど。
「これからどうします?」
「とりあえずあの夫婦に、俺達は風呂上がったからいつでも入っていいって伝えてくるよ。
後は自由行動で」
「明日の相談とかしなくていいんですか?」
「まだ考えがまとまってないんだ。まとまってから話すよ。
……あのバカップルにも話すことあるし」
そっか、あの2人を説得する大イベントがまだ残ってたな。私もその辺は協力しないと。
「お2人が温泉を上がってから、例の説得をするつもりなんですよね?」
「そのタイミングしかないかな。
いちおう、話すことがあるから起きて待ってろ、とは伝えるつもり」
「あなただけで話すつもりでした?」
「うーん……決めてなかったけど。
そうやって聞くってことは、アイシャも参加するつもりなんだよね?」
「ええ、そのつもりでした。
お2人の説得で何か条件を提示された時に、私もいないと困るでしょうし。
私とウラヌスが、お2人の部屋を訪ねて話す形でいいんじゃないかなと」
「いいんじゃない?
バカップル同士、気も合うでしょ」
さらりと割り込んだ変態をギロリと睨みつけ、
「誰がバカップルですか!」
「あんなやつらと一緒にすんな! 色んな意味で!」
う、うん。そうだな。色んな意味で。
夫婦が色々話しながら温泉へ──2人とも女湯へ入った後、ウラヌスは売店のテーブル2つをくっつけ、バインダー6冊をそこに広げて立ったまま考え込んでいる。
「大丈夫ですか?」
「うん、平気。直接見て考えた方が、見落とし無いと思うし。
説得の件も、これが終わったらすぐ考えるよ」
頭脳労働も任せっきりなんだよな。……そりゃ気も休まらないよ。だからって代わってあげられる気もしないけど……
せめて、現実へ帰還するようあの夫婦を説得した時、どんな要求をされそうか予想しておこうかな……
「はぁぁぁー。サッパリー♪」
「せっかくの温泉なのに、なんか疲れたよ……」
つやつやとベルさんが、げんなりとモタリケさんが女湯から出てきた。
「モタリケがやたら疲れてるけど、なんかあったのか?」
「いやさー。モリーがさー。
早く早く上がろうとするわけよ。なに照れてんだか」
「当たり前だろ、女湯なんかに入って落ち着けるわけないだろ。
1人でのんびり湯に浸かりたかったのに……」
あ、はい。ごもっとも。
浴衣姿の夫婦は、テーブルの上のバインダー2冊を見やり、
「カード整理は済んだの?」
「終わってるよ。金も放りこんであるから戻してくれていい」
「おっけー。ブック。
モリー、そこで何か買ってきましょ♪」
「はいはい……ブック」
「好きに行動していいけど、後で話あるの忘れて寝ちゃダメだぞ」
「はいはーい♪」
そうして夫婦が売店へ向かうと、入れ違いに声。
「ぅぇー……」
「ほらほら、泣かないの」
なんかシームが泣きながら、姉と一緒にゲームコーナーから戻ってきた。
「どうしたんです?
また変態に泣かされました?」
「ちょっと、アイシャ!」
抗議してくるメレオロンに笑い返す。ふふ、さっきの仕返しですよっと。
「アタシは泣かせてないわよ。
シームが……」
「ウラヌスー。あのゲーム、クリアできなぃぃー」
「お前、そんなんで泣くなよ……」
「違うぅー!
おねーちゃんが、ボクがやってる時に変なこと言って邪魔するから!」
「おい。やっぱりお前が泣かせたんじゃないか」
「違うわよ、ムキになったのはシームよ!」
カオスってるなー……。まぁ平和でいいんだけどさ。
「で、肝心のゲームはなんだよ」
「えっと……
○レイクアウト? だったかな……」
「あぁ……
ブロック崩しな。簡単そうに見えるけど、アレは知ってないとダメなヤツだよ。
どうせツマミの動かし方わかんなくて、秒殺されまくったんだろ?」
「だってだって!」
「あー、分かった分かった。コツ教えるから叩くな」
「あにあに、なんああっまも?」
夫婦が売店から戻ってきて、ベルさんがフライドポテトをくわえたまま何か尋ねてくる。カオス増量。
「別に。ゲームの遊び方どうのって話」
「もくもく……ああ、なんか古臭いゲーム機、端っこにあったわね。
アレって面白いの?」
「さぁ?
俺にはよく分からんけど、往年のヒットゲームではあるな」
──何がよく分からないだ、めちゃめちゃやりこんでるじゃないか。
ゲーム画面上ではスゴイ速さで跳ね回るボールを、小さなバーで返し続けるウラヌス。手元のツマミを、精密機械かと思うほど丁寧にちまちま動かしている。何をどうやってるのか分かんないよ。
モタリケさんが首を傾げながら、
「これ、こんなゲームだったか?
オレの記憶にあるスピードと全然違うんだけど」
「……多分、改造筐体。ムカつくぐらい加速してるな」
おぉい。なにソレどういうこと? まさか念能力者がプレイする前提で、わざわざ難度上げてあるとか? いらないよ、そんな配慮。
ベルさんが身震いして見せ、
「いやいやいや、まさかアンタ初見でこんなことやってんの?
流石にキモいんだけど」
「キモイとか言うな。ブレイ○アウトがこんな速さにならないだけで、他のブロック崩しなら普通にあるよ。このゲーム自体はやるの初め──っと、危ね」
いやー。喋りながらやるのは私が見てもキモいよ……。確かに格ゲーやってる時も余裕見せてる感じだったけど。それに見た目のギャップがね……。ひらひら浴衣着た子がやるこっちゃない。
「ウラヌス、これどうやってるの?」
「あー……
このツマミ、そんな思いっきり回さなくていい。少しだけ回す。一気に動かすと狙いが外れるし加速しやすいから、予めボールが跳ね返る先を読んで、そこにバーを置いとく」
「それ、どうやったらできるの……?」
「練習」
「えー……」
「見りゃ分かるだろ? どれだけ回したらどれぐらい動くとか、どのタイミングでとか、正確に動かしたりとか、そんなのに大したコツないんだよ。ボールがどう返ってくるかは、やってれば覚えるし。
何を練習すればいいか、分かってるだけマシ」
不満げなシーム。まぁどう練習したって、こんなに上達はしないだろうけどね。
「どれぐらいやりこんだんですか?」
「やりこんでなっ──ぃょ……しまったぁ……。
……まぁいっか。シーム、俺と交代」
「えぇぇぇっ!?」
「やんなきゃ上手くなんねぇだろ? 練習」
「ほら、シーム。修行だって」
「おねーちゃん、やなこと言わないでよ!」
ほぉ。シーム、修行がヤなことだと? ……そう思ってるのは知ってたけどさ。
席を立ったウラヌスに促され、渋々席に座るシーム。腕を組んでゲーム画面を見下ろすウラヌスに私は目を向け、
「で、どれぐらいやりこみました?」
「だから、やりこんでないって……
たまに気分転換でやる程度だよ。手元のツマミいじるだけじゃん」
「あんなプレイを見せておいて?
高速のボールを追う動体視力、ツマミを回す加減とタイミング、繰り返し反射した時の軌道の先読みまでしてたじゃないですか」
「うぅん……
ゲームってそういうもんだと思うけど。特にアクション系は」
「ちょっと!
気が散って、落としちゃったじゃん!」
「ゴメンゴメン。
でも、何度かボール返したらバーが縮まっただろ? そうなったら時間の問題だよ。
いいから続けてやりな」
「うー」
シーム、ぐずってるな。まあ、それでも楽しんでるならいいけどね。
「あふあふあふ……
そろそろ部屋戻っていーい?」
シームが撃沈した後、モタリケさんも挑戦して、少し粘ったものの撃沈。またシームがやってゲームオーバーになったところで、ベルさんがあくびをした。
「別にいいけど、まだ寝るなよ?」
「話があるのよね?
それっていつぐらいにするの?」
「じきにするよ。だからちょっと待っててくれ」
「うん、わかった。
モリー、いきましょ」
「オレ、もう一度やりたかったんだけどな……
分かったよ」
そう言って、夫婦がゲームコーナーからのろのろと自室へ引き上げていく。
その場に残って、ゲームコーナーの壁時計を見上げる私達。9時前か。まだ時間はあるけど、あんまりのんびりもできないな。
「どうします、ウラヌス?」
「少し悩んでることがあって……
アイシャは、俺と一緒にあの2人の部屋へ行くんだよね?」
「ええ、そのつもりですけど」
「メレオロンとシームは、部屋でのんびりしたいだろ?」
「そりゃそうよ」
「うん。
あっ、ちょっと待って。桜は?」
ん? ……あー、そっか。それは困るな。
「そうなんだよな。
説得がいつ終わるか分かんないから、桜を呼んでからシームに預けて話をしに行くと、アイシャが戻る頃にはもう桜が消えてるかもしれない。
だからと言って桜を呼ばず2人の説得を始めると、長引いた場合、部屋へ戻ってきたらシームが寝ちゃってるかもしれないなって。
結構疲れてるだろうから、いつ寝るか分かんないだろ?」
「うん……」
「アイシャは今日ガマンする?」
「いやです。私にもサクラください」
「……何がそこまで言わせるのか分かんないけど、じゃあ説得に参加するのやめとく?」
「そういうわけにも……」
「じゃあ、どうしようかなって。
流石に俺も二度呼びする余力はないし……」
「……。
アタシから1つ提案していい?」
「なに?」
「あのニャンコ呼んで、3人と1匹で説得に行けば?
シームも参加すればいいじゃない」
「ボクも?」
「話に参加しなくても、そこにいるだけでいいでしょ。
それならニャンコ愛でつつ、説得も出来るじゃない」
そのメレオロンの提案に、ウラヌスがものすごく嫌そうな顔をする。
「うぅん……
あいつらに桜見せんの、すっげぇ抵抗あんだけど……
特にベル。あいつ、絶対いらんこと言ってくる」
アハハ、私もそうだと思う。あのベルさんがサクラを見て、全然反応しないなんて有り得ないだろうね。
「他の案があるなら、却下すれば?
それか、説得は別の機会にするか、ね」
「それもなぁ……
2人はどうなの?」
「私はメレオロンの案に賛成です」
「ボクもいいけど……
おねーちゃんは1人で部屋にいるつもりなの?」
「アタシのことはいいわよ、気にしないで。
ビール飲んで、先に寝てるから」
「……。
まいったなぁ」
心底困った顔でウラヌスは額をかいた。