どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百四十五章

 

 あー。いちごゼリー、うまー。温泉で火照った身体にヒンヤリした食感がたまんないよ。いちご大福にしようか悩んだけど、こっちで正解だったな。

 

「アンタ、あれだけたらふく食ってまだお腹に入るんだ……」

「甘味は別腹ですよ。

 メレオロンだって食べてるじゃないですか」

「甘味は別腹だもん。

 とは言え、アンタみたくクリームたっぷりのはね……

 アタシのは可愛いもんでしょ」

 

 売店そばのテーブルに同席するメレオロンが食べているのは、小さなメロンゼリーだ。子供が食べるようなサイズだな。おいしそうだけど。

 

「よくメロン食べてますよね。好きなんですか?」

「メレオロンだけに?」

 

 アハハハ、と笑い合う。こういう下らないこと喋るのってホント楽しいよ。

 

「にしても、あの子達おそいわね?」

「そうですね。私達も結構のんびりしてたと思うんですけど」

 

 温泉の入口付近の売店で、私達は2人が上がってくるのを待っている。買った飲み物を1つ空けて、こうしてオヤツを食べてるけど2人はまだ来ない。男湯から気配はするし、単純に長湯なんだろうけど。

 

「ま、どーせイチャイチャしてるんでしょ。

 どうする? このまま待ってる?」

「あんまり遅いようなら部屋へ戻りますけど……

 心配ですし、もうしばらく待ちましょう」

 

 このメンバーで現状一番戦闘力が高いのはウラヌスだけど、一番健康に不安があるのもウラヌスなんだよな。温泉で不調に陥ったとしても不思議はない。

 

「直接覗きに行きゃいいんじゃない?

 別に今更でしょ」

 

 うん? いや待て。

 

「あのですね。

 混浴ならともかく、相手の了承なく故意にそんなことするのは犯罪ですからね?」

「そうねぇ。

 誰かさんに了承なく全身フキフキされたから、今更見られても平気ー、なんて言えないわよねぇ?」

 

 ぅ、ぐ。……くそ、ダメだ。この手の話題はメレオロンが一枚上手だ。

 

「その話は蒸し返さないでください。

 とにかく、声をかけるくらいならいいですけど、覗くのはダメです」

「はいはい。

 もう少し待って上がってこないようなら、そうしましょうか」

 

 

 

 しばらくして、2人が上がってきた。私達もそれに気づいて、2人がこちらへ来るのを待つ。

 ウラヌスと一緒に歩いてきたシームが、テーブルの上にあるカラ容器を見咎め、

 

「あー。なんか美味しそうなの食べてるー」

「アンタ達が遅いからでしょ。待っててあげてたのに何よ。

 飲み物とゼリー食べただけよ」

 

 自分が言われる立場だと強気だな、この変態は。確かに大して飲み食いしてないけどさ。

 

 ウラヌスは、シームの肩をぽんぽん叩き、

 

「まぁ遅かったのも事実だしな。

 シームも、食いたきゃ何か頼んでいいよ」

「うん!」

 

 浴衣をひらひらさせて、売店のカウンターに走っていくシーム。まー現金だこと。

 

「やけに遅かったけど、なんかあったの?」

「うん? ……いや、内緒の話だよ。

 悩み事が色々あって、つい話し込んでた」

「ちょっとウラヌス! 内緒にしてって言ったじゃん!」

「おっと、ゴメン。

 これ以上は喋らないよ」

「悩み事って何よ?」

「お前、今のやりとり聞けよ。喋らないって言ってるだろ」

「それはシームの話でしょ。

 アンタも悩み事あって、相談したんじゃないの?」

「……内緒」

 

 2人で内緒話か。気になるけど、教えてくれないんじゃ仕方ないな。……気になるけど。

 

「これからどうします?」

「とりあえずあの夫婦に、俺達は風呂上がったからいつでも入っていいって伝えてくるよ。

 後は自由行動で」

「明日の相談とかしなくていいんですか?」

「まだ考えがまとまってないんだ。まとまってから話すよ。

 ……あのバカップルにも話すことあるし」

 

 そっか、あの2人を説得する大イベントがまだ残ってたな。私もその辺は協力しないと。

 

「お2人が温泉を上がってから、例の説得をするつもりなんですよね?」

「そのタイミングしかないかな。

 いちおう、話すことがあるから起きて待ってろ、とは伝えるつもり」

「あなただけで話すつもりでした?」

「うーん……決めてなかったけど。

 そうやって聞くってことは、アイシャも参加するつもりなんだよね?」

「ええ、そのつもりでした。

 お2人の説得で何か条件を提示された時に、私もいないと困るでしょうし。

 私とウラヌスが、お2人の部屋を訪ねて話す形でいいんじゃないかなと」

「いいんじゃない?

 バカップル同士、気も合うでしょ」

 

 さらりと割り込んだ変態をギロリと睨みつけ、

 

「誰がバカップルですか!」

「あんなやつらと一緒にすんな! 色んな意味で!」

 

 う、うん。そうだな。色んな意味で。

 

 

 

 夫婦が色々話しながら温泉へ──2人とも女湯へ入った後、ウラヌスは売店のテーブル2つをくっつけ、バインダー6冊をそこに広げて立ったまま考え込んでいる。

 

「大丈夫ですか?」

「うん、平気。直接見て考えた方が、見落とし無いと思うし。

 説得の件も、これが終わったらすぐ考えるよ」

 

 頭脳労働も任せっきりなんだよな。……そりゃ気も休まらないよ。だからって代わってあげられる気もしないけど……

 

 せめて、現実へ帰還するようあの夫婦を説得した時、どんな要求をされそうか予想しておこうかな……

 

 

 

「はぁぁぁー。サッパリー♪」

「せっかくの温泉なのに、なんか疲れたよ……」

 

 つやつやとベルさんが、げんなりとモタリケさんが女湯から出てきた。

 

「モタリケがやたら疲れてるけど、なんかあったのか?」

「いやさー。モリーがさー。

 早く早く上がろうとするわけよ。なに照れてんだか」

「当たり前だろ、女湯なんかに入って落ち着けるわけないだろ。

 1人でのんびり湯に浸かりたかったのに……」

 

 あ、はい。ごもっとも。

 

 浴衣姿の夫婦は、テーブルの上のバインダー2冊を見やり、

 

「カード整理は済んだの?」

「終わってるよ。金も放りこんであるから戻してくれていい」

「おっけー。ブック。

 モリー、そこで何か買ってきましょ♪」

「はいはい……ブック」

「好きに行動していいけど、後で話あるの忘れて寝ちゃダメだぞ」

「はいはーい♪」

 

 そうして夫婦が売店へ向かうと、入れ違いに声。

 

「ぅぇー……」

「ほらほら、泣かないの」

 

 なんかシームが泣きながら、姉と一緒にゲームコーナーから戻ってきた。

 

「どうしたんです?

 また変態に泣かされました?」

「ちょっと、アイシャ!」

 

 抗議してくるメレオロンに笑い返す。ふふ、さっきの仕返しですよっと。

 

「アタシは泣かせてないわよ。

 シームが……」

「ウラヌスー。あのゲーム、クリアできなぃぃー」

「お前、そんなんで泣くなよ……」

「違うぅー!

 おねーちゃんが、ボクがやってる時に変なこと言って邪魔するから!」

「おい。やっぱりお前が泣かせたんじゃないか」

「違うわよ、ムキになったのはシームよ!」

 

 カオスってるなー……。まぁ平和でいいんだけどさ。

 

「で、肝心のゲームはなんだよ」

「えっと……

 ○レイクアウト? だったかな……」

「あぁ……

 ブロック崩しな。簡単そうに見えるけど、アレは知ってないとダメなヤツだよ。

 どうせツマミの動かし方わかんなくて、秒殺されまくったんだろ?」

「だってだって!」

「あー、分かった分かった。コツ教えるから叩くな」

「あにあに、なんああっまも?」

 

 夫婦が売店から戻ってきて、ベルさんがフライドポテトをくわえたまま何か尋ねてくる。カオス増量。

 

「別に。ゲームの遊び方どうのって話」

「もくもく……ああ、なんか古臭いゲーム機、端っこにあったわね。

 アレって面白いの?」

「さぁ?

 俺にはよく分からんけど、往年のヒットゲームではあるな」

 

 

 

 ──何がよく分からないだ、めちゃめちゃやりこんでるじゃないか。

 

 ゲーム画面上ではスゴイ速さで跳ね回るボールを、小さなバーで返し続けるウラヌス。手元のツマミを、精密機械かと思うほど丁寧にちまちま動かしている。何をどうやってるのか分かんないよ。

 

 モタリケさんが首を傾げながら、

 

「これ、こんなゲームだったか?

 オレの記憶にあるスピードと全然違うんだけど」

「……多分、改造筐体。ムカつくぐらい加速してるな」

 

 おぉい。なにソレどういうこと? まさか念能力者がプレイする前提で、わざわざ難度上げてあるとか? いらないよ、そんな配慮。

 

 ベルさんが身震いして見せ、

 

「いやいやいや、まさかアンタ初見でこんなことやってんの?

 流石にキモいんだけど」

「キモイとか言うな。ブレイ○アウトがこんな速さにならないだけで、他のブロック崩しなら普通にあるよ。このゲーム自体はやるの初め──っと、危ね」

 

 いやー。喋りながらやるのは私が見てもキモいよ……。確かに格ゲーやってる時も余裕見せてる感じだったけど。それに見た目のギャップがね……。ひらひら浴衣着た子がやるこっちゃない。

 

「ウラヌス、これどうやってるの?」

「あー……

 このツマミ、そんな思いっきり回さなくていい。少しだけ回す。一気に動かすと狙いが外れるし加速しやすいから、予めボールが跳ね返る先を読んで、そこにバーを置いとく」

「それ、どうやったらできるの……?」

「練習」

「えー……」

「見りゃ分かるだろ? どれだけ回したらどれぐらい動くとか、どのタイミングでとか、正確に動かしたりとか、そんなのに大したコツないんだよ。ボールがどう返ってくるかは、やってれば覚えるし。

 何を練習すればいいか、分かってるだけマシ」

 

 不満げなシーム。まぁどう練習したって、こんなに上達はしないだろうけどね。

 

「どれぐらいやりこんだんですか?」

「やりこんでなっ──ぃょ……しまったぁ……。

 ……まぁいっか。シーム、俺と交代」

「えぇぇぇっ!?」

「やんなきゃ上手くなんねぇだろ? 練習」

「ほら、シーム。修行だって」

「おねーちゃん、やなこと言わないでよ!」

 

 ほぉ。シーム、修行がヤなことだと? ……そう思ってるのは知ってたけどさ。

 

 席を立ったウラヌスに促され、渋々席に座るシーム。腕を組んでゲーム画面を見下ろすウラヌスに私は目を向け、

 

「で、どれぐらいやりこみました?」

「だから、やりこんでないって……

 たまに気分転換でやる程度だよ。手元のツマミいじるだけじゃん」

「あんなプレイを見せておいて?

 高速のボールを追う動体視力、ツマミを回す加減とタイミング、繰り返し反射した時の軌道の先読みまでしてたじゃないですか」

「うぅん……

 ゲームってそういうもんだと思うけど。特にアクション系は」

「ちょっと!

 気が散って、落としちゃったじゃん!」

「ゴメンゴメン。

 でも、何度かボール返したらバーが縮まっただろ? そうなったら時間の問題だよ。

 いいから続けてやりな」

「うー」

 

 シーム、ぐずってるな。まあ、それでも楽しんでるならいいけどね。

 

 

 

「あふあふあふ……

 そろそろ部屋戻っていーい?」

 

 シームが撃沈した後、モタリケさんも挑戦して、少し粘ったものの撃沈。またシームがやってゲームオーバーになったところで、ベルさんがあくびをした。

 

「別にいいけど、まだ寝るなよ?」

「話があるのよね?

 それっていつぐらいにするの?」

「じきにするよ。だからちょっと待っててくれ」

「うん、わかった。

 モリー、いきましょ」

「オレ、もう一度やりたかったんだけどな……

 分かったよ」

 

 そう言って、夫婦がゲームコーナーからのろのろと自室へ引き上げていく。

 その場に残って、ゲームコーナーの壁時計を見上げる私達。9時前か。まだ時間はあるけど、あんまりのんびりもできないな。

 

「どうします、ウラヌス?」

「少し悩んでることがあって……

 アイシャは、俺と一緒にあの2人の部屋へ行くんだよね?」

「ええ、そのつもりですけど」

「メレオロンとシームは、部屋でのんびりしたいだろ?」

「そりゃそうよ」

「うん。

 あっ、ちょっと待って。桜は?」

 

 ん? ……あー、そっか。それは困るな。

 

「そうなんだよな。

 説得がいつ終わるか分かんないから、桜を呼んでからシームに預けて話をしに行くと、アイシャが戻る頃にはもう桜が消えてるかもしれない。

 だからと言って桜を呼ばず2人の説得を始めると、長引いた場合、部屋へ戻ってきたらシームが寝ちゃってるかもしれないなって。

 結構疲れてるだろうから、いつ寝るか分かんないだろ?」

「うん……」

「アイシャは今日ガマンする?」

「いやです。私にもサクラください」

「……何がそこまで言わせるのか分かんないけど、じゃあ説得に参加するのやめとく?」

「そういうわけにも……」

「じゃあ、どうしようかなって。

 流石に俺も二度呼びする余力はないし……」

「……。

 アタシから1つ提案していい?」

「なに?」

「あのニャンコ呼んで、3人と1匹で説得に行けば?

 シームも参加すればいいじゃない」

「ボクも?」

「話に参加しなくても、そこにいるだけでいいでしょ。

 それならニャンコ愛でつつ、説得も出来るじゃない」

 

 そのメレオロンの提案に、ウラヌスがものすごく嫌そうな顔をする。

 

「うぅん……

 あいつらに桜見せんの、すっげぇ抵抗あんだけど……

 特にベル。あいつ、絶対いらんこと言ってくる」

 

 アハハ、私もそうだと思う。あのベルさんがサクラを見て、全然反応しないなんて有り得ないだろうね。

 

「他の案があるなら、却下すれば?

 それか、説得は別の機会にするか、ね」

「それもなぁ……

 2人はどうなの?」

「私はメレオロンの案に賛成です」

「ボクもいいけど……

 おねーちゃんは1人で部屋にいるつもりなの?」

「アタシのことはいいわよ、気にしないで。

 ビール飲んで、先に寝てるから」

「……。

 まいったなぁ」

 

 心底困った顔でウラヌスは額をかいた。

 

 

 

 

 

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