どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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(ピンポンパンポン♪↑)

 あらかじめ、ご案内申し上げます。

 よろしければ、今回のお話は指定ポケットカードを確認できる原作単行本の16・17巻、もしくはネット上の指定ポケットカードリストをお供に御覧ください。

(ピンポンパンポン♪↓)







第十六章

 

 私はゴンと一緒に、飛行船発着場内を歩いていく。離着陸場をきょろきょろ見回し──

 

 見つけた。可愛らしい、小さなチェリーマークがついた飛行船。

 

「ゴン、あの飛行船です。

 さっき話した人が、あの中で私達を待っています」

「うん。じゃあ行こっか」

 

 特に急ぐでもなく、私達は近づいていく。

 

 あれ? 飛行船の中に気配が3つある。最初は隠れて様子見るんじゃなかったの?

 

「アイシャ……もしかして他にも誰か居たりする?」

 

 当然ゴンも気づく。『円』を使うまでもない。ここまで近づけば普通にオーラを3人分、感知できてしまう。

 

「ん、んー。その……ごめんなさい。

 ちょっと私も、聞いてた話と違うんですよね。

 ゴン、確かめてくるんで少しだけ待ってもらっていいですか?」

「うん。

 ……リュック見てるから、置いてっていいよ」

「ええ、ありがとうございます。

 すぐ戻りますね」

 

 リュックを下ろし、たったったと駆けて行く。あ、ちょっとヒラヒラ恥ずかしい。

 

 

 

 

 

「アイシャ達、来たみたいだよ。いいのか?」

 

 ウラヌスの問いかけに、ベッドに腰かけたメレオロンが諦め口調で返す。

 

「いいわよ……

 今さら『絶』しても、息止めても意味ないし」

「……おねーちゃん、もう信じよ?

 アイシャの友達だよ」

「……」

 

 隣に座るシームが、すっかり元気をなくしたメレオロンを心配そうに見ている。

 やはり心配そうな表情で2人を見るウラヌス。昇降口を操作し、飛行船のすぐ近くまで来たアイシャが入れるようにする。

 

 入口から飛行船内へ、アイシャが飛び込んできた。ふわりと広がったワンピースの裾が、やがて収まる。

 

「……えっと! おはようございます」

 

 きょろきょろと飛行船内を見回すアイシャ。

 

「……。うん、おはよう。アイシャさん」

「……。アイシャ、おはよう」

「……」

「あ、あの……メレオロン達、始めは隠れてるって聞いてたんですけど……

 もしかして早く来すぎちゃいました?」

「いや、その……

 うん。別に大丈夫だよ」

 

 妙な反応のウラヌス。不思議そうにそちらをアイシャが見ていると、

 

「……ちょっと、お姉ちゃん。

 アイシャ、見てみて」

「なによ、もう……?

 ──ほっ!? アンタ、なにその格好!?」

「へっ!?」

 

 メレオロンが驚くのに対し、アイシャも驚き返す。

 

「あれ、なんか変な格好ですか? これ」

「いや……アンタ」

 

 言葉を続けず、ウラヌスを急ぎ手招きするメレオロン。慌てて歩み寄るウラヌス。

 

 審議中。

 

「ちょっと。あれってアンタが着てるのと同じような服でしょ。どういうこと?」

「いや、俺に聞かれても。……つか比べないでくれよ」

「アイシャ、めちゃくちゃ可愛いよね。ぼくビックリしちゃった」

「シーム、アンタああいう子が好みなの? ……アタシから見ても美少女すぎるけどさ」

「……なんか俺ヘコむわー。同じ格好だから、どんだけ違うかすっげぇよく分かる……」

「ウラヌス、アンタああいう風になるのが理想なわけ?」

「いや、アレはもう別の生き物だよ。俺が何をどうしたってああならないって分かるよ」

「でもボク、前にアイシャが着てた服も可愛いと思ったけどね」

「あの子、きっと分かってないでしょうけどね。そういうの」

「……ああやだやだ。持つ者と持たざる者、胸囲の格差社会……」

「ウラヌス、それあの子に言ったらセクハラだからやめときなさいよ」

「あの……」

 

 近くで聞こえた声に、3人がぎょっと顔を上げる。

 

「えっと、その。

 ……色々あってこの格好で来ちゃっただけで、別に深い意味はないですよ……」

 

 3人が向ける疑わしげな目線に、「うぅっ」と身を引くアイシャ。

 

「……アイシャさん。

 その白いワンピース、俺と似たような感じだけど」

 

 ウラヌスのジト目に、アイシャはスぃーと視線を逸らす。

 

「あはは……

 ウラヌスさんの服、可愛いなぁーと思って。ちょっと私も着てみちゃったというか」

「なんかスゲー皮肉っつうか、敗北感すごいっつうか、もう俺ベコベコにヘコむんだけど……」

「同じ可愛いって言っても、男と女じゃ差がありすぎよね」

「どっちかって言うと、アイシャが飛びきりなんだと思うよ。ウラヌスもがんばって」

「シーム、お前それ励ましてるつもりか」

「あははー……。カオス」

 

 アイシャは笑って誤魔化すしかなかった。

 

「あー、アイシャさん。

 待たせても悪いから、友達連れて来ていいよ」

「あっはい!

 ……本当に大丈夫ですか?」

 

 メレオロンとシームに目を向けるアイシャ。

 シームはこくりと頷き、メレオロンは『どーぞお好きに』とジェスチャーする。

 

「じゃあ、呼んできますね」

 

 昇降口から外へ出て行くアイシャ。

 やがて、ゴンとともにリュックを背負ったアイシャが、飛行船内に戻ってくる。

 フードで隠してもいないメレオロンの顔を、ゴンが見てギョッとした。

 

「えぇッ!?

 なんでこんなトコにキメ──」

 

 スッと、ゴンの唇に指を当てて遮るアイシャ。

 

「ゴン、ごめんなさい。

 彼女は敵じゃないから、そう言わないであげて」

「……!?

 アイシャ、どういうことなの……?」

「……別に良いわよ。

 キメラアントであることに変わりはないんだから」

 

 メレオロンの言葉に、ゴンの当惑具合が深まる。

 

「アイシャさん……まず自己紹介しようか」

 

 ウラヌスが落ち着いた様子で声をかける。

 

「ええ。

 ……ゴン、ちゃんと事情を説明せずに連れて来てごめんなさい。

 色々あって、彼女とその弟さんも一緒に、私達とグリードアイランドへ行くんです。

 信用できる人達ですから……」

「……アイシャ、ごめん。オレびっくりして……」

「いえ……

 ゴン、重ねてごめんなさい。

 ……3人にあなたのことを紹介して構いませんか?」

 

「うん……

 いや、オレが名乗るよ。

 オレはゴン=フリークス。こう見えてプロハンターなんだ。よろしく」

 

 ゴンとアイシャが並び立つ前方に、3人が歩み寄っていく。

 

「ずいぶん若いのに、もうプロなんだな……子供の合格者は滅多に出ないって聞くけど。

 俺はウラヌス=チェリー。

 俺もプロハンターで、神字ハンターを名乗ってる」

 

「……アタシはメレオロン。

 見ての通りキメラアントで、元師団長だったわ。前世が人間だった時の記憶を持ってる。

 女王の元から逃げて、ずっと人間社会で逃亡生活の身よ」

 

「ぼくはシーム。

 変な人達に捕まってたんだけど、おねーちゃんに逃がしてもらいました。

 その……キメラアントと人を合成した、半獣人らしいです」

 

 やはりというか、興味津々な様子で3人を眺めるゴン。続けてアイシャを見上げると、アイシャは苦笑してみせ、

 

「もうちょっと紹介させてくださいね、ゴン。

 この子の父親はジン=フリークス──グリードアイランドの製作者です」

 

 ウラヌスが、「げぇっ!?」とうめいた。

 

「前回、グリードアイランドでバインダーに100種類をコンプリートしたのは彼なんです。

 それもあって、今回ちょっと挑戦前に相談もできればと思って」

「うん、いいよ!」

「ま……マ、ジ、か……

 フリークスって聞き覚えあるなと思ってたけど……あのジンの子供……

 アイシャさん……キミ、とんでもない子を連れてきたね」

 

 驚きすぎて軽く目を潤ませるウラヌス。

 

「あはは……じゃあついでに、これも伝えておきますね。

 私、何日か前にジン本人と会ってるんですよ。

 で、これでゲームに入れって言われて、メモリーカードと指輪を受け取りました」

 

 アイシャのセリフに、ゴンとウラヌスが目を剥いて驚いた。

 

「えぇッ!?

 アイシャ、ジンと会ったの!?」

「ええ……

 ちょっと個人的に思うところがあったんで、少し喧嘩しちゃいましたけど」

「うっわぁー……

 製作者じきじきにって何だよ、それ……」

「そういえばオレのも、ジンが置いてったやつだったね」

「そうでしたね。

 アレはメッセージが入ってただけでしたっけ?」

「うん。えーと、確か……

 これはオレが仲間と作ったゲームだ、楽しんでいってくれ、とかそんなの」

「私のもそういうのなんでしょうかね……」

「うわぁ、なにこのグリードアイランドの裏側トーク。

 マジびびるわー……」

「……シーム、私達忘れられてるのよね?」

「おねーちゃん、ぼくに聞かれても……」

 

 

 

 飛行船の中央にふかふかのラグを敷き、色々なお菓子や飲み物を並べて。

 5人は楽な姿勢で円周に座り合う。

 それぞれの手元には、指定ポケットカード100種類のテキストを記載したメモ。

 

 とりあえずウラヌスは、場を仕切る役を買って出た。

 

「それじゃ相談始めるよ。

 お題は、グリードアイランドのゲームクリアでもらえる指定ポケットカードについて。

 これはクリアだけでなく、ゲーム内で使用するケースも想定したいと思う。

 うまく行けば、クリアせずにゲーム内だけで目的が達成できるからね」

 

 

 

 そして5人は、情報の共有を始めた。

 

 

 

 まず前回クリア時に、クリア報酬として選択した指定ポケットカードは『31:死者への往復葉書』『60:失し物宅配便』『65:魔女の若返り薬』であったことを。

 

 

 

 続いてアイシャの父が『死者への往復葉書』を応用し、死んだ母を本物の意識を持った念獣として具現化に成功させたことを。

 

 その話を聞いたウラヌスは、

 

「うおぉ……お父さん、ムチャクチャすごいな。俺、尊敬するわー……」

「え、えへへへ」

 

 アイシャ照れ照れ。

 

 死者の念にも理解があるウラヌスに、『死者への往復葉書』を使わずに母を具現化する助言を期待してアイシャも話したのだが、まさかのベタ褒めである。思わぬ反応だったが、神字ハンターにそこまで父を良く言ってもらえて、悪い気はしないアイシャ。

 

「……けど、『死者への往復葉書』はいずれ使い切ってしまいますから、その前に何とかしないといけないんですよね……」

「あぁ、そっか……確かにそうだね。あれって1000枚セットだから、24時間の効果で毎日消費すると、3年足らずでなくなるのか」

「そうなんですよ……

 なくなったからと言って、またすぐ取れるものでもないですし」

「取ったとしても、また3年経ったらなくなるんじゃキリがないからなぁ……」

「父さんには葉書を使わず具現化できるよう、『練』の修行をしてもらってます」

「うん、オーラ量はあるに越したことはないだろうね。……他には?」

「……これといって。

 母さんを毎日具現化してますから、具現化の修行も出来ているとは思いますが……

 何かあります?」

「うーん……

 それだと葉書なしで具現化できるようになるかどうかは賭けだな……

 もう一手、何か欲しいところだけど。

 そうだな……俺も興味あるし、機会があったらアイシャさんのお父さん、訪ねてみようかな。行ってみてもいい?」

「ええ、ぜひ!」

 

 

 

 そしてゴンは、ジンのところへ行くアイデアはあったが、実行には移せなかったことを。

 

「よくそんなの気づくなぁ……

 ニッグなんて名前見て、そこまで思いつくもんか?」

 

 ウラヌスは感心したように尋ねるが、ゴンは渋い顔で後ろ頭をかき、

 

「んー。

 でもクリア報酬のカードが2枚も必要だし、成功する保証もなかったから無理があったけどね」

 

 ゴン……私を気遣って、そのことを言わないでいてくれたのか。ジンと会えるチャンスだったかもしれないのに申し訳ないな……

 

「ゴン、せっかくジンと会えたかもしれないのに……

 私の為に、すいませんでした……」

「ううん、アイシャは謝らなくていいよ。オレも言わなかったんだし。

 オレはそんなのに頼らず、自力でジンを見つけてみせるって」

 

 屈託のない笑顔でそう返すゴンに、アイシャは静かに微笑み返す。

 

「ええ……

 ジンと一度会って分かりましたが、彼は世界でも類稀な才能を持った実力者です。……ですが、あなたの才能も決して彼に劣るものではありません。

 ゴンならいずれ、自力でジンを見つけ出せると私は信じています」

「うんっ!」

「……ところで『聖騎士の首飾り』って、ゲーム外でもカードの変身を戻せるんでしょうかね?

 現実でスペルカードが有効かも分からないですし」

 

 アイシャが首を傾げつつ疑問を口にすると、ウラヌスはアゴを擦りつつ、

 

「……あんまり意味がない前提だけど、2回クリアするつもりなら、1回目で『聖騎士の首飾り』を持ち出しておいて、次はそれを利用できるな。

 クリア報酬って3種だけど、これを使えば『大天使の息吹』を2つ選んだりもできる」

「あー。なるほど、それはできるかもしれませんね」

「うん……

 とは言え、繰り返しクリアしようなんて思わないし、確かめる気にはなれないけどね」

 

 

 

 最後に、今回のクリアで目指す報酬は『33:ホルモンクッキー』『65:魔女の若返り薬』『72:マッド博士の整形マシーン』であることを。

 これが相談のメインテーマだ。

 

 

 

 1つ目、『33:ホルモンクッキー』。

 このクッキーを食べると24時間の制限付きで性別が変わる。1箱20枚入り。10箱セット。

 

「これは、俺とアイシャが必要なアイテムだね」

「ウラヌスも必要なんだ?」

 

 ゴンが不思議そうに言ってくる。ウラヌスはちょっと渋い顔をしつつ、

 

「まぁ……アレだよ。色々あるんだよ……

 で、俺はいちおう効くんだけど、クリアして取っても、たった200日分じゃ全然足りない。

 アイシャはそもそも操作系の早い者勝ち問題で効かない。

 だから、俺が神字でこの効果を改変できないか研究したい。ゲーム内でも研究するけど、おそらく時間が足りないから、やっぱりクリア報酬で手に入れてじっくり調べたいんだ」

 

 アイシャは「んー」という顔で、

 

「もしゲーム内で研究中に、誰かがクリアしちゃったら……」

「うん。

 指定ポケットのアイテムが消えるらしいから、おそらく巻き添い食らうね」

「やっぱりクリアして確保した方が良さそうですね……

 ……でもウラヌスさん。足りない分を量産したり効果日数を増やしたりするのは分かるんですけど、本当に変化系のみで性転換できるクッキーって、私の為以外に研究する意味あるんですか?」

 

 アイシャの疑念に、ウラヌスはちょっと得意そうな顔で、

 

「……って思うじゃん。これがちゃんとあるんだよ。

 ほら、実際クッキーを使ってみたとするでしょ。

 そしたら現実問題として性別をすぐ戻したい時があると思うんだよ。24時間後に戻ると都合が悪かったり」

「あー……」

 

 キル子ちゃん可愛い……じゃない、可哀想なことになってたなぁ。としみじみ思い返すアイシャ。

 

「でも『ホルモンクッキー』って、性転換の効果中にもう1回食べても効かないんだよ。

 性別は戻らないし、時間も延長できない」

 

 ウラヌスがそう言い、アイシャがポンと手を打った。

 

「操作系は早い者勝ち。なるほど」

 

「そういうこと。

 ずっと性転換してるとかならまだ工夫もできるけど、ちょこちょこ戻ったりするのに、その戻るタイミングを選べないんじゃ困るからね。

 だから、変化系効果のみの『ホルモンクッキー』の研究には意味があるんだ」

 

「……よく分かりました。ありがとうございます。

 あなただけが希望の光ですので、ぜひともお願いいたしまするー」

 

 アイシャ、DO・GE・ZA。

 

「いや、その……

 プレッシャーかけられると困るんだけど……

 正直、操作系なしで作れるメド立ってないし」

 

 ゴンが不思議そうに首を傾げ、

 

「ウラヌス、それってそんなに難しいの?」

「まあねぇ……

 このクッキー、かなりハイレベルな念能力でホルモン操作してるんだろうし。

 実際に手術で性転換する場合でも、身体の作りよりホルモンこそが一番の問題なんだ。すっごいコレ危ういんだよ。……せっかく性転換したのに、ずっと不健康だったり寿命が縮んだりするから。多分だけど、男性ホルモンや女性ホルモンを変化させたくらいじゃ、上手くいかない。

 無理やりなら作れなくもないけど、やっぱりリスクの除去が最大の課題になると思う」

「…………」

「アイシャさん。

 聞くまでもないけど、リスクのあるクッキーならお断りだよね?」

 

 ウラヌスが念押しで尋ねる。アイシャは少し沈んだ顔で、

 

「……ええ。

 それはもう、その通りです。

 やっぱり身体は大事にしたいですし……」

「だよね。

 なら、何とか研究するしかないな……」

 

 

 

 ひとまず『33:ホルモンクッキー』は、ゲームクリアでゲットする方針で確定。

 

 

 

 2つ目、『65:魔女の若返り薬』。

 1粒飲めば1才若返る薬。若返るのは肉体のみで、知識、経験はそのまま残る。

 年以上の数を飲むと死んでしまうので要注意。1ビン100粒入り。

 

「これはまぁ……俺だな」

 

 ウラヌスは全員の顔を見やる。

 

「いちおう確認なんだけど、いる?」

 

 ゴンはそもそも参加しないので反応しない。アイシャは首を左右に振って否定。

 メレオロンとシームが、少し考えている。

 

「……これってさ。

 アタシが飲んで、元の人間の身体に戻れる可能性って」

 

 メレオロンの問いかけに、ウラヌスは否定の表情。

 

「ないだろうな……

 多分、メレオロンがキメラアントとして生まれた年齢までだろうから」

「今の時点で1粒でも飲んだらアウト、か。

 ……試す気にもならないわ」

「ボクの場合はどうなんでしょう?」

「シームは……死なないかもしれないけど、元に戻れる気もしないかな。

 いずれにしろ、命懸けで試すことじゃないと思う」

 

 そう言いながら、ウラヌスは自分の頬をかきつつ、

 

「まぁ俺の場合も、これを使いたいのは年齢うんぬんじゃなく、年齢に対してかけられた念を外したいからってのが問題なんだけど」

「……ウラヌス、何か念をかけられてるの?」

「その話、アタシも初耳なんだけど」

「ぼくもです」

 

 ウラヌスは、アイシャと顔を見合わせる。

 

「……ウラヌスさん。

 お話ししておいた方がいいと思います。

 本当のこと言うと、私それが心配で今回参加したいと思って来ましたから」

 

 アイシャの言葉に、軽く泣きそうな顔をするウラヌス。

 

「……。

 ありがとう、アイシャさん。

 えっと……俺は色々あって、生まれ故郷や肉親から疎まれる存在だったんだ。

 一番の理由は、オーラ量。……アイシャさんには全く敵わないけど、超一流の念能力者でも太刀打ちできないくらいには、オーラ量が元々多かったんだ。

 ……で。10歳の誕生日、俺は家族に念をかけられた。

 歳をとるごと……半年に1回ずつなんだけど、俺の潜在オーラ量はごそっと減るようになった。いくら訓練しても潜在オーラ量を増やすこともできなかった。

 タイムリミットは、20歳の誕生日。

 それを迎えた時点で、俺のオーラ量は0になり、確実に死ぬ。

 俺は今17歳と半年。潜在オーラ量は数値に直すと45000。あと半年で30000に減る。

 そもそもタイムリミットが20歳なだけで、19歳になったらオーラ量が10000になるはずだしな……

 そこまで減ると、おそらくまともに動けないくらい衰弱状態になる。俺の身体がなんか見た目ガリガリっぽいのも、多分この念によるオーラ減衰が理由。

 だから……言うほど余裕があるわけじゃない。

 ……まぁ若返り薬で10歳未満になれば、条件を満たせなくなったこの念は外れるだろうっていう算段なんだ」

 

 しん。と場が沈む。

 

「……クリアと言わずに、ゲームに入ったらすぐ取りに行って使った方がいいと思うよ」

 

 ゴンが、さらっとそれを告げる。

 ウラヌスは難しい表情をし、

 

「残り時間が少なければ、俺もなりふり構わないんだけどね……

 それをしない理由がいくつかあって。

 他人にかける念っていうのは、外そうとすると術者にバレるケースがある。

 仮に俺が1歳だけ若返ったとしても、念を外そうとしてるのがバレる可能性はゼロじゃない。10歳未満まで若返れば尚更だしな。

 俺は今、生まれ里から逃げ出してる身なんだけど、もうじき死ぬからいちいち追っ手をかけられてないみたいなんだ。

 で、念を外そうとしてるのがバレたら、里から追っ手がかかるかもしれない。

 そうなると、まぁ面倒だから。

 10歳未満まで若返って、仮に念が外れなかったとしても、いちおう自力で除念できる」

 

「除念って……念を外せるってことでいいのよね?

 アンタ、今すぐ除念ってできないの?」

 

 メレオロンの問いかけに、ウラヌスは首を横に振る。

 

「神字に大量のオーラを注ぎ込んで除念するしかないんだけど、それに必要なオーラ量が今の俺だと足りないんだ。最低でも、若返ってオーラ量を回復させてからじゃないと」

 

 ゴンが、アイシャの方を見る。

 

「……アイシャ」

「ゴン、もしかして風間流の除念師のことを考えていますか?

 ちょっと、このレベルの除念は難しいんじゃないんかなと思ってるんですけど……」

「ううん、そうじゃなくて。

 アイシャって、神字かけたでしょ?」

「……ゴン、よくそういうこと思いつきますね?

 ああ、でも無理なんです。私は神字を少し書けますけど、とても専門家には敵いません。それにウラヌスさんは、自分にかけられている念だからこそ除念が可能なんだと思います。かけられた念の性質を熟知しているでしょうから。

 その理解のない私が、いくらオーラ任せに書いたところで……」

「……それはアイシャさんの言う通りだね。

 神字も除念も、普通の念能力と同じで、強いイメージが必要だから。

 っていうか、アイシャさん風間流だったのか。道理で」

「あ、そういえばお話ししていませんでしたね。

 と言っても、以前修めたというだけで、今は風間流そのものに所属していませんけど」

 

 そう話すアイシャを、ゴンは意味ありげに見る。アイシャはちょっと強めに口を噤む。

 それでゴンも分かったようで、特に触れなかった。

 

「あと確率はそう高くないと思ってるんだけど、俺が若返っても減った潜在オーラが回復するとは限らないからね。

 その場合、除念ができなくなるから、クリアして若返り薬を手元に置いて、まめに10歳未満を維持するようにしないといけない。流石に若返りすぎると生活できないし。

 場合によっちゃ、若返り薬を使っても全くこの念には効果がないっていうのもありうるけど、それはもう考えないことにする。

 不安の種なんて探したらキリがないから、できるだけ若返り薬も研究しておきたいっていうのが本音かな」

 

 

 

 ……ということで『65:魔女の若返り薬』も、ゲームクリアでゲットする方針で決定。

 

 

 

 3つ目、『72:マッド博士の整形マシーン』。

 なりたい顔の写真をインプットすればその通りに整形してくれる。

 何度でも手術可能だが、5%の確率で手術が失敗し、1%の確率でマシーンそのものが壊れる。

 

「これはアタシってことでいいのよね?

 っていうか、なんなの? この失敗とか壊れるとか……」

 

 メレオロンが不機嫌そうにボヤく。

 

「うーん。

 どっちにしろ、これは研究必須かな。このままじゃ問題ありすぎる」

 

 ウラヌスが難しい顔で告げ、メレオロンが窺うような目を向ける。

 

「……その心は?」

「これだと頭部しか整形できないから。

 メレオロンの場合、顔だけじゃなくて他も整形しないとダメだと思ってる」

「……」

「しっぽとか完全アウトだろうしさ。他にも関節とか色々あるだろ?

 見た目だけでも変えた方がいいと思うけど」

「まぁ、ね。

 もし変えられるなら、シームの手足についてる鱗とかも取ってあげたいし」

「おねーちゃん……」

「ただ、顔だけなら元々整形できるから、もうゲーム内で先にした方がいいと思ってる」

「……それってアタシの話よね?

 シームじゃなくて」

 

 メレオロンの問いかけに、ウラヌスは顔を曇らせる。

 

「そうだけど……

 もしかして追っ手から逃れる為に、シームの顔を整形するのか?」

「アタシは……してほしくないけど。

 この子、手足が見た目変わってるだけで、顔は普通の人間だった時と同じだから」

「……」

 

 沈黙するシーム。アイシャは軽く手を上げ、

 

「そのことなんですけど……

 私個人としては、シームのことを実験してた連中を、直接どうにかした方がいいんじゃないかなって」

「……ずいぶん過激ね。

 それじゃなに? アイシャはその連中を殺しちゃうつもり?」

「そんなつもりじゃ……

 でも、その実験をしていたのが犯罪者集団なら、どうにかして捕まえたいですけど」

「……表向き犯罪をしてるように見せてないってこともあるし、国家規模で隠蔽されてるケースだったら、相手が大きすぎると思うけど」

「……」

 

 メレオロンの懸念に、アイシャは知識と記憶を掘り起こして考える。

 

 ──巨大キメラアントは、発見次第駆逐の方針で、抵抗の意思がない場合は監視隔離。巨大国家がキメラアントの実験なんてことは……しないはずだ。もし人体実験をしていたなんて露見すれば、国際社会から深刻なレベルで非難を浴びせられるだろう。

 

 あるとすればNGLとか……。ハンター協会そのものが実験を容認してたなんてことは……ないと思いたい。

 

 ウラヌスも軽く手を上げ、

 

「……そういうことは、ゲームクリア後にでも考えよう。

 ここで確認しておきたいのは、ゲーム内で整形するのはメレオロンの顔だけでいいのかってこと」

「アタシとしては、それで問題ないけど。

 ……たださ。この整形に必要な写真ってどうしたらいいの?

 アタシ、人間だった頃の顔に戻りたいんだけど」

 

 メレオロンの質問に、ウラヌスは腕を組み、

 

「えっと……

 確か、他の指定ポケットカードで……」

「……。

 もしかして『思い出写真館』ですか?」

 

 アイシャがそう言うと、ウラヌスは「あっ、うん!」と反応し、

 

「そうそう、それでいける──

 アレ? ちょっと待てよ……ホントにいけんのか?」

 

 メレオロンが、指定ポケットカードのメモをぱらぱらめくる。

 

「カード番号いくつだっけ?」

「56」

「うん……

 んー……?

 昔の思い出の姿を写真にする、ってことみたいだけど……

 これじゃあ、アタシがキメラアントとして生まれ変わった時点までしか遡れないんじゃない?」

「あー。

 それは多分そうだと思います……」

 

 アイシャが頷く。転生による記憶の途絶は、どうやっても大なり小なり発生してしまうものだ。

 

「うんー? それってどうにかなんのか?

 んー……」

 

 頭を捻るウラヌス。

 場の面々が、これといって良い案を出せずにいる中。

 指定ポケットカードのメモを見ていたシームが、

 

「あの……ちょっと自信ないんですけど。

 もしかして、『失し物宅配便』って使えませんか?」

 

 ウラヌスがそちらを見るが、あまり思わしくない顔。

 

「それ……

 たとえばメレオロンの昔の写真とかを届けさせるとか?

 でも多分、それも転生した時点で……」

「いえ、そうじゃなく。

 ボクがこれを使って、おねーちゃんと一緒に写ってる写真を……」

 

「──シーム! アンタ、あったまいい!

 それでいけんじゃん!」

 

 シームの背をバンバン叩くメレオロン。

 

「……う、うまくいけば、だよ。

 ボクが持ってた写真で、おねーちゃんも写ってるやつって、そんなに多くなかったし」

 

 ウラヌスは「んー」と考え、

 

「家族の写真アルバムとかは?」

「あっ、それボク一冊持ってました!

 おねーちゃんが成人した時、一緒に撮った記念写真、確か入れてたはず──」

 

「シーム、ぐぅぅぅぅっど!!」

 

 めっちゃ興奮してるメレオロン。

 

「でも……今もちゃんとあるかなぁ。

 もし完全に無くなってたら、失し物宅配便って使えないですよね?」

 

 シームの問いかけに、アイシャが少し首を捻り、

 

「多分、そうだと思います。

 現存さえしていれば大丈夫でしょうけど、それでも現物を取り寄せるだけだから、中の写真がダメになってたりしたら……」

 

 ウラヌスが人差し指をくるりと回し、

 

「あー。それであれば何とかなるよ。

 えっと、『リサイクルーム』。

 あれなら傷んだ写真も、撮りたての新品に直せるはず」

 

「──ひゃああああっ!! アンタ達、さいっこうぅぅぅ!!」

 

 メレオロン最高潮、周りドン引き。

 

「お、落ち着け落ち着け。

 えっと、メレオロンの顔整形はそれでいいとして、後は俺が整形マシーンを研究して、身体の整形もできるようにすればいいんだよな?」

「ウラヌスさん、それって出来そうなんですか?」

 

 アイシャが尋ねると、自信ありげにウラヌスはうなずく。

 

「クッキーや若返り薬に比べたら、かなり楽だと思う。

 そもそも整形は顔だけにするものじゃないからね。あと失敗したり壊れたりも、確率で設定された故意の制約だか誓約だろうから、これも何とかなるはず。

 ……で、2人に確認」

 

 ウラヌスは、メレオロンとシームを見やる。

 

「頭以外の胴体や手足を、全く前と同じに戻す、だとかなり厳しいんだけど。

 見た目を何とかするだけなら、ぶっちゃけ他人の身体の写真でよさげなのを持ってきて、それに整形すればいいと思ってる。

 ……それで構わない?」

「いいわよ。

 そこまで贅沢言わないわ。むしろ前より良くしてちょうだい」

「ボクもそれで構いません」

「おっけ。キマリだね」

 

 

 

 ……いずれにしても『72:マッド博士の整形マシーン』も、ゲームクリアでゲットする方針で決定。3つとも、当初の予定通りとなった。

 

 

 

 クリア後の報酬については話がまとまったので、後はゲーム内で指定ポケットカードを有効利用できないか相談を続けた。

 

 

 

「アイシャは移動スペル効かないんだし、『プラキング』で乗り物作ってそれに乗れば?

 アタシこういうプラモなら、多分がんばったら作れるわよ」

 

 メレオロンがバイクのアクセルを回すような仕種をする。アイシャは頬をかきつつ、

 

「いえその。

 ……私の場合、目的地が遠くても、走った方が乗り物より何倍も速いんですよね」

『いや、それは色々とおかしい』

「えぇぇぇ、なんで息ぴったりなんですかっ!?」

「……俺も言っててビビッた。

 それはともかく、念能力者が本気で走ったら時速数百キロぐらいはそりゃ出せるけど、長距離でも乗り物に勝つとかスタミナお化けにもほどがあるよ」

「ぐ……」

 

 

 

 ゴンがイマイチそうな顔をしつつ、

 

「んー……

 ちょっと気が長い話だけどさ。『きまぐれ魔人』の望み1000コの中に、アイシャを男の子にするっていうのを入れておいて、『複製』で願い引けるまで繰り返すとか」

「……なんでしょう。いつまで経っても、そのきまぐれが訪れる気がしないです……

 よしんば引けたとして、ボス属性で打ち消しちゃいそうな悪寒しかしませんが。

 あと仮にうまくいっても、性別を戻したい時が大変です」

「うん、やめよ。却下、却下!」

「……ゴン。なんか私、腑に落ちないんですけど」

 

 

 

「アタシ、『美肌温泉』がちょっと気になってるのよね。

 すぐブツブツ荒れてきちゃって……

 アイシャもどう?」

「いえいえ……

 私、肌に関する悩みなんてないですから」

「ぅわムカつく。この天然美少女」

「うん。俺もちょっとムカついた」

 

 バッと、メレオロンがアイシャのワンピースの裾をめくり上げ、素足を曝け出した。

 

「えっ!?」

 

 全く意図できないその行為に、不意をつかれたアイシャ。ここぞとばかりメレオロンとウラヌスがその足をぺちぺち叩く。

 

「ちょっ、ちょっと、やめてください!?」

「かあー! もうこの天然美肌ムカツクーッ!」

「うわ、マジでうらやましい。ちょっと俺にくれよん」

 

 調子に乗って、アイシャの足を揉んだり摘まんだりする2人。ヘタに動くと危険域までめくれそうなワンピースの裾をアイシャは押さえながら、

 

「ゴ、ゴン! タスケテッ!」

「ゴメンよアイシャ。オレは……弱い!」

「もうダメおなかイタイ!」

 

 かたわらでシームが、お腹をかかえて笑いだす。

 

 

 

 …………おおむね、アイシャがいじられてるだけだった。

 

 

 

「はぁー……」

 

 突然アイシャがついた大きな息に、場の4人が思わしげに見る。

 4人の視線を受け止め、アイシャは後ろ頭をぽりぽりしながら、

 

「その……

 こういうのって、すごく楽しいなと思って」

「うん! オレもそう思う。

 友達同士でワイワイするのっていいよね!」

 

 ゴンの無邪気な言葉に、他の3人が顔を見合わせた。

 

「……ともだち、か」

 

 ウラヌスのつぶやきに、ゴンとアイシャが目をやる。

 

「いや、ゴンとアイシャって仲いいなと思って。

 メレオロンとシームもかな。

 俺は家族と仲悪かったし、里にいた時も、出てきた後も、友達とか居なかったからなぁ……」

 

「え?

 だからオレ達、友達でしょ?」

 

 ゴンのまっすぐな視線に、「んっ!?」という顔をするウラヌス。

 何となく予想できていた展開に、苦笑するアイシャ。

 

「ウラヌスさん。

 ……この子にかかっちゃえば、あっという間ですよ」

 

「オレ、一緒についていけないのは残念だけど、応援してるからね!

 絶対クリアしてよ!」

 

 混じり気の無い、澄み切ったゴンの声援に対し──

 

 一言も発しないウラヌス。ただ呆然としている。

 

「……ウラヌスさん。

 最初にお誘いいただいた時、言い出せなかったことなんですけど……」

 

 アイシャは微笑みながら、彼へ手を差し出す。

 

「お友達に、なってもらえませんか?」

 

 身体をびくーんっと跳ねさせるウラヌス。目を見開き、見るからに硬直している。

 

「……シーム、なんか様子おかしいわよね」

「あれじゃない?

 今まで友達いなかったから、どうしたらいいか分からないとか……」

「そりゃ白いワンピースの似合う美少女に以前からお友達になりたかったとか言われたら、ああなっちゃうかもねぇ……」

「アイシャ可愛いもんねー」

 

 2人の会話に反応するように、身体の揺れが大きくなっていくウラヌス。

 

「……あ、う。その、えっ……」

 

 みるみる顔を紅潮させるウラヌス。見てる方が恥ずかしくなってくる。

 

 おそるおそる、彼は震える手を差し出し……

 

 アイシャは肘を伸ばし、その手を握った。

 

 握手したまま。ゆっくり、返事を待つ。

 

「……

 ……お……お願い、します……。こちら、こそ。

 アイシャ、さん……」

 

 笑みを深め、少女は言葉を返した。

 

「アイシャでいいですよ。

 その代わり私も、ウラヌスって呼びますね?」

 

「ぅ、うん……

 よろしく。……アイシャ」

 

「ええ。

 よろしく、ウラヌス。

 一緒にグリードアイランド、楽しみましょう」

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 

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