どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百四十八章

 

「んっ。──んぅ」

 

 もう朝かぁ……顔が寒いな。そういえば、まだスノーフレイにいるんだっけか。けど、身体は妙に暖かいなー。なんでだろ。

 

 あー、サクラ抱っこして寝てたからかぁ。なでなで。ぷにぷにしてて暖かいなぁ。髪の毛もすべすべしてるし。いい子いい子……髪の毛?

 

 重いまぶたを開け、抱っこしてるサクラを見る。……あ、うん。サクラなわけないよね。じゃあコレって……

 

 布団の中に隠れてしまっていて見えないが、それなりに大きい。猫じゃないな。てか、ぷにぷにしててサクラじゃない時点で他にいないよね……

 

 

 

 そぉっと左腕で掛け布団をよけると、桜色の頭が覗く──予想通り。

 

 丸くなったウラヌスが、横向きになって静かな寝息を立てていた。私と向かい合わせに。

 

 

 

 ふぅん……ふぅん。どうしてこうなった?

 

 サッパリ分からないが、どうやら寝床をともにしたらしい。……語弊はあるだろうが、他に言いようもない。所在なさげな左手を、ウラヌスの肩へ据える。さっきまでの定位置だったようで、明らかに馴染んだ温もりがあった。

 

 ……正直に言おう。抱き心地、ハンパじゃない。これはいけない……。シームもそんなようなこと言ってたけど、これは抱きしめたくなる。背におぶったのも悪くなかったけど、別次元のぷにぷに感だ。サクラと同等の感触な上に、たっぷり抱き応えもある。

 

 いや、まぁ。このままってわけにもいかないよな。どうしよ。

 

 冗談抜きで、なんでこうなったんだ? 覚えないぞ。しかもこんな接触状態になっても、私が起きないとか有り得るか? 寝ぼけてたのか?

 

 あ、そうだ。この布団って、元々どっちが寝てた布団だ? 私かウラヌスか分かれば、どっちが侵入したか分かるはずだ。

 

 ……けど、なんか一方の布団はあるにはあるが、部屋のハシに追いやられてぐちゃっと折り畳まれてる。いま寝てる布団の位置も、元々あった私達の布団が敷いてあった場所の中間くらい。つまり、どっちがどっちの布団か分からない。

 

 まぁ犯人探しはいいや……私かもしれないし。とりあえず現状を解消したいんだけど。ウラヌス起きてくんないなぁ。……ぷにぷにもみもみしてたら、そのうち起きるかな? よし、いっちょもんでやっか。これは必要なことなのだ、うむ。

 

 小動物の身体を、背中やら脇やら腹やらあっちこっち揉む。暖かいやら、柔らかいやら、いい匂いやら。くすぐったそうに身じろぎする、無防備な表情がまたカワイらしい。ほれ、ほっぺたぷにぷにー。

 

「……んー。ぁぅー……

 なぁに、あねきぃー? また朝っぱらからぁ……え?」

 

 起きた。めっちゃ目を丸くしてる。私は小声で、

 

「おはようございますー……」

「……。

 おはよう。わ、いいけど、えっ……と」

 

 実は非常によくない状態である。お互い浴衣をあちこちはだけさせて、同じ布団の中でほぼ密着している。もし私の方が後から起きていたら、何事だと思っただろう。おまけに布団の中は、互いの匂いがめっちゃ充満してる。

 

 ……もみまくってたし、多分私がしてたこと気づいちゃったろうな。マズイ……

 

「なにこれ?

 え、ちょっと? なんで俺とアイシャが一緒に寝てんの?」

 

 それは私のセリフだよ。あんまりぷにぷにしてるもんだから、毒気抜かれちゃったけど。

 

「ていうか、身体にヘンな感触残ってるんだけど……

 なんかした?」

「あー、えっと。私もついさっき起きたところでして、なにがなんだか……

 まったく身に覚えがないんですけど、なにか知りません?」

「……いや、覚えてない。

 昨日、普通に寝たよね? 別々の布団に」

「私もそう記憶してるんですけど……

 夜中に寝ぼけて、なんかしちゃったんでしょうか」

「なんかって。

 ……何にも記憶にないよ。え、マジでアイシャ心当たりない?」

「その……

 ぜんぜん。

 でもお互い、こんな状態で全く気づかないのも不自然ですし」

「……俺、嘘なんか言ってないよ?」

「私も嘘なんか吐きませんよ」

「ぇー……

 なにこれ、すっげぇ怖い」

「……とりあえず起きましょうか。

 目が覚めないなら、もう少しマッサージしましょうか?」

「ちょっと!

 やっぱり揉んでたんじゃん!」

「いやー。起きないなと思って、つい」

「もー、やめてってば」

 

 慌てて掛け布団を跳ね除け、身を起こすウラヌス。私も身を起こす。布団の中から湧き立つ熱と匂いに軽くアテられ、くらっとする。が、はだけた浴衣に気づき、お互いにすぐ視線を逸らして浴衣を直し──あ。

 

 シームとメレオロンが、布団で寝そべったままこっちガン見してる。

 

「……なにしてんの、アンタ達」

 

 ほぼ確信めいた変態からの詰問に、朝から血の気が引いた。やっべ、完全に誤解してるよね? こんなの、どう説明したらいいんだ。

 

「えぇっ!?

 いや、オマエラ起きてたのっ!?」

「ちょっと前から……」

「……アンタ達さぁ。いくらなんでも」

「ちょっちょ、いや違う!

 ていうか待て! 何でオマエラも同じ布団で寝てんだっ!?」

 

 あ、ホントだ。シームとメレオロンも、同じ布団で寝てやがる。

 

「……おねーちゃんが」

「えっ?

 アタシ、なんかしたっけ。そもそもなんで一緒に寝てたの?」

「……。

 おねーちゃんが夜中に、寒いから一緒に寝かせてって言ったから……」

「……そうだっけ。ごめん」

「別にいいけど」

 

 メレオロンは気まずそうに、シームは不機嫌そうにしている。……まぁそっちの事情は分かったよ。メレオロンは寒がりだから納得できるし、仲のよろしいことだ。

 

 問題はこっちだな……

 

「ちゃんと覚えてないんですけど、もしかして寒くて一緒に寝ちゃったのかなぁって」

 

 そう言うと、ウラヌスが私を怪訝そうに見る。……いや、覚えてないし。適当に言っただけだよ。

 

「寒いから、一緒に寝てたの?」

「……かもなぁって」

「ホントにぃ?」

 

 半分納得するシーム、多分に疑わしげなメレオロン。ウラヌスは乱れた後ろ髪を指先で整えながら、

 

「俺も寝る前のこと、全然覚えてないんだよな。

 いや普通に寝てたはずなんだけど、いつからこうなってたんだか」

「……そういえばウラヌス、寝言でお姉さんのこと」

「げっ!?

 ──しらない、俺なにも言ってないもん」

 

 ぷいっと顔を背ける。ほほぅ。相当都合が悪いようだな。

 

「よくお姉さんに、寝起きマッサージされてたんですか?」

 

 ぶぅッ!? と吹くウラヌス。これは図星の反応だな。丸分かりだよ。

 

「なんだ、すごく仲良かったんじゃないですか」

「違うよ!

 俺、何度もやめろっつってんのに、寝てるところをくすぐりに来るんだよ!」

 

 多分ウラヌスの身体を揉み揉みしたくて、そんなことしてたんだろうね、お姉さんも。さもありなん。

 

「ぅわ、アンタそれ……」

「いいなぁー」

「え、なにその反応。ちょっと」

「お姉さんも、ウラヌスとスキンシップしたかったんだと思いますよ?」

「……俺、完全に嫌がらせされてたんだと思うけど」

 

 ウラヌスは自分が触られてる理由、理解してるようでしてないんだよな。面白いから、ほっとくけど。

 

「……アイシャ。あんたも揉んでたってことよね?

 なんかもぞもぞしてるな、と思ったけど……」

 

 変態の鋭い指摘に、ぎくりとする。うんまぁ誤解じゃないしな、それ。否定はすまい。ウラヌスの目が冷ややかだけど。すまぬ。

 

「ずるぃー。ぼくもするー」

「シーム! なんでこの空気でそんなこと言うっ!?」

「えー。じゃあ桜出してぇ。

 代わりにプニプニするから」

「だが断る!!」

「じゃあこっちー♪」

「ぐわーッ!? 飛びつくなっ、はなせー!」

「ぷにぷにぃー♪」

 

 朝から元気なことで。

 

 

 

 シームに好きなだけプニられて揉みくちゃにされた後、ウラヌスはぷりぷり怒りながら夫婦の部屋へ様子を見に行った。

 姉が弟をぽこんと叩き、

 

「アンタやりすぎよ」

「だってぇ」

 

 微笑ましくはあるけどね。ウラヌスも本気で振り解けないから困ってたけど。シームは甘えてるだけだって分かっちゃうもんな。

 

 戸の外から、トントントンとノックされる。

 

「おはようございます。朝食をお持ちしました」

 

 

 

 

 

「ひゃー♪ 朝から豪勢ねー」

「ホントだな。こんなメシ食いに行ったら、どんだけ高くつくんだか……」

 

 そんな声が響いてくるのを耳にしながら、トントントンと外から戸をノック。

 

「はーい」

「邪魔するよ」

 

 戸を開けると、やはり若干手狭に感じる二人部屋で、相変わらずのバカップルがいた。コタツの上に、朝から食うには少々重そうな質と量の食事が並んでる。

 

「あ、ウラヌスか。おはよ♪

 てっきりデザートでも運んできたのかと思っちゃった」

「おはよう。デザートが欲しけりゃ買ってくればいいだろ。

 2人ともちゃんと寝れたか?」

「スッキリばっちりよ♪」

「オレはイマイチだよ……」

 

 やっぱりな、と俺は苦笑する。ベルはともかく、あんな重い話の後じゃモタリケは安眠できなかっただろう。

 

「突然あんな話押しつけて、悪かったよ。

 でも、ちゃんと眠気は覚ましてくれよ? たぶん今日は長丁場だからな。

 メシ食った後、風呂はどうする?」

「もちろん入るわよ♪

 って言いたいトコだけど、あなた達は?」

「俺達も入るけど、一緒ってわけにはいかないしな」

「別にいいじゃない、一緒したって♪」

「やだよ。……こっちにも事情があるんだ。

 悪いけど、先に入ってくれ。もちろんメシ食った後でいいから」

「ふぅん。

 ま、昨日はわたし達が後だったし、いっか。分かったわ。

 ……ところで、微妙に全身クチャクチャな感じがするけど、何かあったの? 寝起きにしたって、おかしくない?」

「べつに」

 

 朝からあっちこっちグッチャグチャに揉み倒されてるからな。マジで勘弁してほしいよ。……鼻にアイシャの甘い匂いが残ってて、なんか酔いそうだし。

 

「顔赤いけど、どうしたの?」

「……べつに」

 

 

 

 

 

 ウラヌスが戻ってきた。コタツの上を見て、首を傾げた後、

 

「先に食べててくれてよかったのに」

 

 誰も朝食に手をつけてないことに気がつき、不思議そうに言ってくる。

 

「すぐ戻ってくるのは分かってましたから。

 せっかくだから一緒に食べようと思いまして」

「そうそう、食いしん坊のアイシャが我慢したのよ。相当でしょ」

「メレオロン」

「みんなで食べた方が美味しいじゃん」

 

 嬉しそうに言うシーム。はにかむような笑みを見せたウラヌスは、そそくさとコタツへ入った。

 

「じゃ、食べよっか」

 

 

 

 ちっちゃなお鍋とか新鮮な海産物とか色々美味しいモノはあるけど、中でも絶品だったのがゴハンにかける鮭そぼろって言うね。これ、ゴハンが進みまくるよ。

 

「アンタ、まだおかわりすんの?」

「もぐもぐ……だって美味しいんですもん」

「ゴハン、追加頼む?」

「あー、いえ。そこまでは」

 

 正直言うとまだまだいけるけど、朝食だしな。そこまではガッつくまい。

 

「メシ食ったら、あの2人の風呂待ちがてらゲームコーナーで遊ぼっか。

 デザート欲しかったら頼んでくれていいし」

 

 それもいいなぁ。冬の街の食べ納めだし、遠慮なくいただくとしよう。食後の楽しみをどうするか考えながら、私がゴハンをかきこんでると、

 

「そういえば、朝起きた時なんでああなってたんだろうね」

『ぶっ!?』

 

 シームが爆弾を放りこみ、3人が一斉にむせる。あっぶ、やらかすトコだったぞ!

 

「げ、ほっ。おま、いま言うな……」

「ご、ごめん」

「けっふ……ほんとですよ。

 えっと、メレオロンは寒いとか、言ってたんでしたっけ?」

「ん、ん。でもアタシ、よくおぼえてないし……」

「おねーちゃん、そう言ってボクの布団、勝手に潜り込んできたんだけど?」

「ゴメン。でも覚えてないのよね」

「んー。他にもなんか言ってたかな。

 ……布団がなくなってるって」

「部屋のスミに、丸まった布団がありましたね」

「ねぞうが悪くて、寝ぼけて布団ひっくり返したの気付かなかったんじゃないか?」

「アタシはそうかもしれないけど、アンタ達はどうなのよ?」

「……覚えてないですし」

「覚えてないなぁ……」

「ホントにぃ?」

 

 疑われたところで、心当たりないもん。……? いや、

 

「関係ないかもしれませんけど、サクラを抱っこして寝る夢を見たかも」

「あー。いいなぁ、それ」

「夢の中で寝てるの?」

「そう言われましても」

「……」

「どうかしました、ウラヌス? なんかイヤそうな顔して」

「……なんでもない」

 

 この話題は終わりとばかりに、ゴハンをかきこむウラヌス。

 

「変な夢でも見ました?」

「……見てない」

 

 またか。前にもそんなようなこと言ってたな。

 

 

 

「ウラヌスー。これ、攻略法ないのー?」

「ねぇよ。しいて言えば、やり続けたら絶対負けることぐらいだ」

「えー」

 

 シームが行儀悪く両足をじたばたさせる。朝食を終えた後、私達はあらかじめ話してたゲームコーナーへ足を運んだ。例のジャンケンゲームにシームも挑戦してるけど、昨日のウラヌスと同じくボコボコにされている。

 シームが悔しそうな顔で私を見て、

 

「アイシャ、カタキ討ってー」

「ムリですよ。ジャンケンの強さと関係ないですもん」

 

 っていうか、ダメだよこのゲーム。簡単そうに見えるだけで全く勝ち目がない。ゲーム自体の問題じゃないかもだけど、そもそも勝敗のバランスがおかしくて遊びにすらなってない。

 

「それ、変に絞ってあるから勝ち目ねーよ。

 他のゲームにしとけって」

 

 ……やっぱり。シームは納得できない様子でバタバタし、

 

「だって、昨日のブロック壊すやつ難しすぎるしー」

「だから他のにしろって」

 

 やれやれ、私はデザートでも貰おうかな。高みの見物に徹しよう。

 

 

 

 私とメレオロンが甘味を楽しみ、ウラヌスとシーム2人がどたばたゲームしてるうちに、モタリケさんが上がってきて、その後ベルさんも温泉から出てきた。よし、私達も入るか。

 

 

 

 ざばばぁっ! と、豪快に湯船へ浸かるメレオロン。

 

「かぁーっ! しみるー!」

「おじさんっぽいですよ、メレオロン」

「だぁって、これで温泉ラストよ?

 たーっぷりちゃっぷり堪能したいじゃない? 遠慮なんてしてたらソンソン♪

 そうでなくたって、こんな寒いトコロであっつい温泉なんて入ったら、かぁーっ! の1つも言いたくなるわよ」

 

 くすくすと笑い返しておく。メレオロンもすっかりお風呂好きだな。その点は私と気が合うんだよね。

 

「ほら、アンタも早く入んなさいよ」

「はいはい」

 

 掛け湯を済ませ、私も湯船へ向かう。ほんの少し雪がチラチラしていて、朝の光を照り返し、少し眩しい。なかなか幻想的だな。……これで最後なんてもったいないよね。またみんなで来たいな。

 メレオロンがやらかしたのもあるけど、さっきまでベルさんが入っていたのもあって、足元は派手に濡れている。滑らないよう注意しながら、湯船まで足を運んでゆっくり身を沈めた。

 

「はぁー……んーっ」

「おばさんっぽいわよ、アイシャ」

「え、うそ?」

「アハハ、冗談よ。

 安心しなさい、年頃の女の子でも普通にそういうことするから」

 

 からかわれたらしい。私が頬をふくらませると、メレオロンはケタケタ笑い、

 

「仕返ししただけじゃない。

 おっさんくさいなんて言ってくれたから」

「そこまで言ってないですよ。

 ……でも、気に障ったならすいません」

「気にしてないって。

 それより聞きたいことがあるんだけど」

「なんです?」

「なーに、朝からイチャついてたのよ?」

「ぶほぉっ!?」

 

 ぶへ、いま来やがった! くっそ、イジりにくるのは予想してたのに、油断してた!

 

「まったく、だったらハナから二人部屋とっときゃいいでしょうが。

 なにもアタシ達が寝てる横で──」

「げほっ! ちょ、待ってください! 違います、誤解です!」

「誤解ぃ?」

「けふ、だから説明したじゃないですか! 何でああなってたのか覚えがないって」

「んー? 誤解ってぇ?

 アタシがいったいナニを誤解してるってぇの? 説明してごらんなさい」

 

 ぐ、ぐぉぉっ。コイツ……!

 

「そ、そんなこと言ったら、あなただってシームと一緒に寝てたじゃないですか!

 説明してくださいよ」

「そう言われてもねぇ。知らないうちに寝てただけだし?

 シームも言ってたじゃない、アタシが寒がって勝手に入ってきたって」

「……言ってましたね」

「そんだけよ。アタシはともかく、シームの言うことなら信じられるでしょ?

 姉弟なんだし、間違いなんてあるわけないじゃない」

「……。

 あなた、前に酔っ払ってムチャしてシームに散々怒られた時のこと、覚えてます?

 私、ちらっと見ちゃったんですけど」

「まぁ、うん。あの時はね。

 正直覚えてないけど、シームにとことん怒られたから……」

 

 シュンとするメレオロン。よし、このまま話題を流すチャンス!

 

「でもそれだけよ。

 で、アンタ今朝ナニしてたわけ?」

 

 一瞬で流れ戻しやがった!

 

「それはその……

 あなた達と同じですよ」

「ナニが?」

「えぇっ……と。その。

 ……寝ぼけて、一緒に寝ちゃったことですよ。

 どっちが寝ぼけてたのかは分かんないですけど……」

「アタシが聞いてんのはそっちじゃないわよ。

 一緒に寝てたのが事故だってのは、まぁ分かったから。

 じゃなくて。

 アンタは今朝、アイツにナニしてたの? って聞いてんの」

 

 し、しつこいな。やたら食い下がってくるぞ。

 ……これはヘタに誤魔化さず、正直に言った方がいいか?

 

「その……

 私が起きたら、なんか違和感あるなって。

 で、布団を覗き込んだら、ウラヌスが潜り込んで寝てて……

 どうしたらいいか分かんなくて、とりあえず起こそうと思って……」

「起こそうと思って?

 アイツの顔におっぱいでも押し付けたの?」

「なんでそんなことしなきゃいけないんですか!

 ……その、えっと、マッサージしてあげたら起きるかな……って」

 

 んー? と疑わしげに覗きこんでくる変態。や、やめて、そんなじっと顔見ないで。

 

「で? どこ揉んだの?」

「どこって……

 背中とか」

「背中、とか?」

「……

 脇とか、お腹とか……頭とか」

「ほぅ? それで? 他には?」

「……それぐらいですよ。ウラヌス、すぐ起きちゃいましたし」

「ふぅん。

 起きなかったら、アンタその後どこ揉んでたんでしょうね?」

「……なんでそんなに勘繰るんですか。

 嘘なんて言ってませんし、寝てるウラヌスにおかしなことなんてしませんよ」

「うん。信じる」

 

 へ? ……え、なに? 信じてくれるの? さっきまであんなしつこかったのに。

 

 伸びをし、なんとも言えない表情を浮かべたメレオロンは、

 

「アンタとシームが、アイツの身体揉みたがる理由はアタシにも分かるからね。

 それぐらいなら仲いいってだけの話だし、アイツが嫌がってないなら別にいいわよ」

 

 嫌がってはいるけどね……私が逆のことされたら、やっぱりイヤだもんな。

 

「でもさ。アタシの立場になって考えてくれる?

 朝起きたら、隣の布団がやけにもぞもぞしてるのが見えたわけよ。

 で、アンタはそこにいるけど、ウラヌスの姿は見えない。そこにいる気配はするけど。

 シームがもう起きてて、当然もぞもぞしてる布団の方を見てるわけよ。

 そりゃ当然聞くわよね。アレ、なにしてるんだろ? って。

 ……アタシ、なんて説明しようかスゴイ困ったんだけど?」

 

 あ。あぁぁっ──!?

 

「すっ、すいませんでしたっ!!」

「分かればよろしい」

 

 顔を真っ赤にして謝る。……そっか。メレオロン、かなり本気で怒ってたんだ。それは誤解させるようなことしてた私が悪いよね……

 

「いやさぁ。

 アンタ達が普段そういうことしてたって別に構やしないけど、TPOってもんを──」

「だから、それも誤解ですってば!

 ……普段だってしてませんよ、ホント今朝たまたま事故でこんがらがっただけで……」

「ふぅん。

 まぁアンタ達がポンコツなのはアタシも重々承知してますし? そうそうおかしなことしやしないとは思ってますけどね?」

 

 ぐ、ぐぬぬ。バカにされてるのに、言い返せない……!

 

「……アンタ、あいつのこと嫌いなの?」

「……。

 嫌いじゃないですよ」

「友達として、ってことよね」

「……ええ」

「あいつはアンタのこと、どう想ってるのかしらね」

 

 ……それは、私には答えようがない。知らないし、知りようもない。……知りたいかと言われれば、それも分からない。

 

「まぁアッチに聞いてもおんなじ答えが返ってくるのは予想つくけどね」

「……。えぇ」

 

 なぜだろう。私も同感なんだけど、どこか納得できない気分になる。

 

 メレオロンは私のことを、心配げに見つめながら、

 

「アンタとシーム、なにげなくアイツにベタベタしてるけどさ。

 単純接触でも、ずっとしてると情が移りすぎるわよ?」

「……? どういう意味です、それ?」

「そうね……

 相手の体温は、思ったよりずっと多くのことを伝える、かな。

 シームも、アイツのコトもっと知りたいんでしょ」

 

 分かるような、分からないような。そんな感情が表に出ていたのか、メレオロンは更に言い募る。

 

「アンタ、あいつのことスゴイ知りたがってるわよね?

 ハタから見てたら分かるわよ。アイツ、謎いっぱいだしさ」

「ええ……

 できれば、知りたいとは思ってます」

「それはアンタに対してもそう。

 アンタ、隠し事たくさんしてるでしょ? あいつもおんなじこと思ってる」

「……」

 

 そうか……そうだな。まだ私達は知り合って、そんなに時間は経ってない。……いずれ話してもいいかなと思いはするけど、ウラヌスはどうなんだろうか。

 

「で、その知りたいっていう気持ちが、別の感情になるかもってアタシは思うわけ。

 ──ホルモンクッキーで、性転換したいのよね?」

 

 突然話題が変わり、若干戸惑う。分かりきってることなのに、かなり躊躇した後、

 

「……はい」

「アンタが現状で満足できないって気持ちは、分からなくもないわ。……アタシもずっと今のままじゃ絶対イヤだし。

 でも。

 いざ性転換できるとなった時、アンタは本当に踏み込めるの?」

 

 やや強い詰問口調に、私は抵抗を覚える。メレオロンの眼差しが、チクリと刺すような錯覚。

 

「アンタは、何の為に性転換するの? ……大体予想はついてるから答えなくていいけど。

 たぶん今のままじゃ、どう転んでも後悔する結果になるわよ」

「……

 どういう意味ですか?」

「アンタとウラヌスは、面白いぐらい鏡の関係。

 全く同じように見えて、どこかを境に、真逆になってる。

 ……あの子を見てて思わない?

 中途半端だ、って」

 

 胸が苦しくなるほどに、突き刺さる言葉。……見抜かれてる。

 

「どっちも取れやしないのに、どっちも取ろうとしてるのが今のアンタ達。

 ま、アンタよりもっと心配なのはウラヌスの方だけどね。

 アタシ、今のままじゃアイツの方が先にヤバイことになりそうって思ってるんだけど」

「……」

 

 ウラヌスのことに関して、私にできるのは身体の心配だけだ。心のケアまでは……正直言って私は門外漢である。力にはなってあげたいけど……

 

「昨日、あの夫婦を現実に帰す説得してたでしょ?」

「あ、はい」

 

 その辺の一部始終は、同席しなかったメレオロンにもお風呂へ入る前に伝えた。あまり関わりたくないだろうけど、関心はありそうだったしな。

 

「その話の中で、ウラヌスの言ってたことが気になってね。

 ──明らかになぁなぁで済まそうとしてるだろ。今の生活が心地いいから」

 

 うっ……

 

「それ聞いて、アタシ思ったのよね。

 なにエラそうに言ってんだか。それはアンタのことでしょ、って」

 

 

 

 

 

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