どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百五十章

 

「……うん。ちょっと仕切り直そうか」

 

 ウラヌスの煎れてくれたお茶を飲んで、一服し。やがて彼はそう言った。

 

「一度温泉に浸かって、のんびりしよう。

 そんで、お昼はこの街でもう一度お鍋。それから出発しようと思う。どう?」

 

 ……いいかも。このまましこりを残した状態でドリアスへ行くよりも、少しは気分転換してからの方がずっといいだろう。

 

 私達の表情を見て、了承の意と受け取ったらしく、ウラヌスは言葉を続ける。

 

「ただ、その前に。

 メレオロンとシームは仲直りしてほしい」

「でも……」

 

 すぐ不満げな声を返したシームの頭に、ウラヌスは手を乗せて髪を優しく撫でる。

 

「そこまで怒ってくれるのは、俺にとっちゃ嬉しいけどさ。

 姉弟喧嘩をずっと見てるのはツラいよ。

 シームも分かってるんだろ?

 メレオロンは、俺を心配してああいうことを言ってるんだって」

「……」

「メレオロン。さっきは無理に聞きだして悪かった。

 俺も腹立ちまぎれに色々言ったけど、そもそもアイシャとオマエがしてた話を、勝手に拡大解釈しちゃダメだよな。

 そんなつもりじゃなかったことぐらい、俺も分かってるよ」

「……

 傷つけるようなことを言って、ごめんなさい」

「正直言うと、慣れっこさ。

 もっと悪質な罵られ方してきたからな。

 でも、俺のことをどうこう言うのは構わないけど、アイシャにはもうちょっと配慮してほしいかな。今回の件で分かっただろ?」

「うん……」

「私こそ、こんな大事(おおごと)にしてしまって、すいませんでした……

 メレオロン、気にしないでくださいね?」

「ごめんね、アイシャ……」

「もう何度も謝ってもらってますから。

 過剰反応してしまい、申し訳ないです」

 

 メレオロン、完全に自分を悪者だと思っちゃってるからな……。こっちが心配するよ。

 

「……メレオロン。

 頼むから、どっかに消えるのだけはやめてくれよ? 俺はそれが不安だよ。

 弟を置いて居なくなったりしたら、それが一番迷惑だからな?」

「……

 約束する。どんなに嫌なことがあっても、シームは置いていかない」

「おねーちゃん……」

 

 ウラヌスは嬉しそうに微笑み、

 

「この分だと、俺が口出しするまでもなかったかな。

 2人とも仲直りしてくれるか?」

「……シーム。ごめんね」

「うぅん。ぼくも怒ったりしてゴメン……」

 

 よかった……。とりあえず姉弟のことは解決かな。ようやく一息つけるよ。

 

 私が安心してお茶を口にすると、ウラヌスは神妙な顔で、

 

「メレオロン。

 仲直りしたばっかで悪いんだけど、1個しんどい頼みを聞いて欲しい」

「うん、なに?」

「あの夫婦に──

 そろそろ話そうと思う。お前のこと」

「……。そうね……

 あんまり遅くなって、どっかでこじれたらイヤだもんね」

 

 いよいよか。これから積極的に協力していく上で、メレオロンの顔かたちを隠し続けるのは無理があるからな。バレる前にこちらから話せば、かなり心証は変わるだろう。

 

「アレよね。新種の魔獣路線」

「そ。シームとの関係については、例の話をする。

 その辺は多少脚色があっても、そうそうバレないだろうし。何より魔獣のインパクトが強烈だろうからな。誤魔化せるだろ」

「アタシの顔が、こんなことで役に立つとかイヤねー」

「いっそのこと、一緒に温泉入っちまってもいいかもな。

 その方がベルを味方に引き込めそうだし」

「えー。

 流石に全身見せるのは抵抗あるんだけど……」

 

 ああー、なるほどね。ベルさんが偏見を持つタイプかは分からないけど、徹底的に付き合えば、理解を示してくれそうな気がする。私もそうだったし。

 

 あ、ちょっと待てよ。

 

「でもそうすると、ウラヌスはモタリケさんとお風呂入るんですか?」

「ぅぐ。

 ……やだな」

 

 めっちゃ本音出た。おいおい、メレオロンにガマンさせるのに、そこで嫌がっちゃダメだろう。……気持ちは分かるけど。

 

 当のメレオロンは、にやーと笑い、

 

「そうねぇ。アンタがアイツと入るんだったら、アタシも仕方なく一緒に入るわ。

 あーあ、ホントは嫌なんだけどなぁ。ちら」

「く……

 ……わかったよ。俺も我慢するから、オマエもベルと入れよ。

 アイシャ、悪いけどフォローお願いできる?」

「もちろんです」

 

 それぐらいはね。私はベルさんと一緒に入るの、そこまで抵抗ないし。

 

 

 

 事前の打ち合わせを済ませ、ウラヌスとメレオロンは夫婦の部屋へ向かった。

 

 私とシームはお留守番だ。向こうは二人部屋だから、全員で行くと狭いのもあるけど、露骨に口裏合わせをしてると思わせない為に、とのこと。事情をメレオロンとシームから聞いた時に、お互い居ない場所でも話に齟齬がなければ多少信用できるもんな。

 

 とりあえず今は、シームと顔を突き合わせてコタツに入ってる。

 

 特に話すこともなく、ぼんやりと過ごし……

 

「アイシャさ──」

「シームは──」

 

 同時に口を開いてしまい、お互い口をつぐんだ。

 

「なんです?」

「なに? アイシャこそ」

「んー。ではお先に……

 シームはウラヌスのこと、どう思ってます?」

「あ。ぼくもそれ、聞こうと思ってた」

 

 気になってたか。ウラヌスが意図的に避けた話題だろうしな。温泉でメレオロンとした話で、そこだけが抜けていた。いかにもメレオロンが聞きそうなことなのにね。

 

「先に答えちゃいますけど、私はウラヌスのこと友達だと思ってますよ?」

「ううん、そういうのじゃなくて……」

「友達として好きです。……これでいいですか?」

「うん……」

「シームこそ、どうなんですか?」

「え? ぼくは……」

「大好きですよね? ウラヌスのこと」

 

 ものすごく顔が赤くなるシーム。だよねー。じゃなきゃ、あんなに甘えるわけがない。実に可愛らしい反応だ。

 

「友達として! 友達としてだよ!」

「ふふ、はいはい」

「もう!」

 

 むくれるシーム。ほんと子供らしいな。見ててニヤニヤしちゃうよ。

 

「シームはウラヌスのこと、どっちとして好きですか?

 男の子か、女の子か」

「えぇっ? うーん……」

 

 なにげなく聞いたけど、この問いの答えは私も持ち合わせていない。……だから聞いてみたかったというのもある。

 

「その……

 ……いまのウラヌスが好き、なんだけど……ダメ?」

「……

 いいえ。ダメなことはないと思いますよ」

 

 そうだね。多分私もそうなんだろう。……ウラヌスは、あの状態だからこそ苦しんでるんだろうけど。

 彼がどんな答えを出すのか。知りたくもあり、怖くもある。

 

「アイシャはどうなの?

 どっちのウラヌスが好き? 男の子か、女の子か」

「うーん……

 ずるいですけど、シームと同じですね」

「えー。

 ……でも、そっか」

 

 今のウラヌスがダメだと言い切れるのは、メレオロンだけだろう。そういう意味では、きちんと心配してあげているのは彼女だけということになる。

 

 ……当然か。私のような女性とも男性ともつかない精神の人間に、彼の心を女性の立場から気遣ってあげるのは難しい。……ダメだな、私。母さんとの約束、守れてないよ。

 

 ……そうだ。せめて、

 

「シーム。ちょっとしてあげたいことがあるんですが」

「え? なに?」

 

 

 

 

 

 軽くノックし、

 

「邪魔するよ」

「うん。入って入ってー」

 

 部屋に入ると、今か今かと話を聞きたがってるベルとモタリケの顔があった。

 

「ごめん。待たせて悪かった」

「ううん、思ったより全然早く──あれ?

 そちらさんも来たの? めずらしい……

 あ、コタツどーぞ」

 

 メレオロンの姿を見て、不思議そうに言うベル。まぁそうだろうな。極力接触は避けてきたし。でも話のメインはこいつだ。

 遠慮なくコタツへ入らせてもらい、メレオロンが遠慮しつつもコタツへ入ったところで早速話し始めた。

 

「まず、さっきバタバタしてた件は解決したよ。

 変なところに付き合わせて、すまなかった」

「そんな、改まって謝らなくてもいいって。

 ……でも、結局なんだったの?」

「ちょっとしたすれ違いだよ。ささいな誤解で喧嘩になっちゃって。

 喧嘩して仲直りしたって解釈してくれればいい」

「あら、そうなんだ」

 

 詳しい説明は必要あるまい。……はずかしいしな。

 

「ここに来たのはそれとは別件さ。

 ドリアスへ行く前に、2人に大事(だいじ )なことを伝えようと思って」

「大事なこと?」

「うん。今ここに来てもらってるメレオロンの話。

 ……あんまり大きな声じゃ言えないんだけどな。実は──」

 

 

 

「んー……

 なんつーか、拍子抜けだったな」

「ていうかさぁ。アレじゃアタシほとんど見世物じゃない。

 面白くないんだけど?」

「アイツラはクッソ面白がってたけどな。

 そのうち飽きるだろうから、ガマンしろ」

「やだなー……」

 

 存外短く話を終えて、四人部屋へ戻る廊下の道中。俺達はぼんやり駄弁っていた。

 そこまで離れてるわけでもないので、すぐ部屋の前まで戻ってくる。が、

 

 

 

『いたっ、いたい!』

 

『あっ、だいじょうぶですか?』

 

『うぅん……もうちょっとやさしくして』

 

『はいはい……どうです? これくらいですか?』

 

『あー、あー……うん。ちょうどいいかんじ。すっごいきもちいい……』

 

『ふふ、そうですか』

 

 

 

 戸の向こうから聞こえてきた話し声に、俺とメレオロンは顔を見合わせる。

 

 ポンと俺の肩に手を置くメレオロン。口をつぐんでるから、【神の共犯者】発動中か。

 

 そこまでするか? と思いつつ、メレオロンに合わせて部屋の前から一旦退避。

 

「──ぷはっ! ねぇねぇ! アレどう思う?」

「どうって……

 どうなんだろな」

「なにその反応! もしかしてあの子達……!」

「んなワケねーだろ。

 さっさと中入って確かめたら分かるじゃないか」

「そんなワケだったらどうすんのよ!」

「うーん……」

 

 こいつの脳内妄想に付き合うのはマジで疲れるが、可能性だけで言えばゼロじゃない。けど……

 

「お前だって、九割九分違うことくらい分かってるだろ?

 その変態思考、どうにかならんのか」

「いや、ちょっと言わせてよ!

 あの子、今朝もあんな感じだったのよ!」

「……あの子って、アイシャの方か?」

「そうよ! なんかアンタと布団の中でごそごそして!

 アタシをどうこう言いたいのは分かるけど、あの子も誤解を招くようなことしすぎじゃないのっ!?」

 

 うん、まぁ……言いたいことは分からんでもない。が、

 

「でも、さっき聞こえてた感じだと、むしろシームの方が──」

「だから気が気じゃないのよ、アタシは!」

 

 このブラコンめ。口が裂けても言わんけど。

 

「なら、もうちょっと様子見るか?

 どうせすぐ分かるだろ」

「お、また盗み聞きしたいって?

 アンタもイイ趣味ねー」

 

 腕組みしてうんうん頷きやがる。「テメーいい加減にしろよ」と凄むが、さらりと無視された。代わりに、肩へポンと手を置いてくる。

 

 はぁー……しゃあねぇな。

 

 気配を殺す必要もないので、メレオロンと一緒に堂々と部屋の前へ。

 

 

 

『アイシャ、やわらかいねー……』

 

『ふふ、ウラヌスにはかないませんけどね。あ、もうちょっとまえに……』

 

『こう? これくらい?』

 

『ええ、ちょうどいいです。そのままじっとしててくださいね……』

 

『うーん♥』

 

『あ、あんまりうごかずに。くすぐったいです……』

 

『こちょこちょー♥』

 

『あっ。もう……』

 

 

 

 俺とメレオロンは顔を見合わせる。再び部屋の前から退避。

 

「──ぷはぁっ! はぁ、はぁ、はぁ……

 あのさぁ……あの2人さぁ。

 

 やっっったら、エロくない?」

 

「うーん……」

 

 否定はせんが……俺も声だけ聞いてるぶんにはドキドキするし。盗み聞きしてるせいもあるだろうけど……

 

「なによ。なんだかんだ言って、アンタも顔赤いじゃないの」

「うるせーよ。

 ……もういいじゃん、入んなきゃ分かんないなら入ろうぜ。

 どうせ違うって」

「だから、違わなかったらどうすんのよ!」

 

 そりゃオマエ。……どうにもなるかよ。んなもん知るか。

 

「でもさ、でもさ!

 イチャイチャしてるのだけは確実でしょ?」

「……まぁな」

「じゃあ、なんかしてるのは確実じゃない!」

 

 その理屈は合ってる。が……

 

「いやぁ……それでもお前の想像するようなことはしてないと思うぞ?」

「じゃあ、なにしてるって言うのよ!

 アンタあの会話から、なに想像するのッ!?」

「えぇ? そりゃ……たとえば……」

「たとえば? なによ」

「……

 膝枕しながら、耳掃除……とか?」

「はぁぁぁ? なにそれ!

 根性無し!」

「誰が根性無しだコラ。

 つか、なにそれじゃねーよ。じゃあオマエはなんだと思うんだ」

「そ、そりゃアンタ……

 

 密室で男女が、2人きりでイチャイチャって言えば……<ピー>でしょ」

 

「ピーじゃねぇよブッ殺すぞ」

「えぇー……

 ピーって言っただけじゃない。<ピー>に好きな言葉を入れてね♪」

「うすらやかましいわ」

 

 ゲラゲラ下品に笑う変態を無視して、部屋へ近づく。そもそも鍵も掛かってない部屋を、密室って言わねーよ。

 

「いや、アンタもさ。

 あの2人がへんなことしてたら、気が気じゃないんじゃない?」

 

 ……どういう意味だよ、ったく。

 

 言葉を返さず、戸をやや強くノックする。

 

「2人とも、入っていい?」

「あ……はい。どうぞ」

 

 戸惑うようなアイシャの声が返ってきたので、若干躊躇した後、開く。

 

 ────シームは、アイシャに膝枕されていた。アイシャは耳かきを手にしている。

 

「ほれ、見ろ」

「えぇぇー。つまんなーい」

「つまんないじゃねぇよ、このくそバカたれ」

「何の話です?」

「なんでもないよ。例のメレオロンの件は、いったん片付いたから」

「ずいぶん早かったですね。

 もう少し長引くかと思ってましたが」

「アイシャー、早く続きぃ」

「はいはい」

 

 仕方ないなぁという苦笑を浮かべて、耳掃除を再開するアイシャ。メレオロンはなぜか怪訝そうにしてる。

 

「なんだ、まだ不満なのか?」

「……いや、だってさぁ」

 

 メレオロンがアゴで差す。……ちょっと言いたいことは分かる。

 

 正座を崩すアイシャの太ももに、シームは横から頭を乗せて寝ていた。まぁそこまではいい。

 顔はアイシャの腹の方を向いてて、しかもかなり近いんだよな。……俺だったら、目のやり場にかなり困る。いつもの運動服じゃなくて浴衣だし。

 

「やっぱりイチャイチャしてたじゃない」

「俺も、それは否定してなかっただろ」

「なんですか、イチャイチャって。

 シームの耳掃除してあげてるだけじゃないですか」

 

 アイシャの認識はそうかもしれないけど、シームはどうだかな。完全に甘えモードだし。つか、耳掃除なら膝枕する必要ないと思う。

 

「昔、こうやって母さんによく耳掃除してもらってたんですよ。

 それでやってみたくなって」

 

 シームの髪を撫でながら、そう言ってくるアイシャ。……なるほどね。

 

 

 

 

 

「そうでしたか……

 お2人とも理解があって良かったですね」

「よくないわよ!

 アタシ、珍しい珍しいって珍獣扱いされてイヤだったんだから!」

「実際そうだろ」

「ちょっと!」

「冗談だよ。

 ただ、メレオロンとシームの関係を説明しそびれたんだよな」

「そこだけが懸念ですね」

 

 夫婦への説明はこんな感じだったらしい。

 

 まず、メレオロンのことを人語の分かる魔獣だと紹介して、顔を見せ。

 新種の魔獣であり、人を害するつもりは一切ないが、心無いハンターに住処を追われて姿を隠していると説明。

 顔を整形して人間のフリをする為、マッド博士の整形マシーンを求めていると伝えた。

 

 それを説明するのは簡単だったけど、その後の質問攻めが面倒だったらしい。

 

 ベルさんが興味津々なのは予想できた。ところがモタリケさんまで、かなり前のめりに関心を示したらしく、しっぽを見せた時の2人の興奮ったらなかったそうだ。

 

「お2人とも多くの美術品に触れてるでしょうから、珍しい物に目がなかったんですね」

「魔獣をナマで見たのは初めてとか、はしゃぎまくってたな」

「動物園じゃないんだから……

 ホンット勘弁してほしかったわ」

「ご苦労様です」

 

 ぐったりするメレオロンを労っておく。今朝の騒動の直後だしな。気疲れもするだろう。

 

「シームとの関係を説明しようとしたら、事情があるのは分かったから詳しく聞かないでおくって言われちまったからな。

 そんな状態で無理に説明したら、かえって勘繰られそうだったから話せなかったよ」

「それが賢明だと思います」

 

 不要と言ってるのにわざわざ事情説明なんてしたら、用意していたウソを語ってるだけだと見破れるかもしれないもんね。説明するにしても、機会を改めた方がいいだろう。

 

「……で。シームはいつまでそうしてんのよ?」

「えぇ?」

 

 姉の不機嫌な声に、動揺する弟。シームの耳掃除は終わってるんだけど、もうちょっとだけーとねだられて膝枕したままだったりする。

 

「あんまり甘やかしちゃダメよ。

 家族でも恋人でもないんだから」

「そうですねぇ……」

「えー」

「大体、枕ならこっちにもあるでしょうが」

「だれ指差してんだコラ」

「ウラヌスひざまくらしてー」

「やだ!」

 

 で、そういうこと言っちゃうと、私の膝枕が続いちゃうと。ちょっと困るな。

 

「ほら、いつまでもそうしてたらコタツにも入れないでしょうが。

 アイシャだって寒いでしょうに」

「あははー……脚は暖かいですけどね」

「うーん。分かった……

 アイシャ、ありがと♪」

「どういたしまして」

 

 膝枕を終えて、私とシームはそそくさとコタツへ入る。

 

 そもそも見られるつもりはなかったんだよな。夫婦への説明が手間取るだろうと思って、待つ間に耳掃除を終わらせるつもりだったし。途中でやめるわけにもいかなかったから、ちょっと恥ずかしい……

 

「あっ、話終わったんだよね。いつ出発するの?」

 

 シームが尋ねる。えーと、確か……

 

「お昼はこの街でお鍋いただくんでしたよね?」

「うん、そのつもり。

 だから……昼ぐらいに宿を発って、メシ食ってアントキバかな」

「まだ結構時間あるわね。

 食べてからはドタバタするけど」

「順番変えられないしな。

 食休みは、モタリケん(ち )でさせてもらえばいいと思う。アイツラも準備あるだろうし。

 いずれにしても、出発まではのんびりだね」

 

 今まだ9時半過ぎだもんな。昼前にここを出るとしても、2時間ぐらい空いてるか。

 

「──あっ! しまったぁ、忘れてた……」

「どうかしました?」

 

 ウラヌスがピンと背筋を伸ばして、目を見開く。力が抜けたように身体をくねり、

 

「温泉……

 もう1回入ろうって、あいつらに言うの忘れてた……」

「あ」

 

 そうだった。私もすっかり忘れてたよ。

 

「……アタシ、イヤだから黙ってたのに」

「おぉい。俺だってイヤだけど、それはダメだろ」

「ちぇー。

 ……アタシ達だけで入っちゃえば?」

「いやいや。

 温泉に俺達だけでまた入ったって、後でバレたら気まずいだろ。

 ヘタしたらアイツラも入ろうとしてた場合、鉢合わせになる」

「ちゃんとお誘いすべきだと思いますよ?

 ちょっとした誤解がきっかけで、私達も朝から色々あったわけですし」

「じゃあ、アタシだけ入るの遠慮しよっかなぁ……」

「避けてるのバレバレじゃないか。

 それじゃ、さっきしてきた話の意味がないだろ。

 そもそも温泉に誘うのは、あいつらと親交を深める為だって分かってるか?」

「トホホー……」

 

 しなびるメレオロン。仕方ないよ、そうじゃないと何の為に正体明かしたんだか。

 

「まぁアイツラが過剰反応しまくったせいで忘れてたし、しゃーない。

 アイツラに伝えてくるよ」

「お昼にお鍋食べる件は伝えました?」

「うん、そっちは伝えた。

 なんか忘れてるような気はしたんだけど、そこで思い出せなくて」

 

 言って、ウラヌスは部屋を出て行った。

 

「ところでメレオロン。

 さっきウラヌスと、部屋の前をうろうろしてませんでした?」

「げっ!?

 ……なんで分かったの?」

「やっぱり。

 だって、離れたところで気配が消えたり現れたりしてましたし。

 耳掃除に集中してたんで、気のせいかなーとは思ったんですけど」

「うへぇー。

 ……あ、ううん。大したことじゃないわよ」

「?」

 

 

 

 

 

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