「待ってたわよー♪」
「お待たせしてすいません」
「……」
脱衣所で待っていたらしく、ベルさんが元気に声をかけてきた。私も早く来たかったんだけど、メレオロンが往生際悪くグズグズして、連れてくるのに手間取ってしまった。
先ほどウラヌスが2人に、一緒に温泉へ入ろうと提案したところ、ベルさんは予想通り喜んでオッケー、モタリケさんはむしろ『いいのか?』と問い返したらしい。
ウラヌスがどう返答したかはさておき、早速脱衣所へ集合することに。心の準備がどうとかメレオロンがごちゃごちゃ言うのを、私が無理やり引っ張ってきた次第だ。
「冷えちゃうし、すぐ入りましょ♪」
ツインテールにしていたヘアアクセを外し、金髪を下ろすベルさん。年齢のことを別にすれば、美人さんなんだよな。なんでモタリケさんと結婚したのか分かんないぐらいには。
まぁ年齢どうこうは私が言えた義理じゃないし、2人が釣り合うだのどうだのなんて、それこそ私には言えないけど……うーん。でも謎だ。
ためらいなく、すぐ脱ぎ終えてしまうベルさん。身体を隠しもせず、私達が脱ぎ終わるのを待ってる。……えっと。
「先入ってていいですよ?」
「それだと、待ってた甲斐がないしー。
一緒に入りましょうよ♪」
うぅ。見られながら脱ぐのは恥ずかしいんだよな。そういうの、慣れないんだってば。メレオロンも私の方見てるし……やだやだ。もうヘアゴムは外し終えてるので、渋々帯をほどいて浴衣を脱ぐ。スポーツブラを外し、下着を──
「ぅーわ!
……大きい大きいとは思ってたけど」
「な、なんですか?」
「カタチいいわねぇ……。ずるい羨ましい、さわりたーい♪」
「やめてくださいぃー」
慌てて腕で隠す。そんなマジマジ見ないでよー。特に胸は嫌なんだってば。……たとえ同性でも! みんなじろじろ見すぎなんだよ。
「うわ!
……いや、ごめん。でも、あなたもスゴイわねぇ……」
逸れたベルさんの視線を追うと、メレオロンも脱ぎ終えて全身を晒していた。
改めて見ると、人間離れしてるってよく分かるよ。……NGLで、散々キメラアントを殺めた経験から言えば、メレオロンの身体はかなり人体に近い。それでも特徴的な関節、なにより大きなシッポは人体から逸脱している。皮膚の質感もかなり違う。骨格は当然、おそらく内臓もだろう。だとしても、まだかなり人体に近い方なんだよね……多種多様なキメラアントの中では。
メレオロンは、複雑な表情で私達をしばらく見返した後、
「……アタシは、人間の身体の方が羨ましくて仕方ないけど」
「あ、うん。わたしもこの子の身体だったら、羨ましいと思うな♪
モリーが絵に残したいっていう気持ちも分かるわぁ」
ちょっと待て。私の身体をダシにするな。
「でも、あなたも芸術的な身体してるわよ?
いいなー」
「……そんなんで剥製にでもされちゃたまんないわ」
「あああ、違う違う!
そんなつもりじゃなくて!」
「冗談よ。気にしないで」
笑えない冗談だな……想像したくもない。私、メレオロンが剥製になんてされてたら、どんだけ泣くか分かんないよ。
機嫌よくスタスタ歩いていき、シッポをゆるりと動かしてみせるメレオロン。
「風邪引いちゃうから、早く入りましょ」
「うんうん」
「……」
意外にもメレオロン、主導権握ってる。……その方が彼女らしいな。割り切れたのなら、私としても安心だ。
「念能力でこんな感じになったみたいで……」
「ああー……
そんなこともあるんだなぁ。気の毒に……」
シームの手足に生える鱗を見て、心底気の毒そうにつぶやくモタリケ。その隙に、俺は素早く脱衣してタオルを巻く。
「ん? もう脱いだのか」
「ほら、さっさと入るぞ」
「ちょっと待て、オレもすぐ脱ぐ」
言って浴衣を脱ぐと、見事に
「オマエ、もうちょっと引き締めろよ……」
「昔はまだマシだったんだけどな。
……でも、お前にはあんまり言われたくねーよ」
「うるせぇ!
俺のは体質だ、仕方ねぇんだよ! つか見んな!」
「イヤ、お前もオレの裸見てるじゃないか」
「見せんなッ!!
いいから腰にタオルぐらい巻け、この変態!」
「なんで変態呼ばわりされなきゃいけないんだよ……
お前だって下着穿いてないだろ。ヒトのこと──」
「うわぁぁぁっ!!
てめぇ、着替え見てたのかっ!?」
「……いや、お前。
普段のワンピースで、下着の線が出てなかったからだよ。やけに尻もツルッとしてるし、アイツ穿いてないんじゃないかって、ベルと──」
「きゃあーッッ!!」
乾いた笑いを浮かべるシーム。まるで混浴に入る時のようなドタバタぶりだ。
雪のチラつく中、3人で湯船に浸かって息を吐く。
「あぁー……! いいお湯ー♪
何度入っても、露天温泉って最高だわぁー♪」
「そうですねぇ……
スノーフレイに来てから何度も入ってますけど、全然飽きませんね」
「アイシャも温泉好きなんだ?」
「温泉というか、元々お風呂好きでして。
最低でも1日1回は入るようにしてます」
「へぇー♪ 髪の毛とかスゴイ手入れしてるもんね。
そちらさんは?」
「……元々はそんなじゃなかったけど、楽しいお風呂の入り方が分かってからは結構好きかな」
「え、なにそれなにそれ?」
「たとえば、こういう子をからかったり」
「ちょっと、やめてくださいよ」
「アイシャはイジリ甲斐あるわよね♪」
「異常にハズカシがりだから、言葉責めするだけでも楽しいわ」
「わかるー♪」
うぉぉ、やめろそんな意気投合するの!
「2人はウラヌスとも混浴したんでしょ?
どうだった、どうだった?」
「そりゃ最高だったわよ。
何がいいって、アイシャと2人でイチャイチャ見せ付けてくれちゃってさ」
「えぇー!?
なになに2人ともなにしてたのっ!?」
「ちょっと、メレオロン!
誤解を招くようなこと言わないでください!」
「あらー? 誤解だっけぇ?
嫌がるウラヌスをじっくり丁寧に洗ってあげたのは、どちら様でしたっけぇ?」
「キャアァーッ♪」
「メレオロンッッ!!」
私が洗ったのは髪だよッ!! こいつワザと省いて言いやがったッ!!
「ウラヌスは?
ウラヌスはこの子になんかしたの?」
「そうねぇ……
でも残念。アイツ根性なしだからなぁー」
「あー。
やっぱりそうかぁ……残念ねぇ」
なにが残念なんだ。そしてメレオロンも根性なしとか言うなや。
「でもその分、この子が積極的でダイタンなのよね。
何度も混浴に入ろうって迫ったり、ついには夜中に2人っきりで混浴に……」
「うっひゃあぁーッ♪」
「──メレオロォォォンッッッ!!」
じ、事実だけど事実だけど、そんな言い方すんなぁぁぁぁぁッッッ!!
「……なんかすっごい声聴こえてくるね」
「あいつら騒ぎすぎだろ……」
「……」
その気がなくても、微妙に内容まで聞こえてくるからヤメテほしいんだよな……。概ね騒いでるのはベルだけど、アイシャの声もハンパなく届いてる。
聞いてるだけで恥ずかしくなり、湯船に頭まで沈めたくなる。
「ウラヌス、こっちも対抗して騒いでみる?」
「シーム、意味分かんねぇから」
「楽しそうだけどなぁ。
……オレのことなんて気にせず、楽しんでくれていいぞ」
「オマエがいんのに楽しめるか、くそ」
「ウラヌス、もうちょっと遠慮して言おうよ……」
「やだ。
……モタリケ、オマエ俺のことガン見しすぎだぞ。身体とか髪洗ってる時、思いっきり視線感じたんだけど」
「別に男同士だからいいだろ」
「それがガン見していい理由になるか」
「ウラヌス、どう見ても女の子みたいだもんね」
「そうだなぁ。
いや、画家のはしくれとしては、これだけのモチーフを見ると創作意欲が湧いて──」
「やめろや、気持ち悪いッ!!」
「ウラヌス……」
「あぁー、もうっ!
モデルなんて引き受けなきゃよかった!」
「でも、あの絵のウラヌスすっごく可愛かったけど?
そんなにダメかなぁ?」
「照れてるのがいいんだよな。
こいつ口悪いけど、ものすごい恥ずかしがり屋だろ?
それをどう表現するかが悩ましくて」
「あーうん、分かる分かる」
「ぉぉぉぉぉぉ、ャメロォォー……!」
「アッハハハ。
今のウラヌスもすっごく可愛いよね♪」
「黙ってさえいれば、絶世の美少女なのにな。もったいない」
「モタリケ貴様ぁぁぁぁッ!!」
売店近くのテーブルにて。
テーブルに突っ伏して、私は頭からプスプス煙を上げていた。ハズイはずい恥ずい……
ムカツクぐらい元気になったメレオロンは、愉快そうに女湯での出来事を語ってる。
「やっぱ裸の付き合いって大事ねー。
話しててスッゴイ楽しかったわ」
「そうよねー♪ 今まで全然話してなくて、ソンしちゃった♪」
「まぁメレオロンとベルは、気が合いそうだもんな……
アイシャ、だいじょうぶ……?」
「……だいじょうぶなんかじゃないです……
私のフォローなんて、必要なかったですよ……」
「いやーねぇ。そんなわけないじゃない。
アンタが一緒に入ってくれたから、話題に事欠かなかったのよ?
これで今後の付き合いがよりスムーズになったと思えば、万々歳じゃない」
「そうそう♪」
……言いたいことは分かる。けど、それと私が生き恥かかされたのを天秤にかけんな。
私と同席するメレオロンとベルさんがきゃっきゃしてるのを、ムカムカしながらも力が入らず聞いてるだけの有様だ。腹立たしい……
「ゴメンな、アイシャ……俺が無神経だったばっかりに……
今日のお昼は、遠慮なく好きなモン頼んでいいから……」
「それは言われなくてもそのつもりです……」
食い意地張ってると思われようがなんだろうが、このストレスは食で発散させてもらう。絶対にだ!
「メレオロン、オマエは罰として昼食の追加オーダー無しな……
デザートもオマエだけ無し……」
「えぇー。なにそれー」
「当たり前だろうが……
アイシャにソンさせといて、のうのうと同じ扱い受けられると思うなよ……
オマエ、今日調子こいてムチャしすぎだぞ……」
「ちぇっ。はーい」
「おねーちゃんのその性格、絶対直した方がいいと思う」
私もそう思う……
……ところで。
「あなたもずいぶんヘバってるようですけど……大丈夫ですか?」
私と同じような体勢で、隣のテーブルに突っ伏すウラヌス。そちらはシームとモタリケさんが同席してる。
「……だいじょうぶなんかじゃないやい」
「風呂場のこと思い出して、茹でダコみたくなってるな」
「楽しかったね♪」
「2人とも何したの?
モリー、ウラヌスにエッチなことでもした?」
「しねーよ!
……ただ、モデルとして観察してたらコイツ照れまくってさ」
「ウラヌスのこと可愛い可愛いって言ってたら、こんなんなっちゃって」
「ああー♪
それ、わたしも見てみたかったわぁ♪ いいなぁ」
「なに恍惚としてるんだ、よだれ拭け。
オレは純粋に絵のモチーフとして、一芸術家として真剣にだな」
「コロスころす殺す……」
……うん、分かる。わかるよウラヌス。
「いや、照れ隠しで邪険にするなよ。
不真面目に言ってるわけじゃなくて、本気の本気で言ってるんだぞ?
またオマエのことを描きたいって」
「うるせぇブッコロ」
うん……モタリケさん、それ逆効果だからね? 口説いてるようにしか聴こえないもん。ベルさんもちょっとムスッとしてるよ?
弱体化していたものの、コタツでぬくぬくして、なんとか私もウラヌスも持ち直し。
お昼前になったので荷物をまとめ、旅館『古都の余韻』を後にした。
そこそこに積もった雪道をざくざく歩く私達。……これでこの雪道も歩き納めか。結構滞在してたもんな。そう思うと感慨深いものがある。
「ウラヌス、またこの街って来るの?」
「んー……そうだな。
釣りが中途半端だから、またそのうち来るよ」
「あ、だったらその時も誘ってほしーなぁ♪」
「おおぃ。今回かなり出費してんだぞ?
……まぁ気が向いたらな」
甘いよねぇ、ウラヌスって。こっちを見てきたシームと目を合わせ、私達は苦笑した。
ぐつぐつぐつぐつ……
ようやく待ちに待った昼食だ。今日も鮭鍋かなと思っていたら、前にすき焼き鍋を注文したお店で食べることになった。どんなに美味しくても、連続だと飽きちゃうもんね。
牛肉の煮える甘い香り、沸き立つ味噌と醤油の香ばしさ、ネギや春菊の青い薫りが……ええい、まだか!
ちなみにこのお座敷には、6人が勢ぞろいしている。すき焼きを6人でつつこうというプランをウラヌスが提示して、全員了承した。鮭鍋だと追加注文しにくいと言われれば、私も頷かざるを得ない。遠慮なく食べたいからね。
「ところで鍋奉行、いつですか? まだですか? いまですよね?」
「アッハハハ♪」
「だーから、誰が鍋奉行やねん。
量たくさん入れたからまだ煮えてない具材もあるけど、鍋の中央辺りからなら食べてもいいよ」
「それじゃ早速食べましょうよ。
こんな大勢でお鍋つつくなんて最高だわー♪」
「ん。じゃあ食べ始めよう」
『いただきまーす』
「あーうま……ホントに美味ェ……」
「オマエ、さっきからそればっかだな」
「いい肉すぎるだろ、これ。旨ぁ……
まぁこんな贅沢続けてたら、後が怖いんだけどな。
お前ら、普段からこんな良いもん食ってるの?」
「危ない橋キッチリ渡ってるからな。
コツコツ働いてるオマエが、高望みしたってダメだよ」
「はぁー……」
「あんま辛気臭い顔すんなよ。今は今、ちゃんと楽しめ」
背を丸めたモタリケさんの背中を、ぽんぽん叩くウラヌス。
「あなた達、見事に対比よねぇ。
シーム君はお野菜取らないし、メレオロンはお野菜よく取ってるし」
「もっと言ってやってよ。
この子、野菜あんまり食べないのよ」
「えぇー。これでも食べてるよ……」
「そう? あんまりネギとか取ってないみたいだけど」
「ほぉら、だからもうちょっと食べなさいってば」
「ぅー……」
「メレオロンも、もっとお肉食べなさいよ。
栄養偏ってたら、シーム君のこと言えないわよ?」
「う、うん」
「でも、よくその手でお箸器用に使うわねー。
わたし、それにビックリしたんだけど」
「結構苦労してるのよ、これが……」
そんなやりとりを脇に、私はもりもり食べる。肉・卵・米! 肉・卵・米!
時折りチラッと夫婦が私の方に視線を向けるけど、何も言ってこない。知らん知らん。今の私は食でストレスを発散するマシーンなのだ。……できれば後で修行したいけど。
うどんを景気良く卵に浸けて掻き混ぜ、音を立てて啜ってやる。んーぅ、美味い!
ウラヌスが鍋にテキパキ食材を追加しながら、
「あー、アイシャ。
追加オーダー早めに出したら? 焼く時間、待ちになっちゃうし」
「あ、はい……」
……私、飛ばしすぎ? ま、いいや。なに頼も。
お豆腐をフーフーし、一口で頬張る。んー♪ 味が染みてますなぁ。
「そういえば、こういう料理ってドコが発祥なのかしらね?」
ベルさんがうどんをすすった後、誰にともなく尋ねる。私がウラヌスにちらりと視線をやると、彼は軽く首を傾げながら、
「ジャポンって説もあるし、別にどこ起源でもない自然発生って話も聞くな。
いかにもジャポン食っぽい料理ではあるけど」
「ゴハンに合いますもんね」
「あの国は、白米に合う料理なら何でも作っちゃうからね。
それでも生魚や海藻を口にする食文化は、主にジャポンで見られるもんだけど」
「生魚ねぇ。お腹壊さないの?」
「海魚の一部は生食に耐えるけど、独特の臭みがあるし、腹も壊しやすいかな。慣れれば旨いんだけど。
基本的に火を通した方がいいのは間違いないよ」
「でも、お刺身は美味しいですよね」
「何の刺身かにもよるけど、そうだね。
ただ最近は海洋汚染が進んでるみたいだから、気をつけた方がいいけど」
「ふぅん」
ベルさんがそう言った後、シームはウラヌスを見て、
「今は普通に食べてるけど、生の卵ってあんまり食べないよね?」
「あ、言われてみれば」
不思議そうにベルさんが反応すると、ウラヌスは少し考える素振りを見せ、
「安全な生卵を提供できるところが少ないんだよ。
基本的に卵は菌が繁殖しやすくて、火を通した方が安全だから。
けど、きちんと衛生管理されてる卵を、新鮮なうちに食べる分には問題ない。
ジャポンだと、ゴハンに生卵かけて食べるとか普通だしな」
「へー!
それって美味しいの?」
「単なる手抜き料理だから、ほどほどだよ。他に何にもなしじゃ、逆にマズイし。
最低でも醤油は欲しいかな」
「やってみせましょうか?」
言って私は、ゴハンの上に卵をかけ、すき焼きの煮汁もかけた後、混ぜ合わせる。
ついでにすき焼きの具材をゴハンに乗せて、勢いよく掻きこむ。んー、美味しい♪
「……それ、ほとんど雑炊じゃない?」
「旨いに決まってるんだよなぁ」
夫婦からのツッコミに『んがっぐっぐ』しかける。くっ、バレたか。
「まぁ、卵かけゴハンってこういうノリだよ。
適当にあるもん乗っけて、パッと腹満たせりゃ何でもいいんだよ」
ウラヌスが、さらっとシメた。
「あー……食った、食ったぁ……」
そう言って伸びをするモタリケさん。デザートまでたいらげ、実に満足げだ。……私もこっそりお腹を撫でる。
「あーあ。みんなズルイんだから」
「しゃーねーだろ。
つか、今朝から引っ掻き回してる張本人なんだから、ちったぁ反省しろ」
「はーい」
野菜を充分食べられず、デザートも無しなメレオロンが逆に不満げだ。だが同情しない。ホント反省しろい。……けぷ。
「にしても、あなた
ムチャクチャ食べる人は見たことあるけど、女の子でそこまでは初めて見たわ」
「その身体のどこに入ったんだろな……」
「モリー。そういうのは失礼よ」
「う、うん……すまん」
「あー、いえいえ。……そういうことは言われ慣れてるんで」
この夫婦の前でこれだけ食べるの見せたことないもんな。こういう反応も仕方ない。
「さて、ドリアスではどうするつもりなの?」
ベルさんが尋ねてくるのに対し、ウラヌスは手で制止する。
「行く前に相談するけど、ここではやめとこ。
冬用の荷物を預けに2人の家へ寄らせてもらうから、そこで相談したい。いいか?」
「うん、全然OKよ。私達も準備しなきゃだし。
モリーのコーヒーもひさしぶりに飲みたいもん♪」
「久しぶりって、昨日も飲んだろ」
「細かいことはいいのよ。
みんなにも振る舞ってあげて♪」
「はいはい」
「じゃあ、もう帰っちゃう?」
「俺達的には、帰るって感じじゃないけどな。
どうする、みんな? もうアントキバ行く?」
「私は構いませんよ」
「ぼくもいいよ」
「アタシも問題ないわ」
「だって。
じゃあ、とっとと精算すませて、アントキバ行くか。……はぁ」
「なに、その溜息?」
「予算管理、俺。
お支払い、今から。……はぁ」
すぃーと視線を逸らしておく。知らん知らん。済んだことは仕方ないからな、うん。
レジの女性NPCが、笑顔で会計を読み上げる。
「すき焼き鍋6人前、牛肉の追加3人前、具材ミックスの追加3人前、ソフトドリンクの飲み放題が6人前、デザートが5人前で、しめて39500ジェニーになります♪」
「ぅぉぉ……!」
「アッハハハハ♪
流石に6人分だと大出費ねぇ。ごちそうさま♪」
「手持ちが一気に半分だよ。昼飯なんかでこんな……
とほほー……」
アーアーキコエナイ!
お店の外に出て、互いに顔を見合わせる。
……この雪景色ともしばらくお別れか。四季の街はどこも面白かったな。純粋に観光でなら、何度か来てみたいかも。……まぁソルロンドで水着だけはお断りだ。アレはない。
「ブック。
じゃ、みんな行くよ。
──『同行/アカンパニー』オン。アントキバ」
浮遊感。銀色の世界が、あっという間に眼下から遠ざかっていった。