どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百五十一章

 

「待ってたわよー♪」

「お待たせしてすいません」

「……」

 

 脱衣所で待っていたらしく、ベルさんが元気に声をかけてきた。私も早く来たかったんだけど、メレオロンが往生際悪くグズグズして、連れてくるのに手間取ってしまった。

 

 先ほどウラヌスが2人に、一緒に温泉へ入ろうと提案したところ、ベルさんは予想通り喜んでオッケー、モタリケさんはむしろ『いいのか?』と問い返したらしい。

 ウラヌスがどう返答したかはさておき、早速脱衣所へ集合することに。心の準備がどうとかメレオロンがごちゃごちゃ言うのを、私が無理やり引っ張ってきた次第だ。

 

「冷えちゃうし、すぐ入りましょ♪」

 

 ツインテールにしていたヘアアクセを外し、金髪を下ろすベルさん。年齢のことを別にすれば、美人さんなんだよな。なんでモタリケさんと結婚したのか分かんないぐらいには。

 まぁ年齢どうこうは私が言えた義理じゃないし、2人が釣り合うだのどうだのなんて、それこそ私には言えないけど……うーん。でも謎だ。

 

 ためらいなく、すぐ脱ぎ終えてしまうベルさん。身体を隠しもせず、私達が脱ぎ終わるのを待ってる。……えっと。

 

「先入ってていいですよ?」

「それだと、待ってた甲斐がないしー。

 一緒に入りましょうよ♪」

 

 うぅ。見られながら脱ぐのは恥ずかしいんだよな。そういうの、慣れないんだってば。メレオロンも私の方見てるし……やだやだ。もうヘアゴムは外し終えてるので、渋々帯をほどいて浴衣を脱ぐ。スポーツブラを外し、下着を──

 

「ぅーわ!

 ……大きい大きいとは思ってたけど」

「な、なんですか?」

「カタチいいわねぇ……。ずるい羨ましい、さわりたーい♪」

「やめてくださいぃー」

 

 慌てて腕で隠す。そんなマジマジ見ないでよー。特に胸は嫌なんだってば。……たとえ同性でも! みんなじろじろ見すぎなんだよ。

 

「うわ!

 ……いや、ごめん。でも、あなたもスゴイわねぇ……」

 

 逸れたベルさんの視線を追うと、メレオロンも脱ぎ終えて全身を晒していた。

 

 改めて見ると、人間離れしてるってよく分かるよ。……NGLで、散々キメラアントを殺めた経験から言えば、メレオロンの身体はかなり人体に近い。それでも特徴的な関節、なにより大きなシッポは人体から逸脱している。皮膚の質感もかなり違う。骨格は当然、おそらく内臓もだろう。だとしても、まだかなり人体に近い方なんだよね……多種多様なキメラアントの中では。

 

 メレオロンは、複雑な表情で私達をしばらく見返した後、

 

「……アタシは、人間の身体の方が羨ましくて仕方ないけど」

「あ、うん。わたしもこの子の身体だったら、羨ましいと思うな♪

 モリーが絵に残したいっていう気持ちも分かるわぁ」

 

 ちょっと待て。私の身体をダシにするな。

 

「でも、あなたも芸術的な身体してるわよ?

 いいなー」

「……そんなんで剥製にでもされちゃたまんないわ」

「あああ、違う違う!

 そんなつもりじゃなくて!」

「冗談よ。気にしないで」

 

 笑えない冗談だな……想像したくもない。私、メレオロンが剥製になんてされてたら、どんだけ泣くか分かんないよ。

 機嫌よくスタスタ歩いていき、シッポをゆるりと動かしてみせるメレオロン。

 

「風邪引いちゃうから、早く入りましょ」

「うんうん」

「……」

 

 意外にもメレオロン、主導権握ってる。……その方が彼女らしいな。割り切れたのなら、私としても安心だ。

 

 

 

 

 

「念能力でこんな感じになったみたいで……」

「ああー……

 そんなこともあるんだなぁ。気の毒に……」

 

 シームの手足に生える鱗を見て、心底気の毒そうにつぶやくモタリケ。その隙に、俺は素早く脱衣してタオルを巻く。

 

「ん? もう脱いだのか」

「ほら、さっさと入るぞ」

「ちょっと待て、オレもすぐ脱ぐ」

 

 言って浴衣を脱ぐと、見事に(たる)んだ身体を晒すモタリケ。あまりに予想通りすぎる残念ボディだ。

 

「オマエ、もうちょっと引き締めろよ……」

「昔はまだマシだったんだけどな。

 ……でも、お前にはあんまり言われたくねーよ」

「うるせぇ!

 俺のは体質だ、仕方ねぇんだよ! つか見んな!」

「イヤ、お前もオレの裸見てるじゃないか」

「見せんなッ!!

 いいから腰にタオルぐらい巻け、この変態!」

「なんで変態呼ばわりされなきゃいけないんだよ……

 お前だって下着穿いてないだろ。ヒトのこと──」

「うわぁぁぁっ!!

 てめぇ、着替え見てたのかっ!?」

「……いや、お前。

 普段のワンピースで、下着の線が出てなかったからだよ。やけに尻もツルッとしてるし、アイツ穿いてないんじゃないかって、ベルと──」

「きゃあーッッ!!」

 

 乾いた笑いを浮かべるシーム。まるで混浴に入る時のようなドタバタぶりだ。

 

 

 

 

 

 雪のチラつく中、3人で湯船に浸かって息を吐く。

 

「あぁー……! いいお湯ー♪

 何度入っても、露天温泉って最高だわぁー♪」

「そうですねぇ……

 スノーフレイに来てから何度も入ってますけど、全然飽きませんね」

「アイシャも温泉好きなんだ?」

「温泉というか、元々お風呂好きでして。

 最低でも1日1回は入るようにしてます」

「へぇー♪ 髪の毛とかスゴイ手入れしてるもんね。

 そちらさんは?」

「……元々はそんなじゃなかったけど、楽しいお風呂の入り方が分かってからは結構好きかな」

「え、なにそれなにそれ?」

「たとえば、こういう子をからかったり」

「ちょっと、やめてくださいよ」

「アイシャはイジリ甲斐あるわよね♪」

「異常にハズカシがりだから、言葉責めするだけでも楽しいわ」

「わかるー♪」

 

 うぉぉ、やめろそんな意気投合するの!

 

「2人はウラヌスとも混浴したんでしょ?

 どうだった、どうだった?」

「そりゃ最高だったわよ。

 何がいいって、アイシャと2人でイチャイチャ見せ付けてくれちゃってさ」

「えぇー!?

 なになに2人ともなにしてたのっ!?」

「ちょっと、メレオロン!

 誤解を招くようなこと言わないでください!」

「あらー? 誤解だっけぇ?

 嫌がるウラヌスをじっくり丁寧に洗ってあげたのは、どちら様でしたっけぇ?」

「キャアァーッ♪」

「メレオロンッッ!!」

 

 私が洗ったのは髪だよッ!! こいつワザと省いて言いやがったッ!!

 

「ウラヌスは?

 ウラヌスはこの子になんかしたの?」

「そうねぇ……

 でも残念。アイツ根性なしだからなぁー」

「あー。

 やっぱりそうかぁ……残念ねぇ」

 

 なにが残念なんだ。そしてメレオロンも根性なしとか言うなや。

 

「でもその分、この子が積極的でダイタンなのよね。

 何度も混浴に入ろうって迫ったり、ついには夜中に2人っきりで混浴に……」

「うっひゃあぁーッ♪」

「──メレオロォォォンッッッ!!」

 

 じ、事実だけど事実だけど、そんな言い方すんなぁぁぁぁぁッッッ!!

 

 

 

 

 

「……なんかすっごい声聴こえてくるね」

「あいつら騒ぎすぎだろ……」

「……」

 

 その気がなくても、微妙に内容まで聞こえてくるからヤメテほしいんだよな……。概ね騒いでるのはベルだけど、アイシャの声もハンパなく届いてる。

 聞いてるだけで恥ずかしくなり、湯船に頭まで沈めたくなる。

 

「ウラヌス、こっちも対抗して騒いでみる?」

「シーム、意味分かんねぇから」

「楽しそうだけどなぁ。

 ……オレのことなんて気にせず、楽しんでくれていいぞ」

「オマエがいんのに楽しめるか、くそ」

「ウラヌス、もうちょっと遠慮して言おうよ……」

「やだ。

 ……モタリケ、オマエ俺のことガン見しすぎだぞ。身体とか髪洗ってる時、思いっきり視線感じたんだけど」

「別に男同士だからいいだろ」

「それがガン見していい理由になるか」

「ウラヌス、どう見ても女の子みたいだもんね」

「そうだなぁ。

 いや、画家のはしくれとしては、これだけのモチーフを見ると創作意欲が湧いて──」

「やめろや、気持ち悪いッ!!」

「ウラヌス……」

「あぁー、もうっ!

 モデルなんて引き受けなきゃよかった!」

「でも、あの絵のウラヌスすっごく可愛かったけど?

 そんなにダメかなぁ?」

「照れてるのがいいんだよな。

 こいつ口悪いけど、ものすごい恥ずかしがり屋だろ?

 それをどう表現するかが悩ましくて」

「あーうん、分かる分かる」

「ぉぉぉぉぉぉ、ャメロォォー……!」

「アッハハハ。

 今のウラヌスもすっごく可愛いよね♪」

「黙ってさえいれば、絶世の美少女なのにな。もったいない」

「モタリケ貴様ぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

 

 

 売店近くのテーブルにて。

 

 テーブルに突っ伏して、私は頭からプスプス煙を上げていた。ハズイはずい恥ずい……

 ムカツクぐらい元気になったメレオロンは、愉快そうに女湯での出来事を語ってる。

 

「やっぱ裸の付き合いって大事ねー。

 話しててスッゴイ楽しかったわ」

「そうよねー♪ 今まで全然話してなくて、ソンしちゃった♪」

「まぁメレオロンとベルは、気が合いそうだもんな……

 アイシャ、だいじょうぶ……?」

「……だいじょうぶなんかじゃないです……

 私のフォローなんて、必要なかったですよ……」

「いやーねぇ。そんなわけないじゃない。

 アンタが一緒に入ってくれたから、話題に事欠かなかったのよ?

 これで今後の付き合いがよりスムーズになったと思えば、万々歳じゃない」

「そうそう♪」

 

 ……言いたいことは分かる。けど、それと私が生き恥かかされたのを天秤にかけんな。

 私と同席するメレオロンとベルさんがきゃっきゃしてるのを、ムカムカしながらも力が入らず聞いてるだけの有様だ。腹立たしい……

 

「ゴメンな、アイシャ……俺が無神経だったばっかりに……

 今日のお昼は、遠慮なく好きなモン頼んでいいから……」

「それは言われなくてもそのつもりです……」

 

 食い意地張ってると思われようがなんだろうが、このストレスは食で発散させてもらう。絶対にだ!

 

「メレオロン、オマエは罰として昼食の追加オーダー無しな……

 デザートもオマエだけ無し……」

「えぇー。なにそれー」

「当たり前だろうが……

 アイシャにソンさせといて、のうのうと同じ扱い受けられると思うなよ……

 オマエ、今日調子こいてムチャしすぎだぞ……」

「ちぇっ。はーい」

「おねーちゃんのその性格、絶対直した方がいいと思う」

 

 私もそう思う……

 

 ……ところで。

 

「あなたもずいぶんヘバってるようですけど……大丈夫ですか?」

 

 私と同じような体勢で、隣のテーブルに突っ伏すウラヌス。そちらはシームとモタリケさんが同席してる。

 

「……だいじょうぶなんかじゃないやい」

「風呂場のこと思い出して、茹でダコみたくなってるな」

「楽しかったね♪」

「2人とも何したの?

 モリー、ウラヌスにエッチなことでもした?」

「しねーよ!

 ……ただ、モデルとして観察してたらコイツ照れまくってさ」

「ウラヌスのこと可愛い可愛いって言ってたら、こんなんなっちゃって」

「ああー♪

 それ、わたしも見てみたかったわぁ♪ いいなぁ」

「なに恍惚としてるんだ、よだれ拭け。

 オレは純粋に絵のモチーフとして、一芸術家として真剣にだな」

「コロスころす殺す……」

 

 ……うん、分かる。わかるよウラヌス。

 

「いや、照れ隠しで邪険にするなよ。

 不真面目に言ってるわけじゃなくて、本気の本気で言ってるんだぞ?

 またオマエのことを描きたいって」

「うるせぇブッコロ」

 

 うん……モタリケさん、それ逆効果だからね? 口説いてるようにしか聴こえないもん。ベルさんもちょっとムスッとしてるよ?

 

 

 

 弱体化していたものの、コタツでぬくぬくして、なんとか私もウラヌスも持ち直し。

 

 お昼前になったので荷物をまとめ、旅館『古都の余韻』を後にした。

 

 そこそこに積もった雪道をざくざく歩く私達。……これでこの雪道も歩き納めか。結構滞在してたもんな。そう思うと感慨深いものがある。

 

「ウラヌス、またこの街って来るの?」

「んー……そうだな。

 釣りが中途半端だから、またそのうち来るよ」

「あ、だったらその時も誘ってほしーなぁ♪」

「おおぃ。今回かなり出費してんだぞ?

 ……まぁ気が向いたらな」

 

 甘いよねぇ、ウラヌスって。こっちを見てきたシームと目を合わせ、私達は苦笑した。

 

 

 

 ぐつぐつぐつぐつ……

 

 ようやく待ちに待った昼食だ。今日も鮭鍋かなと思っていたら、前にすき焼き鍋を注文したお店で食べることになった。どんなに美味しくても、連続だと飽きちゃうもんね。

 

 牛肉の煮える甘い香り、沸き立つ味噌と醤油の香ばしさ、ネギや春菊の青い薫りが……ええい、まだか!

 

 ちなみにこのお座敷には、6人が勢ぞろいしている。すき焼きを6人でつつこうというプランをウラヌスが提示して、全員了承した。鮭鍋だと追加注文しにくいと言われれば、私も頷かざるを得ない。遠慮なく食べたいからね。

 

「ところで鍋奉行、いつですか? まだですか? いまですよね?」

「アッハハハ♪」

「だーから、誰が鍋奉行やねん。

 量たくさん入れたからまだ煮えてない具材もあるけど、鍋の中央辺りからなら食べてもいいよ」

「それじゃ早速食べましょうよ。

 こんな大勢でお鍋つつくなんて最高だわー♪」

「ん。じゃあ食べ始めよう」

『いただきまーす』

 

 

 

「あーうま……ホントに美味ェ……」

「オマエ、さっきからそればっかだな」

「いい肉すぎるだろ、これ。旨ぁ……

 まぁこんな贅沢続けてたら、後が怖いんだけどな。

 お前ら、普段からこんな良いもん食ってるの?」

「危ない橋キッチリ渡ってるからな。

 コツコツ働いてるオマエが、高望みしたってダメだよ」

「はぁー……」

「あんま辛気臭い顔すんなよ。今は今、ちゃんと楽しめ」

 

 背を丸めたモタリケさんの背中を、ぽんぽん叩くウラヌス。

 

「あなた達、見事に対比よねぇ。

 シーム君はお野菜取らないし、メレオロンはお野菜よく取ってるし」

「もっと言ってやってよ。

 この子、野菜あんまり食べないのよ」

「えぇー。これでも食べてるよ……」

「そう? あんまりネギとか取ってないみたいだけど」

「ほぉら、だからもうちょっと食べなさいってば」

「ぅー……」

「メレオロンも、もっとお肉食べなさいよ。

 栄養偏ってたら、シーム君のこと言えないわよ?」

「う、うん」

「でも、よくその手でお箸器用に使うわねー。

 わたし、それにビックリしたんだけど」

「結構苦労してるのよ、これが……」

 

 そんなやりとりを脇に、私はもりもり食べる。肉・卵・米! 肉・卵・米!

 

 時折りチラッと夫婦が私の方に視線を向けるけど、何も言ってこない。知らん知らん。今の私は食でストレスを発散するマシーンなのだ。……できれば後で修行したいけど。

 うどんを景気良く卵に浸けて掻き混ぜ、音を立てて啜ってやる。んーぅ、美味い!

 

 ウラヌスが鍋にテキパキ食材を追加しながら、

 

「あー、アイシャ。

 追加オーダー早めに出したら? 焼く時間、待ちになっちゃうし」

「あ、はい……」

 

 ……私、飛ばしすぎ? ま、いいや。なに頼も。

 

 

 

 お豆腐をフーフーし、一口で頬張る。んー♪ 味が染みてますなぁ。

 

「そういえば、こういう料理ってドコが発祥なのかしらね?」

 

 ベルさんがうどんをすすった後、誰にともなく尋ねる。私がウラヌスにちらりと視線をやると、彼は軽く首を傾げながら、

 

「ジャポンって説もあるし、別にどこ起源でもない自然発生って話も聞くな。

 いかにもジャポン食っぽい料理ではあるけど」

「ゴハンに合いますもんね」

「あの国は、白米に合う料理なら何でも作っちゃうからね。

 それでも生魚や海藻を口にする食文化は、主にジャポンで見られるもんだけど」

「生魚ねぇ。お腹壊さないの?」

「海魚の一部は生食に耐えるけど、独特の臭みがあるし、腹も壊しやすいかな。慣れれば旨いんだけど。

 基本的に火を通した方がいいのは間違いないよ」

「でも、お刺身は美味しいですよね」

「何の刺身かにもよるけど、そうだね。

 ただ最近は海洋汚染が進んでるみたいだから、気をつけた方がいいけど」

「ふぅん」

 

 ベルさんがそう言った後、シームはウラヌスを見て、

 

「今は普通に食べてるけど、生の卵ってあんまり食べないよね?」

「あ、言われてみれば」

 

 不思議そうにベルさんが反応すると、ウラヌスは少し考える素振りを見せ、

 

「安全な生卵を提供できるところが少ないんだよ。

 基本的に卵は菌が繁殖しやすくて、火を通した方が安全だから。

 けど、きちんと衛生管理されてる卵を、新鮮なうちに食べる分には問題ない。

 ジャポンだと、ゴハンに生卵かけて食べるとか普通だしな」

「へー!

 それって美味しいの?」

「単なる手抜き料理だから、ほどほどだよ。他に何にもなしじゃ、逆にマズイし。

 最低でも醤油は欲しいかな」

「やってみせましょうか?」

 

 言って私は、ゴハンの上に卵をかけ、すき焼きの煮汁もかけた後、混ぜ合わせる。

 ついでにすき焼きの具材をゴハンに乗せて、勢いよく掻きこむ。んー、美味しい♪

 

「……それ、ほとんど雑炊じゃない?」

「旨いに決まってるんだよなぁ」

 

 夫婦からのツッコミに『んがっぐっぐ』しかける。くっ、バレたか。

 

「まぁ、卵かけゴハンってこういうノリだよ。

 適当にあるもん乗っけて、パッと腹満たせりゃ何でもいいんだよ」

 

 ウラヌスが、さらっとシメた。

 

 

 

「あー……食った、食ったぁ……」

 

 そう言って伸びをするモタリケさん。デザートまでたいらげ、実に満足げだ。……私もこっそりお腹を撫でる。

 

「あーあ。みんなズルイんだから」

「しゃーねーだろ。

 つか、今朝から引っ掻き回してる張本人なんだから、ちったぁ反省しろ」

「はーい」

 

 野菜を充分食べられず、デザートも無しなメレオロンが逆に不満げだ。だが同情しない。ホント反省しろい。……けぷ。

 

「にしても、あなた健啖家(けんたんか )ねぇ……

 ムチャクチャ食べる人は見たことあるけど、女の子でそこまでは初めて見たわ」

「その身体のどこに入ったんだろな……」

「モリー。そういうのは失礼よ」

「う、うん……すまん」

「あー、いえいえ。……そういうことは言われ慣れてるんで」

 

 この夫婦の前でこれだけ食べるの見せたことないもんな。こういう反応も仕方ない。

 

「さて、ドリアスではどうするつもりなの?」

 

 ベルさんが尋ねてくるのに対し、ウラヌスは手で制止する。

 

「行く前に相談するけど、ここではやめとこ。

 冬用の荷物を預けに2人の家へ寄らせてもらうから、そこで相談したい。いいか?」

「うん、全然OKよ。私達も準備しなきゃだし。

 モリーのコーヒーもひさしぶりに飲みたいもん♪」

「久しぶりって、昨日も飲んだろ」

「細かいことはいいのよ。

 みんなにも振る舞ってあげて♪」

「はいはい」

「じゃあ、もう帰っちゃう?」

「俺達的には、帰るって感じじゃないけどな。

 どうする、みんな? もうアントキバ行く?」

「私は構いませんよ」

「ぼくもいいよ」

「アタシも問題ないわ」

「だって。

 じゃあ、とっとと精算すませて、アントキバ行くか。……はぁ」

「なに、その溜息?」

「予算管理、俺。

 お支払い、今から。……はぁ」

 

 すぃーと視線を逸らしておく。知らん知らん。済んだことは仕方ないからな、うん。

 

 

 

 レジの女性NPCが、笑顔で会計を読み上げる。

 

「すき焼き鍋6人前、牛肉の追加3人前、具材ミックスの追加3人前、ソフトドリンクの飲み放題が6人前、デザートが5人前で、しめて39500ジェニーになります♪」

「ぅぉぉ……!」

「アッハハハハ♪

 流石に6人分だと大出費ねぇ。ごちそうさま♪」

「手持ちが一気に半分だよ。昼飯なんかでこんな……

 とほほー……」

 

 アーアーキコエナイ!

 

 

 

 お店の外に出て、互いに顔を見合わせる。

 

 ……この雪景色ともしばらくお別れか。四季の街はどこも面白かったな。純粋に観光でなら、何度か来てみたいかも。……まぁソルロンドで水着だけはお断りだ。アレはない。

 

「ブック。

 じゃ、みんな行くよ。

 ──『同行/アカンパニー』オン。アントキバ」

 

 

 

 浮遊感。銀色の世界が、あっという間に眼下から遠ざかっていった。

 

 

 

 

 

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