どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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アントキバ編4 2000/9/24
第百五十二章


 

 歓迎の幕がかかるアントキバの入口に立ち。

 

「ふわー。あったかぁ♪」

 

 心地良さそうにベルさん。確かにね。昨日マサドラへ飛んだ時も思ったけど、移動した直後は悪くないんだよな。……すぐ冬着がうっとうしくなるんだけども。

 

「メレオロン、もうちょっと辛抱な。

 ベル、早く行こうぜ」

「あ、はいはい。

 ……あなたも大変ね」

 

 ベルさんがフードを外しつつ、メレオロンに苦笑してみせる。肩をすくめるメレオロン。そうなんだよね……。どんなに暑くても、彼女は街の中では容姿を隠さなきゃいけない。……けど、理解者が増えただけでもメレオロンにとっては救いだろう。

 

 

 

 モタリケさん夫婦宅。

 

 ここに来るのも何度目かなぁ。これから頻繁に訪ねることになりそうだけど、私は以前プレイした時に拠点らしい拠点がなかったからね。落ち着ける場所って大事だ。

 

 地下室で冬装備と普段着を入れ替え、バタバタと着替え終え。いつものダイニングで、目の前に運ばれた珈琲の薫りを吸い込み、つくづく拠点の重要性を実感する。はー……

 防寒具を脱いで顔を晒すメレオロンも、同じテーブルに着いている。心なしか安堵する表情を覗かせてるから、見てて安心するよ。ウラヌスのワンピース姿もね。

 

「珈琲、大丈夫かい?」

 

 モタリケさんが尋ねながら、カップをメレオロンの前に置く。

 

「問題ないわ。

 多少……人間の味覚と違うみたいだけど、植物由来の味はむしろ好みだから」

 

 うーん、難しいな……メレオロンについては全てを語ったわけじゃない。魔獣であると説明した手前、元人間だなんて言えないんだよね。こんな些細な会話でも、ボロが出ないように気を付けないと。

 

「あ、なるほど。それでよく野菜を食べてたんだ」

「そうそう」

「メレオロンは偏食っぽいけどな」

「えぇぇ。ちゃんと他のも食べてるじゃない」

「食べてるけど、片寄ってるだろ?

 シームの野菜嫌いよりマシだけどさ」

「ボクもちゃんと食べてるよー」

「言わなきゃ食べないだろうが。自主的にもっと食え」

「そーだそーだ、シーム野菜もっと食え」

「オマエが言うな」

「ちぇー」

「アッハハハ♪ 仲いいわねー」

 

 しばし珈琲と焼き菓子を口にしながら、そんな談笑を楽しんだ後。

 

「──さて。

 そろそろ相談を始めようと思うんだけど」

 

 ウラヌスの真剣な声に、私達5人は居住まいを正す。

 

「ずいぶん改まった感じだけど、真面目な話?」

「もちろん。

 お前ら2人に関しては特にな」

「どういうことだ?」

 

 束の間、言葉を探すウラヌス。

 

「ドリアス自体は休養がメインだけど、当然カード集めを兼ねてになる。

 で、だ。

 攻略についてどの程度まで2人に話すか、決めないといけない」

「……」

「うーん……

 それって、わたし達がいる前でする話?」

「後で揉めるぐらいなら、いま話した方がマシだな。

 何を気にしてるかって言うとだ。

 情報漏洩の心配だよ」

 

 やっぱりその辺、気にしてたか。メレオロンの素性を多少話しただけでも相当だけど、ここからはゲーム攻略に関わるからな。もし情報が洩れたら、先々に影響が出てくる。

 

「ベルはまだいい。基本引き籠もってるし」

「ちょっと」

「それに警戒心も強いから、他プレイヤーから襲撃されてもスペルで逃げるくらい何とかなるだろ。

 問題はモタリケだよ。

 外で働いてるから他プレイヤーと接触しやすいし、お前の実力じゃスペルを唱える前に動きを封じられちまう」

 

 流石に面と向かって言われて、ムッとするモタリケさん。でも反論はしてこないな。

 

「モリーが捕まって、ベラベラ喋っちゃいそうだから話せないってこと?」

「警戒しすぎってことはないと思うんだよな。

 その可能性がある以上、バラされて困ることをどこまで教えるべきか……」

「じゃあオレだけ除け者にして、ベルに話せばいいじゃないか」

「待て待て。

 そういう話をしたいわけじゃない」

「じゃあなんだ!」

 

 怒るモタリケさんに、ウラヌスは困った表情で見返す。

 

「言うべきか悩んだんだけど……

 モタリケ、お前仕事を辞める気は無いか?」

 

 突然の提案に、虚を衝かれるモタリケさん。……なるほど、そうきたか。

 

「……どういう意味だ?」

「そのまんまさ。

 ベルにも言えるけど、全く外に出るなってことじゃない。

 けど、今のまま半日仕事でアントキバの商業区に留まるのは、リスクが高すぎると思う。

 だから仕事を辞めて、ベルと同じように出来るだけ家の中で過ごしてほしい」

「はぁー……

 よく思いつくわねぇ、そんなの。

 わたしは別にいいけど……

 どうするの、モリー?」

「どうするって。

 ……オレが仕事辞めたら、どうやって生活するんだ」

「生活費はコッチが出す」

 

 しん、と静まる。……そりゃそうだろうなと予想はしてたけど、言葉にすると重いな。

 

「必要経費諸々、こっちで用意する。

 仕事を辞めるのに抵抗があるなら、休職願いでも出しといてくれ。通るか知らんけど。

 ともかく金銭面はカバーするから、俺達のゲーム攻略に協力してくれ。

 一緒に行動するとリスクを下げられないから、基本的に色々預かる方向での協力だけで構わない。それだけでコッチは充分助かる」

 

 ベルさんが頬杖を突き、モタリケさんが腕を組んで天井を仰ぐ。悩ましいだろうなぁ。

 

「……そこまでしないと、話さないって解釈でいい?」

「そうだな。少なくとも今後のプランについては話せない。

 ドリアスにしたって、できるだけ隠し事したまま相談することになる。だから質問にはあまり答えられないな。

 逆に、外出を控えると約束してくれるなら、かなりの部分まで話すつもりだよ。

 ……ベルだって、モタリケのことは心配だろ?」

「そりゃ……

 心配してないなんて言わないけど」

「けど、急に仕事辞めろって言われてもなぁ……」

「お前が今の生活に執着する理由の1つが、仕事だろ?

 そろそろ脱却する準備を進めろってことさ」

「うーん……」

「家で絵を描いてりゃいいだろ。

 働かなくていいなら、時間使って好きなだけ描けるじゃないか」

 

 お、モタリケさんの表情が緩和したな。

 

「それは誰かさんをモデルにして、好きなだけ描いていいってことか?」

「ぐ……

 こ、攻略の邪魔にならない程度にな。仕方ないし……」

 

 照れるウラヌスに、思わずニヤついてしまう。そうそう、仕方ないよねー。ふふ。

 

「オーケー。

 それならオレは構わない。

 ……いちおう、どれぐらい都合してもらえるのか聞きたいけどな」

「手の平くるくるしやがって……

 ただまぁ、金の話は当然だな。モタリケ、月の収入いくらだ?」

「……言わなきゃダメか?」

「当たり前だろ。

 こっちだってゲーム内の金はいるんだ。気前よくジャブジャブやれるか」

「モリー。

 サバ読んじゃダメよ」

「分かってるよ。……月20万だ」

「サボらなきゃねー」

「おい、ベル」

「あーまぁ、それはいいよ。月20万な。

 預け賃に10万って約束したし……うーん」

 

 ウラヌスが夫婦だけでなく、私達にも視線を向けてくる。無関係の話題じゃないしな。

 

「んー……

 ややこしいし、ひとまとめに契約し直そうか。

 攻略の協力、荷物とカードの預かり、生活の諸経費、ゲーム外への脱出準備、全部込み込みにして──

 手付けとして、即金で100万。

 来月から毎月初日に40万渡す。

 攻略に差し支えない前提で、絵のモデルも適宜引き受ける。……これでいいか?

 モタリケとベルだけじゃなく、みんなも」

 

 ふむ……手付け100万の毎月40万か。まだ真実の剣を売って得た貯金が丸々残ってるし、攻略にかかる期間が半年くらいで済めばまず問題なさそうだ。……でも半年で済むかな?

 

「マジで? 100万もくれるの?

 そんなによこして大丈夫なの?」

「その代わり、遠慮なく色々頼むけどな。

 むしろ自宅待機をお願いするわけだから、なるべく即応できるようにしてほしいし。

 少なくともバインダーを融通してくれるプレイヤーは、相当貴重だとは思ってる」

「アタシは別にいいわよ。

 信用できるプレイヤーは貴重なのよね、アイシャ?」

「ええ、その通りです。

 仲間が多すぎると動きが鈍くなりがちですが、それにも勝るメリットがあります」

 

 なんだかんだで私達が前回クリアを達成できた要因に、仲間の多さはあるだろう。アレだけ実力者が揃えば、いくらでもやりようはあった。

 

「この場合は仲間と言うより、協力者ってのも大きいかな。

 一時的な協力だとタカが知れてるけど、クリアまで付き合ってもらうつもりだし」

「ボクは全然いいよ。

 結構このお(うち)も好きだし」

 

 シームの言葉に、夫婦が顔を綻ばせる。子供にそう言われて、悪い気はしないだろうね。

 

「アイシャはどう?」

「私も反対する理由はありませんね。

 その条件で受けていただけるなら」

「こっちは全員了承だって。

 さ、ベルとモタリケはどうする?」

「わたしは心情的に全然オッケーだけど……

 モリーに従おうかな♪」

「はいはい、結局オレ任せなのな……

 そもそもどれぐらいでクリアできる見積もりなんだ?

 短いならともかく、いつまでもクリアできずにだらだらってのも困るんだが」

「うーん……

 アイシャ的にはどう思う?」

 

 おや、ウラヌスが私に振ってきた。……そりゃそうか、見積もりできるとしたら私だけだもんな。ふむ。……終盤の立ち回りによって随分変わってくるんだよな。前回は一坪の海岸線のせいで、かなり足止めされたし。今回はどうだろう。

 

「……本当にざっくりとですが。

 今のペースなら、早くて半年、遅くても1年ぐらいかかりそうですね」

「へぇー!

 ざっくりってワリに、なんか根拠がありそうだけど。

 ウラヌスから聞いてたってわけでもなさそうだし」

 

 私はウラヌスに目配せする。任せる、といった反応が返ってきた。

 

 ……ま、いいか。失し物宅配便のこともあるし、伏せ続けるのは難しいだろう。

 

「ええ。一度クリアしましたから」

 

『──へっ!?』

 

 豆鉄砲を食らったような顔の夫婦。ウラヌスは可笑(お か )しそうに、

 

「アイシャは、失し物宅配便を取ったプレイヤーと知り合いだって言っただろ?

 知り合いどころか。

 クリアしたプレイヤーの1人、だってさ」

「うっそぉ……」

「……失し物宅配便は、私が無理を言ってクリア報酬に選んでほしいと頼んだんです。

 今は人に預けてますが、使わせてほしいと頼めば遠慮なく借りられると思います」

 

 ぽかーんと口を開けるモタリケさん。そりゃ驚きもするか。オーラも纏ってない私が、実はクリアプレイヤーだなんて知れば。

 

「うっわぁー……びっくりしたー。

 ……そっかぁ。それでアンタ、クリアできる自信ありそうだったんだ」

「それだけじゃないけど、無関係じゃないな。

 ……ここだけの話、今回ゲームへ入る直前に他のクリアプレイヤーとも話してきたんだ。アイシャの紹介でね。なかなか参考になったよ」

 

 ゴンのことだな。……色々迷惑かけちゃったな。戻ったら、ちゃんと恩を返さないと。

 

「そういうことなら、遅くても1年っていうのはアテになりそうね♪」

 

 アテにされてもなぁ。どっかで躓い(つまず )たら、ズルズル引き伸ばしになりそうなんだよね。こればっかりは予想できない。順調に進めばいいけど……ウラヌスの念のこともあるし。

 

「分かった、分かったよ。

 ……本気でこのゲームをクリアする気なんだな?」

「お前らを外に出すのもクリアも、ぜーんぶ本気だよ。

 今ごろ気づいたのか?

 分かったなら、ちっとは真面目に付き合えよ」

 

 苦笑しながらウラヌスは、向かいに座るモタリケさんへ手を伸ばす。

 

 しばし躊躇した後──モタリケさんも手を伸ばし、がっしりと握手した。

 

「オーケー、契約成立だ。

 明日朝一番で、仕事を辞めてきてやる。

 これだけ大口叩いたんだ。がっかりさせるなよ?」

「お前が言うか?

 そっちこそ、あっさり裏切んじゃねーぞ」

 

 挑発しあいながら、乱暴に握手した腕を振る2人。……正直この2人、仲が良いんだか悪いんだか全然分かんないな。

 

 

 

 モタリケさんにまた珈琲を淹れてもらい、仕切り直したところで、ウラヌスは本格的に話し始めた。

 

「さて、現在の攻略状況をおさらいしようか。

 言うまでもないが、俺達の生命線だから他人がいるトコでベラベラ喋るなよ?」

「分かってるって♪」

「家に引き籠もってろって言ったのはお前じゃないか。

 それくらい分かってるから話続けろ」

「へいへい。

 前回のクリア後、指定ポケットカードが取れるようになったのが9月6日。

 俺達がゲーム開始したのが9月15日。

 今日が9月24日だから、全体としては19日目、俺達は10日目だな。

 いま俺達が所有してる指定ポケットカードは、全部で11種類だ」

「お。

 10日で結構集めてるじゃない♪」

「スノーフレイでも取ってきたしな」

「数だけじゃなく、どのカードを持ってるかも教えてくれよ」

「あいよ。

 分かりやすくメモに書いてやるから、ちょっと待て」

 

 ワンピースのポケットからメモを出し、さらさらペンを走らせるウラヌス。

 

「ほい」

 

 書き終えて、並んで座る夫婦の前にメモ用紙を差し出す。

 

 

 

 『4:美肌温泉』ランクA 1枚

 『37:超一流スポーツ選手の卵』ランクB 1枚

 『40:超一流ミュージシャンの卵』ランクB 1枚

 『44:大俳優の卵』ランクB 1枚

 『45:大社長の卵』ランクB 1枚

 『50:手乗りザウルス』ランクA 1枚

 『52:真珠蝗』ランクB 4枚

 『54:千年アゲハ』ランクA 1枚

 『78:孤独なサファイヤ』ランクB 1枚

 『80:浮遊石』ランクS 7枚

 『97:3Dカメラ』ランクA 1枚

 

 

 

「あ、3Dカメラだ」

「へぇー。

 どうせランクBばっかだろって思ったら、結構ランクAも……んん?」

 

 怪訝な顔をするモタリケさん。

 

「あれ?

 ランクSの浮遊石、7枚も取ってるわね」

「……浮遊石って限度枚数いくつだ?」

「7だよ」

「え? えっ!?」

 

 目を丸くするベルさん。モタリケさんは息を吐きながら呆れたように、

 

「もう独占したのかよ……」

「たまたま巡り合わせがよくてな。

 こうしときゃ、俺達のカードをどうこうしない限り誰もクリアできない。

 取りにくいアイテムだから、ゲイン待ちもしにくいしな」

「うわぁ。

 可愛い顔して、やることエグイわねぇ」

「おい」

 

 そんなことを話しながら、何度もメモに視線をやる夫婦。

 

「……こうなると、大天使の息吹も独占したくなるな」

「取れたら即独占するよ。

 強力な治癒効果も喉手だしな」

「ラストの『堅牢』が取れればねぇー」

「ほんっと出ねぇんだよな、アレ……」

「ですよねぇ。

 私、前回クリアするまでに1枚も取れませんでしたよ」

「誰かが『堅牢』独占してるんじゃないのか?」

「いや。

 昨日も『名簿』で確認したけど、1枚しか持ってるヤツはいなかったよ。そもそも誰もまともに引けてないな」

 

 うーんと唸る面々。まぁ出ないことにはどうしようもないもんな。

 

「大体独占しようにも、増やす為に『擬態』が最低9枚いるしな。

 アレもランクAだし、自分達が『堅牢』を使うことも考えたらそんなに引けないよ」

「でも『擬態』は結構持ってなかったか?」

「4枚な。『堅牢』用のつもりで取っといてある」

「どれだけ引いて4枚なの?」

「えっとな……

 確かスペルカードのパックは500袋近く買ってたから……

 1500枚弱で4枚だな」

 

 うわ、ウラヌスそんなのきっちり数えてたんだ。……私達、全くしてなかったよ。

 

「聞いといてなんだけど、あなたいちいち数えてたの?」

「数えてるよ。

 だって、買いまくったら入手できるカードあるもん」

 

 うん?

 

「なにかあるんですか?」

「あれ、アイシャ知らない?

 スペルカードのパックって、1000袋買うと宝石カードをくれるんだよ。それが高く売れる」

「うそっ!?

 私達かなり買いましたけど、そんなのくれませんでしたよ」

「あー。

 買う人がバラバラだったんじゃない?

 1人で1000袋買う、が条件だから」

 

 なんと……。言われてみれば、その時々で誰が買うかバラバラだった気がするな。

 うわ、それでウラヌスが必ずパック購入するようにしてたんだ。ぅわー……

 

「ていうかあなた達、前にも1000袋以上買ってるんだ。うひゃあー」

「当たり前だろ。

 それぐらいしなきゃクリアなんて目指せないよ」

「偉そうに言ってるけど、オマエは前回何枚まで集めたんだよ?」

「指定ポケットか?

 ……70種だよ」

「へー。ウラヌスも結構集めてたのね」

「それくらいはな。

 そっからが難しいんだよ」

 

 再びメモに視線を落とす夫婦。なんだかんだで楽しそうだ。できればゲーム攻略に参加したいって思ってたのかもね。

 

「そういや、なんで聖騎士の首飾りのカードは無いんだ?

 オレにもくれたのに」

「いつでも取れるからだよ。

 アレは限度枚数60だからまず独占できないし、そうそう限度一杯にもならない。

 カードが欲しくなったら、手持ちの首飾りを『再生』で戻すだけだよ」

「言われてみれば、ランクBのカードも少ないわね。

 アレってトレードショップで買えるでしょ?」

「同じ理由だよ。ランクBは限度枚数一杯になりにくいし、後でいい。ヘタに枚数集めて、無駄にランキングで目立ちたくない。

 大体全部買おうとしたら、金が足りないよ。安いカードでも100万近くするし。

 それなら先にスペルカードを買うべきだ」

「ずいぶん慎重ねぇ。

 でも言うワリに、『堅牢』引くまでスペルカード買ってないじゃない」

「引けなかったら悲惨だし、なにより移動スペルがもったいない。

 攻略進めて移動スペル消化しつつの方が、財布に優しいだろ?

 金稼ぎだって時間かかるんだから」

「うーん。まぁそうねぇ……」

 

 ベルさんの隣に座るシームが首を傾げる。私が目配せすると1つ頷き、

 

「奇運アレキサンドライトって、取りに行かないの?」

 

 あっ。あー……

 

「そう言や、まだだったな」

「どうすんの、アントキバから行けば近いけど。

 アタシ、行ってきた方がいい?」

「へぇー。アントキバの近くに、指定ポケットカードなんてあったんだ。

 ……指定ポケットよね?」

「うん。北の山賊相手に取れる。

 イベントは途中まで進めてあるし、聖騎士もあるから取れるけど……

 まあ、別の機会にしよう。行くだけでも一手間だし、今日はドリアスで休養だろ?」

「ん、分かった。

 また今度ね」

 

 うーん。こういうやりかけのイベントって、結構多い気がするなぁ。うっかり忘れないようにしないと。

 ウラヌスが腕組みしつつ、

 

「中途半端になってるやつも、色々あるんだよな。

 これから行くドリアスにも関係してくるんだけど」

「ようやくドリアスの話?

 たとえば何があるの?」

「えーっと……

 ブループラネットが一番厄介だな」

「うん? ブループラネットって……」

「ランクSSのカードだろ?

 もうそんなの狙ってたのか?」

 

 夫婦が尋ねてくるのに対し、考え込むウラヌス。説明面倒くさいだろうな。

 

「まず、取り方の説明な。

 ブループラネットは、鉱山都市トラリアから行ける地底の最深部にある。

 最深部に祭壇があって、特定の宝石カードをアイテム状態で捧げると入手できるんだ」

「へぇー、そうなんだ。

 宝石って、指定ポケットカードの宝石をゲインするわけ?」

「違うよ。

 それなら『複製』で増やすだけだし、トレードで簡単に集まっちまう。

 No.173~181、9種類のフリーポケットカードがいる」

「うわ、面倒くさ……」

「なんだよなぁ。

 少なくとも、他プレイヤーとのトレードでは集めにくいな。『擬態』でしか増やせないから。

 まぁランクBでなけりゃ、スペルで取れなくもないけど……

 ともあれ入手済みの宝石は、狂気のガーネット・神樹コハク・雪空オパールの3枚だけ。いちおうトレードできる可能性を考慮して、今はカードのままにしてる。

 常夏都市ソルロンドで、踊るマラカイトの入手イベントが途中になってて……

 後は、礼拝都市ルビキュータで取れる夜天のルリ星が、必要カード不足。これも3枚のカードと交換で手に入るんだけど、白銀サーモンしかない。黄金イクラと黒曜タイガーを取る必要がある。

 それ以外の宝石カード4枚は、まだ手付かずだよ」

「ややこしいな、おい……」

「ランクSSなんだから仕方ねーよ。

 別にモタリケが集めるわけじゃないんだし、いいだろ。

 単純計算でも必要カードが大天使より多いし、早く終わらせたいのが本音だけど」

 

 大体ランクSSって、人手が足りないとキツイんだよね。一坪の海岸線もそうだったし。

 

「でもフリーポケットの邪魔になったらゲインすればいいし、大天使より楽だよね」

「確かにな。

 大天使も多すぎるし、運頼みすぎる」

 

 シームの言葉にうんうん頷くウラヌス。

 

「で、ドリアスにもブループラネットに必要な宝石ってあるわけ?」

「うーん。いや、無いな。

 中途半端にしてるやつの例としてブルプラの宝石を挙げただけで、ドリアスにあるのは他のカードだよ。

 できれば早めに確保したいんだけど……すぐには無理かな」

「何が途中なんです?」

「……魔女の若返り薬」

 

 げっ!

 

「え、もう入手イベント進めてたんですかっ!?」

「だって、早く取れ取れって言ってたじゃんか。

 俺も指くわえて、取れたらいいな、なんて考えてたわけじゃないよ」

「そうじゃなくて、だったら相談してくださいよ!

 何より優先すべきじゃないですか!」

「あぅ……ごめん。

 でも言い訳させて? 入手にすごい手間がかかるから、無理して取ろうとすると非効率なんだ。他の入手イベントと平行して進めた方が段取り良かったんだよ」

「……相談くらいしてください」

「それは、ゴメン……」

「あーらあら。

 ホント仲いいわねぇ、お2人さん。妬けちゃうわぁ♪」

「けど魔女の若返り薬なんて、誰が必要なんだ?」

「……俺」

「ふーん。

 お前、今の年齢よりも若返りたいんだ?」

「うっふふふ。

 ウラヌスも乙女なのねぇ♪」

「乙女じゃねーよ!

 ……色々あんだよ、事情が」

「はいはい。

 もし取れたら、わたしにもお裾分けしてね?」

「うん、それはそのつもりだったしな」

「ところで、魔女の若返り薬ってどうやって取るんです?

 魔女から入手できることは、私もうろ覚えで記憶にあるんですけど」

 

 というか、さっき思い出した。なんだったっけな。

 

「うーん……

 こっちも逆順に説明した方が分かりやすいかな。

 最終的に、森の魔女に必要カードを3枚渡せば入手できる。但し魔女の若返り薬自体は、1人1回しか入手できない。

 必要なのは、『魔女の敵薬』(かたきやく )『魔女の老化スプレー』『魔女の肥え薬』の3枚。

 で、それぞれの入手方法だけど……

 1つ目が、スノーフレイ山道で出現する10体のモンスターカードを魔女に渡すと取れる、魔女の老化スプレー」

 

 あ……そっか、それか! 確かにランクSの入手に必要なのが取れるとか言ってたよ。そのことか。

 私が納得した表情を見て、ウラヌスは小さく微笑み、

 

「2つ目が、魔女の森で取れる特定の果実16種を魔女に渡して取れる、魔女の肥え薬。

 最後が、ドリアス闘技場で勝ち抜いた時にもらえる、魔女の敵薬。以上」

 

 ……闘技場。あー、そうか。そういうこと……

 

「それで、ドリアスの闘技場に行きたがってたんですね……」

「そ。分かってくれた?」

 

 ウラヌスにかかった念と、ウラヌスのコンディションとの天秤か。……これは参った。

 

「わたしは反対よ。今日は休養しなさい」

「オレも反対だな。ちゃんと休め」

「分かってるって……しつこいな、2人とも。

 行かない行かない」

 

 うーん……仕方ない。私が挑戦しようとしても、ウラヌスのオーラに負担がいくから、やっぱりダメだもんな。気持ちは逸るけど、今日は諦めよう。

 

「でも、モンスターカード10枚が邪魔なんだよな。

 魔女の森に行くなら、手間を省く為に魔女の敵薬も確保したいし、早く済ませたいのが本音だよ」

「だからカード預かってあげてるじゃない。

 急がば回れ、よ」

「……うん、りょーかい。

 先は長いしな。体調には気をつけるよ」

 

 誤魔化すように、珈琲を口にするウラヌス。そうは言うけど、あんまり納得してない顔だな。

 

「でもドリアス闘技場って、指定ポケットカードも多いからなー。

 いずれにしても避けては通れないけど」

 

 うん、取れるカードが多いって話は聞いたな。

 

「体調がいい時に挑戦する分には、別に構わないわよ」

「いちおう闘技場で取れるカードは『リスキーダイス』『魔女の媚薬』『記憶の兜』の3枚。

 魔女の敵薬も含めると50回近く戦うから、1人で一気にやろうとするとしんどいかもな。

 ……ホントは魔女の敵薬だけでも先に済ませたい」

「ダ・メ」

「はーい……」

 

 ベルさんに念押しされるウラヌス。諦めなってば、もう。

 

 

 

 

 

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