夫婦が留まるバカラのカジノを離れた後、私達は別のカジノへ。
そこはブラックジャックが遊べる場で、ウラヌスはあまり時間をかけずにできる簡単な戦術指南を姉弟に施す。
「──分かった?
とにかく同じマークのブラックジャックが出るまでの勝負だから、ひたすら数をこなす。
賭け金が高いから、欲をかいて元手がなくなるのだけは避けるように」
「はーい」
「わかったわよ」
ブラックジャックは負けにくいゲームだけど、目当てのアイテムが取れるテーブルは、最低レートが5000と高めだ。
同マークのBJが来る確率は80回に1回程度らしく、2人合わせて手持ちが30万だから、よほど運が悪いと取れないかもしれない。大丈夫だとは思うけどね。
むしろ心配なのは……
「ホントに置いてって大丈夫か?」
「いいってば。
別行動するのは初めてじゃないでしょ?
他のプレイヤーが入ってきたら退散するわよ」
まぁメレオロンの力なら、いきなり気絶させられるとかしない限り大丈夫だとは思う。けど不安は不安だな……シームもいるし。
「シーム、お前も周りには注意しろよ。
あんまゲームに夢中になっちゃダメだぞ」
「はーい。
気をつけまーす」
「2人とも熱くなるタチだからなぁ……」
「あーもう、しつこい!」
「いいから行きなってば、2人とも」
ついには邪険にされるウラヌス。困り顔をこちらに向けてくるけど、
「ほら、2人ともこう言ってますし、そろそろ私達も行きましょう。
……そうやって心配性だから、気疲れを溜めこむんですよ?」
「ぅー」
そして私とウラヌスは、都市中央の城みたいなカジノに辿り着く。
ここはいわゆるカジノホテルらしく、なかなかの施設数だ。ウラヌスが行きたがってた闘技場も、ここの直下にあるらしい。入口もあるとのこと。
「行きませんからね?」
「分かってるって。
……俺がアレして、アイシャが戦うのもダメなんだよね?」
「今回はダメです。機会を改めてください」
「うん……」
諦めが悪い。気にかけてることが多いから、少しでも片づけたいのは分かるんだけどね。
「そうやって散漫なのは良くありませんよ。
ポーカーをしに来たんですから、集中してください。他のプレイヤーもスロット回してますし、警戒は怠らず」
「警戒はしてるよ。
さて、ポーカーねぇ」
「ウラヌスは自信あります?」
「それなり。アイシャは?」
「……やったことはもちろんありますが、強いかどうかまでは」
少なくともブラックジャックの戦術指南を端で聞いてて、へぇー、ふーんと思う程度の実力ではある。ウラヌスより弱いのは間違いないだろう。
「もしかして、お金賭けてやったことある?」
「……ノーコメントで」
前世の、それも大昔の話だからな。ポーカーぐらい、遊びでなら今の人生でもあるけど、ギャンブルをしようという気には全くなれない。天空闘技場ですら賭けはしなかったしな。
「ウラヌスはあります?」
「んー。少額なら……いや違うな。
お菓子賭けたりとか、その程度だよ」
「ふふ。
未成年なのに、いけない子ですね」
「自分だって、さっきノーコメントとか言ってたじゃん……
いや、悪い付き合いのが居たんだよ。
俺が混ざる時に、慌てて金賭けるのやめただけで」
「ところで、ここではお金を賭けてやったことはあるんですよね?」
「そりゃグリードアイランドはノーカンだよ。
ゲームのイベントなんだし」
「まぁそうですよね」
「さて、いきなりメインに挑戦する?
普通のポーカーテーブルもあるけど」
「そういうのをするんだったら、ビデオポーカーをしてればよかった気もしますけど」
「うぅん……でもルールが違うしさ。
ここだって、ドローポーカーとホールデムのテーブルがあるし。
ドローポーカーでも、普通のとメインのテーブルじゃ、ルールが微妙に違うけど」
「ならメイン相手に勝負しましょうよ。
その方が練習になりますし」
「練習とは言わないよ、それ。ぶっつけ本番じゃん」
「そうとも言います」
そんな軽口を叩きあいながら、ポーカーで賑わうフロアへ入る。
「……うん。誰もいないね」
誰もいないとは、もちろんプレイヤーのことだろう。フロアには、ポーカーに興じたり見物してるNPCがたくさんいる。
キャッシャーと書かれた場所へ向かいながら、
「ブック。
──『名簿/リスト』オン。43」
現在 43「大ギャンブラーの卵」を
所有しているプレイヤーは
5人
所有枚数は
9枚
「限度枚数は心配ないね」
「9枚ですか。今の段階で意外に取ってるというか」
「リスキーダイスで取ったのかもしれないし、どうだろうね。
あ、アイシャ。バインダー出しといて」
「はい。ブック」
そしてキャッシャー前へ。
「いらっしゃいませ。御用向きは?」
「10000チップを40枚くれ」
「ありがとうございます。400000ジェニーになります」
わ。私達の手持ち全部じゃないか。っと、すぐお金カード外さないと。
バインダーから15枚1万Jカードを外し終え、ウラヌスに渡す。
お金を支払ったウラヌスが、受け取った40枚のカードを1人で持ち運ぼうとする。
「あ、私も持ちます。
……ポケットに入れた方がいいんですよね?」
「うん、じゃあ半分お願い」
カードの束を受け取り、それを左右のポケットに分けて仕舞う。
気になって、1枚取り出してみる。
『619:10000カジノチップ』
ランクH カード化限度枚数∞
ドリアスの一部ギャンブルで用いる 虹色に輝く大きなチップ
カード状でもアイテムでも使用できる
「ポーカーって、元手かかります?」
「うん、そう。
最低30万ジェニー分のチップがいる」
「……ムチャクチャ高額ですね」
「最初に、最大の支払い額を用意させられるんだよ。じゃないと勝負を受けてくれない。
実際は大負けしない限り、1回にそんなには払わない」
「……にしたって、私達の予算は2人合わせて30万ジェニーですよね?
あなたが余分に持ってた10万って……」
「諸経費分の予算だね。建前は」
建前って言っちゃったよ、おい。
「ほら、俺達の担当ってポーカーとクラップスでしょ?
なんでいきなりポーカーに来たんだと思う?」
「それは……
ここにポーカーとスロット、ルーレットもあって、待ち合わせしやすいからじゃないんですか?」
「穿ったモノの見方だね。
それもあるけど、もっとシンプル。
クラップスでポーカーの予算削りたくなかったから」
ふぅむ。……大丈夫なんだろうな。思ったより大きなギャンブルになりそうだけど。
メインのテーブルに歩いていく途中で、ポケットから煙が出る。
ザラリとした手応えの中から1枚取り出すと、虹色の光彩を放つやや大きめのチップ。
「妙に凝ってますね」
「ドリアスでも最高額のチップだからね」
さて、テーブルに来たけど。
ポーカーフロアの最奥にある、大きなテーブル。独特な髪型のディーラーが……、多分ディーラーだと思うんだけど、座って威風堂々と待ち構えている。すごい強者感だな。
「あのふざけた髪型見てると、なーんかヤなやつ思い出すんだよな……」
「え? 誰のことです?
バショウさんとか?」
「あー、いや。確かにバショウもあんな感じだけど、多分アイシャは知らないよ。
……俺とよく喧嘩したヤツ。さっきポーカーで賭けうんぬんって話したのも、そいつのことだし」
「ふふ。つまり喧嘩友達ですね?」
「友達じゃないなぁ。断じて」
可愛く眉間にシワを寄せるウラヌス。なんというか友達の定義が狭いな。知ってたけど。
「どっちからやる?」
「あなたからでいいですよ」
「えー。俺はアイシャがやってるトコ見たいな」
「交代交代でいいじゃないですか。お先にどーぞ」
「……分かった。公平にジャンケンで」
公平じゃねーし。
「ええ、ええ。分かりましたよ。
……さーいしょーはグー」
『じゃーんけーん』
ぽんっ。あーいこーでしょっ。あーいこーでしょっ。と続いて、
『しょっ!』
ちっ、グー出された。撒き餌だったか……
「めっちゃ本気じゃん」
「あなた、勝っといてそんなこと言いますか?
……これ、負けた方がギャンブルするとか幸先悪くないですか?」
「往生際が悪いよ。さぁ座った座った」
ちくしょう、嬉しそうにしやがって。分かったよ、やってやるよ! おぼえてろ。
「……じゃなくて、ルール予め教えてくださいよ。
違ったら困りますし」
「それもそうだね。
えっと、ドローポーカーは分かるよね?」
「もちろん。
5枚ずつカードを配って、1回だけカード交換。
様子見て、勝負を受けたり賭け金上乗せしたり降りたりですよね?」
「ん。基本はその通り。
このテーブルのルール、細かく説明するね」
──男の娘説明中──
「ま、そんな感じ。じゃあ座って」
「はいはい」
ウラヌスが引いてくれた椅子に座る。するとディーラーがこちらを一瞥し、
「カジノ王の私とポーカーで勝負?
ふっ。
お嬢さん、よしなよ火遊びは……」
思わず吹き出しそうになるのを堪え、ウラヌスから預かった分を合わせたチップ30枚をテーブルに置く。
ディーラーは呆れたような目を向け、
「やれやれ……
いちおう確認だが、ルール説明は必要か?」
「いりません」
「なら、早速勝負といこう」
ディーラーもチップを30枚置き、トランプの束をキザったらしい手つきで切り出す。
配られる5枚ずつのカード。私はチップを中央に1枚置き、慎重にカードをめくる。
♥J・♠4・♥6・♥3・♥K
んー……フラッシュのなりそこね、か。ブタだしなぁ。
「チェック」
ディーラーの様子を見るが、何の気配も窺えない。ふむ……
「チェック」
「ではカード2枚チェンジ」
「カード1枚チェンジです」
♠の4を場に捨て、新たに配られたカードをめくり拾う。
……♦のA。はぁ……
「レイズ。チップ1枚追加する」
「……ドロップします」
タン、とテーブルにブタの手札を置く。向こうは……5のワンペア。くそ、そんな手でレイズしやがったのか。どうせ負けたけど。
チップを1枚取られ、2ゲーム目。
♣3・♦2・♥3・♠K・♠Q
んー。3のワンペアねぇ。手が悪いな。
「チェック」
ディーラーの様子を見る、けど何の気配もなし。……これは読めないな。
「チェック」
「ではカード3枚チェンジ」
「カード3枚チェンジです」
場に3枚捨て、配られたカードをめくる。
♣3・♥3・♦8・♥4・♣J
……。
「レイズ。チップ1枚追加だ」
「……ドロップ」
力なく降り、ぱさっと手札を放る。向こうは、Kのワンペア。またそんな手で……
「アハハ。いいようにやられてるねぇ」
「うるさいですよ」
茶化してくるウラヌスに、低い声音を吐く。……仕方ないじゃないか。勝負手が来ないんだから。
またチップを1枚取られ、3ゲーム目。
♦10・♣10・♠A・♣Q・♥Q
ふむ。行くか?
「チェック」
「……レイズ、チップ1枚追加します」
「コール。
カード2枚チェンジだ」
「カード1枚チェンジします」
受けて、2枚チェンジってことは……ブラフでなければスリーカード辺りか。
配られたカードをめくり、
♠10・♦10・♣10・♣Q・♥Q
っし。来た、フルハウス。
「チェック」
「レイズ、チップ1枚追加します」
「ドロップ」
降りたか。チップがこちらへ払われ、30枚に戻る。……ふへー。
「一進一退だね」
「ええ。……すいません、ちょっと休憩を」
「5分待とう」
「ウラヌス、飲み物いただいていいですか?」
「いいよ。なにがいい?」
「冷たいものなら何でも」
「ん。ちょっと待ってて」
背を向け、桜色の髪を揺らしながら歩いていくウラヌス。
……手持ちに対して、賭けてる額が大きすぎるんだよな。嫌でも緊張するよ。
水色の液体が入ったグラスを手に、ウラヌスが戻ってくる。
「はい、アイシャ。炭酸だから気を付けて」
「……これ、アイスソーダですか?」
「そうだよ」
別にいいけどさ……ストローから少し吸い込む。ん……上質な味だな。いいチョイスということにしておこう。
「はぁ。
……ところで、チップを全部奪うのってかなり難しくないですか? さっきまでの感じだと」
「あー。危ない橋渡らないとキツイかもね。
自分に良さげな手役が来ても、1対1だとああなっちゃうし。
結局2人ともドロップさせ合ってただけだからね」
「そうですよねぇ……
相手側が2人3人いれば、降りさせるだけでも結構稼げるでしょうけど」
「ま、キツかったら途中で勝負をやめてもいいし。
なにも無理して30枚勝つ必要ないからさ」
「……指定ポケットを狙わなければ、ですね」
「それも1つの選択だよ」
確かにね。チップだけ稼いでも元手が増えるし。元手が少ない今は、それも1つの勝利だろう。逆に30枚ぶん無理やり勝とうとすれば、大敗もありえる。
……そう考えると、ちょっと気が楽になったな。落ち着いていこう。
・カジノ王と行うポーカー勝負のルール(読み飛ばして全然OK。ハウスルールなので)
このドローポーカーは、JOKER1枚を含む53枚のトランプで行っています。
1ゲーム終了ごとにトランプは交換され、このトランプ自体も念で具現化した物なので、プレイヤー側はかなりイカサマしづらくなっています。
カジノ王に勝負を申し込むには、10000チップが30枚必要になります。勝負を開始してからチップが30枚を切っても勝負を継続できますが、勝負を終えた後に挑戦しなおす場合は30枚のチップが必要です。
この30枚のチップを元手に、カジノ王のチップ30枚を奪えば勝利となります。チップを全て失えば敗北です。1ゲーム終了して次のゲームが開始するまでの間に、勝負を途中で終えることもできます。途中で終えた場合は、その時点までに増減したチップがそのまま手元に返ってきます。
チップが増減した状態で勝負を終えて、再度勝負を開始した場合は、改めて30枚対30枚からスタートします。
全てのチップを奪って勝利した場合、自分が持ち込んだチップ30枚分はそのまま返ってきて、カジノ王のチップ30枚は『43:大ギャンブラーの卵』カードに変わります。
当然ながら、少し勝っては終えてを繰り返し、勝負の場以外でカジノ王のチップを30枚集めたところで、指定ポケットカードにはなりません。そのチップはただのチップです。
まずゲーム開始時、ディーラーとプレイヤーは、互いに1枚ずつチップを場に出します。
この後、互いに5枚のカードが伏せられたまま配られ、その5枚を相手に見えないよう確認します。
自分の手役を確認した後、ディーラーから行動します。
この時の行動は「チェック」と「レイズ」です。チェックは賭けるチップを増やさず、次へ進めます。レイズは賭けるチップを増やすことができます。何枚増やすかは自由です。但し上限は、自分のチップ枚数以下かつ相手のチップ枚数以下です。自分のチップが何枚あっても、相手のチップが5枚しかなければ、最大5枚です。チップが残っていなければ、レイズはできません。
次にプレイヤーの行動です。
ディーラーが「チェック」を選択していた場合は、対するプレイヤーは「チェック」か「レイズ」を選択できます。チェックすれば、カードチェンジに進みます。
ディーラーが「レイズ」を選択していた場合、プレイヤーは「コール」か「レイズ」か「ドロップ」を選択できます。
コールは相手のレイズを受けて同額のチップを賭けることです。次のカードチェンジへ進みます。
ドロップは勝負を降りることです。このタイミングであれば、失うチップは最初の1枚だけです。
プレイヤーがレイズした場合、更にチップを上乗せして賭けることになります。これもプレイヤーのチップが残っていなければできません。ディーラーのチップが残っていない場合も同様です。
ディーラーは、プレイヤーのレイズに対して「コール」か「レイズ」か「ドロップ」を選択できます。流れはプレイヤーの行動の時と同じです。
ドロップした場合、それまでに賭けていたチップが全て相手のものになります。これはいつドロップした場合でも同様です。
レイズが続く場合、どちらかがコールかドロップするまで続きます。
カードチェンジは、ディーラーから行動します。
手札から何枚のカードを交換するか宣言します。この後、プレイヤーも同様に何枚交換するか宣言します。この時、全く交換しなくてもいいし、全て交換しても構いません。
交換する場合は、自身の手札からカードを伏せたまま場に破棄します。破棄した枚数と同数のカードが、手元へ配られて自身の手札に加わります。
カードチェンジ後、ディーラーは「チェック」か「レイズ」を選択できます。
この後の流れは最初の手役確認後と変わりませんが、プレイヤーがチェックを宣言した、またはどちらかがコールを宣言した時点で、お互いに手札を見せ合います。
この時の手役の強さを比べあい、強い方が場に賭けられたチップ全てを獲得します。
強さが同じであった場合は、互いに賭けたチップが戻ります。
強さの順は、ロイヤルストレートフラッシュ>ファイブカード>ストレートフラッシュ>フォーカード>フラッシュ>ストレート>スリーカード>ツーペア>ワンペアです。
ノーペア(ブタ)は、最弱の手役となります。
手役が同じ強さの場合は、手役を成立させるカードの中で最も高い数字のカードを持つ方が強いと見なされます。3のワンペアなら、強さは3と見なされます。相手も3のワンペアなら、手役に含まれない次に強いカードの数字を比較します。
また、フルハウスなどの同じ数字が複数枚ある役では、最も枚数の多い数字を見ます。たとえば、6が3枚・10が2枚のフルハウスと、8が3枚・4が2枚のフルハウスでは、8が3枚のフルハウスに軍配が上がります。
JOKERは、いずれかの数字と同じ強さとなります。AとJOKERのワンペアと、A2枚のワンペアでは、同じ強さと見なされます。
3355JOKERといったフルハウスなら、JOKERは5と見なされます。
例外的にストレートで使用されるJOKERは、有り得る最も高い数字として扱います。3456JOKERなら強さは7、JOKER10JQKなら強さはA(14)です。
更に例外で、フラッシュに含まれるJOKERは、他のカードの数字を除いて最も高い数字として扱います。A357JOKERであれば、JOKERの強さはKになります。
ノーペアの場合、1番強いカードが互い同じ強さなら、2番目に強いカード、3番目に……となります。これは他の手役も同様です。
マーク(♠♥♦♣)に強さの序列はなく、勝敗判定には用いません。