どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百五十五章

 

 休憩を挟んだ後、互いに1回ドロップしてチップ枚数はイーブン。6戦目──

 

「カード2枚チェンジだ」

「カード2枚チェンジです」

 

 お互いまだレイズはしていない。配られたカードをめくると、

 

 ♥A・♥10・♥J・♣Q・♠K

 

 ……来た。

 

「レイズ。チップ4枚追加する」

「──っ」

 

 どうする。手は入ってる。けどチップ4枚追加? ブラフか、それとも……

 

 ウラヌスの方をちらりと見るが、難しい表情をするだけで何も言わない。私はしばらく悩んだ末、

 

「──コール!」

 

 勝負だ! 向こうの手は──

 

 ♦3・♦4・♦8・♦9・JOKER

 

「ふっ……甘いな」

 

 がーん。。フラッシュ……だと……

 

 がくーっ、と私が肩を落としていると、ポンとその肩に手を置かれる。

 

「アイシャ、一度引こう」

「でも……」

「ここから続けて、勝つ自信ある? 10枚差がついてるんだよ?」

「……」

 

 確かに……負けたのは5枚でも、25対35だもんな。席を離れればリセットできる。でもなぁ……

 

「気にしなくていいって。

 勝ったり負けたりするのは当たり前なんだから。

 それとも、このまま続けてそれが理由で負けてもいいの?」

「……

 分かりましたよ。勝負やめます」

 

 宣言して私が席を立つと、ディーラーはうつむき加減に、

 

「あンた、背中が煤けてるぜ」

 

 うるせーよ、くそっ! 意味分かんないし。

 

 ムカムカしながら、残ったチップをテーブルからカチャカチャ回収する。

 

「あンた、背中が──」

 

 二度は言わせず、バンッ! とテーブルを叩いて黙らせる。腹立つー。

 

「こいつ、絶対それ言いたいだけだよな……

 ゴメンね、アイシャ」

「あなたに謝られても……こんなに負けたのは私なんですし」

 

 回収忘れがないか、いちおうチップを数える。はぁ……5万負けか。お金が大事な現状だと、身に染みるなぁ。

 

 私がどいた席に、ウラヌスがポフッと座る。

 

「もうあなたがやるんですか?

 私、すぐ仕切り直そうと思ってたんですが……」

「ちょっと休んどきなよ。空気入れ替えた方がよさそうだし。

 まぁ俺がアイシャのカタキ取っちゃうかもね」

「うーん……」

「カジノ王の私とポーカーで勝負?

 ふっ。

 ボウヤ、よしなよ火遊びは……」

 

 黙ってチップをテーブルに置き、私に向かって手の平を上に差し出すウラヌス。

 

 むぅ……わかりました、よっと。

 

 ムシャクシャしながら、チップを20枚数えて渡す。

 

 ウラヌスが計30枚をテーブルに乗せたところで、

 

「やれやれ……

 いちおう確認だが、ルール説明は必要か?」

「いらない」

「なら、早速勝負といこう」

 

 さて、お手並み拝見といきましょうか。

 

 ウラヌスの手札は……

 

 ♥A・♦K・♥10・♠Q・♥9

 

 ブタだけど、悩ましい手だな。

 

「レイズ。チップ1枚追加する」

「コール」

「ではカード1枚チェンジ」

「カード1枚チェンジ」

 

 ウラヌスは♥の9を捨てる。まぁ妥当か。

 

 来たカードは……♣のA。

 

 ♣A・♥A・♦K・♥10・♠Q

 

「レイズ。チップ1枚追加だ」

「レイズ。チップ1枚追加」

「…………

 ドロップ」

 

 ワンペアで降ろしやがったよ。うへぇ。

 

 相手は……

 

 JOKER・♣3・♣4・♣5・♠8

 

 怖っ。なんなんだ、この駆け引き。

 

 ウラヌスが後頭部を揺らして、「へへへ」と軽薄に笑ってる。

 

「やだねー、こういう感じ」

 

 けど、もうコレでチップ3枚奪ったもんな。結局こういう駆け引きが肝なのか。

 

 

 

 対戦が進み、派手にチップの応酬がなされる。見てるこっちはハラハラするけど、彼は熱くなることも油断することもなく、私と軽口をかわしながら対戦を続けてる。どういう神経してんだろ。

 

 32対28、36対24、33対27、31対29、34対26、39対21、35対25、29対31、30対30、37対23、43対17、と進んでいき──

 

 現在は、47対13。かなりウラヌスが優勢に立ったけど……

 

 ディーラーは最初の姿勢を崩さず、坦々とゲームを続けている。念人形だからいわゆる精神的なプレッシャーがないんだろう。当たり前だけど、やりづらい相手だ。

 

 ──手が入らなかったウラヌスが2度ドロップして、45対15。

 

 ──逆にウラヌスが駆け引きで3度ディーラーを降ろして、49対11。

 

 ウラヌスも出来れば一気に押し切りたいんだろうけど、相手が引け腰なせいで僅かずつリードを広げるに留まっている。これは手間取りそうだな。

 

 

 

 更に対戦が進み、54対6。流石にウラヌスも口数が少なくなる。一撃で決着がつく圏内だから、なおさら慎重なんだろう。

 

「レイズ。チップ1枚追加する」

「レイズ。チップ1枚追加」

「レイズ。チップ1枚追加だ」

「……」

 

 手札交換後、チップを全部使う勢いでディーラーがレイズしてくる。手が入ったか?

 

 でもウラヌスの手札は、

 

 ♣3・♥3・♦3・♠A・♦A

 

 フルハウス。これなら勝てそうだけど……

 

「……レイズ。チップ2枚追加」

 

 場にチップ6枚ずつ。

 

「コール」

 

 タンッ! と互いの手札が公開。

 

 相手は、

 

 ♣2・♠K・♥K・♦K・JOKER

 

 ──フォーカード!

 

「くそっ……」

 

 この席で初めてウラヌスが毒づいた。状況が48対12に後退。流れがよくないな……

 

「ウラヌス、一息いれませんか?」

「はぁー…………

 ごめん。

 うん、少し休憩する」

「5分待とう」

「飲み物、もらってきましょうか?」

「……。いや、いらないかな。

 ちょっとこのまま休むよ。周り警戒しといて」

 

 ふにゃりと背を丸めるウラヌス。……思ったより参ってたんだな。そうだよ、そういう人だった。しまったな。

 

 うーん。休ませた方がいい気もするけど、放っておくのもマズイ気がする。……ふむ。

 

 一計を案じ、彼の脇腹に素早く手を回して、こちょこちょこちょとくすぐる。やらけー。

 

「ひゃあーッッ!?

 あひゃひゃひゃ、ちょアイヒャたんまたんひゃひゃ、ちょ!」

 

 手を弾かれたので、今度は両肩をつかんで強引にモミモミモミ。やわやわー。

 

「ああああぁ、待って待って、アイシャその揉み方やめてぇぇっ!!」

 

 身をくねらせて悶えるウラヌスに満足し、指先ではなく指全体で肩をほぐすように揉む。

 

「はぁー……

 うん。それはいい感じかな……ふー。

 いやいや、じゃなくて。

 なにすんの、急に? びっくりするじゃん」

「緊張を解こうと思いまして。

 ……ここには休養で来たんですから、あまり無理せずに。あなたの言葉じゃないですか。無理して30枚勝つ必要はないって」

「うーん。そりゃそうだし、そう言ったけどさぁ。

 でも、ここまで来たら──」

「思考が凝り固まってますよ。

 途中で引くことも含めて考えないと。今を楽しむくらいの余裕を持ってください」

「……

 ん、ごめん。冷静じゃなかったね、俺……」

「謝らなくていいですって」

「……やっぱり飲み物もらっていい?

 思ったより喉乾いてた」

「いいですよ。何がいいです?」

「なんでもいいよ」

「なんでもいいんですね?」

「うん、なんでも……

 あ、お酒はやめてね?」

「アハハ。

 そんなの持ってくるわけないじゃないですか、もー」

 

 いつもの調子に戻ったウラヌスに安堵しつつ、私は背を向けて歩きだした。

 

 

 

 そうかそうか。チップを持ってると、飲み物はタダでもらえるのか。

 

 手持ちのお金も無いはずなのにウラヌスが飲み物取ってきたから、元々タダなのかなと思ってたけど、そういうことらしい。ポケットに入った残り5枚の手触りが、何とも心許ない。

 

 戻ってくると、いくぶんリラックスした様子のウラヌス。グラスを差し出し、

 

「はい、どうぞ」

「うん。うん? 赤いね……

 あ、アセロラか」

「もちろんソフトドリンクですよ」

「ん、ありがと」

 

 おいしそうにくぴくぴ飲む姿を微笑ましく眺める。これなら大丈夫そうだな。

 

「ふー。……さて、どうしようかな。

 いちおう続けるつもりだけど」

「私も反対はしませんが、何か策はあります?

 焦りは禁物ですが、あまり長引くのも良くないでしょうし……」

「そんなには時間かからないと思う。

 さっきはミスったけど、大体思考パターンは読めてるんだ。

 もう一度同じ状況になれば多分……でも、最後は運かな」

「がんばってくださいね。

 けど、ほどほどに」

「はいはい、ほどほどにがんばるよ。

 ……

 ふー…………。休憩、終わり」

「では続きだ」

 

 勝負が再開する。

 

 

 

 調子を戻したウラヌスがじりじりと押し返し、ついに55対5まで迫った。

 

 カードを交換する前に、

 

「レイズ。チップ3枚追加だ」

「……」

 

 ディーラーが残りチップ1枚になるまで、一気にレイズした。これは──

 

「……コール」

 

 受けるウラヌス。けど手は、

 

 ♦7・♣K・♦3・♦A・♦K

 

 ──Kのワンペア。どうする?

 

「カード2枚チェンジだ」

「……カード、1枚チェンジ」

 

 最低でもスリーカードと読んだか。あえて♣のKを捨てる。

 

 引いたのは……♦の6! 来た!

 

「レイズ。チップ1枚追加する」

「……」

 

 全賭けしてきた。相手も来たか? けど、フラッシュならいけるんじゃないか?

 

 ウラヌスが、ちらりと私を振り返る。

 

 私は小さく微笑み、うなずく。

 

「コール!」

 

 開示される手札。こちらは♦のフラッシュ。

 

 向こうは──

 

 ♣6・♣7・♣Q・♦9・♠8

 

 うん??

 

 ……なぁんだ、ブタじゃないか。完全にブラフだったのか! 最後の最後まで、やってくれる!

 

「──コングラッチュレーション!」

 

 カジノ王が手を叩く。いつの間にか後ろに楽器を持ったNPCが並び、『パパパーッ、パッパッパッパッパッパッパ♪』とファンファーレを演奏しだした。広がる拍手の波。

 

 ウラヌスが私の方を振り向き、無防備に笑いかけて両手の平を向ける。

 

 私も笑顔で『ぱぁん!』と手を打ち合わせた。

 

 ボン! と、テーブルに置かれたチップの半分が煙になる。

 

 代わりに現れる1枚のカード。

 

「大ギャンブラーの卵、ゲットと」

 

 そのカードと私達が持ってきたチップをすくい取り、ウラヌスは悠々と席を立った。

 

 

 

 終わってみれば、5万ソンしただけでランクBのカード取れちゃったな。拍子抜けとも言えるし、私なんの役にも立ってないし……足引っ張っただけじゃないか、ちくしょう。

 

 チップをお金に戻して、いま私達はポーカーフロアのバーでドリンクを飲みながら休憩している。バーのドリンクは、チップがあっても有料らしい。まぁ場所代か。

 

「はぁー……

 ウラヌスが勝ったからいいようなモノの、私ぜんぜんいいトコなしじゃないですか。

 正直つまんなかったですよ」

「ま、ま、ま。そのカタキは取ったってことで。

 ゴメンね、俺ばっかり楽しんじゃって」

「あはは……」

 

 乾いた笑いを返して、グラスの氷をカランと回す。……へっ、どうせ私に博打のセンスなんてないですよっと。

 

「それにしても、よく一度の挑戦で取れましたね。

 もう少し苦戦しそうな感じがしたんですが。いかにも手強そうでしたし」

「言ってもランクBだからねぇ。

 AI思考のクセがあるから、やってたら何となく分かるんだよ」

「そんなもんですか」

 

 ランクBなら、入手難度的にあんなモンかという気もするけど……挑戦料で最低30万、ヘタすればそれが全部溶けちゃうんだから、対人ギャンブルが苦手な人にはかなりキツいイベントだろう。場合によっては、トレードショップで買った方がマシかもしれない。

 

「あの手の読み合いが苦手な人には、ちょっとしんどいかもね。

 そもそもアイツ、こっそりイカサマしてるし」

「──そうなんですかっ!?」

 

 なん……だと……

 真っ当そうな勝負師ヅラして酷いな、あいつ……

 

「具体的にこう、っていうイカサマじゃないんだけど。

 少し運が寄りやすくしてあるっていうのかな。幸運と不運の波があるんだ」

「運ですか」

「……タネを明かすと、アイシャが先に5万負けただろ?

 アレであいつ、運が少し落ちて負けやすくなってたんだよ」

「はぁっ!?

 ちょっとそれ、どういうことですかっ!?」

 

 こいつ、ハメやがったのか! 先にやらせたのはそういう……!

 

 いや、ちょっと待て。まさか……

 

「まさかあなた、先にやらせたのは」

「アハ、分かっちゃった?

 ごっめーん。アイツの運がどういう状態か見ておきたかったんだ。

 っていうのも、誰かが勝ってカード取った直後だと、アイツ強運モードになるんだよ。ヘタなタイミングで座ると、いくらやってもボロ負けしちゃう」

 

 こっの……!

 

「それじゃ私、完全に噛ませ犬じゃないですか!」

「だからゴメンって。

 そもそもあのルールだと、ディーラー側は不利なんだよ。全部先に動くことになるし。純粋にいくらAIを強くしたって限界がある。

 だからゲームを盛り上げる為に、運の波が設定してあるんだよ。……多分ね」

「もう!

 そういうのは、先に言っておいてください!」

「……でも言っておいたら、先にやってくれなかっただろ?」

「当たり前じゃないですか!」

「ほら」

 

 おのれ、このバカにゃんこめ! やってくれよる。……噛みついてやろうかな。

 

 

 

 

 

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