休憩を挟んだ後、互いに1回ドロップしてチップ枚数はイーブン。6戦目──
「カード2枚チェンジだ」
「カード2枚チェンジです」
お互いまだレイズはしていない。配られたカードをめくると、
♥A・♥10・♥J・♣Q・♠K
……来た。
「レイズ。チップ4枚追加する」
「──っ」
どうする。手は入ってる。けどチップ4枚追加? ブラフか、それとも……
ウラヌスの方をちらりと見るが、難しい表情をするだけで何も言わない。私はしばらく悩んだ末、
「──コール!」
勝負だ! 向こうの手は──
♦3・♦4・♦8・♦9・JOKER
「ふっ……甘いな」
がーん。。フラッシュ……だと……
がくーっ、と私が肩を落としていると、ポンとその肩に手を置かれる。
「アイシャ、一度引こう」
「でも……」
「ここから続けて、勝つ自信ある? 10枚差がついてるんだよ?」
「……」
確かに……負けたのは5枚でも、25対35だもんな。席を離れればリセットできる。でもなぁ……
「気にしなくていいって。
勝ったり負けたりするのは当たり前なんだから。
それとも、このまま続けてそれが理由で負けてもいいの?」
「……
分かりましたよ。勝負やめます」
宣言して私が席を立つと、ディーラーはうつむき加減に、
「あンた、背中が煤けてるぜ」
うるせーよ、くそっ! 意味分かんないし。
ムカムカしながら、残ったチップをテーブルからカチャカチャ回収する。
「あンた、背中が──」
二度は言わせず、バンッ! とテーブルを叩いて黙らせる。腹立つー。
「こいつ、絶対それ言いたいだけだよな……
ゴメンね、アイシャ」
「あなたに謝られても……こんなに負けたのは私なんですし」
回収忘れがないか、いちおうチップを数える。はぁ……5万負けか。お金が大事な現状だと、身に染みるなぁ。
私がどいた席に、ウラヌスがポフッと座る。
「もうあなたがやるんですか?
私、すぐ仕切り直そうと思ってたんですが……」
「ちょっと休んどきなよ。空気入れ替えた方がよさそうだし。
まぁ俺がアイシャのカタキ取っちゃうかもね」
「うーん……」
「カジノ王の私とポーカーで勝負?
ふっ。
ボウヤ、よしなよ火遊びは……」
黙ってチップをテーブルに置き、私に向かって手の平を上に差し出すウラヌス。
むぅ……わかりました、よっと。
ムシャクシャしながら、チップを20枚数えて渡す。
ウラヌスが計30枚をテーブルに乗せたところで、
「やれやれ……
いちおう確認だが、ルール説明は必要か?」
「いらない」
「なら、早速勝負といこう」
さて、お手並み拝見といきましょうか。
ウラヌスの手札は……
♥A・♦K・♥10・♠Q・♥9
ブタだけど、悩ましい手だな。
「レイズ。チップ1枚追加する」
「コール」
「ではカード1枚チェンジ」
「カード1枚チェンジ」
ウラヌスは♥の9を捨てる。まぁ妥当か。
来たカードは……♣のA。
♣A・♥A・♦K・♥10・♠Q
「レイズ。チップ1枚追加だ」
「レイズ。チップ1枚追加」
「…………
ドロップ」
ワンペアで降ろしやがったよ。うへぇ。
相手は……
JOKER・♣3・♣4・♣5・♠8
怖っ。なんなんだ、この駆け引き。
ウラヌスが後頭部を揺らして、「へへへ」と軽薄に笑ってる。
「やだねー、こういう感じ」
けど、もうコレでチップ3枚奪ったもんな。結局こういう駆け引きが肝なのか。
対戦が進み、派手にチップの応酬がなされる。見てるこっちはハラハラするけど、彼は熱くなることも油断することもなく、私と軽口をかわしながら対戦を続けてる。どういう神経してんだろ。
32対28、36対24、33対27、31対29、34対26、39対21、35対25、29対31、30対30、37対23、43対17、と進んでいき──
現在は、47対13。かなりウラヌスが優勢に立ったけど……
ディーラーは最初の姿勢を崩さず、坦々とゲームを続けている。念人形だからいわゆる精神的なプレッシャーがないんだろう。当たり前だけど、やりづらい相手だ。
──手が入らなかったウラヌスが2度ドロップして、45対15。
──逆にウラヌスが駆け引きで3度ディーラーを降ろして、49対11。
ウラヌスも出来れば一気に押し切りたいんだろうけど、相手が引け腰なせいで僅かずつリードを広げるに留まっている。これは手間取りそうだな。
更に対戦が進み、54対6。流石にウラヌスも口数が少なくなる。一撃で決着がつく圏内だから、なおさら慎重なんだろう。
「レイズ。チップ1枚追加する」
「レイズ。チップ1枚追加」
「レイズ。チップ1枚追加だ」
「……」
手札交換後、チップを全部使う勢いでディーラーがレイズしてくる。手が入ったか?
でもウラヌスの手札は、
♣3・♥3・♦3・♠A・♦A
フルハウス。これなら勝てそうだけど……
「……レイズ。チップ2枚追加」
場にチップ6枚ずつ。
「コール」
タンッ! と互いの手札が公開。
相手は、
♣2・♠K・♥K・♦K・JOKER
──フォーカード!
「くそっ……」
この席で初めてウラヌスが毒づいた。状況が48対12に後退。流れがよくないな……
「ウラヌス、一息いれませんか?」
「はぁー…………
ごめん。
うん、少し休憩する」
「5分待とう」
「飲み物、もらってきましょうか?」
「……。いや、いらないかな。
ちょっとこのまま休むよ。周り警戒しといて」
ふにゃりと背を丸めるウラヌス。……思ったより参ってたんだな。そうだよ、そういう人だった。しまったな。
うーん。休ませた方がいい気もするけど、放っておくのもマズイ気がする。……ふむ。
一計を案じ、彼の脇腹に素早く手を回して、こちょこちょこちょとくすぐる。やらけー。
「ひゃあーッッ!?
あひゃひゃひゃ、ちょアイヒャたんまたんひゃひゃ、ちょ!」
手を弾かれたので、今度は両肩をつかんで強引にモミモミモミ。やわやわー。
「ああああぁ、待って待って、アイシャその揉み方やめてぇぇっ!!」
身をくねらせて悶えるウラヌスに満足し、指先ではなく指全体で肩をほぐすように揉む。
「はぁー……
うん。それはいい感じかな……ふー。
いやいや、じゃなくて。
なにすんの、急に? びっくりするじゃん」
「緊張を解こうと思いまして。
……ここには休養で来たんですから、あまり無理せずに。あなたの言葉じゃないですか。無理して30枚勝つ必要はないって」
「うーん。そりゃそうだし、そう言ったけどさぁ。
でも、ここまで来たら──」
「思考が凝り固まってますよ。
途中で引くことも含めて考えないと。今を楽しむくらいの余裕を持ってください」
「……
ん、ごめん。冷静じゃなかったね、俺……」
「謝らなくていいですって」
「……やっぱり飲み物もらっていい?
思ったより喉乾いてた」
「いいですよ。何がいいです?」
「なんでもいいよ」
「なんでもいいんですね?」
「うん、なんでも……
あ、お酒はやめてね?」
「アハハ。
そんなの持ってくるわけないじゃないですか、もー」
いつもの調子に戻ったウラヌスに安堵しつつ、私は背を向けて歩きだした。
そうかそうか。チップを持ってると、飲み物はタダでもらえるのか。
手持ちのお金も無いはずなのにウラヌスが飲み物取ってきたから、元々タダなのかなと思ってたけど、そういうことらしい。ポケットに入った残り5枚の手触りが、何とも心許ない。
戻ってくると、いくぶんリラックスした様子のウラヌス。グラスを差し出し、
「はい、どうぞ」
「うん。うん? 赤いね……
あ、アセロラか」
「もちろんソフトドリンクですよ」
「ん、ありがと」
おいしそうにくぴくぴ飲む姿を微笑ましく眺める。これなら大丈夫そうだな。
「ふー。……さて、どうしようかな。
いちおう続けるつもりだけど」
「私も反対はしませんが、何か策はあります?
焦りは禁物ですが、あまり長引くのも良くないでしょうし……」
「そんなには時間かからないと思う。
さっきはミスったけど、大体思考パターンは読めてるんだ。
もう一度同じ状況になれば多分……でも、最後は運かな」
「がんばってくださいね。
けど、ほどほどに」
「はいはい、ほどほどにがんばるよ。
……
ふー…………。休憩、終わり」
「では続きだ」
勝負が再開する。
調子を戻したウラヌスがじりじりと押し返し、ついに55対5まで迫った。
カードを交換する前に、
「レイズ。チップ3枚追加だ」
「……」
ディーラーが残りチップ1枚になるまで、一気にレイズした。これは──
「……コール」
受けるウラヌス。けど手は、
♦7・♣K・♦3・♦A・♦K
──Kのワンペア。どうする?
「カード2枚チェンジだ」
「……カード、1枚チェンジ」
最低でもスリーカードと読んだか。あえて♣のKを捨てる。
引いたのは……♦の6! 来た!
「レイズ。チップ1枚追加する」
「……」
全賭けしてきた。相手も来たか? けど、フラッシュならいけるんじゃないか?
ウラヌスが、ちらりと私を振り返る。
私は小さく微笑み、うなずく。
「コール!」
開示される手札。こちらは♦のフラッシュ。
向こうは──
♣6・♣7・♣Q・♦9・♠8
うん??
……なぁんだ、ブタじゃないか。完全にブラフだったのか! 最後の最後まで、やってくれる!
「──コングラッチュレーション!」
カジノ王が手を叩く。いつの間にか後ろに楽器を持ったNPCが並び、『パパパーッ、パッパッパッパッパッパッパ♪』とファンファーレを演奏しだした。広がる拍手の波。
ウラヌスが私の方を振り向き、無防備に笑いかけて両手の平を向ける。
私も笑顔で『ぱぁん!』と手を打ち合わせた。
ボン! と、テーブルに置かれたチップの半分が煙になる。
代わりに現れる1枚のカード。
「大ギャンブラーの卵、ゲットと」
そのカードと私達が持ってきたチップをすくい取り、ウラヌスは悠々と席を立った。
終わってみれば、5万ソンしただけでランクBのカード取れちゃったな。拍子抜けとも言えるし、私なんの役にも立ってないし……足引っ張っただけじゃないか、ちくしょう。
チップをお金に戻して、いま私達はポーカーフロアのバーでドリンクを飲みながら休憩している。バーのドリンクは、チップがあっても有料らしい。まぁ場所代か。
「はぁー……
ウラヌスが勝ったからいいようなモノの、私ぜんぜんいいトコなしじゃないですか。
正直つまんなかったですよ」
「ま、ま、ま。そのカタキは取ったってことで。
ゴメンね、俺ばっかり楽しんじゃって」
「あはは……」
乾いた笑いを返して、グラスの氷をカランと回す。……へっ、どうせ私に博打のセンスなんてないですよっと。
「それにしても、よく一度の挑戦で取れましたね。
もう少し苦戦しそうな感じがしたんですが。いかにも手強そうでしたし」
「言ってもランクBだからねぇ。
AI思考のクセがあるから、やってたら何となく分かるんだよ」
「そんなもんですか」
ランクBなら、入手難度的にあんなモンかという気もするけど……挑戦料で最低30万、ヘタすればそれが全部溶けちゃうんだから、対人ギャンブルが苦手な人にはかなりキツいイベントだろう。場合によっては、トレードショップで買った方がマシかもしれない。
「あの手の読み合いが苦手な人には、ちょっとしんどいかもね。
そもそもアイツ、こっそりイカサマしてるし」
「──そうなんですかっ!?」
なん……だと……
真っ当そうな勝負師ヅラして酷いな、あいつ……
「具体的にこう、っていうイカサマじゃないんだけど。
少し運が寄りやすくしてあるっていうのかな。幸運と不運の波があるんだ」
「運ですか」
「……タネを明かすと、アイシャが先に5万負けただろ?
アレであいつ、運が少し落ちて負けやすくなってたんだよ」
「はぁっ!?
ちょっとそれ、どういうことですかっ!?」
こいつ、ハメやがったのか! 先にやらせたのはそういう……!
いや、ちょっと待て。まさか……
「まさかあなた、先にやらせたのは」
「アハ、分かっちゃった?
ごっめーん。アイツの運がどういう状態か見ておきたかったんだ。
っていうのも、誰かが勝ってカード取った直後だと、アイツ強運モードになるんだよ。ヘタなタイミングで座ると、いくらやってもボロ負けしちゃう」
こっの……!
「それじゃ私、完全に噛ませ犬じゃないですか!」
「だからゴメンって。
そもそもあのルールだと、ディーラー側は不利なんだよ。全部先に動くことになるし。純粋にいくらAIを強くしたって限界がある。
だからゲームを盛り上げる為に、運の波が設定してあるんだよ。……多分ね」
「もう!
そういうのは、先に言っておいてください!」
「……でも言っておいたら、先にやってくれなかっただろ?」
「当たり前じゃないですか!」
「ほら」
おのれ、このバカにゃんこめ! やってくれよる。……噛みついてやろうかな。