どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百五十七章

 

 

 ころん、と。ボールが落ちた先は。

 

 

 

 緑の00。

 

 

 

 ……は?

 

 

 

 ────うぎゃああああああああああッッッッ!! バカな、バカなぁぁぁぁぁぁッッ!!

 

 

 

「くぁぁぁぁぁぁぅ……!」

 

 うごごご……と沈んでいく。あと1回、たった後1回じゃないか! ひどいよこんなの……。どうせ負けるなら、ハナっから希望なんて持たせるなよぉ……

 

「あーりゃりゃん。

 ダブルゼロに始まり、ダブルゼロに終わったねぇ」

 

 ほっとした気配のウラヌス。うっせぇぞ、このクソバカにゃんこぉ。くぅぅぅっ……!

 

「アイシャ、元気出して?」

 

 シームの心から気遣う声がツライ。こんなバカやらかした自分に優しくしなくていいよ……どうせみんなドン引きなんでしょ、ムキになって大負けブッこいてさ。

 

 ……それもどうでもいいか。スク水、また着させられるのか。はぁぁぁ……ツライ。

 

「アンタ達、一体なに賭けてたの?」

 

 私の様子から尋常ではないと察したのだろう、メレオロンが心底不思議そうに尋ねる。

 

「名誉の為、それは秘す」

 

 ウラヌスが回答を突っぱねた。……うん、この場でバラしたら殴ってたかもしんない。

 

「アレじゃないのー?

 お互いエッチな賭けでもしてたんじゃないの?」

 

『…………』

 

 くっ。ベルさん、こういうトコは鋭いんだよな。お互い、当たらずとも遠からずだ。

 

「え、マジ?

 アンタ達、なに賭けたの?」

「……だから秘密だっつってんだろ。

 お前らの想像してるようなこっちゃねーよ」

 

 うぅむ……

 

「まぁ2人で混浴するくらいだし、きっとよっぽどよねぇ♪」

「……けどアイシャ、なんか落ち込みすぎじゃない?」

 

 私はしゃがみこみ、テーブルの縁におでこを当ててるような有様だ。立ちあがる気力がない……シームが心配してるのは分かってるけども。

 

「あれ?

 外れたのに、チップいっぱいあるけど」

「へ……?」

 

 シームの声に反応し、背を少し伸ばして、テーブルの上を覗き込む。

 

 すると、目減りはしたものの、私の方へチップの山が来てる。は? なんでだ?

 

「ああ、これってアレよね?

 サレンダー」

「うん。38目あるやつだし、それがないとな」

「……どういうことです?」

 

 ベルさんとウラヌスが分かったふうに話すので尋ねてみる。

 

「2倍賭けしてる時だけ、0・00が出たらハズレじゃなくて賭けた分が半分返ってくるんだよ。でもまぁ……

 ダブルアップは途切れるね」

 

 ……。チップの山を半眼で眺める。

 

 つまり──大損こいてみんなに迷惑はかけてないけど、実質私の1人負けってことか。はぁぁぁ……にゃんこシバきたい。

 

「よかったじゃん、アイシャ♪」

「えぇ……」

 

 シームが元気づけるけど、私は気が抜けたよ。だからそういうのは先に言っておいてよ。……いや、言われてみれば、緑が出た時に少しチップが返ってきてた気がするな。偶然、私が見落としてただけか。

 

「で、どうするの?

 まだルーレット続けるの?」

 

 ベルさんの言葉に、私はフルフル首を振る。とてもじゃないけど、続ける気力が湧いてこない。

 

「いや、いったん休憩しよう。

 状況を整理したいしな。ここのホテルでどっか部屋取ろう」

 

 ウラヌスの言葉の後、私に視線が集中する。……はいはい、分かりましたよ。

 

 億劫に膝を伸ばし、無理をして立つ。

 

「大丈夫、アイシャ?」

「いいからさっさと行きましょう」

 

 今さら気遣ってくるバカにゃんこに毒づき、私は早く行けとアゴで促す。……くそっ、なにやってんだ私は……

 

 

 

 道中、私をイジメたとか傷つけたとかいう罪状で、姉弟にボロクソに怒られるウラヌス。ホテルの一室に6人で入った後、ウラヌスは半泣きで落ち込みながら、

 

「俺、楽しんでもらおうと思っただけなのにぃ……」

 

 えぇもう、そりゃ楽しかったよ。勝ってたらな! ……負けたショックが大きすぎて、めっちゃヘコんだわ。

 

「分かった、シーム?

 これがギャンブルで身を滅ぼした者の末路よ」

「ぅ、うん……」

 

 待てメレオロン。そんな例に、しかも私とウラヌスを一緒くたに指すな。……そりゃ、シームには真似してほしくないけども。

 

「あっははは♪

 ホント楽しいわね、あなた達」

「賑やかだよなぁ」

 

 夫婦が、一歩距離を置いてそんな感想。いや、あなた達も大概だからね?

 

「お前らに言われたくねぇよ……」

 

 ウラヌスが不機嫌にそう返すと、モタリケさんは面白そうな顔で首を傾げ、

 

「ん?

 それは、さっきのが痴話喧嘩だって認めるのか?」

「はあぁぁっ!? ちっげぇよッ!!」

「……違いますよ」

 

 なにが痴話喧嘩だ。……ハタからは、そう見えるかもしれないけど。

 

「くそっ……

 つぅかメレオロン。むしろ俺達、ギャンブル自体は勝ってるからな?

 トータルでプラスになってるぞ」

「ほんとに? アイテムの分を足して?」

「……うん。流石にな。

 アイテム分を足してプラスだよ」

「いいなぁ……」

 

 元気なさげなシーム。……そうだよね、負けるとヘコむよね。分かる分かる。

 

「でもシーム、あのアイテムが売り値いくらとか知らないじゃない。

 まだ分かんないわよ?」

「まぁいいから、いっぺん整理しよう。

 ブック」

『ブック』

 

 全員がバインダーを出す。そうして状況確認が始まった。

 

 

 

 私とウラヌスが入手したイベントカードは1枚。

 手持ちの所持金は、40万→38万9500ジェニー。

 

 

『43:大ギャンブラーの卵』

 ランクB カード化限度枚数30

 手の中で毎日3時間温めることで

 1~10年後に現実となって孵る卵

 温める時に願う気持ちが強い程 早く孵化する

 

 

「ポーカーのフロアに居なかったし、もしかしてと思ってたけど、やっぱり勝ったんだ?

 やるじゃない♪」

「ま、予算がありゃなんとかなるさ」

「にしたって、1万ジェニーしか使ってないじゃないか」

「いや、ポーカーで5万使ったよ。アイシャがだけど」

「はいはい、どうせ私がスっちゃいましたよ!」

「けど、ルーレットでほぼ取り返したじゃん」

「……全く納得してませんけどね」

 

 結果的にトントンなだけで、内容的にはポーカーもルーレットも私の負けだ。あーあ、面白くない。

 

「この卵って売ったらいくらすんの?」

「30万。

 だから金額換算すると、28万9500ジェニーのプラス」

 

 ……やっぱりウラヌスの圧勝じゃないか。

 

 

 

 ともあれ、次はメレオロンとシーム。

 

「……見せないとダメ?」

「そりゃな」

「シーム、確認してもらわないわけにはいかないでしょ?

 大金預かったんだし」

「うん……」

 

 メレオロンは平気そうだけど、シームは見せるのも渋々といった感じだ。これはだいぶ負けたかな?

 

 姉弟が入手したイベントカードは1種類。

 手持ちの所持金は、30万→22万ジェニー。

 

 

『299:スパイシーレモン』

 ランクF カード化限度枚数165

 珍しい果実 痛みを感じるほど酸味が強い

 ほんの一滴で ただの水がパンチの効いたレモンジュースに早変わりする

 

 

 確かに1種類だ。──けど、同じのが2枚ある。なんで?

 

「どういうこった?」

「えっとね、最初はすごい順調だったのよ。

 アタシから始めて、3万勝ってたところでブラックジャックが出て。

 もう5分くらいで終わっちゃったのよね」

「ブラックジャックって、同じマークのか?」

「そうよ。このアイテム取れたし」

「なんだ、ボロ勝ちじゃないか。

 すぐ俺達と合流すりゃよかったのに」

「アタシもそう言ったんだけどねー」

「……」

 

 シームが複雑な表情を浮かべる。……私もこんな顔してるのかもな。

 

「それじゃせっかくルール覚えたのにつまんないって、シームがごねて」

「……だって」

「何事も経験だしな。それ自体は構わないよ。

 んで?」

「アイテムは取る必要ないし、シームに1000チップのテーブルでやってもらったのよ。

 そしたらこの子、最初はミスったりして負けてたけど、後から結構取り返して」

「ホントだよ?

 ブラックジャックだって何回も出したし」

「あ、うん」

「シームがそこでトータル1万5000くらい勝って、同じマークのブラックジャックも出て。

 これなら5000のトコでやらせておけばよかったかなーって。

 もう慣れてきたし、大丈夫だろうと思って」

「ふぅん……」

 

 考えるように相槌するウラヌス、視線を落とすシーム。ギャンブルだからね。勝ったり負けたりするのは当たり前なんだよな。

 

「5000のテーブルでシームにやらせたら、これがもードツボにハマッちゃって。

 負けた分を取り返そうと必死になって、余計ムチャするし」

「だってぇ……」

 

 ウラヌスが、意味ありげな目を私に向ける。……分かってるよ。私もこうなってたって言うんだろ、くそっ。

 

「2人で勝ってた分も全部溶けちゃって、最終的にマイナス10万までいっちゃってさ」

 

 ぅわあ。

 

「アッハハハハ♪

 やるじゃない、シーム君!」

 

 手を叩いて喜ぶベルさん。おいおい、やめてよ。シーム、泣きベソかいちゃってるよ。

 

「ちょっと待て、空気読め。

 ベルの賭け事に対する感性は、前からおかしいって言ってるだろ」

「あ、はーい。ごめーん♪」

 

 モタリケさんがベルさんを叱る。……確かベルさんも、ドリアスでやらかしてるって話だったな。ロクなもんじゃないんだろう。

 ウラヌスが額をぽりぽりかきながら、

 

「……そんで?」

「うん。カッカしてたシームも、そんだけ負けたら流石に青褪めちゃって。

 これで終わりにしたらキツイだろうなと思って、アタシもまた5000でやったのよ。

 そしたらポコポコ勝って、2万取り返した上にアイテム2つめ取っちゃったわけ」

 

 また意味ありげに私を見てくるウラヌス。

 これは……メレオロンが勝った分シームが負けて、シームの負け分をメレオロンがまた勝ったってわけか。おそらく仕込まれた運の波で。……悲惨だね、シーム。私とおんなじだよ。はぁ……

 

「その結果が、マイナス8万とアイテム2枚か。

 まぁいいけどな。シーム、あんま気にすんな」

「でも……」

「誰がやっても勝ったり負けたりするのがギャンブルだよ。

 たまたま負けただけなのに、それを何とかしようとするから悲惨な目に遭う。

 ギャンブルで一番肝心なのは引き際だからな。今回はいい勉強だったと思って諦めろ」

「ぅー……」

「で。肝心のレモンは、売ったらおいくら?」

「3万だよ。

 金額換算すれば、2万ジェニーのマイナスだな」

 

 シームがうなだれる。可哀想に……。私はウラヌスを責められるけど、シームは自分を責めちゃうだろうしな。後で元気づけておこうか。

 

 

 

 で、夫婦の番なんだけど……

 

 入手したイベントカードは3枚。

 手持ちの所持金は、30万→27万5000ジェニー。

 

 

『300:ファイヤーチェリー』

 ランクG カード化限度枚数319

 珍しい果実 熱を感じるほど辛みが強い 甘みを引き立てるために

 わずかな量の果肉を用いるのが通例だが 直接食べる猛者もいるとか

 

 

『298:ドリップマスカット』

 ランクF カード化限度枚数148

 珍しい果実 ワインのような 酩酊感のある果汁が親しまれる 大人の果物

 酒精は含まれないが 止まらなくなるため食べ過ぎに注意

 

 

『297:クリームバナナ』

 ランクE カード化限度枚数119

 希少な果実 生クリームのような とろける舌触りが人気の果物

 果肉がすぐ崩れてくるので 食べる時にうっかり落とさないよう注意

 

 

「どう? どう?」

「……。

 どうって、オマエラ……」

 

 きゃぴきゃぴ戦果を見せるベルさん。顔に手を当てるモタリケさん。震えるウラヌス。

 いや、なんで? なんで3枚もあるの?

 

「どう? すごいでしょ♪」

 

「──ア・ホ・かッッ!!

 バカラ終わったら、状況確認しに来いっつってただろうが!

 なに勝手に2つも終わらせてんだッ!」

「えぇー。

 手間が省けてよかったじゃない」

「……ビデオポーカーはまだいいよ、オマエラの担当だから。

 でもクラップスは俺らの担当だろうがッ!! アイテムかぶってたらどうする気だッ!?」

「んー……

 バカラはアイテム取るのすぐ終わっちゃったのよ。飲み食いで時間つぶしたぐらいだし。

 で、あなた達のポーカーはそんなすぐ終わんないだろうなーと思って。クラップスに先行ってもかぶんないでしょって思ったのよ。

 クラップスもすぐ終わったし、ビデオポーカーにも行ったら、モリーがさくっとフォーカード出しちゃってさ♪

 また色々オヤツ食べて時間つぶしてから、ここに来たってわけ♪」

「……

 俺、クラップスすんの楽しみにしてたのにぃ……」

「ほらベル、言った通りじゃないか。

 勝手にしたら、こいつ怒るって」

「えぇー」

 

 みんな、やらかしてるなぁ……。ギャンブルこわい。

 

「あーもう、くそっ。分かったよ……

 手間省けたのは事実だしな。正直そこまでやってくれるとは思わなかったよ」

「ドリアス常連ですから♪」

「ハマりすぎて攻略頓挫させてりゃ世話ねーよ。

 えーと、この3枚だと……8万6000か。だから金額に直すと……

 6万1000ジェニーのプラス」

 

 なんだかんだで、みんなキッチリ押さえてるんだよな。上手くいかなかったのは、私とシームだけか……はぁ。

 

 

 

 ともあれ、ドリアスで入手を予定していたアイテムをすでに5つ手に入れたわけだ。

 指定ポケットカード1枚に、ランクSを取るのに必要なカード4枚。

 残りは3枚。スロット、ルーレット、ビンゴか。

 全員の所持金は、ダブついたレモン1枚を売ったとして……おっと、待てよ。

 

「ウラヌス、このホテルの休憩代は計算してます?」

「あ、それも含めないとね。後払いにしてたし」

 

 メモにカリカリ書き込むウラヌス。

 

「ん、出た。

 いま手持ちの金が88万4500。レモン1つ売って91万4500。

 休憩代が2500だから、91万2000だな。

 ぶっちゃけ、ほとんど減ってない」

「でも、わたし達に結構報酬払ってくれてるし、トータルではソンしてない?」

「いや、そうでもないよ。

 これを1人でやってたらシャレになんないし、まだポケット圧迫してないのはデカい。

 正直、順調すぎて怖いぐらい」

 

 これで順調なんだ。……みんなカード集め、苦労してるんだな。

 

「これからどうするの?

 ルーレット、またやる?」

 

 ベルさんの問いかけに答えず、私を見るウラヌス。うーん。

 

「……やらなきゃいけないならしますけど、本音を言えば時間を空けてほしいです」

「だってさ。

 ま、俺もちょっと気分転換したい。

 スロットはまだ他のプレイヤーが結構粘ってるし、ここのカジノにないビンゴを全員でやりに行こう。アレなら人数いれば、そこそこ早く終わるからさ」

 

 ウラヌスの提案に、誰も異論を挟まなかった。

 

 

 

 

 


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