『かんぱぁーいッ♪』
6人で御馳走の並んだテーブルを囲み、グラスを打ち鳴らし合う。
午後6時を回り、少し早いけど夕食を摂ることに。本日の収穫を祝って乾杯したところだった。もちろんソフトドリンクだけどね。
ビンゴを終えてカジノを後にした私達は、休憩と今後の動きを相談する為に、食事処へ移動。できるだけプレイヤーが近づかなさそう、かつ贅沢できるレストランを選んでいた。
「ぷはーっ。
いやぁー……もう、イベントクリアした後の飲み食いは最高ねー♪」
「そりゃオマエは奢ってもらえる立場だしな」
「ほんと、いいもん食ってるよなオマエラ……」
「そういう辛気臭いのヤメロ、モタリケ。
メシがマズくなんだろ」
「そーよ、モリー。
ありがたく御相伴にあずからないと♪」
「はいはい。
手伝ったのは事実だからな。ありがたくいただくよ」
「おぅ、食え食え。遠慮すんな」
夫婦とウラヌスが話す中、私は早速目の前のステーキにナイフを入れる。人前だと多少食べる量を押さえないと恥ずかしいし、せめて美味しいモノを食べないとな。
メレオロンは野菜モリモリのスパゲティを、音を立てて食べている。次はアレいこうか、もぐもぐ……あー、お肉おいしー♪
しばらく私達は、晩餐がてら雑談に花を咲かせていた。
「──どうしてもイヤだーってモリーがごねちゃってさぁ。
お流れになっちゃったのよねぇ。興味あったのに」
「当たり前だろ……
高級美術品模倣するのだって気が引けるのに、なんでよりによってベンズナイフなんて作らなくちゃいけないんだ」
「新しい境地が開けるかもしれないじゃない♪」
「開きたくねーよ、そんな境地!
大体なんで殺人鬼のナイフなんて飾ってあったんだ、あの美術館!
絶対まともじゃないだろ!」
「美術品の蒐集家なんて、まともじゃないヒト珍しくないでしょ?
どうしてこんなの集めてるの? って美術品いっぱいあったじゃない」
「だからそういう妙な物を作らせようとすんなよ……」
夫婦の話に、ひとしきりウラヌスが苦笑してる。なるほど、これが言ってたノロケ話か。ベルさん喋りすぎだと思うんだけどな。まぁ面白いし、聞かせてもらうけどね。
「モタリケさんは、やっぱり絵画を模倣するのが好きなんですか?」
「……絵画はね。絵の勉強になるから。
すり替える為のレプリカ作らされるのは不服だけど」
「うだうだ言いながらもしっかりやってくれるから、モリー好きなのよー♪」
嘆息するモタリケさん。ふふ、昔っからこんな感じなんだろな。ベルさんは昔と雰囲気変わったみたいだけど、根っこは同じだったんだろう。
あらかたみんなのお腹が満たされ、頼んだデザートが運ばれてくる。
シームが子供らしくチョコパフェを注文し、いいなぁ食べたいなぁ、でも子供が食べるものだしなぁとか考えてたらウラヌスとメレオロンもパフェ頼んだので、私も頼むことに。
「大人びて見えるのに、みんな可愛らしいわねー♪」
ベルさんがにこにこしながら言ってくる。あ、うん。言われるとちょっと恥ずかしいな……ウラヌスも顔赤いし。
「当たり前だろ、こいつら子供なんだから」
「わたしも子供なんだけどなぁ」
「オマエはなんちゃって子供じゃないか……」
うっ。それを言われると、私もそっち寄りなんだけど……いやいや、気にすまい。うん。
モタリケさんはコーヒーだけ頼んでいて、ベルさんはコーヒーとチーズケーキ。
私とシームがチョコパフェで、ウラヌスとメレオロンはフルーツパフェだ。
「さて、そろそろこの後どうするかを決めないとな」
パフェをスプーンでつつきながら、半分照れ隠しみたいな感じでウラヌス。ベルさんはチーズケーキのカケラをはくりとくわえ、
「んー。あと残ってるの、なんだっけ?」
「スロットとルーレットだけだろ。
まぁ時間のかかる残り物のド定番だわな」
「運がよければサクッと終わるのが、またやらしーのよねぇ」
「焦れて、ガマンできずにリスキーダイス振るやつがいるんだよな……」
モタリケさんが遠い目でそう零し、コーヒーをすする。お金と時間を取られ続けたら、そりゃ振りたくもなるだろうな。でも、大凶の確率が20分の1とは言え……
「ねぇねぇ。
リスキーダイスって、振ったらどうなるの?」
シームが不思議そうに問う。……そういえば、ちゃんと説明してなかったっけ。
モタリケさんとベルさん、更にウラヌスが難しい顔をする。
「アイテムの説明は覚えてるだろ?
20面ダイスで、大吉19面と大凶1面。
大吉が出れば幸運が訪れ、大凶が出れば今まで出た大吉分がチャラになるような不幸が起きる」
「大吉が出たら、ドリアスのギャンブルでも勝てるの?」
「うーん。いちおう、な。
ドリアスの闘技場で取れるアイテムだし、いかにもって感じだろ?」
「大凶が出たらどうなるの?
ガマンできるくらいの不幸なら、ぼく振ってもいいけど」
「ぜったいに、ダメー」
ウラヌスが両腕でバツのジェスチャー。
モタリケさんも沈痛な表情で首を横に振り、
「絶対振っちゃダメだ。
多分、死ぬから」
「えっ!?」
「たとえば、スロットを回す前にダイスを振って、大凶が出たとするだろ?
まず間違いなくスロットマシーンが爆発する。
死ぬかどうかは、それまでに出た大吉の回数次第だろうけど……」
おそらくその現場に居合わせたのであろうモタリケさんの説明に、頬杖を突いて聞いていたメレオロンが、スプーンをくわえたままピコピコ振り、
「じゃあさー。
1回だけなら振ってもいいんじゃない?
それまでの大吉分だったら、一度も大吉出してない初っ端は大丈夫そうだけど」
ウラヌスは沈黙したまま、モタリケさんに視線を移す。モタリケさんは唇を噛み、
「……一振り目で死んだヤツがいる」
「へっ!? ホントに?
1回目で死ぬくらい不幸ってキツイの?
それとも、それまでに出た大吉分の不幸って説明自体がウソなの?」
「……いや、多分そうじゃない。
予想だけど、1人分の大吉でもリスキーダイス1つ分の大吉でもなくて、このリスキーダイス全部を合わせた大吉の回数を見てるんだ」
「えーと……
ダイス1個じゃなくて、アイテム化してるリスキーダイス全部合わせてってこと?」
「オレはそう考えてる。
誰かが大凶を出せばリセットされるだろうけど、誰かが大吉を出した回数分、どんどん大凶が出た時の危険が増していくんだと思う。
そういうルールだろうから、間が悪ければ一振り目でも、死ぬ」
「かもなぁ。
検証するわけにもいかないしな……」
ウラヌスがうんざりと言う。まあねぇ。
「分かったか、シーム。だから絶対振るなよ」
「うん。
振らないけど……」
「けど、なに?」
「えっと……
大吉って、出たらしばらくラッキーになるの?」
「いーや。1回きりのはずだな。
だからスロットだと最初の1回で大当たりが出るとか、そんなんだよ。
それがどうかしたか?」
「うん……
さっき話してた、ポーカーあるじゃん?」
ふむ。雑談でカジノ王とのポーカー勝負のことも話したな。それがどうしたんだろ?
「リスキーダイスの大吉は、1回しか効果ないんでしょ?
ポーカー勝負の時って、どうなるの?」
「ああ、そりゃ……
ぅん? ちょっと待てよ」
おう? 言われてみれば……
こっちにいくらいい手役が来たって、相手がドロップしたら1回じゃ勝てないもんな。全額レイズしても相手が受けないとダメだし。
ってことは……
リスキーダイスで1回大吉出しただけじゃ、ポーカーに勝てない?
私とウラヌスが考え込んでいると、モタリケさんが手を上げ、
「オレ、それ知ってるよ。やってるやつ見たことあるから。
ちゃんと大吉1回で勝てるようになってる」
「マジで? どうなるんだ?」
「オレが見た時は、大吉出したプレイヤーに配られた手札がいきなりロイヤルになってて、NPCが最初から全額レイズしてくる」
「……ラッキーっつうか、露骨に勝たせようとしすぎじゃないか?
ゲームだし、別にいいけどさ」
「最後まで聞けって。
レイズを受けて、お互いカード交換せずに見せ合ったら、NPCは9のファイブカードだったよ」
おおっ、なるほど! それならNPCが全額レイズしてきたっておかしくないもんな。
「ほーう、そういうカラクリか。
大吉で自分の手札だけ良くするんじゃなくて、1発で勝てるように自分とNPCの手札両方良くしたのか。面白いことすんのな」
「だろ?
オレもそれ見て感心したよ」
「だってさ。
納得したか、シーム?」
「うん。
……モタリケさん、ありがとうございます」
「どういたしまして」
なかなかどうするか決まらず、私達はコーヒーを追加オーダー。話し合いを続ける。
「ここのコーヒーも悪くないけど、やっぱりモリーのが一番かなぁ♪」
「ほんわかノロケてんじゃねーよ。
いい加減、雑談ばっかじゃなくてちゃんと考えてくれ」
「はいはい。
……ルーレットかスロットか帰るか、3択ってことよね?」
「今のトコな」
なんとなく帰るのは、時間的に中途半端なんだよな。どうせなら明日のお昼まで粘って、オータニアへ修行に行く流れが望ましい。
でもなぁ。ルーレットは気乗りしない……
おつまみに注文したフライドポテトを摘み、口にくわえる。メレオロンが私に目をやり、
「でも、こっちのお嬢さんがルーレット嫌がってるもんねぇ」
「む……
そういうこと言わないでくださいよ。やらなきゃいけないならやりますってば」
「あー、けどさ。
これだけ順調に進んだんだし、後は遊んでもいいけどな」
ウラヌスがそんな提案をしてくる。不服そうにメレオロンが、
「人数いるうちに終わらせといた方が、後々困らないんじゃないの?
4人と6人が大差ないって言うなら別だけど」
「いや、そうは言わないけど……
ルーレットとスロットは人海戦術メチャメチャ有効だしな。
ただ明日の昼がリミットだから、それまでに終わるとは限らないよ」
「終わらなかった時は仕方ないわよ。
……場合によっちゃ、延長するとか」
「延長は反対です」
私がきっぱり言うと、しかめっ面を返すメレオロン。修行をこれ以上引き延ばされちゃたまんないよ。
「じゃあ、この後ルーレットでも文句ないのよね?」
「……文句なんてありませんよ」
「そんな嫌そうな顔して?
んもー、お嬢様ったらワガママだわー」
「ちょっとメレオロン。
だからそういう──」
「あーストップすとっぷ。
2人とも水掛け論しない。話が終わんないよ」
「アッハハハ♪
ほんと仲いいわよねー。いっつもこんな感じ?」
「まぁな……」
むぅ。……だから、子供扱いしないでほしいんだけどな。
「そもそもスロットはまだプレイヤーいそうだし、今は避けた方がいいと思う。
スロットの
ウラヌスの提案を聞いて一考する。……攻略を続ける気があるなら、それが妥当か。
「ルーレットは分かるけど、ポーカーで遊ぶって?」
尋ねるシームに、ウラヌスは少し考え、
「ここのポーカーは、カジノ王とドローポーカーするだけじゃなくて、普通に低レートで遊べるんだよ。他のカジノもそんな感じだっただろ? ブラックジャックとか」
「うん、そうだった。
でもそっちだと、アイテム取れないんだよね?」
「取れないな。
ただ単にギャンブルするだけ。だからお遊びなんだよ。
ドローポーカーとホールデムがある」
「ホールデムって?」
「あー……
説明すると長引きそうだし、またやる時にでもな」
「はーい」
ポーカーで遊ぶねぇ。……そっちもあんまりいい印象ないんだよな。言ってたら、何もできないけどさ。
「つかモタリケ。
お前食ってばっかいないで、なんか意見言えよ」
「んー?
オレはどっちだっていいよ。どうせベルと同じことするんだし」
「モリーがしたい方でいいわよ?
わたしと一緒にいたいなんて言ってくれるなら、喜んで♪」
「どうせ無理にでもそうするじゃないか……」
「ノロケてねーで、とっとと決めろや」
「……ポーカー」
威嚇するウラヌスに、面倒そうに返すモタリケさん。夫婦はポーカー、と。
……どうせなら、私は参加せずに眺めてようかな。
「シームはどっちがしたいの?」
「おねーちゃんのしたい方でいいよ。
……ルーレットでしょ?」
「よく分かったわね」
「分かるよ、それぐらい」
うん、姉弟は予想通りか。読めないのはウラヌスだな……いや、ルーレットか?
「そうすると2チームに分かれるわけか。
まあ、ひとっところに長時間6人も固まると目立つしな」
「ウラヌスはどうします?」
「うーん。
……勝手知ったるモタリケ達は好きにさせて、メレオロンとシームに付いた方がいいか。
俺はルーレットにするけど、アイシャがどっちにしたいかで変更するよ」
どっちもしたくはないんだよね。……なら、こうしようか。
「じゃあ私は見物でいいですか?
ルーレットとポーカーを行ったり来たりして、連絡役しますよ」
「……いいの、それで?」
「ええ。
気が向いたら参加しますから」
これなら文句あるまい。高みの見物なりに、楽しみ方はあるからね。
「オーケー。
じゃあルーレットに、俺とメレオロンとシーム。
ポーカーに、ベルとモタリケな。
アイシャは自由に見物。ここの支払い済ませたら、予算を再分配するよ」