どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百六十二章

 

 メレオロンとシームが先にお風呂へ入り、軽食なら無料だそうなのでルームサービスを注文。無料のワリにはなかなか豪勢なサンドイッチや美味しいコーヒーを口にしながら、私とウラヌスは夫婦との会話を楽しんでいた。

 

「モリーが淹れてくれるコーヒーも好きだけど、ここのコーヒーもかなりいいわね」

「流石に最高級の豆と比べられると、ちょっと分が悪いな。

 多分これ、原価だけで1000ジェニーはするぞ」

「それは普段から飲めないわねー……」

「ふーん。

 モタリケが普段淹れてるのって、いくらぐらいなんだ?」

「いいやつを淹れてる時でも、一杯分で300ジェニーもするかどうかだよ。

 安物じゃないけど、中堅くらいだな」

「私はモタリケさんのコーヒーも美味しいと思いますけどね。薫りが馴染むというか」

「あー、わかるー♪

 なんだか飽きが来ないのよね。何度も飲みたくなるというか」

「だってさ。モタリケ、褒めてもらえてよかったな」

「そういうオマエはどうなんだよ?」

「……別にマズイとは思ってねーよ。

 少なくともこのコーヒーよりはいいんじゃねーの?」

「もー、素直じゃないわねー♪」

 

 ホント素直じゃないな、ウラヌスも。これは絶対美味しいと思って飲んでたんだろう。

 

 

 

 話題がコロコロ変わっていき、今は姉弟について話をしている。

 

「あの2人って、ホントの姉弟ってわけじゃなさそうだけど、仲いいわねぇ♪

 今も一緒にお風呂入ってるしさ」

「ああ、まぁな……

 基本的にべったりしてるよ」

「よく顔を見合わせたりしてるもんな。

 お互い信頼してないとああいう感じにはならないだろ」

 

 ベルさんもモタリケさんも、姉弟には関心があるのか、よく観察しているようだ。詮索しすぎないように、気を使ってはくれてるんだろうけど……

 どうしてもあの2人に関しては雑談でも慎重にならざるを得ないので、私はさりげなく話題を逸らしてみる。

 

「ウラヌスもお姉さんと仲いいんですよね?」

「ええっ!?

 う、うぅん、いや別に……」

 

 急に振ったのが良くなかったか、やけに動揺するウラヌス。これはマズったかな……

 

「あら、あなたお姉さんいたんだ?

 仲よかったの?」

「んー……

 向こうは知らないけど、俺の方はよく思ってないよ。

 なんつーか、一方的に色々されてたしな……」

「へぇー♪

 たとえばたとえば?」

「いやー……よく覚えてないな。

 色々されてはいたけど、具体的には」

 

 ぷいっとそっぽ向いて、コーヒーを含むウラヌス。あー、これは完全に覚えてるな。

 

「ウラヌス、絶対覚えてますよね? 嘘吐いてもダメですよ」

「オレから見ても嘘だって丸わかりだな」

「えー……アイシャはともかく、モタリケにまで……」

「ほらほら、なにされてたの? 白状しなさいよー」

「覚えてねぇっつったら覚えてねーよ。

 いくら聞いたってムダだぞ」

 

 ほっぺたふくらませるウラヌス。そうそう、そういう顔するからお姉さんもちょっかいかけるんだよ。この小動物め。

 

「ふぅーん……

 あなたって、昔っからそんな感じなんでしょ?」

「ん? そんな感じって、何が?」

「子供の頃から、そうやって女の子の格好してたんでしょって聞いてるのよ。

 それとも男の子の格好してた時期あるの?」

「……。

 どうだっけな。どっちつかずなカッコはしてたかもな。

 子供の頃は男女の差なんてあってないに等しいし、こういうワンピースはかなり昔から着てるけど」

 

 あ、そうなんだ。さぞ可愛らしいお子様だったに違いない、うむ。

 

「そりゃお姉さんも、あなたのこと可愛くて仕方なかったんじゃない?」

「……

 仲良かったとは言わないけどな、ああいうのは」

「だからなにされてたのー?」

「しつけーな。

 覚えてねぇよ、そんな昔のこと」

 

 ぶすっとするウラヌス。まぁ言えないよね。寝起きにマッサージされてたとか。

 

 

 

 

 

「あわあわぁー。

 はぁー……

 シーム。泡って健康にいいのかしらね?」

「どうなんだろ?

 それは普通の泡を出してるだけっぽいけど」

「水流もあるから、マッサージされてるみたいな感じよ。

 ずっと浴びてると、落ち着かなくてなんだか疲れてきそうだけど」

「ふぅん……」

 

 一足早くジェットバスを堪能するメレオロンに、身体を洗いながら冷静に返すシーム。広い浴室だが、それでも温泉とは比べるまでもなく狭い。

 さりとて浴室全体に漂う高級感は、温泉とは別種の満足感を与えていた。

 

 遅れてジェットバスを堪能するシーム。風変わりな泡の刺激に慣れてきた頃、

 

「ウラヌス、大丈夫かな……」

「んー?

 まぁ大丈夫でしょー。

 アイシャもルーレットで負けてヘコんだけど、時間が経ったらケロっとしてたじゃない。

 明日になったら忘れてるわよ、きっと」

「だといいんだけど……」

「気にしない、気にしない。いつものことでしょ?

 アタシがつっついたら、ああやってハズカシがるのなんて」

「……

 おねーちゃん。

 おかしなこと言って、2人が変な感じになっちゃったら、ぼく怒るって言ったよね?

 ちゃんと覚えてる?」

「あっ、うんうんうん!

 もちろんもちろん。忘れてなんかないわよ?」

 

 ものすごく疑わしげな目を向けるシーム。視線を逸らし、口笛を吹くメレオロン。

 

「……

 ベルさんと一緒にいると、なんかおねーちゃんが2人いるみたい」

「へ? どういう意味よ」

「……。わかってて言ってるでしょ」

 

 溜め息を吐いて湯で顔を拭うシームに、メレオロンは乾いた笑いを返した。

 

 

 

 

 

 頃合いを見て、私がウラヌスにサクラをおねだりし、出してもらった白にゃんこを私とベルさんが交代交代に愛でていた。

 今はガウンを着たベルさんに抱かれて、サクラは心地よさそうにジャレている。

 

「ホント可愛いわね、この子ー。

 ほらほら♪」

「にゃう、にゃぅ♪」

 

 テーブルを挟んで座るベルさん夫婦。私とウラヌスは、向かいで同じようにソファーへ座り、私は微笑ましく、ウラヌスは複雑な表情でそれを眺めていた。

 

「こちょこちょー♪」

「にゃ、にゃふぅ♪」

 

 ベルさんに口許をくすぐられて、なんとも言えない声で鳴くサクラ。

 

「んふふ♪

 ……ところでさー」

「うん?」

 

 誰にともなく尋ねるベルさんに、ウラヌスが反応する。

 

「あなた達、ルーレット勝負でなに賭けたの?」

『ぶふぅッ!?』

「にゃ?」

 

 うぉぉ、めっちゃ油断してた! いま聞くかっ!? そうだ忘れてたよスク水ゥゥゥッ!! またアレ着なくちゃいけないんだった……

 

 顔を赤くしたウラヌスが私をチラ見してくる。ぐぅぅ……自分が着るわけでもないのに、なに照れてんだ、このバカにゃんこ! オマエのせいだろ、この!

 

「べ……

 べつに関係ないだろ、オマエには」

「関係ないなら、教えてくれたっていいじゃない」

「たいしたことじゃねーよ。

 そのことは忘れろ」

 

 どうせなら、あなたも忘却していただけないですかねぇ? なかったことにしたぃ……

 

「なんかアレでしょ?

 やっぱり、負けたらエッチなことするとかさせるとか、そんなんでしょ?

 たとえば罰ゲームで、負けた方が全裸で買い物とか」

「賭けるかそんなモンッッ!!」

 

 そんなの、誰が得するんだ……。

 

「ん? じゃあナニよ?」

「……なんでもないっつってんだろ」

「そんなに顔真っ赤にしてぇ?

 なんでもないはずなのに、2人ともどうしたのぉ?」

「にゃう?」

 

 ぐぼふ……ベルさんマジやめて。動揺が抑えらんないよ。

 

「まぁよく分かんないけど、この後2人でお風呂入るんだし、その時にしちゃうとか?」

「……しちゃうって、なにがだよ」

「だから、負けた方にさせたいことをよ。

 何かは知らないけど♪」

 

 ん? それって……お風呂でスク水ってこと?

 んん? 余計恥ずかしいような気もするけど、ひょっとして外で着るよりまだマシか?

 

 悩ましく天秤に掛けていると、ウラヌスが首を横に振った。

 

「オマエの想像してるようなことじゃないって言っただろ?

 風呂じゃムリだよ」

「ふーん……そうなんだ」

 

 あ、そっか。言われてみれば条件が違うか。

 スク水を着るだけじゃなくて、次に水中潜るイベントがきたら、私がスク水を着て挑戦する、だったな。確かにお風呂で着てもダメだ。……く、嫌なことをさっさと終わらせるチャンスだと思ったのに……

 

「ねぇねぇ、サクラちゃん?

 あの2人ってば、負けたらナニするのかにゃー?」

「にゃう?」

「気になるわよね? 教えてほしいにゃあって」

「にゃん!

 にゃっ、にゃ」

「桜に妙なこと吹き込むな。

 そもそもそいつ、にゃーにゃー鳴くだけでどうしようもないだろうに」

「にゃ!」

「そんなことないわよ。

 ほらサクラちゃん、あの2人に聞いてきて♪」

「にゃんっ」

 

 ぴょいっとベルさんの手から飛び出し、テーブルに立つサクラ。私達をじっと見て、

 

「にゃ! にゃ!」

 

 前足をぺしぺしして、何か訴えてくる。これって、アレか? 刑事モノのドラマでよく見る、吐け吐くんだってヤツ? やめてよこんなの、萌えるじゃないか。

 

「こいつ調子乗ってやがんな……

 どーせ、意味も分かってないくせに」

「にゃにゃッ!

 にゃっ、にゃっ!」

「あーもう、喧嘩しないでくださいよ」

「ふにゃ?」

 

 サクラを抱え上げ、胸元に寄せる。怒ってたのに、すぐ甘えてすりすりしてくるサクラ。

 

「にゃぅー……」

「あらら。おっぱいで買収されちゃった」

 

 ぶッ! と吹き出すウラヌスとモタリケさん。

 

「やめてくださいよ、そんなこと言うの……

 サクラが怒ってる時は、こうすると落ち着いてくれるんですよ」

「そりゃそうよねぇ……

 多分わたしでもそうなるわ」

 

 しみじみとベルさん。なんだそりゃ?

 

 

 

「はぁー、よかったわー……

 ホテルのお風呂もなかなかのもんねぇ」

「あーっ! 桜だぁ♪」

 

 姉弟が上がってきた。ウラヌスの頭に鎮座するサクラを目ざとく見つけて、喜び勇んで駆け寄ってくるシーム。

 

「にゃう?」

 

 振り返るサクラを、ひょいと抱え込むシーム。子供サイズのガウンがまた可愛らしい。

 

 嬉しそうに頬ずりしながら、

 

「さーくらぁー♪ ぅー♪」

「にゃあーん♪」

 

 ソファーに座ったままのウラヌスが、半眼で振り向き、

 

「ようやく上がってきたな。

 ふぁーあ……

 ……もう遅いし、そろそろ寝るかぁ」

 

 は? まだ9時半だぞ?

 

「なぁに、ぶっこいてんですかねぇ?

 このバカにゃんこは」

 

 白々しくほざいてくれたので、肩をガッと掴んで毒を吐く。

 

「ぇ……

 エッッ!? バカにゃんこって──俺ッッ!?」

「他に誰がいるってんですか。逃がしませんよ」

「いや、それコイツのことだろッ!?」

 

 間違いであってくれと言わんばかりに、サクラを指差すウラヌス。当のサクラは失礼な、と不機嫌そうな顔で、ぷいっと横を向いた。

 

「違うに決まってるじゃないですか。

 サクラは賢いんですから、あなたと一緒にしないでください」

「それ俺のセリフぅぅぅーーッッ!!」

「あっはははははは♪」

 

 私達のコントに、手を叩いて喜ぶベルさん。モタリケさんも口許を押さえて、笑うのを堪えてる。

 

「さ、私達の番ですよ。立ちなさい」

 

 先に立ち上がり、立つよう手で促す。私を見上げて、ぶるぶる震えるバカにゃんこ。

 

「え、これなんなん……?

 オレ、今から死んでしまうん?」

「かんぺき、処刑場に連れてかれる死刑囚よね」

 

 メレオロンが煽り、ベルさんが足をじたばたさせて笑い悶えてる。どうだかなぁ……。私からすれば、お風呂イヤがるにゃんこの首根っこ摘まんで持ってく気分だけど。

 

「アイシャ、ムチャしちゃダメだよ?」

「にゃん?」

 

 シームが不安そうに聞いてくるので、私は少し毒気を抜かれ、

 

「あー……大丈夫ですよ。

 勝手に怖がってるだけで、私は何もしませんから」

「ほんとだよ?

 マジでなにもしないでね?」

「……」

 

 横入りしたにゃんこが念押ししてくるので、とりあえず沈黙を返す。

 

「なんか言ってよ!?」

「さっさと立ちなさい」

「」

 

 目を白黒させて言葉を失うバカにゃんこを、私はやむなく胴に腕を回して肩に担いだ。

 

「きゃああーっっっ!

 やめてぇぇぇぇえー!! はなしてはなしてぇぇぇぇーッ!!」

「シーム、お風呂場まで案内してもらえます?」

「あ、う、うん」

 

 歩き出すと、担いだにゃんこが暴れ出した。くそっ、歩きづらいな。

 

「はぁーなぁーしぃーてぇぇぇぇッッ!!」

「騒がしいバカにゃんこですね。

 当て身くらわせますよ」

「はにゃーっ!?」

 

 脇腹を軽くつねると、バタ足で抵抗するにゃんこがビクーンと跳ね、だらんと脱力した。

 

「はぅはぅはぅー……」

 

 にゃんこが洩らす涙声に満足し、運搬を再開する。

 

「ウラヌス……

 大人しくしてないと、多分アイシャ本気だよ?」

「そんなこと言わないで、シーム助けてぇっ!!」

 

 悪あがくなぁ。諦めたまえ、バカにゃんこくん。

 

「……だって。桜、どうする?」

「にゃ、にゃ」

「ダメだって」

「ついに、飼い主にも見捨てられましたね」

「ツッコミが追いつかないぃぃぃぃぃぃッッ!!」

 

 背後からテーブルをばんばん叩くベルさんの爆笑が響きわたった。

 

 

 

 

 

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