どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百六十六章

 

「2人ともお疲れ様です。気晴らしになりましたか?」

 

 受付横の扉から戻ってきた2人にそう声をかける。ウラヌスは苦笑し、

 

「悪くはなかったかな」

「ぼく、ずっと足引っ張ってた……」

「ああいう戦い方をさせたのは俺だよ。

 シームはよくやってたし、気にしなくていい」

「すばらしい連携でしたよ。

 なかなか見応えがありました」

「アンタも動けてたじゃない。

 初見でアレなら上出来でしょ」

 

 厳密には、初見ではあっても未知ではないんだよね。ウラヌスの事前情報があるから。けど、それを差し引いても動けるようにはなってる。子熊と戦った時とは雲泥だな。

 ……連携についてはお世辞じゃないけどね。シームが戦えるよう、ウラヌスが先んじて補助していたけど、文句なしに練達の域だ。

 前回ソロでプレイしてたとか、そんなレベルの話じゃない。明らかに集団戦闘の稽古を積んだ者の動きだ。……只者じゃないとは思ってたけど、ホントなんなんだろうな。

 

「シーム。とりあえず、受付で賞品」

「……うん」

 

 背を向けていた受付へ、2人が振り向く。

 

「ビギナーランク突破、おめでとうございます。

 こちらが賞品です」

 

 カウンターに出されるカード。どれどれ。

 

 

『608:ドリアス記念銀貨』

 ランクF カード化限度枚数190

 ドリアス闘技場の ビギナーランクを勝利した 記念銀貨

 アイテム状でも その価値を損わない

 

 

 ん? アイテム状でも……ってなんだろ? その一文を指してウラヌスを見ると、

 

「カジノチップと同じで、アイテム状態で持ち運ぶのが前提なんだよ。

 具体的には、カードかアイテムかを問わず、トレードショップに行けば3万ジェニーで売れる」

 

 ふぅん。持ち運びやすい換金アイテムって感じか。

 

「シーム、これはゲインして持ってていいよ」

 

 ウラヌスはそう言ってからカードを手に取り、渡そうとする。

 

「……いいの?」

「文字通り、しばらく記念にな。

 シームがもういらないと思ったら売るから、それまで好きにしていい」

「うん!

 ──ゲイン!」

 

 渡されたカードを手に、ゲインするシーム。宙に現れた白銀の硬貨を掴み、しげしげと眺めるシーム。

 

「あ、そうだ。

 これ忘れないうちに換金しといて」

 

 言って、ウラヌスに賭け札を渡そうとするメレオロン。

 

「ん? ああ、賭けてたのか。

 分かった、やっとくよ」

「お願いね。

 アイシャ、アタシ達もそろそろ行く?」

「そうですね。ぐずぐずしても仕方ないですし」

「なら2人とも受付しちゃって。

 アレはすぐやるから」

「はい。

 ビギナーランクに参加します。私と」

「アタシ」

「アイシャ様、メレオロン様ですね。

 2名様でのビギナーランクへの参加登録、受け付け完了いたしました。

 そちらの扉から進んでいただき、控え室でお待ちください」

 

 鉄の扉が三度(み たび)開き、下り階段が目に入る。

 

「アイシャ、そのままじっとしてて」

「はい」

 

 髪に触れる気配。何となく目を閉じる。やがて、私の全身をオーラが包み込んだ。

 

「はい、いいよ。いってらっしゃい」

「いってきますね」

「おねーちゃん、ケガしちゃダメだよ」

「わかってるって。そんなドジ踏まないわよ」

 

 心配させまいと軽口を叩くメレオロンに苦笑しながら、扉の奥へと進む。メレオロンが後ろから付いてきて、階段を降りる背後で扉の閉まる音が響いた。

 

「アンタ、ずいぶん気を許してるのね」

「へ?」

「ウラヌスに『周』してもらう時って、それなりに緊張してたじゃない。

 それが今は、むしろリラックスして身を委ねてる感じだったもの。アイツのこと、信頼してるんだなって」

 

 うーん……別にそんなつもりはなかったんだけどな。でも、自然とそうなっていたかもしれない。信頼うんぬんに関しては今さらでもある。そもそも信用してなかったら、私はここにいないんだから。

 

 

 

 

 

「んー……」

 

 

『ビギナーランク バトル

 アイシャ & メレオロン ペア

 WIN 1.001

 LOSE 2.000』

 

 

「さっきもこうだったのかな?」

「だろうな。1万の賭け札で、儲けが10ジェニーとかマジ吹くんだけど」

 

 オッズ表示を半眼で見上げ続けるシーム。気持ちは分かる。

 

「買った方がいいと思う?」

「別にいらないんじゃね? 正直アホくさいじゃん」

「うん……

 あれってどういう基準で決まってるの?」

「オッズか?

 普段のバトルは大体決まってて、勝率とオッズはトントンになってる。

 プレイヤー参加時は、まぁオーラ量かもな。参加したことあるプレイヤーなら、勝率を見てる。後、プレイヤーが賭け札を買った時も変動する。八百長やリスキーダイスを警戒してるんだと思うけど。……そんなもんか」

「へぇー」

「参加せずに、純粋に賭けを楽しんでるプレイヤーも前は結構いたな。今は知らんけど。

 プレイヤーが参加したら戦ってるところも見れるし、割と実入りのある場所だよ」

「でも全然誰も来ないね」

「プレイヤーも大分減っただろうし、こんな朝早くに誰も来ないさ。

 もし来たとしても、俺達がいたらすぐ帰るかもな。他のプレイヤーが参戦してる時は、参加登録しても待ちになるから」

 

 

 

 

 

 控え室で準備運動する私達。もうそろそろかな。

 

「メレオロン。

 私はウラヌスと違って、あなたを守る余力はありません。

 自分の身は自分で守ってくださいね」

「わかってるってば。

 シームみたいな心配しなくていいわよ。

 あんたこそ、アタシを気にしてケガなんてしちゃダメよ」

「ええ」

 

 もし2人のどちらかでも負傷したら、それこそウラヌスは気分を害するだろう。ここは気持ちよく無傷で勝っておかないとな。

 

『──アイシャ選手、メレオロン選手。お時間ですので、試合場にお越しください』

 

 私達は頷きあい、控え室を出た。

 

 

 

 

 

「あっ! 出てきた!」

「うーん。気合い入ってんなー」

 

 開いた2つの扉のうち1つから、アイシャとメレオロンが出てきた。やや表情が険しい。はっきり言って相手は雑魚だけど、油断しないのは結構なことだ。

 

『──これより、アイシャ選手とメレオロン選手のビギナーランク戦を開始します。

 第一試合、対戦相手入場!』

 

 さっき俺達と戦った拳闘家くずれが現れる。

 

『それでは早速試合開始です! 第一試合──はじめッッ!!』

 

 闘技場に銅鑼が鳴り響く。

 

 

 

 ──ぶっちゃけ、3試合ともあっという間に終わった。

 

 ま、当然だわな。アイシャが敵の初撃を捌き、動きも止める。そこをメレオロンが一撃。威力がありすぎて、それだけで決着がつく。さっき見てたからだろう、対策も済んでる。そりゃ勝つわ。

 結局ロクに休憩もせず、ビギナーランクを即突破。速かったなー。

 

「2人とも楽勝だったね……」

「あれじゃ、全然修行になってないと思うけどな」

 

 それも分かってたことだ。本番はむしろこれから。所詮ビギナーランクだからな。

 

 

 

「おつか……れ?」

 

 受付そばの扉から帰ってきた2人は、なんか不機嫌だった。

 

「次からは、しっかりしてくださいね」

「えー。それってアタシが悪いのー?」

「そうじゃないですか」

「でも実際問題──」

「待った待った。なんで2人とも喧嘩してんの?」

 

 俺が制止すると、言葉を遮られたメレオロンが気分悪そうに、

 

「ちょっと聞いてよ。

 アイシャってば、アタシに力加減要求してくんのよ?」

「当たり前じゃないですか。

 連携する時に力任せじゃ上手くいきませんよ」

「いきなり言われたって、うまくいかないってば。

 むしろ今まで足りないって思ってたのに」

「相手に対して、威力が大きすぎます。オーラを込めすぎですし、力みすぎです。

 修行したいのに、あんなに早く倒したら何もできないじゃないですか」

「修行なら午後からするじゃない」

「実戦経験は、実戦でしか積めません」

 

 俺は額を押さえ、手を振りながら、

 

「あーうん、わかったから……」

 

 認識の違いだな。修行したい・させたいアイシャと、早く終わらせたいメレオロンの。

 

「メレオロン、アイシャが実戦経験積ませたがってるのは分かってただろ?

 指示通り出来なかったのは事実なんだから、そこは認めろよ」

「だってぇー……」

「言いたいことは分かってるよ。

 アイシャ、事前の打ち合わせが不十分だったんじゃない?

 いきなり言われて、すぐ出来るのが当たり前ってことはないだろ? メレオロンだって修行したがってるわけじゃないんだから、そんな上から言ったって聞きゃしないよ」

「……上からなんて、言ってるつもりありません」

「上手くいかなかったのを叱ったら同じだよ。

 少なくとも、連携の修行をしようって時に仲違いしてるんじゃ本末転倒じゃないか」

「ぅ……はい……」

 

 俺は嘆息1つ挟み、

 

「まぁ俺の方針が甘いってのは分かってるけどね。

 急いで鍛えるなら、アイシャのやり方がいいんだろうけど……」

「アタシは、ウラヌスの方がいいんだけどなぁ」

「……シームは?」

「わかんないよ、そんなの……」

「はぁー。

 ……アイシャ。修行したいのは分かるから、あらかじめ計画練ろう?

 次は全員参加するからさ。俺も協力する」

「はい……」

「ん。

 ……忘れないうちに受付で賞品もらって」

 

 

 

 

 

 賞品を受け取り、次に挑戦するランクの情報、くわえて綿密な戦闘プラン。その辺りの相談が終わり、

 

「じゃ、登録するよ。

 ──ビーストランクに参加する。俺と」

「私と」

「ボクと」

「アタシで」

「ウラヌス様、アイシャ様、シーム様、メレオロン様ですね。

 4名様でのビーストランクへの参加登録、受け付け完了いたしました。

 そちらの扉から進んでいただき、控え室でお待ちください」

 

 

 

 4人で居るには狭い控え室でやきもきしながら、ようやく呼び出しがかかり、試合場へ。

 

『──これより、ウラヌスチーム4選手のビーストランク戦を開始します。

 第一試合、対戦相手入場!』

 

 全5戦のうち、初戦の相手が向かいの扉から出て来る。視界の端で、シームが嫌な顔をするのが見えた。

 

 ──茶色の熊。のっしのっしと試合場の中央近くまで二足で歩いてくる。私達を隙なく睨みつけてくる獣の眼。筋肉質な身体を躍動させ、今にも飛び掛かってきそうだ。

 

『それでは早速試合開始です! 第一試合──はじめッッ!!』

 

 闘技場に何度目かのドラが鳴り響いた。

 

「がぉぉぉぉっ!!」

 

 吠えて四足になった熊が、私達へと一気に詰め寄る。

 あの白熊に比べれば体躯は小さく、動きも精彩を欠く。見たままに獣のレベルだ。

 

 間近に来た熊が二足で立ち上がった瞬間、私とウラヌスが同時に一歩詰めた。間合いを潰され、固まる熊。逃さず、左右に別れた私達が両側から後ろ足を払う。

 

 耐えられるはずもなく、前のめりに倒れる熊。立ち上がれないよう、前足を2人で抑え込み、

 

「やっ!」

 

 シームが熊の脇腹へ蹴りを入れる。メレオロンも反対側から蹴る。威力をセーブしたのだろう、彼女の一撃で熊が大きく揺れたものの、まだ倒せない。

 

 飛び上がるシーム。熊の背へ全体重を乗せた両膝をどすんっと叩きつけた。

 

「ごあぁぁぁっ!!」

 

 苦鳴をあげるが、まだ熊は倒せない。

 

「はぁっ!!」

 

 熊に乗ったまま、シームが両手を固め、背中へ力いっぱい振り下ろした。

 

 その一撃を受けた熊──私達の拘束から逃れようとしていた力が、消える。

 

 ボンッ! と煙になり、シームがどてっと落ちた。

 

『──それまで!

 第一試合、ウラヌスチーム4選手の勝利です!』

 

 シームが激しく呼吸する。やっぱり極度の緊張で疲労が大きいんだろうな。

 

「ふぅっ、ふぅ……」

「大丈夫?」

「だい、じょぶ」

 

 そんな姉弟を脇目に、ウラヌスへ目配せする。頷くウラヌス。

 

「予定通り、シームの参戦はここまでな。

 後はケガしないようにだけ気を付けてくれ」

「アタシも?」

「メレオロンは防戦に専念してください。

 積極的な手出しは無用です」

「分かったわ」

 

 シームを守るのはメレオロンの役目だ。私とウラヌスで敵を撃破、後4戦はこの布陣で行く。

 

 事前情報では、雑魚はこの1戦目だけ。ここからは敵も複数になる為、私もウラヌスも手が回り切らなくなる。だから、シームの実戦稽古はここまでだ。

 

 座り込んでいたシームが立ち上がり、こくんと頷く。ウラヌスが手を上げ、下ろした。

 

『会場の皆様、お待たせいたしました。

 ビーストランク第二試合、対戦相手入場!』

 

 向かいの扉から、ぞろぞろと黒い犬が現れる──その数8体。

 

『ううぅぅぅー……』

 

 唸り声をあげる獣の群れに、じりっと距離を取る。初見ではない──トラリアの坑道で交戦したハウンドドッグだ。

 

『それでは試合開始です!

 第二試合──はじめッッ!!』

 

 ドラが鳴らされる。

 

 前方に陣取っていた犬達が、私達を取り囲むように動き出す。その場で足を止めていた2体を私とウラヌスが強襲、放った蹴り足が正確に鼻頭を捉え、煙と化した。

 先んじて動いた犬を追う。戸惑った1体、逃げかけた2体目を片付ける。

 足を速めたウラヌスが犬を(ほふ)るのが目に映る──そちらはもういない。けれど私の担当すべき1体が、姉弟へ駆けている。

 迎え撃つメレオロン。蹴りを放つが当たらない──けど、警戒して犬が踏み止まった。その隙に私が追いつき、手刀で鼻先を薙ぐ。

 

 8体全てが、煙と消えた。

 

『──それまで!

 第二試合、ウラヌスチーム4選手の勝利です!』

 

「すいません」

「いい、いい。アタシこそ仕留められなくてゴメン」

「みんな、どうする? すぐいけそう?」

「私は大丈夫です」

「アタシも」

「ぼくも」

 

 頷き、休憩せずに次へ進めるウラヌス。

 

『会場の皆様、続けてビーストランク第三試合、対戦相手入場です!』

 

 扉向こうの暗がりから、試合場の明かりに照らされ、金色に体毛を輝かせる虎が現れる。2体。

 開いた口許から長大な犬歯を覗かせ、勇壮な体格を惜しみなく晒し、近づいてくる。

 

「ぐるるるる……」

 

 低い音で喉を鳴らし、こちらを威嚇する。

 

「なんか、すんごい強そうなんだけど……」

「サーベルタイガー。実在の希少種だな。

 ちなみにランクF」

 

 本音を言えば、さっきより全然やりやすいよ。2体だからね。手分けして片付くから、守りを意識する必要がほとんどない。

 

「アイシャ、遊びは無し」

「当然です」

 

 答えながら、足場を踏み固める。

 

『それでは試合開始です!

 第三試合──はじめッッ!!』

 

 ドラが鳴り響く中、一足に虎の真正面へ。

 

 ぼぐッ!!

 

 獣が身動きする前に顎を蹴り上げる。顎の骨が砕け、牙が折れる。獣の肉体が宙を舞う──その傍らに、同期するように舞うもう1体の虎。

 落下することなく、2体のサーベルタイガーは煙と散った。

 

『──それまで!

 第三試合、ウラヌスチーム4選手の勝利です!』

 

 隣のウラヌスと顔を見合わせながら、蹴り上げた足を下ろす。

 彼がプッと吹き出し、口許を押さえてクスクス笑う。

 

「なんであそこまでピッタリなのさ、虎が空でユニゾンしてビビッたよ」

「ふふ、作戦通りじゃないですか」

「そうだけど、ギャグじゃんソックリそのまま虎2匹ぶっ飛ぶとか。

 アッハハハ」

 

 ツボに入ったのか、屈託なく笑う彼にほっとする。どうやら機嫌は直ったみたいだな。

 メレオロンが呆れた顔で、

 

「まったく、虎よりアンタ達のほうがよっぽど獰猛だわ」

 

 む。獰猛とは失礼な。

 

「こんな可愛いにゃんこ捕まえて、獰猛だなんてヒドイじゃないですか」

「ちょっと、やめてよアイシャ」

 

 まだ笑ってるウラヌス。やがて「はぁー」と一息吐き、

 

「じゃ、続けるね」

 

 ウラヌスが休憩終了を告げる。

 

『会場の皆様、お待たせいたしました。

 ビーストランク第四試合、対戦相手入場!』

 

 今度は向かいの扉ではなく、試合場に設置された別の扉が開く。扉と言っても向こうが見えないほど格子が詰まった鉄檻で、それが横へスライドする。

 

『ぶき、ぶき』

 

 出てきたのは……あ、見覚えあるな。ウラヌスの事前情報で、もしかしたらと思ってたけど……

 檻から現れたのは3m超の大豚だ。……いや待て、3mどころじゃないぞ。あれ、5m近くないか? 身体的特徴から見て、おそらく同種だろうけどさ。

 

「私、ハンター試験で見たことありますよ」

「アレを? ……グレイトスタンプだね、多分。

 前に話してた、ブハラの試験?」

「ええ……」

「ブハラのアホ、あんなもん何十頭も食ったのか……なに考えてんだ」

 

 心底呆れ返って首筋をかくウラヌス。話してるうち、豚3匹がのそのそと試合場中央へやってくる。このサイズだと、可愛げも何もないな。サイズ関係無しに可愛くなんかないけど。

 

「アイツらはグレイトスタンプを遺伝子改造したって代物らしい。俺には品種改悪にしか見えんけど……」

 

 それ以上ウラヌスは説明しない。動きも弱点も予め聞いたからね。作戦も立て終わっている。後は戦うだけだ。

 3匹の大豚が、こちらをギロギロと睥睨(へいげい)する。巨体の圧力に、シームがたじろぐ気配。メレオロンがしっかりと弟を抱く。

 

『それでは試合開始です!

 第四試合──はじめッッ!!』

 

 ドラが鳴り響いた。

 

 大豚が揃って、鼻から息を思いきり吸い込み──

 

「ブオオオオオッッ!!」

 

 こちらへ一斉に吐き出す! オーラの気流に見舞われる──盾になったウラヌスの背が。私達をかばうのは作戦通りだ。こう来ることは予想していた。3人とも盾の彼を頼りに、暴風の中その場に踏みとどまる。

 盛大に広がりハタめいていた桜色の髪が、収まる。

 

 ドドドッドドドッ!!

 

 軽く地響きを立てて、大豚3匹が鼻から突撃してくる。メレオロンとシームは真後ろに退避、ウラヌスは豚達へ振り向き、私はそのウラヌスの背から少し離れ、機を計る。

 

 ごごごンッッ!! ぶきィィィィ──ずざざざッ!

 

 巨人の籠手を発動したウラヌスが、その巨大な腕で3匹の突進を正面から受け止める。私は真横へ避け、ウラヌスに衝突して勢いのまま滑りゆく豚の背に飛び乗る。頭を靴底で一撃。

 煙になる前に背を蹴る。更にもう1匹の頭部に向かって跳び、かすめるように踵で蹴りつけて地面に着地した。

 2匹の豚が崩れ、煙になる。煙の中、どんっ! と音が響いた。

 

 煙が晴れると、ウラヌスの巨拳で頭を殴られ、地面にへたる豚の姿。ボンッ! と煙になった。

 

『──それまで!

 第四試合、ウラヌスチーム4選手の勝利です!』

 

 ウラヌスが籠手を消す。出しっぱなしの方がコストは良いらしいけど、次戦ではむしろ邪魔になる。なので消さざるを得ない。

 

「大丈夫ですか?」

「……まあ、攻撃はね。ダメージは受けてないよ。

 急に消耗したからアレだけど……」

 

 あれほどの巨体の突進を3匹ぶん同時に正面から受けたんだ。おそらく荷重は10トンを越えただろう。無傷で凌げたとしても、消耗は免れないはず。実際、顔色が少し悪い。

 

「アンタ達、だいじょうぶ?」

 

 後方へ逃れていた姉弟が戻ってくる。

 

「ええ、私の方は」

「んー……30秒休ませて」

「そう言わず、もっと休んでいいですよ」

「ううん、30秒で充分」

 

 呼吸を穏やかにし、気配を薄れさせるウラヌス。話しかけず、彼の回復を静かに待つ。

 

 

 

『会場の皆様、お待たせいたしました。

 ビーストランク第五試合、対戦相手入場!』

 

 休憩を終えたウラヌスの合図で、最終戦の扉が開く。

 

『チューーーッッ!!』

 

 甲高い奇声をあげ、大量の小動物が扉から駆けてきた。その全身は炎に包まれ、赤々と燃え盛っている。

 

「うわぁ」

 

 嫌そうにメレオロン。私だって嫌だよ、こんなの。見知っているはずのウラヌスですら、隠すことなく顔をしかめている。

 

 炎を纏う火鼠、ファイアーボールというモンスターらしい。それが約30匹。離れて立つ私達にまで、その熱気が届く。にわかに揺らめく試合場の景色。

 

『いよいよビーストランク最終戦、試合開始です!

 第五試合──はじめッッ!!』

 

 ドラの音が強く会場に響きわたった。

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 
・ビギナーランク対戦相手カード情報

『10329:拳闘家くずれ』
 ランクF カード化限度枚数169
 元ボクサーの 喧嘩屋
 いくばくかの技術はあるが 現役にはほど遠い力量


『636:夜盗』
 ランクF カード化限度枚数149
 黒装束に身を包み 夜間に町や村を襲う盗人
 力はさほどだが 素早さが高く 刃物による一撃が怖い


『10345:剣闘士』
 ランクF カード化限度枚数137
 グラディエーター たくみに刀剣を操る
 武装は少ないため 攻撃力の割に防御力は低い
 ただし体力は低くない



・ビーストランク対戦相手カード情報

『674:ベアブラウン』
 ランクH カード化限度枚数755
 狂暴な茶熊 森を徘徊しており 人を見ると襲いかかってくる
 体躯は並みだが 野生の獣としては上位の強さ


『536:ハウンドドッグ』
 ランクG カード化限度枚数646
 コボルトに飼いならされた黒い猟犬 集団だと侮れない


『534:サーベルタイガー』
 ランクF カード化限度枚数288
 長牙虎 異常なまでに発達した犬歯で獲物を引き裂く
 敏捷性も高く 攻勢に回ると手強い獣
 その反面 顎や牙は意外に打たれ弱い


『558:ジャイアントスタンプ』
 ランクE カード化限度枚数115
 遺伝子改造された 巨大なグレイトスタンプ
 鼻からオーラの気流を放ち 動きを止めた獲物に鼻から体当たりする
 弱点の頭部も強化されている


『532:ファイアーボール』
 ランクD カード化限度枚数78
 火口に棲まう 伝説の火鼠 常に赤い炎に包まれており
 小柄ながら 非常に高い攻撃力をもつ
 しかし 大量に水を浴びると死んでしまう




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