どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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アムリタ編 2000/9/14 ~ 9/15
第十八章


 

 なんだか食欲のなくなりそうな話題を終え、そろそろ移動を始める為、ゴンへ説明するアイシャ。

 

「1人で世界各国ぶらり旅をしたいので、しばらく連絡を絶ちます。心配しないで下さい──と、私が言っていたと伝えてくれれば問題ありません。

 以前から世界を旅したいと私は話してましたし、実際旅行したこともありますからね」

「うーん……

 それで大丈夫かなぁ」

「父さんと母さんにも、そう伝えるようにお願いしています。

 あとレオリオさんの御守りも、自宅に置いてありますので。

 携帯は……どうしようもないですね。この後、電源を切りっぱなしにしておきます」

「……やっぱり、長引くと難しいと思うよ」

「そうですね……

 私もあまり長引くようなら、一度帰ろうと思います。

 みんなにジャマされてしまうぐらいなら、私が離脱した方がいいでしょうし」

「いちおう聞くけど……

 バレちゃったら?」

「……

 その時はその時、ですね。また戦いますか。はぁ……」

「オレ、その時はどうしたらいい?」

「ゴン自身の判断にお任せしますよ。

 だって、私が男になるの反対なんでしょ?」

「いや、オレは反対しないって言ったよ?」

「アレそうでしたっけー」

 

 からかわれていると気づき、ゴンは苦笑する。

 

「アイシャ、オレを困らせないでよ」

「ふふ、ごめんなさい。

 ……でも、本当にしばらくの間、迷惑をかけてしまうと思います。

 無理のない範囲で協力してくれれば充分です。お願いします」

「うん、分かった。

 ……じゃあオレ、そろそろ戻るね」

「ええ、みんなによろしく。

 ゴン。相談にも乗ってくれてありがとう」

「うん! オレもまた遊んでるみたいで楽しかった!

 みんな、グリードアイランド頑張ってね!」

 

 

 

 ゴンが立ち去り、散らかった中央を一通り片づけ終えた後。

 くるりくるりと回りながら、

 

「さぁて、今日ものんびり昼寝しますかー」

 

 メレオロンがベッドに「オフトゥン」と言ってダイブする。

 

「おいコラ。もうグリードアイランド行くっての。

 気構えしろぃ」

「おねーちゃん、もうあきらめなって」

「ゲームに入ったら、楽しい修行の始まりですよー」

「しばきたい、この美少女」

 

 メレオロンがベッドに突っ伏したまま、呪いを吐いた。

 

 

 

 昼の時間ではあったが、もう食事は充分だったので、そのまま飛行船で移動を開始。

 

 アームストルから数時間ほど空の旅──

 

 一行は、小さな港町アムリタへと到着した。

 

 

 

 メレオロンとシームは、茶色いツナギをしっかり着て、フードを目深にかぶっていた。この状態で『絶』をしているので、おそらくほとんど普通の人の目には留まらないだろう。命が懸かってるだけあって、見事な隠形だ。

 ただ、私とウラヌスがワリと人目を引いてるから、一緒にいたら意味ないんだけど……。なので、少し離れて行動している。

 

 私達は飛行船を降りて、軽く買い物をしながら荷物を持って移動。ウラヌスの案内の元、ある建物の中にいた。

 

「……以前、ゲームでアムリタ港を選択した時は、この建物に戻された。

 おそらくグリードアイランド製作者の所有物件なんだろうな。ただの空き物件みたいに見えるけど、設定された帰還ポイントなんだと思う」

 

 何もない、ひらけたスペース。転落防止の柵の向こうに、質素な街並みと綺麗な港湾が望める。今は(あけ)に染まっているから、本当にいい景色。港に吹く潮風に私は鼻をむずむずさせた。海か……

 

「ゲームの港から戻ってくる時は、基本的にアムリタ港を選んでくれ。

 ここは、俺達がゲームを開始する拠点と最も近い場所だ。

 今から徒歩で拠点まで移動する。不測の事態が起きて、一人でゲームの中に戻らなきゃいけない時に備えて、道を覚えておいてほしい」

 

「どれぐらいの距離なんですか?」

 

 シームが不安そうに尋ねる。

 

「うーん、まぁ100㎞かな」

「ぅ……」

「改めて言っとくけど、多分今日は寝れないぞ。

 明日どっかで仮眠は取るけど、強行軍は覚悟しとけよ」

 

 ウラヌスの脅しに、メレオロンもちょっと嫌そうな顔をする。

 

「……」

 

 私が微妙な顔をして黙ってると、ウラヌスがこちらを見やり、

 

「アイシャ。

 分かってると思うけど、君の『あの時間』と睡眠のタイミングを(かぶ)せにいく。

 大丈夫ならいいけど、起きた後も眠気があったら言ってくれ。善処する」

 

「……はい」

「あらまぁ、お優しいことで」

 

 メレオロンが、肩をすくめてぼやく。ウラヌスが不機嫌そうに、

 

「……つつくなよ。

 ここからは、どれだけ慎重でも足りないぐらいなんだ。

 どう転んでも、アイシャはこのチームが行動する際の要だ(かなめ )

 基本的に指針の中心として据えてくから、そのつもりで」

 

 うぅぅ。本当に私は、グリードアイランドと相性が悪いんだよな……

 

「ま、こんなトコで大事な話はそろそろやめよう。

 拠点への移動を優先する。行くぞ」

「はい」

「あいよ」

「ボクついていけるかなぁ……」

 

 

 

 徒歩と言っても、町の中は道を覚えられる程度に早足で駆け抜けた。

 

 町を出てからは、メレオロンとシームも『絶』から『纏』へと移行し、未整地の荒野を疾走、ハイペースで移動する。

 

 やはりというか、オーラ量で遥かに劣るシームがペースダウンを招いていた。薄暗い、不安を掻き立てる道中を私達は遠慮気味に駆け抜けていく。ていうか、ちょっとヒラヒラがね。うん……

 

「グリードアイランドの中じゃ、嫌でもこの手の移動が増えるからな。

 ちゃんと身体慣らしとけよ」

「っふ……っふ……っふ」

 

 全然余裕そうな感じで、シームに声をかけるウラヌス。すぐに先頭へ戻り、集団の疾走ペースを整える。本当に急ぐのであれば、シームを抱えていくべきなんだろうけど、もうすでに修行は始まっているということだ。私も飛行船の移動中に、少し『点』と『纏』の指導をさせてもらった。一生懸命説明してたら、なんか嫌がられたけど……

 

「シームー。あんた男の子なんだから、頑張んなさいよぉ。

 ほら、見てみなさい。アイシャなんて、あんなアホみたいな大きいリュックを背負って走ってるのに、汗一つかいてない」

「っっふぅ……っふぅ……っふぅ」

 

 メレオロンもそういうつつき方しないであげてほしい。私とシームじゃオーラ量に差がありすぎる。身体能力も、相応にひらきがあって当然だ。あとアホみたいとか言うんじゃない。

 

「ん?

 なに、アイシャ?」

「……そういえば、2人は荷物ないんですか?」

「逃亡中の身だから、せいぜい服と金ぐらいよ。

 必要なものは全部ウラヌスに預かってもらってる」

 

 先頭を走るウラヌスへ目を向けると、彼は彼でかなりの量の荷物をリュックに詰めて、背負っている。多分、私とそう変わんないと思う。なんで私だけアホって言われるんだ。

 

「どしたの? アイシャ」

「……なんでもありません」

 

 怪訝そうにするメレオロンから視線を逸らして雑念を消し、先頭を走るウラヌスに追いつく。

 

「ウラヌス。私の荷物なんですけど……」

「ああ、その話はしようと思ってたよ。

 キミがゲームへ入る時、荷物は持たなくていい。俺達が持って入る。

 ただ、入る前に荷物整理はしてくれよ。いくら何でも1人分の量としちゃおかしい」

「あ、はい……」

 

 なんか遠回しにアホって言われた。ぅぐぐ。

 

「ん? どうしたの?」

 

 やっぱり怪訝そうにしてくるウラヌス。今の私、顔に感情出しすぎかなぁ……

 

「なんでもありません」

「そもそも、何でそんな荷物量なんだ?

 大概のものはゲームの中で手に入るから、そこまで……」

「あなただって、私と変わらないじゃないですか」

「うん……

 俺は神字の研究用品が、ちょっと荷物になるんだよ。

 最初の方で使い捨てにするつもりの、生活用品も多いし。後は、今日の夕食」

「……

 私は半分くらいが服です。それがかさばってて」

「服? 服なんて、中で買えるじゃん」

「その……

 あんまり……あ、合う服がなくて……」

「……

 …………

 ごめん。俺、キミをうらやましいとか言ったの、ちょっと反省する」

 

 分かっていただけて何よりだけど、ちっとも面白くない。ほんっと、こんな胸いらないんだけど……リィーナからもらった服も、胸元キツくなってきたのがあるしな……くっ。

 

「まぁ言っても、俺もこの服が気に入ってるから、予備何着も入れてるけどね。

 ……っと、そろそろだな」

 

 ウラヌスが右手を上げて、くるりと回す。合わせてペースダウン。一行の疾走が緩まる。

 ほとんど平たい岩盤しかなかった荒野から、見上げるほどの大きな岩が乱立する岩場に入っていく。このへんは石切り場かな。あちこち崩れてて、放棄されてから年月が過ぎた感じだ。

 

「このペースで後1分!」

 

 全員に聞こえるよう伝えるウラヌス。港から徒歩で戻ってくることを考えると、地形を記憶した方がいいんだろう。あちこちに目をやりながら疾走を続ける。……あ、でも私はどうだろうな。簡単にゲームから出たり入ったりできないし。

 

「ストーップ!」

 

 ウラヌスが急速に速度を落とし、立ち止まった。

 私が続けて止まり、メレオロンが「ふー」と言いながら、タッタと停止する。シームは離れたところから歩いてこちらへ近づいていた。

 

「この四角い岩、目印な。よく覚えておいてくれ」

 

 ウラヌスの指差す先、やけに綺麗な立方体の岩がある。他にも岩がゴロゴロしてるので分かりにくいけど、知ってさえいれば目印にはなりそうだ。

 シームはやっぱりというか、かなりヘトヘトになっていた。ウラヌスは全然平気そう。私も全く疲れてはいない。メレオロンは……やけに呼吸が荒い。

 

「メレオロン、走るのは苦手ですか?」

 

 オーラ量の割に疲れてる感じなので、聞いてみる。

 

「んー。やっぱり身体能力が低いから、でしょうね。特にスタミナは……

 アタシ特質だから……強化、向いてないもん」

 

 ……私も特質なんだけどなー。

 

「つったって、俺は無系統だぞ。得意でも何でもない。

 身体鍛えなさすぎだろ」

 

 あ、無系統って言い方で合ってた。

 

「……そんなこと言ったって、アタシ常に命の危険があんのよ?

 オーラ量増やすのも寝る前に怖々やってるのに、くたくたになるまで身体鍛えられないわよ」

 

 ウラヌスは反論せず、後ろ頭をかく。確かにそうだろうなぁ……

 仲間に守られて修行してた時と同じワケにはいかない……結構考えないといけないなぁ。最初の1ヵ月……

 

「メレオロン。

 それは俺達がお前を守るって言えば、身体鍛えるってことか?」

「…………」

 

 答えないメレオロン。視線を逸らして、どう答えたものか悩んでる。

 

「……アイシャ。

 俺、勢いで言っちゃったけど……

 キミは、彼女が身体を鍛える為に守ってほしいって言われたら、付き合える?」

 

 ウラヌスが私に振ってくる。んー……

 

「……やぶさかではありません。

 余裕がない時はお約束できませんが、助けを乞われれば尽力しますよ」

 

 とは言っても、キメラアントを匿うのが現実的にどれだけ厳しいかは想像に難くない。……どうしても、見た目の整形は成功してもらわないといけないかな。ゲームの外では、だけど。ゲーム内は、多分そこまで気にしなくてもいいだろう。

 

「……アタシ、あなた達のことをそんなに信用していいの?」

 

 メレオロンの言葉に、私はちょっとドキッとした。

 ウラヌスは首を傾げ、

 

「……それを俺達に聞いてどうするんだよ」

「え、アレ? なんか違うな。

 えっと……

 あなた達は、なんでアタシのことそんなに信用してるの?

 アタシはキメラアントだって、良く分かってるんでしょ。

 裏切られたら、とか……その、そういうこと考えないの……かなって」

 

 声をしぼませるメレオロン。

 ウラヌスは「くっくっく」と含み笑いした後、

 

「自分で言ってて無理があるって思うぐらいには、俺達信用されてるんだな」

「え、うぅ……

 そんなこと言ったって、アタシ達は命懸かってるのよ!

 そんな……」

「……メレオロン。もう無理するな。

 疲れたんだろ……疑うのに」

 

 ウラヌスがそう言ってあげると、メレオロンは目を潤ませた。……ぅ……私も貰い泣きしそう。彼女の後ろで、シームはもう泣いちゃってる。

 

言質(げんち )がほしいなら、言ってやるよ。

 ……信用していい。命が懸かってるのは俺も同じだ。だから……

 キミの力を、俺達に貸してくれ」

 

 ウラヌスの言葉に押され、私もメレオロンへ歩み寄る。

 

「メレオロン……

 私のこと、信じていいですよ。

 さっきは助けを乞われれば、なんて言っちゃいましたけど……

 あなたが何も言わなくたって、困っていれば助けますよ。

 ……友達じゃないですか」

 

 彼女は……膝を折り、顔を押さえて泣き始めた。あ、ダメだ。私も泣けてきた……

 見ると、ウラヌスも右手で顔をこすっている。

 なんでだろ……悲しいわけじゃないのに、涙が止まんないな……

 

 

 

 気がつくと、もうすっかり周りは暗くなっていた。

 シームが、メレオロンのことを心配そうにしている。

 

「……

 守ってくれるんだったら……鍛える」

 

 静かに立ち上がり、彼女は涙の名残を拭った。

 

「ホントのこと言うと、自分1人で戦えるようになりたいのよね。

 せっかくこんな強い能力持ってるんだから……あなた達には効かないけどさ。

 ……でも、まずは。

 ゲームクリア、目指しましょう」

「ああ……

 それじゃ、ちょっとここから離れてくれるか?」

 

 ウラヌスは、自分の足下をくるっと指差した後、そこから後ろ歩きで離れる。

 それにならって、私達も彼が指した場所から距離を置く。

 ウラヌスはリュックから携帯を取り出し、何かPiPiPiPiPi♪ と素早く操作している。

 

 ガコンッ!

 

 突然地面に、金属音を立てて大きな四角い(あな)が開いた。

 軽く覗きこむと、金属製のハシゴが壁の一面に張り付いて、降りていけるようになっている。

 パッパッパ……と、孔の中で明かりが点いた。

 

「ここからハシゴで少し降りて、横穴を進んだ先がグリードアイランドを設置する部屋になってる。……まだ俺が持ち運びしてるから、置いちゃいないんだけどな。

 今はロックを解除したけど、この後ロックはかけない。

 その代わり、隠し扉に念を籠めた手を当てれば開くようになってる。ちなみに、下から地上へ出る時も、同じく隠し扉に念を籠めれば開く。

 3人とも先に降りてくれ。俺が最後に入って、ここを閉める。ほっときゃ1分で閉まるんだけど、念の為な」

「ここまでするんだ……」

 

 ぼんやりとメレオロンがつぶやいた。私が見る限りでも、ここまですれば警備なしでも大丈夫だろうなという気はする。

 ウラヌスは肩をすくめ、

 

「元々は、神字の研究成果を隠す為に用意したんだ。ただ作ったはいいけど、使う機会があんまりなくてね。ちなみにこの辺り一帯の土地も俺が所有してる」

 

 私はウラヌスの方を見て、

 

「……不粋な質問かもしれませんが、神字ハンターって儲かるんですか?」

「あ、まぁ答えてもいいんだけど、先に降りてくれる?

 扉が閉まるから」

「あ、ごめんなさい!」

「慌てて降りなくていいよ。

 そろそろ閉まるし、ちょっと時間延長する」

 

 ウラヌスは開いた穴のフチに手を当て、軽くオーラを籠める。

 

「ん、いいよ。

 降りて、腰を落ち着けてから話そう」

 

 

 

 思ったよりも深い竪穴をハシゴで降りていき、下に着いた後はこれまた大きな横向きの通路を歩いていく。床はラバー製のようで、結構な手間がかかりそうな作りをしている。

 

 これ、全部自分で作ったんだろうか。業者とかに頼んじゃうと秘匿性(ひ とくせい)に問題があるし、かと言って自分でやるのは大変すぎる。

 ……ま、それも後で聞こっと。

 

 それなりに歩いた通路の突き当たりの壁に、中央で閉じるタイプのスライドドアがある。ちょうど中央辺りに、何か赤字で書かれている。

 

 私はその前まで歩いていき、目を凝らした。

 

 神字。意味はそのまま、『封』。一定以上のオーラで触れれば開く仕掛けだろう。最も多いタイプの神字なんだけど、この1文字だけで封じるのは実はかなりすごい。物によるけど、普通は同じ神字を複数か、補助的な神字を書き加えて、数文字から数十文字で行うものだ。

 

 後ろから3人の足音が聞こえる。メレオロンが隣まで来て、

 

「ん? なに見てるの」

「扉の神字を見ています」

「神字って、この赤い模様?」

「ええ。意味は『封』です。

 よくあるタイプなんですけど……」

 

 一般人に対する念能力の秘匿に一役買ってる、出入口のオーラ開封。物に念を残すのであれば、神字の助力なしにはかなり難しいだろう。物体に籠めた念能力やオーラは、時間経過で著しく減衰する。それを抑えて長期安定させる為には、神字は必須と言ってもいい。

 

「本当は、中に埋め込んだ方がいいんだけどね」

 

 ウラヌスとシームが並んで歩いてきた。ウラヌスは続けて、

 

「どうせ内扉だし、隠すこともないかと思ってそうしてある」

 

 それを聞いて、私は「あれ?」と思わず口にする。

 

「でもそれなら、わざわざ神字で閉めておく必要もないんじゃないですか?」

 

 私が指摘してみると、ウラヌスは少し考え、

 

「んー。確かにね。

 ……何となくやっちゃってるな、俺。言われてアホって気づいた」

 

 なんか真面目に言ってるので、思わず私は笑ってしまった。

 

「かなり知識がないと出来ないことしてるのに、そんなアホって」

「えーうんー。

 ……いじらないでくれよ」

 

 恥ずかしそうにしながら、ペシッと手で神字に触れるウラヌス。ドアが中央から左右へスライドして開いた。

 ドアの向こうは部屋のようだけど、暗い。通路側の明かりだけだと、ちょっと見通しが悪い。

 

「んー?

 あれ、照明死んでる?」

 

 ウラヌスが言い終える前に、部屋の天井がパァッっと明るくなった。

 

「なんだ……しばらく使ってなかったからかな」

 

 そうつぶやきながら、部屋の中へ歩いていくウラヌス。

 私達もついていきながら、部屋の中を見回す。

 

 室内は、言ってみれば大きなワンルームだった。

 

 キッチンや冷蔵庫、食卓。大小問わず木製棚や金属棚がズラりと並び、書籍をぎっしり詰めた本棚が壁の一部を占拠している。大きめのベッドが一つ備え付けられて、いつでも寝れそうだ。

 キッチンの横には曇りガラスの扉があり、見た感じ水場へ繋がってるっぽい。

 部屋の一角には金庫が複数並べて積んであり、ありありとお宝が入ってますアピールをしている。

 物が置かれているスペースは狭っ苦しい印象だけど、部屋そのものが大きくて、中央に何も置かれてないので、広々としていた。

 

 私達の背後で、ゆっくりとスライドドアが閉まった。

 

「とりあえず、荷物置こうか。ちょっと部屋の中央に集まろう。

 あ、そこの一段床が高いトコから土足厳禁だよ」

 

 ウラヌスはそう言って靴を脱ぎ、フローリングの上を靴下で歩いていく。

 私もそれに(なら)おうとした時、メレオロンが固まってるのが目に入った。シームがそれを心配そうに見ている。

 

「どうかしたんですか?」

「……。

 いや、靴ぬがなきゃなって思って」

「?」

 

 メレオロンは鈍い動きで、靴紐を解く。靴を脱いだ。

 現れたのは、太い二本指の足。

 

「……気にしてたんですか?

 飛行船の中でも出してたじゃないですか」

「……あの時は気にならなかったんだけどね。

 なんか、改めて気になっちゃって」

「メレオロンは、その足も整形したいんですよね?」

「そうよ?

 こんなの、人間の足じゃないもん」

「……私は可愛いと思いますけど」

 

 そう言うと、メレオロンは複雑な顔をした。ぴこぴこと指を動かし、

 

「人間の足じゃないもん……」

「でも、メレオロンの足じゃないですか。

 そこまで気にしなくてもいいと思いますよ?」

 

 もちろんコレは私の認識だ。もし凶暴なキメラアントの足だと思えば、また別の感想を抱いただろう。

 彼女は私を怪訝そうに見て、

 

「アイシャは、アタシにこのままでいた方がいいって言うの?」

「いいえ。

 ……それは、ホルモンクッキーを欲しがってる私に、言う資格はないと思います」

「……。

 なんでアンタがそんなの欲しがってんだか、アタシにはちっとも分かんない」

 

 そう言い捨てて、メレオロンはさっさと靴を脱ぎ、中央へ歩いていった。

 

「ボクにもよく分かんないです。

 ウラヌスは分かるんですけど……」

 

 シームもそう言い残して、メレオロンの後をついていく。

 私は唇を締めたまま、靴を脱いで、裸足でお邪魔する。

 

 

 

 ……そうは言われましても、ですね。

 

 もう誰にも、ほんとの理由を教えるつもりはないのですよ。うん……

 

 

 

 でも……ちょっと嬉しいかな。

 

 今の今まで、気を使って聞かないでいてくれたことも。

 

 いま、遠慮なく聞いてくれたことも……

 

 

 

 

 

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