どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百六十七章

 

『ヂュウウーーーッッ!!』

 

 赤炎を纏った鼠が、大量にこちらへ向かってくる。

 

 だがそれは半数ほど。全てではない。残りは私達の左右へ回りこみ、包囲を企んでいるようだ。非戦闘員のシームがいるこちらにとって、極めて嫌な戦術だ。

 

 ウラヌスが鼠の群れに針を投げ放つ気配。あえて正面ではなく、側面に回り込んでいく一団へと。倒せたか倒せてないか私は見届けない。そんなヒマはない。

 

 正面から来る鼠の群れ。鼠自体のサイズは小さく、通常の鼠程度だ。しかし炎を纏っているのでやや大きく見え、実際に有効な(まと)は小さいという厄介な相手。

 

 しかも炎の攻撃力は高く、今の私では生身で防ぎ切れない。鼠に飛びつかれたまま放置すれば、衣服なら引火し、皮膚であれば火傷は免れないだろうとのこと。髪なんて論外だ。オーラを変化させた炎の危険性は、カストロさん相手に充分思い知っている。

 

 よって、取りうる戦術は多くない。向かい来る一団へ踏み込むウラヌスを見送り、私は集団から離れた鼠達の各個撃破を狙う。

 

 目の前まで来た鼠が飛び上がり、私の腹部辺りへ飛びつこうとする。即座に回り避け、宙にいる炎の塊に勢いのまま蹴りを叩き込む。火の粉を撒いて落ちる鼠。

 

 素手や衣服で接触できない以上、無傷で攻撃が成功する部位は靴ぐらいしかない。鼠に一切の接触を許さず、ただ蹴りのみで戦うしかない。四肢をフル活用して鼠の大群を相手するウラヌスの姿がちらりと映るが、そちらを羨んでも仕方ない。

 

 近場の鼠を倒し終え、姉弟を見やる。試合場の中、シームをお姫様抱っこして逃げ回るメレオロン。すぐ後ろまで炎の集団が迫っている。あの状態で鼠に飛びつかれたら彼女のオーラ量でも無傷で済むかどうか。援護する為、先回りする形で疾走する。

 

 メレオロンと一瞬目を合わせ、すれ違う。後方の鼠達へ地を薙ぎ払うような蹴りを放つ。

 

 どどどどどどっ!

 

『ヂュウウゥゥゥーッッ!?』

 

 景気よく数匹が宙に舞う。うち2匹が煙と化し、残りは地に落ちてもまだ健在だ。直撃した鼠は倒せたが、流石にあの数相手じゃ威力を削られる。時間を稼いだだけでも良しとしよう。

 

 即座に離脱する。いくらなんでも、10匹以上も同時に相手できない。距離を取り、各個撃破の形を再び目論む。

 

 私を追ってきたのは4匹、残りはメレオロン達を追い続ける。焦らず、徐々に削るしかない。さいわい姉弟と鼠達は距離が開いた。猶予はある。

 

 襲ってくる鼠達を捌く中、ウラヌスの周囲に鼠がいなくなったのが見えた。彼が逃げる姉弟へ素早く近づいていく。私も一足遅く鼠を倒し切り、疾駆する。

 

 メレオロンの正面から左右をすり抜ける私達。姉弟が嬉しそうな顔をした。踏み込んだ勢いで鼠1匹を撃破、既にウラヌスが2匹仕留めている。残り4匹。

 

 同時に飛びかかってくる2匹。退がりながら1匹を蹴り上げ、返す刃でもう1匹を撃墜する。視界の端で、ウラヌスの繊手が宙の2匹を薙いだ。

 

 全ての炎が、煙と消える。

 

『──それまで!

 第五試合、ウラヌスチーム4選手の勝利です!

 ビーストランク突破、おめでとうございます!』

 

 わぁぁぁぁっ! と会場から一際大きな歓声が上がる。盛大な拍手とともに。

 

 ウラヌスが私に微笑みながら片手を上げてきたので、パンッ! とハイタッチする。

 

「お疲れさん」

「お疲れ様です」

 

 メレオロンがシームをお姫様抱っこしたまま、こちらへ戻ってくる。

 

「ちょっとおねーちゃん、いいからもう降ろしてよ……」

「いーじゃない、もうちょっと人魚姫抱っこさせなさいな」

「おねーちゃん!」

 

 そんなやりとりに笑わせてもらった後、

 

「2人ともケガはありませんか?」

「おかげさまでね」

「おろしてってばぁ」

 

 

 

「ビーストランク突破、おめでとうございます。

 こちらが賞品です」

 

 

『164:魔女の敵薬』

 ランクC カード化限度枚数32

 この薬に口づけして意中の相手に飲ませれば

 その人はあなたと敵対する

 1粒の効き目は1日 1ビン500粒入り

 

 

 なんか妙なアイテムだな……。使うわけじゃないし、別にいいけど。

 

「これですよね?」

「これだね。魔女の若返り薬を取る為に必要なアイテムの1つ。

 いま手持ちのカードがあれば、後は魔女の森で全部片付く」

 

 ふぅーと息を吐くウラヌス。よしよし、それだけは他の指定ポケットカードを後回しにしてでも確保したいからね。

 

「……で。どうすんの、この後」

 

 メレオロンの問いかけに、ウラヌスは自分の肩を揉みながら、

 

「俺とアイシャだけなら、他のランクも楽にいけるかな」

「私は構いませんよ。

 まだ『周』も、時間は充分に残ってますし」

「アタシ達はパスしていいってことよね?」

「実戦経験を積ませたいところではあるけど、次挑戦するつもりのアグレッシブランクは速攻がキモだからな。のんびり戦いたくない。今度は7試合あるし」

「だって。

 シーム、あんたも構わないわよね?」

「うん……」

「ま、2人はゆっくり休みながら見物しててくれ。

 アイシャ、早速やる?」

「ええ、早めに片付けてしまいましょう」

「おっけ。

 ──アグレッシブランクに参加する。俺と」

「私で」

「ウラヌス様、アイシャ様ですね。

 2名様でのアグレッシブランクへの参加登録、受け付け完了いたしました。

 そちらの扉から進んでいただき、控え室でお待ちください」

「じゃ、行ってくる。

 ちゃんと周りも警戒しといてくれよ」

「はいはい」

「シーム。見ることも修行ですよ。

 見物だからといって気を抜かずに」

「……うん。わかった」

 

 姉弟をその場に残し、2人で扉の奥へと進む。

 

 しばらくして、ウラヌスが口を開く。

 

「……やっぱりシーム、ちょっと傷ついたかな」

「でしょうね……

 足手まといと言われたも同然ですから」

「守りながらだと、時間がかかるし負担も大きいからね……

 まったく、自分が不甲斐ないよ」

「それをあなたが言いますか?

 私だって、あなたの助力なしじゃ戦えませんよ」

「でも、ぶっちゃけ俺より戦えてるじゃん」

「そうですか?

 さっきの鼠、あなたの方が倒した数多かったじゃないですか」

「あー……気づいてたんだ」

「30匹いたと思うんですけど、私が倒したのは14匹です」

「俺は16匹だね。

 数えてるとは思わなかったよ」

「それこそあなたが言いますかね。

 せいぜい足手まといにならないよう、気をつけますよ」

 

 辿り着いた控え室の扉を開きながらウラヌスは、

 

「いやいや。アイシャが足手まといとか、無い無い」

「そうは思いませんけどね。

 ……戦う相手に、オーラが見えないとマズイ相手がいたら教えてくださいね? 私にはお手上げなんで、あなたにお任せしようと思います」

「アイシャと相性が悪い敵は、俺だけで相手するよ。

 相手が1体だけの時とか、どっちが戦う?」

「私が戦います。あなたは体力を温存してください」

 

 試合に備えて、相談を続ける私達。……なんだかんだで楽しいな、こういう時間は。

 

 

 

 

 

 見下ろす試合場では、ビギナーランクに出ていた3人の対戦相手が互いに争っていた。夜盗が逃げ回り、拳闘家くずれと剣闘士が殴り合っている。無論、ケンカではなく試合だ。

 

「シーム。あんまり拗ねないの」

「……スネてない」

 

 不機嫌な声音で、あまり意味のない否定をするシーム。頬をふくらませて、鉄柵越しに面白くなさげな顔で試合を見物している。

 

「ぼくがいたら、2人の邪魔になることくらい分かってるよ」

「アタシもね。今は仕方ないわよ」

「早く強くなりたいな……」

「そうねぇ。

 でも、今のアンタだって結構戦えるはずよ?

 ケガするといけないから、無理させないだけで」

「じれったいなぁ……」

 

 もたもた戦う試合を眺めながら気落ちする弟の頭を撫でるメレオロン。今はそれ以上のことはできない。

 

 場内にスピーカー音。

 

『──場内の皆様に申し上げます。

 戦いが長引いた為、この試合は引き分けといたします。

 なお、賭け金はお返ししますので、またの試合をお楽しみください』

 

「ありゃ、引き分けたわね」

「ウラヌス、なんか言ってたよね。

 300秒経っても決着がつかなかったら引き分けだっけ?」

「言ってたわね。

 ランク戦だと両者負け扱いらしいから、いちおう気をつけてって話だったと思うけど」

「うん。

 ……そろそろ2人出てくるかな」

「そうね。あ、出てきた」

 

 試合場に進み出る少年少女。2人ともが、緊張も弛緩もしていない様子が見て取れる。自然体で相手を待ち構えるのが遠目にも分かる。

 

「……すごいね、2人とも。すごい集中してる」

「そうね……

 アタシ達に気を取られなきゃ、あのレベルなのよね」

 

『──これより、ウラヌス選手とアイシャ選手のアグレッシブランク戦を開始します。

 第一試合、対戦相手入場!』

 

 2人の相手が扉から現れる。

 

 ウホウホと聞こえてきそうな風情で歩く、2体の大猿。申し分ない筋肉質な身体つきで、重量ならシーム何人分になるか分からない。

 

 立ち止まり、胸をドコドコ叩いてドラミングする猿達。威嚇を終え、

 

『それでは早速試合開始です! 第一試合──はじめッッ!!』

 

 闘技場に鳴り響くドラの音が消える前に、決着はついた。

 

 開始の合図と同時に動いていた2人。──アイシャが背後から捕えた大猿の関節を複数箇所破壊しながら地面へ捻じ伏せ、ウラヌスは側面から掴んだ大猿の頭をカケラも抵抗を赦さないほどの速度で大地に叩きつけていた。

 

 開始の余韻が消えると同時に、地に潰れた大猿が煙と化す。

 

『──それまで!

 第一試合、ウラヌス選手とアイシャ選手の勝利です!』

 

「無いわー……。速攻とは聞いてたけど、秒殺て。

 いや、わかっちゃいたけど、あんなんついていけないわよ」

「うん……」

 

 姉弟が力なく溜め息を吐く。

 

『会場の皆様、続けてアグレッシブランク第二試合、対戦相手入場です!』

 

 

 

 

 

 私が背を向け、歩いていく後方で、地面に頭が突き刺さった月ノ輪熊が煙になる。

 

『──それまで!

 第六試合、ウラヌス選手とアイシャ選手の勝利です!』

 

 ウラヌスが確認するように小首を傾げて来るので、私は小さく頷き返す。次の相手は、充分警戒が必要だったはず。

 

『会場の皆様、続けてアグレッシブランク第七試合、対戦相手入場です!』

 

 そういえばこれでラストか。まだ始まって5分経ってないんだけどな。待ち時間の方が長かったよ。

 

 扉の暗がりから、黒いスーツを着た男性が1人歩いてくる。サングラスを着けてるのは、目線で悟られないようにする為か。

 若いかどうかも分からず、遠目には特徴が少ない。念人形だからかもしれないが。手に得物もなく、立ち止まりスッと構える。

 

 ……なるほど、これはちょっと嫌な相手。前知識がなければ得物に気づかなかったかもしれない。よく見れば重心が少しズレている──無手としては。

 

『いよいよアグレッシブランク最終戦、試合開始です!

 第七試合──はじめッッ!!』

 

 ドラが鳴ると同時に、私達は左右へ分かれた。

 

 やはり同時、スーツの男性が退がりながら懐へ手を入れ、私へと向ける──銃口を。

 引き金を絞る動きを察知し、更に加速。

 

 ドンドンドンッ!

 

 発砲音を聞きながら、可能な限り姿勢を低くする。こうなったら、引き付けるのは私の役目だ。

 

 強く地を蹴り、男性へ迫る。一足早く回り込むウラヌスへ向けかけた銃口が一瞬揺らぐ。機を見て射線から逃れる。響く銃声──

 

 肉薄したウラヌスが、男性の手にした銃を握り潰し、合わせて顔面に裏拳を叩きこんでいた。

 男性がもう片手を懐に入れた体勢で──崩れ落ちる。

 

 その姿が煙と消えた。

 

『──それまで!

 第七試合、ウラヌス選手とアイシャ選手の勝利です!

 アグレッシブランク突破、おめでとうございます!』

 

 ふぅー、と息を吐く。……こいつがいるから、ウラヌスはこの場に姉弟を連れてきたくなかったらしい。確かに一緒だったらマズかったかもな。今の私の防御力じゃダメージを受けるし、食らう箇所によっては危険な威力だっただろう。

 

 ウラヌスが歓声と拍手の中、不安そうに歩いてきて、

 

「アイシャ、大丈夫? 当たってない?」

「ええ、大丈夫ですよ。かすってもいません」

「そっか……」

 

 露骨にホッとするウラヌス。……目の力を使えば傷を負ったかどうか分かるだろうに、よっぽど焦ったんだな。

 

「ウラヌス、どうせなら続けて次のランク戦もやりませんか?

 まだ時間もありますし」

「うーん……

 そりゃ30分以上残ってるけど、どうだろ……」

「もし途中で切れかけても、試合と試合のインターバルで何とかなりません?」

「……なるよ。

 誰も見に来なけりゃ、ここでやってもいいけど……」

「他のプレイヤーが来たら、デメリットも大きいですし、すぐ棄権した方がいいと思うんですよ。どうです?」

「……うん、おっけ。アイシャの言う通りだね。

 続けて次のタフネスランクに挑戦しよう」

 

 よしよし。いまの私にとっては、なかなかいい実戦経験だからな。ぜひとも続けさせてほしい。

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 
・アグレッシブランク対戦相手カード情報


『512:エイプ』
 ランクH カード化限度枚数830
 類人猿とも呼ばれる 凶暴な大猿
 パワー スピードともにそれなりだが
 臨機応変な対応力の高さには 注意が必要


『717:ホイップバニー』
 ランクG カード化限度枚数730
 雪兎 群れで襲い掛かり ひたすら飛び跳ねて体当たりしてくる
 縦横無尽に跳ね回るので捉えづらく 時おり牙を剥くので注意


『502:ホブゴブリン』
 ランクF カード化限度枚数193
 鬼面の亜人 大柄でパワーもあり 体力任せに振り回してくる棍棒に要注意


『741:アーミーアント』
 ランクE カード化限度枚数125
 頑強な甲殻と 強力な蟻酸を武器に 集団で襲ってくる軍隊蟻
 鼠程度のサイズだが 動きが素早く攻撃しづらい
 胴体に比べて脚部は脆い


『562:オークキング』
 ランクD カード化限度枚数59
 オークの長 群を抜くパワーと 見た目にそぐわない速さで翻弄してくる


『679:クレセントベア』
 ランクC カード化限度枚数47
 月ノ輪熊 ある森だけに生息している
 基本的に温厚だが ナワバリに侵入した者を容赦なく排除する
 熊系の怪物では最速を誇る


『10400:シークレットサービス』
 ランクB カード化限度枚数30
 警護の専門家 流通している一般的な銃器で攻撃してくるが
 オーラを纏った銃弾を放ってくるため 攻撃力は極めて高い




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