「まぁトラエモンとかどうでもいいよ……
えっと……話が逸れたけど、とりあえず『豊作の樹』は優先候補の1つ。
密林をうろつくのはキツいけど、雪山と比べたらトントンの難度かな」
「ということは、他にも行きたいトコあるの?」
尋ねるシームに対し、ややくたびれた表情でウラヌスはうなずき、
「次が本命。ランクS『魔女の若返り薬』。
現状でもフリーポケットを、モンスター10枚と魔女薬1枚の計11枚で圧迫してるから、バインダー事情を考えれば最優先。その上、若返り薬まで取るつもりでいるなら魔女の森でもカード集めしないといけない。
まぁ先にモンスター10枚を魔女薬に交換すれば9枠空くから、それだけやってもいいんだけどね……」
「その理屈は分かるんですけど、最終目標の1つですから、やはり入手してしまった方がいいと思います。
……カード化限度枚数に達したら、かなりマズいですよね?」
「うん、まあね……
流石に『複製』を使わずに複数確保するのは避けたいし。
ただ、これはなー……」
トントンとテーブルを指で叩くウラヌス。本命って言ったワリに、どうも消極的だな。これは後押ししないとダメか?
「少なくとも『豊作の樹』よりは優先で間違いないでしょ」
「ぼくもそう思う。本命なんだよね?」
言わずとも後押ししてくれる姉弟。「うっ」と困惑するウラヌス。
「いやまぁ俺も本命っつったし、みんなが言いたいことは分かるんだけどさ。
でも魔女の森って、行くのも結構面倒だよ?
準備とか色々……」
「であれば、まずその行き方の説明をお願いします」
道中があまりに険しければ考えるけど、それも知らないうちにNOとは言えないな。
「んー……本当は行く直前に説明したかったんだけどね。
でもまぁ、わかった。今から話すけど、ちょっと待って」
一度身を引いて、手元のカップを口許に寄せるウラヌス。姉弟と私もそれにならって、珈琲で一息入れる。
そんな私達を見て、モタリケさんが「んー」と唸り、ベルさんが頬杖を突く。
「あなたも大変ねぇ。あれこれ事前に準備しなきゃいけなくて」
「当たり前だろ。ヘタ打ったら、最悪死人が出るんだから。
そこまでいかなくても、段取り悪いと現場で際限なく手間取るからな。
打ち合わせを綿密にして回避できるなら、いくらでもやるさ。無駄に消耗したくない」
「それは分かるけど、こうやっていま消耗してたら変わらないだろうに」
「……今なら、俺1人が余分に疲れるだけで済むだろ。安いもんだよ」
はぁー。とウラヌス以外の全員が息を吐く。
「な、なに?」
「そういうトコだぞ、ウラヌス」
「はぁッ!?」
「そういうトコよね。
アイシャ。ちゃんとこの子の
「分かってます。
このバカにゃんこ、首輪つけて引っ張らないとすぐムチャしますから」
「ちょっと!?」
夫婦と私に抗議するにゃんこ。一切無視する私達。
まったく……勝手に苦労背負い込むのヤメテほしいんだよな。頭脳労働任せてる私達がいけないんだけどさ。
「軽くお菓子つまみましょうか。
甘いものがいいかな♪」
「ああ、クッキーがあったと思う。
珈琲ばっかりもなんだし、今度は紅茶を淹れよう。
用意する間、ちょっと休憩してくれ。トイレ行きたいヤツは今のうち行っとけよ」
「あ、ぼく行ってくる」
「アタシも……」
「ウラヌス、肩もみましょうか?」
「ぇー……」
「えーじゃないです。強制的に揉みます」
「いや、うん。
分かったから、ムリヤリはヤメテ。お願いします」
せっかくのご配慮だ。遠慮なく一服させてもらおう。修行前に疲れられても困るんだよ。
もみもみ。もみもみもみ。もみもみもみもみ……
「あ、あいしゃ?
なんか、くすぐったいんだけど?」
「んー? そうですか?
普通に揉んでるつもりですけどね」
ぷーにぷにぷにぷにっと。
「だからアイシャ、なんか微妙に肩じゃないトコ揉んでるってばー。
ちょっとぉ」
「気のせい気のせい」
……イケないイケない。ちゃんとやろっと。
しばらく休憩し、明らかに疲労感が抜けて顔色のよくなったウラヌスが、はぁーと息を吐いた。
「……みんな、ゴメン。説明始めるけど、いい?」
全員うなずき返すのを見て、ウラヌスが話を続ける。
「魔女の森の行き方だけど。
当然、移動スペルでは直接飛べない。都市じゃないし、町ですらないからね。
それに魔女の森の近くにも都市はない。だからどうしても、離れた都市から徒歩で移動していく必要がある」
ウラヌスが、地図の何もない地点を指先でトントンする。おそらくそこが魔女の森で、何も表示されないのはまだ行ってないからだろう。
……確かに、近隣に都市はないな。どこからも離れてる。
「魔女の森を目指す場合、採りうるルートは3つ。
1つ目、城塞都市ジャロから。
地図を見れば分かるけど、この都市が一番魔女の森に近い。
けど城塞都市ジャロは、ジャロ砂丘っていう砂漠地帯にある。当然砂漠越えをしなきゃいけない。最短距離でも大体20㎞弱かな。
砂漠自体は越えられなくもないけど、そのあと魔女の森へ入ることを考えると、服装が厳しい。兼用すると砂漠か森のどっちかで無理が出るし、だからと言って砂漠用と森用の服装両方を備えると、砂漠越えの荷物としちゃ嵩みすぎる」
ふむ……だろうね。魔女の森が本番だし、手前の砂漠で消耗するのはよろしくない。
「更にそのルートだと、途中の休憩地点もないからほぼ強行軍になる。
魔女の森までの最短ルートではあるけど、正直一番困難かな。
……で、2つ目。廃墟都市ムドラから。
ただ、個人的にはジャロルートより無理くさい」
トントンとムドラ付近を叩くウラヌス。
「ムドラはこの小島の中央にあるんだけど、この島はムドラ湿原と呼ばれる毒液の沼地が広がってる。有毒ガスも噴き出してくるし、怪物も出る。
この島の南まで行けば船が出てるから、後は楽な道のりだけど……
沼地を抜けるまでに最短でも数㎞歩くし、そんなムチャをする理由がない」
……うん。おそらくシームが耐えられないだろうし、生身の私も厳しい。そこは無いな。
「最後、賭博都市ドリアスから。
3ルートの中では一番道のりが長いけど、推奨のルート。
ドリアスを出て、西南西へ直線に40㎞進んだ地点に、宿場町カーゴがある。
ここでいったん休憩して、海岸線沿いに40㎞進むと魔女の森。
魔女の森に入って、直線で20㎞の地点に魔女の家がある。そこがゴール。
もちろん森の中を直線になんか進めないし、そもそも森を探索して入手するアイテムもあるから、森自体はもっとうろつくことになるけど。
以上、3ルート。
……行くなら、どこから行く?」
私達は顔を見合わせ、
「聞くまでもなくない?」
「うん」
「無理に急ぐ理由もありませんし、ドリアスからのルート1択でしょうね」
「やっぱり?
俺もそれしかないと思う。ただヘタすりゃ2日がかりだけどねぇ……
さっきから行くのを躊躇してる理由はそれなんだけど」
「ランクSですし、仕方ないですよ」
「おっと、もちろん他にも指定ポケットカードはあるよ。
ランクBの『魔女の痩せ薬』。あとは魔女の家で、市販されてない薬剤なんかも売ってくれる。……高いけど」
「風邪薬とかですよね? 15万でしたっけ」
「そうそう、そういうの。大体それぐらいの相場で売ってくれる。傷薬とかならともかく、バカ高い目薬なんて要らないけどね。有用な薬ならワリに合うかって言うと微妙だけど」
前のめりになっていたウラヌスが身を引き、紅茶を口にする。
「魔女の森は以上。
フリーを圧迫してる大物は、こんなトコかな……
あー。あと地味に邪魔くさいのが、『ブループラネット』の条件になってる宝石、ルリ。
サーモンとかイクラとかが要るやつ」
あー、そういえば……まだ釣りが途中だったね。
「白銀サーモンが確か5枚、他に釣具とメイドクマで計7枚圧迫してる。
……寒いから、当分行きたくないけど」
思い出したようにメレオロンがぶるっと身震いし、
「流石にもうちょっと間隔空けましょうよ。
行かなきゃいけないのは分かってるけど」
「だな……」
うーん、スノーフレイか。行ったらまたお鍋や鮭料理を楽しみたいな。むしろ楽しみとして後に取っておきたいくらいだ。
「中途半端って意味じゃ、ソルロンドの食い物運びも終わってないし。
……『奇運アレキサンドライト』もまだだったな。
とはいえ、観光や金稼ぎもしたいし、悩ましいところだよ」
「修行もですよ」
「あー、うん……」
プランは出尽くしたので、後は修行中に各々どうしたいか考えることになった。
ひとまず方針は固まったので、ベルさんとモタリケさんにストックしておきたいスペルカードを再び預ける。
────さて、そろそろ出発だ。この賑やかな夫婦とも、しばしのお別れだな。
姉弟がリュックを1つずつ背負い、モタリケさんの自宅前で私達は向かい合う。
「行ってらっしゃい♪
また遊びにきなさいね」
「どうせヒマだしな……」
「ヒマで金があるからって、あんま必要以上にうろつくなよ?
それなりに防衛策は渡したけど、狙われたら面倒だからな」
「はいはい♪
あなた達こそ気をつけてね」
「ああ。
……じゃあな」
「では、また」
「気をつけてな」
シームが手を振り、メレオロンが軽く頭を下げる。歩き出す私達。
ベルさんが笑顔で手を振り返し、モタリケさんは複雑な表情で私達を見送っていた。
しばらくアントキバを歩いたところで立ち止まり、
『──『再来/リターン』オン。オータニア!』
私達は空を舞う。
心穏やかになる、紅葉と畑の景色。いかにもジャポンな原風景に包まれ、気持ちが落ち着く。
のどかな風景に目を和ませ、清涼な空気を吸い込む。はぁー……
深呼吸しているウラヌスに目を向け、
「久々のオータニアですね。
ここへ来ると落ち着いた気分になりますよ」
「うん……3日ぶりかな。
落ち着くっちゃ落ち着くよね」
「のんびりしてるわよねぇ」
「……」
それぞれが緩い雰囲気の中、シームだけが微妙顔。アレかな、修行を気にしてるのか。
「さ、まずはトレードショップで金を下ろそ。
ランキングの確認もしたいし」
トレードショップへ入り、容赦なく『窃盗』を1枚売り払うウラヌス。その後すぐ、
「指定ポケットカードのランキングを教えてくれ」
「ランキングなら、3000ジェニーになります」
ウラヌスがペンを手に、カウンターに堂々とメモを置いてから、お店の貯金で支払った。
さて、今のランキングはどうなっているやら。ゲームキャラが少し溜めた後、口を開く。
「現在のランキング1位、ハガクシ。
指定ポケットカードの所有種類数は19種」
「あいつら、まだいんのか……」
あー、ハガクシ組か。もう19種も集めてるし、ちょっと厄介そうだな。
「2位、ハンゼ。14種。
3位、アイシャ。13種」
げっ!? 3位、だと……!
「4位、ニッケス。7種。
同じく4位、トクハロネ。7種。
6位、ジェイトサリ。6種。
7位、ラターザ。5種
同じく7位、アベンガネ。5種。
同じく7位、ジスパー。5種。
10位、ハヤテ。4種」
……ラターザ、思ったより集めてた。
「11位、ムカナキ。3種。
同じく11位、アマナ。3種。
同じく11位、ダルツォルネ。3種。
同じく11位、シーム。3種。
同じく11位、カカ。3種。
同じく11位、ウラヌス。3種。
17位、プーハット。2種。
同じく17位、バイス。2種。
同じく17位、ポンゴ。2種。
同じく17位、コゲタ=ハンペイ。2種」
あーっと、ウラヌスとシームまでランクインしてるぞ。これはヤな感じだ。
「同じく17位、スイッケ。2種。
同じく17位、ウォン=リー。2種。
同じく17位、ゼホ。2種。
同じく17位、リン。2種。
同じく17位、メレオロン。2種。
同じく17位、ヨーゼフ。2種。
同じく17位、ミチロウ。2種。
28位、レドウッド。1種。
同じく28位、エルビエ=マノ。1種。
同じく28位、メウソポ。1種。
──これが30位までのランキングだ」
うーん……結局メレオロンもか。みんな分散して持ってるのかな?
「……ん、お待たせ。メモし終わったよ。
にしても、しまったな。
ランキング対策しなきゃいけなかったね。他が思ったより集めてない」
ウラヌスがメモ用紙を摘まんで垂らしながら、渋い顔で眺める。
「特に私がですけど、目立ってましたねぇ。
全員ランキング入りしてましたし、ちょっと想定外でした」
「うん、ゴメン……
まぁ今さら慌てても仕方ないし、どうするかは後で話し合おう。
金を下ろすから、ショッピングセンターで必要な物を揃えて、修行場へ向かおっか」
「はい!」
姉弟が思いっきり溜め息を吐いて、
「元気だねー……」
「元気よねー……」
なんだなんだ、元気ないな。