どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百七十一章

 

「まぁトラエモンとかどうでもいいよ……

 えっと……話が逸れたけど、とりあえず『豊作の樹』は優先候補の1つ。

 密林をうろつくのはキツいけど、雪山と比べたらトントンの難度かな」

 

「ということは、他にも行きたいトコあるの?」

 

 尋ねるシームに対し、ややくたびれた表情でウラヌスはうなずき、

 

「次が本命。ランクS『魔女の若返り薬』。

 現状でもフリーポケットを、モンスター10枚と魔女薬1枚の計11枚で圧迫してるから、バインダー事情を考えれば最優先。その上、若返り薬まで取るつもりでいるなら魔女の森でもカード集めしないといけない。

 まぁ先にモンスター10枚を魔女薬に交換すれば9枠空くから、それだけやってもいいんだけどね……」

 

「その理屈は分かるんですけど、最終目標の1つですから、やはり入手してしまった方がいいと思います。

 ……カード化限度枚数に達したら、かなりマズいですよね?」

 

「うん、まあね……

 流石に『複製』を使わずに複数確保するのは避けたいし。

 ただ、これはなー……」

 

 トントンとテーブルを指で叩くウラヌス。本命って言ったワリに、どうも消極的だな。これは後押ししないとダメか?

 

「少なくとも『豊作の樹』よりは優先で間違いないでしょ」

「ぼくもそう思う。本命なんだよね?」

 

 言わずとも後押ししてくれる姉弟。「うっ」と困惑するウラヌス。

 

「いやまぁ俺も本命っつったし、みんなが言いたいことは分かるんだけどさ。

 でも魔女の森って、行くのも結構面倒だよ?

 準備とか色々……」

「であれば、まずその行き方の説明をお願いします」

 

 道中があまりに険しければ考えるけど、それも知らないうちにNOとは言えないな。

 

「んー……本当は行く直前に説明したかったんだけどね。

 でもまぁ、わかった。今から話すけど、ちょっと待って」

 

 一度身を引いて、手元のカップを口許に寄せるウラヌス。姉弟と私もそれにならって、珈琲で一息入れる。

 

 そんな私達を見て、モタリケさんが「んー」と唸り、ベルさんが頬杖を突く。

 

「あなたも大変ねぇ。あれこれ事前に準備しなきゃいけなくて」

「当たり前だろ。ヘタ打ったら、最悪死人が出るんだから。

 そこまでいかなくても、段取り悪いと現場で際限なく手間取るからな。

 打ち合わせを綿密にして回避できるなら、いくらでもやるさ。無駄に消耗したくない」

「それは分かるけど、こうやっていま消耗してたら変わらないだろうに」

「……今なら、俺1人が余分に疲れるだけで済むだろ。安いもんだよ」

 

 はぁー。とウラヌス以外の全員が息を吐く。

 

「な、なに?」

「そういうトコだぞ、ウラヌス」

「はぁッ!?」

「そういうトコよね。

 アイシャ。ちゃんとこの子の手綱(た づな)引いてあげてね?」

「分かってます。

 このバカにゃんこ、首輪つけて引っ張らないとすぐムチャしますから」

「ちょっと!?」

 

 夫婦と私に抗議するにゃんこ。一切無視する私達。

 

 まったく……勝手に苦労背負い込むのヤメテほしいんだよな。頭脳労働任せてる私達がいけないんだけどさ。

 

「軽くお菓子つまみましょうか。

 甘いものがいいかな♪」

「ああ、クッキーがあったと思う。

 珈琲ばっかりもなんだし、今度は紅茶を淹れよう。

 用意する間、ちょっと休憩してくれ。トイレ行きたいヤツは今のうち行っとけよ」

「あ、ぼく行ってくる」

「アタシも……」

「ウラヌス、肩もみましょうか?」

「ぇー……」

「えーじゃないです。強制的に揉みます」

「いや、うん。

 分かったから、ムリヤリはヤメテ。お願いします」

 

 せっかくのご配慮だ。遠慮なく一服させてもらおう。修行前に疲れられても困るんだよ。

 

 

 

 もみもみ。もみもみもみ。もみもみもみもみ……

 

「あ、あいしゃ?

 なんか、くすぐったいんだけど?」

 

「んー? そうですか?

 普通に揉んでるつもりですけどね」

 

 ぷーにぷにぷにぷにっと。

 

「だからアイシャ、なんか微妙に肩じゃないトコ揉んでるってばー。

 ちょっとぉ」

 

「気のせい気のせい」

 

 ……イケないイケない。ちゃんとやろっと。

 

 

 

 しばらく休憩し、明らかに疲労感が抜けて顔色のよくなったウラヌスが、はぁーと息を吐いた。

 

「……みんな、ゴメン。説明始めるけど、いい?」

 

 全員うなずき返すのを見て、ウラヌスが話を続ける。

 

「魔女の森の行き方だけど。

 当然、移動スペルでは直接飛べない。都市じゃないし、町ですらないからね。

 それに魔女の森の近くにも都市はない。だからどうしても、離れた都市から徒歩で移動していく必要がある」

 

 ウラヌスが、地図の何もない地点を指先でトントンする。おそらくそこが魔女の森で、何も表示されないのはまだ行ってないからだろう。

 ……確かに、近隣に都市はないな。どこからも離れてる。

 

「魔女の森を目指す場合、採りうるルートは3つ。

 1つ目、城塞都市ジャロから。

 地図を見れば分かるけど、この都市が一番魔女の森に近い。

 けど城塞都市ジャロは、ジャロ砂丘っていう砂漠地帯にある。当然砂漠越えをしなきゃいけない。最短距離でも大体20㎞弱かな。

 砂漠自体は越えられなくもないけど、そのあと魔女の森へ入ることを考えると、服装が厳しい。兼用すると砂漠か森のどっちかで無理が出るし、だからと言って砂漠用と森用の服装両方を備えると、砂漠越えの荷物としちゃ嵩みすぎる」

 

 ふむ……だろうね。魔女の森が本番だし、手前の砂漠で消耗するのはよろしくない。

 

「更にそのルートだと、途中の休憩地点もないからほぼ強行軍になる。

 魔女の森までの最短ルートではあるけど、正直一番困難かな。

 ……で、2つ目。廃墟都市ムドラから。

 ただ、個人的にはジャロルートより無理くさい」

 

 トントンとムドラ付近を叩くウラヌス。

 

「ムドラはこの小島の中央にあるんだけど、この島はムドラ湿原と呼ばれる毒液の沼地が広がってる。有毒ガスも噴き出してくるし、怪物も出る。

 この島の南まで行けば船が出てるから、後は楽な道のりだけど……

 沼地を抜けるまでに最短でも数㎞歩くし、そんなムチャをする理由がない」

 

 ……うん。おそらくシームが耐えられないだろうし、生身の私も厳しい。そこは無いな。

 

「最後、賭博都市ドリアスから。

 3ルートの中では一番道のりが長いけど、推奨のルート。

 ドリアスを出て、西南西へ直線に40㎞進んだ地点に、宿場町カーゴがある。

 ここでいったん休憩して、海岸線沿いに40㎞進むと魔女の森。

 魔女の森に入って、直線で20㎞の地点に魔女の家がある。そこがゴール。

 もちろん森の中を直線になんか進めないし、そもそも森を探索して入手するアイテムもあるから、森自体はもっとうろつくことになるけど。

 以上、3ルート。

 ……行くなら、どこから行く?」

 

 私達は顔を見合わせ、

 

「聞くまでもなくない?」

「うん」

「無理に急ぐ理由もありませんし、ドリアスからのルート1択でしょうね」

「やっぱり?

 俺もそれしかないと思う。ただヘタすりゃ2日がかりだけどねぇ……

 さっきから行くのを躊躇してる理由はそれなんだけど」

「ランクSですし、仕方ないですよ」

「おっと、もちろん他にも指定ポケットカードはあるよ。

 ランクBの『魔女の痩せ薬』。あとは魔女の家で、市販されてない薬剤なんかも売ってくれる。……高いけど」

「風邪薬とかですよね? 15万でしたっけ」

「そうそう、そういうの。大体それぐらいの相場で売ってくれる。傷薬とかならともかく、バカ高い目薬なんて要らないけどね。有用な薬ならワリに合うかって言うと微妙だけど」

 

 前のめりになっていたウラヌスが身を引き、紅茶を口にする。

 

「魔女の森は以上。

 フリーを圧迫してる大物は、こんなトコかな……

 あー。あと地味に邪魔くさいのが、『ブループラネット』の条件になってる宝石、ルリ。

 サーモンとかイクラとかが要るやつ」

 

 あー、そういえば……まだ釣りが途中だったね。

 

「白銀サーモンが確か5枚、他に釣具とメイドクマで計7枚圧迫してる。

 ……寒いから、当分行きたくないけど」

 

 思い出したようにメレオロンがぶるっと身震いし、

 

「流石にもうちょっと間隔空けましょうよ。

 行かなきゃいけないのは分かってるけど」

「だな……」

 

 うーん、スノーフレイか。行ったらまたお鍋や鮭料理を楽しみたいな。むしろ楽しみとして後に取っておきたいくらいだ。

 

「中途半端って意味じゃ、ソルロンドの食い物運びも終わってないし。

 ……『奇運アレキサンドライト』もまだだったな。

 とはいえ、観光や金稼ぎもしたいし、悩ましいところだよ」

「修行もですよ」

「あー、うん……」

 

 

 

 プランは出尽くしたので、後は修行中に各々どうしたいか考えることになった。

 

 ひとまず方針は固まったので、ベルさんとモタリケさんにストックしておきたいスペルカードを再び預ける。

 

 

 

 ────さて、そろそろ出発だ。この賑やかな夫婦とも、しばしのお別れだな。

 

 姉弟がリュックを1つずつ背負い、モタリケさんの自宅前で私達は向かい合う。

 

「行ってらっしゃい♪

 また遊びにきなさいね」

「どうせヒマだしな……」

「ヒマで金があるからって、あんま必要以上にうろつくなよ?

 それなりに防衛策は渡したけど、狙われたら面倒だからな」

「はいはい♪

 あなた達こそ気をつけてね」

「ああ。

 ……じゃあな」

「では、また」

「気をつけてな」

 

 シームが手を振り、メレオロンが軽く頭を下げる。歩き出す私達。

 

 ベルさんが笑顔で手を振り返し、モタリケさんは複雑な表情で私達を見送っていた。

 

 

 

 しばらくアントキバを歩いたところで立ち止まり、

 

『──『再来/リターン』オン。オータニア!』

 

 私達は空を舞う。

 

 

 

 心穏やかになる、紅葉と畑の景色。いかにもジャポンな原風景に包まれ、気持ちが落ち着く。

 

 のどかな風景に目を和ませ、清涼な空気を吸い込む。はぁー……

 

 深呼吸しているウラヌスに目を向け、

 

「久々のオータニアですね。

 ここへ来ると落ち着いた気分になりますよ」

「うん……3日ぶりかな。

 落ち着くっちゃ落ち着くよね」

「のんびりしてるわよねぇ」

「……」

 

 それぞれが緩い雰囲気の中、シームだけが微妙顔。アレかな、修行を気にしてるのか。

 

「さ、まずはトレードショップで金を下ろそ。

 ランキングの確認もしたいし」

 

 

 

 トレードショップへ入り、容赦なく『窃盗』を1枚売り払うウラヌス。その後すぐ、

 

「指定ポケットカードのランキングを教えてくれ」

「ランキングなら、3000ジェニーになります」

 

 ウラヌスがペンを手に、カウンターに堂々とメモを置いてから、お店の貯金で支払った。

 

 さて、今のランキングはどうなっているやら。ゲームキャラが少し溜めた後、口を開く。

 

「現在のランキング1位、ハガクシ。

 指定ポケットカードの所有種類数は19種」

 

「あいつら、まだいんのか……」

 

 あー、ハガクシ組か。もう19種も集めてるし、ちょっと厄介そうだな。

 

「2位、ハンゼ。14種。

 3位、アイシャ。13種」

 

 げっ!? 3位、だと……!

 

「4位、ニッケス。7種。

 同じく4位、トクハロネ。7種。

 6位、ジェイトサリ。6種。

 7位、ラターザ。5種

 同じく7位、アベンガネ。5種。

 同じく7位、ジスパー。5種。

 10位、ハヤテ。4種」

 

 ……ラターザ、思ったより集めてた。

 

「11位、ムカナキ。3種。

 同じく11位、アマナ。3種。

 同じく11位、ダルツォルネ。3種。

 同じく11位、シーム。3種。

 同じく11位、カカ。3種。

 同じく11位、ウラヌス。3種。

 17位、プーハット。2種。

 同じく17位、バイス。2種。

 同じく17位、ポンゴ。2種。

 同じく17位、コゲタ=ハンペイ。2種」

 

 あーっと、ウラヌスとシームまでランクインしてるぞ。これはヤな感じだ。

 

「同じく17位、スイッケ。2種。

 同じく17位、ウォン=リー。2種。

 同じく17位、ゼホ。2種。

 同じく17位、リン。2種。

 同じく17位、メレオロン。2種。

 同じく17位、ヨーゼフ。2種。

 同じく17位、ミチロウ。2種。

 28位、レドウッド。1種。

 同じく28位、エルビエ=マノ。1種。

 同じく28位、メウソポ。1種。

 

 ──これが30位までのランキングだ」

 

 うーん……結局メレオロンもか。みんな分散して持ってるのかな?

 

「……ん、お待たせ。メモし終わったよ。

 にしても、しまったな。

 ランキング対策しなきゃいけなかったね。他が思ったより集めてない」

 

 ウラヌスがメモ用紙を摘まんで垂らしながら、渋い顔で眺める。

 

「特に私がですけど、目立ってましたねぇ。

 全員ランキング入りしてましたし、ちょっと想定外でした」

「うん、ゴメン……

 まぁ今さら慌てても仕方ないし、どうするかは後で話し合おう。

 金を下ろすから、ショッピングセンターで必要な物を揃えて、修行場へ向かおっか」

「はい!」

 

 姉弟が思いっきり溜め息を吐いて、

 

「元気だねー……」

「元気よねー……」

 

 なんだなんだ、元気ないな。

 

 

 

 

 

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