第百七十二章
ショッピングセンターで、水・食料・タオルを購入し。秋の景色を楽しみながら都市の入口へ、そして迂回ルートを取りつつ、修行場がある林へと向かう。
ふふ……なんだかウキウキしちゃうな。修行、修行♪
「しゅーぎょうー、しゅーぎょうー♪
たっぷりしゅーぎょうー♪」
思わず口ずさんだ途端、周りがドン引く気配。特に嫌そうな顔をしたメレオロンが、
「え。……なにその胃もたれする歌……」
「胃もたれってなんですかッ!? 胃もたれって!?」
まったく、失敬な!
「あはは……
アイシャは強くなることに貪欲だね」
「ん、んー。
貪欲なんて言われるのは心外ですが。
修行は日課のようなものでして、やらないと落ち着かないんですよ」
「ふぅん」
なんかサラっとウラヌスに流された。イヤまぁ変に詮索されても困るし、別にいいけど。
「歌詞のセンスについては突っ込んであげないの?
アンタ、そういうの詳しいんでしょ?」
「……別に詳しいわけじゃない」
妙に絡んでくるな、メレオロン。そしてウラヌス、私から視線を逸らしたのはなんで?
林の中へ入り、円状の広場になっている修行場へ。うむ、戻ってきたって感じだな。
ウラヌスが籠手を小さく具現化、ざくざく土を掘り返す。手が汚れないから便利だよね。掘り返す為にシャベル持ち歩くのもなんだし。
袋に入った修行用品は無事だな。ウラヌスも特に何も言わないし、誰かが触ったということはないだろう。
「またウェイトトレーニングなのよね……」
「そうですよ。久々ですから、まずは筋力体力からです。
技術的なことは追々教えますから、当面は基礎鍛錬に励んでください」
「はぁい」
「シームもですよ」
「うん……」
掘り返したベストとバンドをそれぞれ身に着けていく。
ひとまず慣らす意味合いで、荷重はそのまま。急に無理して、身体を壊しちゃ元も子もないしな。この手の負荷は、継続して少しずつ強くしていくのが定石だ。
シームは両手足に10キロのリストバンド。60キロのベストは、今のところ着けさせない。
メレオロンも同じく両手足に10キロのバンド、更に70キロのベスト。
私は50キロのバンドに、250キロのベストだ。そうそう、この感触。負荷に満足し、気分よく準備運動を始めると、
「相変わらず草生える剛力よねー」
「……」
剛力とまで言われるのは流石に抵抗あるぞ。……この世界の基準で考えて、私ってそこまで言われるほどか? まぁ鍛えてない一般人とかは、そこまで筋力ないのは分かってるけど……私の知人達がアレだったんだろう。
ただ、私は今まったくオーラがない状態だからな。僅かでもオーラを垂れ流す一般人の方が、本来パワーあるんだろうか。うーむ……いや、あったとしても垂れ流しじゃ誤差の範囲かな。
久しぶりだからかシームの動きはあまり良くなかったものの、しばらくして以前と遜色なく動けるようになっていた。
メレオロンは始めからそれほどキツくなかったようで、身体を解した後はドスドス音を立てて辺りを走ってる。
私も色々と運動を織り交ぜ、200キロのダンベルも使ってみっちり鍛錬を積む。ふふ……
「ぅわ、なんかあのヒト笑ってる」
「……」
近くを走ってたメレオロンが目敏く、1人ほくそ笑んだ私を言葉のトゲで刺してくる。くっ……なんだかんだで飄々とこなしてるクセに、今日はやけに辛辣だな。
私はメレオロンを追い、並び走りながら、
「なんですか、いったい何がそんなに気に入らないんですか」
「うわっ!?
ちょっ、ダンベル持ったまま!」
「どうでもいいでしょう、そんなの。
なんですか、さっきからごちゃごちゃと。私が修行楽しんじゃいけないんですか?」
「いやー……
いけなくはないんだけど、その、なんて言うの?
アンタの見た目とのギャップがね」
……。
「修行と見た目は関係ありません」
「んー。
まぁアッチのかわい子ちゃんにも言えるけどさ。似合う似合わないって結構大事よ?
どう接していいか、周りが混乱するから」
「……
アッチのにゃんこについては、言いたいことも分かりますが」
「あいしゃー。勝手に納得しないでー」
「なんか言ってるわよ?」
「聴こえません。
それより走ってるペースが随分落ちてますよ。もっと速く」
「いや、アンタが話しかけてくるからでしょうが。
もう突っつかないから、アンタはアンタの修行してなさい。走るの邪魔しないの」
む。……まぁいい。変態をしごくのは後にして、私は私の鍛錬に集中するか。
なまっていた分を取り戻す為、早めに筋トレを2セット終え。
座って私達の修行を眺めているウラヌスのそばへ。
「休憩?」
「ええ。そろそろ2人のメニューも考えたいですし」
腰を下ろすと、速やかにタオルが手渡される。それで汗を拭い終えると、今度はペットボトル。言わなくてもやってくれるのは大変ありがたいんだけど……
「あなたの修行はどうしましょうね?」
「それなー。
基本的に消耗が激しいことしか出来ないからね。
修行を強行したら、どうやっても攻略の妨げになるって、もう分かったでしょ?」
「そうですね……」
ウラヌスに疲労を溜めさせると、おそらく一度就寝して起きただけでは回復しきらない。特にオーラと肉体両方に負荷をかけた場合は顕著だ。ただでさえ彼には強い精神的負荷がかかってるから……
攻略の負担を誰も肩代わりできないんだよな……。ベルさん辺りと相談してたのは悪くなさそうだったけど、アレは相談自体が捗ってただけで、むしろウラヌスの負担は増えていた気がする。
修行を疎かには出来ないけど、攻略もおざなりにはできない。困ったなぁ……
「まぁ俺なんかより、まずは2人の修行に集中して。
それが現状を打破する一番の近道だと思うよ。俺は余力がある時でいいからさ」
……やっぱりそうなるか。とは言え、2人の修行もヘタに強度を上げると不満がスゴイしなぁ。アッチもコッチもやりづらいよ。
あまり取り立てて良い案も浮かばず、メレオロンやシームと組手したり基礎鍛錬を繰り返すうちに、夕方を迎えた。
「ハイ。今日はこれで終わりにしましょう」
『はぁぁぁー……』
べしゃっとつぶれる姉弟。こういうトコ見ると、これでもいいかと思っちゃうんだよね。きちんと基礎修行はできてるし、技術は後から身につけさせてもいいかなって。
なんだかんだで、常人よりは遥かに伸びがいいからな。組手をしてみた限り、ちゃんと今朝の実戦も経験として活かせていた。技術向上は時間がかかるもんだし、じっくりやるしかないか。
「おつかれー。
……アイシャ的に、今日の内容は不満?」
タオルや水を姉弟に配りながら、ウラヌスが尋ねてくる。
「不満と言うほどでは。ちょっと久しぶりでしたし、慣らしとしては充分かなと」
「そっか。攻略と両立しようとしたら、これぐらいになっちゃうよね」
んー。本当は修行だけガッツリやりたいけど、今はね。優先的に確保したいアイテムがある以上、私が移動スペルを使えるうちは、どうしても修行に本腰は入れづらいか……
そして修行の後は、これまた久々の料亭『秋の空』。
食欲の赴くままに好きなだけ頼み、並べられた秋の幸の薫りでひとまず満たされる。
『いただきまーす♪』
あー……茄子の生姜焼き、美味しいなぁ。これだけでもゴハンが進んじゃうよ。
私が松茸の茶碗蒸しを掻き込んでいると、
「にしても、アレよね。
スノーフレイのお鍋も、暖かくて良かったけどさ。
オータニアのここは、純粋に美味しいわよね」
メレオロンが満足げにそう言ってくる。うむうむ、彼女もジャポン食の良さが分かってきたか。彼女は野菜好みだから、オータニアの秋の味覚はクチに合いやすいのかも。
「鍋は寒くないと物足りないからな。
その点、こういう料理はいつ食っても旨いよな」
「そうですよね。
ほんとゴハンも美味しくて」
「うんうん、分かる分かる」
ジャポン出身のウラヌスとは、こういう食の好みが合うんだよな。あー、もうちょっと早く逢いたかったよ、ウラヌスと。ゴン以外のみんなにも紹介したいな。
美味しい食事で満足した後は、慣れ親しんだ旅館『時雨紅葉』へ。
「さーくらー♪」
「にゃーん」
じゃれる1人と1匹を後目に、ウラヌスと2人で浴場へ。……まぁ入口で別れたけど。
1人でのびのびと檜風呂を堪能……ふぅー、極楽ごくらく。
お風呂上がり、待っていてくれたウラヌスとソファーで並び座り、フルーツ牛乳を1本空ける。
「はぁー……
今日は良い1日でしたね」
「うん?
なに、改まって」
「いえ……
午前中にゲーム攻略して、午後からたっぷり修行。豪華な夕食に贅沢な寝泊まり。
ちゃんと楽しんでるな、と思いまして」
「うん……そうだね。
そんなこと言われると、明日どうしようか悩んじゃうけどね」
「今後どう攻略していくか、相談するんですよね?」
「ん。2人がお風呂から上がったらね。
どうせそれまで、アイシャは桜と遊ぶんでしょ?」
「ええ、当然じゃないですか」
「当然かなぁ……
ま、いいや。そろそろ部屋に戻ろ」
シームからサクラを受け取り、ウラヌスの頭上に鎮座。さて、姉弟がお風呂から戻ってくるまでの間どうしてようかな。サクラはもうしばらく充電しときたいし。
「俺に何の確認もせず、桜置くのやめてくんない?」
「にゃ」
「なに言ってるんですか。充電器のクセに生意気ですよ」
「ひどいぃぃ……
あいしゃがひどいぃぃぃー……」
めそめそするウラヌス。だって今日はまだ時間あるし、たっぷりサクラを愛でたいもん。ウラヌスは修行に参加しなかったからオーラも回復してるだろうし、別にいいじゃないか。
頭上のサクラを撫で撫でしながら、
「ちょっと下がうるさいですけど、しばらくガマンしてくださいねー」
「にゃん♪」
「なんで俺、こんな扱い受けてんの……」
「あなたも撫でてあげましょうか?」
「へっ!?」
「サクラを乗せたまま寝転がってくれたら、全身撫でるようにマッサージしてあげます。
さ、横になって」
「い……
いい、いい、いい。いーです。結構です」
「そんな、遠慮なさらずにぃ」
「ちょ、手ぇわきわきさせないで。いいから、マジで!
遠慮とかじゃないから! 俺、疲れてない!」
「そうですか?
じゃあ、かるーいマッサージを」
「違ぁう! そうじゃないぃぃぃぃっ!」
部屋の外へドタバタ逃げ出すウラヌス。……ちきしょう、回り込めなかった。おまけにサクラまで持ってかれた。しまったな。
と思ったら、すぐそこで室内を窺う気配。ちらりとスキマからにゃんこ2匹が覗き込む。……面白いからヤメたまえよキミたち。
私は吹き出すのを必死にこらえながら、
「ウラヌス。
マッサージは冗談ですから、戻ってきてください」
「ホントに?
無理やり揉んだりしない?」
「ええ」
おそるおそる小動物が部屋に入ってくる。いやねぇ、もう……にゃんこ頭に乗っけて、何遊んでんだ感がスゴイ。乗せたの私だけど。にゃんこの下もにゃんこだけど。
「アイシャ……
せめて2人が戻るまで、ゲームでもしようよ」
「構いませんよ。なにします?」
こういう時のド定番、KO○'96でバチバチにやりあう私達。お互いに最後の1人、体力ゲージも接戦の状況で、
「にゃ! にゃ!」
「ぅわ、ちょ!?」
「っし! 勝ちですね」
「ちょっと、ちょっと! こいつ完全に邪魔しやがったんだけどっ!?」
「にゃん」
「私の投げが見事に入りましたね。言い訳は見苦しいですよ」
「……こいつ、戻していい?」
「なに言ってんですか、ダメに決まってるでしょう」
ちょっと本気っぽかったので、サクラをウラヌスの頭から取り上げた。胸にだっこする。
「にゃぅー……」
「さ、続きしますよ」
「え? マジ?
そんな状態でやるの?」
「まさか。ヒザの上にサクラを置いてしますよ」
「にゃん」
「いやー……
それでもキビしいと思うけどなぁ。格ゲーってそんなに甘くないよ?」
「やってみなきゃ分かりませんよ」
「にゃっ」
「ぬ、くっ」
「ほら、言わんこっちゃないー」
「まだ……まだぁ!」
「よっと」
「あ、ぅわーっ!?」
「にゃう?」
「だから言ったのに……」
ぐぬぬぅ……。膝に置いたサクラの肉球が、もふもふが気持ち良すぎて、ちっとも集中できないぃ!
何度やっても勝てないので、私はパッドを放り出した。
代わりににゃんこを抱いて、布団の上でゴロ寝する。
「にゃんっ」
「もーいいです。サクラ抱っこして寝まーす」
ぷにぷにー。……しあわせな温もりって、こういうのなんだろうなぁ。頬ずりすると、サクラも嬉しそうに懐いてくる。
「にゃーう」
「うぃうぃー」
「桜で遊ぶのは良いけどさぁ……
寝ちゃダメだよ? これから大事な話するんだし」
「にゃ?」
「……そうでした。今日は長丁場でしたね」
名残惜しいけど、サクラを抱き上げてウラヌスの頭にぷにっと乗せる。
相変わらず見事な2段にゃんこに私が満足して頷くと、下のにゃんこはスゴイ嫌そうに、
「どうしてこうなった」
さぁ。