どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

185 / 300
オータニア編9 2000/9/25
第百七十二章


 

 ショッピングセンターで、水・食料・タオルを購入し。秋の景色を楽しみながら都市の入口へ、そして迂回ルートを取りつつ、修行場がある林へと向かう。

 

 ふふ……なんだかウキウキしちゃうな。修行、修行♪

 

「しゅーぎょうー、しゅーぎょうー♪

 たっぷりしゅーぎょうー♪」

 

 思わず口ずさんだ途端、周りがドン引く気配。特に嫌そうな顔をしたメレオロンが、

 

「え。……なにその胃もたれする歌……」

 

「胃もたれってなんですかッ!? 胃もたれって!?」

 

 まったく、失敬な!

 

「あはは……

 アイシャは強くなることに貪欲だね」

「ん、んー。

 貪欲なんて言われるのは心外ですが。

 修行は日課のようなものでして、やらないと落ち着かないんですよ」

「ふぅん」

 

 なんかサラっとウラヌスに流された。イヤまぁ変に詮索されても困るし、別にいいけど。

 

「歌詞のセンスについては突っ込んであげないの?

 アンタ、そういうの詳しいんでしょ?」

「……別に詳しいわけじゃない」

 

 妙に絡んでくるな、メレオロン。そしてウラヌス、私から視線を逸らしたのはなんで?

 

 

 

 林の中へ入り、円状の広場になっている修行場へ。うむ、戻ってきたって感じだな。

 

 ウラヌスが籠手を小さく具現化、ざくざく土を掘り返す。手が汚れないから便利だよね。掘り返す為にシャベル持ち歩くのもなんだし。

 

 袋に入った修行用品は無事だな。ウラヌスも特に何も言わないし、誰かが触ったということはないだろう。

 

「またウェイトトレーニングなのよね……」

「そうですよ。久々ですから、まずは筋力体力からです。

 技術的なことは追々教えますから、当面は基礎鍛錬に励んでください」

「はぁい」

「シームもですよ」

「うん……」

 

 

 

 掘り返したベストとバンドをそれぞれ身に着けていく。

 

 ひとまず慣らす意味合いで、荷重はそのまま。急に無理して、身体を壊しちゃ元も子もないしな。この手の負荷は、継続して少しずつ強くしていくのが定石だ。

 

 シームは両手足に10キロのリストバンド。60キロのベストは、今のところ着けさせない。

 

 メレオロンも同じく両手足に10キロのバンド、更に70キロのベスト。

 

 私は50キロのバンドに、250キロのベストだ。そうそう、この感触。負荷に満足し、気分よく準備運動を始めると、

 

「相変わらず草生える剛力よねー」

「……」

 

 剛力とまで言われるのは流石に抵抗あるぞ。……この世界の基準で考えて、私ってそこまで言われるほどか? まぁ鍛えてない一般人とかは、そこまで筋力ないのは分かってるけど……私の知人達がアレだったんだろう。

 

 ただ、私は今まったくオーラがない状態だからな。僅かでもオーラを垂れ流す一般人の方が、本来パワーあるんだろうか。うーむ……いや、あったとしても垂れ流しじゃ誤差の範囲かな。

 

 

 

 久しぶりだからかシームの動きはあまり良くなかったものの、しばらくして以前と遜色なく動けるようになっていた。

 メレオロンは始めからそれほどキツくなかったようで、身体を解した後はドスドス音を立てて辺りを走ってる。

 私も色々と運動を織り交ぜ、200キロのダンベルも使ってみっちり鍛錬を積む。ふふ……

 

「ぅわ、なんかあのヒト笑ってる」

「……」

 

 近くを走ってたメレオロンが目敏く、1人ほくそ笑んだ私を言葉のトゲで刺してくる。くっ……なんだかんだで飄々とこなしてるクセに、今日はやけに辛辣だな。

 

 私はメレオロンを追い、並び走りながら、

 

「なんですか、いったい何がそんなに気に入らないんですか」

「うわっ!?

 ちょっ、ダンベル持ったまま!」

「どうでもいいでしょう、そんなの。

 なんですか、さっきからごちゃごちゃと。私が修行楽しんじゃいけないんですか?」

「いやー……

 いけなくはないんだけど、その、なんて言うの?

 アンタの見た目とのギャップがね」

 

 ……。

 

「修行と見た目は関係ありません」

「んー。

 まぁアッチのかわい子ちゃんにも言えるけどさ。似合う似合わないって結構大事よ?

 どう接していいか、周りが混乱するから」

「……

 アッチのにゃんこについては、言いたいことも分かりますが」

「あいしゃー。勝手に納得しないでー」

「なんか言ってるわよ?」

「聴こえません。

 それより走ってるペースが随分落ちてますよ。もっと速く」

「いや、アンタが話しかけてくるからでしょうが。

 もう突っつかないから、アンタはアンタの修行してなさい。走るの邪魔しないの」

 

 む。……まぁいい。変態をしごくのは後にして、私は私の鍛錬に集中するか。

 

 

 

 なまっていた分を取り戻す為、早めに筋トレを2セット終え。

 

 座って私達の修行を眺めているウラヌスのそばへ。

 

「休憩?」

「ええ。そろそろ2人のメニューも考えたいですし」

 

 腰を下ろすと、速やかにタオルが手渡される。それで汗を拭い終えると、今度はペットボトル。言わなくてもやってくれるのは大変ありがたいんだけど……

 

「あなたの修行はどうしましょうね?」

「それなー。

 基本的に消耗が激しいことしか出来ないからね。

 修行を強行したら、どうやっても攻略の妨げになるって、もう分かったでしょ?」

「そうですね……」

 

 ウラヌスに疲労を溜めさせると、おそらく一度就寝して起きただけでは回復しきらない。特にオーラと肉体両方に負荷をかけた場合は顕著だ。ただでさえ彼には強い精神的負荷がかかってるから……

 

 攻略の負担を誰も肩代わりできないんだよな……。ベルさん辺りと相談してたのは悪くなさそうだったけど、アレは相談自体が捗ってただけで、むしろウラヌスの負担は増えていた気がする。

 

 修行を疎かには出来ないけど、攻略もおざなりにはできない。困ったなぁ……

 

「まぁ俺なんかより、まずは2人の修行に集中して。

 それが現状を打破する一番の近道だと思うよ。俺は余力がある時でいいからさ」

 

 ……やっぱりそうなるか。とは言え、2人の修行もヘタに強度を上げると不満がスゴイしなぁ。アッチもコッチもやりづらいよ。

 

 

 

 あまり取り立てて良い案も浮かばず、メレオロンやシームと組手したり基礎鍛錬を繰り返すうちに、夕方を迎えた。

 

「ハイ。今日はこれで終わりにしましょう」

『はぁぁぁー……』

 

 べしゃっとつぶれる姉弟。こういうトコ見ると、これでもいいかと思っちゃうんだよね。きちんと基礎修行はできてるし、技術は後から身につけさせてもいいかなって。

 なんだかんだで、常人よりは遥かに伸びがいいからな。組手をしてみた限り、ちゃんと今朝の実戦も経験として活かせていた。技術向上は時間がかかるもんだし、じっくりやるしかないか。

 

「おつかれー。

 ……アイシャ的に、今日の内容は不満?」

 

 タオルや水を姉弟に配りながら、ウラヌスが尋ねてくる。

 

「不満と言うほどでは。ちょっと久しぶりでしたし、慣らしとしては充分かなと」

「そっか。攻略と両立しようとしたら、これぐらいになっちゃうよね」

 

 んー。本当は修行だけガッツリやりたいけど、今はね。優先的に確保したいアイテムがある以上、私が移動スペルを使えるうちは、どうしても修行に本腰は入れづらいか……

 

 

 

 そして修行の後は、これまた久々の料亭『秋の空』。

 

 食欲の赴くままに好きなだけ頼み、並べられた秋の幸の薫りでひとまず満たされる。

 

『いただきまーす♪』

 

 あー……茄子の生姜焼き、美味しいなぁ。これだけでもゴハンが進んじゃうよ。

 私が松茸の茶碗蒸しを掻き込んでいると、

 

「にしても、アレよね。

 スノーフレイのお鍋も、暖かくて良かったけどさ。

 オータニアのここは、純粋に美味しいわよね」

 

 メレオロンが満足げにそう言ってくる。うむうむ、彼女もジャポン食の良さが分かってきたか。彼女は野菜好みだから、オータニアの秋の味覚はクチに合いやすいのかも。

 

「鍋は寒くないと物足りないからな。

 その点、こういう料理はいつ食っても旨いよな」

「そうですよね。

 ほんとゴハンも美味しくて」

「うんうん、分かる分かる」

 

 ジャポン出身のウラヌスとは、こういう食の好みが合うんだよな。あー、もうちょっと早く逢いたかったよ、ウラヌスと。ゴン以外のみんなにも紹介したいな。

 

 

 

 美味しい食事で満足した後は、慣れ親しんだ旅館『時雨紅葉』へ。

 

「さーくらー♪」

「にゃーん」

 

 じゃれる1人と1匹を後目に、ウラヌスと2人で浴場へ。……まぁ入口で別れたけど。

 

 1人でのびのびと檜風呂を堪能……ふぅー、極楽ごくらく。

 

 お風呂上がり、待っていてくれたウラヌスとソファーで並び座り、フルーツ牛乳を1本空ける。

 

「はぁー……

 今日は良い1日でしたね」

「うん?

 なに、改まって」

「いえ……

 午前中にゲーム攻略して、午後からたっぷり修行。豪華な夕食に贅沢な寝泊まり。

 ちゃんと楽しんでるな、と思いまして」

「うん……そうだね。

 そんなこと言われると、明日どうしようか悩んじゃうけどね」

「今後どう攻略していくか、相談するんですよね?」

「ん。2人がお風呂から上がったらね。

 どうせそれまで、アイシャは桜と遊ぶんでしょ?」

「ええ、当然じゃないですか」

「当然かなぁ……

 ま、いいや。そろそろ部屋に戻ろ」

 

 

 

 シームからサクラを受け取り、ウラヌスの頭上に鎮座。さて、姉弟がお風呂から戻ってくるまでの間どうしてようかな。サクラはもうしばらく充電しときたいし。

 

「俺に何の確認もせず、桜置くのやめてくんない?」

「にゃ」

「なに言ってるんですか。充電器のクセに生意気ですよ」

「ひどいぃぃ……

 あいしゃがひどいぃぃぃー……」

 

 めそめそするウラヌス。だって今日はまだ時間あるし、たっぷりサクラを愛でたいもん。ウラヌスは修行に参加しなかったからオーラも回復してるだろうし、別にいいじゃないか。

 

 頭上のサクラを撫で撫でしながら、

 

「ちょっと下がうるさいですけど、しばらくガマンしてくださいねー」

「にゃん♪」

「なんで俺、こんな扱い受けてんの……」

「あなたも撫でてあげましょうか?」

「へっ!?」

「サクラを乗せたまま寝転がってくれたら、全身撫でるようにマッサージしてあげます。

 さ、横になって」

「い……

 いい、いい、いい。いーです。結構です」

「そんな、遠慮なさらずにぃ」

「ちょ、手ぇわきわきさせないで。いいから、マジで!

 遠慮とかじゃないから! 俺、疲れてない!」

「そうですか?

 じゃあ、かるーいマッサージを」

「違ぁう! そうじゃないぃぃぃぃっ!」

 

 部屋の外へドタバタ逃げ出すウラヌス。……ちきしょう、回り込めなかった。おまけにサクラまで持ってかれた。しまったな。

 

 と思ったら、すぐそこで室内を窺う気配。ちらりとスキマからにゃんこ2匹が覗き込む。……面白いからヤメたまえよキミたち。

 

 私は吹き出すのを必死にこらえながら、

 

「ウラヌス。

 マッサージは冗談ですから、戻ってきてください」

「ホントに?

 無理やり揉んだりしない?」

「ええ」

 

 おそるおそる小動物が部屋に入ってくる。いやねぇ、もう……にゃんこ頭に乗っけて、何遊んでんだ感がスゴイ。乗せたの私だけど。にゃんこの下もにゃんこだけど。

 

「アイシャ……

 せめて2人が戻るまで、ゲームでもしようよ」

「構いませんよ。なにします?」

 

 

 

 こういう時のド定番、KO○'96でバチバチにやりあう私達。お互いに最後の1人、体力ゲージも接戦の状況で、

 

「にゃ! にゃ!」

「ぅわ、ちょ!?」

「っし! 勝ちですね」

「ちょっと、ちょっと! こいつ完全に邪魔しやがったんだけどっ!?」

「にゃん」

「私の投げが見事に入りましたね。言い訳は見苦しいですよ」

「……こいつ、戻していい?」

「なに言ってんですか、ダメに決まってるでしょう」

 

 ちょっと本気っぽかったので、サクラをウラヌスの頭から取り上げた。胸にだっこする。

 

「にゃぅー……」

「さ、続きしますよ」

「え? マジ?

 そんな状態でやるの?」

「まさか。ヒザの上にサクラを置いてしますよ」

「にゃん」

「いやー……

 それでもキビしいと思うけどなぁ。格ゲーってそんなに甘くないよ?」

「やってみなきゃ分かりませんよ」

「にゃっ」

 

 

 

「ぬ、くっ」

「ほら、言わんこっちゃないー」

「まだ……まだぁ!」

「よっと」

「あ、ぅわーっ!?」

「にゃう?」

「だから言ったのに……」

 

 ぐぬぬぅ……。膝に置いたサクラの肉球が、もふもふが気持ち良すぎて、ちっとも集中できないぃ!

 

 

 

 何度やっても勝てないので、私はパッドを放り出した。

 

 代わりににゃんこを抱いて、布団の上でゴロ寝する。

 

「にゃんっ」

「もーいいです。サクラ抱っこして寝まーす」

 

 ぷにぷにー。……しあわせな温もりって、こういうのなんだろうなぁ。頬ずりすると、サクラも嬉しそうに懐いてくる。

 

「にゃーう」

「うぃうぃー」

「桜で遊ぶのは良いけどさぁ……

 寝ちゃダメだよ? これから大事な話するんだし」

「にゃ?」

「……そうでした。今日は長丁場でしたね」

 

 名残惜しいけど、サクラを抱き上げてウラヌスの頭にぷにっと乗せる。

 

 相変わらず見事な2段にゃんこに私が満足して頷くと、下のにゃんこはスゴイ嫌そうに、

 

「どうしてこうなった」

 

 さぁ。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。