第百七十四章
9月26日。
慣れ親しんだ時雨紅葉の慎ましい朝食をいただき、メレオロンと談笑しながら穏やかに檜風呂を堪能した後。
『名簿』を使い、『魔女の若返り薬』と『魔女の痩せ薬』はまだ誰も手に入れていないことを確認。予定通り旅館を出発した。
オータニアのショッピングセンターで野営用品を買い揃え、トレードショップで所持金整理。準備完了し、『再来』でドリアスへ飛ぶ。
ドリアス入口から草原の向こうへと伸びる細い道を、私達は40㎞先の宿場町を目指して駆け出した。
怪物も出ないような、なだらかな道のりを進んでいき。特に問題なく宿場町カーゴへと到着。
「なぁんだ。
思ったより早く着いたじゃない」
町の時計を見ると10時少し前だ。2日がかりになるかもって聞いてたし、ちょっと拍子抜けかな。
「まぁ50分きっかり目指したからな。
当然っちゃ当然だよ」
流石に私も、全くオーラなしで40㎞を50分以内に走破するのは無理だ。体力はともかく、速度が維持できない。なのでウラヌスに『周』をかけてもらって、弱体化が始まる50分を下切りラインに走ってきた。シームが持ちこたえられるかどうかが問題だったんだけど、
「シーム、あんた意外に大丈夫そうね」
「うん……まぁなんとか」
荷物を背負ってワリとハイペースだったのに、シームはまだ余力を残していた。同じくメレオロンも。日々の修行の成果が出ているようで、何より何より。
「この町で軽く休憩したら、今度は魔女の森の手前まで同じペースで40㎞走る。走るのはそこまで。森の手前で休息と昼食を摂ったら、魔女の森に突入するよ」
「へっ?
お昼、ここで食べていかないの?」
メレオロンの疑問に、ウラヌスは首を振って否定。
「そこまでノンビリしないよ。いちおう今日中に片付けるつもりだから、ここでは昼食を買うだけ。
魔女の森でどれだけ手こずるか分かんないし、暗くなったらアイテム捜索も難しいから、できるだけ早く森に突入したい」
「それは分かったけど……
この町って、何にもイベントないの?」
「大概の町にはイベントくらいあるよ」
「えぇと、そうじゃなくて。
指定ポケットカードの」
「んー……
まぁここにもあるけど、俺はやりたくないな」
ウラヌスは渋い顔をするだけで、特に説明しない。きっと説明するのも面倒なイベントなんだろうな。ランクSとか大体そんな感じだし。
喫茶店で軽く渇きを潤し、昼食を購入した私達は、早々に宿場町を発つ。
すぐ見えてきた海岸線にやや沿う形で西へ疾走。先ほどと同じく50分くらいで、大きな森林の直前に到着した。
「みんな、お疲れ。ここで休憩しよう」
「お疲れ様です。シーム、大丈夫ですか?」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…………ぅん……」
「はぁぁぁー……しーんど」
流石に疲労の色を見せるシーム。私はすぐリュックを引き取り、休憩させる。ふむ……メレオロンはまだ余裕あるな。かくいう私もまだ充分余力はある。と言うか、さほど疲労してないんだよね。
ウラヌスも、ぱっと見にはそこまで疲れてない。けど私に2回オーラを渡してるからな。しっかり休んでもらおう。
「私が食事の用意をしますから、皆さん休んでいてください」
「お言葉に甘えてー」
「はぁ、はぁ……」
「あ、俺も手つ──」
「いいから休んでください」
「……はぃ」
長丁場になるかもって言った本人が、ちゃんと休まなくてどうするんだ。──私に渡すオーラが尽きたら強制的に森の探索は中断になるんだから、休んでもらわないと困る。
どう粘っても、今日の夕方ぐらいまでが探索のタイムリミットだろうけどね。できれば今日中に終わらせたいところだ。
荷物を漁りながら森の方へ目をやって、溜め息を吐く。ずいぶん広そうだなぁ……この森の中を探索するとか、始める前からウンザリする。終わるかなぁ。
「ごめん、アイシャ。
支度ついでに、みんなにタオル配ってくれる?」
「ええ。
リュックに入ってる方を使うんですね?」
「うん、カードの方は野営用だから」
タオルで汗を拭き、喫茶店で買ったサンドイッチとペットボトルの水で昼食を終えて、休憩がてらウラヌスは魔女の森の説明をしていた。
「基本的には、この森のところどころで
この何かってのがクセモノで、アタリでもハズレでも関係なく、魔女との交換に出した果実は取られちまう」
「……どういうこと?」
メレオロンが首を傾げる。ウラヌスはくるりと指を回し、
「元々このイベントは、魔女の痩せ薬を取る為のイベントなんだよ。
魔女の家で、痩せ薬を譲ってくれって頼むと、魔女に薬の材料集めを依頼されるんだ。その材料が、この森に生ってる果実。
森の果実は、痩せるタイプと肥えるタイプとどちらでもないタイプ、3つあるらしい。16種類のうち、痩せる果実を多めに持っていくと、魔女の痩せ薬をくれる。
逆に、肥える果実を多めに持っていくと、魔女の肥え薬をくれる」
話を聞いて、不満げな顔をするメレオロン。
「そもそも、その肥え薬って何なの? 使ったら太るのよね?
普通そんなの要らないと思うんだけど」
「モノは考えようだよ。
いかにもハズレっぽいけど、ヒトによっちゃ体重を増やしたいケースもあるだろうし。一番ありそうなのが、痩せ薬を使いすぎてガリガリになって健康を害したから、元に戻すとかな」
「あーまぁ、そういうケースは分かるけど……」
ウラヌスは肩をすくめ、
「で、肥え薬はハズレに見せかけて、実は若返り薬の材料になるわけだ。
いらねーよと思って肥え薬を手放すと、後で必要なのが分かって取り直すハメになる。
でも肥え薬を偶然取っただけだと、その時に持っていった果実が何なのか覚えてなくて、今度は肥え薬が入手できないー、とか結構引っかき回されるんだよな」
「……それ、アンタが引っかかったの?」
「いんや、俺はそういう話をヒトから聞いただけ。
だからちゃんと調べたよ。そもそもトレードショップで果実の効果を聞けば、痩せるか肥えるか教えてくれるしな」
「あ、なぁんだ。それなら簡単じゃない」
「トレードショップで聞くのを思いつけば、な。意外とサボりがちだけど。数あるから、財布にも響くし。
それに肥え薬、痩せ薬以外にもハズレアイテムがあるから、そこまで簡単じゃない。
まぁどの組み合わせで渡せばいいか分かってるから、とりあえず果実集めさえ終われば問題ないよ」
ふむ、クリアの目処は立ってるみたいだな。いちおう確認はするけど。
「具体的にどうするかは決まってるんですか?」
「うん。
魔女の森には、全部で32種類の果実が生ってる。
ブドウ、レモン、さくらんぼ、バナナの各4種で痩せ薬。
オレンジ、りんご、いちご、クルミの各4種で肥え薬が取れる。
結論を言うと、今の俺達の状況で果実32種類全て集められたら、魔女の痩せ薬と魔女の若返り薬、両方をゲットできる」
「今日中に集まりそうですかね?」
「できれば集めたいね。
同じ日のうちに全種生ってるはずだから、他プレイヤーが今日来てなければいけるはず。次の日になるとまた新しく生るから、逆に混乱して集めにくくなるし。
2日がかりとは言ったけど、実際のタイムリミットは明日の昼まで。それ以上は食料と野営の準備が不足してるし、危なっかしい。
理想は今日の夕方までに終わらせることだね。暗くなったら厳しいから」
シームが手を上げ、
「怪物は森の中に出るんだよね?」
「そうだな。
ただ、普通には出てこない。果実の近くに出てくることがある。
逆に言えば、怪物が出てきたら必ず近い場所に果実がある。……もちろん怪物が出ないからと言って、果実がないとは限らない。怪物の出現率は100%じゃないからね」
「ウラヌスは、どんな怪物が出るか知ってるんですよね?」
「うん、今から説明するよ。
まず──」
ふふ。こうやって説明するウラヌスは、なんだかんだで生き生きしてるな。
説明を聞き終え、私が『周』をかけてもらった後、4人で魔女の森へと入っていく。
名前からおどろおどろしいイメージも少しあったけど、実際森の中を見た感じ変わった印象は受けない。森だから木々が繁ってるのは当然にしても、それほど険しく歩きにくいわけでもない。平地だからっていうのもあるかな。ただ林と違って露出してる土は少なく、ほとんど
あらかた森の観察をした後は、鳥の囀りや葉擦れの音を聴きながら、森の散策を楽しむ。
──5分ほど歩いたところで、ウラヌスが不意に立ち止まった。全員足を止める。
「見つけた。しばらく警戒して」
「……見つけたって、どこ?」
うーん……私にも分かんないな。尋ねるメレオロンに、ウラヌスは見ていた森の一方を指差し、
「あっちに少しオーラの気配がある。
種類までは分かんないけど、果実が生ってるのは間違いないよ」
「……そういう見つけ方するしかないの?」
「目視で探せないとは言わないけど、時間かかっちゃうな。
基本的に俺の仕事だと思ってる」
またウラヌスの負担か。私は論外にしても、出来ればメレオロンとシームにも頑張ってほしいな。
「ウラヌス、2人に探してもらうことって出来ませんか?」
「うーん……
修行の一環として、そうさせたい気持ちは分かるんだけどさ。
俺が先に見つけて警告しないと、怪物に奇襲されるじゃん? 多分2人が見つけるより、敵の出現の方が早いよ」
「それじゃ厳しいですね……」
「まだ2人には難度が高いと思う。果実を見落としたら元も子もないし。
どうしてもさせたいなら、あらかじめ俺が見つけて警告、俺が果実の近くまで案内して、2人には実際生ってる場所を見つけてもらう、くらいかな」
「……やめておきましょう。
いずれにしても、不必要に時間がかかりそうです」
「そうだね。攻略に余分な時間はかけたくない。
修行は修行で、分けてやった方がむしろ効率いいよ。
なんせ俺達、時間も人手もぜーんぜん足りないからね」
なんだよなぁ。仕方ないか……
結局敵に遭遇することなく、果実のある場所へ到着した。
なんだか強引にぶらさがってる感もあるけど、木の枝に紫色のブドウが
「すんごい普通に生ってるわねぇ」
「まぁな。見つけやすくて助かるけど。
もう警戒は解いていいよ。ここまで近づいて、敵が出ることはないはずだから」
実の生る下まで歩いたウラヌスが「よっ」と垂直ジャンプし、果実を摘み取る。ボン! とカード化した。
『348:天使が培う紫苑葡萄』
ランクG カード化限度枚数497
魔女の森の 樹に生ることがある
紫に染まった芳醇なブドウ 魔女の薬の材料になる
「これって食べられるの?」
私も気になったことを、シームが質問してくれる。ウラヌスはバインダーを眺めながら「うーん」と唸り、
「……食べられるのは間違いないだろうけど。
美味いかって聞かれると困るな」
「食べたことってあります?」
「これじゃなくて、他の果実ならあるよ。
赤いサクランボはなかなか美味かったけど、美味そうなヤツって大体高く売れるんだよ。
この紫ブドウも高く売れるから、換金して普通の果物買って食べた方がいい」
「で、そのブドウはいくらなの?」
「ブック。
んー……9000。店で葡萄いくつ買えんだよ、って話」
そりゃそうだね。納得。
「じゃあ今ので結構儲けたじゃない」
「これを薬に交換しなけりゃ、な。
残念だけど1つ目は交換用だから、売れない。儲けになるのはダブついてからさ」
「じゃあ、そろそろ次を探しましょう。
急がないと、このペースじゃ日が暮れるんじゃないですか?」
「……まぁ疲れたらゆっくり歩くとして、体力があるうちは早足で行こうか。
きつかったら早めに言ってね。怪物と戦う時にクタクタじゃ困るから」
私は腕を組み、溜め息を吐きながら、
「そういうあなたこそ、早めに言ってくださいね?」
「あ、はい……」
森に入ってから50分ほどが経過した。
ついさっき私が倒した天使のカードを、歩きながらバインダーに収める。目をやると、跳躍したウラヌスが灰色の果実を掴み取っていた。
これで果実は10種類集まった。
私の『周』が弱まり出したので、休憩がてらカードを整理する。
『661:エンジェル』
ランクG カード化限度枚数502
古風な弓矢を扱う 羽根の生えた小天使
放つ矢の威力は低いが 距離をとって ひたすら射掛けてくる
『342:天使が養う白銀甘橙』
ランクG カード化限度枚数473
魔女の森の 樹に生ることがある
白銀に煌く甘露なオレンジ 魔女の薬の材料になる
『343:天使が育む
ランクG カード化限度枚数477
魔女の森の 樹に生ることがある
彩りのない甘露なオレンジ 魔女の薬の材料になる
『347:天使が促す翡翠葡萄』
ランクG カード化限度枚数493
魔女の森の 樹に生ることがある
翠に染まった芳醇なブドウ 魔女の薬の材料になる
『352:悪魔が嘲る漆黒林檎』
ランクG カード化限度枚数482
魔女の森の 樹に生ることがある
黒く熟れた美麗なリンゴ 魔女の薬の材料になる
『355:悪魔が蔑む翡翠木苺』
ランクG カード化限度枚数494
魔女の森の 樹に生ることがある
翠に染まった濃厚なキイチゴ 魔女の薬の材料になる
『362:精霊が棲む蒼穹桜桃』
ランクG カード化限度枚数491
魔女の森の 樹に生ることがある
蒼く色づく清涼なチェリー 魔女の薬の材料になる
『367:巨人が貪る薄鈍芭蕉』
ランクG カード化限度枚数480
魔女の森の 樹に生ることがある
彩りのない巨大なバナナ 魔女の薬の材料になる
『369:巨人が齧る紅蓮胡桃』
ランクG カード化限度枚数488
魔女の森の 樹に生ることがある
紅く色づく堅牢なクルミ 魔女の薬の材料になる
『372:巨人が浸る紫苑胡桃』
ランクG カード化限度枚数500
魔女の森の 樹に生ることがある
紫に染まった堅牢なクルミ 魔女の薬の材料になる
「思ったより順調っぽいわね」
「ここまではなー。
どうせダブついてくるだろうし、こっからだよ。面倒なのは」
ウラヌスが警告するワリに、あんまり怪物出てこないしな。初見はウラヌスが相手して、2度目からは私が戦うことになってるけど、そもそも天使が2回出てきただけだ。
「怪物の出現頻度が思ったより低いですね」
「今のところはね。
他のトコと違って、果実の近くに行かないと遭遇しないから、カードがあんま取れない。そのせいで、稼ぎ場としちゃイマイチなんだよね」
修行場としてもイマイチかな……。もう少し怪物が出てくるようなら、姉弟にも実戦を積ませるんだけど。
更に20分ほど進み、魔女の家に到着した。
なんというか……古風と言うか、テンプレと言うか。森は普通だったのに、魔女の家はその名前に相応しいオドロオドロしさがあった。
異様に屋根が尖った、レンガ造りの一軒屋。壁にはツタが這い登り、煙突から黒く細い煙が上がっている。この一帯だけ木々の繁り方が激しく、家屋の外ヅラを薄暗く不気味に仕立てていた。
「……ここ、やけに怖くない?
入ったら戦いになるんじゃないの?」
「ぼく、絵本みたいな魔女の家だと思ってた……」
姉弟が明らかに怖がってる。渋い顔をするウラヌス。私は込み上げてきた笑いをガマンしつつ、
「こういうのって、いかにもテンプレですよね?」
「テンプレだね。いかにも魔女の家っつうか。
予め言っとくけど、魔女とは戦わないし、戦えない。むしろここは安全地帯だよ。他のプレイヤーが来ることもあるから、絶対じゃないけど」
「……ホントに大丈夫?」
不安そうにシームがウラヌスへ寄って、ぎゅっと服を掴む。苦笑しながらシームの頭を優しく撫でるウラヌス。
「だいじょうぶだよ。さ、行こう」
扉をぎぃぃぃ、と不気味な音を立てて開けた途端。
「イィィィィーーーヒッヒッヒッヒぃぃぃっっ」
おおぅっ!? 声かどうかも疑いたくなるようなおかしな高笑いが響き渡った。シームがめっちゃウラヌスに抱きつく。
「おいおい……
シーム、大丈夫だってば」
「ぅぅぅぅぅー……!」
べそかき声で唸るシーム。ウラヌスはシームを抱えるようにして何とか中へ入っていき、私とメレオロンも軽く顔を見合わせた後、ついていく。
家の中は、これまたテンプレートな魔女の家だった。
室内の薄暗い照明に照らされて、あちこちの棚に奇妙な物が無造作に置かれているのが分かる。何が詰まってるのか分からない緑や紫の瓶、やけに磨かれた髑髏、ヒビ割れた壺、面妖な花を咲かせた植物、ボロボロの書籍、そして何より……
部屋の奥に見える大きな釜、その手前のテーブルに着く、長い三角帽を被ったお婆さん。
「よぅーこそ、おいでなすったねぇぇ。
ここを魔女の家と知っての訪問かのぅー……
ささ、遠慮なくお座りなされ。いーひっひっひっひぃぃぃー」
「ぅわーんッ!!」
うーん……まぁ……うん。
シームがやたらビビりまくってるのが気になって、魔女に意識を向けづらいんだよね。どっちも反応に困る。
「ウラヌス、早くここから出ようよぉ!」
「オマエ、ホントこういうの苦手なんだな……
言っとくけど、そのうち行くことになるムドラって、オバケとかゾンビの巣窟だぞ?
めっちゃビビらせてくるからな、あそこ。
お化け屋敷とか、シーム平気か?」
「ぜったいヤダーッ!」
「うぅん……
いや、大丈夫だって。すぐに慣れるよ」
さっきからシームに抱きつかれて、ウラヌスが椅子に座りたくても座れないでいる。
「シーム。ウラヌスが困ってるでしょ?」
「……」
「誰かが座らないと、イベントが進まなかったりします?」
「別にそんなことはないけど……
座ったら、美味くも不味くもない、毒にも薬にもならないドロッとしたお茶を出されるだけだし」
「アンタ、なんで真面目に答えんのよ。
そこでウソ吐きゃ離れられたでしょうに」
「おねーちゃん、うっさい!」
いやー、無理でしょ。ウラヌスって、そういう後でバレるウソ吐きたがらないもん。
「困ったなぁ……
なぁシーム、頼むから放してくれよ」
「やーだー。
……ぷにぷにー」
「おぉい。俺は抱き枕じゃねーんだぞ」
『ぶふっ!?』
メレオロンと一緒に吹き出す。ていうか、こんなとこでさっきから何やってんだ。
「もーいいから、イチャイチャしながら話進めれば?」
「待て待て待て。
俺そんなつもりじゃねーから。……シームも怖がってるフリなら、もうやめてくれよ」
「フリじゃない! 怖い怖い怖いっ!」
「うぅん……」
「あなたが不用意に怖がらせた責任もありますし、そのままイベント始めてください」
「えぇー……」
だってシームが放す気配ゼロじゃないか。こうしてる間も私の『周』のオーラは減っていくんだから、早くしてよ。
「大体、女2人がここにいんのに、なんでアンタ達がイチャついてんのよ」
「……メレオロン。
あんまりヘンなこと言わないように」
「だぁって、面白くないじゃない」
「……」
メレオロンが不機嫌な理由は分からなくもない。怖がってるシームの抱きついた先が、自分ではなくウラヌスだからだろう。抱き心地は圧倒的にアッチが上なんだから仕方ないけど。
それはそれとして、私を巻き込まないでほしい。私は傍観者で結構だよ。
メレオロンが近づき、小声で囁いてくる。
「てかアンタ、嫉妬の1つでもしたら?
そのうち取られちゃうわよ」
「さっきから何言ってるんですか」
肩をすくめるメレオロン。一体なんなんだ。別にこの2人が仲良くしてたっていいじゃないか。……私には関係ないよ。
「ぷにぷにぃー♪」
「しぃーむー……」
まぁウラヌスがちょっと可哀想ではあるけど。とはいえシームの気持ちも分からなくはないしな。