どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

189 / 300
リスタール編 2000/9/27
第百七十六章


 

 9月27日。

 

「ねぇ、アイシャ……」

 

「んんっ……うん?」

 

 目を開けると、上から見下ろしているウラヌスの顔。──早朝特有の肌寒さを感じる。

 

 ふえ? イキナリなに? やけに顔近いんだけど……

 

 私は掛け布団に少し潜りつつ、

 

「朝……ですよね?」

 

「ごめんね、まだちょっと早かったんだけど。

 もう少し寝てる?」

 

「いえ……

 なにか用ですか?」

 

 そう尋ねると、ウラヌスは身を引いてお姉さん座りでコクンとうなずく。

 

 私はこっそり息を吐き、上半身を起こす。

 

「あらかじめ伝えておいた方がいいかなと思って。

 不意打ちしちゃうと悪いから」

 

 うん? ……なんだろ、嫌な予感がする。大事な話か? 若返り薬を取ったし、それに関連することかな。

 

「あんまり長引かせてもイヤだろうし、さっさとしたかったんだけど」

 

「な……

 なんです、改まって?」

 

 うぅ、いったい何の話だ? 妙にどきどきしてきたぞ……

 

 ウラヌスは少し顔を赤らめ、

 

「スク水」

 

「……はい?」

 

「ほら、アレだよ。

 水中に潜るイベント、アイシャがスク水着て挑戦する件。

 それ、今日やってもらおうと思って」

 

「は……? ──はぁぁぁぁぁぁーっ!?」

 

「えぇっ!?

 いや、はぁぁぁ? とか言われても。

 いちおう約束だからね?」

 

「あ、はい。

 その……

 約束を忘れてたわけじゃないんですが。

 もったいぶるから、何の話かと思ったじゃないですか……もう」

 

 そう言って嘆息すると、ウラヌスは心底不思議そうに、

 

「えっ?

 何の話だと思ったの?」

「……

 若返り薬を取りましたから、それを使うとか研究するとか……」

「あー……うん。

 もちろん忘れちゃいないよ。

 ホントは『複製』で増やしたりしなきゃいけないんだけど、どうするか色々考えてたら、結局まとまらなくて。

 考えがまとまったら、ちゃんと教えるよ」

「はぁ……

 それは構いませんが、困ったら相談してくださいね?」

「うん、それはそうする。

 ……で、スク水の件は了承でいい?」

 

 ぐぅ……

 

「分かりましたよ……やりゃいいんでしょ、やりゃあ」

「アハハ。

 でも、アイシャもその気はあったんだよね? 荷物にスク水入れてたみたいだし」

「な……

 なんでそのことを」

「荷物整理で真剣に悩んでたから、チラっと覗いたら見えちゃって。

 ゴメンね」

 

 ぬぅぅぅ。朝からやられっぱなしだな……こうなったら。

 

 手を伸ばし、ウラヌスの両肩をガッと掴む。

 

「うぇっ!? なにっ!?」

「あなた、昨日の疲れが取れてませんね。

 軽くマッサージしてあげましょう」

「あ……

 いやいやいや! ないない、俺元気バッチリ! 疲れなんてゼロっす!」

「ウソおっしゃい。

 長時間、森の中で果実を探索したせいで、疲労バッチリだったじゃないですか。

 そうやって連日の疲れを溜め込むから、クタクタになるんですよ」

「ぅ……」

「なので少しでも疲労を軽減する為に、全身マッサージをですね」

「まま、まってまって!?

 確かにちょっと早いけど、2人がそろそろ起きてくる時間だし全身とか無理だって!」

「……そうですね。

 では、時間の許す限りマッサージということで。

 それならいいでしょう?」

「……

 …………。

 わかった……

 えっと、今6時50分だから……10分だけだよ?」

「ええ、10分ですね。

 ではあなたの布団の上へ、横になってください」

「ぅぅ……

 お手柔らかにお願いしますぅ……」

 

 ふふふ、10分もあれば充分だよ。

 

 このまな板の上のバカにゃんこを、思う存分料理して差し上げようッッ!!

 

 

 

 

 

 ────この後ムチャクチャ揉んだった。

 

 

 

 

 

「ウラヌス、どうしたの?」

 

「なんか様子がヘンね……」

 

 時雨紅葉の朝食。

 

 タマシイの抜けた様子で、へなへな食べ物を口に運ぶウラヌス。時々「おぉぉ……」と呻き声が洩れる。

 

 うん、まぁ姉弟も心配するわな。……ヤリすぎちゃった。てへぺろー。

 

 メレオロンは呆れ顔で、焼き魚をつついていた箸先を私に向けてカチカチ鳴らす。

 

「アンタさぁ。

 朝っぱらから、まーたヤラしいことしたんじゃないの?」

「またってなんですか、人聞きの悪い……

 軽くマッサージしてあげただけですよ」

「……軽く? これのドコが」

 

 全身脱力した、ふにゃっふにゃのにゃんこがヘタれてる。……まぁ軽く揉んだだけには見えないよね。揉みくちゃにしたったし。

 

「アイシャ、ずーるーぃー」

「あー、その……

 シームはまた別の機会にマッサージしてあげてください」

 

 とりあえず目を逸らして誤魔化す。

 

 にしても、手に残るぷにっぷにの感触が何とも心地いい。またそのうちしてあげよう。

 

 微笑みながら目をやると、なぜかニャンコがブルルっと震え上がった。

 

 

 

 朝食と入浴を済ませ、トレードショップでお金を整理。私達はウラヌスの『同行』で、結晶都市へと飛んだ。

 

 

 

 そこはまるで、大きなガラス細工の城だった。

 

 城下町、といった方が正確か。半透明な白い壁が、都市の入口から左右へ走り、遠くで湾曲しているようだ。おそらく円周状の都市なんだろう。

 外壁の内側は、全部が全部じゃないけど建造物や地面が水色の輝きを放ち、太陽の光をキラキラと反射させていた。

 

 ここが結晶都市リスタールか。……あ、クリスタル。なるほど、そういうこと……

 

「どう?」

 

 ウラヌスが桜色を艶めかせながら振り向き、笑顔で尋ねてくる。

 

「……芸術的ですね」

「こんなの、どうやって作ったんだか想像もつかないわね」

「ぼく、ゲームでしかこんなの見たことない……」

 

 うん、私もゲームでしか見たことないよ。というかゲームだしな、一応ここ。

 

「この入口は街の東側にあるんだけど、北側に見えるあの高い塔が、孤独なサファイヤを入手できる結晶塔。俺はクリスタルタワーって呼んでるけど。

 で、南にはさまようルビーが取れる水晶宮がある。

 今から向かうのは、南の水晶宮だね」

「水晶宮ってどんなところなんですか?

 怪物とか出ます?」

「うぅん、出ない。

 水晶宮は俺が勝手に呼んでるだけで、本当はクォーツメイズって名前。

 名前の通り、大きな迷路になってる。敵が出ない代わりに迷路を進まなきゃいけない。

 敵が出てくるのはクリスタルタワーの方で、構造自体は単純なんだけど、かなり怪物と遭遇しやすい」

 

 ふむ……なるほど。

 

「戦闘に長けていればクリスタルタワー、探索に長けていれば水晶宮ってことですね」

「そうそう。

 逆にどっちか苦手だと、そっちのカードは取りづらいってわけ。……まあ、クリスタルタワーも怪物から逃げ回れば何とかなるんだけど。

 今回は、メレオロンが孤独なサファイヤを取ってくれてるから、水晶宮一択だね」

「ふふーん♪」

 

 メレオロンが得意げに鼻を鳴らす。宝籤で当てただけじゃないか。別にいいけど……

 

 

 

 まずは都市の入口近くにあるトレードショップへ。所持金5万を全て貯金する。

 

「いいんですか、全部預けて?」

「うん。どうせまだ買い物しないし」

『えー』

「……いや、オマエラ何か欲しいもんあったのか?」

「露店に色々あったじゃない。

 キレイなグラスとか」

「動物のガラス細工とか、ちょっと欲しかった……」

「んー……

 目ぼしいモノだけ覚えといて。少しぐらい買ってもいいけど、後回し」

 

 うーん。確かにお土産に何かちょっと欲しくなるものはあったんだけど、置く場所がね。モタリケさんの家に預ければいいとは言え、キリがないしな。

 

 

 

 都市内は、ただ歩いて回るだけでも充分な美麗さだった。建物や地面の一部が半透明のガラス、もしくは結晶状になっていて、あちこちが水色にまばゆい。

 結晶都市というだけあって、その辺の地面にすら大きな結晶がポコポコ生えてたりする。……これって取れたりするんだろうか?

 メレオロンがそのうちの1つを指差し、

 

「ねぇねぇ。

 これってお持ち帰りできるわけ?」

「あん?

 ……こんなゴッツイ水晶、持って帰ってどうすんだ」

「違う違う。

 土産にじゃなくて、高く売れるとかさ」

「こんなトコに転がってるのが高いアイテムなワケないだろ。

 こういうのは単に街を飾るオブジェ、賑やかしのザコ水晶だよ。

 パッと見は良さげでも、よく見たら不純物が結構混じってる。

 ガッチリ地面に埋まってるから簡単に取れないし、取れても大した金にゃならん」

「夢がないわねぇ」

「オマエがしてる金の話だって、夢があるとは言えねーだろ」

 

 てかウラヌス、取って売りに行ったことあるのか? ……機嫌損ねそうだから聞かないけど。

 

 

 

 そうこうしてるうちに水晶宮へと到着。

 平べったく、巨大な建物。名前に反して、外壁は真っ白だ。これ全部迷宮だとしたら、結構な広さだぞ……

 

「中に入ったら、とにかくハグれないでね?

 一度バラけると、探すのが面倒だから。万一迷子になったら、ヘタに動かず留まって。俺が拾いに行くから」

「なんか、子供の引率してる親みたいね……」

「ヘンなこと言うなよ。

 敵こそ出ないけど、他プレイヤーに絡まれたら面倒だしな。今は中に居なさそうだけど。

 この中はただの迷路じゃなくて、透明な壁と鏡が入り混じって、分かりにくくなってる。ぶつからないように気をつけてほしいんだけど、地面と壁の境目はワリと見分けつくから慎重に進んで。もちろん俺が先導するけどね」

 

 これ、ウラヌス1人なら楽勝なんだろうなぁ……。私達、完全に足手まといだと思う。

 

 それでも1人で行くと言わないのは、単純に安全面の問題と、

 

「さ。楽しんでこ」

 

 パンと手を叩くウラヌス。……ま、そういうことだよね。

 

 

 

 迷路内は、予想してたよりなかなか楽しい造りだった。広いところはわざわざ照明まで用意してキラキラさせていて、挑戦者を盛り上げようという意図を感じる。

 

 大半の道中は狭い道で、壁を構成する鏡とガラスに視界を惑わされないよう手を伸ばし、お喋りしながら進んでいく。

 

 ごちっ、と痛そうな音がした。

 

「てぇっ!?」

「メレオロン、第1号ー」

「おねーちゃん、ばっかでー」

「あぁ、もうっ!

 気をつけてたのに!」

「ホント気をつけてくださいね?

 勢いよくぶつかったら何があるか分かりませんし」

 

 ただの迷路ならいいんだけど、トラップとかあったら困るしな。

 メレオロンが四苦八苦して歩いてるのは分かってたけど、シームが意外とひょいひょい進んでる。むしろ楽しそうだ。

 

「シームはこういうの得意ですか?」

「初めて! でも、めっちゃ楽しい!」

「シームって、妙に目はいいよな。見るコツが分かってるというか、見極めがついてる」

「アタシは苦手ー……あいたっ!?」

「それは聞かなくても分かりますよ」

「くっそ、ムカつくわー。

 リュックが邪魔で調子狂うのよ!」

「シームだって、リュック背負ってるじゃないですか。

 言い訳は見苦しいですよ」

「もーっ! 早く出たいぃー」

 

 こんな感じで進んでいき、ウラヌスの先導で扉を開けるギミックを次々潜り抜けていく。

 

 

 

 ──そして。

 

 20分ほど進んだ迷宮の最奥。──水晶で出来た祭壇に厳かな様子で佇む、1人の男性。まるで教会の司祭のような衣装を着ている。

 

 ウラヌスが話しかけて、しばらく男性とウラヌスが言葉をかわす。やがてウラヌスが、バインダーから『左遷』『初心』『漂流』『衝突』各3枚を男性に手渡す。

 

「さ、こっから戻るよ」

「ん? アイツは?

 ていうかカードは取れたの?」

「ほっときゃ付いてくるよ。アイツを出口まで連れてかないとカードは取れない。

 移動スペルで脱出すると、最初からやり直し」

「えー……

 帰りはスペルでラクしたかったのにぃ」

「比較的戻りは簡単だからガマンしろ。

 つーか、ここまでメチャメチャスムーズに来たんだぞ。文句言うなよ」

「確かにほとんど迷ってませんでしたね」

「う、うん。

 ……流石に少しは迷ったけど。完璧には覚えてないし」

 

 やっぱり。たまに行き止まりで動き固まってたしな。

 

 

 

 更に10分ほど。見覚えのある広間を何度か通過し、水晶宮の入口まで戻ってきた。

 

「ああああああー。終わったぁーーー」

「面白かったね♪」

「シームは楽しんだみたいですね、誰かさんと違って」

「うっさいわねー」

「まぁちょっと目がチカチカして疲れたけどね。

 こういう娯楽も、たまにはいいかな」

 

 私達が話してると、遅れて男性が迷宮から外へ歩いてきた。

 

「連れ出してくれて礼を言う。

 これが約束の品だ」

 

 NPCの男性がウラヌスに何か渡して、それがカード化。男性はそのまま、街の中へと去っていく。ウラヌスは南に背を向け歩く男性を目で追いつつ「ブック」でバインダーを出し、カードを収める。

 

 

 

『76:さまようルビー』

 ランクB カード化限度枚数30

 このルビーの持ち主は 巨万の富を得るかわりに 定住を許されない

 一週間と同じ地に留まることはないだろう

 

 

 

 これで指定ポケットカード18種か。順調に集まってるな。

 

「ブック」

 

 ウラヌスがバインダーを消し、私にチラリと微笑む。ぅ……

 

「じゃあ次行こうか。

 そろそろ、ね」

 

 あー来た。ついに来た。……いいけどさ。もうさっさと終わらせたいし。

 

「アイシャ、どうする?」

「……どうするもこうするもありません。

 さっさと案内してください」

「へ? 何の話?」

 

 私達の会話に、シームが当然不思議そうな顔をする。メレオロンがニヤニヤしだした。

 

「ほほぅ……

 そういうことかぁ。なーるほーどねぇー」

「えっ?

 おねーちゃん、なんなの?」

「さぁー?

 2人に聞いてみれば?」

「なに、ウラヌス? 何の話なの?」

 

 ウラヌスもニヤニヤしながら肩をすくめ、

 

「次、この街の噴水に行くだけだよ。

 アイテムを取りに、ね」

 

 噴水か……また嫌な場所だな。約束だからやるけどさぁ。

 

「……そうですよ。

 シームが気にすることなんて何もありません」

 

 みっともないからな、賭けに負けた罰ゲームでスク水とか……。メレオロンには、ほぼバレたみたいだけど。くそぅ。

 

「じゃ、都市の中央へレッツゴー♪」

「おーっ!」

「えぇぇぇー、なんなのー!?」

「……」

 

 うぅぅ、やだよぉハズイよぉ。誰か代わってほしぃ……

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。