ランキングで目立ちたくないという理由で、今すぐユリさんから指定ポケットカードを譲ってもらうことはせず、ユリさんに集めてほしいカードの入手法をまとめたメモを渡すウラヌス。
……大半がランクSみたいだけど。入手が面倒そうなカードばっか押し付けたな……。その方が私達との接触回数も減らせるだろうし、楽なんだけどさ。
高い地図と聖騎士の首飾りも渡してるから、かなり本格的にやってもらうつもりだろう。
「──うん、引き受けたわ。
できればランクの高いカードを狙った方がいいのよね?」
「だな。俺達も、今その辺を集めるのはキツイから。
ただ、入手方法が俺の調べた時と変わってる可能性もあるから、書いてあることを過信しないでくれ」
「ん、分かった。
他にカード集めで気をつけた方がいいことってある?」
「とにかく攻撃スペルに注意だな。
今渡した聖騎士の首飾りで防げるけど、着けっ放しじゃうっかり有効カードの変身まで解いちまうから、いざって時に手にする感じで。寝てる時は着けっぱの方がいいかもな。
いずれにしろ、首飾りだと『交換』と『徴収』が防げないから、さっさと20m離れるかスペルカードを奪っちまうのが賢明だけど。『税務長の籠手』が来たら逃げ一択。
後まあ、カードはさっさとバインダーに入れる。1分経って苦労が水の泡とか、マジで泣けるから。慣れてるヤツでも結構やっちまうんだよ」
「……私も大体分かってるようなことばっかりなんだけど?」
「特に注意しろってことだよ。
姉貴はうっかりしてんだから、気ぃつけろよマジで」
「もぉー。
そうやって桜はー」
という話をようやく終えた後、メレオロンとシームについても伝えるウラヌス。
メレオロンの顔を見て軽く驚きはしたものの、意外にあっさりとユリさんは受け入れた。まじまじとメレオロンとシームを見比べながら、
「へぇー。
魔獣と、その義理の弟ねぇ……」
『…………』
「ま、色々あってな。
あんまり詮索しないでくれると助かる」
「それはいいけど……
魔獣に偏見なんて持ってないし。たまーに、魔獣から依頼が来ることだってあるもの」
へぇー。そういうこともあるんだ。魔獣が忍者に依頼ねぇ……
「それと、プロハンターのアイシャちゃんね。
3人とも、桜のことよろしくね。あ、ウラヌスだっけ?」
「いい加減覚えろよ、姉貴……」
「まぁまぁ。
そんな急には無理ですよ」
「そうやって甘やかさない方がいいんだって、姉貴は」
「こうやって、いっつも口うるさくて生意気でしょ、こいつー。
……これからも迷惑かけるでしょうけど、よろしくしてやってね?」
「いえいえ。
むしろウラヌスにはお世話になってますから」
「アタシもずいぶん助かってるわ。
無理させないようには気をつけるつもりだけど」
「ユリさんも、これからよろしくお願いします」
「あ、うん。シーム君だったわね。
こちらこそよろしく」
……今さら嘆くことでもないけど、まともじゃない知り合いばっかり増えるな、私……
「他に何か話すことある?」
「んにゃ。こんなもんだろ」
「そっかぁ。
名残惜しいけど、そろそろ帰らないとね。
私に頼んだカードで、手に入れたからもう要らないとかあったら、早めに教えてね?」
「ああ。
……あんまり無茶すんなよ? 他のプレイヤー襲ってまで集めたりするのはダメだぞ」
「はーいはい、分かってる。
プレイヤー狩りなんかして目を付けられたら、誰かさんが怖いもんねぇ?」
「そこまで聞いたのかよ……」
んー……あの件かな。ウラヌスがPKバスターやってたっていう。プレイヤーキラーや悪質なプレイヤー狩りって、確かにもう大分居なさそうだもんな。1度クリアされたからっていうのもあるだろうけど。
「じゃあね、桜。おやすみ♥」
なぜか私達に見せ付けるように、ウラヌスのほっぺにチューするユリさん。
呆然とするウラヌスに、満面の笑みで「ばいばーい♪」と手を振り、ユリさんは去っていった。
「……。
はぁぁぁぁぁー……」
しばらくして、長い長い溜め息を吐くウラヌス。
メレオロンが声もなく笑っている。私も苦笑しながら、
「ホント仲いいですよね、2人とも」
「あのバカ……
縁を切るって言葉の意味、絶対分かってない!
どんだけ馴れ馴れしいんだよ、ったく……」
「アンタが一緒に温泉入りたいとか言ったら、今すぐでも入りそうよね、あの感じだと」
「いやいやいや、俺がイヤだっつの!
……そうでなくても、昔ッからベタベタしすぎなんだよ、姉貴は」
「何年ぶりですか、ああいうやりとりって」
「あー……
里にいた頃以来だから、6年ぶりかなぁ。子供の頃は別によかったけどさぁ」
「そういえば、ユリさんっていくつなんですか?」
「……20歳のはずだけど。
早いうちに念には目覚めてたし、見た目はもうちょっと若いけどね」
そうなんだ。……6年前だと、ウラヌスが11歳で、ユリさんが14歳かな。
「それくらいの歳までなら、一緒にお風呂入るギリギリの年齢よね」
「そう?
おねーちゃん、ボクとそんなに入ってたっけ?」
「アンタと私は結構トシ離れてるから。
15の頃には、もう私1人で入ってたわね」
「それにしても、ウラヌスのお姉さん綺麗でしたね」
「うぅん……
まぁくノ一だから? 化粧ぐらいするよ」
「そうですか?
あんまりお化粧してる感じでもなかったですよ。薄化粧はされてましたけど」
「元がいいと、あれぐらいで充分なのよね。
誰かさん達は、ぜーんぜん化粧しないけど」
「……誰かさん達って、誰のことです?」
「メレオロン、オマエな」
「自覚あるんじゃないの。
まーったく、色気のないお子様連中だこと」
うるさいなぁ……母さんが色々教えてくれたけど、したくないんだよ。なんかヤだから。
ウラヌスは誤魔化すように伸びをし、
「ま、とは言え……
姉貴のカードが、案外こっちと重複してなかったのは嬉しい誤算だったな。
これで3分の1近くが揃った」
私達が今26種類、ユリさんが持っていたのは8種類で、うち2種類がダブついた。
だから、私達が現在確保できたのは32種類になる。やっぱり人と交渉すると早いなぁ。集める楽しみが薄れちゃうけど……
「そう言えばユリさんって、どれくらいオーラあるの?」
シームが唐突に尋ねる。確かメレオロンの1.5倍近くあるとか言ってなかったっけ?
「シームは具体的な数字を知りたいのか?」
「うん」
「……
姉貴の潜在オーラ量は108000だよ。
このクラスになると、超一流って言われるぐらいの念の使い手だな。……姉貴の場合、技量が伴ってるか疑わしいけど」
「ボクとおねーちゃんは?」
「シームは……6000近く。
メレオロンは……72500か、それよりちょっと多いかな?」
2人ともそこそこ真面目に修行してるからな。オーラ量の増加に伴って、動きも見れるようになってきた。どんどん実戦経験を積んでほしいんだけど、ウラヌスにまだ早いって言われるかもな。でもあんまりのんびりもしてられないし、難しいな。ちょっと説得した方がいいかもしれない。
「さ、こんなとこでダベってても出費が嵩むし、そろそろ出よ」
まだ『秋の空』にいるから、お茶とかジュースをチビチビ飲んでて、じりじりお会計が増えてたりする。まぁ注文しないと退店を催促されるし、仕方ないんだけどね。
「と、その前に手洗い行ってくる……
すぐ戻るよ」
……キスマーク、ほっぺに付いてるの気づいたな。ちっ。
「はふぅー」
ばたーん。と旅館の部屋に入った途端、布団に倒れこむウラヌス。にゃんこ、すっかりクタクタだな。
「キューマニャーン♪」
にゃんこにガバーッと覆いかぶさるシーム。おおぃ。
「ぐぇー。
ちょっ、シームおも重いぃぃぃ……」
「ぷにぷにー♪」
「待ってください、シーム。
ウラヌスもくたびれてるでしょうし、あんまり負担かけちゃダメですってば」
「そーだぞ、シームー……」
「ぷーにーぷーにー♪」
「ぐぇぇぇ……」
聞きゃしねぇ。なんでまた、こんなベタベタしてるんだ?
「ウラヌス、早くサクラ呼んだ方がいいんじゃないですか?」
「う、うん。
シーム、頼むから離れろ。桜くれてやっから」
「はーい♪」
ぴょこんと離れて、ニコニコ正座待機するシーム。……なんと現金な。
旅館のお風呂に私が入ろうとしたところ、なぜかウラヌスではなくメレオロンが付いてきた。1人で入りたかったんだけどな……
何かしてくるつもりかと警戒したけど、お風呂に入ってからも案外大人しいメレオロン。
私が身体と髪を洗い終えて湯船に浸かり、満足して「はぁー……」と息を吐くと、先に浸かっていたメレオロンは神妙な顔つきで、
「あのさ、アイシャ」
「……なんです?」
「ウラヌスのお姉さんのこと、どう思う?」
やっぱりその話をしたかったのか……。手は出さないのにお風呂へ一緒に入りたがった理由を考えたら、それくらいしか思いつかないしな。
「どうって、どういう意味です?」
「んー……
アンタも、気にはしてるんでしょ?」
「そりゃ……
気にならないって言えばウソになりますけど」
「あの朝の緊張感、思い出してみなさいよ。
気が気じゃなかったでしょ? たまたま上手い具合に事が運んだから、丸く収まってるだけで。アレって、あのお姉さん1人が引き起こした騒動なのよ?」
「言いたいことは分かりますが……
でも、話してみたら物腰柔らかだったじゃないですか。
なんだかんだで、ウラヌスにも問題があったように思いますけど」
メレオロンは、お湯で顔をひと拭いし、
「人騒がせと言うか、おっちょこちょいよね、あの2人……
誤解があったみたいだし、それが解けたのは良いことだと思うけどさ。
信用してもいいのかしらね」
「そうですね……
ただ、あまり嘘を吐くのが得意そうには見えませんでしたが。
ウラヌスは、半信半疑な態度を見せてましたけど」
「アイツ、相手が嘘吐いてたら分かるんでしょ?」
「完璧ではないかもしれませんが、かなり高い精度で見破るでしょうね。ウラヌスには、例の目がありますから」
「それで半信半疑って、妙な話じゃない?」
「……」
確かにね。でも、あの感じは疑ってるというより……
「……ずっと恨んでたお姉さんが、ああやって許されたがってるのを見てしまって。
ウラヌスも、気持ちの整理がつかないんだと思います。
簡単に許せないのは、分からなくもないですから……」
……父さんは、どんな気持ちだったんだろうな。今は許してくれたんだと思いたいけど、それまで私のことをどれだけ憎んでいたか、私には到底計り知れない……
「まあねぇ……
それもあるんだけどさ」
「他に何か気になることでも?」
「んー、ほら。
ずいぶんと、アタシ達に見せ付けるみたいにイチャついてくれてたじゃないの。
アレ、ちょっとおかしくない?」
「……えーと」
年頃の姉が、可愛い弟をからかってる、っていう構図なんだろうけど。
ただまぁ確かに、うん? と度々思わなくもなかった。わざわざ口紅塗ってキスマーク残していく辺り、意図的なものを感じる。
「あれってさ。
アンタ達に対する嫉妬だと思うわけよ」
「……嫉妬ですか?」
「あのお姉さんにしてみたら、久々に会った弟が可愛くて仕方ないわけでしょ?
なのに弟は自分のこと恨んでるし、逆に一緒に居るカワイ子ちゃん達とは仲良さそうなわけで。ホントは一緒に行動したかったの、見え見えじゃない」
そうだろうなぁ……。仲間として一緒に動こうって提案したら、あのお姉さんは喜んで付いてきただろう。里にバレるとか、諸々の危険があったとしても。
「アンタも、やきもち焼いてたって自覚ある?」
「……
なんで私がやきもち焼くんですか。
姉弟、仲睦まじくて結構なことじゃないですか。あなた達だってそうですよ?」
「ふふーん。
そんなこと言ってー。アタシは誤魔化されないわよ?
アタシ達とあの2人を見てる時じゃ、アンタ目の色全然違うもの」
「……なに言ってるんですか」
私は視線を逸らす。……なんだなんだ、分かったようなこと言ってくれちゃって。
「シームだってそうよ?
ウラヌスとお姉さんがイチャイチャしてる時、ウラヌスを盗られるんじゃないかって、気が気じゃなかったみたい。
だからああやって、いきなり抱きついたりするんじゃない」
「……
でもシームは、元々やってたじゃないですか、ああいうこと」
「そうだけど、今日のは目に余るわよ。
ずいぶん露骨じゃない、ああやって自分の所有権主張したがるのは」
「……。
だったら、シームの応援したらどうなんです?
私には関係ありませんよ……」
「アタシはアタシで、シーム盗られちゃったら困るのよねぇ。
これでも、やきもち焼いてるのよ? アタシも」
「……」
正直に言ってくれるよ、このブラコンは。……あんまり突っつかないでほしいんだよな。私もどうすべきか、決めかねてるんだし。
妙に優しい笑みを浮かべて、私を見つめるメレオロン。
「盗られてから後悔したって遅いのよ?
アイツ、結構モテるって分かったでしょ。
さっさとモノにしちゃうのもアリだと思うんだけどなぁ」
「……あなたが何言ってんだか、さっぱり分かりません」
視線に耐えられず、更に目を逸らす。メレオロンは私から視線を逸らさない。
「良いこと教えてあげよっか?」
「……。
なんです?」
「あのお姉さんが、ウラヌスのことを『桜』って呼ぶ時と。
アンタ達があの猫を『桜』って呼ぶ時は、よく似てるわよ。
さぁて、なんで似てるんでしょうね?」
サクラ、か。……そんなこと言われてもな。
私達がサクラを可愛がってるのと、ユリさんがウラヌスを昔みたいにサクラって呼んで可愛がってるのは同じようなもの、か。
んー。…………考えても分からん。サクラを愛でたら、少しは分かるかな?
お風呂を上がってからサクラを撫でたり抱いたりしたけど、なぜか悶々とするばかりで、気持ちは晴れなかった。……サクラが縋りつくように甘えてきたのが不思議だったけど、可愛いし別にいいかと思うことにする。
ウラヌスも今日はよほど疲れたようで早々に寝てしまい、ロクに話もできないまま私も布団に潜りこんだ。
……ぅー……すっきりしなぃ……