どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百八十七章

 

 ……どういう意味だろう?

 

 そもそも、さっきから質問おかしくないか?

 

 姉貴とかシームとか、俺が好きだの嫌いだの何の為に聞くんだ。

 

 しかも、本題の質問がそれって……酔ってるにしても、そんなこと尋ねる理由は……

 

 とろんとした目つきで、俺の言葉を待つアイシャ。期待と不安の入り混じった、何とも言えない表情。呼吸も少し早まっている。

 

「……ねぇ、アイシャ。

 桜って……あのバカにゃんこのことだよね?」

 

 それなら分かる。あっちの桜なら、アイシャのことはそりゃ好きだろう。シームのことだって好きに決まってる。そういう意味なら──

 

「そうですよぉー……

 とーってもおばかな、かーいいにゃんこのことですよー。んふふふ♥」

 

 言って、俺の頭を撫でてくる。お、ぉう? これは……やっぱり同一視されてる?

 

 大体、アイシャの言ってる『好き』ってどういう意味だ?

 この雰囲気だと……正直どうとでも取れる。だからいい加減に応えるわけにもいかない。

 

 ……怖いけど、確認しないわけにもいかないか……

 

「アイシャは……『俺』のこと、好きなの?」

 

 不思議そうに、ぽややんとした目つきをするアイシャ。

 

 

 

「んー。そうですねぇ……

 

 いろいろと、きにいらないこともあるんですよ。あーしてほしい、こーしてほしいって。

 

 あるんですけどぉー……

 

 そーゆーのぜぇーんぶひっくるめて、とーってもすきですねぇー♥」

 

 

 

 ──……っ。

 

 いや待て、まだ他に解釈しようがある。

 

「それは……友達と、して?」

 

「えー……?

 またまたー。はぐらかしちゃだめでしょー?

 わたしにばっかりいわせて、わるいこですねぇー」

 

 ぷいにゅぽいにゅと押し付けてくるアイシャ。ちょ、マジやめて。いまエグイからそれ。匂いとヤワさと暖かさで意識持ってかれる……男とか女とか関係なくこれヤバイ……

 

「さぁさぁ。

 しょーじきにいいなさい。……すきですか?」

 

「…………」

 

 流石に誤解しようもない。アイシャは、恋愛関係における好き嫌いを尋ねている。

 

 ……嫌いじゃない。それは間違いなくそうだ。

 

 けど、好きかと言われると……どうだろう。

 

 そういうふうな目で見たことがないと言えばウソになる。でも……友達だから、と言い聞かせて、考えを振り払ってきた。

 

 じゃなかったら、一緒にお風呂へ入ったりとか絶対しない。同じ部屋に寝泊まりだってしない。全て友達だから、だ。

 

 

 

「……。

 

 ごめん、アイシャ。正直に言うよ。

 

 ────嫌いじゃない。嫌いじゃないけど……

 

 好きかって聞かれると……

 

 ……分からないんだ。

 

 俺にも……アイシャのことが、好きか、好きじゃないか、分からない……」

 

 

 

 そう伝えるとアイシャは────とろけるような笑みを浮かべた。

 

 

 

「そうですか……ようやくしょーじきにいいましたね。

 

 わたしはすきだっていってるのに……

 

 さくらってば、そーゆーつれないことをいうんですねぇ……」

 

 

 

 お、うおぉ? ちょ、なんだこれ。オーラを練れないはずのアイシャが、体内でめちゃめちゃ生命力を廻らせてる。オーラ無しで、思いっきりパワーを込めて締めつけてきた。

 

 

 

「……いまはそれでいいです。

 では、じつりょくこうしといきましょうか」

 

 

 

 は? なに言って──

 

「ゥワアッ!?」

 

 アイシャが素早く体勢を変え、仰向けにした俺の腹に馬乗りになる。わ、わっ……

 

 

 

「──なかぬなら。なかせてみせよう、ばかにゃんこ。

 

 っていいますよね?

 

 なのでいまから、わたしのことをすきだってなかせてあげます♥」

 

 

 

「────はっ、ハァァァァァァッッ!?」

 

 マジかッッ!? 冗談でもなんでもなく、これガチでヤバいやつだッ! 目が完全に本気だよ、シャレになってねぇッ!!

 

「待って、待ってアイシャッ!

 お願いだから冷静に──」

 

「おだまりなさーい。

 こんなびしょーじょからこくはくされて、そでにするとか、いーごみぶんですねぇ?

 わたし、そんなにみりょくないんですかぁ? むかつくぅー」

 

「いや、誤解だよッ!!

 別にアイシャがどうってわけじゃない、俺が──」

 

「……なんです?」

 

「……。

 俺に、勇気がないだけだよ……

 このまま男として生きるか、女として生きたいのか、決められないんだ……」

 

「──そのきもちは、わたしにもわかります」

 

「え?」

 

「でも、いまはかんけいありません。

 ごーいんにいっちゃいまぁーす♪ ごーごー、さっくらぁー♪」

 

「ぶふぉッ!?」

 

「ほらほらぁ♪ にゃんにゃんって、なきやがれぇー♪」

 

 どすんどすん、俺の腹にまたがってバウンドするアイシャ。弾むオシリの感触は何とも言えないが、真上から容赦なくかかる圧で腹が悲鳴をあげる──こう言っちゃなんだが、天国と地獄とはこのことだッ!!

 

「ぐへっ?! か、ぶはっ!

 ま、やめ、いだだだッ、ぃたいってば!?」

 

「うぶなねんねじゃあるまいしー。

 ほれほれ、どうですー? きもちいーでしょー?」

 

「いだ、いたイタ痛いぃッ! ぐはゥ!

 おねっ、お願いアイシャ、やめ、ゆるしてぇぇぇぇッッ!!」

 

「よなかにさわぐんじゃねーですよ、このばかにゃんこめぇ♪

 あんまうっさくしやがると、ぜんしんこちょりますよぉ? こちょこちょー♪」

 

「あひゃひゃひゃひゃ!?

 やめ、いまワキやめてぇ、しぬしぬしぬっ! いき、いきできなぃっ!」

 

「いいこだから、じっとしてなさいってばー。

 ばかにゃんこなんだから、おとなしくにゃんにゃんないてなさい♪

 ぷにぷにぷにぷにぃー。こいつめ、こいつめっ♪」

 

「──ふんぎゃあぁぁぁぁぁぁーッッ!?」

 

 

 

 

 

 一方、隣の部屋では。

 

「……おねーちゃん。おきてる?」

 

「……。なに?」

 

「隣、なんかすっごぃ騒がしくない……?」

 

「……そうね。

 いつもみたく、ケンカでもしてるんじゃない? しばらくしたら静かになるわよ……」

 

「でも……変な声聞こえるんだけど」

 

「……気のせいよ。早く寝なさい」

 

「ウラヌスが、ずっと悲鳴上げてるんだけど……

 なんかギシギシ揺れてるし」

 

 

 

「…………。

 

 き、きっとアレよ。……2人で、その…………腕相撲してるのよ」

 

 

 

「うぅん……

 いくらなんでも、うるさくて寝れないんだけど……」

 

「……そのうち静かになるだろうから、ほっときなさいって」

 

 布団の中で冷や汗だらだら流すメレオロン。隣のアホ2人に、朝起きたらどう説教してやろうか全力で考え始める。シームの教育に悪すぎだろう。

 

「……ウラヌス、痛い痛いって叫んでるみたい。

 アイシャ、何してるんだろ……」

 

 思わず歯軋りしたくなるメレオロン。──あんのバカップルはっ……!

 

「……。昨日うるさかったって言ってやればいいわよ。

 今日はもう早く寝なさい。明日つらくなるわよ、きっと」

 

「うん……」

 

 姉弟が黙り込むと、壁越しに向こうの騒ぐ音が余計に伝わってくる。

 

 

 

 ──やめて、もうやめてってば──

 

 ──だめですぅー。ほらもっと、にゃんにゃんなきなさーい──

 

 ──かはっ。ちょ、いたいたぃっ、んな、しめつけないでっ──

 

 ──どーです、このへんとかー? うりうりぃ──

 

 ──ま、まって。きつい、も、むりだからぁーっ──

 

 

 

『…………』

 

 ワケが分からないシーム。途方に暮れるメレオロン。

 

「腕相撲じゃないよね?」

 

「……」

 

 

 

 数分経っても、まだ隣から断続的に悲鳴が聞こえる。ついに痺れを切らしたシームが、

 

「──ちょっと文句言ってくる」

 

「あ。待っ、待ちなさいッ!」

 

「だってうるさいんだもん、全然寝れないじゃん!」

 

「待ってってば! シームッ!!」

 

 ドタドタ腹立ち加減に足音を立てて部屋を出るシーム。まさかいきなり動くとは思いもよらず、オーラも枯渇気味でへろへろのメレオロンはすぐ立ち上がれない。

 

 

 

 

 

 俺のことをぎゅうっと全身で抱きしめ、アイシャは耳元で囁いてくる。

 

「ゆりさんにでれでれしちゃって……

 わたし、やきもちやいちゃいましたよー……」

 

「……」

 

「さくら……

 どこにもいかないでくださいね……わたし、さみしいです……」

 

「……」

 

 汗だくで声を出す気力もなくなり、脱力したまま呆然としていると部屋の外から気配がした。

 

「──ちょっと、2人とも!」

 

 戸が開くと同時にシームの声。

 

 ……ふへぇー。たすかったぁ……、いや待て。

 

 部屋の外から差し込む廊下の明かりで、俺達の状態が照らし出される。

 

 お互い浴衣がハダけた半裸で、俺がアイシャに抱かれてる。……布団の上で横になって。お互い汗でベッチャベチャな状態で。

 

「……なに、してんの?」

 

「お、おうシーム。

 ……いいところにきた、たすけてぇ……」

 

「ウラヌス……?

 アイシャ、どうかしたの?」

 

「……すー……すー……」

 

 タイミングがいいと言うか、ちょうどいま寝てしまったようだ。……俺をがっつり抱きしめたまま。

 

「ね、ねぼけたみたい……

 ごめん、シーム。アイシャをちゃんと寝かせたいから、手伝って……」

「う、うん」

 

 シームが入ってくる。俺とアイシャの様子を間近で見て、怪訝な顔をする。

 

「……もしかしてアイシャ、お酒飲んだ?」

「みたいだな……

 冷蔵庫に入ってたジュースと間違えて飲んだみたい……」

「やっぱり……

 おねーちゃんの時と同じじゃん。

 もう! お酒キライ!」

 

 怒りながら、俺を掴んで離さないアイシャの腕に触れるシーム。

 

「わ。ぜんぜん離れないんだけど」

 

「……どっ……

 どう? 2人の様子は?」

 

 おそるおそると言った様子で、メレオロンも入口で窺っていた。

 

「あー……

 メレオロン、頼む。手伝って」

「アイシャがお酒飲んで、寝ぼけたみたい。

 おねーちゃんと同じ!」

「……。

 なるほど、そういうこと……」

 

 メレオロンも部屋に入ってきて、寝息を立てるアイシャの姿をマジマジと見る。

 

「……おねーちゃん?」

 

「んー……

 いや、うん。分かった」

 

 何が分かったのか知らないが、シームを手伝い、アイシャを剥がそうとするメレオロン。

 

「うっわぁ。

 なにこのガッチリホールド。寝ぼけてこうなったとかウソでしょ?

 全力すぎない?」

「ウソじゃねーよ……

 アイシャ、パワーが有り余ってるみたいで、俺ヘタに振り解けなくてさ……」

「怪我させちゃうかもしれないもんね。

 災難と言うか、羨ましいと言うか、お気の毒と言うか……」

「……」

 

 

 

 アイシャを起こさないように気をつけつつも、3人がかりで密着状態から何とか剥がし、浴衣を直してアイシャを元の布団に寝かせる。

 

 へろへろで項垂れながら、心の底から息を吐く。

 

「ふへぇー…………

 ごめん、2人とも。夜中に騒いで……」

「……ウラヌスは悪くないじゃん」

「まったくよ。

 夜中にやらかしてくれて……

 で、どうすんの?」

「どうするって?」

「アイシャにこのこと教えんの?

 覚えてなかったら、ちゃんと叱っておかないとまたやらかすかもよ?」

「……

 いや、アイシャは悪くないよ。不注意だったのはお互い様だしな。

 間違って酒飲まないように、これからは冷蔵庫の中を毎日整理しとく」

 

 腕を組んで、俺の目をじっと見てくるメレオロン。なんとなく、状況に察しがついたのだろう。メレオロンもやらかしたことだしな。

 

「……隠すつもり?」

「うん。そうしてほしい……

 今晩のこと、アイシャには忘れてほしいから。

 ……覚えてたら仕方ないけど」

「アンタ、なんかしたわけ?

 この子こんだけベロベロに酔ってたら、なにかしてたって──」

「してない。

 誓って、なにもしてない」

「ふぅーん。

 じゃあ、なんかされたわけ?」

「……

 されてない」

「おバカ。

 そんなバレバレのウソ吐かないの。

 アンタいま、どんだけメッチャクチャになってるか分かんないの?

 ……そこまでされたのに、なんでアイシャに忘れてほしいわけ?」

「……。

 色々……変なこと話したから。……それをなかったことにしたい」

 

 メレオロンが息を吐く。

 

「……お酒って飲みすぎると、普段言わないようにしてること、結構ポロっと言っちゃうのよね。アイシャって、隠しごと多そうだから余計にそうだったんだろうけど」

「……

 そんな大した話じゃないよ。

 でもプライベートなことだし……。ううん、いや……なんでもない」

「はぁー……

 アンタも相当パニクッたみたいね。

 ま、いいわ。もう大丈夫そうだし、これで解散。

 シーム、行くわよ」

「うん……」

 

 渋々と言った様子で、シームがメレオロンに連れられて部屋の外へ向かう。

 

「シーム。……メレオロンもだけど。

 今日は色々心配かけてゴメン」

 

 足を止め、じっと俺を見返す姉弟。

 

「ウラヌス……

 どっか行っちゃヤダよ?」

 

 ……やっぱりそれが不安で仕方ないんだろうな。俺は軽く笑い、

 

「俺もずいぶん信用されてないよな。

 黙って、どこか行ったりなんかしないよ。……おやすみ」

「……うん。おやすみ」

「お楽しみ中のところ、失礼いたしました」

 

 メレオロンが余計な一言を残し、姉弟は部屋を出た。

 

 ……。

 

 静かな寝息と時計の音だけが、室内に響く。

 

 

 

 アイシャ、さっきのこと覚えてるかな……?

 

 もし覚えてたらどうしよう。俺、合わせる顔がないよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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