どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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ミステリオ編 2000/10/2
第百八十八章


 

 ──10月2日の朝。

 

 

 

「はぁー……」

 

 今日も鼻をくすぐる檜の良い薫りが、気分をほぐしてくれる。お湯をすくって顔を洗い、また息を吐く。

 

 今朝は、起きた時から妙な感覚だった。心地よさと不快感が一緒くたになったような。

 

 不快に感じた理由は単純だ。やたら汗でべたべたになっていた。よっぽど寝汗をかいたのか、浴衣も布団もずいぶんと湿気ていた。

 

 汗をかいた原因は分からないものの、このままじゃ汗の臭いがすごそうなのでこうして慌ててお風呂に入ってる。さいわい目が覚めたのは早朝で、まだウラヌスも寝てたから、気づかれてはいないだろう。布団もさっさと畳んで部屋の端に除けておいた。

 

 けど、どうして不思議とスッキリした気分なのか、理由は分からない。まぁ分からないものを気にしても仕方ないけどね。

 

 

 

 鼻歌混じりにお風呂から上がって部屋に戻ると、ウラヌスが何やらヒドイ顔で布団から起きていた。

 

「おはようございます」

「……ぅん。おはよ」

「どうしました? なんだか具合悪そうですけど?」

「……

 ううん、なんでもない。……お風呂入ってきたの?」

「ええ。

 ちょっとサッパリしたくて」

「そっか……

 俺も風呂入ってこようかな」

 

 軽く鼻を利かせると、汗の臭いがする──ウラヌスから。

 

「もしかして、ウラヌスも寝汗かきました?」

「ぁー……

 そうだね。なんか妙に暑くってさ」

 

 なぁんだ。それなら汗かいたの隠すこともなかったな。お風呂でサッパリしたし、別にいいんだけどね。

 ふらふらと立ち上がり、やけにボロボロの状態で荷物をごそごそしだすウラヌス。

 

「大丈夫ですか?

 昨日の疲れが残ってるとか……」

「……ちょっと具合悪いかも。なんとか体調は整えるよ。

 とりあえず先にゴハン食べといて。俺も後からもらうし」

 

 うーん……

 

 

 

 朝食の席。

 先に食べるのも悪いので、ウラヌスのお風呂上がりを待って、普段より少し遅い朝食を摂る私達。

 ただ、シームはなんだか不機嫌で、メレオロンは無表情にだんまりしてる。うーん?

 

 ウラヌスは2人を不思議がりもせず、黙々と食事を口に運んでいた。ただ、時々私達を窺うように視線をチラチラ向けてくる。

 

「昨日の夜──」

 

 私の言葉に、全員がビクッと反応する。んんー?

 

「……やけに暑くなかったですか?

 私もウラヌスも、朝起きたとき汗びっしょりで」

 

 3人が沈黙している。……な、なんだこの緊張感は?

 

「……。

 そう……いえば、暑かったかもね。うん……」

 

 メレオロンだけがそう返す。後の2人は沈黙を続け、食事を再開する。

 

「あの。

 なにか隠しごとしてません?」

 

 再び3人の動きが止まる。が、メレオロンは私を窺うように見て、

 

「……別に隠してなんかいないわよ」

 

 その横で、シームの不機嫌度合いが強まる。

 

 隣に座るウラヌスが、私の方へ顔を向け、

 

「……アイシャ。

 ほら、アレだよ。お酒飲んで暴れちゃって……」

 

「あっ、あー!

 アレですか。メレオロンが酔っ払って……」

 

 私がそう言うと、メレオロンは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「……そうよ。

 アタシがビールで酔っ払って、シームにからんだっていうアレよ」

 

「もー。またやっちゃったんですか?

 気をつけてくださいね」

 

「……なんだか暑かったもんだから、知らず知らずビールが進んじゃってね」

 

「やっぱり昨日暑かったですよねぇ。

 私も夜中に目が覚めて、ジュース飲みましたし」

 

 メレオロンとウラヌスが、妙に息を吐く。シームは相変わらずご機嫌斜めだ。

 

 

 

 

 

 メレオロンが、ウラヌスにアイコンタクトする。

 

 ──アンタ、これ貸しだからね?

 

 ──わーってるよ。ごめん。

 

 アイシャに対してウソは吐いていない。メレオロンが酔っ払って暴れたのが昨日のことだとは言っておらず、メレオロンが暑くてビールを飲んだのも事実だ。昨日の晩は酔って暴れるほど飲んでいないというだけで。

 

 ひとまずアイシャが昨夜のことをすっかり忘れていることに安堵する2人。シーム1人不機嫌だが、その話題を口にすることもなかった。

 

 

 

 

 

 朝食を終えて、食後のお茶を楽しんでいるとウラヌスのバインダーが出現した。

 

「──他プレイヤーがあなたに対して『交信』を使いました──」

 

 ウラヌスが首を傾げていると、

 

『おっはー♪ 桜、元気ー?』

 

 向こうへ聞こえるように溜め息を吐くウラヌス。

 

「いい加減、名前覚えろよ姉貴……わざとやってんだろーけど。

 んだよ、昨日の今日で」

 

『あら、ご機嫌よろしくないわね?

 ま、ま。機嫌直して。いい知らせだから』

 

「うん? なに」

 

『アンタに頼まれてたカード、1枚取ったわよ』

 

「ほう? どれ取ったんだ?」

 

『盗賊の剣よ』

 

「は?

 ────ハァァァァァッッ!? 姉貴、まさか一晩で取ったのかっ!?」

 

『そうよー。

 もー、めんどくさかったんだからぁー』

 

「いや、姉貴……

 盗賊の剣の入手イベント、単独で一晩クリアできたヤツなんか居ないと思うぞ……

 姉貴、絶対寝てないだろ?」

 

『うん、寝てない。

 これから休むトコ。その前に教えとこうと思って』

 

「はぁ……

 いや、うん。分かった。マジでご苦労さん……」

 

『後、盗賊の剣取るついでにミステリオで、顔パス回数券、秘密のマント、弁護士の卵も取ったわ。弁護士の卵はフリーだから要らないわよね?』

 

「あ、うん……

 それは換金アイテムだから、売って軍資金の足しにしてくれ」

 

『オッケー。

 それじゃおやすみ、桜♪』

 

 交信が途絶えたようだ。……相変わらずマイペースだな。ハイペースという意味で。

 

「おやすみじゃねーよ、まったく……

 始めっから飛ばしすぎだろ」

「ずいぶんハリキってるみたいですね」

「ハリキリすぎだよ……

 一晩で盗賊の剣とか、普通ムリだから」

「どうやって取るの?」

 

 尋ねるシームに、ウラヌスは難しい顔。

 

「説明すんのも面倒くさいんだけど……まぁ簡単に。

 移動スペルじゃ飛べない町や村に、夜盗の襲撃を防ぐイベントがあるんだ。前に行った宿場町カーゴとか、ああいう場所で。

 夜盗の襲撃を退けるだけなんだけど、夜盗イベントって全部で12箇所発生するんだよ。

 島中バラバラに点在する町や村で発生する襲撃を、1つ残らず撃退しなきゃいけない。……夜盗だから、当然襲撃は夜間限定だし」

 

 うわぁ。移動スペルで直接行けない12箇所で、夜間限定イベント? それは面倒すぎるだろ……

 

「姉貴がクリアできたってことは、クリア前と入手条件に変更なかったんだろうけど……にしたってなぁ。一晩中、休みなく走り回らなきゃ無理だよ」

「アンタのおねーさん、無茶するわね……」

「俺もそう思う。

 で、夜盗イベントクリアはあくまで入手条件。そもそも盗賊の剣自体の入手イベントはミステリオで発生するんだけど、ミステリオで発生する他イベントを予め3つ以上クリアしておかないと発生しない」

「……

 そういえばユリさん、他にもミステリオでカード取ったとか言ってましたね……」

「ついでにやったんだろうね……

 秘密のマント入手イベントは、盗賊の剣イベントを発生させる為にクリア必須だけど、顔パス回数券が余分かな……。弁護士の卵イベントもアレはアレで面倒だったはずだし」

 

 ユリさん、ウラヌスの信用を得る為に必死なんだろうな。……ちょっと有り得ないほど、大急ぎでイベントクリアしてる。

 

「結局、これで何枚集まったんだっけ?」

 

 メレオロンの質問に、私も考えてみる。確か昨日で32種類、ユリさんが取ったのが──

 

「ダブリなしで3種増えたから、35種だな。

 指定ポケットのランクSって全部で21種類あるんだけど、すでに3枚終わらせてるのはデカい。よく狙われるカードでもあるけど……」

「上手くトレードすれば、ランクSってどんどん増やせますよね」

「周りもゲーム進行しちゃうのがネックだけど、トレードして持ってる人数増やした方が狙われにくいってのはあるかな。トレード相手も更に交換するだろうから、タイミングが大事だけど。

 基本的には、早く取れれば取れただけ有利だと思う」

 

 私達と同じかそれ以上に集めてるハガクシ組のこともあるし、ユリさんの協力はかなり重要かもな。

 

「けど、後が怖いんだよな……

 あんまり集めてこられると、恩を着せられそうで」

 

 複雑そうにうなじをかくウラヌス。

 

「アンタの攻略情報ありきなんだし、別にいいんじゃない?

 ゲームクリアできるなら、安いもんだと思うけど」

「それはそうかもしれんけど……」

「助力を求めたのはアンタなんだし、しっかりしなさいな。

 アタシ達もがんばってカード集めればいいだけでしょ」

「もちろん、姉貴任せにするつもりはないよ。

 ……ランクSの情報渡しすぎた気はしなくもないけど」

 

 あー、それはそうかも。ユリさん、それだけ期待されてるって思い込んじゃったかもね。

 

 

 

 ウラヌスの体調がそこそこ回復したようなので、私達も午前中は推理都市ミステリオへ向かうことに。

 いかにもそれっぽい、裕福な街並みと貧しい街並みが共存する場所で、いわゆる事件が起きまくって探偵の真似事が捗る街らしい。

 

 私達は失し物宅配便の入手に挑戦してみたんだけど、路地裏の少年がなくしてしまった親の形見を代わりに探すイベントで、その在り処をあちこち聞き込みして調べ回り──

 イベント最後の2択で、なぜかシームが勝手に選択して外す大ポカをやらかしてしまい、形見ではないアイテムを入手してしまった。

 

 

 

『273:道化のオブシダン』

 ランクC カード化限度枚数36

 どこまでも深く黒い艶のある鉱石

 所有している者は どうしてこうなった?

 と思わざるを得ないような目に遭うようになる

 

 

 

 当然イベントは失敗……。そのせいで、さっきからシームがわんわん泣いてる。

 

「だってぇー! こっちの方がオーラ多かったのにー!」

「まあな……

 アレはもろにヒッカケなんだよ。ほら、親の形見ってだけで、オーラ量の多い方が正解とは言ってないから……」

「うわぁーんっ!」

 

 あらら……まぁみんなで時間かけて入手しようとしたカードを、自分のミスで取りそこなったらショックだよな……

 

「……ちょっとアイシャ。

 悪いけど少し見ててくれる?」

「あ、はい。いいですよ」

「アンタは一緒に来て」

「ん」

 

 私にシームを任せ、少し離れた路地にメレオロンとウラヌスが移動。2人でどうするか相談するんだろう。損な役回りだけど、こんな状態のシームを1人にはしておけないしな。

 

「ほら、シーム。そんなに泣かずに……

 こういう日もありますって。そういつも上手くはいきませんよ」

「だってだって……!

 ユリさんはいっぱいカード集めてるのに、ボク……!」

 

 泣きじゃくるシーム。よしよしと頭を撫でて慰める。どうしたもんだろうな。

 

 

 

 

 

 近くの路地裏でボソボソ話すメレオロンとウラヌス。

 

「ほっときゃ泣きやむでしょうけど、引きずって後でぶり返すパターンよ、アレ……」

「マズったなぁ……

 事前にイベントの内容、全部喋っときゃよかったんだろうけど。

 まさかあのタイミングで勇み足するとは思ってなかったしな」

「なにか力になりたくて、うずうずしてたみたいね」

「……俺の姉貴と張り合いたかったのか。

 良くも悪くもだな」

「昨日色々ありすぎて、感傷的になってるんでしょうね……

 アタシもケアしてあげるべきだったんだけど」

「……」

「どうする?

 またこのイベント、イチからやり直す?」

「……やってもいいけど、いずれかな。

 ほとぼりが冷めるまで、やめといた方がいい気がする」

「そう?

 取り直して、さっさと無かったことにした方がいいんじゃない?」

「時間をムダにさせたと思うかもしれないしさ。

 だったらもうトレードで済ませ──」

 

 バンッ!

 

 近くの扉が突然開き、中から何かが飛び出てくる。壁伝いにどこかへ逃げようとして、ウラヌスがそれに反応──その何かの片腕を引っ掴んだ。ボンッ! とカード化する。

 

 

 

『398:シーフモンキー』

 ランクD カード化限度枚数57

 絶滅寸前の珍獣 固い毛を駆使して あらゆる錠を外そうとする盗人猿

 大抵の錠は破れるが 電子ロックや念で封じたモノは手に負えない

 

 

 

 はぁー、とウラヌスは息を吐き、

 

「まぁこういう街だし、いい勉強になったと思ってもらうしかないな。

 思い込みは怖いと知ってもらった方が、後々に繋がるだろ」

「……つまり慰める方向ね。りょーかい」

「うん。

 今日はもう攻略切り上げて気分転換だな」

 

 

 

 

 

 ぐすぐすベソをかくシームを、戻ってきたウラヌスとメレオロンが宥めすかし、今日は攻略を中断して観光をすることに。

 どこへ行こうという話になり、ウラヌスの提案で水路都市キャナリアへ。……なんか、困った時のキャナリアみたいになってるな。

 

 ともあれ、潮風の中の散歩を楽しみ、甘いジェラートとゴンドラを堪能。

 いつものシーフードが美味しい店にも行き、シームにチリンチリン♪ と金の呼び鈴を鳴らしてもらう。昼食を終えた頃には、シームの機嫌はすっかり直っていた。

 

 色々と買い物を済ませ、本日も昼過ぎからオータニアで修行を開始。やや空回り気味にがんばろうとするシームを、やる気を損ねない程度に諭しながら、軽く姉弟同士で組手もやってもらう。

 

 私が以前禁止された提案をしたのに、なぜかウラヌスは何も止めてこなかった。それを不思議に思い、

 

「ウラヌス、ホントによかったんですか?」

「うん?

 2人に組手させてよかったのかって意味?」

「そうです」

「アイシャもちゃんと注意点を指導してたから、問題ないと判断して何も言わなかったんだけど、俺がまだ早いって言うと思った?」

「うーん、まぁ……」

「なんだかんだで、あれから半月以上経ったからね。

 その間ちゃんと基礎修行はこなせてるし、もういいかなって。

 ……そろそろシームにも、実戦経験を積んでもらわないとマズイから」

 

 そっか。私にしてみればやっとかぁ……って気分だけど。ウラヌスが納得してくれないことには協力を得られないからな。ようやく本格的な修行を始められそうだよ。

 

 でも……

 

「おねーさんのこと、気にしてます?」

「うん……

 やっぱり姉貴の一件は、こたえたよ。

 一歩間違えばみんなを巻き添えにするところだったし……。今が居心地いいからって、緩くしすぎるのはダメだもんね。

 多少キツめに修行させて、それをケアするやり方にシフトする時期だと思う」

 

 うん……。ウラヌスには申し訳ないけど、私にとってはその方がやりやすくて助かるよ。

 

「あなたの修行はどうします?」

「うーん……

 やっぱり今は、あの2人に注力した方がいいかも。俺が消耗すると、いざって時に困るじゃん?」

 

 そうなんだよな。元々あった問題ではあるんだけど……

 

「姉貴といつ接触するか分からない以上、俺が弱ってる時に運悪く接触したら姉貴の気が変わってボコられるかもしれないからさ。

 そうなったら一発ゲームオーバーなのに、迂闊なことできないよ」

「……分かりました。

 でしたら、ゲーム攻略でもあまり無理はしないようにしてくださいね?」

「ん、そうするよ。

 アイシャが半月足らずで復活するわけだし、それまで慎重を期していこうか」

 

 あと2週間か。早く復活してほしいけど、今は今で楽しいんだよね。……念が復活した後も、みんなとこういう感じで居られたらいいんだけどな。

 

 

 

 ──そして夕方。なかなか充実した修行を終え、フラフラする姉弟を連れて料亭に到着。さて注文しようかというところで、ウラヌスのバインダーが出現。

 

「──他プレイヤーがあなたに対して『交信』を使いました──」

 

 おや、またか。ユリさんかな?

 

『こうして連絡するのは初めてかしらね。あたしよ、センリツ』

 

「ああ、センリツか。

 どうした?」

 

『前にリーダーと話してたじゃない? 相談したいことがあるって』

 

「あのことか?

 ゲームから出る時、アイテムをどうするかっていう」

 

『そう、その件よ。

 ボス達はもう帰ってて、あたしの手元にアイテム化したもしもテレビがあるのよ』

 

「なるほどなー。

 センリツが居残りさせられたってわけか」

 

『そうなのよ……

 あなたに相談するのは、あたしの独断なんだけどね』

 

「ん、分かった。会って話せばいいんだろ?

 ただ、今からメシ食うトコだったんだよな……」

 

『別に大急ぎじゃないわよ?

 早く相談には乗って欲しいけど……』

 

「長話になりそうだな。

 んー……」

 

 ウラヌスは私達を窺いながらしばらく悩み、

 

「……夕食を摂りながら、軽くみんなと予定を相談するよ。

 食い終わったら、こっちから『交信』する」

 

『分かったわ。

 ごめんなさいね、食事の邪魔しちゃって』

 

「気にしなくていいよ。

 相談に乗るって約束だったしな」

 

『ふふ。じゃあ、また後でね』

 

「ああ」

 

 ……ふむ。しかし次から次へと何かあるな。センリツさんは悪い人じゃなさそうだから、まだいいけど。

 

「どうするの、ウラヌス?」

 

 少し不安そうなシームに、困ったように笑むウラヌス。

 

「どうしよっかねぇ。

 全員で行くのもアレだし、来てもらうのも何だし。

 長引いても困るから、俺1人で行った方がよさそうかな」

「そのつもりかな、とは私も思いましたけど。

 この後すぐですか?」

「後回しにするのも悪いしさ。

 俺達にしたって、早めに片した方がいいじゃん?」

「ま、仕方ないわね。

 上手くいけば、またカード増やせるかもしれないもんね?」

「そう上手くいきゃいいんだけどなー。

 一方的にならないよう、ちゃんと交渉はするよ。

 とにかく注文はしちゃお。みんな腹減ってるだろ?」

 

 そこだけは満場一致だった。

 

 

 

 秋の実りを心ゆくまで頂戴し、一服した後。ウラヌスが置き土産をしてから、センリツさんへ会いに行くという結論になった。

 まず旅館へチェックインして、万が一襲撃された時に備え、私に『周』をしてもらう。

 

 後は──

 

 ウラヌスがサクラを呼び出す。すると出てきた途端、ウラヌスの頭上からピョンと跳ね、私に飛びついてきた。

 

「にゃんっ!」

「わっ!?

 ……どうしたんです、サクラ?」

「にゃぅー……」

 

 昨日にも増して、甘えてくるサクラ。私の胸にスリスリと頬ずりしてくる。

 

「あらら。たわわなオッパイの実に猫まっしぐら?」

 

「ぶはっ!?」

 

 変態の発言に、ウラヌスがムセる。シームは怪訝そうに首を傾げてる。

 

「やめてくださいよ、そういうこと言うの……

 でも、本当にどうしたんでしょうね?」

「ふにゃー……」

 

 そばにシームが来て、私が抱いたサクラを優しく撫でてあげる。

 

「にゃん……」

「なんか様子が違うね。

 ウラヌス、理由分かる?」

「んー……」

 

 複雑そうな顔をするウラヌス。メレオロンも何とも言えない表情をしてる。

 

「大丈夫だとは思うけど、もし今より様子がおかしくなったら教えて。

 ……遅くなるといけないし、もう行ってくるね」

 

 それらしいことを言って、そそくさと部屋を出ていくウラヌス。なんか隠しごとしてる気がするな……。とは言え、見当もつかないんだけど。こんなにサクラが甘えてきたら、私は嬉しいんだけどさ。

 

「シーム、サクラが落ち着くまで私が預かりますね?」

「うん……」

「ならアタシ達が先にお風呂ね。

 行くわよ、シーム」

「……うん」

 

 シーム、あんまり納得してない感じだな。……心配なのかもしれないけど。でもこんな状態のサクラを、私から無理に離せないしな。仕方ないよ。私は私でたっぷり愛でさせてもらうけど。

 

 ぷにぷにしたサクラをしっかりと抱き、優しく頭を撫でつつ話しかけてみる。

 

「何かあったんですか、サクラ?

 心配するようなことは何もありませんよ」

「にゃぅ、ふにゃ……」

 

 元気ないな……。可愛らしいけど、私まで心配しちゃうよ。……ウラヌス、心当たりがあるなら何とかしてあげてほしいな。

 

 

 

 シーム達がお風呂から上がってくる頃には、サクラもすっかり落ち着いて、普通に私とジャレていた。

 不安そうだったシームも、サクラが自分からやって来ると嬉しそうに抱きあげ、きゃっきゃと喜んでいる。

 

 さて、まだウラヌスも戻ってこないし、お風呂は待った方がいいな。ウラヌスが戻ってくるまでガマンしよう。……あんまりウラヌスが遅くて、汗くさくなってきたら困るけど。

 

 と考えてるうちに、ウラヌスが帰ってきた。

 

「ただいま。

 ……その様子だと、桜は大丈夫そうだね」

「ええ。

 結局なんだったんでしょうね?」

「なんだったんだろうね……

 あ、それよりセンリツのことで──」

「にゃっ!」

 

 シームの膝の上で丸くなっていたサクラが立ち上がり、ウラヌスの前へ駆ける。

 

 キッと音がしそうな風情で、ウラヌスを見上げ、

 

「にゃっ! にゃっ!」

 

 ぱむぱむ前脚で布団を叩きながら、何か抗議してる。なんだろ、可愛いんだけど。

 

「……なに、こいつ?

 俺に文句あるくさいけど」

「にゃっ!」

「あなたにも分からないんですか?」

「うぅん……

 こいつ、はっきり意思表示する時としない時があって。俺も言葉でやりとりしてるわけじゃないから、スネたりするとサッパリ分かんないこともある」

「……

 でもこの様子だと、あなたに心当たりがあるって、サクラは思ってるみたいですけど」

「……アイシャにはそれが分かるの?」

「なんとなくですよ。

 サクラって賢いですもん」

「俺に対してはバカにゃんこ呼ばわりなのに、それだもんな……

 まぁとにかく、俺にはよく分かんないよ。

 桜、あんま俺に絡むと戻すからな? それが嫌なら2人のトコ行っとけ」

「……にゃ」

 

 ものすごく不満そうに、ぷいっとそっぽ向くサクラ。ウラヌスに対してこれ見よがしにシッポをシッシッと振る。

 

「こいつ、めっちゃ態度悪いな……

 前からだけど」

「ウラヌス、あんまり桜を邪険にしちゃダメだよ?」

「シームまで、俺を悪者にすんの?

 別にいいけどさー……もうヤダぁ」

「ほらほら、あなたがスネてどうするんですか。

 ちゃんと仲直りしてくださいよ」

 

 私のところに来たサクラを抱え、ウラヌスの頭上に鎮座させる。

 

「……あのさ、アイシャ」

「うにゃん」

「にゃんこ同士、仲良くしてくださいよ。

 サクラの様子がおかしくて、みんな心配したんですから」

「……

 はぁ……

 それについてはゴメン。

 ……桜、俺が悪かったよ。オマエ、ほんとに大丈夫か?」

「にゃ。にゃう」

 

 桜色の髪に座ったまま、それほど機嫌が悪くないサクラ。これなら大丈夫かな。

 

「……でさ。

 俺が充電器なのは規定路線?」

「にゃ」

「当たり前じゃないですか」

「マジで取り付く島もないよね……

 へいへい、どうせ俺は充電器がお似合いのバカにゃんこですよっと」

「分かればよろしい」

「……。

 そろそろ本題に入らせてね?

 えっと、センリツからの相談内容。ちょっと状況が動いたんだよ」

「と言うと?」

「まずネオンさん達の近況から。

 3日前に、現実へ帰ったらしいんだ。用があって、どうしても戻らなきゃいけないって。

 その時点で『もしもテレビ』は手に入ってたんだけど、当然現実に帰ったらアイテムは保持できない。で、誰が居残るかで揉めて、結局センリツがババ引いたんだって」

「……もうちょっと、言い方ありません?」

「いや、ホントにババ抜きで決めたらしくて。

 なんかみんな本気で嫌がってたから、仕方なしにわざと負けたらしいけど」

「お人好しですよね、あのヒトも……

 と言うことは、ネオンさん達はまた戻ってくるわけですよね?」

「間違いなくね。

 もしもテレビは結構使ってみたらしいけど、もう少し試したいことがあるとか、そんなこと言ってた。

 で、それはそれとして、誰か1人は残ってないといけないのは問題あるから、やっぱり誰かに預けたいって」

 

 あー、そういうことか……

 

「もしもテレビを、モタリケさん達の家で預かるつもりですね?」

「それが一番かなって。

 直接ベルやモタリケと、ネオンさん達が接触するのは問題ありそうだけど、俺達が間に入って仲介すれば、誰にとってもウマイじゃん?」

 

 ふぅん。……頭の上で、にゃんこが首傾げてるせいでイマイチ話に集中できないけど。

 

 メレオロンがアゴを擦りながら、

 

「仲介料はちゃんと取るのよね?」

「そりゃもちろん。

 俺達が荷物を預かるって形にして、手渡し自体は必ず俺達がする。その時に、仲介料はしっかりもらう。

 こっちも手間はかかるし、実際俺達が荷物預けるスペースもそのぶん削れるわけだから、見返りがあって当然だろ?」

「ウラヌスにしてはしっかりしてますね」

「……俺って、そんなにしっかりしてない?」

「妙なところでガバガバじゃないですか。

 しっかりしてくださいよ」

「へいへい……

 で、手付けとして『複製』だけど指定ポケットカードを譲り受けた。

 幸福通帳、小悪魔のウインクの2枚」

 

 ん? なんか妙に最近聞き覚えのあるアイテムだな。

 

「どこで取れるカードでしたっけ?

 なんか嫌な記憶が過ぎるんですけど」

「はは、アイシャらしい反応だね。

 あそこだよ。アイアイ」

 

 あー、そうだそうだ。恋愛イベント系で取れるアイテムだよ。思い出した。

 

「ネオンさんが結構あの都市、気に入ってるらしくて。がんばってイベント攻略進めてたらしい。首尾よくホルモンクッキーが取れたら、俺達に譲ってくれるってさ」

 

 ほう! なるほど、それならアイテム預かりの見返りとしては悪くないな。

 

「ま、っていう話。

 いずれにしろ、アイテム預かるのはまだ先だけどね。

 手付けのカードは先に貰ったけど。悪くないでしょ?」

「確かに良いお話でしたね。

 交渉、お疲れ様です。

 もうちょっと充電したら、お風呂入りましょうか?」

「うん、まぁそうだね……

 何かあんまり労わ(ねぎら )れてる気がしないんだけど」

「にゃ、にゃ」

「そんなことありませんよ。

 ほら、サクラも労っ(いたわ )てくれてるじゃないですか」

「絶対そういうつもりじゃないと思う……」

 

 にゃんこは、へにゃりと肩を落とした。私もそう思う。

 

 

 

 

 

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