どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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 時は再び一年前、ヨークシンからスワルダニへと幻影旅団が護送された後のお話。

 今回は短く、次の外伝十五章で終わりです。







スワルダニ編2 1999/9/7 ~ 9/11
外伝十四章


 

 1999年9月7日。

 

 ネテロとウラヌスが護送した元A級賞金首──幻影旅団を乗せた飛行船が、スワルダニシティへと到着した。

 

 数ある飛行船発着場の1つに着陸し、そこから再び護送車でスワルダニのハンター協会本部へと向かう。

 

 まるで夜行バスのように昏い街並みを疾走。旅団達が憂鬱そうに夜の市街を眺めている。護送車の周囲を、同じく偽装した複数の警備車両が並走していた。ただそのせいで、見る人が見れば凶悪犯の護送をしているようにしか映らず、偽装が意味を成していない。

 

 やがてバスは──……

 

 

 

 

 

『──……おい、ウラヌス。いつまで寝とるんじゃ』

 

「……ん……んぅ……すぅ……」

 

『こら、そろそろ起きんか。ウラヌス!』

 

「……すぅー……すぅー……」

 

『しょうがないヤツじゃのう、肝心な時に……

 誰かそやつを起こしてくれんか』

 

 バス前方から車内マイクで指示するネテロ。車内の視線がバス後方へと集まる。

 

「ああー? オレが起こすのかよ、めんどくせぇな……

 おい、ガキ。じいさんが起きろっつってんぞ」

 

 ゆさゆさと肩を揺らされ、ウラヌスが「うにゅー……?」とか変な声を出す。

 

「うにゅーじゃねぇよ。起きろって」

「すぴー……すぴー……」

「マジかよ……こんな状況で爆睡してんぞ、こいつ」

 

 どこまでも気持ちよく後部座席で寝転がっているウラヌス。困惑するウボォーギン。

 

「いい加減起きろって……。おい、マジで起きねぇぞ。

 叩くわけにもいかねぇし、どうやって起こしゃいいんだよ。

 んー……じゃあ、こうすりゃどうだ?

 おぉっ? コイツのケツ、すんげーやわらけぇな」

「ぅぉわッ!?」

 

 ワンピース越しにむにゅむにゅ臀部(でんぶ )を揉まれて、ウラヌスが飛び起きる。

 

「にゃにすんだよッ!?」

「ああ? オマエが無防備にケツ向けて寝てっからだろーが。

 もう着いて、さっきからじいさんが呼んでんぞ」

「……起こし方ってモンがあんだろ、くそ……」

 

 寝ぼけ眼をこすっているウラヌスに、ウボォーギンは静かに笑ってから小声で、

 

「なかなか腹の具合はいいぜ。ありがとよ」

「……あ、うん。それはなにより」

 

 不機嫌な顔でウラヌスがバス前方へ進む中、他の旅団員はウボォーに向かって非難囂々(ひ なんごうごう)だった。無論ウラヌスへのセクハラに対してだが、他者を傷つけてはいけないルールなどドコ吹く風である。非難を浴びるウボォーもゲラゲラ笑っているのだから、呑気なものだ。

 

 呆れ顔のネテロと寝ぼけたウラヌスは、バスを一度降りてから、

 

「ねむぃー。ウボォーに尻もまれたぁー……」

「まったく……はよぅ目を覚まさんか。

 あんなヤツラの居るところで熟睡するからじゃろうが。緊張感ないヤツじゃのぅ」

「つっても、ねみぃんだもん……

 ちょっとでも回復しないと、この後も重労働だしさぁ……」

「だったら仮眠室で休んでこんか。

 アヤツラを収監した後に呼んでやるわい」

「んー……

 でも、フランクリンとか大丈夫かー?

 あいつ重傷でヘタに動かすとヤバイから、能力を使って担架か何かで慎重に運ばないと……」

「そんなことは心配せんでええ。

 ちゃんとやっとくから、一眠りしてこんか」

「ぅー。わかった……」

 

 

 

 

 

 スワルダニシティのハンター協会本部そばにある収監施設──地下駐車場に乗り付けた一団は、手錠を掛けて目隠しした旅団を引き連れ、施設の奥へと進む。

 

 そして旅団メンバー達は、お互い声も掛けられないほど離れた鉄格子の中へ収監された。収監施設の職員から様々な注意事項の説明と身体検査を受け、不快に思いながらも抵抗はしない旅団達。

 

 既に夜も更けていたので、就寝の時間になって照明が落ちた後、収監されたそれぞれの部屋を訪れるウラヌス。電灯を片手に、おぼつかない手つきで錠前や鉄格子の扉に細工を施していく。

 

 

 

 

 

 ノブナガの独房前。

 

「なぁウラヌス。気が変わったとかねぇか?」

「ああ? なんのこっちゃ……」

「旅団に入るか、オレ達と組まねーかって話だよ」

「オマエ……

 だから、んなことしてオレに何のメリットがあるってんだ。

 そもそも組むっつった瞬間に、俺も捕縛されるだろうが。

 ここをどこだと思ってる……」

「お?

 じゃあ状況が違えば有り得るってことか?」

「有り得るわけねーだろ。ハナっから、そんなつもりない。

 ……あーもう、間違えた。くっそ、ねみぃな……

 手元が狂うから、寝言ほざくなノブオ」

「ノブオじゃねぇっつってんだろ!」

「ああ、はいはい。

 ノブナガ=ハザマ様でございましたね。失礼いたしました、とさ」

「テメェ……」

「それで勧誘できると思ってるなら、アタマ沸いてんぞ……

 ったく」

「ちっ……

 ……。

 そういやオメェ、ウボォーの傷も治してやったんだよな?」

「んー? どうだかな……」

「オマエが口止めしたせいで、ウボォーのヤツは絶対認めなかったけどよ。

 どう見たって、急に顔色が良くなってたからな。

 ……アイツの傷、フランクリンの次にヤバそうだったんでな。治してくれたこと、感謝してるぜ」

「ふわ……んぅ。

 ……わざわざウボォーのことで礼を言うなんて、仲がよかったのかアイツと」

「仲が良かったなんて言うと語弊はあるがな。……アイツとはよく喧嘩したが、どっかでドンパチする時は組むことも多くてな。

 ウボォーとは旅団設立前からの古い付き合いだ」

「そっか……」

「ん? なんで落ち込んでるんだ?」

「いや……

 もう逢えないんだろうなって思うと、な」

「……くく。かっかっか!

 なんでオメーがそんなこと気に病んでんだよ」

「……」

「なに。お互い生きてりゃ、いずれ顔を合わすこともあるさ。

 ……そうだ、ウボォーのヤツに伝言頼めねーか?」

「んー……

 この後ウボォーのところにも行くし、当たり障りのないことならな」

「おう、じゃあ頼むわ」

 

 二言三言ノブナガと言葉を交わした後、「じゃ、またな」と声をかけ、ウラヌスは次の独房へと向かった。

 

 

 

 マチの独房前。

 

「……ガチャガチャガチャガチャ、いつまでも鬱陶しいね。

 さっさとやりなよ。

 手際悪いんじゃないか?」

「えー。いや、これでも急いでるつもりなんだよ……

 ただ眠くてさ。電灯が邪魔で片手しか使えないし、これがなかなか……」

「知らないよ、そんなの。

 アタシはさっさと寝たいんだ」

「勝手に寝てりゃいいじゃん……こっちはこっちでやっとくからさ。

 うるさいんだったら、時間はかかるけど静かにやるよ」

「…………」

「ん? まだなんか言いたいことあんの?」

「……」

「まぁ睨みつけてるところ見ると、何となく予想はつくけどさ」

「ハッ。教えてやる義理なんかないね」

「んー……

 多分、髪のこと?」

「……」

「それはゴメン。髪の毛のことイジったのは謝るよ。

 どうしても気になっちゃってさ」

「……アタシの髪は、昔っからこんな感じだよ。

 直したくても直りゃしないんだ。かえって傷んじまう」

「あー、いや……

 髪型は別に。俺が言いたいのはヘアケアの方なんだ。

 ぼさぼさって言ったから誤解させたかもしれないけど、ぐちゃぐちゃにしてると髪の毛同士が絡まって傷つけあうからさ。

 髪にオーラが巡ってればそれでも回復するけど、念は封じられたんだろ? これからは簡単に回復しなくなるから気をつけた方がいいって……そう言いたかった」

「……。そうかい」

「俺の髪も気をつけないとダメになるタイプだからさ。

 …………ふわぁ……んん。やっと終わったよ。

 寝るの邪魔してゴメン。もう行くよ、おやすみ……」

「──ちょっと待ちな」

「ん?」

 

 その後、マチといくらかやりとりをしてから、ウラヌスは次の独房へと向かった。

 

 

 

 パクノダの独房前。

 

「……」

「なんか、落ち込んでるみたいだな」

「……こんな状況で明るく振る舞えたらおかしいと思うわ」

「うん……ごもっともなんだけどね。

 ノブナガとマチのところにさっき行ってきたんだけど、意外に元気そうでさ」

「そう……それはよかった。

 私はとてもそんなふうには振る舞えないけど」

「でも、案外ほっとしてるんじゃないか?」

「……」

「誰も死なずに済んだわけだし」

「それは……そうね。

 仲間が死ぬのはもうウンザリ」

「旅団が捕まることより?」

「……天秤には乗らないわ。

 蜘蛛の消滅と、全員の死は同義だから。

 このままずっと、誰とも会えないかもしれないし……」

「ずいぶん拘るよな、蜘蛛に。

 そんなに蜘蛛……っていうか、仲間の絆は大事?」

「……」

「複雑な事情を抱え込んでるみたいだけど、後悔もしてるんじゃないか?

 これまで旅団がしてきたことを」

「…………。

 生きていれば、いくらでも後悔はするものよ。

 悪人でも善人でも」

「ごもっとも。

 ……旅団が特別目立ってただけで、賞金が懸かってないだけのタチが悪い連中なんて、ごまんといるしな。そいつらこそ牢屋にブチ込んでやりたいよ」

「ボウヤ。……悪党は嫌い?」

「まぁ……好きじゃないな。

 自分は悪人じゃない、みたく振る舞ってる悪党は特に」

「フフ。そう。

 ……じゃあ悪党じゃないボウヤに、1つお願いしていいかしら?」

「俺が悪党じゃないかは知らんけど、聞けることならね」

「ダメ元でお願いするわ。

 難しいかもしれないけれど、こんなところで退屈していそうな団長に──……」

 

 

 

 フィンクスの独房前。

 

「……それ、大丈夫か?」

「ん? 何がだよ」

「いま掻いてる足。具合はどうだ?」

「──ああ! 言われて思い出したぜ。

 お前に治療してもらってからは良好だな。

 しばらくしたら痛みはほとんどなくなったし、たまにムズ痒いくれぇだ」

「むずがゆいのは再生が進んでるからだよ。

 なら大丈夫そうかな。それだけ深手を治療することは滅多にないから、上手くいっててよかったよ」

「……フェイタンやフランクリンは大丈夫そうか?

 ウボォーのヤツは平気そうだったが」

「あー。3人ともこれから行くところだから、まだ経過は分かんない。

 ちょっと今の時間的に、容態がどうだったか教えに戻ってくるのも難しいな。

 ヨソの情報を洩らすなって怒られそうだし」

「クックッ……

 いや、そこまでしなくていいぜ? いちおうお前の方で見といてくれりゃ充分だ。

 どうせあの連中は、殺したって死にゃしねぇよ」

「まぁなんだかんだで生き残ってるもんな」

「そういうこった。

 ……それよりお前、女になったら面会に来いよ。待ってるからな」

「あ……ぁ、うん。覚えてたら……」

「それとだな」

「うん?」

「サンドイッチ、旨かったぜ。ありがとよ」

「……礼を言うトコ、そこぉ?」

 

 

 

 フェイタンの独房前。

 

「……腕と腹、具合はよさそう? なんか余分に痛いとかある?」

「……」

「…………」

「………………」

「……ん、まぁ問題ないならいいよ。

 無理に返事しなくていい。

 いちおうフィンクスが気にしてたから、聞いてみただけだし」

「……おかしな嘘つくな」

「やっと口利いたと思ったら……

 嘘なんか吐かないよ。信じないのは自由だけど」

「……。

 なんて言てた?」

「あー……

 フェイタンやフランクリンは大丈夫そうか? だったかな」

「……バカなやつね」

「そう言ってやるなって。

 見えてるうちは気にならなくても、視界に入ってないと気になるんだろ」

「……他には何か言てたか?」

「んー、あとは……

 ウボォーのヤツは平気そうだったが、とか言ってたな」

「……同感ね。お前が治療するまでもなかた。

 あいつ、簡単に死ぬタマ違うよ」

「うん、まぁ死にはしなかったとは思うけど、完治が著しく遅れたり後遺症はあったかもしれないしさ。今はそんな心配いらないけど」

「……。

 そんなことより、お前のゲームの調子はどうね?」

「え? ああ、グリードアイランドのことか。

 まだアレからゲームに戻ってないよ。簡単に行ったり来たりできないんだ。

 今回も俺、別件で戻ってきたところをネテロに駆り出されただけだし」

「……お前でも手強いか?」

「んー、そりゃもう。ズルなんか通じないし、めっちゃ大変。

 一度は死ぬかと思ったくらいだもん。マジで世界一難しいゲームだと思う」

「……ワタシも、やてみたかたね」

「まぁ牢獄だと娯楽もあんまり無いだろうしなぁ……

 ともあれ、その傷を治すのが先決だよ。そんな状態じゃどうしようもないだろ?」

「……」

 

 

 

 コルトピの独房前。

 

「ん……ねむ」

「……」

「そういえば、素顔ってそんな感じなのな」

「……顔のことには触れないで。あと、迂闊なことを口にしたくない」

「おっと、ゴメン。掟のことがあるもんな。

 いや、他のメンバーは結構ベラベラ喋ってたから……」

「そう……

 元気だったらそれでいい」

「ん。

 ……見た感じ顔色よくないけど、健康には気をつけなよ」

「余計な心配……

 そんなこと、言われたことない」

「はは。

 まぁ念を使えないと体調管理も難しくなるからさ。いちおうね」

「……わかった」

 

 

 

 ボノレノフの独房前。

 

「くぁ……んん。

 ……あれ……誰?」

「ずいぶん眠そうだが……

 まさか誰の牢なのかも分かってないわけじゃないだろ?」

「確かボノレノフ……だよな。

 あー、そっか。包帯は外されちまうよな、そりゃ」

「身体検査の時に付けたままではダメだと言われてな……

 それと包帯ではなく、バンテージだ」

「包帯じゃない、か。……ちょっと気になってたんだけど、身体に開いた穴が剥き出しになってるの、感染症とか大丈夫か?」

「オレの故郷では、なんら保護しないのが日常であり、誇りでもあった」

「うん、まぁ……

 でもここは故郷じゃないから、この地域の菌とか有害物質に耐性があるとは限らないよ。

 念が使えない状態で剥き出しって、やっぱりリスキーじゃないかな?」

「…………」

「包帯、じゃなくてバンテージを巻いてたのも、色々不都合だったからだろ?

 やっぱり何かで覆ってた方がいいと思う」

「……オレの希望が叶うなら、元通りバンテージを巻きたいんだがな」

「あー。とは言え、長いってだけで武器になる可能性があるからなぁ……

 認められるなら通したいところだけど、せめてある程度は身体を覆える大きめの衣服を提供できないか、依頼は出しとくよ」

「……」

 

 

 

 クロロの独房前。

 

「ぁふあふあふ……」

「……」

「ちょーねむぅー……」

「…………」

「んぁー……」

「……。読書の邪魔なんだがな。

 話したいことがあるなら、さっさと話せ」

「あ、ごめん……

 なんか読んでるみたいだけど、それって面白いのか?」

「……別に。なぜかここに始めから置いてあった。

 毒にも薬にもならない小説だが、退屈しのぎにはなる」

「こういう牢獄生活だと、退屈が一番ツライらしいからな。

 本を差し入れると喜ばれるってのは聞いたことあるよ」

「……」

「趣味は読書?」

「……まぁそうだが。なぜそんなことを聞く」

「いや、だったら差し入れてやろうかなと……

 さっきマチとパクノダ2人から、できれば団長に本を差し入れてほしいって頼まれてさ。

 とはいえ、俺も忙しいからな……」

「オレに本を差し入れて、オマエに何かメリットがあるのか?」

「んん?

 いやー、ないけど……

 得どころか損しかしないよ。そんな義理もないし」

「……」

「あー。そう言えば、裏社会じゃ悪のカリスマとかダークヒーローみたいにも思われてるらしいけどな、お前らって。憧れてるとか、そういう連中なら差し入れも……

 いや、しないか。取っ捕まったお前らを、誰も持て(はや)そうなんて思わないだろうしな」

「……さっきから、オレの尋ねていることとオマエの答えが微妙にズレているんだが」

「ん。……俺も眠くて、ちゃんと答えられてないかなとは思ってる」

「義理もないお前が、なぜオレ達を治療した?」

「また唐突だな……そんなこと気になるのか?

 それもメリットうんぬんの話か?」

「いいから答えろ。答える気があるなら」

「うぅん、そりゃ……怪我人は治療するもんだろ。

 俺と敵対してるならゴメンこうむるけど、俺とお前らは別に敵対してないしな」

「……

 オレ達のことを、お前は本当に理解しているのか?」

「なんつーかオマエの物言いって、いちいちバカにしてる含みがあるよな……」

「答える気がないなら、もういい」

「……要は、動機が分からないって言いたいんだろ?

 俺みたいな重度のお節介焼きがそうそう居ないことは自覚してるよ。犯罪者にも人権がある、なんて言ったところで納得しないんだろうし。

 いちおう、幻影旅団のことを噂通り額面通りにしか理解してない──なんてことはないつもりだけどな。

 俺がバスで色々喋ってただろ? お前が死んだ後、旅団が存続できると思うか……とか。

 アレが無理解な人間に吐けるセリフか?」

「分かったような口を叩くなガキ、と怒らせたいのか?」

「勘弁してくれ、そんなつもりないよ……ヘタしたら掟に触れて死んじゃうじゃないか」

「オレ達を挑発して、死なせたいのかと勘繰ったぐらいだがな。

 むしろオレ達に対する理解が足りないか、想像力が足りないからこそ、ああいう台詞を吐けたんだろうと思っているが」

「……そうだな。それは認める。

 お前らがこれまでやってきたことを考えたら、世話を焼こうなんて気は全く起きない」

「……」

「だから考えないようにしてる。

 目の前にいるのは、これから刑に服す人間だ。それ以上でも、それ以下でもない」

「……それが、拒絶するフェイタンを説得してまで、治療した理由か」

「あれ?

 ひょっとしてあの内緒話、聞き取れてた?」

「あの時フェイタンが使っていた言語なら知っている。

 オレもフェイタン以外に聞かれたくない時、使うことがあるからな」

「おおー。

 読書が趣味とか言ってたけど、もしかして語学堪能とかそのクチ?」

「あまりマニアックな言語でなければ、な」

「ふんふん。

 なら色んな言語の本とか大丈夫なわけだ。

 あ、そうだ。

 だったらムショ暮らしの退屈しのぎに、翻訳の仕事とか出来るんじゃね?」

「うん? どういう意味だ」

「いや、そのまんまの意味だよ。

 こう言っちゃなんだけど、これまでの旅団の犯罪を見積もると、団長だとプロハンターでも死刑は免れないだろうなって予想してる」

「……オレの見立てでもそうだな」

「だから流石に減刑とかは期待できないけど、功績次第で死刑が先延ばしになる可能性はあるんじゃないか? それこそプロハンターなら尚更だよ。

 死刑囚を雇用するみたいな話もあるらしいし、死刑執行の停止は充分ありえると思う。

 掟を破ってないところを見る限り、ちょっとでも生き延びたいんだろ?」

「……。

 なるほど……そこまでは考えもしなかったな」

「オッケ、オッケ。

 もちろんそう上手くコトが運ぶか分からないけど、まず手始めに本の手配からしとこ。ネテロに言って差し入れさせとくから、読みたい本の希望を教えてくれ」

「待て。少し考えさせろ」

 

 あくびをしながらクロロから数百冊分の本の希望を聞きだして全てメモしたウラヌスは、会話を盗聴していたネテロのところへ行って、小言を聞かされながらもメモを押し付け、眠たそうにしつつ次の独房へと向かった。

 

 

 

 悩みもなさげに、すこやかーに独房の中で寝ていらっしゃるシズクを、ウラヌスは半ば羨ましそうにしながら静かに作業を終え。

 

 

 

 フランクリンの独房前。

 

「おお……アンタか。

 こんな夜遅くまでご苦労なこったな」

「んー。2つ前のクロロで結構手間取ってたから……

 って、おいおいおい……

 なんか悪化してるじゃんか。どういうことだよ」

「ああ……

 ここまで運ぶ時にちょっとな……」

「いや、重傷でヘタに動かすとヤバイから慎重に運べって、ネテロに言ったのに……

 ジジイ! 聴こえてんだろ、ぶっ殺すぞ」

「んん……?

 アンタ、中に入ってきて大丈夫なのか?」

「なんかあった時の為に預かった鍵だからな。

 ネテロの不手際だけど、信じた俺がバカだったからケツ拭いてくよ」

「治療する気か……?

 だが無断でそんなことをしたら、アンタが怒られるんじゃないか……?」

「俺が逆に怒るよ。

 あのジジイ、余計な手間増やしがって……

 フランクリンは気にしなくていい。悪いのはネテロだからな」

「はは……

 そうか。すまねぇな……」

「んー…………。……

 ……内臓は、大丈夫。出血もなさそうかな……

 けど、筋肉や骨がちょっと歪んでるか。コレはあれだな……ベッドも悪い」

「はっはっ。……そうだな。

 ちょいとオレには窮屈でよ……慣れるまでの辛抱だと思ったんだが」

「キツけりゃキツいって言わなきゃダメだぞ。

 安静にしてなきゃ治りも遅いし、骨や筋肉に後遺症が残りかねないからな。

 ……神経も良くないか。このままでも治りはするだろうけど、俺の治療が不十分だったかも。ゴメンな……」

「アンタに謝られちゃ、オレの方が申し訳ないぜ……」

「……マチが治療できなかったのを悔しがってたよ。

 延命するのが精いっぱいだったって」

「ああ……聞いてる。

 詳しいことは話せないが、壊され方が良くなかったらしい……」

「……面倒な掟だよな。必要なことでも話せないんだから」

「まったくだ……

 長い付き合いになりそうで、困っちまうぜ。自業自得ではあるんだがな」

「……ま、せめて治療だけでもしっかりやろう。

 マチからも、アンタを運ぶ時にガチャガチャ手際が悪かったから、念の為に診ておいてほしいって頼まれてる」

「そうか……」

 

 その後もネテロの愚痴を言いながらフランクリンを治療し、錠前と鉄格子に細工を終え、ようやくウラヌスは次の独房へと向かった。

 

 

 

 シャルナークの独房前。

 

「ふわぁぁぁ……ねみゅい……」

「ずいぶん眠そうだね。ここに来た時間も遅いし」

「ん……

 そっちはそっちで、心配でたまらないって顔してるな」

「…………

 顔には出してないつもりだったんだけど」

「平然な顔と無表情は違うからな。感情を殺しすぎて、隠しごとしてるのがバレバレだよ。

 状況的にそりゃそうだろっていうのも、簡単に分かった理由だけど……くぁ」

「そっか……

 まぁ心配したってどうにもならないんだけどさ」

「今後のコトとか刑罰の重さも気になるんだろうけど、一番心配なのは仲間の安否だろ?

 怪我した連中の具合とか、うっかり掟を破ってないかとか」

「……」

「ウボォーだけはまだこれからだから確証ないけど、他の連中は大丈夫だよ。

 落ち込んでるのもいたけど、元気そうなのもいる。

 ……これからが不安なのは仕方ないだろうけどな。存外みんな落ち着きがない」

「ふぅん……そっか……」

「死ぬ覚悟はできてたけど、捕まる覚悟は不十分だったってとこか。

 そりゃ尊厳を踏みにじられて平然としてたら、生きてる気がしないしな……」

「……死ぬべきじゃないのは分かってるんだけどね」

「結構迷ってるんだろ?

 掟を破って死んだ方がいいんじゃないかって。

 でも蜘蛛が少しでも生き延びる可能性を考えたら、それはすべきじゃないと理性で踏みとどまってる」

「……その通りだよ。屈辱だけどね……」

「うん……俺からは頑張れとしか言えないよ。苦しめとまでは言わないけど。

 1日1日、不自由に生きるのは退屈だろうと思うよ……あふあふ。ねむ……」

「本当に眠そうだね」

「いま喋ってるのもワリと適当になってるかも……

 ま、変なこと言ってたら忘れて。早くバタンキューしたい……」

「……これからウボォーのところへ行くんだよね?

 なら1個だけ伝言頼める?」

「ん……まぁ覚えてたらでよければ」

 

 

 

 ウボォーギンの独房前。

 

「おぅ、ずいぶんと遅かったじゃ──

 ん? なんでオメー、そんなフラついてるんだ?」

「う、ん。眠くて眠くて……もう限界なんだよ。

 えっと……

 お前の仲間が何人も、腹の具合は大丈夫か心配してたけど……」

「ガッハッハッハ!

 牢屋の外にいるオメーの方が、よっぽどボロボロじゃねーか!」

「うっせーな……

 これで最後だから、やりきっちまいたいんだよ……

 そもそもジジイが俺をこき使うから……くそっ」

「へっへ、気の毒になぁ。

 どうだ? よかったらオレのベッドで一睡してくか?」

「流石に身の危険を感じる……」

「ぎゃはははっ!!」

「……ぃ……ぃゃ、命の危険の方な? 変な意味じゃないぞ……」

「ひゃははは! オレは何も言ってねーよッ!!」

「ぐぅ……おまえ、メチャメチャ元気じゃねぇか……」

「おうよ、お(かげ)さんで元気よ。その代わり、腹が減って仕方ねぇがな」

「ああ……退屈の次にツライのが空腹かもな……

 確か金があったら、囚人でも食い物は手に入るけど……」

「オレは金を持たねぇ主義でな」

「……その主義は、ムショ暮らしではやめといた方がいいぞ。

 盗むわけにはいかないんだし」

「……そりゃそうだな。つってもどうすりゃいいんだ?」

「んー……

 制限はあるけど、ムショ内での軽作業とか、外から現金の差し入れがあれば。

 お前らにそんな外の知り合いがいれば、だけど」

「アテはねぇなあ。強いて言えばオマエとか?」

「無茶言うなよ……

 何で俺がお前らに、ムショ暮らしを快適にする為の金をやらにゃいかんのだ」

「さぁ? オレには分かんねぇな」

「オマエが分かんねぇなら、俺も分かんねぇよ……」

「ギャハハッ、(ちげ)ぇねーな!」

「たく……

 えっと、伝言を預かってるんだけど」

「お? 誰からだよ」

「2人。まずシャルナークから。

 ──『うっかり負けた時みたいに、うっかり変なこと言わないようにしろよ? オレも頑張るから』──だって」

「けっ、シャルらしいな。

 もう1人は?」

「ノブナガから。

 ──『また逢おうぜ』──」

「…………

 フン。当たり前じゃねぇか……」

「生きて再会しなきゃ意味ないぞ?」

「……それはお前のセリフか?」

「そうだよ。

 俺に言わせりゃ、いつでも死ぬ覚悟なんて大したことないよ。

 けれど、どんなことがあっても生き延びようとする覚悟は生半可じゃない」

「……ガキに言われてりゃ世話ねーな。

 分かったよ……。死刑執行でもされねぇ限りは、生き延びてやる」

「そっか。

 ……俺もまた顔出すから、少なくともそれまでは頼むよ」

「ああ。次は女になってから来いよ」

「ん、んん。

 ……まぁできれば。つーか、さっきフィンクスにも同じこと言われたんだけど……」

 

 ウボォーギンが転げまわって、腹の底から爆笑した。

 

 

 

 

 

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