どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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アントキバ編6 2000/10/3
第百九十章


 

 いつものようにオータニアで昼から始めた修行を今日は早めに終え、旅館で気持ちよくお風呂に浸かった後。

 

 まだ約束の時間には早いので、寝泊まりする一室でしっかり身支度を整えることに。

 

 ……私のではなく、ウラヌスのね。椅子に座らせて、髪を櫛で整えるだけではあるけど、これだけの量だとなかなか手強い。

 

「ちょっとー。もーいいってばぁー」

「じっとしててください。

 いつもはしっかり手入れしてるのに、なんで今日に限って少し乱れてるんですか」

「……

 馬鹿馬鹿しいじゃないか、モデルなんかの為に」

「こら、そんなこと言って。

 モタリケさんに悪いですよ?

 素敵なお姫様の絵を描いてもらうんですから、きちんとしなきゃダメです」

 

 多分だけど、今回の絵も私に譲ってもらうことになるだろうからね。複製だろうけど。ぬかりのないよう、キッチリしてもらうぞ。

 

「んあー……

 せめて早くしてよぉー」

「ダメです。まだ気になりますから」

 

 ビスケも私を写真撮影する時、やたらと拘ったからな……。さっさと撮って終わらせてほしかったのに。なんで写真に写らない下着まで着替えさせるんだと文句言ったら、服のシワに出るとかポージングに影響が出るとか……知らないよ、そんなの。

 

 まぁその時の鬱憤も込めて、このにゃんこでウサ晴らしさせてもらおう。

 

「でもアンタ、文句言うわりに大人しいじゃない」

「ウラヌス、じっとしてるね。

 ホントにお姫様みたいじゃん」

「……だって」

「ごちゃごちゃ言うわりに、髪の毛いじられてる時はじっとしてるんですよね。

 ユリさんにこうされるのが当たり前で、すっかり慣れてるんでしょ?」

「ぐ……」

 

 温泉で髪を洗ってあげた時に、そんなこと言ってたしな。いじられるのが嬉しいなら、素直に認めればいいものを。いくらでもやってあげるのに。

 

「アイシャも楽しそうよね」

「ふふ、そうですね。

 これだけの髪だと、なかなかイジリ甲斐がありますよ」

「アイシャもしてもらったら?」

 

 シームが何気なく言ってくる。む?

 

「んー……

 次は私がモデルだと思うんで、その時にはお願いしましょうかね」

「……

 ん? なんか勝手に話が進んでるけど、俺がアイシャの髪いじんの?」

「その時はお願いしますね」

「……別にいいけど」

 

 

 

 さて。満足いくまで髪を整えて、いい時間になったのでアントキバへ。

 

 夕暮れから夜の気配へ移り変わる頃、アントキバの街中を進み、モタリケさん宅に到着。私達が近づいていくと扉が開き、

 

「時間通りじゃないか。よく逃げずに来たな」

 

 モタリケさんが、ウラヌスの顔を見て皮肉混じりに言ってきた。

 

「うっせーよ! 

 なにが逃げずに来たな、だ。開口一番……

 来てやったぞ、ちくしょーめが!」

 

 軽くからかっただけのつもりが過剰反応され、顔をしかめるモタリケさん。

 

「おいおい。

 この間グルセルに行った時と比べて、余裕なさすぎだろ……

 どんだけモデル嫌なんだよ、オマエ」

「あははは……

 こんばんは。お邪魔しますね」

「こんばんはー!」

「どーも。お邪魔します」

「ああ、ようこそ我が家へ。

 さ、遠慮せず入ってくれ」

 

 家の中に入ると、玄関口にまでお肉の焼ける香ばしい匂いが。

 

「いい匂いですねぇ」

「ああ、オレ達はついさっき食べたんだ。

 ベルのやつがお待ちかねだよ」

「?」

 

 なんで、ベルさんがお待ちかねなんだろ?

 不思議に思いつつも、すっかり慣れた廊下を進み、ダイニングへ。

 

 食卓に料理は並んでる。けど、匂いの元であろうお肉はない。これは……

 

「いらっしゃーい♪

 さぁみんな、席に着いて着いて♪」

 

 エプロンを着けて、歓迎ムード全開なベルさん。髪をアップにまとめて、かなり気合い入ってる。

 なんだか急かされる形で、私達はバタバタ食卓に着き、

 

「さ、お客様がた。

 お肉の焼き加減はいかがいたしましょう?」

 

 あー、やっぱり。

 

「もしかしてステーキですか?」

「んんー♪ その通りよ。

 奮発して今夜はビーフステーキにしたの♪」

「景気が良いこったな、ったく……」

「スポンサーが、なーに言ってるのよ。

 いいから、ご希望の焼き加減は?」

 

 ウラヌスは少し考える素振り。メレオロンは難しい顔。シームは完全に分かってない顔してる。……私から切り出すか。

 

「私はミディアムレアで」

「アイシャはミディアムレアね♪

 他の3人は?」

「俺もミディアムレアかな」

「んー……

 アタシはどうしよっかなぁ」

「え? え?」

 

 戸惑うシームを見て、メレオロンは1つ溜め息。

 

「……全員ミディアムレアで」

「おっけー♪」

 

 嬉しそうに返事し、キッチンへ行くベルさん。

 

「メレオロンはそれで良かったんですか?」

「ちょっと赤身が残ったお肉は好きじゃないんだけどね……

 でもウェルダンとか頼むと、時間かかりそうじゃない?」

 

 確かに。自宅で使えるコンロだと火が弱いしな。グルセルで使わせてもらった本格的なヤツなら早いだろうけど。

 

「まぁ変なの注文すると、しくじりそうだしな。

 同じのにしとくのが無難だよ」

「聞こえてるわよー?」

「料理に集中してくれ。

 ……テーブルにあるのは、つまんでいいのか?」

「いいわよー♪

 お肉焼けるまで時間かかるし、オツマミで楽しんでて♪」

 

 許可が出たので、改めて食卓の料理に目を向ける。オニオンスープ、山盛りのサラダにフライドポテト。ステーキの付け合わせとしては定番かな。

 

 

 

 お肉が焼けるまでの間、私達は軽く食事しながら雑談を楽しむ。シームがお店に行ってステーキを食べたことがない話に始まり、牛肉と言えばスノーフレイで食べたすき焼きが美味しかったと盛り上がり、ウラヌスがハンター試験で牛の丸焼きを要求された時の話をする。

 

 そうこうしてるうちに、私とシームの分のステーキが焼き上がり、食卓に並んだ。

 

「おまちどうさまー♪ お熱いうちにどーぞ♪

 あと2人はもうちょっと待っててね」

「うん」

「よろしくー」

 

 さて、ウラヌスとメレオロンには申し訳ないけど、冷めないうちにいただきますか! と、その前に……

 

「すいません、ライスがあればもらえませんか?」

「あー、ごめんなさい! 忘れてたわ。

 モリー、よそってあげて」

「おう。大盛りだよね?」

「あ、はい……そうしてもらえると」

 

 キッチンの方から、炊けたゴハンの匂いがしてたんだよね。言ってみてよかった。

 モタリケさんがキッチンから戻ってきて、目の前にめっちゃゴハン盛られたどんぶりが来た。

 

「あははー……ありがとうございます」

「うちでメシ食った後、なんか物足りなさそうにしてたからね。

 ライスくらいなら、いくらでもどうぞ」

 

 ウラヌスとシームが笑いをこらえる気配。メレオロンなんて露骨にプークスクスしてる。おのれぇ……恥ずかしいな、くそ。

 まぁ大食いなのはグルセルの時にバレてるし、別にいいけどさ。

 

 気を取り直し、鉄板に乗せられた湯気の立つステーキ肉にナイフを当て、切り切りする。肉汁のしたたる赤身が残った肉をフォークで刺し、ひとくち。

 

 あー、これは良いお肉だ。うまー……塩胡椒で味付けしてあるだけでも充分すぎるほど、香りも味も素晴らしい。肉質もよくて、口の中でとろけちゃうよ。

 同じようにお肉を咀嚼していたシームが、私を見ながら喉をごくりと動かしてニッコリ。

 

「美味しいね」

「美味しいですよねー」

「見てるだけで腹へるよ……」

「くっそ旨そうよねぇ」

「ベルがわざわざグルセルまで行って買ってきたんだよ。

 あそこ、食材は揃ってるからな」

「よくやるよ……

 危ないからあんま行くなよ?」

「オレじゃなくて、ベルに言えよ」

「美味しそうよねぇ。アタシの分、まだかなぁ」

「たっかい肉なんだろうな……」

 

 妬ましそうな2人をヨソに、私はゴハンを掻きこむ。うまうま♪

 お肉を切り切りしながら、あることを思い出す。

 

「そういえばですね。

 私が受けたハンター試験で、ステーキ定食を頼むっていうのがありましたよ」

 

 あの時も、ミディアムレアにゴハン大盛り頼んだな。ふふ。

 

「へぇー、ステーキ定食ねぇ。

 どういう試験?」

 

 食いつくウラヌス。だけでなく、みんな興味津々に私を見てくる。

 

「試験というか、ハンター試験の会場へ入る時ですね。

 ある定食屋さんに入って、ステーキ定食を頼むんですよ。

 すると焼き加減を聞かれるんで、人差し指を立てて『弱火でじっくり』って答えると、試験会場へ案内してもらえるんです」

「へ?

 ていうか、なんで定食屋に入るわけ?」

 

 メレオロンが尋ねてくる。そりゃそっか、意味わかんないよね。

 

「えっとですね。

 ハンター試験って、毎年受験する人がスッゴイたくさんいるんですよ」

「あー、分かる。

 オレも一度申し込んだことあるよ」

 

 おや、モタリケさんから意外な言葉が。

 

「どうせアレだろ?

 念に目覚めて、調子こいて俺でもいけんじゃね? とか勘違いしたんだろ」

「う、うるせーな……」

「受験者、毎年数百万人とかだぞ?

 少しばかり念をかじったモタリケにゃ荷が重過ぎるだろ」

「……」

 

 ニヤニヤ語るウラヌスに、嫌そうな顔をするモタリケさん。図星だな、こりゃ。結果は聞かなくても分かるよ。

 

「たくさんいる受験者を絞り込む為に、どこが試験会場なのかは大雑把にしか知らされていなくて。その道中でも様々なテストが盛り込まれているんですよ。

 それらを突破すると、最後に定食屋さんが試験会場の入口だと教えてもらえるんです」

「ああ、そういうことね。

 たくさん人が集まってたら試験会場ってバレちゃうから、意外なところに入口を作ってあるわけか」

「そうですね。

 実際、試験会場は地下の広い空間でした」

 

 ある程度の能力者なら、人がたくさん集まってる場所は離れてても分かっちゃうからな。念使いでも簡単には辿り着けないように、地下の閉鎖空間を最初の会場にしたんだろう。

 

「ウラヌスの時はどうでした?」

 

 と聞きながら、お肉を食べ始める。私ばっかり喋ってたら、お肉が冷めちゃうよ。

 

「俺ん時?

 まぁ定番の嘘吐きガイドは全部見破れたからね。そこは引っかからなかったんだけど」

 

 うん。ウラヌスなら、そういうところでは苦労しないだろうな。

 

「でも会場までの試験官連中は、ちょっと面倒だったかな。

 ……言いたくないこと言わせようとするし。クイズ出してくる婆ちゃんとかさ」

「あー。

 私の時もいましたよ」

「多分、同じ婆ちゃんかな……

 ドキドキ二択クイズ?」

「ええ、そうです。

 同じですね」

「なになに、どんなクイズなの?」

 

 ハンター試験のクイズとやらがどんなものか、メレオロンも気になるんだろう。うーん……

 

「私の時は……

 父と母が崖から落ちそうになっている。一人しか助けられない。

 父と母、どっちを助ける? ──って」

「……アイシャはなんて答えたの?」

 

 意味ありげな目を向けるウラヌスに、

 

「母親、と答えました」

「それで……合格できたの?」

「補欠合格を言い渡されました。

 沈黙が正解、と分かっていて、あえてそう答えたと伝えましたから」

「なるほどねぇ……

 それもアリだったんだ。まぁアイシャはそう答えるしかないもんね、きっと」

 

 うんうんうなずくウラヌス。私の事情を詳しく知らないはずだけど、ある程度雰囲気で伝わってるんだろうな。

 私が食事に戻ると、モタリケさんがアゴでウラヌスを差し、

 

「お前の時はどんなクイズだったんだ?」

「俺?

 んー……教えたくない」

「おいおい、もったいぶらずに教えろよ」

「やだよ、言いたくないもん」

 

 ありゃ、私の話し損になっちゃったよ。ウラヌスの時は一体どんなクイズだったのか、知りたかったんだけどな。

 

「アンタも合格はしたんでしょ?

 なんて答えたのよ。やっぱり沈黙したの?」

「……まぁ答えの方ならいいか。

 婆ちゃんのクイズを聞いて、無視した。口も利かずに、そのまま通り過ぎてやった」

 

 ほぉ。確かに沈黙はしてるし、それでもいいのか。……イヤ? でも、

 

「それだと、正解の道も教えてもらえないんじゃないですか?」

「まぁその場で不合格にはならなかったけど、正解ルートも聞けなかったね。

 だから強行突破した。魔獣の巣窟になってる森林を抜けてった」

 

 無茶するなぁ。昔のウラヌスが荒ぶってたのは、何となく理解してたつもりだけど……

 

「でも、俺の時も試験会場のゴールはメシ屋だったな」

「そうなんですか?

 毎回そういう場所なんでしょうかね?」

「いや、毎回じゃないよ。過去の試験傾向から対策を練るサイトが、電脳ページにあるんだけどさ。結構バラバラみたい」

「ふむ……

 じゃあ偶然ですかね」

「でも、ないんじゃない?

 たとえば、その年の試験官が同じだったとか」

 

 あー……なるほど。

 

「ブハラさんか、メンチさんの提案っぽいですね」

「多分、どっちかの仕業だろうね。

 牛の丸焼きだの豚の丸焼きだの、どうにも芸がないし」

 

 アハハ。確かにブハラさんの試験は捻りが足りないかもな。かといって、メンチさんはやりすぎだけど。

 

 

 

 楽しくお喋りを続けてると、ウラヌス達のお肉もベルさんが運んできた。分厚いお肉を乗せた鉄板をテーブルに並べながら、

 

「あ、いけない。

 もー。モリー気づいてよ。

 ステーキと言えば、ワ・イ・ン。忘れてるわよ?」

「っと。……いや、ワインじゃねーよ。そんなもん用意してない」

「ワインですか?」

「ワインなんか出されてもな。

 確かに、ステーキには赤ワインって言うけどさ」

 

 私とウラヌスが、夫婦の会話に首を傾げる。

 

「ホントはわたしも、赤ワインがいいんだけどね。

 気分だけでも味わいたいから、お子様向けにぶどうジュースよ♪」

「当たり前だろ。

 オマエ、いま何歳だと思ってるんだ」

「エヘヘー……」

 

 モタリケさんに指摘されて、照れ笑いするベルさん。そういえば若返り薬の効果で15歳ぐらいだったはずだよね。

 

 ワイングラスいっぱいに注いでもらったぶどうジュースは、雰囲気や芳香の良さもさることながら、大変美味しゅうございました。

 

 

 

 

 

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