どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百九十一章

 

 最後にモタリケさんが淹れてくれた珈琲で、楽しい夕食を締め。

 

「いやだぁー。もう絶対いやだぁー」

 

 いよいよお楽しみのモデルタイムだ。ウラヌス1人イヤイヤと連呼する中、みんな心底楽しそうに地下室へ向かう。絵を描く邪魔になってもいけないので、持ってきたバッグはダイニングに置いたままだ。

 

 地下室へ行くと、普段より照明が強めになっていた。絵を描く時はこの明るさなのかな。

 

「さ、そこに座れ」

「なんなん、この公開処刑ー。

 死刑執行の電気椅子みたいなもんじゃねーか。座りたくねーよ」

「バカなこと言ってないで座れ」

「モタリケにバカ呼ばわりされたー!」

 

 すっかり部屋の準備は済んでいて、椅子とキャンバスが設置されている。見た目邪魔にならないようにだろう、椅子の後ろには多少の隙間と壁しかない。その代わり別の場所が物で溢れてる。

 

「なー。モデルすんのはいいから、お前ら出てってくれよー。

 さらしもんにされても構わないなんて、俺は言ってねーぞ……」

「だが断る」

「ダメダメ♪

 こんな楽しい見世物、見逃すわけないじゃない♪」

「ほら、ぐずぐずしないの。

 囚われの姫君はさっさと座る!」

「ウラヌス、早く桜呼んでよー」

「こいつら」

 

 予想はしてただろうけど、誰1人まともに相手してくれず顔をヒクつかせるウラヌス。仕方ないよ、ベルさんじゃなくても、こんなの見逃すわけにはいかないからな。

 

「くそっ、覚えてろよ……」

 

 諦めたようにポスンと座り、不機嫌に足を組むウラヌス。

 

「ほら、さっさと描きやがれ」

「ダメだ。勝手に変なポーズするな。

 小生意気なフリを演じた姫っつーならアリだけど、オレが描きたいのはそういうオマエじゃない」

「うぜぇっ!!」

 

 一斉に吹き出す私達。アハハハ、なんだこのコント。初っ端から飛ばしすぎだよ。

 

「いいから早く、あの念獣の猫も出せって。

 じゃないと、いつまで経っても終わらないぞ」

「あぁ? あれ本気だったのか?

 マージうぜぇー……」

 

 あっ。そうすると、神字で出すところを2人に見せることになるな……。いいのかな、ウラヌス的に?

 

「……。

 ちょっと待ってろ。出してくっから」

「ホントに? 逃げちゃダメよ」

「……逃げねーよ」

 

 席を立つウラヌス。ベルさんの念押しに、ちょっと不安が過ぎる反応をする。

 

「この期に及んで逃げたら、フルボッコですからね? 絶対許しませんよ。

 シーム、一緒に付いていってください」

「うん!」

「だから逃げないってばー……

 なんで俺ばっか、こんな目に遭うのー」

 

 恨み節の止まらないウラヌスの手を引いて、シームが地下室から出て行くのを見送る。

 

 ベルさんは首を傾げながら、

 

「んー……

 なにか秘密でもあるの?」

「それもありますけど、恥ずかしいんだと思います」

「別にいいのにねぇ」

 

 やはり首を傾げるベルさん。とはいえ私達に見せる時でも、かなり躊躇してたからな。申し訳ないけど、秘密にできるならしておいた方がいいだろう。

 

 少し経って、2人が地下室に戻ってくる。

 

「お待たせー」

「にゃーん」

「はぁーぁ……」

 

 おっと訂正、1人と2匹が戻ってきた。ウラヌスはダラーんとし、シームは嬉しそうにサクラを抱きかかえて。

 

「にゃ、にゃ」

「相変わらず可愛いわね♪」

 

 サクラが私をねだるように、前脚で宙をかく。うん、私も抱っこしてあげたいけど……

 

「ウラヌス、サクラをどうします?」

「……どっちかっつーと、モタリケに聞いてほしい」

「オレは膝の上に乗せてるイメージだったけど」

「まぁ妥当だわな。ただ、桜がなぁ……」

「にゃう?」

 

 ふむ。私かシームとジャレたがってる感じだよね。ウラヌスの膝の上で、大人しくしてくれるかな? 仲悪いし。

 

「そうですね……

 まずウラヌスは、普通に座ってもらえます? 膝を合わせて、大人しく」

「う、うん」

 

 そうそう。お姫様らしく、ちょこんとね。

 

「シーム、サクラを貸してもらえます?」

「うん」

「にゃうん♪」

 

 おーよしよし。いつも可愛らしいにゃんこだよ、ホント。

 

「サクラ。申し訳ないですけど、ウラヌスの膝の上で大人しくしてもらえませんか?」

「にゃう?」

 

 小首を傾げるサクラ。そうだよね。意味分かんないよね。

 

「今からウラヌスは絵のモデルをするんですよ。

 で、サクラも一緒にモデルをしてほしくて。

 ウラヌスの膝の上で、動かずにじっとしてほしいんです」

「にゃう……」

 

 不満げな反応。やっぱりか……どうしようかな。

 

「アイシャ……

 難しいと思うよ。だって最大3時間だよ?

 桜が俺とくっついたまま耐えられると思う?」

「そうは言いますけど、普段充電してるじゃないですか」

「それだって嫌々じゃないか。

 必要じゃなかったら、桜だってお断りだと思うけど」

「……」

 

 サクラはウラヌスをじっと見て、一鳴きもしない。うーん……

 

「モタリケさん、3時間って連続ですか?」

「いや。大急ぎならそうするけど、オレも休憩くらいは挟みたいかな。

 3時間もじっとしてるのはキツイだろ?」

「んー。桜を出してなけりゃ耐えられなくもないけど、出しっぱなしだからなぁ……

 流石に休憩は挟んでほしい」

 

 ふむ。長丁場になるけど、その方がよさそうか。

 

「そうですね……

 サクラがどういう反応をするか分かりませんし、まずは1時間で区切りましょうか」

「にゃう?」

「サクラ、1時間ほどウラヌスの膝の上にいてくださいね」

「……」

 

 じっと見つめてくるサクラ。様子を見る限り、複雑な心境のようだ。

 

 ともあれ、まずはやってみますか。

 

 椅子に座るウラヌスのそばへ歩いていき、その膝にサクラを据える。

 

「にゃ」

「……なんだよ?」

 

 サクラはウラヌスの膝の上で立ったまま、座ろうとしない。首を伸ばして、ウラヌスに物言いたげな顔をしてる。

 

「オレにはよく分からないけど、ひょっとして何か見返りを求めてるんじゃないか?」

「にゃ」

「見返り? つってもなぁ……」

 

 モタリケさんとサクラの言葉に、首を傾げるウラヌス。

 

「サクラ。

 後で私達が遊んであげますから、今は座っていてくれませんか?」

「桜、お願い」

 

 シームも加わって、サクラを説得する。サクラは私達を一瞥した後、ウラヌスをじっと見上げる。ダメか……ちょっと強引だもんな。

 

「いいから大人しくしてろよ。

 お前がそうしないと、みんなが迷惑するんだぞ」

「にゃ、にゃ」

「……」

 

 今度はウラヌスが沈黙する。そのまま、しばらく誰も口を利かない。

 

 ──やがて。ウラヌスは息を1つ吐く。

 

「……オマエの言いたいことは薄々分かってるよ。

 でも、俺はその要求を呑めない。それも分かってるだろ?

 とにかく今は勘弁してくれ……

 他のことなら、出来る限り聞いてやるから」

「……」

 

 ウラヌスの言葉を黙って聞くサクラ。お互い見合い続けた後、

 

「……にゃ」

 

 すぃっと、サクラはウラヌスの膝に座り込んだ。白いしっぽをふいっふいっと振った後、大人しくなる。

 

『はぁー……』

 

 一斉に息を吐く一同。無駄に緊張しちゃったよ。

 

 ベルさんが口許に手を当てて、何か言いたげにしてる。けど何も言わない。ヘタなこと言って、サクラのご機嫌そこねたらマズイもんな。

 

「モタリケ、これでいいだろ?」

「ああ、とりあえずそのままじっとしててくれ。

 ポージングは調整させてもらうけど」

「へいへい……

 ほら、みんな。大して面白くないだろ?

 上でくつろいでくればいいじゃん」

「あー……

 でも私、モデルの参考にしたいんですけど」

「えー……」

「あっ、それならウラヌスの髪の毛、ちょっと整えてくれないかな?

 少し乱れてるのが気になって」

「ええ、分かりました」

 

 モタリケさんのお願いを、渡りに船とばかりに快く引き受ける。せっかく整えたのに、確かに乱れてる。……あー、そっか。サクラを呼び出すと、頭上に出るもんな。なら仕方ない。

 

 ウラヌスが座る椅子の後ろへ回り、目につく髪の乱れや跳ねを、手先で直していく。

 

「……そう暗い顔されちゃ、描く気にならないんだけどな。

 今はまだマシだけど」

「暗い顔とか言うなや。気分悪いな。

 具体的にどうしろってんだよ」

「もうちょっと優しい顔をしたらどうです?

 サクラを撫でてあげるとか」

「えぇー?

 なんでこいつなんか、撫でなきゃいけないの?」

「にゃ!」

「ダメですよ。悪ぶってそんなこと言っちゃ。

 ウラヌスは優しい人なんですから、それをサクラにも向けてあげてください。

 お互い、ずっと意地を張っていたら疲れるでしょう?」

「……」

 

 私がウラヌスの頭を撫でてあげると、根負けした様子で、ウラヌスもサクラの背を撫で始める。サクラは不思議そうな顔。ふふ、よしよし。いい子だね。

 

「いいわねぇ……この構図。

 わたし、この絵を描いてほしいんだけど」

「オレもそうしたいけど、流石にな。

 2人ともに負担かけるワケにもいかないし」

「すいません。

 私は私でまた描いてもらいますから」

「ああ、うん。髪の毛はそれくらいでいいよ。助かった。

 おっと、ウラヌスはそのまま撫で続けてくれ」

「は──はぁぁ?」

「表情を崩すな。

 さっきの雰囲気のまま、撫で続けて」

「うぇー……マジかぁ」

 

 ウラヌスから離れ、私も正面から見させてもらう。……うむ、これはいい。にゃんこ姫、にゃんこを愛でるの図。

 

「いつもこんな感じならいいのにね」

「この組み合わせだけは険悪だもんねぇ。アタシとだって仲良かったのに」

「もう少し仲良くしてほしいって、何度もお願いしてるんですけどね」

「やめて3人とも。

 ボロクソに言われながら優しい気分とか維持できないから」

 

 私達が口々に言うと、口許をヒクヒクさせて抗議するウラヌス。ベルさんは顔を逸らし、おかしそうに肩を揺らしてる。

 

「もういいだろ、アイシャ。

 モデルの参考なら、これで充分だと思うけど」

「んー……」

「上に行って休んできなよ。

 ほら、状況が動いた件をまだ話してないし。

 時間もったいないから、ベルに説明してくれると助かる。

 モタリケも、ここで話し始めたら気が散るだろ? 後でベルから聞けばいいんだし」

「……そうだな」

「だよな。──ブック。

 バインダー預けるから、上で話してきてよ」

 

 むー。そこまで言われたら、断る理由が思いつかないな。見物するにしても、ベルさんへの説明を優先させないとマズイか。

 

「ほら、早く。

 説明が終わったら、また見に来てもいいから」

「……分かりました」

「それじゃモリー、わたしも上に行ってるわね」

「ああ、話聞いといてくれ」

 

 

 

 

 

 しばし地下室に、キャンバスに向き合ったモタリケが俺を真剣な目で睨みつけ、鉛筆を走らせる音が響く。

 

 ……見られるってのは、いつまで経っても慣れないんだよな。自然体にしてるだけならまだしも、こんな状態だし。桜もよく我慢してるよ。

 

「──なにか悩んでるってツラだな」

 

 モタリケが唐突に声をかけてきた。流石に表情を崩し、

 

「なんのことだよ。

 ちゃんと、その、優しい顔してるつもりなんだけど」

「表情筋はな。

 形だけ整えて、感情を表に出さないようにしてるだろ?」

「……」

「話くらいなら聞いてやるぞ」

 

 俺は少し考え、溜め息を吐く。

 

「……モタリケに話したいことなんてねーよ」

「嘘吐くなよ。

 相談相手がいなくて、困ってるってツラしてるぞ」

「にゃ」

「ほら、その猫もそう言ってるじゃないか」

「なんでオマエに分かんだよ。

 ……こいつは適当に相槌打ってるだけだ」

「にゃ、にゃ」

「首を振って否定してるな。とても適当には見えねーよ」

 

 桜がしっぽを振って、俺を牽制してくる。ほっとくと、こいつ膝から動きそうだな……。マジか。マジでモタリケなんかに話せっつーのか。

 

「……。

 何をどう言えばいいか、分かんない。

 話せるほど考えがまとまらないから、悩んでるんだよ」

「それこそ適当に雑談のつもりで話せばいいだろ。

 上手く話そうとするから、かえって話しづらいんだ。

 ベルなんて見てみろよ。アイツ思いついたハシから喋ってくるから、話理解するの大変なんだぞ」

「アレは単なるお喋りだろ。

 ……アイシャをナンパしたオマエのことなんか、信用できねーよ」

「ん?

 悩みって、あの子に関係あることなのか?」

「にゃ」

「……」

「ベルじゃないけど、口にした方が考えもまとまるかもしれないだろ。

 独り言のつもりで喋ってみろよ」

「信用できねぇっつってんのに、もう……」

 

 まいったなぁ……。この調子で行ったら、洗いざらい話すハメになりそうだ。こんなの1時間も保たないぞ。

 

 ……なら、もう覚悟決めて自分から喋った方がマシか……

 

「くそ……

 ここだけの話だぞ?

 ぜったい誰にも言うなよ? 特にベルとアイシャはやめてくれ。

 バレたら承知しないからな?」

「ああ。それは約束する」

「…………

 ……

 じゃあ……話すよ。実は──……」

 

 

 

 

 

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