どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百九十二章

 

「へー! それでお姉さんと協力することになったんだ」

「ええ。

 まだウラヌスの方は、信用しきってない感じでしたけど」

 

 ダイニングに戻り、ぶどうジュースを口にしながらベルさんに状況の説明をしていた。ウラヌスがいないから、自然と説明役は私になる。

 

「実のお姉さんなのに、信用できないって大変ねぇ」

「……家族仲って複雑ですからね。

 特にウラヌスの場合、かなり家庭事情が込み入っているようですし」

「ふぅん」

 

 卓上のお菓子を一撮みし、ぽりぽり食べるベルさん。私も1つ貰う。……うむ、これは良いクッキー。ぶどうジュースにも合うなぁ。ぐびぐび。

 

「あ、おかわり要る?」

「アハハ……。貰えます?

 美味しくって、ついつい飲みすぎちゃいまして」

「そうよねー♪

 これってワイン用に作ってるのをジュースにしてるらしいのよ」

「へぇー。そうなんですね」

 

 キッチンに行って戻ってきたベルさんが、ぶどうジュースの入った瓶自体をテーブルに置く。コルク栓を外し、私のカラになったワイングラスにトクトクと注いでくれる。

 

「ありがとうございます」

「いーえ♪

 あなた達もおかわり欲しかったら遠慮なくね♪」

『はーい』

 

 いやはや、すっかりくつろいじゃってるな。苦労してるだろうウラヌスに申し訳ないよ。

 

「そういえばあなた達、今どれくらいカード集まっ──」

「──他プレイヤーがあなたに対して『交信』を使いました──」

 

 ベルさんの言葉を遮るアナウンス。テーブルに置いてたウラヌスのバインダーからだ。誰だろ?

 

『やっほー。さっくらー♪』

 

 ああぁ……。ユリさんから来ちゃった。どうしよ、これはマズイな。

 

「あの……ごめんなさいユリさん。

 今、ウラヌスはここにいないんですよ」

『あれ? アイシャちゃんか。

 どうしていないの?』

「ウラヌスは立て込んでまして、私達が一時的にバインダーを預かってるんです。

 緊急の用件でしたら取り次ぎますけど」

『うぅん、そういうわけじゃないわ。

 カードがまた集まったから、伝えようと思って。

 そっちのカードも、何か増えてるなら教えてほしいし』

 

 ふぅむ……どうしよかな。ユリさんのカード集めに障るといけないし、明日に回すのもよくないか。

 

『……周りに今、あなた達以外に誰かいる?』

 

 気づいたか。ベルさんも思案顔をしている。

 

「ええ、います」

『あらら、タイミングが悪かったのね。

 どうする? 掛け直した方がいいならそうするけど』

「……」

 

 返事を躊躇う。ベルさんが目を閉じ、真剣な表情で考え込んでいる。

 

「──いいわ。ここに呼んで」

「っ!?

 ……いいんですか、ホントに?」

「ええ、構わないわ」

『……あなたは?』

「自己紹介してもいいけど、後にしましょ。

 アントキバまで来てほしいんだけど、都合はいい?」

『……。10分もらえれば』

 

 ベルさん、踏み込んできたな。こうなったら仕方ないか。

 

「ではユリさん。10分後、移動スペルで私に向かって飛んできてください。

 もし『磁力』や『同行』がなければ──」

『大丈夫よ、直接飛べるわ。それじゃ10分後に』

「はい」

 

 交信が切れる。さぁて、ウラヌスに伝えないとヤバイな。

 

「さて、お出迎えの準備しないとね。

 気を散らしてもいけないし、地下の2人には内緒にしましょ♪」

 

 え。マジか。私、『周』もしてもらってないんだけど。ユリさんがその気になったら、即アウトだぞ。……まぁユリさんが、ウラヌスの不興を買うようなことするとは思えないけどさ。

 

「今のが話してたお姉さんよね?」

「そうです。

 ……多分、ウラヌスより強いですよ?」

「頼もしいじゃない♪

 あの子が信用しきれないのは、いざって時に抑えられないかもしれないからでしょ?」

「……それもあるでしょうね」

「なら、不安を取り除く意味でもしっかり仲間に引き込みましょ♪

 交渉はわたしがしてあげるから♪」

 

 お、おぅ……。ベルさん自信満々だけど、大丈夫か……? あとでウラヌス、怒らないかなぁ……

 いやまぁ、ベルさんは盗賊団の団長やってたわけだし、ユリさんも妙にチョロイところあるから、懐柔できそうな気はするけどさ。

 

「アイシャ、アタシがしっかり守ってあげるから」

 

 メレオロンがそうフォローしてくる。……仕方ない。その辺はみんなに任せるとするか。あーあ、早く念復活しないかな。こういう時、ホントもどかしいよ。

 

 

 

 約束の時間になる前、モタリケさん宅を出て街を少し歩く。当然ベルさんやメレオロン、シームも一緒だ。

 全員が『絶』状態を維持して、家からある程度離れた場所で立ち止まり、待つ。あまり人目につかない場所。会ってるところを誰にも見られないように警戒している。

 

 飛翔音。まもなく夜闇に黒髪をなびかせ、ユリさんが現れた。またスカート短いな……

 

「お待たせ」

「いえ、時間通りですよ。ユリさん」

「お招きいただいたからねー。

 えっと、アイシャちゃんにシーム君。それと、め……め……」

「メレオロン」

「そうそう、メレ……オロン。

 それとあなたが、さっきお誘いしてくれた子?」

「初めまして。ベルと申します♪」

「私はユリよ。よろしく。

 ところで、ここで立ち話するの?」

「誰かに見られたくないから、わたしの家まで来てほしいわ。

 あなたがイヤでなければ」

「い……家?

 宿じゃなくて?」

 

 目を丸くして聞き返すユリさん。あー、うん。確かにおかしいよね……

 

「そ。イ・エ♪

 わたしとモリーの愛の巣で、楽しくお喋りしましょ♪」

 

 今度こそポカーンとするユリさん。やがて、私に説明を求めるような目を向ける。

 

「あはは……

 えっとですね。このベルさんと、モタリケさんってプレイヤーがいるんですけど。

 お2人はゲーム内で結婚されたんですよ。これから向かうのは、そのお住まいです」

 

「は……?

 ハァァァァァァァァァァァーーーーッッ!?」

 

 ユリさんが、私達に見せたことない驚き方をする。ですよねー。ビビりますよねー。

 

 妙に上機嫌なベルさんが、

 

「まぁまぁ、そんな大声出さず♪

 案内するから付いてきてね。それと、基本的に『絶』でよろしく♪」

「あ、はい……」

 

 早速ベルさん、主導権握ったな。……見た目がワリカシ子供なだけに、これで人妻とかギャップすごいよな……

 

 

 

 モタリケさん宅にユリさんを連れて戻ってきた私達。そのままダイニングへ案内され、テーブルに着いてからもそわそわしてるユリさん。

 

「晩は何か食べた?」

「えっと……実はまだ」

「なら、ちょうどいいわ♪

 お肉がまだ残ってたのよ。お好みの焼き加減は?」

「え?

 あああ、ミディアムレアで……」

「ウフフ。みんなと同じね♪

 じゃあ少し待っててね」

 

 キッチンへ入るベルさん。うぉぉい、私達で話繋げってか。そのつもりなら、予め打ち合わせぐらいしてよ……

 

 むしろ私より不安そうなユリさんが、こちらへ顔を寄せ、

 

「その……ホントなの?

 ゲームで結婚とか。イベントとかじゃなくて?」

「まあ、結婚イベントとかは無いと思います。

 ゲーム内で結婚式は挙げられたそうですけど」

「きょ、挙式……!?

 え、なにそれ。どういうこと?」

「ある街の教会で、結婚式を挙げられた、ということらしいです。

 私達がゲームに来る前のことだったんで話を聞いただけですけど、ウラヌスがお祝いに行ったらしいですよ」

「うぇぇぇーっ!?

 なんでアイツ、結婚式のお祝いとか行ってんのよ……。そんなキャラじゃないでしょ」

 

 うん。それは私もそう思うけど。

 

「本人は腐れ縁とか、からかうつもりでとか言ってましたね。

 なんだかんだで付き合い良いんだと思いますよ」

「あー、うん。

 それは知ってるわ。……でもないか。そこまで社交的だなんて知らなかったわ」

 

 裏の世界に生きてるユリさんにしてみれば、ウラヌスが社会に溶け込んで生きてる姿はあまり想像できないのかもな。プロハンターって、ワリとグレーだけど……

 

 

 

 

 

 ──あの夜のことを話し終えた俺は、力なく俯いたままだった。

 

 俺が話しだしてから、モタリケの鉛筆は止まっていた。膝の上に乗った桜は、俺に同情するような表情で、器用に俺の腕をしっぽでさすってくる。

 

 こいつですら心配するんだから、今の俺はヒドイ状態なんだろな……

 

「まぁ……事情は分かった」

「そうかよ……

 じゃあ教えてくれ。俺はどうしたらいい?」

「オマエはどうしたいんだ?」

「……それが分からないから聞いてるんだよ」

 

 甚だ(はなは )馬鹿馬鹿しいが、いちおうコイツも既婚者だ。色恋沙汰について、適切に助言してくれるかもと淡く期待したけど……

 

「話を整理するぞ。

 あの子は多分、オマエのことが好きなんだな?」

「……酒で酔った勢いありきだし、覚えてもいなかったけどな。

 ちゃんと確認しない限り、本当にそうなのか分からないよ。……好意は持ってくれてるんだろうけど」

「まぁそれはいい。

 で、オマエはあの子のことが好きなんだな?」

「……。

 嫌いじゃない」

「そこはハッキリしろ」

「…………

 ……好きだよ。

 でも……同性の友達としてなのか、異性としてかは分からない」

 

 モタリケが3枚目ヅラで、真面目に考え込んでいる。……何で俺、こいつにこんなこと相談してんだよ。またアホやらかした……

 

「……ベルの話だけどな。

 ゲームの中までオレのこと追っかけてきたクセに、ゲーム内でようやくオレを見つけた直後は、すげー険悪だったんだよ。

 よくも逃げやがったなとか、めちゃめちゃ切れてて。正直、殺されるかと思った」

「……へぇ」

 

 あのベルがねぇ。

 

「でも、クチでボロクソ言うワリに暴力は振るわないし、ずっとオレにくっついてくるし。

 なんで追っかけてきたか尋ねても、まともに答えないし。

 いったい何なのかサッパリだった」

「……照れ隠しじゃね?」

「後から考えれば、そうだったんだろうけどな。

 でも何にも言わず不機嫌な態度で四六時中付け回されちゃ、そんなことされてるオレが気づけるわけないだろ?」

 

 うーん……まぁそうかもな。

 

「オレも怖くて、必死でベルから逃げ回ってたんだけどさ。

 ある日、どっから手に入れたか薬瓶1つ持ってオレの前に現れたんだよ」

「……。その薬瓶って」

「魔女の若返り薬。

 元々のベルは、クールな姉御肌だったからな。色恋沙汰なんか興味ねー、みたいな空気まとってて、それがまた仲間内から慕われる理由でもあったんだけど。

 そのベルが、オレの前でいきなり若返ったんだよ。薬飲んで。今の子供みたいな年齢になって。

 で、あの軽いノリで告白された。ずっと前から好きだったみたい、いなくなって初めて気づいた、一緒になってって。

 ……オレ何が起こったか、ぜんっぜん分かんなかったよ」

 

 うん。それは俺にも分からんな。同じ立場ならパニくる自信がある。

 

「……お前はそれ、どう答えたんだ?」

「考える時間をくれって返した。いくらなんでも性急過ぎて混乱したから。

 今の状況を見れば、後でどう返事したか想像はつくだろ。

 ……参考になったか?」

「その話の、どこをどう参考にすりゃいいんだ」

 

 ふざけんなとしか言えないんだが。肝心なトコぶん投げやがったし。

 

「オレが最終的にどう答えたかは問題じゃない。

 要はオマエ、相手に突然迫られて混乱してるんだよ。

 そんな状態ですぐ答えが出るわけないし、すぐ答えるべきでもないって言ってるんだ」

「……」

 

 桜が物思わしげに、俺とモタリケを交互に見る。……なんでか知らんが、こいつはすぐ答えろって考えだろうしな。違う意見を聞かされて、迷いが出たんだろう。

 

「忘れてるなら、これ幸いじゃないか。

 待たせずに済むわけだから、ゆっくり答えを出せばいい」

「……そういうわけにもいかねーよ。

 だって俺、そのうちホルモンクッキーで女になるつもりなんだから」

「だけどアレは、ずっと性転換してるわけじゃないだろ?」

「1個で24時間だからな。

 でも俺はあのアイテムを研究して、好きなだけ性転換してられるように改造する気だ。そうなったら、もう男に戻らない可能性もある」

「……そんなに男でいるのがイヤか?」

「お前も散々、俺のことイジくってんじゃねーか……

 女になってから絵のモデルになれっつーなら理解できるけど、なんで今の俺の絵なんか描くんだよ」

「絵を描くだけの価値があるからに決まってるだろ。

 オレは前に描いた絵、気に入ってるぞ」

 

 ぐぅぅぅ……。恥ずかしいっつってんだろ、くそ! 褒められても困るんだよ!

 

「……ってことは、お前は俺に性転換するなって言いたいのか?」

「いや、好きにすればいいと思うが。

 女になったオマエも描きたいと思うかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 人間は変わるもんだ。今いいと思ったものを描ければ、オレは満足だよ」

「……さようで」

 

 結局、自分で考えて答えを出せってことか。……まいったなぁ。

 

「さ、そろそろ表情を直してくれ。

 でないとモデルが長引くぞ」

「へーいへい……」

 

 先ほどよりは幾分か自然に、優しい表情を浮かべた……気がする。鏡がないから、良く分からんけど。

 桜は穏やかそうな雰囲気で、撫でられるままにされている。自分で自分のこと撫でてるみたいで、どうにも複雑なんだけどな。文字通りかもしれないけど。

 

 

 

 

 

 美味しそうにステーキを頬張るユリさん。格好がやや色気よりなのもあって、あんまりクノイチ感はない。

 

 ん? そういえば……

 

 ハンター試験で入ったトリックタワーで、ゴン達と同行したハンゾーさんが、出された食事に一切手を付けなかったって聞いたような。忍の習性とかなんとか。

 

「あの、ユリさん。つかぬことをお伺いしたいんですが」

「あむあむあむ……

 ん、なに?」

「以前聞いた話で、忍者は習性として他人に出された飲食物は摂らないとか……」

 

 そこまで言うと、ユリさんは意地悪そうにニヤニヤした。

 

「んふふ。そう聞くと、いかにもプロの忍者っぽいでしょ?

 逆よ。そういう忍者は、毒物耐性が不足してるだけ。未熟者が言い訳によく使うやつよ、それ。忍者って一般人のフリしなきゃいけないこともあるのに、そんなことしたら目立つじゃない」

 

 うわー。そうなんだ……ハンゾーェェェ。

 

 これがユリさんから聞いただけなら、単に食べたいから適当なこと言ってるだけかもと疑ったけど、ゾルディック家も毒物に耐性付けまくってたからな。ユリさんが正しそうだ。

 試験の時、ハンゾーさんは念能力者じゃなかったから毒耐性付けるのは難しかったかもしれないけど、同じ条件のキルアはバッチリだったからな……言い訳はできないと思う。

 

「ふぅん……

 ──っていうか、忍者?」

 

 あ、ベルさんに忍者うんぬんの説明してなかった。

 

「もしかしてアレ?

 あなたとウラヌスって、忍びの里の出身?」

「ええ、そうよ。

 正確には、アイツは忍じゃないけど。

 私はれっきとした忍者。実際に任務もこなしてるわ」

「そうなんだぁ。

 ……言われてみれば、ウラヌスもそんな感じかも。へぇー。

 わたしも忍者は初見じゃないのよ。昔やってた仕事で手を組んだこともあるし」

「仕事って?」

 

 ベルさんが流石に口を噤む。そりゃね。昔、盗賊団やってましたとかペラペラ言うもんじゃない。ここに忍者だって言っちゃってる人がいるけど。他にもハンゾーさんとか……少しは忍べよ。

 

「私もアイシャちゃんに釣られてうっかり忍者ってバラしちゃったんだし、教えてよ。

 ……こう見えて、人を殺した経験もあるんだから」

 

 あ、はい。私が何気なく聞いたからですね。……ユリさん、仕事でする殺人については、良く思ってないんだな。

 

「……なら、いっか。

 わたしは元盗賊団の頭領よ。盗みだけで、殺人はナシだけど」

「へぇぇぇ。

 ……その若さで?」

「ううん。

 そう思ってもらえるのは嬉しいけど、わたし若返ってるから」

「あっ、そっか!

 このゲームには若返り薬があるのよね。なるほど、そういうこと」

 

 うんうん頷いた後、食事を再開するユリさん。……今のところ、交流は上手くいってるかな。肝心なのはこれからだけど……

 

 

 

 

 

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