どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百九十四章

 

 攻略話が長引いて、流石にモタリケさんがイライラしだしたので、再び地下室へ移動。当然のようにユリさんも付いてくる。

 

「ぅわあーっ。ぅわあー……」

「……」

 

 前に描いたウラヌスの絵をまじまじと眺めるユリさん。大人しげで恥ずかしそうな絵のウラヌスと、顔を両手で覆ってリアル恥ずかしがってるウラヌスとの対比がまた面白い。にやにやしちゃうよ。

 

「えー? これ、マジでアンタなの?」

「……他に誰がいるってんだ」

「いやぁー。ぅわー……

 美少女すぎワロタ」

「ぅっさいわ、アホぉ!」

 

 アッハハハ。実の姉にまでこう言われるんだから、よっぽどだよね。

 

「うわー……

 この絵、すっごぃ欲しい。いくら出せばいい?」

「譲るつもりはないよ。前にも聞かれたけど」

 

 モタリケさんが、ユリさんのおねだりをシャットアウト。やっぱりダメか。

 

「えー。欲しい欲しい欲しぃー」

「なんで姉貴がンなもん欲しがんだよ!

 つか、どこに飾る気だ」

「もちろん実家よ?」

「マジでやめろや。

 ……飾りやがったら、二度と敷居またがねぇからな?」

 

 半ギレのウラヌス。そりゃ、実家に飾られるのはイヤだろうね……

 

「複製なら考えてもいいんだけどな」

「待てや、モタリケ。今その話をするな」

「え、複製?

 それでも全然いいかも。クオリティは大丈夫?」

「複製は得意だからね……

 まぁ先客がいるけど」

 

 私をチラリと見るモタリケさん。不思議そうな顔で私を見るユリさん。ぉ、おう。何か飛び火してきたぞ。

 

「あなたも欲しいの、この絵?」

「え、ええ……まぁ」

「ふぅん」

 

 ふーん、て。いや、何だと思われたんだ。詮索だけして話やめないでほしいんだけど。

 

 

 

 地下室から一度出て、サクラを連れて戻ってくるウラヌス。溜め息混じりに椅子へ座り、サクラを膝の上に置く。

 

「なるほどねぇ。こっちも捨てがたいわー」

「えらそーに品評すんじゃねーよ。

 何様だ」

「お姉さまよ」

「表情が全然違うぞ。ちゃんとしてくれ」

「ムカつくわ、コイツラー」

 

 そう吐き捨てた後、一度諦めたような顔をしてから、優しい表情でサクラを撫で始めるウラヌス。ユリさんがそれを興味深げに眺めながら、

 

「なるほど……これはまさにダブル桜って感じね。

 芸術的だわー」

「おかしなこと言うな」

「にしても、その子ホント賢いわよねぇ。すっごい大人しいじゃない♪」

「いちおう説得したからな。

 多分、今日1日は大丈夫だと思う」

「にゃん」

「やっぱり賢いわー♪

 ……にしても、あなた桜って名前だったの?」

「にゃぅ?」

 

 ベルさんがそこに触れる。彼女にあまり詳しい話はしてないんだけど、ウラヌスは困惑する気配。サクラもだけど。

 

「昔の名前だよ……

 俺はもうそんな名前じゃない」

「そうなの?

 お姉さん的にはどう?」

「私にとっては、ずっと桜かな……

 本人には拒絶されちゃってるけど」

「ふにゃ?」

「ややこしいから、その名前で呼ぶのはやめてほしいのが本音だよ。

 いくら昔恋しさでそう呼ばれても、俺は拒絶し続けるから」

「寂しいなぁ……」

 

 ユリさんが言葉通りの苦笑を浮かべた。

 

 

 

 また少し乱れていたウラヌスの髪を、私とユリさんの2人がかりでセットした後、邪魔してもいけないので私達はダイニングに戻る。

 

「アイシャちゃん、結構慣れてたわね」

「え?」

「アイツの髪いじるの」

「あ、ええ。そうですね……

 最近ちょっといじらせてもらってて。さっきも絵を描き始める前に整えてたんで」

「ふぅん。

 なんかアイツ、髪の毛触られて困ってたけど、ちょっと嬉しそうにしてたしさ。

 私以外が触っても、こんな顔するんだなって」

 

 ……。妙に探りを入れられてる気が。周りはクチ挟んでくれないし、結構キツイぞ。

 

 

 

 何とか誤魔化すようにゲーム攻略へと話を逸らし、ベルさんのフォローもあって今後の相談が始まる。

 

 とは言え、ウラヌスが居ないと決まらないことも多い。次のモデルの日程なんて私には決められないし、明日どこに行くかも定まらない。

 まだ訪れてない都市は5つ。そこへ行くかもしれないし、豊作の樹を取りにグルセルへ行くことも考えられる。スノーフレイやソルロンド、ドリアスにも用が残ってる。

 メレオロンとシームの実戦修行もあるから、難しい場所を丸々ユリさんに任せてしまうのも問題がある。とは言え、カード集めは急いだ方がいい。

 

 その辺のバランス感覚が、私には足りないんだよな……。ウラヌスに頼りっぱなしじゃいけないと思いつつ、結局頼ってしまうのはそういう理由だ。そもそも情報が足りないというか、覚えてない私も悪いんだけど……

 

 行く場所が定まらないと荷物整理もおぼつかず、だらだらと雑談をしてしまってるうち、またウラヌスとモタリケさんがダイニングに戻ってきた。

 

「……姉貴の顔を見る度、ゲンナリするんだよな」

「ちょっとやめなさい、そういう言い方。

 私はアンタの顔見ると元気になるのに」

「それも大概な言い草だからな?」

 

 相変わらず軽口を叩き合う姉弟。世間一般の姉弟って皆こんな感じなのか? 私の時はどうだったっけなぁ……昔すぎて覚えてないぞ。

 

「仲良いわよね、あなた達♪

 なんだか懐かしいわ」

「あなたも弟とか居るの?」

「弟は居ないけど、姉と妹は居たわね。

 あなた達は2人姉弟?」

「そうよ。後は父と母の、4人家族」

 

 微妙な顔をするウラヌス。まぁ複雑だろうからね。できれば家族のことは考えたくないんだろう。気の毒だし、話題を逸らしておくか。

 

「それにしても、気がつけばもう11時ですね。

 まだ絵は完成しないんですか?」

 

 モタリケさんに尋ねると、彼は頷きながら、

 

「絵の完成自体はもっとかかるけど、モデルは後30分ぐらいしてほしいかな。

 ……悪いね、こんな遅くまで付き合わせて」

「いえ、私達も話しこんでしまってますから」

「つかモタリケ、俺にこそ謝れよ……」

「はいはい、悪かったな。

 気合が入りすぎて、なかなか筆が思うように進まないんだよ。……休憩も長いし」

「そうだよ!

 そもそも姉貴が来たから、こんなに長引いてんじゃねーか」

「え?

 そんなこと言われても、私はお呼ばれして来ただけよ」

「あれ?

 もしかして、わたしが悪いの?」

「ベルのお喋りグセが災いしてるんだろ。

 いつも言ってるじゃないか。もう少し話は簡潔にだな」

「えー。

 だぁって、お喋り楽しいんだもーん♪」

 

 ふふ。私も楽しんじゃってるしな。ベルさんの気持ちは理解できるよ。

 

 

 

 ウラヌスが居る間に攻略をどうするかという話を再開したけど、やはり悩ましい状況のようだ。

 

「姉貴をどうするか、まだ決めてないしな……」

「優柔不断ねぇ」

「簡単に決めるこっちゃねーよ。

 いずれにしろ、もう少し協力した方がいいのは事実だけどな」

 

 あまり悠長に構えてられないからね。他のプレイヤーのカード集めが一気に進むことも考えられるし、ウラヌスのように私達の誰かが突然危機的状況になることだって有り得る。

 それらに備えるなら、現状ユリさんに頼るのが最善手だろう。もしユリさんが裏切れば大変なことになるけど……

 

「とにかく、明日どうするかは決めちまわないとな」

「次のモデルの日程も決めてほしいんだけどな?」

「あーもー。クソ忙しいのは話聞いてんだから分かるだろ。

 また1週間ぐらい空けてくれよ」

「1週間だな? 約束だぞ」

「……」

 

 ウラヌス、勝手に決めちゃったよ。次は私の番だと思うんだけど……ま、いっか。

 

「そういや姉貴。

 もしかして活動の昼夜引っくり返ってるんじゃないか?」

「ん? 分かった?

 例の夜盗狩りしてた時から、夜動いてる感じよ」

「やっぱそっか。

 ……夜イベントにそろそろ手を出すのもアリかなって」

 

 ふむ。ということは、だ。

 

「私達の活動時間を昼夜逆転させるんですか?」

「あまり健康的じゃないけどね。

 ただ、そういう訓練にもなるから、やっといた方がいいのは間違いない」

 

 確かに。特にメレオロンとシームは、夜間逃亡しなければいけない事態が容易に起こり得る。おそらく今までにも経験あるだろうしな。

 私も最近夜型の生活からは縁遠いし……久々にそういう修行もした方がいいか。夜襲に対する備えが甘い気はしてたからね。

 

 黙りこんでいたシームが首を傾げ、

 

「夜にもイベントあるんだよね?」

「ある。数は多くないけど、指定ポケットカードもね。

 それ目当てに、夜専門に動くプレイヤーもいるぐらいだし。

 夜間は動きたがらないプレイヤーも多いから、交渉材料になるカードを集めやすいっていう利点もある」

「そういえば、闇のヒスイも夜限定でしたっけ?」

「うん、その通り。

 今の俺達が取りに行くのは荷が重いけど……」

「私が取りに行こっか?」

「まぁ行けそうな時に頼むよ。

 姉貴なら事前情報もってりゃ大丈夫だろうけど、ランクAにしちゃキツイカードだし」

 

 ……いちおう聞いといた方がいいか。気が引けるけど。

 

「その……

 カード化限度枚数まで集めなくてもいいですかね?」

「んー。アイシャが前にやってたヤツだよね?

 闇のヒスイはゲイン待ち対策しやすいけど、流石に15枚は多いかな……」

「そうですね……

 フリーポケットをかなり圧迫しますから。そうでなくても、繰り返し自力で集めないといけませんし」

「えっ!?

 ……私、15回も同じカード取るの?」

「いや、『複製』があれば、その枚数分は回数を減らせるけどな。

 でも大量に複製すると『看破』で一気に消し飛んで涙目も有り得るから、推奨はしない。独占なんてしてたら、カードを破壊してくれって言ってるようなもんだし」

 

 そうそう。それが怖いから、独占してる浮遊石はオリジナルカードを残してある。

 

「……『看破』って、首飾りで防げたっけ?」

「防げない。だから『城門』は欠かすなよ?

 切れたらシャレにならないからな」

「はいはい。面倒ねぇ……」

「そういうゲームだもん、しゃーない。

 むしろ聖騎士1つで、攻撃スペルがほとんど意味なくなってる方が問題だよ」

「そう? 楽でいいじゃない。

 スペルでカードの取り合いになったら面倒でしょ?」

「元々その面倒なゲームデザインのはずなんだけどな。

 聖騎士が取りやす過ぎるせいで、主な攻撃スペルがゲーム的に意味ないのはダメだろ。

 ほとんど攻撃スペルが効かないせいで、穏やかじゃないプレイヤー狩りが横行してたんだから、はっきり言ってバランス取り損ねてるよ。指定ポケットカードで攻撃スペル使用できるヤツまで意味なくなってるし……

 俺はもうちょっとやりようがあったと思う」

 

 頬杖をついて、ぐちぐち言うウラヌス。まぁ言いたいことは分かる。スペルを独占する作戦を取っていたハメ組も、聖騎士の首飾りのせいで『徴収』に頼らざるを得なかったんだろうしな。

 

 私が聞きながらうんうん頷いていると、ウラヌスが私に顔を向け、

 

「アイシャもそう思うでしょ?」

「え? ええ……そうですね。

 でもウラヌス、文句言ってるワリにグリードアイランド、すごい好きですよね?」

「ぅえ? あ、えっ……と」

 

 そう返されると思わなかったらしく、顔を赤らめて狼狽するウラヌス。思わず笑う場の面々。まったく、可愛らしいヒトだよ。

 

 

 

 どうするか考えとくよ──と言い残し、ウラヌスはモタリケさんと一緒に地下室へ。

 

 モタリケさんが直前に淹れてくれた珈琲をクチにしながら、私達もどう攻略したものか考えてみる。

 

「……ユリさんは帰らなくて大丈夫ですか?」

「あの子が結論出さないうちは、動けないもの。

 私はこれから寝ずにカード集めするつもりだし」

 

 そっか。ウラヌスが決めないことには、確かに動けないな。

 

「あなた達こそ大丈夫? もう遅いけど」

 

 ベルさんがやや心配そうに尋ねてくる。

 

「ウラヌス置いて帰れないもん」

「ま、日が変わるまでぐらいなら大丈夫でしょ」

「私達も攻略方針が決まらないと、休みづらいですからね。

 昼夜を逆転させるなら尚更ですし」

「あなた達も大変ねぇ。

 協力できることがあったら遠慮なく言ってね? 夜、荷物の出し入れしたいこともあるだろうから」

 

 うぅむ。ベルさんのご厚意に甘えるのは心苦しいけど、昼夜逆転させて活動するなら、そうも言ってられないか。

 

「……私の荷物って、ここに預けちゃダメかな?」

 

 ユリさんがそう尋ねる。私が返答しかねていると、ベルさんは少し考えるような顔で、

 

「わたしは構わないけど、ウラヌスに確認した方がいいんじゃない?

 預かる量にも限界があるから、この子達の分が減っちゃうかもしれないし」

「ああ……確かにそうね。

 相談はしてみるけど、あまり嵩張るモノは預けない方が良さそうね。いつでも出し入れできるわけじゃないし」

 

 んー。いちおう提案はしておくか……

 

「ユリさん1人なら、使えるかもしれないアイテムがありますよ」

「え? どんなの?」

「隠れ家不動産って言うんですけど……」

「あ、ボク預かってるから見せるね。

 ブック」

 

 シームがバインダーを出し、収まってるページを開いてユリさんへ差し出す。

 

「ふぅん……

 ふーん、ふーん。なるほど、そういう……」

「どうです?」

「……使える気もするけど、部屋のことを喋れないのが厄介ね。

 荷物を部屋に置いてるとか、そういうことも言えないわけでしょ?」

「だと思います。

 ……その部屋にいる時、誰かが移動スペルで飛んできてもダメらしいです」

「あー……

 ちょーっと使いにくいかなぁ。

 ていうか、移動スペルってほんと厄介ねぇ。隠れ家も作れないじゃない」

「ハメ組さん達は、アジトに隠れてたそうですけどね」

「バレたら移動する前提ね……

 荷物を大量に置いとけないし、バレる度に荷物を運び出さなきゃいけないから、現実的じゃないかなー」

「いきなり移動スペルで飛んで来るプレイヤーって、敵対的なことが多いけどね。

 普通、事前に『交信』で会う約束をしてから来るもの。相手の状況を完全無視して突然スペルで飛んでいったら、喧嘩売ってるのと同じだもん」

「やっぱり?

 みんなどうしてるんだろ、とは思ってたけど。『衝突』みたいなスペルもあるし」

「アレは直接交渉するつもりだったとしても相手を必要以上に警戒させちゃうから、使う人はあんまり居ないかな。

 わざわざ敵対したがるヒトは少ないから、そこまで警戒することはないかもね♪

 指定ポケットカードをたくさん持ってたりしたら、どうなるか分からないけど」

 

 だよなぁ……。モタリケさんやベルさんみたいに攻略を諦めてないと、とてもゲームに居付こうなんて思えないよ。全然のんびりできないもん。

 

 

 

 きっかり30分して、くたびれた顔のウラヌス達が戻ってきた。

 

「はぁぁぁ……お待たせー。

 よーやく終わったよ……」

「にゃ」

「お疲れ様でした」

「ウラヌス、お疲れ! 桜ちょーだい♪」

「シーム……

 まぁ知ってた」

 

 諦め顔でサクラを差し出すウラヌス。ふふ、そう来るのが分かってたから、出したままだったんだろうな。受け取り、抱っこして頬ずりするシーム。

 

「さっくらー♪ お疲れ」

「にゃうん」

「悪かったね、みんな待たせて。

 これからどうするんだ?」

 

 やや目をしょぼしょぼさせて、モタリケさんが尋ねてくる。このヒトもかなり消耗したんだろうな。疲労の色が濃い。

 

「モリーもお疲れ様♪ 先に休んでてもいいわよ?

 話ならわたしが聞いておくし♪」

「……長引くようなら、そうするよ。

 なんとなく、任せておくと怖い気がする」

 

 ですよねー。ベルさん、どんどん話決めてっちゃうからな。

 

「アンタの答え待ちだったわけだけど、どうするの?」

 

 ユリさんが小首を傾げて、ウラヌスに尋ねる。ウラヌスは悩むような素振りを見せ、

 

「まぁ……大体予想はできてただろ?

 とりあえず一晩だけ、一緒に行動しよう。ゲーム攻略の協力をしてほしい。

 その後のことは、また改めて考えるよ。状況次第にしたい」

「玉虫色の回答ねぇ……

 ま、いいわ。で、具体的には?」

「明日どうするかって話だわな。つか、もう日が変わりそうだけど。

 姉貴はこのあと動くんだろ?」

「アンタの方針を聞いて、それに支障が出ない範囲で動くわ」

「そうしてくれると助かる。

 姉貴と一緒に行動してるところを出来るだけ見られたくないから、攻略は夜。

 明日の夜、グルセルで豊作の樹をゲットしてから、ムドラに行こうと思う」

「ムドラ?」

「廃墟都市ムドラ。

 お化け屋敷とか、幽霊屋敷が集合したような都市だよ」

「にゃ?」

 

 ビクンと反応するメレオロンとシーム。いよいよ来ちゃったか……そういうホラー系もゲームのド定番だからなぁ。

 

「ムドラなんて都市、アンタから貰った情報にはなかったんだけど?」

 

 ユリさんの言葉に、ウラヌスは軽く肩をすくめ、

 

「ランクSは1枚もないからな。もうちょっとしたら俺達で集めるつもりだったし。

 あと枚数が多くて、そこそこ時間がかかるのも問題。つっても必要なカードもあるから、あんまり後回しも良くないんだよな」

「5枚でしたっけ?」

「うーん。ムドラで取れる指定ポケットカードは、そう。

 ただムドラから南へ行ったところにある館でも更に1枚取れるから、実質6枚かな」

 

 多いな……まぁランクSがないなら妥当かもしれないけど。

 

「とにかくムドラは安全地帯が少ないから、全体的に入手難度が高いとも言える。

 準備と情報が充分なら、そこまでビビんなくていいけど。……分かった、シーム?」

「う、うん……」

「にゃぅ」

「すっかり怖がってるじゃない。

 ホントに連れてくの?」

「……そういう訓練も兼ねてるしな」

 

 より嫌そうな顔をするシーム。かわいそうだけど、その辺りは私も同感だな。対峙した念能力者が、視覚や聴覚に恐怖を訴えてくる能力を使ってこない保証はない。そういったモノに全く免疫がないのはマズイだろう。

 

「ねぇねぇ。わたしもグルセルには行きたいんだけど?

 おっ買い物♪」

 

 おっと。そういえばベルさん、そんなこと言ってたな。どうしよ。

 

「んー。そうだなー……

 じゃあ夕方ぐらいに俺達とベルが先行してグルセルで買い物、夜になったら姉貴と合流かな。グルセルで用が片付いたらベルと別れて、ムドラでいいと思う」

「もうちょっと余裕見といた方がいいぞ。

 こいつ、買い物おっせーから」

「モリー。言い方」

「……じゃあ夕方前な。なに買うか予め決めとけよ。

 無駄に歩き回らされて疲れるわけにゃいかないんだから」

「はーい♪」

「ベル、言っとくけどオレは行かないぞ?

 絵の方を進めたいからな」

「分かってるってば♪」

 

 モタリケさんは行かない、と。……どんな絵の仕上がりになるか、今から楽しみだな。

 

 ウラヌスは私達を見回しながら、

 

「明日、朝起きたらすぐに修行開始しようと思う。

 で、昼にメシ食ったら夕方前まで昼寝。

 そうやって睡眠時間をズラしたら、夜から攻略開始。いい?」

「分かりました」

「アタシもオッケーよ」

「シームは?」

「……ん。わかった」

「にゃん」

 

 修行時間はグッと短くなっちゃうけど、その分ゲーム攻略に力を割くわけだから、仕方ないか。昼夜逆転させないといけないから、昼寝したくなるぐらい明日はキツめに絞るとしよう。

 

 

 

 すっかりお世話になった夫婦にお礼と別れを告げ、モタリケさんの家を後にした私達は、アントキバの街並みを少し散歩する。

 

「アンタもちゃっかりしてるわよね」

「なにがだよ」

「ほら。なんだかんだで、力を貸してくれるヒト見つけてるじゃない。

 1人でなんでもしたがってたクセにさ」

「……今でも1人でやれるならやりたいけどな。

 ま、このゲームに関しちゃ無理って話さ」

 

 夜闇の中、しみじみと話す姉弟。……ユリさんにとって、今も貴重な時間なんだろうな。

 

「さて。名残惜しいけど、いったんお別れね。

 夕方また会いましょ」

「ぉわっと!? 姉貴、ソレやめろっての!」

 

 ユリさんが仕掛けた3度目のチューは、回避するウラヌス。……いま、クチ狙ってたっぽいしな。流石にそれは避けるよね。

 

「アハっ、可愛いわねホント。

 それじゃみんな、また明日ね。ブック」

 

 私達に手を振りながら、バインダーを出すユリさん。カードを1枚手にし、

 

「──『再来/リターン』オン。マサドラへ」

 

 夜空にユリさんが舞う。それを見送った後、ウラヌスは嘆息しながらバインダーを出し、

 

「まったく、散々だったよ……」

「ふふ、お疲れ様でしたね。

 これでしばらくはモデルしなくて済むわけですし、いいじゃないですか」

「またあるかと思うだけで、ぞっとするよ……

 それに俺はモデルしなくても、桜は出さなきゃいけないっぽいし……」

 

 あー。それはそうだろうな。なんか、誰かがモデルする度にサクラを要求される流れになってたかも。そうすると、オーラ的な負担はどうしても避けられないか。

 

「次は私でしょうね。

 サクラを撫で撫でするのが楽しみですよ」

「どうせすぐ飽きるよ……」

 

 ひどいこと言うなぁ。あんなにプニプニなら、いつまでだって愛でられる自信があるぞ。

 

「それにしてもアレねぇ。

 綺麗なお姉さんと、会う度にイチャイチャいちゃいちゃ」

「んだよ、メレオロン……

 俺はなんもしてねーだろ? 姉貴に言えや。

 つか、あんな一方的なの願い下げなんだけどな?

 俺、ずっとイジられてるだけじゃねーか。恥かかされっぱなしだよ……あーもぅ」

「イジるのが楽しくて仕方ない感じですよね」

「俺的には、ふざけんなの一言だよ。

 姉貴が楽しんでるだけじゃん」

「……まだ、許したわけじゃないんですよね?」

 

 ウラヌスは軽く口をつぐんだ後、

 

「……そりゃね。

 みんなは姉貴と話し込んだみたいだし、肩持ちたくなったかも知れないけどさ。

 俺は俺で、今まで積み重なってきたモノがあるから。

 ハイそうですか、とは言えないよ」

 

 ……うん。私と父さんも、わだかまりをなくすのに時間かかったしな。すぐすぐ、とはいかないよね。

 

 

 

 

 

 ────深い森の中。

 

 夜闇にまぎれて、相手の身体に指で触れてコソコソ筆談することによる情報交換を終え。

 

「……やっぱ寝足りないや」

 

 シャルナークは、眠そうにぼやいた。

 

「仮眠したのに足りなかった?」

「仮眠だからね……ふわあーぁ。

 まぁ仕事に戻る前に、また一眠りさせてもらうよ。

 でも無理して来た甲斐はあったかな。有意義な時間だったよ」

 

 コルトピが頷き返す。シズクは何とも言えない顔で、

 

「次はいつ会えそう?」

「いつだろうねぇ……

 結構、無理に頼み込んだから当分会えないかも。そのつもりでいた方がいいかな。

 それまでにお互い、やるべきことをやっておこう」

「うん。……そろそろ時間?」

「そうだね。時間が来たら、強制的に移動させるらしい」

「そっか。

 じゃあまたね、シャル」

 

 シズクの差し出してきた手を、苦笑しながら握るシャル。続いてコルトピとも握手する。

 

 やがてシャルの身体が光りだし──ふっと消えた。しばらくの間、シャルの消えた闇を2人で眺め、

 

「ボク達も帰ろう」

「そうだね。

 ……いつになったら蜘蛛を再生できるかなぁ」

「それは……じっくりやるしかないよ。

 無理かもしれないし、意外と早いかもしれない」

「ふぅん。

 ……みんなとも、また逢いたいな」

 

 シズクのつぶやきには応えず、コルトピは森の外へ向かって歩き始めた。シズクもまた、その後を付いていく。

 

 

 

 

 

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