どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

21 / 300
第二十一章

 

 いつもと違う、うっすら柑橘の薫り漂う髪の水気を、バスタオルで丁寧に拭き取った後。

 

 脱衣所に鎮座する大きなリュックを改めて目にし、深く溜め息を吐いた。

 

「そうだった……

 荷物整理しないと……」

 

 そもそも着替えも出してないし、私。……どんだけお風呂入りたかったんだ。

 半分諦めの境地で、私はリュックの中身を全部引っ張り出した。まず、きーがーえ。

 

 

 

 ──少女着衣中──

 

 

 

「はぁー……」

 

 いそいそといつもの運動ルックに身を包んで、ひと心地ついた後。

 

 こんもりと山になった衣類を見て、なんでこんなアホほど持ってきたのか、改めて後悔しつつ。

 

「はーいはいはいはい……

 やればいいんでしょー……」

 

 誰にともなくブーたれて、整理を始めた。

 

 

 

 ──少女整理中──

 

 

 

「んぅぅー……

 ……こまった。削れなぃ」

 

 一通り衣類を畳んで、他の雑貨品もまとめはした。

 けど、どれが不要かと言うと、どれも要る。どれも絶対要るとも言えない。優先順位がつけられないから荷物を減らせない。

 

「うーん」

 

 荷物をそのままに、裸足でぺたぺた歩いて脱衣所から出る。

 

 水場から出て、室内に顔を覗かせる。

 おや、3人ともモニターの前に固まってるな。ゲームしてるのか。……んん? 何だか3人から不穏な気配を感じるぞ。

 私は嫌な予感がしつつ、そちらへ近づいていく。

 

「お? アイシャ、お風呂あがったの?」

 

 ウラヌスが声をかけてくる。

 

「ええ、まぁ。

 その……荷物整理なんですけど。

 ちょっと荷物減らすのが上手く行かなくて、どうしよっかなって」

「あー……

 ならいいや。時間もないし、無理せずそのまま持ってっていいよ。

 洗濯してるやつ、持って行くなら詰め忘れないでね」

「あ、はい」

 

 そーだ。洗濯、まだ終わってなかった。……いま10時前か。もうちょっとかな。

 ……それはそれとしてだ。

 

 じーっと3人を見る。とっても聞き覚えのあるBGMなんだけどなー。イヤーな意味で。

 

 ウラヌスは普通の顔してるけど、メレオロンとシームの目が据わってる。

 

「……アイシャ。

 このゲーム、ひどすぎない?」

 

 メレオロンがげんなりと言う。私は警告した。それ以上のことは知らん。

 

「ぼく、おねーちゃんに本気で引っぱたかれたんだけど」

 

 シームのほっぺたに、うっすら3本指の痕がある。こらこらこら……

 

「メレオロン……」

「こいつ、クッソうっとうしいタイミングで、バスバス魔法ぶっぱしてくるから」

「だって使わなきゃ負けるもん!」

 

 あぁぁ、姉弟仲の崩れる音が……

 

「アイシャ。……デビルって、なった方がいいの?」

 

 ……メレオロン4位独走なのね。

 私が何か言う前に、

 

「俺はやめといた方がいいと思う」

 

 さらっとウラヌス。きさま、このゲームやり込んでいるな。

 

「えっと……

 ほどほどにしてくださいね。もうじきグリードアイランドですよ」

 

 私は3人に背を向け、水場へと戻っていく。

 

「シームまたテメーッ!!」

「だって!」

 

 ……なんでみんな、好き好んで友情壊そうとするんだ。

 

 

 

 

 

 アイシャが水場の扉を閉めた後。

 妙に冷めた様子で、3人がモニターを眺めている。

 

「……なんかアイシャ、泣いてなかった?」

 

 シームの言葉に、軽く首を傾げながらメレオロンは、

 

「アタシ達も結構泣いてるけどね。アイシャ、お風呂場でも泣いてたんじゃない?

 目ぇすっごい赤かったし」

 

 ウラヌスは黙っている。

 

「……湯あがりアイシャ、めっちゃ可愛かったね」

「シーム、あんたもたいがいタラシよね。

 ……否定はしないけど。

 なんかぽやーんとした感じだったし、あの子だいじょうぶなの?」

 

 メレオロンは、ウラヌスを見て尋ねる。

 

「いや、俺に聞かれても」

 

 言葉短いウラヌスを、じーっと見るメレオロン。

 

「ウラヌス。

 ……あんた、お風呂上がりの濡れたあの子見てドキドキしてるとか」

「してねぇよ!」

「ひゅーひゅー。湯あがりアイシャにドッキドキー」

 

 ここぞとばかりに煽るシーム。ウラヌスは慌てて手をブンブン振りながら、

 

「ドキドキなんかしてねぇっつってんだろ! なんなんだ、2人して!」

「えー。あんなアイシャ見て、ドキドキしなかったの?」

「別にいいのよ? 可愛い女の子に興奮しても。

 だって男の子だもん♥」

「オマエラ、マジヤメロッ!!」

 

 ドカポ○の恨みを晴らさんとばかりに責め立てる姉弟。恐るべき盤外戦術。友情破壊の真骨頂である。

 

 

 

 

 

 ひとまず荷物はリュックに仕舞い直したんだけど、二つ考えなきゃいけないことがある。

 

 一つは洗濯物。あのワンピース持ってくの? というのがある。別にあってもなくてもだけど……ここに置いてくと忘れそうなんだよね。いつ取りに来れるか分からないし。

 

 もう一つはジョイステ。グリードアイランドに持っていけるか、ちょっと気になってる。これは試してもいいだろう。ウラヌスも検証として興味持つだろうし。

 

 ……うん。全部持ってくか。

 

 乾燥が後2分くらいで終わるので、私は水場にリュックを置いて、のんきにそれを待つ。

 

 

 

 荷物を持って、ようやく室内に戻ってこれた。

 どすんとリュックを置き、

 

「お待たせしましたー。

 ウラヌス、お風呂ありがとうございます」

「うん……

 じゃあ、この後どうしようかな」

 

 ……とりあえず、○カポンやめてほしいわけですが。ウラヌスまで目が据わってきてるじゃないか。何があったんだ、この短時間で──友情破壊ですね、分かります。

 

「3人とも洗濯はしなくて大丈夫ですか?

 ……と言っても、もう時間が怪しいですけど」

 

 今は午後10時を回ってる。出発まで後2時間弱。そこまできっちり動こうとしなくてもいいだろうけど、のんびり構えるのも良くないだろう。月例大会には参加したいしな。

 

「うーん。

 メレオロンとシーム、風呂入ったら? 今着てるの洗っとくから。

 もう時間もないし」

 

 ウラヌスがそう言うと、メレオロンとシームが顔を見合わせ、ちょっと微妙顔。

 

「……姉弟でお風呂入らせるの?」

 

 メレオロンの返しに、ウラヌスがきょとんとする。

 

「なんか、おかしいっけ?」

「いや……

 別に気にしなくていいんだけどさ。アタシはもうこんな身体だし」

「あれ? そういうもんなのか」

 

 ウラヌスの反応が妙なので、ちょっと聞いてみる。

 

「ウラヌスって、誰かと一緒にお風呂入ったりしてたんですか?」

 

 うっ、と反応するウラヌス。ようやく普通の感覚じゃないことに気づいたらしい。

 

「……

 姉貴と風呂入るのが当たり前、だったから」

「……なるほど」

 

 そっか。言ってたね、お姉さんが居るって。……この2人に特別感情いだいてるのも、多分それが理由かな。んー、姉かぁ……

 

「時間もないし、お風呂も洗濯もしたいからアタシは構わないけど。

 シームは?」

「……おねーちゃんがいいなら、別にいいよ」

「言っとくけど、色気もクソもないからね。今のアタシは。

 ……ウラヌス。アンタはどうすんの?」

「俺はもういいよ。

 時間ないし、ゲーム内でどうとでも──」

 

「アンタも一緒に入らないの? って聞いてるんだけど」

 

「は?」

 

 ……なんか妙な雲行きになってきたぞ。

 

 メレオロンが口の端をゆがめながら、

 

「時間ないんでしょ。アンタもお風呂と洗濯したいんでしょ。

 じゃあアタシ達3人で入ればいいじゃん。不可抗力、不可抗力」

「はぁっ!? オマエなに言ってんだ!

 俺ぁ別にいいっつってんだろ!」

 

 慌ててるウラヌスがやけに可愛い。なんか私の方が、妙にドキドキしてきたぞ。

 

「いいじゃん、いいじゃん。

 アンタ、心は女なんでしょ? シームは同性だから問題ないし、アタシも人間じゃないからオールオッケー」

「俺がよくねぇっつってんだろ!!」

「アハハハハハ!」

 

 シームが笑い転げてる。ごめん、私も見ててスッゴイおかしい。

 

「ほらー。

 アタシ、あなたに全身整形してもらわなくちゃいけないじゃなーい……

 ぜひとも、今のうちに改めておいてもらおっかなーって」

 

 ……メレオロン、言ってることは分かるんだけど、やたら色っぽいぞオイ。言葉だけな。見た目については言うまい。

 

「そ、れは、分かるが……

 別に俺が、一緒に風呂入る必要なんざ」

「なに言ってんの。そんなの一方的じゃん。

 アンタも見せろって言ってんのよ」

「オマエはアホかぁぁぁッッ!!

 俺は自分の身体にコンプレックス持ってるって言ってるだろ!

 見せたくねぇっつってんの!」

 

「貧乳はステータス、希少価値とも言いますし……」

 

「────アイシャアァァァッッ!! オマエが言うなぁぁぁぁッッ!!

 男の貧乳の何が希少価値だぁぁぁぁッッッ!!」

 

「あっははははははッ!!」

 

 私もシームと一緒に笑い転げる。めっちゃ面白い。

 

「ほらほらー。

 言ってたら時間なくなっちゃうじゃなーい。いこいこ」

「ぅわ。ちょ、メレオロン、オマエ本気か!

 待て待て引っぱんな! おい!」

「シームー。ちょっと手伝ってー」

「はーい」

「おおおっ!? シームてめぇ裏切んのかッ!?」

「ぼくは始めっから敵でーす」

「ぎゃああああッ! 待って待って、いやいや!

 アイシャタスケテッ!」

「ゴメンねウラヌス。わたし……弱い!」

「こ、ここでそれ……!

 ほん、ヤメてぇぇぇぇッ!! きゃーッ!!」

「はーい。3名様ごあんなーい」

 

 水場の扉が開き、ばたむ。と地獄の扉が閉まった。

 

 ……なむなむ。

 

 扉の向こうから悲鳴とか聞こえるけど、無視。

 さて、ジョイステかたづけっかぁ。

 

 ……私も一緒に入った方が面白かったのかなぁ。……まぁいいや。

 

 

 

 ジョイステも片付けたし。荷物も何とか収め終えたし。

 

 うん。

 

 ……ヒマだ。

 

 広々とした部屋に私1人。……さびしいなぁ。

 

 時計は、午後10時20分。3人がお風呂上がってくるまで、まだ結構かかりそうだしな。喋る相手もいないのは困るな。今更ゲーム機引っ張り出して遊ぶ気にもならないし、退屈しちゃうよ。

 

 手持ち無沙汰で、目の前のテーブルをこつこつ指で叩く。んー、禅を組むのも何か違うしな。気分が乗らない。

 

 …………。

 

 あれよあれよと言う間に事態が転がって、こんな状況になっちゃったな。数日前まで、グリードアイランドにまた入ることになるなんて夢にも思わなかったよ。

 

 しかも会ったばっかりの3人とだ。ずいぶん長生きしてきたつもりだけど、人生なにがあるか分からないもんだな……

 

 ウラヌスは信用できる人なのは、すぐ直感的に分かったことだ。信じられるというか、優しいんだよな、基本的に。助けを求めたキメラアントにすら、親身になって面倒見てるぐらいしだし。

 

 そしてメレオロンとシームの2人。お互いを庇い合うあの姉弟愛は疑う気にもなれない。感情的になった時うっすら洩れ出るオーラを見た限りでも、嘘偽りの気配はなかった。

 

 やっぱり何とかしてあげたいな。ハンター協会が黒幕じゃないことを祈るばかりだけど……もしハンター協会を敵に回すことになったら、どうしようか。あまり考えたくもない。

 まぁ協会も一枚岩じゃないだろうし、充分有り得るんだよな……。いずれにしろ調べてみないことにはどうしようもないか。

 

 ……そういえばここ、本棚あったっけ。なにか読ませてもらおっかな。

 

 立ち上がり、本棚の方へと歩いていく。

 

 壁際にある本棚には、ぎっしりと書籍が収められていた。装丁からして高価そうな本もずらりと並んでる。これ、読んでいいのかな……まぁダメだったら謝ろう。

 

「んー」

 

 手近にあった本棚の、背表紙タイトルを視線で撫でていく。

 

 

 

『神字 その起源に迫る』

『今日から始める神字解読の本』

『神字辞典』

『神字 図解書』

『現存する神字』

『古代遺跡に刻まれし 忘れられた神字』

『遺跡文化博物館』

『出土品博物誌』

『ルルカ遺跡に学ぶ 遺跡管理マニュアル』

『一度は行ってみたい 世界遺産トップ100』

 

『全世界史』

『世界言語起源』

『東西医学発展録』

『世界の国民食』

『各国の有名家庭料理レシピ』

『命を救った保存食の手記』

『世界の宝石100選』

『世界の三大怪スコアに迫る -狂えるロンド・闇のソナタ・死出の羽衣-』

『世界地図 -1998年版-』

『新世界紀行 東』

 

『民明書房シリーズ 人といふもの』

『民明書房シリーズ 武道達人逸話集』

『民明書房シリーズ 世界の怪拳・奇拳』

『民明書房シリーズ 氣-その効用と実践』

『民明書房シリーズ 大磁界』

『民明書房シリーズ EYEこそ全て』

『民明書房シリーズ 現代麻薬集成』

『民明書房シリーズ 肉体の神秘とスポーツ』

『民明書房シリーズ 分子核構造その理論』

『民明書房シリーズ かき氷屋三代記-我永遠に氷をアイス-』

 

『武芸百般シリーズ 様々な縮地法』

『武芸百般シリーズ 柔よく剛を制す』

『武芸百般シリーズ 心源流拳法入門』

『挑戦をやめた時が 人生の終わる時』

『アイザック流 自己啓発本 -心が大事-』

『伝説の武人・リュウショウ=カザマの謎にせまる』

『天空闘技場 攻略読本』

『知られざる超能力の世界』

『浄霊 高名霊能力者100』

『除霊術入門 -宗教における作法の違い-』

 

『性同一性障害者の日記』

『ホントは危ない 性転換の罠』

『美少年手稿 -少女を演じる舞台へ-』

『女装のススメ』

『あなたも今日から男の娘 ファッション編』

『隣にある日常シリーズ 盗聴最前線』

『隣にある日常シリーズ 軍産複合体と噂される企業群』

『隣にある日常シリーズ 貧者の薔薇が咲いた都市』

『ブラックリスト 犯罪白書95年度版』

『ハッカー 電脳ページに巣食う魔物達』

 

 

 

 ……なんだこのカオス。

 

 どこから突っ込めばいいか分からないけど、異様な存在感だぞ民明書房シリーズ。これ確か信憑性的にダメなヤツだろ。氷をアイスとか完全に出オチじゃないか。

 

 あと、なんか精神衛生に悪いタイトルが見えたけど、そこは一切見ないことにする。

 

 ……ていうか、なんか人ん家のエロ本漁ってるような背徳感あるんだけど……。これ、タイトル見てるだけでも申し訳ない気がする。……とは言え、ただ待ってるのもヒマだしなぁ。

 

 うーん。どうせ読むなら、ちょっとお目にかかれない本がいいんだけど。……あ、民明書房はいいです。ネタ臭ハンパない。

 

「んー……」

「アイシャー」

 

 どきぃっ!!

 

 びっくりして声のした方を見ると、メレオロンがすっぽんぽんでこっち来た。

 

「な、な、なんです?」

「いや、そういえば着替えと洗濯物、持ってってないなーと思って。

 ……なに見てんの?」

「えっと……

 ヒマなんで、何か読み物を、と」

「ふーん。

 あ、そうだアイシャ」

「は、はい。

 なんでしょう?」

 

 ニヤーと笑うメレオロン。なんだなんだ。

 

「あいつ、穿いてなかった」

 

 ん?

 

「……何を? 誰が」

 

「下着。ウラヌスが。……普段から」

 

 んん?

 

「──え?

 えっ? ────ええええええええええええぇぇぇッッッ!?」

 

 なんっ……だと……!! 穿いてない……だと……!!

 

「やっぱり、はぁぁっ!? って思うわよね?」

「え、ええ……

 いったいどうしてですか?」

「気になるわよね? それがなかなか言わなかったんだけどさー。

 無理に聞き出したら、男物の下着は穿きたくない、女物の下着は穿きたくても穿けないって」

 

 ────やめたげてよぉぉぉッ!!

 

 他人事とは思えず、私は顔を押さえて震える。

 

「え、なんでアンタがそんな反応すんの?

 面白いと思わない? あんなヒラヒラさせてんのに穿いてないとか。ぷぎゃーはっは」

 

 ────もうやめて、ウラヌス死んでしまいますッッ!!

 

 風呂場で展開する地獄絵図を想像すると、身も凍る思いだった。

 

「あ、待たせてもいけないし行くわ。

 30分ぐらいしたら出てくるから」

「は、はい……」

 

 メレオロンはしっぽフリフリしながら、どたどた荷物を持って、水場へ消えていった。

 

 ……私もあんまり言えた義理じゃないけど、完全に女やめてるなメレオロン……

 

 

 

 ……。

 

 だいじょうぶか、このチーム。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。