どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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グルセル編 2000/10/4
第百九十六章


 

「うん? あなた達、妙にくたびれてない?

 もしかして、ずっと起きてたの?」

 

 グルセルの入口で合流したベルさん。私達の顔色を見回して、そう尋ねてくる。

 

「いえ、しっかり休みましたよ」

 

 そう返すが、ベルさんはますます疑わしげな顔をしてくる。……この中で妙にツヤツヤしてるシームを除けば、みんなお疲れ顔なのは私にも分かる。ウラヌスもなんかされたな。……私もちょっかいかけたけどさ。

 

「ま、いいわ♪

 それじゃ、お買い物に付き合ってね。しゅっぱーつ♪」

 

 景気よく1人声をあげてグルセルの街へと繰り出すベルさんの背中を眺めながら、私は誰にも気づかれないようコッソリと胸をもぞもぞさせる。くそ、まだちょっと痛いぞ……

 

 

 

 旅館を出発するまでにゴタゴタしたのはさておき、グルセルを歩くのはとても好きだ。ずっと行きたかったのに散々じらされたからな……。飽食都市の名に恥じない、あちこち並ぶ食品や料理店の豊富さ。露店や屋台から漂う匂いを嗅ぐだけで食欲が湧いてくる。

 

「やっぱり目移りしちゃうわよねー♪」

「ええ、そうですね」

 

 ベルさんが楽しそうに声をかけてきて、私も素直にそう返す。なんせ古今東西、世界に存在する様々な料理や食材があるみたいだからな。ガラス越しに食品サンプルを眺めてるだけでも楽しい。

 

「そりゃいいけど、ベル。買うもん、ちゃんと決めてんのか?

 あんまりダラダラ歩かせるのはやめてくれよ」

「うん、決めてるわよ。

 でもほら、やっぱり目移りしちゃうじゃない♪」

「分かるけどさー……」

 

 うんざりそうにするウラヌス。モタリケさんの予想的中かもな。私もしちゃってるから、うるさく言えないし。

 

 

 

「そういえば、夕食ってどうするか決めてる?」

「……いや、決めてない。どっかで適当に食べるけど」

「ダメじゃない、これから攻略って時に。

 食事はきちんと摂らないと♪」

 

 ベルさんの買い物に付き合い、それなりに買い込んだ後。ベルさんの質問に、ぼんやり返すウラヌス。私も気にしてたけど、ちゃんとしてほしいのは同感だな。

 

「どうせなら、お姉さんも呼んであげて一緒に食事したら?」

「あぁ?

 ……どこで食えってんだよ」

「ここに呼べばいいじゃない♪ きっと楽しいわよ」

「つってもなぁ。

 さっきからちょいちょいプレイヤーも居たりするだろ?

 ここで一緒に行動するのは、ちと目立つんだよな。

 もう少し暗くなった後ならともかく」

「じゃあ暗くなってから、一緒に食べれば?」

「うーん……」

 

 ベルさんの提案に、いまいち乗り気じゃないウラヌス。まぁ気持ちは分からなくもないけど、これから長時間行動するんだし、意思疎通の機会は増やした方がいいと思うけどね。

 

「とりあえず、お姉さんに連絡してみなさいって♪」

「……わかった」

 

 渋々そう返し、バインダーを出すウラヌス。相変わらず押しに弱い。

 

 

 

 そしてユリさんは即OKしてきた。ですよねー。

 

「つか、オマエも一緒すんの?」

「それはもちろん♪

 お喋り楽しまなきゃ。あ、ごちになりまーす♪」

「さいですか」

 

 ベルさんもちゃっかりゴハン一緒することに。留守番してるモタリケさんが、ちょっとかわいそ……

 

 

 

 あちこち歩きながらどこで食べるか相談し、ワリと量があってたくさん食べられそうな中華風のお店へ入ることに。和食に近いし、私としてもありがたい。

 

 お店の前で雑談し、日が暮れた頃合で空から飛翔音。すぐ近くにビジネススーツを着たユリさんが着地した。……短いスカートがめくれないよう、こっそり押さえて。めくれて困るならそんなに短いの穿かなきゃいいのに……

 

「こんばんは、みんな」

「こんばんは」

「ユリさん、こんばんは」

「こんばんは。お姉さんは今日も可愛らしい格好ね」

「アハハ、どもー。

 あれ、ベルさんも一緒なんだ?」

「はぁい♪ ご一緒しまーす」

 

 ウラヌスだけ1人黙ったまま渋い顔してるのを見て、なるほどと頷くユリさん。状況は理解したらしい。窺うように顔を覗きこみ、

 

「お誘いいただいて、どーも。

 今日もスポンサーの奢りなのよね?」

「ンなの、いちいち確認しなくたって分かるだろ?」

「はいはい。

 立ち話もアレだし、早く入って注文しましょ。

 それにしても、なかなか良さげなお店ね?」

「和食の店じゃないけどな」

「似たようなもんでしょ。カキン料理だし」

 

 

 

 店内で円卓を囲み、好き好きに料理を注文していく。中華風なら、名前から大体料理の内容も分かるし、注文しやすいな。

 

「──ご注文は以上でしょうか?」

「みんな、大丈夫?

 ……うん。注文は以上で」

「畏まりました。少々お時間いただきますね」

 

 チャイナドレスとしか呼び名を知らない衣装のNPCが、店の奥へと消えていく。……アレもビスケの写真撮影で着させられたな。ハタから見ると、何とも言い難い服だ。

 

 

 

「そういえば、アンタが欲しがってた美を呼ぶエメラルド、取っといたわよ?」

「ほぁ? ──ぶほっ!?」

 

 中華風料理を楽しんでいる最中、なにげなくユリさんが爆弾を放り込んだ。ウラヌスが驚いてムセる。

 

「げほ、けほっ! ……こほっ。

 ちょ……姉貴、いきなりランクS取ったとか言うなや!」

「えー。言っとかないとマズイでしょ?」

「そりゃそうだけど、タイミング!

 重要なことを雑談みたく報告するな!」

「はいはい……

 里の連中みたいなこと言わないでよ」

 

 ユリさんの返しに、あらかさまにブスッとするウラヌス。まーた小動物みたいな怒り方して。ほっぺたつつくぞ。

 と思ってたら、隣のユリさんが微笑みながらウラヌスのホッペタつんつんした。

 

「また可愛い顔しちゃってー。

 ほら、ゴハンつぶ」

 

 言って、口許のソレを優しく摘み取るユリさん。あ、食べた。

 

「や、やめろって、もぅ……

 ちょっ、なんでみんな見てんだよっ!?」

 

 いやー、ねぇ。そんな露骨にイチャイチャされましたら……

 

 私達の反応を見て、「うっ」と身を引くウラヌス。

 

「……っ。で、で、姉貴?

 エメラルドって入手方法変わってたのに、どうやって取ったんだ?」

 

 露骨に話題を逸らすウラヌス。まぁそっちも気になるけどね。

 

「いいじゃない、仲が良くて。

 気が済むまでにゃんにゃん鳴いてなさいな」

「うぉいっ!?」

 

 メレオロンがニヤニヤしながら話を引っ張り戻す。ひどいな……。してやったりな顔のメレオロンを、シームが不機嫌そうに見てる。

 

「えっ?

 アンタ、普段からにゃんにゃんとか鳴いてんの?」

「鳴くわけないだろッッ!!」

「じゃあ比喩表現?」

「どういう意味だッ!?」

 

 分かってて言ってるよねぇ……。バカにゃんこ、ワタワタしすぎだよ。

 

「あー。

 そういえばアンタ、キュマニャンのコスプレしたんだっけ?

 せっかくだし、それ着てにゃんにゃん鳴いてみ──」

「ぎゃああああああーーッッ!!」

 

 遂に立ち上がって、顔を覆いながらお手洗いに向かって走り出すにゃんこ。……にゃーじゃなく、ぎゃーって叫んでったよ。

 

「……。

 えっと。……バカな弟がいつもお騒がせしてすいません」

 

 真顔で謝ってくるユリさん。……うむ、面白いからいいけども。

 

「昔からあんな感じ?」

 

 ベルさんが尋ねると、ユリさんはうなじをポリポリかきながら、

 

「いやぁー……

 からかうと面白いのは昔っからだけど、あんなに過剰反応はしてなかったかなぁ。

 クチは滅法悪くなってるから、ギャップで酷いことになってるし」

 

 そうらしい。ある時期を境にウラヌスの言葉使いが急に悪くなったらしく、ユリさんはそれを良く思ってないとのこと。昨日聞いた話だけど。

 

「……ぼく、様子見てくるね」

 

 言ってシームも席を立ち、お手洗いの方へ。……この場で行けるの、シームだけだしな。

 

 その背を見送りながら、

 

「はぁ……。心配かけてごめんなさいね」

 

 ユリさんが溜め息混じりにそう告げる。ぐるりと私達を見回し、

 

「みんな、あの子の念のことは知っての通りだけど。

 それの影響で、急に具合が悪くなったり、精神的に不安定だったりするみたい。

 申し訳ないけど、念を外すまでは注意深く様子を見てあげてね」

 

 誰よりも心配そうに、お姉さんらしいことを言うユリさん。……いい機会だし、聞いておくか。

 

「昔からああだったんですか?」

「と言うと?」

「その……

 念をかけた後も、しばらくお姉さんと暮らしてたわけですよね。ウラヌスは」

「ええ、そうよ」

「そうすると、体調が悪くなったのって……」

「あー。

 元々身体はメチャクチャ丈夫だったんだけど、少なくとも私と一緒にいた頃は全然平気そうだったわね。……オーラがガクンと減った直後だけはダメだったけど」

 

 メレオロンが『ん?』という表情になる。あ、まずい。半年ごとにウラヌスが寝込む件、バレるかも。

 

「ということは、最近になって体調にまで影響が出るほど弱ってきたんですかね?」

「……改めて言われると、相当深刻ね。

 私もそうだろうとは思ってたけど、あの子かなり無理してるかも」

 

 そこまで言って、ユリさんはふと考えるような顔をし、

 

「……それなら、もう若返って念を外した方がいいと思うんだけど。

 とっくに若返り薬は取ってるのよね?」

「ええ。

 入手できなくなるとマズイので、早めに確保しました」

「ゲームの中じゃ使えないの?」

「そんなことないわよ? わたしが若返ってるわけだし♪」

「うん、そうよね。

 それなのに、ゲームクリアして、研究してから使うなんて、悠長に構えてて大丈夫なの……?」

 

 んー。ユリさん、気づいちゃったか。どうしよっかなぁ……

 

 ウラヌスとしては、ユリさんにゲームクリアの協力をしてほしいが為に、そういう話の進め方をしてたんだけど……実は私の念の復活待ちしてるだけなんだよね。現状だと。

 

 私の状態を教えていいか難しいところだし、ウラヌスの念を外すだけならゲームクリアまで協力する必要はないって知られちゃうのも……うーん。

 

 あれこれ悩んでいると、シームがにゃんこを連れ戻してきた。バツが悪そうにしているウラヌスに、ユリさんは呆れた顔で、

 

「ほら、アンタ。

 そんな小さい子にまで面倒かけさせて、恥ずかしくないの?」

「ぅ……」

 

 ものすごく嫌そうに呻くウラヌス。恥ずかしいから逃げ出したのに、余計に恥ずかしいとか言われたらキツイよね。

 

「ウラヌス、いいから座って。大丈夫だから。

 ちゃんとゴハン食べないと」

「うん……」

 

 シームにポンポン背を叩かれ、渋々席に着くウラヌス。息を1つ吐き、

 

「ばたばたしてゴメン……」

「ウラヌスは悪くないよ。

 後、お姉ちゃん? 食べ終わったら話したいことあるから」

「ひぃっ!?」

 

 シームの言葉に、メレオロンが怯える。うむ、いらんこと言ったのはメレオロンだしな。相変わらずトラブルメーカーだよ、こいつは。

 

「ほんっと、見てて飽きないわー♪ あなた達」

「賑やかよねぇ。羨まし」

 

 楽しげにベルさんが、言葉通り羨ましげにユリさんがそう言う。まぁ楽しいよ。疲れるけどね。

 

「で、アンタに聞きたいことあるんだけど? 色々と」

「ああ?

 ……後にしてくれよ。メシが冷めんだろ」

「そうね。

 積もる話はあるでしょうけど、冷める前に食べちゃいましょう」

 

 ユリさんが聞きたがったけど、ウラヌスとベルさんがシャットアウト。諦めて黙り込むユリさん。うまく誤魔化せるといいんだけどな。かなり気にしてるみたいだし、難しいか。

 

 

 

 ゲーム攻略に関する重たい話はせず、食事中は雑談のみ交わす私達。そうすると自然に話題は料理のことになる。

 

「和食慣れしてると、カキン料理って結構美味しく感じるわよねぇ」

「私も結構好きですね」

「お? アイシャちゃんも?」

「ええ。和食の方が、好きは好きですけどね」

「俺も和食の方が好きかな。

 ……カキン料理は味が濃くて、食べ続けると飽きてくる」

「そうかなー?

 確かに和食は恋しくなってくるけど」

「ジャポンと違って、カキンは土地の大半が荒れ気味だからな。

 食材の質が悪い分、調理で工夫してんだよ」

「和食はシンプルな味付けが多いですね」

「そうそう。

 ジャポンは食材の質が良いから、調理も素材の良さを活かしたモノになりやすいんだよ。工夫が足りないなんて言われることもあるけど、必要がないんだよね。

 そりゃ、ただ焼いただけの方が旨いんじゃ、工夫のし甲斐がないもん」

 

 ふむふむ、なるほどね。和食ばかりだと、たまに凝ったものが食べたくなるんだけど、無いものねだりなんだろうな。

 

「魚なんて、へたに調理するより刺身で食べた方が美味しかったりするわね」

「刺身だって調理の工夫はできるんだけどな。

 魚の身を捌くだけじゃなくて、湯引きしたり、隠し包丁入れたり」

「アンタ、わざわざ魚買ってきて捌いたりするの?」

「いやー。できるけど、俺はあんまり。基本1人で食うからな。

 だから気が向いた時に切り身を買ってきて、ちょいと手を入れるくらいだよ」

 

 その辺は私も同じだな。……まぁウラヌスほど工夫はしてないけど。多分。

 

「……にしても、よく食べるわねー」

「へ?」

 

 ユリさんが明らかに私の方を見て言う。

 

 ……う、うん。回転テーブルだから、たびたび手元に料理の皿寄せて食べてますけどね。この顔触れだと、あんまり食べるヒトがいないんだよなー……。くそ。

 

「アイシャ、お腹が空いてるなら追加注文していいよ」

「あ、はい……」

 

 ウラヌスまでそんなことを。うん、まぁ遠慮せずに頼むぞ。旨いな、ちくしょう。

 

「美味しそうに食べるわよねー♪」

「アンタも、もうちょっと見習いなさいよ」

「強要すんじゃねーよ。

 好き好きだろ、食い方なんて」

 

 もぐもぐ。私もそう思うけど、あなたはもう少し食べるべきだと思うよ?

 

「ま、こういうのは俺も嫌いじゃないけどな。

 ここって、カキン風料理を出してはいるけどジャポン系の店だよ」

「えっ? なんでそう思うの?

 どう見たってココ、カキン料理屋でしょ?」

 

 ほぅ? それは私も知りたいな。てっきり本場の中華料理店だと思いこんでたんだけど。まぁ元の世界の中華料理とは違うかもだけど。

 

「カキンになくて、ジャポンにある料理がメニューに入ってる。

 俺が今食ってるカニ玉丼とか」

 

 言ってウラヌスは、自分が食べている卵料理をトントンとレンゲでつつく。

 

「そこの餃子も、カキン料理じゃこういうのは出さない。

 カキンだと水餃子がメインで、これは焼き餃子だし。ニンニクが入ってたり、焼き目がある方を上にして皿に並べるのはジャポンの餃子だけ」

 

 へぇー! そうなんだ。

 

「皮も薄いし肉も多いから、白米のオカズには最適だけどね。

 アイシャが食べてるエビチリも、発祥は確かジャポンだよ。

 お茶も、ジャポンのカキン風料理店でよく出てくるジャスミン茶だし。

 多分、わざとそういうテイストのお店にしてるんだと思う」

 

 ほぉー。……なんか、よっぽどジャポン好きな人間がゲーム開発に参加してた感じだな。

 

「なるほどねぇ。私はその方がクチに合うからいいけど」

「俺も」

「私もですね。やっぱりゴハンが欲しくなります」

「アハハ。もちろん頼んでいいよ。俺も欲しいし」

「なんだか、ジャポン人ふたりと同じ味覚のアイシャって不思議よねー♪」

 

 む。……ふたりもジャポン人がいると、どうしても引きずり込まれちゃうな。なかなか隠せないもんだ。

 

 

 

 あらかた食べ終え、デザートとジャスミン茶の並んだテーブルで、攻略の話が再開する。

 

「──要は、ハイループにいる牧場主の娘に、形見のネックレスを渡せば入手できるのよ。

 でも、そのネックレス自体がハズレアイテムに見えるから……」

「スケルトンメガネで金庫を透かし見ても、正解だって分かんないわけか。

 結局ショーケースに飾ってた偽物がイベントアイテムとか、きったねーな……」

「むしろ私、そのヒントなしでやらされてキツかったんだけど?」

「だって答え知らなきゃ、そんなのヒントだなんて予め言えねーだろ。

 むしろエメラルドを先走って取りに行った、姉貴が悪いんじゃないか」

「あー。ひっどーい。

 せっかく可愛い弟の為に、身を(こ )にして銃弾の雨あられ掻い潜ったのにー」

「……。

 ツッコミどころが多いんだが、とりあえず銃弾の雨ってなんだ?」

「置いてあった金庫、ぜーんぶ開けたからに決まってるじゃない。100個もあるから、金庫だけ運べないし。

 そしたら、ものすごい数の敵が湧いてさー。めっちゃ『堅』で耐えたんだけど」

「ぅわ……

 シークレットサービスの大群とか嫌すぎんぞ。

 そりゃ銃弾の雨あられになるわな」

「まぁ流石に9パラ程度じゃ、急所にでも受けない限りはどうってことないけどねー」

「いや、アレいちおうオーラで強化されてるぞ?

 並みの9パラの威力じゃないからな?」

「このゲームの敵がしてくる強化ぐらいなら、たかが知れてるわよ。

 試したことあるんだけど、銃火器の強化って結構難しいのよ? あいつらがしてたの、せいぜい銃弾の強度あげるくらいだったし」

「それくらい俺だって分かってるけど……」

 

 ……なんだか物騒な話、平然としてるな。シームにあんまり聞かせたくないんだけど。

 

 と思ってたら、当のシームが手を上げて、

 

「質問いい? キューパラって何?」

 

 シームをキョトンと見た後、顔を見合わせる姉弟。キミら面白いな。知ってたけど。

 

「あー、えっとな。

 9ミリパラベラム弾。一般的な銃器に標準採用されてる弾薬のこと。たぶん世界で一番流通してる銃弾だろうな。

 ……これを正面から受けて耐えられるかどうかが、念能力者としての1つの指標だよ」

「パラベラムってどういう意味なの?」

「……よくそんなの知りたいと思うな。

 んー、確か……

 平和を欲するならいくさに備えろ、とかそんな意味の言葉だよ」

 

 へぇー。それは知らなかったな。

 

「……なんでそんなこと気になったんだ?」

 

 不思議そうにウラヌスが尋ねると、シームは沈んだ顔つきで、

 

「……。よく銃を向けられてたから」

 

 ぅ……

 

 そう、か。実験施設に捕まってた時、そうやって脅されてたのか……むごいことを。

 

「え、え? なに?

 この子もしかして、人生超ハードモード?」

「茶化すなよ、姉貴。

 ……まぁあんまり詮索しないでやってくれ。思い出したくもないだろうし」

「う、うん……

 シーム君、ごめんね? 変なこと思い出させて」

 

 首を左右に振るシーム。メレオロンにちらりと目をやると、こくんと頷き返してくる。……ちゃんとケアしてあげてね。でないとあまりに可哀想だ。

 

 気まずくなった空気の中、ユリさんが無理に咳払いし、

 

「と、とにかく。片っ端からアイテム取って、ダブってるヤツは省いて全部ハイループへ持って行ったのよ。

 そしたらエメラルドを入手できたわけ。むしろ、ハイループでの聞き込みが面倒だったわね」

「二度手間になっちまったな。

 ま、助かったよ。エメラルドは前の知識があると、逆に混乱するイベントになってたんだな。まず間違いなく、今回は姉貴が入手一番乗りだよ」

「えへへー」

 

 素直に褒められて、でれでれするユリさん。分かりやすい……と思ってたら、ころっと表情を変え、

 

「さて、次は私の質問。

 あんた、若返り薬は使わないわけ?」

「んんっ? んー……」

「聞いたわよ?

 若返り薬はもう確保してて、ゲーム内でも有効だって。

 さっさと除念試みた方がいいんじゃないの?」

「いや、慎重にいきたいんだって。

 何があるか分かんねぇのに、調べもせずに使えねーよ」

「そんな悠長なこと言って。

 突然、体調が一気に悪化したらどーすんのよ?

 ……今も、相当具合悪いんじゃないの?」

「姉貴が心配するほどじゃないさ。

 じゃなきゃ姉貴にも勝ててないよ」

「……

 アンタ、もう1回私とやって勝つ自信ある?」

「……っ」

 

 言葉を詰まらせるウラヌス。……勝てないとは言い切れないけど、勝つ自信があるとは言えないだろうな。

 

 ユリさんは私達を見回し、

 

「あなた達から見て、どう?

 この子は、本当にゲームクリアするまで持ち堪えられる?」

 

 ……。……無理だな。持ち堪えられるか、ではなく、ユリさんに様々な事情を隠して、協力してもらい続けるのは無理がある。

 これまではウラヌスの心情に配慮したけど、やはり距離を保ったまま都合よく協力だけしてもらうなんてムシが良すぎるし、ユリさんも納得できないだろう。……ウラヌスの姉として。

 

 ウラヌスが視線を落としたまま、考え込んでいる。……おそらく答えは出ないだろう。私達の事情をお姉さんに伝えるかどうか、相談もなく決められることではないだろうから。

 

 私は深く息を吐く。──覚悟を決めるか。

 

「ウラヌス。もう観念しましょう」

「アイシャ……」

「このまま事情を隠し通すのは難しいと思います。

 今後起こり得る事態を想定すると、ユリさんが裏切る可能性より、それらの事態に対処しきれない可能性の方がずっと高い。

 ユリさんに事情を伝えて、助力を得た方が遥かに安全です」

「あらら……

 そこまで信用してくれるの? 嬉しいなぁ」

 

 ユリさんの私を見る目が、明らかに好意的なものに変わる。

 まぁ、これでもヒトを見る目はあるつもりだからね。もしこれでユリさんが裏切ったら、その時は私の責任だ。なんとかして償おう。

 

「アイシャ、ホントにいいの?」

 

 不安そうなウラヌスに、私は微笑み返す。

 

「何も、全てを伝える必要はないと思いますし。

 私達も必要な情報はお互い渡し合っていますが、それでも隠し事はあるわけですから。

 ……より協力をお願いしたいなら、もう少しお姉さんに教えてあげてもいいんじゃないですか?」

 

 悩ましげだったウラヌスの表情が、いくらか緩む。全て伝えるのではなく、今より譲歩するくらいなら彼も身構えないだろう。

 

「クチを挟んで申し訳ないんだけど。ここで話さない方がいいんじゃない?」

 

 ベルさんが待ったをかけてくる。まぁ私もここで話すつもりはなかったけど。このお店、ワリとひらけた場所だしな。

 

「誰かに聞かれる可能性もそうだけど、わたしも聞かない方がいいわよね?

 お姉さんはそうそう情報奪われたりしないだろうけど、わたしはそうじゃないし」

「……まぁな」

 

 ウラヌスが気まずそうに認める。ベルさんとモタリケさんには、意外と教えてないこと多いんだよね。色々知ることで、かえって危険も増すわけだから。

 

「うん。じゃあこの場は、もう雑談だけにしておきましょ♪

 わたしと別れてから、その辺の話を進めてね」

 

 ベルさんの提案に従う形で、その後は雑談だけに。……私のことを信用してくれたのか、ユリさんが親しげに話しかけてくれるようになったのが、なんだか嬉しかった。

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 
 ちなみに、カニ玉丼=天津飯です。DBで、餃子や飲茶が中華の発音なのに、天津飯が日本語の音読みなのはそんな理由からですね。



 (・ω・メ|ぶっとばされんうちにな

   ミ|サッ




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