第百九十九章
はぁ……
なんか、どっと疲れたよ。
ムドラに舞い戻った私達。あの騒ぎで気力が萎えた。新しく掛けてもらった、私を包むウラヌスのオーラも心なしか頼りない。
「はぁ……」
と、先導するウラヌス本人の頼りない溜め息も聞こえる。そうだよね、疲れたよね。
「ウラヌス」
「……なに、アイシャ」
「憂さ晴らししましょう」
「……うん、そうだね」
とりあえずモンスターに八つ当たりしよう。うん、決めた。あぁー、もう。楽しそうな3人の空気がまたイライラする。もうムドラの街並みを怖がってる人なんか1人も居ない。
唐突にメレオロンが、私を真剣な目で見つめ、
「アイシャ。怒りは技を鈍らせるわよ? (キリッ」
うるせーばーか。
「おねーちゃん、それ映画のセリフじゃん」
「そうよー。今のカリカリしてるアイシャにピッタリじゃない」
「私は冷静です。カリカリなんてしてません」
シームですら私を奇妙そうに見てくる。はいはい、どうせカリカリしてますよ。フンだ。
「なごやかなのも結構ですけど、そろそろ気を引き締めてくださいね。
いつ怪物が襲ってくるか分からないんですから」
「う、うん……」
ようやくシームが緊張感を持つ。予兆がないから、ホントいつ襲って来るか分からないんだよな。これがグリードアイランドの怖いところだ。
「桜ー。
こういうのもアンタが言わなきゃダメでしょー?」
「あぁーもぅ、うっせぇなぁ……分かってるよ。
みんな、ちったぁ緊張してくれよ。いつ怪物が来るかワカンネェんだから」
……私のセリフをほとんどリピートしただけじゃないか。ったく……
そんなグダグダした空気の中、正面の街角からゾンビが現れた。──3体!
「アイシャ、右のを! 胸板!」
「はい!」
言うや否や足早に迫り、左のゾンビの顎を掌底で打ち抜くウラヌス。あっさり煙と化す。そのまま後方へ抜けるウラヌス。
私もすれ違うように右のゾンビの胸を殴りつけ、吹っ飛ばす。ボンッ! と煙を上げるゾンビ。
残るは中央1体。
私達は頷きあい、反応が鈍いゾンビの左右に回る。ウラヌスが右腕を手刀で叩き折り、私が左肩の関節を外した。
『シーム!』
同時に声をかけ、びくんとするシーム。ここまでお膳立てしたんだ。やってもらうぞ。
「シーム、腹に思いっきり叩き込め!
噛み付きと蹴りに気をつけろ!」
声もなく、オドオドと頷くシーム。メレオロンに荷物を預けて、近づいていく。3方を囲まれ、両腕を破壊されてキョロキョロするゾンビ。
だが、前方のシームに照準を合わせたようだ。1歩、2歩と迫る。
「……あああぁぁ……」
ゾンビの呻きに慄き、額に汗を浮かべ、それでもオーラを漲らせるシーム。
突如ゾンビが無造作に放った蹴りを、シームは後ろに下がって避けきった。前のめりに体勢を崩すゾンビ。
「──やぁっ!」
どむっ。と鈍い音を立て、シームの拳を受けるゾンビ。
「おぉぉぉ……」
体勢を崩していたのが災いしたか、急所を外したらしくゾンビはまだ動いている。けどダメージはあったようで、ドサッと地面に倒れ伏す。
「シーム、背中から全力で腹へ打ち込め!」
ウラヌスの指示に頷き、なんとピョンと飛び跳ねるシーム。
ゴスッ! と両膝をゾンビの背中へ勢いよく叩き込んだ。
ゾンビは仰け反った後、ボンッ! とカード化した。
はぁ、はぁ、と肩で息をしながら、地面にぺたんと座り込むシーム。その肩に私は手を置き、
「お疲れ様です、シーム。頑張りましたね」
「……うん!」
忍装束のユリさんが歩いてきて、私達をぐるりと一瞥しながら、
「何とも、ひと仕事ねぇ」
「他人事みたいに言ってんじゃねーぞ。
姉貴も手伝えよ」
「もちろん協力はするけど……
シーム君に実戦経験を積ませるというより、度胸を付けさせてる感じよね?」
まぁそんな感じだな。真剣に実戦経験を積ませるつもりなら、そもそも手出しせずに、シーム1人に戦わせるべきだろう。
今はそれ以前、戦う気概を持たせるところからだ。とにかく実戦の空気に慣れさせる。
「……文句あっか? 姉貴」
「うぅん。それがあなた達の方針なら、私は口出ししない。
時間のかかるやり方してるな、とは思うけど」
やっぱりお姉さんもそう思うか……。私も過保護気味だとは思うけど、怪我を治療する手段がウラヌス頼みだからな。彼が治療を前提にするのを嫌がる以上、慎重にならざるを得ないんだよね。
数回襲ってきたゾンビや大ガラスを撃退しつつ、ムドラ中央にそびえる廃墟デパートに到着する。
周囲もそうだけど、外側から明かりは一切見えない。明かりや
「説明した通り、ここでランダム出現するモンスターに、アイシャが感知できないヤツがいる。しかも壁をすり抜けてくるから、重々注意してほしい」
私の前方にウラヌス、後方にユリさん、左右にシームとメレオロン。つまり私は中央で守られる形だ。あんまりシームのこと、どうこう言えないんだよな。私も充分、過保護にされてるよ……
何となく気落ちしながらも、一同とともに廃墟と化したデパートへと侵入した。
他の都市にあるデパートと違い、当然の如く廃墟と化している場所で商品なんか並んでいない。突入前にも注意されたように、ここも街中と同じく怪物の出現地帯だ。
ただ、廃墟と言うからにはもっとそれっぽい雰囲気なのかと思ったら、意外に建物内は整然としていた。何もないという方が正しいか。割れてもいないガラス窓、何も散乱していない床。大して汚れておらず、申し訳ない程度にカラの棚があちこち並んでるだけだ。店のカウンターみたいな場所もあるが、カウンターの上には何もなく、奥の棚もカラッポだった。
「何もないですね……」
「って思うじゃん?
でも、ポツンとアイテムが置いてあったりするんだよ」
とウラヌスが返す。大体1フロアの一画に半々ぐらいの確率で何かあるらしい。
地下1階から地上7階までの建物で、昇り降りは階段のみ。最大の目的はもちろん黄金天秤である。
他にもアイテムがランダムで落ちているらしく、そもそも黄金天秤の在り処もランダムらしい。なんとトレードショップもあるそうだが、そこもランダムとのこと。
ランダムに落ちてるアイテムはそれぞれ1日1回しか拾うことができず、誰かが拾うと他のプレイヤーは拾えず、次の日になって再配置されるまで拾えない。誰かがデパートにいる間も再配置されないので、また拾いたければ一度デパートを出る必要がある。
街中でも怪物カードがすぐ溜まるのでトレードショップは便利なんだけど、1日経つと場所が変わってしまうからお金を預けづらいという問題もあるそうだ。……確かにお金を下ろそうとしたら、お店がどこか分からないとか不便すぎるよね……
黄金天秤がデパート内のどこにあるかヒントはないらしいので、私達は地道に各階層を探索して回っていた。
体当たり気味に殴りかかってきた青い鎧騎士の腕を取り、素早く床に叩き伏せる。私が兜を掌底で叩き潰し、ウラヌスが鎧を背中から踏み潰し、ユリさんが残る腰と脚部に鎖を振るって引き裂いた。
ひとたまりもなく、ボンッ! と煙になる鎧騎士。
『751:ブルーナイト』
ランクE カード化限度枚数106
拳を構えた 紺碧の鎧騎士
喧嘩殺法と体当たりを得意とする 守備力も見た目通り高い
こいつは明確な弱点がない代わり、ある程度以上のダメージを与えないとしつこく動き続けるらしい。私1人でも問題なく倒せるけど、消耗を避ける為に一斉攻撃で倒していた。……なので、少々物足りなくはある。実際ドリアスの闘技場では、1人で相手したしな。
バインダーを開いてくれているシームに、私は拾ったカードを手渡し、
「なかなか良いアイテムが取れませんね」
「元々そこまで期待してないけどね。そっちはついでだし」
「にしたってさぁ。
もうちょっと良いのが拾えてもよくない?」
不満げなユリさん。さっきタワシを拾った時に、ゲインと叫んで壁に叩きつけてたのは申し訳ないけど笑った。メレオロンとおんなじコトしてるよ。……にしても鉄パイプとかダンボール箱とか、ほんとロクなのが無いな……
「そうイライラせずに、疲れたならどっかで一服したら?」
「つっても、じっとしてても敵が来るしな……
トレードショップが見つかれば、そこで一休みもできるけど」
「外に出ても、今度はゾンビかカラスですもんね……」
「そうそう」
安全地帯がないのは、確かに堪えるんだよな。グリードアイランドで怪物が出る時って、イベントか移動中が基本なんだけど、じっとしていても出る以上、ずっと警戒する必要があるから気が休まらない。
「でもここって、結構人気のスポットなんだよ。前はだけど。
大抵夜にプレイヤーが動くのって、マサドラかムドラぐらいだし」
「どうしてですか?」
「お金が稼ぎやすいから。
まぁプレイヤーが大勢いると、取り合いになるからイマイチだけど。それでも夜に動くプレイヤーは多くないからね。ここの地下墓地なんて、酷い時は入口に順番待ちの行列が出来るくらいだったよ」
……地下墓地の入口で順番待ちってのも、なかなかシュールだな。
「墓荒らしが稼げるとか、世も末よねー」
「ま、ゲームだしな。この街まるごと墓地みたいなもんだし」
姉弟の会話に苦笑しつつ、次の階へ探索に向かう。地上1階と地下1階は調べたから、次は地上2階だ。
──なんだかんだありつつも、地上4階に。『周』が切れかけていたので、掛け直してもらう。
そして、まだ黄金天秤は見つかっていない。救急箱や複数の解毒剤など色々有用そうなモノは拾えた。が、この解毒剤は私達には不要らしい。
本来なら、睡眠少女が入手できる眠りの館へ行く為に通過する必要があるムドラ湿原、そこで出てくる毒モンスター対策に使う物だそうだ。トラリアの解毒剤は効かないらしい。
私達は睡眠少女をトレードで入手したので、その解毒剤の使い道はない。オーラで身体機能を強化できない私にとって、湿原へ行かずに済むのは助かるけどね。
そろそろ飽きてきた廃墟の中を、足早に探索する。うーん、ここは何もないかな?
「……ん?」
ふと嫌な感じがして、私は何も無い壁を見た。
「──アイシャ!」
ウラヌスの声に私は飛び退き、入れ替わるように来たユリさんの拳が鋭く宙を薙いだ。ボンッ! と虚空に煙が出る。
『757:スペクター』
ランクF カード化限度枚数159
強い恨みつらみを抱えて死んだ 漆黒の幽霊
壁をすり抜けて突然襲ってくる オーラでしかダメージを与えられない
あっぶね。ちょっと壁際に寄りすぎたか。……もう少し警戒しよう。
「あれ?
アイシャちゃん、いま声かける前に気づいてなかった?
……本当にオーラ、見えてないの?」
「ええ、まぁ……
なんとなく嫌な感じがしただけで、気づいたってほどでは……」
「オーラも見えないのに、アイシャって察知能力
ときどき俺もぎょっとするよ」
姉弟から奇妙な目を向けられる。むぅ……こういうのってとっさに出ちゃうものだから、隠せないんだよな。念に関することなら誤魔化せもするんだけど。
──そして地上5階。
『2135:弾薬』
ランクG カード化限度枚数520
9ミリパラベラム弾 50発セット
「……なんか取れますよね、これ」
これで2つ目だ。こんなの拾えてもなぁ……。5000ジェニーで売れるらしいから、貰っとくけどさ。タワシだのダンボール箱より気分的にはマシだし……
「消耗品なのに非売品みたいだし、銃自体が売ってないからね。
そもそもアイテムに銃そのものが無いんじゃないかな」
「なにそれ? つっかえ」
ユリさんが呆れた顔で言うのに対し、ウラヌスは肩をすくめ、
「多分、ゲーム外から銃を持ち込んだり、具現化する能力者の救済用だな。
こんなトコに落ちてる分だけじゃ、まともに補充出来なくてキツイだろとは思うけど」
「んー……そうでしょうねぇ。
銃の具現化なんて、そんなにする人いるんですかね?」
「俺の認識だと、ワリとメジャーな能力だと思う。
実在する火器で人間がイメージしやすい中じゃ、かなり殺傷力が高いし。
得物がないと見せかけて、パッと出せるから暗器としちゃ上等だよ。銃なんて普段持ち歩ける場所も職業も限られてるからね。実物の銃だと、いざって時に正常動作してくれるとは限らないけど、具現化した銃にその心配はないわけだし」
なるほどと頷いていると、ユリさんもうんうん頷いていた。
「私も戦ったこと、結構あるわ。
銃器は習熟しやすいし、手早く強くなれるから人気あるんでしょうね。扱いに慣れてる、元兵士とか傭兵くずれなんかが好んで使ってるみたい。
銃を具現化して弾をオーラで代替すれば、オーラが続く限り弾切れにならないし、敵に銃を奪われる心配もないから。後は、弾に特殊な効果を付与したりとか?」
「どうやってもメモリ食っちまうけどなー。
放出と具現化は対極だから。銃器の具現化なんて、具現化能力者ぐらいしかしないし、固有能力にしないと距離も威力もスカスカになる」
「でも、具現化系の人が固有能力に放出系なんて含めたら、メモリすごく使っちゃいそうですよね」
「普通は能力1つ作って、メモリ切れになるだろうね。
ヘタすりゃ能力開発自体失敗するよ。まぁ失敗すりゃメモリ使わずに済むかもだけど」
「取り返しがつかないのに、軽々しく能力作っちゃうヒト多いですよね……」
私の言葉に、姉弟が『んー』と唸る。2人とも心当たりあるんだろうな。
「そもそも、あの六性図の意味を理解してない能力者も結構いるんじゃない?」
「かもなぁ」
それは有り得そうな話だ。元々六性図は心源流伝来のモノみたいだし、私もそれを拝借して風間流に伝えてるからな。部外の人間が正しく理解できていない可能性は大いにある。
地上6階。剣と盾の看板が斜めに傾いで掛かってるスペースの前に、両膝をついて深く項垂れる鎧騎士の姿。
「アレですか?」
「アレだね。アイツを倒せば黄金天秤が取れる」
あちこち破れた窓ガラスから入り込んでくる、外の月明かり。それに照らされてなお、黒を保つ鎧騎士。……さて。
「どうします?」
「10メートル内に近づいたら、アイツはアクティブになる。もちろん遠くから攻撃したら、攻撃が当たった時点で動き出す。
基本的にブルーナイトの強化版だけど、斧を振り回すし、時々催眠ガスを放ってくる」
うん。青い鎧騎士が多少強くなったぐらいなら、私1人でも問題ないだろう。が、催眠ガスは厄介だな。今の私が抵抗するには、息を止める以外にない。
「ま、私よね」
ユリさんが、じゃらりと鎖を垂らす。うん……もしもクラピカがこの場にいたら、私も彼に任せただろうな。
「姉貴、1人でやる気か?」
「大丈夫だとは思うけど、速攻で終わらせた方がいいんでしょ?
それこそ催眠ガスなんて使わせる間もなく」
「まぁな……
どれぐらいの影響範囲と持続時間があるか分かんないしな。
確かめるわけにもいかないし」
「ウラヌスは戦ったことないんですか?」
「あるよ。
……1年か2年前の俺なら瞬殺できたからさ」
「じゃあ、あの怪物の攻撃方法をどうやって調べたんですか?」
私がそう尋ねると、ウラヌスは渋々といった様子で、
「……ランクA以下のモンスターは、トレードショップで情報が買えるんだよ」
ああ、なーるほど。それでウラヌスは、異様なほどモンスターに詳しかったのか。……もちろん彼自身が調べあげた情報もあるんだろうけどね。
「モンスター全部の情報は流石に買ってないけど、噂でコイツと戦ったプレイヤーが結構やられたって話を聞いて。それで念の為、事前に調べたんだよ。前にプレイしてた時ね。
コイツはランクCの怪物なんだけど、にしてはプレイヤーが倒されすぎだなと思って」
ユリさんは納得顔でフンフン頷く。
「ここに来るまで敵がずっと出てくる上に、どこにコイツが居るかランダムなんでしょ?
消耗してるところへ、不意打ちの催眠ガスなんて喰らったら、どれだけ強くてもノックアウトされることもあるんじゃない?」
「ああー、そういうカラクリか……
トレードショップもここにあるから、頑張って探しちまうしな。神経を磨り減らしてるところをやられたら、ひとたまりもないか」
「分かってたら大したことないわね。
……質問の答えだけど、1人では戦わないわ」
お? つまり、どういうこと?
「手伝ってちょうだい。……桜とアイシャちゃん。
仕掛けるのと仕留めるのは、私がやるから」
念の為、充分に距離を取った位置に陣取るメレオロンとシーム。とは言え、あまり離れすぎると怪物に襲われた時フォローできないので、それなりの距離だ。
うずくまる怪物から約12メートルの位置にユリさん。ユリさんの左右に、私とウラヌス。
「じゃ、行くわよ!」
ユリさんが声を上げ、軽く振り回した分銅付きの鎖を投げ放つ!
手元の鎖を操作し、狙い違わずグルグルグルと鎧騎士に巻きつかせる! ガシャンッ! と音を立て、完全に鎧騎士の動きを封じた。鎧騎士も動き出すが、立ち上がるのに苦労している。
「引っ張って!」
身を翻したユリさんから手渡された鎖を握り、ウラヌスとともに力一杯引っ張りあげる。
体勢を大きく崩しながら、こちらへ引き摺られる鎧騎士。向かい、疾走するユリさん!
シャン──と。
涼やかな鞘鳴りが響く──宙に舞うユリさんの抜き放った刃が、黒い鎧騎士の上半身を縦真っ二つに両断した。寒気がするほどの、滑らかな太刀筋。
煙と化す鎧騎士。縛った後ろ髪を靡かせながら床に降り立ったユリさんは、具現化した刀剣を消し去った。同時に私達の手にした鎖も消える。……異様に長いと思ったら、鎖も具現化してたか。出来たんだな、鎖も。多分持ち歩いてるヤツだと、長さが足りなかったからだろう。
「ブック」
落ち着いた様子で、バインダーにカードを収めるユリさん。
「お疲れ、姉貴」
「どーも。
……そんなお手軽じゃなくて、もっと
「調子のんな」
笑いあう姉弟。……仲いいんだよね、やっぱり。
「お疲れ様です。それにしても、見事な腕前でした。
相当修行されたんでしょう」
実際、かなりのモノだったな。おそらく純粋な鎖の扱いならクラピカ以上か? 遠目に見ただけだが、刀剣に到っては旅団にいたあの刀使いに迫る技量かもしれない。
武器の扱いに長けた実力者を私が物珍しく思うのは、相手どった経験が少ないからだ。戦ったことは無論あるけど、大抵は強くないので印象に残らない。ただ一番の理由は……私は殺し合いの場に進んで居合わせようとはしなかったからだろう。
ユリさんは一体何人殺してきたんだろうか。……いや、考えるのはよそう。
見つめる私に、何か含むような表情でユリさんは見返し、
「アイシャちゃんこそ、ちょっと信じられない腕だけどね。
ヘタな念使い程度なら、『絶』でも勝てるんじゃない?」
「つか念を使えない格闘家や武術家相手なら、世界でも指折りの実力だと思うよ」
ううん、今の私を持ち上げられてもな。それにウラヌスの前提もあまり意味がないよ。世界でもトップクラスの武術家なら、念を使えない方が不思議なぐらいだ。念に目覚めていなくても、いずれは念使いと戦ってオーラを込めた攻撃を受けるだろうからね。
離れていたシームとメレオロンがやってくる。メレオロンはなぜか呆れた顔で、
「立ち話もいいけど、肝心の指定ポケットカードは?
まさかカード化、解けてるとかないわよね?」
あ……忘れてた。いや、目に見える範囲に出てきてないし、大丈夫だとは思うけどな。
「大丈夫だよ。怪物の守ってた背後を探せば、どっかの棚に飾ってあるはず。
もちろん怪物を倒すまでは、いくら探しても見つからないけどな」
ふー、よかった。じゃあ早速手に入れるとしようか。
『11:黄金天秤』
ランクB カード化限度枚数30
「どちらをとるか?」という二者択一に迫られた時
あなたの将来にとって 有効な方を選んでくれる天秤
「これで44種か。集まってきたなぁ」
ホントにね。ゲーム開始3週間なら上々だろう。
「この後どうすんの? 最上階まで全部いちおう見て回る?」
「んー……
トレードショップが見つかってないし、探しといた方がいいか。じきに場所シャッフルされちまうけど、安いカードは換金したいしな」
というわけで、探索続行することに。メレオロンとシームが、ちょっとうんざりそうな顔してた。まぁそう邪険にしないの。ショップを見つけないと休憩もできないからな。
結局、目当てのトレードショップは地上7階にあった。ずいぶん上にあったもんだ……この階に来てすぐ見つかったけど、いちおう他の探索を終えてから、お店の入口と思しき場所へ戻ってきた。
床にうっすらと明かりが漏れる扉。引き開けると、続く階段の先に、店内の明るい光が飛び込んでくる。
階段を下りて行く私達。バタン、と最後尾のユリさんが扉を閉めた。
短い階段を降りきった先は、いつものトレードショップと変わらない内装。
「いらっしゃい……」
ナニやら黒いフードをかぶった、怪しい店員さんがいる。よく見るとそこまで明るくもないか。夜闇に慣れたから明るく感じただけで、他のトレードショップと比べたら薄暗い。
「さ。
ここなら敵は出てこないから、遠慮なく休憩しよう……」
ウラヌスの一声で、私達は『はぁー』と息を吐きながら腰を下ろした。さすがに気疲れしたよ……ずっと気を張ってたからな。
・廃墟デパートでの入手カード(本文紹介分以外)
『752:ブラックナイト』
ランクC カード化限度枚数45
斧を構えた 漆黒の全身鎧
高い攻撃力と守備力を誇り 時おり催眠ガスを放ってくる
『1835:壊れかけのレディオ』
ランクE カード化限度枚数112
普段はスイッチを入れても何も鳴らないが
ゾンビやゴーストなど不浄な存在が近くにいると
独りでにノイズが鳴音する不気味なラジオ
この音には不浄なる者達も過敏に反応する
『1216:救急箱』
ランクF カード化限度枚数234
外傷治療用の薬品や道具一式が収められた箱
便利な品だが 市販はされていない
『2014:銀の剣』
ランクF カード化限度枚数198
美術品に近い 銀製の刀剣
ゾンビやゴーストに大きなダメージが与えやすい
『2007:鉄の剣』
ランクG カード化限度枚数450
量産品の両刃剣 切れ味はそれなり
『12886:ハーブ』
ランクG カード化限度枚数321
経口摂取することで 体力を少し回復する薬効を持つ
即効性はないため 服用後に休息も取ることが望ましい
なお毒みたいな味がする
『2096:鉄パイプ』
ランクH カード化限度枚数789
軽さがウリの 単なる鉄パイプ
『4001:タワシ』
ランクH カード化限度枚数888
タワシ 亀の子のような形状をした 紛れもないタワシ
『4140:ダンボール箱』
ランクH カード化限度枚数907
元々は柑橘が詰められていた箱 ほのかに良い薫りがする
『12771:解毒剤』
ランクH カード化限度枚数∞
経口摂取タイプの解毒剤 植物毒全般に効果がある