メレオロンとシームがリュックを下ろし、水と携帯食料を配る。ユリさんは今回荷物も持ってきていないので、配られたモノを受け取ってクチにしている。
口数少なく、静かに休む私達。んくっんくっと小動物よろしく飲んでるウラヌスで目の保養をしながら、私はこの後のことをぼんやりと考える。
「桜。潜在オーラどれぐらい残ってる?」
ユリさんも気にしていたようだ。攻略を進めるに当たって無視できないからな。
「んー……
3万ちょいってとこだな。いま必死で回復してるけど」
「思ったよりキツそうね……」
2人とも私に目を向けないけど、ほぼ私のせいなんだよな……。シームの件でバタバタして『周』を繰り返し掛けてるから……元を辿れば私の問題だ。
「姉貴は?」
「まだ全然余裕よ。アンタにも見えてるでしょ?」
「まーそうだろうなぁ……」
ユリさんは全く問題なさげだな。戦ってないメレオロンも消耗してないだろうし、外でゾンビと何度か戦ったシームも、今は顔色がいい。
しばらく私達は雑談した後、
「そういえば、さっきの黄金天秤とかまた取れたりしないの?
他のアイテムはまた拾えるんでしょ?」
「うん? あー……」
ユリさんの質問に、はっきりしない返答のウラヌス。面倒くさいパターンか。
確かここにランダムで落ちてるアイテムは、誰かが拾ったらその分は他の人も取れないとは言ってたけど……黄金天秤みたいなのはどうなんだろう?
「あの鎧騎士が守ってるイベント自体は、何度も挑戦できるし、クリアできる。
オリジナルカードの売値は30万くらいのはずだから、取れりゃ儲かるけど……
黄金天秤を繰り返し取るのは、そもそも無理」
「どうして?」
「えっと……
まず他のアイテムと違って、あのイベントはデパートから出て、あそこに戻ってきたら復活してるんだよ。1日の間に何度でも繰り返しできる」
「じゃあ何で取れないの?」
「まぁ聞けって。
さっきの鎧騎士……つーか黒騎士だな。アイツは一度倒すともう出てこないんだ。俺とアイシャと姉貴で倒したから、それ以外のプレイヤーが行かないと黒騎士は出現しない。代わりに別のヤツが出てくる」
「別のヤツって?」
「赤い鎧騎士が出てくる。青騎士の強化版が黒騎士で、そのまた強化版が赤騎士。
そいつを倒すと黄金天秤じゃなくて、別のアイテムが取れるんだよ。
だから黄金天秤は繰り返し取れない」
……そういうことか。
「赤騎士って、どんなやつ? 何のアイテムが取れるの?」
「……姉貴さ。
やる気あんのは結構だけど、これに関しちゃ大した代物じゃないぞ?」
「いーから教えなさい」
「ちょ、いでっ!? 脇腹つつくなよ!
教えねーぞ、くそっ」
「ウラヌス、ぼくも知りたいな」
「私も知りたいです」
「説明するのが面倒なのは分かるけど、ちょっと出し惜しみしすぎじゃない?」
「ほらー。4対1。
桜、知ってる人間が教えてくれないって気分悪いのよ?
分かったらちゃんと話しなさい」
「なんだよ、みんなして……
俺がせっかくがんばって調べたのにさ。そんな簡単に……」
「いいから吐け! ずびしっずびしっ」
「あいだーっ!?
わかった、わかったからやめろ!」
アハハハ。……まぁ2人なりのコミュニケーションなんだろうな、これも。
ウラヌスの説明だと、赤騎士は催眠ガスこそ放たないものの、攻撃力と耐久力がかなり高く、戦いを挑めばオーラの消費は免れないらしい。赤騎士とアイテムカードを売ってもワリに合わず、そんな余力があるなら別に回した方がいいとのこと。
取れるアイテムはランクBの鎧。炎に耐性があるらしいけど、有効な状況が限定的で、使いにくいという話。
とりあえず要らないという結論に至り、だから言ったのにとブチブチぼやくウラヌスを宥めつつ、今後の相談。
「次はどこへ行きます?
ムドラで取りたいカードは後3枚ですよね?」
「うん……
館とホテルと地下墓地かな。今回全部行くかは状況次第としても、スケルトンメガネがある地下墓地は終わらせときたい」
「無理して全部行かなくても、取り残した分は私が後日1人で片付けとくけど?」
「……姉貴に任せるかどうかも状況次第だよ。
速攻で終わるなら任せた方がいいけど、他のカードを入手してもらった方がいいこともあるだろうし」
「それって、あなた達がまたムドラへ取りに来るってことでしょ?
夜にゲーム攻略って、これからもするの?」
「……決めかねてる。それも状況を見つつだよ」
あれ? 今後しばらく、昼夜逆転で攻略するんじゃなかったっけ?
「ウラヌス。
夜のゲーム攻略って、今回のムドラで終わりですか?」
「しばらく続けるつもりだったんだけどね……
体感だけど、あんまり芳しくないなって。始めたばっかってのもあるけど、正直みんな動きが悪い。
続ければ、少しはマシになるだろうけど……」
「……夜間行動や夜襲に備えた修行になるかと考えていたんですが」
「まぁね。
ただその分、基礎修行に無理が出てるし、攻略具合も鈍い気がする」
うーむ。……昼夜切り替えの影響も大きいとは思うんだけどな。ただ、続けて問題ないかと言われると難しいところだ。ウラヌスの体調もよろしくなさげなんだよね。
ユリさんが携帯食料をピコピコ振りつつ、
「夜にしか取れないカードは、私に任せてくれた方が効率いいと思うわよ。
夜戦の修行はどうしようもないけど……」
「だよなー。俺達が夜にゲーム攻略するより、姉貴に任せた方が少なくともスピーディーなんだよな。だから夜動くのは、俺達にとっては修行の意味合いしかない」
そう言われるとなぁ。健康や攻略スピードを犠牲にしてまで夜間の修行を強行すべきか、なんて聞かれたら『うん』と答えられるはずがない。……私も今は無理が利かないし。
「アイシャはどうしたい?」
ウラヌスに意見を求められて、私は声もなく唸る。メレオロンとシームは、聞かずとも方針に従うだろう。ユリさんもこれ以上は口を挟むまい。
やっぱり、ウラヌスの健康と昼の修行に無理が出てるのがな……
せめて……
もう少し、メレオロンとシームの修行が安定してからの方がいいか。今回の夜間攻略は良い経験になっただろうし、これを踏まえつつ夜の動きをイメージしてもらって、改めて夜に修行した方がいいかもな。
「今回の結果次第ですが、昼夜逆転を無理に続ける理由はないように思えます」
「うん……分かった。
様子を見て、夜の攻略を続けるか活動時間を戻すか決めよう。姉貴はそれでいいか?」
「私は構わないわよ。どうせ私が夜動くことに変わりはないし。
そっちのお2人は?」
「ぼくはどっちでもいいよ」
「アタシも。……本当のこと言うと、夜に出歩いてると眠くってさ。
明るいところはいいんだけど、暗いと眠いのよね」
ふわぁー……と豪快に大口を開けてあくびするメレオロン。ああー、そっか……。元になったカメレオンの体質的に、夜はキツいのかもしれないな。
10000ジェニー未満のカードを売却し、全員の手持ちカードを整理。
ウラヌスの提案で、そろそろランキングを再確認することに。
「指定ポケットカードのランキングを知りたい」
「……ランキングなら、3000ジェニーになります」
ウラヌスがペンとメモを構え、ユリさんがカードで支払った。
「現在のランキング1位、ハガクシ。
指定ポケットカードの所有種類数は30種」
おおっと。ハガクシ組、かなり集めてるぞ。
「2位、ハンゼ。17種。
3位、アイシャ。16種」
また3位だよ! ……あんまり増やさないようにしてたのになぁ。
「4位、ユリ。15種。
5位、トクハロネ。11種。
6位、ニッケス。10種。
7位、ウラヌス。9種。
8位、ハヤテ。8種。
同じく8位、メレオロン。8種。
10位、ジスパー。7種。
……あー、みんな順位高いな。まぁ隠し切れないよね、枚数が多すぎて。
「同じく10位、アベンガネ。7種。
同じく10位、シーム。7種。
同じく10位、ジェイトサリ。7種。
14位、センリツ。6種。
15位、アマナ。5種。
同じく15位、ミチロウ。5種。
17位、ムカナキ。4種。
同じく17位、リン。4種。
同じく17位、ヨーゼフ。4種。
同じく17位、コゲタ=ハンペイ。4種」
結局、私達5人とも10位内か。……センリツさん、まだ1人で留守番かな。だとしたら気の毒に。
「21位、ジライヤ。3種。
同じく21位、プーハット。3種。
同じく21位、ウォン=リー。3種。
同じく21位、エルビエ=マノ。3種。
同じく21位、ゼホ。3種。
同じく21位、サスケ。3種。
同じく21位、ヤマト。3種。
同じく21位、ルチアート。3種。
同じく21位、バイス。3種。
同じく21位、ポンゴ。3種。
──これが30位までのランキングです」
ペンを止めたウラヌスが、カウンター前にしゃがみこむ。
「……はぁ。メモおっけー。
アイシャが前と同じ3位のままなのが痛いな。かなり目立ってるよ」
「あまりカードを預からないようにしてたんですけどね……」
「姉貴も4位だし、組んでるのがバレるとヤバイなぁ……」
「そこは注意するしかないわね。
私が取ったカードは、まだあなた達に渡すわけにはいかないんだし」
「しゃーないわな。
ハガクシがなかなかハイペースで集めてやがるのも気になるし……」
「でも30種でしょ?」
「仲間内で分散してなけりゃあな。
これだけ攻略を進めてるなら、そのうちどっかでニアミスするかもしれない」
プレイヤー同士の衝突か。今のところゲーム2周目が始まって1ヵ月くらいみたいだし、焦って他プレイヤーと敵対する人はそんなに居なさそうだけどね。ラターザとかは除く。
「にしても、結構クリア目指してる連中っているもんね。
前の500億なら魅力的だけど、今の懸賞金でも念能力者がこんなに集まるわけ?」
「……姉貴。
ゲームへ入ってくる前、クリアに懸けられてる懸賞金の額って見たか?」
「んー。50億ちょっとくらい?
大体その辺の競り合いになってたけど」
「結構増えてるなぁ……
ゲームソフト自体、俺の時でも30億弱まで上がってたけど」
「私もそれぐらいで競り落としたわ。
……2回ニセモノ掴まされたけど」
あららら……。そうなんだよなぁ。グリードアイランドの入手って、そういうリスクもあるんだよね。異常に安く競ってるのは、バッテラさんも入札してなかったしな。
「はぁー。……アホだろ」
「アホとはナニよっ!?」
「どーせ安っぽいのに手ぇ出したんだろ。
騙されやすいの、いい加減直せよ。ばーか」
「ば……!? だって!
……取引件数とか信用評価が高い相手だったから、大丈夫だと思ったんだもん……」
「バカたれ。
あんなもん、裏でオークションアカウント売買するだけで簡単に手に入んの。ブラックマーケットを他の競売サイトと一緒にすんなよ。
そんなのより、これまでの取引内容を確認しろ。グリードアイランドを手に入れて売るような人間かどうか、それで分かるだろが」
「……。
あんなに安く競られてた理由はそれだったの……」
「高額取引のブラックマーケット慣れしてる連中は、その程度あっさり見抜くわな。
で、騙されたその2件はどうしたんだよ?」
「……商品の受け渡しの時に分かったから、ボコっといたけど」
「骨折り損、ご苦労さん」
「いいじゃない! ちゃんと手に入れたんだから!」
「2回も騙されといて、エラソーに言うなよ」
「桜こそ、なによエラソーに!」
「まぁまぁ、お2人とも……
仲良く喧嘩するのはそれくらいにして、攻略の話を進めませんか?」
「ん、んー。
ごめん、アイシャ」
「まったく、みっともない……
誰がリーダーなんだか分かんないわね」
「うっせ、姉貴のアホー」
「ずびしっずびしっ」
「っで!? いでッ!?」
「お・ふ・た・り・と・も」
『……はい』
シュンとするアホ2人。ムダに時間と体力消費しないでほしいよ。特にウラヌス。
「えっと、次どこ行くか決めてなかったね。
館とホテルと地下墓地。俺は地下墓地に行きたいんだけどな」
「……ねぇウラヌス」
シームがおずおずと手を上げる。
「ん? なに、シーム」
「その……
……おトイレ行きたい」
「あー。けっこう水分取ってたしな……」
怖くて汗をかくせいか、頻繁にシーム水飲んでたもんな。それでか。
腕を組んで考え込むウラヌス。ユリさんは不思議そうに、
「別に男の子なんだから、そのへ、ん……」
言いかけ、ウラヌスにすごい睨まれ、続きを飲み込むユリさん。……そりゃウラヌスは怒るよね。シームも顔赤いし。メレオロンは痛そうに頭押さえてる。
「いちおうゴーストホテルに、生きてる水洗がある。
……あんま行きたくないんだけどな」
ほー。ムドラはその手の施設、全部ダメかと思ったらちゃんとあるんだ。……む。意識したら、こっちまで……
「あ、あの。
……申し訳ないんですけど、私も」
「アイシャちゃんもっ!?
それはいけないわね! 桜、いますぐホテルにゴーよ! ゴー!」
「姉貴……」
方針を急転換したユリさんに、ものすごく不審な目を向けるウラヌス。アハハー……
シームにあまり猶予がなさそうなので、すぐトレードショップを出て、廃墟デパートを後にする私達。早足に北へあるホテルに向かう。『周』が切れかけていたので、トレードショップを出る前に掛け直してもらっていた。
ウラヌス
「1階ロビーにあるから、すぐ入ろう。
出現条件を満たさない限り、ここに敵は出ないから安心して。
いちおう他のプレイヤーが居ないか、俺の方で確認するよ」
へぇー。ここもトレードショップと同じ安全地帯なのか。……出現条件が気になるけど。
調度品なんかが残っているせいで、人が居ないだけに見える薄暗いホテルの中。
ウラヌスが1階ロビーを隈なく点検して、安全確認を終えた後。私とシームはそれぞれおトイレを拝借。……よかった、明かりが点いた。ロビーも非常灯とか点いてたしな。
ゴーストホテルで用を足すとか、正直イヤな予感しかしないんだけどな……。ホラーな作品だとあるあるシチュエーションだし。……まあ、暗い中でしなくて済むだけマシか。贅沢は言うまい。……もし変なイベントが発生したら、絶対ゲームマスターに文句言ってやる。