どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二百三章

 

 しばらく待ってると、ユリさんがひょいっと物陰から出てきた。ぎょっとする姉弟に、私とウラヌスが苦笑する。

 

「姉貴、あんま驚かせてやんなよ」

「失礼ね。……いや、ワリと本気で隠れてたけどさ。

 桜はまだ分かるけど、なんでアイシャちゃんすごい見破ってくんの……?」

「アハハ……

 えっと、そういう修行をしたからですね」

 

 付近にいるだろう、というアテがあるからだけどね。確信を持って居場所を見破ってるわけじゃない。隠れられる場所なんて限定されてるし、その辺を重点的に探ってるだけだ。実際感じとれる気配はほんの僅かだしな。

 

 私を怪訝そうに見てくるユリさんに、ウラヌスは肩をすくめ、

 

「むしろ姉貴が修行不足なんだろ?

 へっぽこプゲラ」

「あー、もう!

 だからそれやめなさいって──」

「ちょっと、2人ともお静かに。

 ……ハンゼさん達が気づくかもしれないじゃないですか」

 

 ユリさんがブスッとした顔で黙り込む。こんな静かな街で大声出したら、聞こえるかもしれないからな。一切会話せずに聴力を強化していたら、だけど。

 

「さて。

 バカなこと言ってないで、そろそろ行く準備するか」

 

 ウラヌスが無理やり締め、5人の視線が地下墓地へ繋がる下り階段へと集まる。

 

 地下墓地には100近い棺が安置されていて、どれか1つにスケルトンメガネが隠されてるらしい。場所はランダムで、ノーヒントらしくウラヌスにも見破れない。……スケルトンメガネがあれば発見は楽らしい。意味ないけど。

 

 時折り話題に上がっているスケルトンとは、ゲームなんかじゃ珍しくもない、人の白骨死体が動くモンスター。ここのスケルトンに限り、倒しても復活する点が最も厄介だ。

 

「スケルトンが既に大量出現しているという話でしたね」

「入口付近から棺を開けまくって、手に負えなくなったんだと思う。

 開ければ開けるほど面倒になるのは、俺達も同じ」

「完全に倒す手段はないのよね?」

「ない。骨1本残らず消滅させても、多分復活する」

「再生しにくい倒し方は?」

「時間稼ぎにしかならないけど、衝撃で倒すのが一番マシ。

 破壊が微細だと、そのぶん再生に手間取る。消滅させたりすると、逆にすぐ復活する。

 あと……複数箇所を破壊しても同時に再生するから、一箇所を思いっきり破壊するのがベスト」

「頭蓋骨とか、腰骨ですかね?」

「そうだね。そこなら再生するまで行動不能にできるし、再生にも時間がかかる。攻撃も当てやすい。止めるだけなら背骨とか足の骨でもいいけど、部位が小さいから破壊しても再生が早い」

 

 ちなみにここのスケルトンやアイテムの入手状況は、一晩経たないとリセットされないらしい。……入口に行列が出来てたらしいけど、その頃は何晩も待たされてからようやくみんな入ってたってことか。なんとまぁ。

 

「ところで、ここって稼げるの?」

「取ったカードを全部売れば100万越えるよ。

 さっきの連中が削った分、目減りしてるだろうけど」

 

 攻略と直接関係ないメレオロンの質問にも律儀に答えるウラヌス。なるほどね。運良く地下墓地の入口辺りでスケルトンメガネや高額なアイテムを取れれば、すぐ稼げるわけだ。

 

「で、どう攻略する?」

「……その前に、ちょっと様子見てくるよ。正確に状況把握したいし。

 みんな、少し待ってて」

 

 言ってウラヌスは、あっさりと階段を下りていった。

 

「……。

 みんなは、ここに入るつもり?」

 

 ユリさんの質問に、私達は沈黙する。もちろん私はそのつもりなんだけどな。

 

「アイシャちゃんが入るのは、まぁ分かるんだけど。

 あなた達は待つって手もあるわよ」

「足手まといだから?」

 

 言いにくいことを聞き返すメレオロン。うーん……

 

「おそらくだけど、スケルトンの相手とアイテム回収で、私と桜は手が埋まると思うのよ。

 あなた達を守るところまで手が回らないかも」

 

 まぁ……そうだろうな。流石に私も、自分を含めたこの2人を守りながら、押し寄せるスケルトンの大群をあしらえるか自信がない。念が復活すれば、どうとでもなるけど……

 

 腕を組み、シームをややキツイ目で見るユリさん。

 

「特にシーム君。

 白骨死体相手になんて戦える?」

「……やってみないと分かんないよ」

「分かんないじゃ困るかなぁ。

 やるか、やらないか。どっち?」

「ちょっと待って。

 まだ見てもいないのに……」

 

 メレオロンが制止するが、ユリさんは首を横に振り、

 

「大体予想はつかない?

 人体標本とか見たことあると思うけど、ああいうのが動いてるんでしょ。

 というより、シーム君は本物を見たことがあるんじゃない?」

「ぅ……」

 

 あー、そういうことか。マズイな。シームが捕まってた時のトラウマ系か。ユリさん、それを気にしてたんだ。

 

「今回かなり猶予がなさそうなのに、ゾンビの時みたいなことになったら大変よ。

 足を引っ張りたくないなら、覚悟を決めて戦うか、ここに残るか、いま決めなさい。

 これはシーム君が決めなきゃダメ」

 

 私もメレオロンも黙り込む。本来ならウラヌスがそう尋ねていただろう。無論、もっと柔らかい口調で。

 いつもなら、シームが決めかねれば、ウラヌスから何か提案していた。それを許さないユリさん。……なかなか手厳しいけど、私達も知らず知らず甘やかしてたんだよな。

 

「……

 入る。ボクも地下墓地に」

「戦うってこと?」

「うん。スケルトンと戦えばいいんでしょ?」

「本当に大丈夫?」

「大丈夫だってば! 入るから!」

「……だって。桜」

 

 ユリさんが階段の方に声をかけると、ウラヌスが何とも言えない表情で上がってくる。

 

「……シーム、本気か?」

「ウラヌスまで! 入って戦うって言ってるじゃん!」

「姉貴、なんで挑発すんだよ……」

「挑発なんてしてないわよ。

 シーム君の為にも、はっきりさせた方がいいでしょ?」

「うーん……」

「そんなに厳しい状況なんですか?」

「えっと……

 11列ある棺の手前3列が開いてて、スケルトンが23体湧いてた」

 

 うわ、多いな。

 

「スケルトンの攻撃は、シームの『練』で防げますか?」

「……

 基本的に素手なんだけど、中には武器持ってるヤツもいるから、鈍器を思いっきり叩きつけられたり、刃物で急所を刺されたりしたら……」

 

 まぁ防げないだろうな、それは。武器による大振りの攻撃や、急所への攻撃を避けさえすれば、シームの防御力でも防ぎきれるレベルか。

 

「シーム、マジで戦う?」

「……やるだけやってみる」

「だって。

 桜、アンタも覚悟決めなさいな」

「覚悟って……」

「アンタ、この子がケガするのイヤなんでしょ?

 戦う経験を積ませるのに、それがどれだけ邪魔になってるか分からないの?

 この子はケガするかもしれないけど、それを辛抱しなさい」

「……」

 

 顔をゆがめるウラヌス。……前に私とやり合ったことの繰り返しだな。

 

 ……いや、関係ないフリはやめよう。私も覚悟を決めるべきだ。

 

「ウラヌス。

 私も出来る限りフォローしますから、シームを参戦させてください」

「アイシャ……」

「流石に多方向から襲って来る怪物相手に、シームへ一切手出しさせないのは私にも無理でしょう。

 ですが──

 シームへ迫る大きな危険は、私が取り除くよう尽力します。

 だから、戦わせてあげてください」

「……。桜、アンタ」

「待った。姉貴は黙っててくれ。

 ……

 仮にそれでシームがケガしなくても、アイシャがケガしたら意味ないよ。

 俺に約束を破らせる気?」

 

 ……このヒトは。私を必ず守るって言ったのを、今でも律儀に……

 

 ムシが良いこと言ってるんだろうな、私は。……でも。

 

「ずいぶんと見くびってくれるじゃないですか。

 最低ランクのモンスター相手に、私が後れを取るとでも?

 そんなの数十体襲ってきても、シーム達を守りながら無傷で切り抜けますよ。

 ケガなんて絶対しません」

「……ホントだね? 約束だよ?」

「ええ、約束しますとも」

 

 唯一の不安要素は、初見ってことだな。対策は充分聞いたし、問題はないと思うけど。

 

 ただ数十体も同時に来た場合、捌き切れるかは……今の私に可能だろうか。

 

 ……いや、やってみせよう。約束は破りたくない。

 

 ユリさんが苦笑しながらパンと手を叩き、

 

「話は決まりね。

 っと、あなたも入るのよね?」

「当たり前でしょ?

 この子ら勝手に盛り上がってるけど、アタシがシームを守るわよ」

「メレオロンは最終防衛線をお願いします。

 私が近づくスケルトンを薙ぎ払いますから」

「それだけで終わっちゃいそうだけどね。

 シーム、アンタの出番ないかも?」

「おねーちゃん、茶化さないでよ」

 

 場の5人が笑い合う。そうそう、こうでなくちゃな。私達は。

 

 

 

「俺が、棺を開けてアイテム回収。

 姉貴は、棺から出てきたスケルトンをひたすらブッつぶす。

 アイシャは、俺達が棺を開け終わるまで入口付近に寄ってきたスケルトンを追い払って。

 メレオロンは、アイシャが倒しきれなかったスケルトンを迎撃。

 シームは、自分の近くまで来たスケルトンを迎撃。

 役割分担は以上。いい?」

 

 スケルトンは基本的に、近くにいるプレイヤーへ寄っていくそうだ。地下墓地は奥の方まで棺が安置されていて、手前から奥へウラヌス達が棺を開けていけば、当然入口付近で待つ私達の方へ来るスケルトンも増えていく。それを迎え撃つ。

 

「棺は全部開けるのよね?」

「全部開ける。

 いちおう金稼ぎも兼ねてるし、スケルトンメガネだけ取って終わりじゃもったいない」

 

 らしい。スケルトンの入った棺は66あるらしいので、最終的に奥へ行ったウラヌス達と入口の私達で大体33体ずつ手分けして戦うことになるわけだ。

 メレオロンとシームも防戦する為、荷物は地下墓地の入口そばへ置いていく。盗られる危険もあるけど、短時間でケリをつけるからね。少しの間なら大丈夫だろう。

 

「始まったら短期決戦だからね。棺を全て開け切るまでの勝負。

 じゃ、行くよ」

 

 各々気合を入れて返事し、階段を下りていく。さ、久々に今の状態なりの本気を出すぞ。

 

 

 

「──GO!」

 

 バンッ!! と錆びた鉄扉を叩き開け、ウラヌスとユリさんが突入する。

 続いて、残る私達も地下墓地へと突入した。

 

 さっと一瞥する。石造りの巨大な空間。そこに一定感覚で並ぶ棺の群れ。

 

 そして、一斉にこちらへと反応するスケルトン。自分が出てきた棺付近に立ち尽くしていたのか、それぞれの持ち場からグリンと振り向いた。

 

「ぅわっ……!」

 

 メレオロンがその光景に呻き、シームが身震いする。私は呼吸を整え、すぐ動けるよう構える。

 

「──せぇぇいッ!!」

 

 バガガガガガガガガガガガッッ!!

 

 ウラヌスがしゃがみ、その頭上をユリさんの長大な鎖が薙ぎ払った。立ち止まっていたスケルトン達が、1体残らず破壊される。

 

 ユリさんが鎖を消し、ウラヌスが疾走する。すぐ後を追うユリさん。

 

 散らばったスケルトンの残骸が、カタカタカタカタと音を立てている。再生が始まったのだろう。ウラヌス達が奥へ進めば、こいつらは私達に殺到する。

 

 ウラヌスが棺の4列目に到達し、端から蓋を弾いて開けていく。時々棺の中に手を入れ、ワンピースのポケットにカードを突っ込む。

 当然の如く、開けた棺の大半から新たなスケルトンが立ち上がる。遠目で見た限りだが、ユリさんは短い刃物を頭蓋骨の横から叩きつけ、粉々に砕いていた。

 

 4列目の棺を開け終えたウラヌスが、ポケットからカード束を取り出し、バインダーへ素早く収めている。そして5列目へ。

 

 その間にも、1列目から3列目のうち入口に近い最前列のスケルトンが復活し、私達へ近づいていた。入口の左右から徐々に迫り来る群れ。

 

 無論、手をこまねいている道理はない。1列目左手へ走り、近いスケルトンの頭蓋骨を掴んで、首の骨から外す。すぐ後ろのスケルトンへ頭蓋骨同士をぶつけて粉砕する。

 次のスケルトンも同じように2体同時に仕留め、入口へ取って返す。

 

 かなり入口へ近づいていた1列目右手のスケルトン──腰骨を鷲掴み、その全身を投げ飛ばして、直線上の4体をごちゃごちゃに巻き込みながら壁へ叩きつけた。

 

 4体分のスケルトンがバラバラに散らばり、ガシャガシャ再生を試みている。やっぱり、ああなると再生に手間取るか。お互いの骨が邪魔してパズルのように混乱してる。

 

 そうこうしてるうち、2列目のスケルトン達がこちらへ迫っている。──見ると、もうウラヌス達は6列目に行くところだった。ホント急いでるな。

 

 2列目のスケルトンを相手したかったが、それより早く1列目右手のスケルトンが復活しかけていた。──じき追い詰められることは承知で、入口へ戻る。

 

 左から入口付近に殺到しつつあるスケルトン。2列目とも合流し、10体近くに増えてる。最前のスケルトンの腰骨へ掌底を叩きつけ、ふっ飛ばして背後の3体を巻き込む。倒れたスケルトンの頭蓋骨を踏み砕きつつ、裏拳、関節外し、掌打で迎撃。手近なスケルトンを全て行動不能にした。

 

 まっずい、もう右から入口近くに来てる。悪い足場を蹴り、入口まで一足飛び。勢いのままスケルトン数体を体捌きで押し返す。

 

「アイシャ、大丈夫──!?」

 

 メレオロンの言葉に返す余裕もなく、四肢を休まず奔らせスケルトン達を砕いていく。一刻の猶予もない。もう3列目の部隊も近くへ来てる。

 

 一瞬目をやる。ウラヌス達は──

 

 あちらに向かったスケルトンの群れは、ユリさんが蹴散らしているようだ。今8列目の途中か。後3列と少し。……保つか?

 

 もう時間がない。攻勢を諦め、入口付近で迎撃する。さいわいスケルトンは、そこまで早くない。が、数が数だ。ひたすら矢継ぎ早に襲ってくる。スケルトンのうち数体の振り回す得物が、仲間を巻き添えにしながらこちらを狙う。軌道を逸らし、斧で腰骨を砕かせ、刃で背骨を折らせる。棍棒で頭蓋骨を割らせ、ハンマーで肋骨を潰させる。

 

 ──くそっ! 重くなってきた!

 

 ほとんど入口から動かず迎撃を続けるが、一度に攻撃を叩き込むスケルトンの数が増えすぎている。押し潰すように迫り来る大群相手に、有効打を撃てなくなってきた。重量がありすぎる──直近数体ならともかく、後ろの10体まで威力が届かない。こうも防戦では強い攻撃を放てない。

 

「アイシャ、どいて──!」

 

 反射的に身を引き、入れ替わりにメレオロンがスケルトン達へ体当たり。──おそらくありったけのオーラを練り上げたんだろう。スケルトン十数体が大きく退い(しりぞ )た。

 ありがたくそのスキに、逆側のスケルトン達へ全力で蹴りを叩き込む。少しでも余裕があれば、何とかなる!

 

 ウラヌス達は、地下墓地の最奥列まで辿り着いたか。あと少し──

 

「ぐっ!?」

 

 足元も大量に埋め尽くすスケルトンのうち1体が、私の足を掴んで捕縛する。すぐさま蹴り潰すが、反対側のスケルトンが入口まで──

 

 メレオロンがシームを抱え込み、背中で防御。スケルトンから数撃受け、身体を揺らす。

 

「はぁッ!!」

 

 斜めに放った蹴りで、そのスケルトン達を吹き飛ばす。すぐ後ろのスケルトン達に押し戻されるが、ありったけ拳打の弾幕を張って、攻撃を許さない。後ろに迫るスケルトンも、蹴りを休まず放ち続けて近寄らせない。まだか──!

 

 私を手伝おうとしたメレオロン。私と彼女をすり抜け、ナイフを構えたスケルトンが、シームへ迫る。逃げるスペースもなく、無造作に突き出されるナイフ──

 

 シームは半身になってかわし、腰骨へ腕刀を叩き付けた。2つにへし折れ、地へ伏せるスケルトン。

 

 突然。

 

 スケルトン達がピタリと静止した。……あれだけザワついていたスケルトン達が、一切動こうとしない。砕けて再生中だったものも含めて。

 

 見ると、ウラヌス達は全ての棺を開け終えている。……棺を全て開ければケリがつく、とはウラヌスも言ってたけど……

 

 急に訪れた静寂。

 

 かたかたかた、と再びスケルトン達が動く。と思ったら、あらぬ方へ骨が飛んでいった。砕かれたものだけでなく、無事なスケルトンまでバラバラに崩れてからどこかへ飛び去る。

 

 地下墓地の中央に、大量の骨が集まっていく。

 

「まさか──」

 

 合体っ!? 骨がッ!? マジか、なんだその演出ッ!?

 

 私の予想通り、出鱈目な骨細工が墓地の中央で繰り広げられ、骨の巨人のような怪物が現れた。ギシギシギシギシと骨を軋ませ、巨大でいびつな頭骨をこちらへ向けてくる。

 

「後は俺達でやる!」

 

 動揺の気配もなく言い放つウラヌス。……ほぉー。こういうことになるのを知ってて、黙ってたと。で、おいしいトコは自分達が持ってくと。やってくれたよ……

 

 まぁでも、私が無傷で倒すのはちょっと無理っぽいな。66体の人骨を組み合わせた怪物なんて、重量的に太刀打ちできない。手にした得物まで合体してるから、ゆうに総重量は数トンに達するだろう。

 

「カカカカカカカカカッッ!!」

 

 骨を鳴らして嘲笑するような音を出す、骨の巨人。ズシッ! とこちらへ1歩踏み出し、

 

「みんな、伏せて耳ふさいで!」

 

 ユリさんの声。骨の巨人近くまで来て、何か仕掛けたようだ。指示通り、身を低くして耳を塞ぐ。

 

 ボゥッッ──バガァァァァァァァンンッッ!!

 

 爆音と破砕音。破片がここまで届いてきたが、大した威力もなく、負傷はしなかった。

 

 煙が晴れると、骨の巨人は木っ端微塵に砕け散って──いや!

 

 私の足元にある骨の破片が、カタカタ動いてる。こいつも再生するのか!

 

「ウラヌス!」

「大丈夫、これで──しまい!」

 

 大きく跳躍したウラヌスがバンッ! と何か踏みつけた。ピタッと破片の揺れが止まり、

 

 ぼむんッ! と地下墓地が大量の煙に覆われた。

 

 

 

『770:ボーンゴーレム』

 ランクA カード化限度枚数18

 人骨で造られた いびつで悪趣味な骨巨人

 かなりの重量を誇り 多少骨を砕いたところで 動きを止めることはない

 駆動するオーラの一点を破壊すれば倒せるが 容易く発見はできないだろう

 

 

 

 地下墓地の入口に戻ってきたウラヌスとユリさん。ウラヌスのバインダーに収まった、そのカードをじっと見る。

 

 ……ていうか。

 

「最低ランクとか言ってませんでしたっけ……?」

「言ってたよ。スケルトンはね」

「……違うでしょうに。

 スケルトン状態だとカード化しなかったんですから、実質全部合わせてランクAだったんじゃないですか」

「あー、まー……うん。そうかもね。

 コイツ、ここにしか出てこないモンスターだし、そうとも言えるかも」

 

 誤魔化すように頭をかくウラヌス。……手強いわけだよ、ランクAだと知らなかったんだから尚更だ。

 

 改めて周囲を一瞥すると、地下墓地はすっかり静まり返り、暴かれた棺だけがズラリと横たわっている。

 

「終わったの……?」

 

 呆けたように尋ねるシーム。ウラヌスは柔らかく微笑み、

 

「ああ。スケルトンメガネも取ったし、終わったよ。ここは一晩、安全地帯になった。

 トレードを済ませたら、もう帰ろう」

「ふぅー……」

 

 その場にへなへなとしゃがみこむシーム。慌てて介抱するメレオロン。

 

「大丈夫? どこも怪我してない?」

「うん……平気」

「アイシャ。

 遠目に見てたけど、かなりヤバくなかった?」

「……」

 

 ウラヌスから視線を逸らす。……大事なことを黙ってたウラヌスばかり責められないか。こっちも危うくシームを怪我させるところだった。私は多分もう少しイケたけど──いや。

 

「メレオロン、怪我は?」

「……平気よ」

「ウラヌス、メレオロンが背中に数回攻撃を受けています」

「平気だってば。全然大したことなかったわよ」

「メレオロン、背中を向けろ」

「大丈夫だってば、心配性ねぇ」

「いいから、後ろ向け」

「おねーちゃん……」

「……」

 

 嫌そうに立ち上がり、渋々といった様子で背中を向けるメレオロン。

 

 ……。ツナギの背中部分が、斜めに引き裂かれている。出血はしてないようだけど……

 

「スケルトンの手で引っ掻かれたな。

 上、脱いで」

「えぇぇぇ……ここで?」

「パッと見に血は出てないけど、俺の目には少し異常が見えるぞ。

 ちゃんと確かめさせろ」

「うー」

 

 呻いた後、バサッと上半身のツナギを脱ぐメレオロン。

 

「……ちっと皮膚が削れてるな。完璧には防げなかったか。

 痛むか?」

「うぅん……」

 

 首を振って否定するメレオロン。ダメージと言えるほどじゃないか。そもそもオーラでいくら強化しても、完全に無傷で防ぐのは難しいからな。オーラと肉体による防御両方が成功しないと。

 

「腫れてくるかもしれないし、軽く治療しとくよ。

 ……あと姉貴。あんまジロジロ見んな」

「あ、ゴメン。珍しいなと思って」

「ったく、見世物じゃねぇんだぞ……」

 

 むぅ。魔獣の背中ってだけでも珍しいんだろうけど、巨大キメラアントの背中だからな。見たいのは分かるんだけどね……

 

 

 

 

 

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