どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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オータニア編13  2000/10/5
第二百四章


 

 所変わって、オータニア。

 

 肝心要のスケルトンメガネも入手し、ゴーストホテルで待つハンゼさん達の元へ行き、無事トレードで心度計もゲット。カードを一通り入手し終わったムドラを、気分よく後にした。

 

 というわけで、今は時雨紅葉の女風呂にいる。

 

 ……1人で入れたら最高だったんだけど、メレオロンと、おまけにユリさんまでいた。普段なら心地いい檜の薫りも、楽しむ心のゆとりはなかった。

 

「アイシャちゃん、綺麗な肌よねー。

 成熟してるように見えても、やっぱり若いっていいわぁ」

「はぁ……」

 

 無理やりお背中流されているところである。さっきまでユリさん、メレオロンの身体に興味津々で、背中洗ったりシッポ触ったりしてた。ものすごいメレオロン嫌がってたけど。

 

 私は髪を洗っていたせいで、湯船への退避が遅れてしまい、ユリさんに捕まっている。……変態が湯船から私達をニヤニヤ見物してやがる。くそっ、同情してソンした……

 

「にしても、胸おっきいわよねぇ。

 これで14とか凶暴だわー」

 

 きょ、凶暴とまで言うか……。

 

「そんなことありませんよ。

 ユリさんも結構あるじゃないですか」

「私はもう20だから、これ以上増えないもの。

 むしろ減ること心配してるのに」

「……私も減らしたいんですが」

「そんな、もったいない。

 スレンダーな体型を維持しながら胸も大きいなんて、すごく貴重なのに。

 ……桜も、オッパイおっきい方が喜ぶと思うんだけど」

「な、なに言ってんですか……」

「実際見せたんでしょ、あの子に?

 反応どうだった?」

「知りませんってば、そんなの……」

「えー。一緒に寝たんでしょ?」

「寝てません。

 ……マッサージしただけです」

「お互いにマッサージしたの?」

 

 さっきから何聞いてんだ、このヒトは。湯船から変態が「ヒューヒュー」などと囃してきて、

 

「アイシャー。全身真っ赤よー」

「うるさいですよ!

 ……ウラヌスがよく疲れてるんで、マッサージしてあげただけです。……一方的に」

「まぁそうよねぇ。

 あの子にそんな勇気ないわよねー。

 桜って、ぷにぷにしてて揉み心地最高でしょ?」

「……」

 

 ぐぅぅ……! こうやって聞かれるの、ものすっごく恥ずかしいんだけど!

 

「アイシャちゃん可愛いんだから、あんまりからかってると襲われちゃうわよ?

 桜にそんな甲斐性があればだけど」

「……ウラヌスはそんなことしませんよ」

「それはそれで問題あるのよねー。

 アイシャちゃんは、それでいいわけ?」

「アタシは問題あると思うわよー。健康的な男女がそれじゃ、むしろ不っ健っ全♪」

 

 また変態がいじってくる。おのれ、後で覚えてろ!

 

「……何も問題なんかありませんよ。

 私とウラヌスは……友達なんですから」

「そうねぇ。ホント仲のいい友達よねー。

 一緒にお風呂入ったりするし」

 

 ──ピシッ!

 

 と背中に触れるユリさんの手が固まった。……メ、メレオロン、おまえ……

 

 ユリさんがぷるぷる小刻みに震えだし、

 

「……マ。

 ままま……マジですか?」

「おおマジよ。

 混浴の温泉にも何度か入ってるもの」

「あ……

 こ、混浴かぁ……そっか。

 みんなで仲良く一緒にってことよね?」

「それもあるけど、その子とウラヌス2人っきりでも入ってるわよ?

 温泉とかホテルで」

「──メレオロンッッ!!」

 

 流石に怒鳴りつける。ふざけんな、ユリさんになんてことバラすんだ!

 

「へ、へぇー、へぇー。へぇー……

 ……アイシャちゃーん。ちょーっとその辺のこと、お姉さんにくわしく」

 

 ユリさんが、私を逃すまいと後ろから抱きついてくる。ひぃぃぃ、タスケテッ!

 

 

 

 

 

 ──その頃、男風呂では。

 

「シーム、俺が悪かったって……

 元気出してくれよ」

「……別にウラヌスは悪くないよ」

 

 湯船の中でも項垂れるシーム。どうしたもんかな。

 

 メレオロンが怪我したのは自分のせいだと思い、こうやって落ち込んでいる。あれほどアイシャが苦戦した理由も自分のせいだと思い込んでる。

 

 違うと説得したいんだけどなぁ……難しい。否定しきれないしな。

 

「ボクが戦うって言わなかったら、あんなに追い詰められなかったんでしょ?

 じゃあ、ボクが悪いんじゃん……」

「んー」

 

 戦術的なことを言えば、事実その通りだ。シームとメレオロンがあの場にいなければ、アイシャは入口を守って戦う必要はなかった。あちこち動き回ってしまえば、一度に相手するスケルトンを大幅に減らせたはずだろう。アイツラ、足も遅いしな。

 

 けれどシームが戦うと言った以上、アイシャは入口を背に戦うしかなかった。もし動き回れば乱戦は避けられず、すぐシームは危険に晒されただろうから。……けど入口を守り続けた結果、窮地に陥った。俺も遠目に見ててメチャメチャ焦ったよ。

 

「でも、姉貴が焚きつけたのがきっかけだし、後押ししたのはアイシャだからさ……

 元々シームは入りたくなかったんだろ? だったら……」

「ウラヌスは反対してたよね?

 ボクが入るの」

「……まぁ」

「ユリさんだってボクにちゃんと決めろって言っただけで、むしろ入ってほしくなさそうだったもん。ボクが弱いから──」

「待てって、シーム」

「じゃあウラヌスは、アイシャが悪いって言うの?」

「……」

「違うでしょ?

 ボクが早く戦えるように、がんばってくれてるのに……」

「実際、シームも戦ったんだろ?

 ナイフを持ったスケルトンと1人で戦って、倒したって聞いたけど」

「……最後に1匹だけ。

 おねーちゃんもいっぱい戦ったのに……怪我までして」

「1匹なんて言うけど、危ないトコだったって聞いたぞ?

 ……アイシャが謝ってたよ。シームを危険な目に遭わせたって」

 

 ゴーストホテルへ向かう夜道で、俺にそう話したしな。……ずいぶん落ち込んでた。

 

「アイシャは悪くないってば……

 ボクが──」

「シーム」

 

 俺の強い口調に、シームが強張る。……言わなきゃダメか。しんどいなぁ。

 

「アイシャが悪くないなら、シームも悪くないよ。

 逆にシームが悪いなら、俺もアイシャも、みんな悪い。連帯責任だ。

 1人で責任を取ろうとしちゃダメだからな」

「ウラヌス……」

 

 近くに寄って、湯船から伸ばした手でシームの後ろ髪を撫でてやる。

 

「シームが強くなるのをサボってるなら、俺は叱ってるよ。

 でも、毎日修行してるじゃないか。これ以上どうしようってんだ」

「……。もっと厳しい修行……」

「焦って修行をキツくしたら、今度は攻略どころじゃなくなるよ。

 強くなるのも、ゲーム攻略も、どっちも大事だろ? 何の為にここへ来た?」

「……っ」

「修行だけなら、現実でも出来る。

 けど、お前とメレオロンの身体はここに来ないと治せないだろ?

 ……目的を見失うな。闇雲に強くなったところで、戦いに勝つだけじゃ全て解決したりしない」

「でも……」

 

 泣きそうな顔のシームに、俺は表情を和らげてみせる。

 

「もちろん分かってるよ。負けたら即オシマイってこともありえるからな。

 俺が言いたいのは、シームはこれまで充分かんばってきてるってことさ。だから自分を責めるな。もっと強くなれたはずなのに、なんて無い物ねだりしても仕方ないだろ?」

「……ぅん……」

「悔しいだろうけど、今はガマンしどころだよ。

 実際シームも、戦えるようになってきてるからさ。自分でも実感はあるだろ」

「……まだ、ぜんぜん足りてないよ」

「そうだな。

 だから、これからも頑張ろう。

 いざって時に、誰も怪我しないで済むように」

「……

 うん。分かった」

「ん。じゃあもう、自分を責めて落ち込むのは終わりな。

 今はしっかり心と身体を休めてくれ。リラックスするのが一番の薬だよ」

「……ウラヌス」

「なに?」

「桜のこと、忘れないでね?」

「……ぁーはいはいはい。

 約束してたな。分かってるよ、一緒に寝るんだろ」

「絶対忘れてたでしょ」

「んー? なんのことだか」

「もうっ!」

「ちょ、待てシーム! 変なトコ揉むっ……

 わ、あぶっ、待てまてっ、おぃムチャすんなっ!」

「こちょこちょこちょー」

「ぶひゃひゃ、まま、待てっつの! ぅわ、ちょっ!?」

「ぷにぃー♪」

「ぅおお待てぇ! 力いっぱい抱きつくな、っておぉい!!」

「一緒に寝るの、ウラヌスでもいいよー♪」

「よくねぇッ!!」

 

 

 

 

 

 お風呂から上がると、廊下のソファーでウラヌスとシームが並んで座っていた。

 

「あれ? こんなところで何してるの?」

 

 ユリさんが尋ねると、ウラヌスは力のない声で、

 

「あ……うん。ちょっと休憩をだな……

 ん? アイシャ、どうしたの?」

「しくしく……」

 

 私は顔を押さえ、小さな声で嘆いていた。

 

「おい、姉貴。なんかしただろ?」

「えっ? べ、べつになにも」

「じゃあメレオロン、お前か?」

「違うわよ。ねぇ、アイシャ」

「しくしくしく……」

 

 私は顔を押さえたまま、指1本だけユリさんの方に向ける。

 

「……姉貴。コトと次第によっちゃ……」

「だから、何もしてないってば。

 ちょ……

 ちょっと聞いただけよ」

「何をだ?」

「え……その……うん。

 あなた達……一緒にお風呂入ったんでしょ? 2人っきりで。

 その時のこと、詳しく聞きたいなーって……」

 

 ウラヌスが、ずるずるずる……とソファーから滑り落ちた。

 

「……。てめえら」

「だからアタシは違うってば」

「一緒に風呂入ったなんて話、テメー以外の誰がバラすんだ。

 ……あー、もう!

 姉貴、お前アイシャにマジで何しやがった!」

「誤解よ、何も大したことなんかしてない──」

「しくしくしくしく……」

「嘘吐くんじゃねーよ! 普通の様子じゃねぇだろが!

 何したって聞いてんだろっ!?」

「ぁぅ……」

 

 剣呑なウラヌス、縮こまるユリさん。メレオロンは気楽に手をパタパタ振り、

 

「要はアレよ。アイシャも口を割らなくってさ。

 アンタとお風呂で何もしてないって、ずっと言い張るわけよ。

 結局お姉さんのエッチな拷問に、最後まで耐え抜いて──」

「何しやがんだ姉貴ぃぃぃぃぃぃーーッッ!!」

「すんませんしたぁぁぁぁぁーッッ!!」

 

 その場に土下座するユリさん。気が治まらないウラヌスはダンダン地団駄し、

 

「帰れテメーはッ!! もう一切信用しねぇッ!!

 すぐ荷物まとめて出てけやッ!!」

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

「うるせぇ、今すぐマジで消えろッ!!」

「あの……ウラヌス」

 

 激怒するウラヌスに、ようやく冷静になってきた私が制止をかける。

 

「なに、アイシャ?

 ……っていうか大丈夫?」

「えっと……

 あまり大丈夫ではないんですが」

「とりあえずこのバカつまみだすから、そのあと色々話そう」

「あの、その……

 そこまでしなくていいです。……もうしないって、約束してくれればですけど」

「コイツのこと、信用するの?」

 

 私に対しても苛立つような気配のウラヌス。怒ってくれるのは嬉しいけど、ユリさんと不仲になって良いことなんか1つもないしな。

 

「信用はしています。

 その……

 ユリさんが、あなたと私が一緒にお風呂へ入ったのを気にするのは、分からなくもないですし……」

 

 天を仰ぐウラヌス。……ユリさん、ウラヌスのことをメチャメチャ溺愛してるもんな。何してたか根掘り葉掘り聞きたくなる気持ちは分かる。……ただ一緒にお風呂入っただけなんだけど。

 

「……あなた達、ホントに何もなかったの?

 一緒に寝たり、お風呂入ったりしてるのに?」

「姉貴、黙ってろ」

「ウラヌス。

 ……ユリさん、何度もそう言ってるじゃないですか。

 友達同士で楽しくお風呂に入っただけですよ。……何もありません」

「んー……」

 

 納得してない様子のユリさん。私が『絶』状態なのもあって、嘘かホントか見破れないだろうしな。オーラを見て嘘を看破できるか知らないけど。

 

 私は「ふー……」と息を吐いた後、

 

「ウラヌス、心配をかけてすいません。

 私はもう大丈夫ですから、矛を収めてください。このままだとユリさんとの協力関係も解消しそうですし、それは困ります」

「……もうそのつもりでいるけど」

 

 そんな気はしてたよ。私を守るっていう約束に抵触したからだろうけど……。なんとか説得しないと、今後に禍根を残してしまう。

 

 私は1つ息を吐いてから首を横に振り、

 

「お願いですから、やめてください。

 ユリさんの協力でどれだけゲーム攻略が進んだか、分からないあなたではないでしょう。今は仲間割れしている時じゃありません」

「でも、アイシャ……」

 

 泣きそうな顔のウラヌスに、私は無理やり笑みを作り、

 

「気にしないでください。

 メレオロンが話を盛っただけで、そんなに酷いことはされてませんから」

「……泣いてたじゃん」

「泣いてません」

 

 されてた時は流石に泣いたけどな! しつこいよ、ユリさんも……

 

 私が少し恨みがましい視線をユリさんへ向けると、彼女は軽く顔を引きつらせた後、

 

「アイシャちゃん、桜、本当にごめんなさい。

 もうアイシャちゃんから、無理に何か聞きだそうとしたりしないから……」

「……手ぇ出すな、って約束を破ったのは姉貴だろうが。

 そんな約束、どう信じりゃいいんだ」

「待って、アイシャちゃんに手を出したつもりなんてないのよ。

 ……結構仲良くなったつもりでいたから、これぐらいなら許してくれるかなって。

 調子に乗ったのは認めるけど……」

 

 調子に、ねぇ。えらく胸を弄ばれたんだけどな。ワリと本気で勘弁してほしかったよ。やたら楽しそうだったし。マジ泣きして、ようやくやめてくれたからな……

 

「ユリさん。

 私にしたことを、許したつもりはありませんからね?」

「はぃ……」

「有罪だってよ。

 姉貴、ゲットアウト」

「ウラヌス、そこまでしなくていいです。

 申し訳ないですけど、私に決めさせてください」

「……。分かったよ」

 

 拗ねた様子で顔を逸らすウラヌス。悪いけど、ここは自分の感情ではなく、私の判断に任せてほしい。

 

「ユリさん。

 ご都合が良ければ、今後も私達のカード集めに協力してください。

 ……それに私は、あなたとウラヌスの姉弟仲が悪くなるのを見たくありません」

「アイシャちゃん……」

「できれば、これからも仲良くしてくださいね?

 ……それはそれとして、もう私にヘンなことしないでください」

「うんうんうん、了解。

 約束するわ」

「アイシャ、それは甘すぎるよ……

 今でもこんなザマなのに、これからどんな裏切り方されるか分かんないよ?」

「ウラヌスはユリさんのこと、そんなに信用できませんか?」

「……、それは」

「私は信用しますよ。

 もしユリさんが裏切ったら、それは私にヒトを見る目がなかっただけのことです。

 ……ユリさんは、あなたのお姉さんですから。信用してますよ」

 

 気まずそうに顔を見合わせる、ウラヌスとユリさん。……似た者同士だよ。ウラヌスは認めたくないかもしれないけど。

 

 メレオロンがポンポンと手を叩き、

 

「はいはい、あんた達。そろそろまとめましょ。

 まずお姉さんがアイシャにしたことは罪だけど、それに対してアイシャは罰を決めた。

 お姉さんは、それを受け入れる?」

「……ええ。

 アイシャちゃんには今後変なことしないし、桜とは仲良くできるようにするわ」

「で、ウラヌス。

 アンタはこのお裁きで納得する? 納得したら、もうこの件でお姉さんを責めないこと。

 納得しないなら、アンタの責任でお姉さんをここから追い出しなさい。

 どうするの?」

「…………

 わーったよ、納得する。

 姉貴は信用できないけど、アイシャが許したんなら、俺から言うことはもうないよ」

「……ごめんね、桜」

「……。ああ」

「ん。じゃあ、これにて閉廷!

 みんな部屋に戻りましょ」

 

 誰からともなく、ぞろぞろと部屋に向かって戻り始める。ソファーに座ったままだったシームが立ち上がり、私達の後を付いてくる。

 

 はぁー。なんかくたびれちゃったよ。……それはそれとして、だ。

 

 満足げに歩くメレオロンを、じろりと一瞥し、

 

「メレオロン。

 あなたがお風呂で色々余計なこと言ってくれたの、許してませんからね?」

 

「えッッ!?」

 

 

 

 

 

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