「じゃあ、昼夜逆転はひとまず終了だな」
「にゃん」
部屋に戻ってから今後の相談をした結果、私達が夜間ゲーム攻略をする必要性があまりない、ということで方針が決まった。
ユリさんが夜に動いてくれてるわけだし、お任せしておくのが一番ではあるんだよね。夜の修行をするにしても、また機会を改めようということになった。
「で、朝起きてからなんだけど……
姉貴はソロで動いてもらうとして、俺達は攻略を休んで修行だけにしようかと思う」
「いいですね、それ!」
「うにゃ?」
「う、うん……
アイシャが賛成なのは分かったけど、メレオロンとシームは?」
「修行だけ、ねぇ。まぁいいわよ」
「うん、ボク修行がいい」
お、シームやる気あるな。……ムドラで色々あったけど、いい刺激になったなら何よりだよ。
「で、姉貴もそれで構わないよな?」
「一緒に動けるのは夜くらいだし、仕方ないわね……
ただ今日は私も休むつもりだから。
夜動く時間を調整しないといけないし、休養も取りたいもの。半日ぐらい休んで、夜になったらまた動くわ」
「ああ、全然問題ないよ。
……今日はここで泊まってくのか?」
「そのつもりだけど?」
「……まぁ金もったいないしな。それも分かったよ」
「やったー」
「やったーじゃねぇよ。
アイシャに手ぇ出したらボッコボコにするからな?」
「約束した以上、しないってば。桜も心配性ねー」
「にゃ?」
「そういう軽いノリだから信用できねぇんだろが……」
「まあまあ、お2人とも……
私もユリさんが泊まっていくことに異存ありません」
「うん、アイシャちゃんありがとね」
可愛らしく微笑むユリさん。どうも私に対して、かなり好感を持ってくれてるみたいだ。バタバタしたけど、結果的にはこれで良かったんだろう。
「さーて、寝る前にカード整理しとくか。
俺達はちょっと遅めに起きて、一度マサドラで換金とスペル補充してこよう。その後、修行開始。いつも通り夕方までだから、ちょっと長めになるかもな。
姉貴は好きな時に起きて、動いてくれりゃいいや。
今回の分け前も渡すから、1人でマサドラに行って準備を整えてほしい」
「陽のあるうちは、マサドラで一緒に動くのもマズイもんね。
分かったわ」
「にゃん」
「……ところでその子」
「ふにゃ?」
ユリさんが手を伸ばし、ウラヌスの頭上からサクラを取り上げる。抱っこして、浴衣の上から胸に押し当てるユリさん。
「にゃぅ……」
「気になるなーとは思ってたけど。
あんたが生み出したにしては、ずいぶん素直よね」
「どーゆー意味だよ」
「こーゆーところとかよ」
ユリさんの胸に遠慮なくスリスリするサクラ。うむ……仲のよいことで。
「はぁー……
俺は知らん。文句があるならそいつに言え」
「にゃっ」
「文句なんて言わないわよ。素直で可愛いって言ってるのに」
「にゃーう」
「……。つか、シーム。
オマエが出せっつったんだから、もう持っとけよ。何で俺の頭の上に乗せとくんだ」
「えー。
寝る前ギリギリまでオーラ補充してほしいもん」
「だったら予め出しとく必要ねーだろが」
「桜乗っけてるウラヌス、可愛いもん」
「やめれ」
可愛いのもあるし、可笑しいんだよな。サクラがちょいちょい反応するから尚更だ。
ユリさんは苦笑しながら、ウラヌスの頭上に再びサクラを鎮座させ、
「リーダーとしての貫禄ゼロね」
「うるせぇよ、姉貴の貫禄ゼロのくせに黙ってろ」
「ぶぅー……」
まぁほっぺた膨らませてるユリさんに、お姉さんらしさはないな。……サクラ乗っけたウラヌスにも、リーダーの貫禄なんてないけど。
相談が終わり、メレオロンとシームは別室へ。明日いつから動くか分からないが、早く寝た方がいいだろうということで、さっさと『練』の修行を終えて、布団へ潜り込む。
オーラを使い切ってくたびれたシームは、桜の柔らかい身体を抱きしめながら、暗闇の中で色々と思い耽る。
ムドラで遭遇した様々なアンデッドとの戦い。アイシャやウラヌスにも引けをとらない、忍装束を着たユリの戦いぶり。怪我をしたメレオロン。お風呂でしたウラヌスとの会話。風呂上がりに見た姉弟喧嘩──
どれも小さなことではなく、シームの中でグルグルとまとまりなく思考が渦巻く。明日、どんなふうに修行しようか──そんな考えすらまとまらない。
目が回るような錯覚に怯え、ぎゅっと桜にすがる。不安が次第に薄れていく。
「にゃ?」
布団の中で小さく鳴く声。シームは掛け布団に潜り、更なる暗闇の中で──
「……ごめんね」
「にゃぅ?」
「いっぱい迷惑かけてごめんね……」
「……」
「ボクが弱いから、みんなに迷惑かけてる……
もっと強かったら、迷惑かけなくて済むのに」
「ふにゃ……」
「ごめんね……
みんな、ごめんね……」
「……シーム」
声が聞こえたのだろう。メレオロンが起きてきて、シームのそばへ来ていた。
「おねーちゃん……ごめんね」
「シーム、あんた……
その子もそんなふうに謝られても困るでしょうに。
それ、ウラヌスに伝わっちゃうのよ?」
「……わかってる」
「シーム……
……。
ほどほどにしなさいね。……アタシが迷惑してるなんて思われたら、困っちゃうから。みんな、きっとそうよ」
「……」
「ふにゃん」
「さくら……ごめんね。ウラヌスにも伝えてあげて。
いっぱい助けてくれてありがとうって。
……これからも迷惑かけると思うけど、ごめんねって」
「にゃ、ぅにゃ……」
その後シームは黙り込み、桜を抱いたまま寝息を立て始める。
安心したメレオロンは、ようやく呼吸を落ち着けて眠りへと落ちていく。
──ウラヌスを中心に、私とユリさんが挟む形でそれぞれの布団に潜っていた。
ユリさんは寝れるのかなと思ったけど、睡眠薬を飲んでいた。そうやって睡眠と活動の時間を調整してるらしい。忍者って大変だな。
気配を探る感じ、ユリさんは静かに眠っている。……私は胸に違和感もあり、なかなか寝付けないでいた。やってくれたもんだよ、まったく……
突然、ウラヌスがびくっと跳ねた。少し様子を見てると、「くぅ……」と小さな呻き声。
「……ウラヌス、どうかしました?」
「ぅ……なんでもない。
なんでもないから」
何もなかったわけがない。今のウラヌスに何か起こるとすれば……。サクラが消えて、記憶がフィードバックした時か。その時の様子に近い。
「サクラが、どうかしたんですか?」
「……うぅん。別になんでもないって。
ごめん、変な声出して。俺も寝るから、アイシャも早く寝て」
「……ええ」
聞きだせそうにないので、私は諦めて脱力する。シームとサクラ、何かあったのかな。やっぱりシーム、ちょっと様子がヘンだったもんな。修行の時、気をつけて見ておこう。
ウラヌスも、ユリさんがずっとそばに居るから、あまり穏やかでは居られないんだろう。こちらも注意して様子を見ないとね。
……ん。私も普段と違って、あまり落ち着いてないな。もう寝よう……
──朝。多分、朝だ。
やけに身体がぽかぽか、ふわふわ……ああ、また揉まれてるよ。いい加減これも慣れてきたよ……
薄ぼんやり目を開けると、目の前にあったのは綺麗な黒髪──までは予想通りだったが。
そこにいたのは姉貴だった。俺の布団に入って、あっちこっち好き勝手に揉んでやがる。俺の顔を見て、楽しそうに間近で微笑みかけ、
「あー、起きちゃった……」
「……」
寝る前のドタバタを思い出す。一体コイツどういう神経してんだ。あれだけ徹底的に、余計なことすんなと言ったろうが。
アイシャに気づかれたくないから、出来るだけ小声で、
「姉貴……何の真似だ?」
「うーん。なにが?」
「手ぇ出すな、っつったよな?」
「うん。
だからアイシャちゃんには、手を出してないわよ?」
「……」
このバカは、やっちゃいけないことを1から10まで懇切丁寧に説明せにゃならんのか?
「それ以前に、俺達に手ぇ出すなって約束だったろうが。
姉貴がアイシャにちょっかいかけたから、改めて約束させたんだろ。
なのに、なんで俺に……」
「久しぶりにマッサージしてあげようと思って♪」
……どう言や、こっちの意図をまともに理解するんだ。この、アン・ポン・タンは!
「もう1つ、アイシャちゃんと約束したでしょ?
アンタと仲良くしてほしいって。それを果たしてるだけよ」
「……ほぅ。
俺は朝から、とっても気分悪いが」
「えー、なんで?
久々にあんたをマッサージしてあげたけど、ヘタだった?」
……。姉貴に伝えるつもりはないが、よく俺の身体を理解できてる丁寧な揉み方だよ。アイシャもかなり上手いけど、姉貴は年季が違うしな。俺を揉んでる……
「いいからやめろ。さっさと俺の布団から出ろや」
「えー。もうちょっとだけ……」
案の定クチだけじゃ聞きゃしないので、俺が布団から出ようとする。が、強引に身体を絡めて、密着させてきた。ぐわ、ちけぇ……!
「あ、姉貴っ、やめろって……!」
「んふふふ。やっぱり可愛いわね、アンタって。
男の子だなんて思えないぐらい、いい匂いするわー」
「か、ぐ、な……!」
スンスン鼻を動かす姉貴に、凄む。何の意味もなさそうだったが。
「私の身体はどう?
アイシャちゃんと比べて」
「……っ!
バカが、なに言ってんだ……!」
「アイシャちゃん、すごくいい身体してるじゃないの。
触ったことぐらいあるんでしょ? 私と比べてみて、どう?」
「アホなこと言ってんじゃねぇ……!」
「真面目に聞いてるのよ。
ほら、正直に言いなさいって」
この、バカ姉貴! なんで比べなきゃいけねーんだ! ……。なんで……?
「……姉貴。
なんでこんなことするんだ?」
「んー?
それって、真面目な話?」
「真面目な話だよ」
「それに答えたら、教えてくれる?
アイシャちゃんと私、比べてみてどうだったか」
「……
ああ、別にいいよ。だから俺の質問に答えろ」
「そうね……
昔みたいに戻れたらいいなっていう、私の願望。……アンタが嫌がってるのは分かるんだけどね。でも、私にとっては……」
「……
それだけか?」
「……今のアンタが心配。見てて、不安になるの」
そう言って、俺をぎゅっと抱きしめる姉貴。……くそ、あったけぇな。ムカつくのに、涙がにじんでくる……
ったく……俺はそばにいる人間をどんだけ不安がらせてるんだ。……ンなもん言われるまでもなく、この目で見て分かってるよ。
「……心配かけてるのは謝るよ。ごめん。
けど、こんなことされても困る。……俺には俺の生き方があるんだから。ずっと姉貴に合わせて生きられないよ」
「……
そうね。
桜も好きなヒトが出来たら、そのヒトに合わせた生き方をするんだものね……」
「……いい加減、俺から卒業してくれよ。
姉貴こそ、好きな相手うんぬんとか、そういうのあるだろ?」
「……。
いないもん、そんなの」
「俺は、そういうのの代わりにならないぞ?
姉貴は俺にこだわりすぎだよ」
「……もういいでしょ、その話は。
で、どうなの? アイシャちゃんと私の身体、比べてみて──」
「あのぉ……」
俺と姉貴が、ぎょっとして竦みあがる。拘束を緩めた姉貴から逃れ、寝たまま声の方を振り向く。
アイシャが布団から上半身を起こし、こっちを思いっきりガン見していた。
「えっと……
私、外に出てましょうか? お邪魔みたいですし……」
「あああああ!
待ってアイシャちゃん、誤解だから! えっと、これはその」
「……アイシャ、いつから?」
「その……
ユリさんがウラヌスの布団に入って、もそもそし始めたところから」
「最初っからじゃん! お願いだから止めてよ!?
なんでそれ放置すんのさッ!?」
「えぇぇ……
なんか声かけづらい雰囲気でしたし」
「俺、姉貴に捕まって大変だったんだよ!?」
「それは申し訳ないです……
続きがしたいんでしたら、部屋から出てますんでご自由に……」
「だから、すとっぷッ!!
続きとかノーサンキュー!! へるぷって言ってるじゃんか!」
「あ、はい」
生返事に脱力する。ぐぉぉぉ……俺、公開処刑されてたようなもんじゃねぇか……!
「アハハハ。
アイシャちゃん、ごめんってば。そんなに妬かないの。
桜はお返しするから、後は煮るなり焼くなり好きにしていいわよ?」
「いえいえ。ユリさんこそ、煮るなり焼くなりご自由に」
「なんで俺、料理される前提なのッ!?」
「……バカにゃんこには相応しいじゃないですか」
なんかアイシャの態度おかしくねぇ!? なんで俺、こんなぞんざいな扱いされんのッ!?
「……ともかく、私はお手洗いに行ってきますんで」
布団から出て、立ち上がるアイシャ。そっけない態度で、部屋の外へ出て行く。
「……あーあ。やっちゃった」
「やったのは姉貴だろうがッッ!!」
「うん、えっと……ごめん。
アイシャちゃんが起きてたのは知ってたんだけど、どのタイミングで止めに来るかなーって……」
「なにしてくれてんだ、テメーはぁぁぁぁぁぁッッ!?」
はぁ……朝っぱらから変なモン見せつけられちゃったよ。仲がいいのは結構だけどさ。まさか、あれほどとは……
ユリさんと私の身体を比べてどうなんて話、聞いてられないからな。止めてよかったよ。かなり勇気振り絞ったけど……気まずいなんてもんじゃなかったぞ。
……ウラヌスのこと、やっぱりユリさんも心配してたんだな。昔を知っているだけに、今の状態はよっぽどなんだろう。無理してるのが分かっちゃうんだろうな。
あー……うん。忘れよ。どうせ2人とも、部屋に戻ったら何食わぬ顔してるだろうし。……少し時間置いてから戻ろ。