どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二百五章

 

「じゃあ、昼夜逆転はひとまず終了だな」

「にゃん」

 

 部屋に戻ってから今後の相談をした結果、私達が夜間ゲーム攻略をする必要性があまりない、ということで方針が決まった。

 ユリさんが夜に動いてくれてるわけだし、お任せしておくのが一番ではあるんだよね。夜の修行をするにしても、また機会を改めようということになった。

 

「で、朝起きてからなんだけど……

 姉貴はソロで動いてもらうとして、俺達は攻略を休んで修行だけにしようかと思う」

「いいですね、それ!」

「うにゃ?」

「う、うん……

 アイシャが賛成なのは分かったけど、メレオロンとシームは?」

「修行だけ、ねぇ。まぁいいわよ」

「うん、ボク修行がいい」

 

 お、シームやる気あるな。……ムドラで色々あったけど、いい刺激になったなら何よりだよ。

 

「で、姉貴もそれで構わないよな?」

「一緒に動けるのは夜くらいだし、仕方ないわね……

 ただ今日は私も休むつもりだから。

 夜動く時間を調整しないといけないし、休養も取りたいもの。半日ぐらい休んで、夜になったらまた動くわ」

「ああ、全然問題ないよ。

 ……今日はここで泊まってくのか?」

「そのつもりだけど?」

「……まぁ金もったいないしな。それも分かったよ」

「やったー」

「やったーじゃねぇよ。

 アイシャに手ぇ出したらボッコボコにするからな?」

「約束した以上、しないってば。桜も心配性ねー」

「にゃ?」

「そういう軽いノリだから信用できねぇんだろが……」

「まあまあ、お2人とも……

 私もユリさんが泊まっていくことに異存ありません」

「うん、アイシャちゃんありがとね」

 

 可愛らしく微笑むユリさん。どうも私に対して、かなり好感を持ってくれてるみたいだ。バタバタしたけど、結果的にはこれで良かったんだろう。

 

「さーて、寝る前にカード整理しとくか。

 俺達はちょっと遅めに起きて、一度マサドラで換金とスペル補充してこよう。その後、修行開始。いつも通り夕方までだから、ちょっと長めになるかもな。

 姉貴は好きな時に起きて、動いてくれりゃいいや。

 今回の分け前も渡すから、1人でマサドラに行って準備を整えてほしい」

「陽のあるうちは、マサドラで一緒に動くのもマズイもんね。

 分かったわ」

「にゃん」

「……ところでその子」

「ふにゃ?」

 

 ユリさんが手を伸ばし、ウラヌスの頭上からサクラを取り上げる。抱っこして、浴衣の上から胸に押し当てるユリさん。

 

「にゃぅ……」

「気になるなーとは思ってたけど。

 あんたが生み出したにしては、ずいぶん素直よね」

「どーゆー意味だよ」

「こーゆーところとかよ」

 

 ユリさんの胸に遠慮なくスリスリするサクラ。うむ……仲のよいことで。

 

「はぁー……

 俺は知らん。文句があるならそいつに言え」

「にゃっ」

「文句なんて言わないわよ。素直で可愛いって言ってるのに」

「にゃーう」

「……。つか、シーム。

 オマエが出せっつったんだから、もう持っとけよ。何で俺の頭の上に乗せとくんだ」

「えー。

 寝る前ギリギリまでオーラ補充してほしいもん」

「だったら予め出しとく必要ねーだろが」

「桜乗っけてるウラヌス、可愛いもん」

「やめれ」

 

 可愛いのもあるし、可笑しいんだよな。サクラがちょいちょい反応するから尚更だ。

 

 ユリさんは苦笑しながら、ウラヌスの頭上に再びサクラを鎮座させ、

 

「リーダーとしての貫禄ゼロね」

「うるせぇよ、姉貴の貫禄ゼロのくせに黙ってろ」

「ぶぅー……」

 

 まぁほっぺた膨らませてるユリさんに、お姉さんらしさはないな。……サクラ乗っけたウラヌスにも、リーダーの貫禄なんてないけど。

 

 

 

 

 

 相談が終わり、メレオロンとシームは別室へ。明日いつから動くか分からないが、早く寝た方がいいだろうということで、さっさと『練』の修行を終えて、布団へ潜り込む。

 

 オーラを使い切ってくたびれたシームは、桜の柔らかい身体を抱きしめながら、暗闇の中で色々と思い耽る。

 

 ムドラで遭遇した様々なアンデッドとの戦い。アイシャやウラヌスにも引けをとらない、忍装束を着たユリの戦いぶり。怪我をしたメレオロン。お風呂でしたウラヌスとの会話。風呂上がりに見た姉弟喧嘩──

 

 どれも小さなことではなく、シームの中でグルグルとまとまりなく思考が渦巻く。明日、どんなふうに修行しようか──そんな考えすらまとまらない。

 

 目が回るような錯覚に怯え、ぎゅっと桜にすがる。不安が次第に薄れていく。

 

「にゃ?」

 

 布団の中で小さく鳴く声。シームは掛け布団に潜り、更なる暗闇の中で──

 

「……ごめんね」

「にゃぅ?」

「いっぱい迷惑かけてごめんね……」

「……」

「ボクが弱いから、みんなに迷惑かけてる……

 もっと強かったら、迷惑かけなくて済むのに」

「ふにゃ……」

「ごめんね……

 みんな、ごめんね……」

「……シーム」

 

 声が聞こえたのだろう。メレオロンが起きてきて、シームのそばへ来ていた。

 

「おねーちゃん……ごめんね」

「シーム、あんた……

 その子もそんなふうに謝られても困るでしょうに。

 それ、ウラヌスに伝わっちゃうのよ?」

「……わかってる」

「シーム……

 ……。

 ほどほどにしなさいね。……アタシが迷惑してるなんて思われたら、困っちゃうから。みんな、きっとそうよ」

「……」

「ふにゃん」

「さくら……ごめんね。ウラヌスにも伝えてあげて。

 いっぱい助けてくれてありがとうって。

 ……これからも迷惑かけると思うけど、ごめんねって」

「にゃ、ぅにゃ……」

 

 その後シームは黙り込み、桜を抱いたまま寝息を立て始める。

 

 安心したメレオロンは、ようやく呼吸を落ち着けて眠りへと落ちていく。

 

 

 

 

 

 ──ウラヌスを中心に、私とユリさんが挟む形でそれぞれの布団に潜っていた。

 

 ユリさんは寝れるのかなと思ったけど、睡眠薬を飲んでいた。そうやって睡眠と活動の時間を調整してるらしい。忍者って大変だな。

 

 気配を探る感じ、ユリさんは静かに眠っている。……私は胸に違和感もあり、なかなか寝付けないでいた。やってくれたもんだよ、まったく……

 

 突然、ウラヌスがびくっと跳ねた。少し様子を見てると、「くぅ……」と小さな呻き声。

 

「……ウラヌス、どうかしました?」

「ぅ……なんでもない。

 なんでもないから」

 

 何もなかったわけがない。今のウラヌスに何か起こるとすれば……。サクラが消えて、記憶がフィードバックした時か。その時の様子に近い。

 

「サクラが、どうかしたんですか?」

「……うぅん。別になんでもないって。

 ごめん、変な声出して。俺も寝るから、アイシャも早く寝て」

「……ええ」

 

 聞きだせそうにないので、私は諦めて脱力する。シームとサクラ、何かあったのかな。やっぱりシーム、ちょっと様子がヘンだったもんな。修行の時、気をつけて見ておこう。

 

 ウラヌスも、ユリさんがずっとそばに居るから、あまり穏やかでは居られないんだろう。こちらも注意して様子を見ないとね。

 

 ……ん。私も普段と違って、あまり落ち着いてないな。もう寝よう……

 

 

 

 

 

 ──朝。多分、朝だ。

 

 やけに身体がぽかぽか、ふわふわ……ああ、また揉まれてるよ。いい加減これも慣れてきたよ……

 

 薄ぼんやり目を開けると、目の前にあったのは綺麗な黒髪──までは予想通りだったが。

 

 そこにいたのは姉貴だった。俺の布団に入って、あっちこっち好き勝手に揉んでやがる。俺の顔を見て、楽しそうに間近で微笑みかけ、

 

「あー、起きちゃった……」

「……」

 

 寝る前のドタバタを思い出す。一体コイツどういう神経してんだ。あれだけ徹底的に、余計なことすんなと言ったろうが。

 

 アイシャに気づかれたくないから、出来るだけ小声で、

 

「姉貴……何の真似だ?」

「うーん。なにが?」

「手ぇ出すな、っつったよな?」

「うん。

 だからアイシャちゃんには、手を出してないわよ?」

「……」

 

 このバカは、やっちゃいけないことを1から10まで懇切丁寧に説明せにゃならんのか?

 

「それ以前に、俺達に手ぇ出すなって約束だったろうが。

 姉貴がアイシャにちょっかいかけたから、改めて約束させたんだろ。

 なのに、なんで俺に……」

「久しぶりにマッサージしてあげようと思って♪」

 

 ……どう言や、こっちの意図をまともに理解するんだ。この、アン・ポン・タンは!

 

「もう1つ、アイシャちゃんと約束したでしょ?

 アンタと仲良くしてほしいって。それを果たしてるだけよ」

「……ほぅ。

 俺は朝から、とっても気分悪いが」

「えー、なんで?

 久々にあんたをマッサージしてあげたけど、ヘタだった?」

 

 ……。姉貴に伝えるつもりはないが、よく俺の身体を理解できてる丁寧な揉み方だよ。アイシャもかなり上手いけど、姉貴は年季が違うしな。俺を揉んでる……

 

「いいからやめろ。さっさと俺の布団から出ろや」

「えー。もうちょっとだけ……」

 

 案の定クチだけじゃ聞きゃしないので、俺が布団から出ようとする。が、強引に身体を絡めて、密着させてきた。ぐわ、ちけぇ……!

 

「あ、姉貴っ、やめろって……!」

「んふふふ。やっぱり可愛いわね、アンタって。

 男の子だなんて思えないぐらい、いい匂いするわー」

「か、ぐ、な……!」

 

 スンスン鼻を動かす姉貴に、凄む。何の意味もなさそうだったが。

 

「私の身体はどう?

 アイシャちゃんと比べて」

「……っ!

 バカが、なに言ってんだ……!」

「アイシャちゃん、すごくいい身体してるじゃないの。

 触ったことぐらいあるんでしょ? 私と比べてみて、どう?」

「アホなこと言ってんじゃねぇ……!」

「真面目に聞いてるのよ。

 ほら、正直に言いなさいって」

 

 この、バカ姉貴! なんで比べなきゃいけねーんだ! ……。なんで……?

 

「……姉貴。

 なんでこんなことするんだ?」

「んー?

 それって、真面目な話?」

「真面目な話だよ」

「それに答えたら、教えてくれる?

 アイシャちゃんと私、比べてみてどうだったか」

「……

 ああ、別にいいよ。だから俺の質問に答えろ」

「そうね……

 昔みたいに戻れたらいいなっていう、私の願望。……アンタが嫌がってるのは分かるんだけどね。でも、私にとっては……」

「……

 それだけか?」

「……今のアンタが心配。見てて、不安になるの」

 

 そう言って、俺をぎゅっと抱きしめる姉貴。……くそ、あったけぇな。ムカつくのに、涙がにじんでくる……

 

 ったく……俺はそばにいる人間をどんだけ不安がらせてるんだ。……ンなもん言われるまでもなく、この目で見て分かってるよ。

 

「……心配かけてるのは謝るよ。ごめん。

 けど、こんなことされても困る。……俺には俺の生き方があるんだから。ずっと姉貴に合わせて生きられないよ」

「……

 そうね。

 桜も好きなヒトが出来たら、そのヒトに合わせた生き方をするんだものね……」

「……いい加減、俺から卒業してくれよ。

 姉貴こそ、好きな相手うんぬんとか、そういうのあるだろ?」

「……。

 いないもん、そんなの」

「俺は、そういうのの代わりにならないぞ?

 姉貴は俺にこだわりすぎだよ」

「……もういいでしょ、その話は。

 で、どうなの? アイシャちゃんと私の身体、比べてみて──」

「あのぉ……」

 

 俺と姉貴が、ぎょっとして竦みあがる。拘束を緩めた姉貴から逃れ、寝たまま声の方を振り向く。

 

 アイシャが布団から上半身を起こし、こっちを思いっきりガン見していた。

 

「えっと……

 私、外に出てましょうか? お邪魔みたいですし……」

「あああああ!

 待ってアイシャちゃん、誤解だから! えっと、これはその」

「……アイシャ、いつから?」

「その……

 ユリさんがウラヌスの布団に入って、もそもそし始めたところから」

「最初っからじゃん! お願いだから止めてよ!?

 なんでそれ放置すんのさッ!?」

「えぇぇ……

 なんか声かけづらい雰囲気でしたし」

「俺、姉貴に捕まって大変だったんだよ!?」

「それは申し訳ないです……

 続きがしたいんでしたら、部屋から出てますんでご自由に……」

「だから、すとっぷッ!!

 続きとかノーサンキュー!! へるぷって言ってるじゃんか!」

「あ、はい」

 

 生返事に脱力する。ぐぉぉぉ……俺、公開処刑されてたようなもんじゃねぇか……!

 

「アハハハ。

 アイシャちゃん、ごめんってば。そんなに妬かないの。

 桜はお返しするから、後は煮るなり焼くなり好きにしていいわよ?」

「いえいえ。ユリさんこそ、煮るなり焼くなりご自由に」

「なんで俺、料理される前提なのッ!?」

「……バカにゃんこには相応しいじゃないですか」

 

 なんかアイシャの態度おかしくねぇ!? なんで俺、こんなぞんざいな扱いされんのッ!?

 

「……ともかく、私はお手洗いに行ってきますんで」

 

 布団から出て、立ち上がるアイシャ。そっけない態度で、部屋の外へ出て行く。

 

「……あーあ。やっちゃった」

「やったのは姉貴だろうがッッ!!」

「うん、えっと……ごめん。

 アイシャちゃんが起きてたのは知ってたんだけど、どのタイミングで止めに来るかなーって……」

「なにしてくれてんだ、テメーはぁぁぁぁぁぁッッ!?」

 

 

 

 

 

 はぁ……朝っぱらから変なモン見せつけられちゃったよ。仲がいいのは結構だけどさ。まさか、あれほどとは……

 ユリさんと私の身体を比べてどうなんて話、聞いてられないからな。止めてよかったよ。かなり勇気振り絞ったけど……気まずいなんてもんじゃなかったぞ。

 

 ……ウラヌスのこと、やっぱりユリさんも心配してたんだな。昔を知っているだけに、今の状態はよっぽどなんだろう。無理してるのが分かっちゃうんだろうな。

 

 あー……うん。忘れよ。どうせ2人とも、部屋に戻ったら何食わぬ顔してるだろうし。……少し時間置いてから戻ろ。

 

 

 

 

 

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