どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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エリル編2 2000/10/5
第二百六章


 

 時雨紅葉でやや遅めの朝食を摂り、お風呂へ入る私達。流石にユリさんはもう何もしてこなかった。……今朝のこともあるだろうしな。

 

「いってらっしゃい」

 

 もう少しこの宿でのんびりしていくそうで、浴衣姿のまま玄関口で手を振るユリさんに見送られ、私達は宿を発った。

 

 しばらくオータニアの街を歩いた後、

 

「あーあ。……ったく、せいせいするよ」

 

 わざとらしく伸びをして、憎まれ口を叩くウラヌス。

 

「そんなこと言って。

 ホントは寂しいんじゃないですか?」

「ジョーダン。

 騒がしいったら、なかったよ」

 

 まぁベルさんほどじゃないけど、賑やかなヒトだったな。特に、ウラヌスとジャレてる時は楽しそうだった。

 

 

 

 軽く散歩した後に移動スペルでマサドラへ飛び、いらないカードを売って予算を確保。スペルカードショップで移動スペルを補充し。

 

 カード整理を終えた後、私達はオータニアへ帰還。ショッピングセンターで修行用品を買い揃え、修行場へ。

 

 さて、今日は夕方までたっぷり修行だ! いつもより2時間延長版、朝の楽しい修行を始めるぞー!

 

『おー……』

 

 声が小さい!

 

 

 

 ──昼食を挟みつつ、素敵な修行三昧の半日を終えて夕方。調子もいいし、名残惜しいけど、

 

「はい! 本日はここまでにしましょう」

 

 夕日の射す中、パンッと手を叩いて終了宣言すると、いつにも増して姉弟がへなへなと崩れ落ちた。結構、結構。

 

「つかれたぁー……」

「はぁー……

 今日は盛りだくさんだったわねー……」

「ムドラで課題がはっきり見えましたからね。

 しばらくは今日やった修行内容を反復しましょうか」

『えぇー……』

「明日からは修行の時間も通常に戻りますし、ペースを上げていきますよ。

 特にシームは──」

「アイシャ、アイシャ」

「あ、はい……」

 

 水を差される形でウラヌスに声をかけられ、私は我に返る。

 

「ノリノリなところ悪いけど、明日は明日でまた予定を組み立てるからね?

 相談なく色々先走っちゃダメだよ」

「……はぃ……」

 

 むぅ。……まぁそっか。攻略も当然進めないといけないしな。実戦も交えた方がいいに決まってる。修行内容は、ゲーム攻略も踏まえてまた明日考え直そう。

 

 

 

 いつものように、秋の空で美味しい和食を堪能し、食後のんびりしていたところ、

 

「──他プレイヤーがあなたに対して『交信』を使いました──」

 

 ウラヌスのバインダーが出現する。おや、誰だろう? ユリさんかな。

 

『ジェイトサリだ』

「おっ、ジェイトサリか。何の用だ?」

 

 ああ、あの渋いおじ様か。ホント、何の用かな?

 

『カードと情報のトレードだよ。

 そちらは、かなり調子よさそうだな』

「今んトコはな。どうせ後で鈍ってくるさ」

『フ……

 そうならない為にも、トレードを受けてほしいものだがね』

「前向きに考えるよ。

 トレード用に手持ちカードを整理したいから、ちょっと待ってもらっていいか?」

『ああ、構わないとも。

 こちらから連絡し直した方がいいかね?』

「いや、こっちから掛け直すよ。

 30分ぐらいしたら交信する」

『了解した。では待っているよ』

「……ブック」

 

 バインダーを消すウラヌス。湯飲みの茶を一息に呷り、

 

「はぁー……。忙しいねぇ」

「ジェイトサリさんなら、トレード相手としては申し分ないですね」

「アイシャもそう思う?

 あいつなら複製カードでも安心してトレードできるし、多分クリアできないだろうからカードも気楽に渡しやすい。

 他のヤツの手に渡ることも考えると、大盤振る舞いはできないけどね」

「ぶっちゃけ、今の手持ちカードを他のプレイヤーとどんどん交換していったら、かなり揃うんじゃないの?」

 

 メレオロンが横着な提案をするが、ウラヌスは小さく肩をすくめ、

 

「トレードしすぎると、何のカードを持ってるか周りにバレやすいって問題がある。

 それに、ある程度は自力入手しないと複製カードだらけになるしな」

 

 あー……『看破』で全部消えちゃうかもしれないってヤツか。それは怖いな。

 

「最後のクイズもありますし、自力で取れるものは取っておいた方がいいでしょうね」

「そうだね。

 まぁゲーム攻略もしっかり楽しんでいこう。

 ……じゃ。トレードの準備もあるし、そろそろ宿に帰ろっか」

 

 

 

 料亭を出て、旅館へ向かう夜道の途中、旅館の方から飛翔音が聞こえた。

 

「あ。ユリさんですかね?」

「多分そうだろうね。今の時間まで旅館に居たんだな」

「それなら、夕食にお誘いすれば良かったですね」

「でも、ズルズルとまた一緒に動きたいとか言い出すよ? きっと。

 姉貴、気分屋だからさ」

 

 フフ。かもしれないな。ウラヌスの顔見たら、気が緩んじゃうんだろうね。

 

 

 

 旅館に着き、部屋で全員のカードを確認した後、約束の30分が経ったので、ウラヌスは『交信』を使用。

 

「ウラヌスだ。交渉の準備はできたよ」

『オーケー。では、手早くトレード内容を決めようか。

 まず──』

 

 あれやこれや、ウラヌスとジェイトサリさんがカードの名前を挙げては断り、求めては考え、アレは優先したいコレは保留するなど、なかなか綺麗にまとまらない。

 

 結局、『交信』3枚分近くを費やしてようやくトレード内容が決まった。

 

『……うむ、思ったより大きなトレードになるな。

 カードもそうだが、情報交換もしたいから場所を決めて会いたいのだが』

「んー。情報交換するなら、街中がいいな。

 ……エリルに来れるか?

 あそこでソバでも啜りながら話したいんだけど」

『ふむ。悪くないな。

 エリルにいつ行けばいい? 落ち合う場所はどうする?』

「ま、入口でいいよ。

 今から30分後」

『了解した。では30分後』

 

 通話が終わった。ウラヌスは寝っ転がり、「ブック。……はぁー」と息を吐く。

 

「あのおっさんも律儀だから、なかなか落としどころが難しいのな」

「同じランクのトレードしか受けてくれませんでしたもんね」

「うん……

 もうちょっと渡しても良かったんだけど。

 まぁ交渉を長引かせて、コッチの情報を引き出したかったのかもしれないけどね。

 俺が向こうに行く時、アイシャに『周』していくから。

 マズイと思ったら無理せず、スペルで救援を呼ぶか逃走してね」

「ええ、分かってます。

 ……それにしても、おソバですか」

「ん?

 まさか付いてくるとか言わないよね?」

「いえー。別に」

「なにその未練たらしい言い方。

 いや、4人でぞろぞろ行くのもアレだし、メレオロンは人前だとソバ食えないじゃん?

 でも1人置いていくのは問題あるしさ」

「言われるまでもなく、アタシは遠慮するわよ。

 もう食べてるんだし」

「おねーちゃんが行かないなら、ぼくも行かない」

「2人でも不安だよ。

 防衛力を踏まえたら、アイシャも含めた3人で残らないと」

「はいはい、分かってますよ。

 心ゆくまで、おじ様とのデートを楽しんできてください」

「ちょっと、やめてよ……」

「あーあ。

 どっちにしてもアンタが帰ってくるまで、お風呂は遠慮した方がよさそうね」

「んー。まぁそうだな……

 疲れてるところ悪いけど、みんなもうしばらくガマンして」

 

 ふむ、3人で固まってた方が遥かに防戦しやすいからな。万一襲撃された時にお風呂でバラけてたら、1人で入るシームが危険すぎる。最近その辺の認識緩いけど……。てか、服も着ずに男風呂へ救出に向かうとかシャレにならないからな。絶対イヤだぞ。

 

 

 

 

 

 トレードするカードを複製し、アイシャに『周』を、シームにも桜を渡して、俺は移動スペルでエリルへ飛んだ。

 

 地面に降り立ち、街に目をやる。

 

 ──月の浮かぶ夜空の下、桜花びらがチラチラと舞うエリルの景色。

 

「んー……」

 

 あんまり夜には来ないけど、なかなかいいんだよなー。エリルの夜桜も。

 ……みんな修行で疲れてたから誘わなかったけど、どうせなら一緒に来たかったな。

 

 まだジェイトサリは来てないか。ちょっと早かったしな。のんびり景色を眺めながら、待つとしよう。

 

 …………。ふー…………

 

 やっぱり昔のことを思い出しちまうな。今朝がた久しぶりに嗅がされた姉貴の匂いが、記憶に甦ってきたよ。まぁ昔より良い匂いしたけど。

 

 はぁ……。あんなことされたら、帰りたくなっちまうよ……。俺をダメにしたいのか、あのバカ姉貴は。心底恨んでたのが、バカバカしくなるだろが。

 

 ……ま、姉貴はまだ許せるけど、親と里のクソどもは絶対許さねー。アイシャには悪いけど、やっぱアイツラ放置できねーもん。そんなこと言ったら、また叱られそうだけど。

 

 お? なんだ、もう来てたのか。

 

 桜の散るエリルの街並みを、ジェイトサリが俺の方へゆっくりと歩いてくる。

 

 話せるぐらいの距離まで来たところでサングラスを外し、

 

「やはりキミだったか。

 少し早く来すぎてしまって、時間つぶしに散歩させてもらったよ」

 

 移動スペルの飛翔音で気づいたんだろうな。長いことゲームにいると、あの音に敏感になるし。

 

「待たせちゃったみたいだな。ごめん」

「いや、時間通りだ。

 では行こうか」

 

 俺とジェイトサリは、並んで歩き出した。……特に話すこともなかったんだけど、桜を眺める俺をチラチラ見てくるジェイトサリ。

 

「なに? さっきからチラチラ」

「あ、いや……うむ。

 キミはここの景色によく似合うな、と思っただけだ」

 

 んー? 俺、口説かれてんの? ……まさかな。

 アイシャも似合ってるとか言ってたけど、俺の姿は俺には見えないし、分かんないよ。

 

「前にも仲間にそう言われたよ。

 やっぱり、髪の毛?」

「そうだな……

 改めて見ると、キミの髪もおそろしく整えられているな。周りの桜に負けておらんよ」

 

 そんなこと言われるとムズムズするよ……表情が緩まないようにしないと、チョロいと思われちまう。

 

「はっ。

 髪の毛ちまちまいじって、どうせ俺は男らしくないって言うんだろ?」

「……

 キミに向かってそんな台詞を吐く輩は、無粋だと思うがね」

 

 ぐ……マジで口説いてんじゃねーだろな。

 

 

 

 エリルでお気に入りのソバ屋に案内し、俺とジェイトサリはそれぞれ注文。食事が来るまでの間、雑談する。

 

「かけソバかぁ……

 俺のオススメはザルソバなんだけど」

「ザルソバは食べたことがないんでな」

「ねーの?」

「かけソバも、以前ここかどこかで食べたのが最初だよ。

 現実では食べたことがない」

「あー。まぁジャポン料理だしなぁ。

 行くトコに行きゃ食えるけど」

 

 ソバ自体は食べてる国も多いんだけど、ソバ切りはジャポン独特なんだよな。要は麺にして食い出したのはジャポン発祥ってことらしい。

 

「一度くらい試しに食ってみりゃいいのに」

「私の仲間が注文したことがあってな。

 味は悪くないが、量が少なすぎるとグチを零していたよ。

 私も見たが、アレでは腹が満たされんだろう」

「うーん……」

「現実ならともかく、ここの金は貴重だからな。

 無駄遣いはできんよ」

「オマエ、これから食う俺にそれを言うか?」

「あ、いや……

 すまない」

 

 咳払いするジェイトサリ。ま、言いたいことは分かるんだけどな。

 

「俺は夕食済ませてるから、そんなに腹減ってないんだよ。

 ザルソバ啜りたい気分だっただけだ」

「私はまだだったんでな。

 遠慮なく腹を満たさせてもらうよ」

 

 頼んでるの天ぷらソバだもんな。むしろ俺に付き合って、今まで食わないようにしてたのか。なら悪いことしたな。

 

 

 

 トレード中に料理が来ても困るので、しばらく雑談に興じる俺達。

 最近調子はどうみたいな話をしていると、何やら疲れた顔を見せるジェイトサリ。

 

「そういや、あんまり顔色良くなさそうだけど、大丈夫か?」

「うむ……

 健康には気をつけているつもりだが、仲間内で揉めることが多くて心労が溜まっているかもしれん。

 特に多いのが、カードの入手方法を忘れたり、記憶違いしているケースだな。長い時間かけて集めていただけに、一度ゲームから出たせいで色々忘れてしまったようだ」

「あー、それはそうかもな」

 

 俺も完璧には覚えてないもんな。ゲームにいる間は緊張して覚えてるけど。

 

「キミこそ具合が良さそうには見えないが、体調管理は出来ているか?」

「……まぁ気をつけてるよ。

 多忙と心労で顔色悪く見えるかもしれないけど」

「それはいかんな。

 たまには休まないと、キミが倒れたりしたら攻略が大きく滞るぞ」

「うん……

 俺もそれはイヤだから、時々休みは挟んでるよ。

 と、来たぞ」

 

 ジャポン風の衣装を着たNPCが食事を運んでくる。卓に並べられたそれらを前に、

 

「話は後にして、先に食お。腹へってんだろ?」

「うむ……それにしても、だ」

「ん?」

「やはり少なくないか、それは?

 キミが不健康なのは、キチンと食事を摂っていないからでは……」

「いや、だから夕食済ませてるからだよ。普段はちゃんと量食べてる。

 これはただの間食。おやつ代わりさ」

「……」

「そういや、食ったことないって言ってたな。

 試しに食う?」

 

 言いながら俺は、ソバつゆに薬味のすだちを搾り、大根卸しを半分入れる。

 

「ほれ」

 

 ソバつゆの椀とザルをジェイトサリの方へ寄せる。煙たそうにするジェイトサリ。

 

「いや、私は……」

「良いから一口食ってみろって。

 プロハンターが食わず嫌いとか笑われるぞ」

「む……」

 

 ジェイトサリは渋々といった様子で、自分の箸でザルからソバをひと摘みして、つゆに浸けてから丁寧に口へ運ぶ。もぐもぐと咀嚼して飲み込み、

 

「……。

 ふむ、悪くないな。なるほど、薫りを楽しむわけか」

「そういうこと。

 ソバとすだちの薫りが良い感じだろ」

「なるほどな……

 それで量のワリに、好んで食う者がいるわけだ」

 

 納得顔で語りながら、椀とザルを俺の方へ戻すジェイトサリ。

 

「気にいったなら食ってもいいぞ」

「いや、キミの食事を奪うつもりはないよ。

 私は私の分を食べる」

 

 そそくさと天ぷらソバを食いだすジェイトサリ。

 

「こちらも旨いぞ」

「知ってるよ。だからここへ案内したんだし」

 

 俺もずぞぞぞとソバを啜る。んー、酸味が利いて旨いなー。

 

「……行儀が悪いな。

 そうやって麺を、音を立てて食うのは感心せんぞ」

「ジャポンじゃ普通だよ。

 ここはジャポン風の店だから、そんなお行儀ありません」

「む……」

「気にせず、好きに食べるのが一番旨いよ。

 つか、麺は啜って食った方が旨いぞ? いっぺんやってみろよ」

「……

 ごほん。……麺を啜るのは苦手でな」

「んだよ、もー。

 可愛いこと言ってんじゃねーよ」

「いい大人をからかうな。

 好きに食べるのがうんぬんと言ったのはキミじゃないか」

「まぁな。

 じゃ、お互い好きに食べようぜ」

 

 遠慮なくソバをずぞぞぞと音を立てて啜る。あー、んま。

 

 

 

 ソバを食べ終わり、いよいよ本命のトレードに取り掛かる。

 

「こちら側の出すカードは、ランクAの『湧き水の壺』『即席外語スクール』、ランクBの『超一流パイロットの卵』『失し物宅配便』だ」

「オッケー。こっちの出すカードは、ランクAの『美肌温泉』『千年アゲハ』、ランクBの『大社長の卵』『孤独なサファイヤ』……

 問題ないか?」

「希望通りだ。ではお互いのバインダーへ、同時に収めよう」

「律儀すぎると思うんだけどな……」

「キミを疑ってるわけじゃないんだがね。

 こうしないと気持ちが悪いんだよ」

「まぁ好きにすりゃいいけど……」

 

 そうして、互いの手で相手のフリーポケットにカードをカチリと収めていく。

 

「うむ。トレード完了だ」

「はぁー……」

「……ずいぶん弛緩してるじゃないか。かなり集まってきたのか?」

「うん?

 ……いや、探りを入れるにしたって、もうちょっと聞きようがないか?」

「我々はこれで16種だ」

「いやいや、言うなよ。

 オマエそれ、絶対独断だろ?」

「信用しているからな。

 キミは絶対に他人へ漏らさないと」

「……仲間には教えるぞ」

「構わんよ。外へ漏れなければ、どうということはない。

 大した枚数でもないしな」

「……」

「別にキミが付き合う必要はない。

 ウソでも口にしづらいほど集まっているのが分かれば充分だ」

「……汚ねぇなぁ。

 絶対、他のヤツラに言うなよ? ……今回のトレードで51種だ」

「ほおぅ。

 これは予想を遥かに越えていたな……」

「別に50種程度なら、大した枚数じゃねーだろ。

 ゴロゴロいたじゃん、それぐらい」

「いや、それは以前の基準だ。

 この時点で素晴らしい速さじゃないか。キミが疲弊しているのも無理はないな」

 

 ……まぁ否定はせんけどさ。今回めちゃしんどいし……

 

「この分だと我々の助力など必要なさそうだな」

 

 茶を口にするジェイトサリ。んー、それは……

 

「……前に断った仲間の件、まだ考えてたのか?」

「収集速度が同程度ならあるいは……と思っていたがね。淡い期待だったよ。

 我々がここで8年間過ごして得た知識など、キミのような天才からすれば何の助けにもならなかったわけだ」

 

 沈んだ表情でンなこと言われても、反応に困るんだけどな……

 

「俺を持ち上げられてもな。所詮俺も、先を越された側の人間さ。

 多少集めるのが早かろうが、肝心のクリアに結びつかなきゃ何の意味もない」

「だが、今回は本気なんだろ?」

「……」

「我々もそうだった。……が、ここのところ意気消沈していてな。

 入手方法を知っていても、意外と収集に手間取ることを思い知ったよ。……というより、調べる手順が省けるせいで、かえって忙しくなる」

「あー。急いで取ろうとしちまうからな。

 知ってるなら、早く取れるだろみたいな。早く取ったら取ったで、次々ってなるし」

「それも仲間内で揉める理由の1つだな……

 みな歳を重ねたのもあって、休み休みでないと身体が動いてくれん」

 

 だろうなぁ。念能力者といえど人間だ。歳を食えば衰える。鍛錬をサボればなお顕著だ。

 

「まぁともかく、俺達が組むと人数がって話は前もしただろ?

 報酬の分配もそうだし、誰が指揮を執るんだっていうのもある」

「頭数ばかり多くても、そう上手くはいかんだろうしな」

「そうそう。ハメ組もしくじってただろ?」

「?」

 

 ん? なんで首傾げるんだ?

 

「……ハメ組とは?」

「あー、そっか。通称だもんな。

 アレだよ、前にスペル独占してたやつら」

「ああ、彼らのことか。

 大人数で徒党を組んで独占していた連中のことなら知っているよ」

「うっとうしかったよなぁ……60人以上いたらしいぞ?

 スペル買いにくくするわ、ちまちま絡んでくるわ」

「流石に連中とツェズゲラ組が台頭してきた時点で、自力クリアはほぼ諦めたよ。

 ……彼らのどちらかがクリアするものと思っていたんだがな」

 

 おっと。ジェイトサリも、連中がクリアしたんじゃないと気づいてたのか。……それが誰かまでは分かっちゃいないみたいだが。

 

「ハメ組は仲間割れまでしたらしいし、踏んだり蹴ったりだな」

「ツェズゲラ氏にいたっては、No.000を入手しておいてダメだったようだしな」

「……なんでクリアしたのがツェズゲラじゃないって思うんだ?」

「そういう話を聞いたからだよ。ハンターサイトにもそんなようなことが書いてあった」

「まぁそれは俺も見たけど……

 あれだけの情報じゃ、俺は半信半疑だったよ」

 

 俺はそのハンターサイトの情報を見た後、アイシャからクリアしたって聞かされて確信したんだしな。

 

「ふむ……私とて確証があるわけではないが。

 長年クリアされなかったグリードアイランドをクリアしたのなら、氏の性格を考えても公表しないはずがあるまい。

 彼が長年組んでいる仲間達も、功績を重ねて星を取れば、氏はダブルハンターになれるわけだからな。その機会をみすみす逃すとは思えない」

「あーうん……

 ツェズゲラの仲間って、立ち位置的にはツェズゲラの弟子っぽい感じでもあるもんな。なるほどね」

 

 確かに、ツェズゲラが金を稼ぎ続けて、結果その功績の積み重ねで星を取れたんだから、その仲間も弟子として扱って星を取らせれば、自動的にツェズゲラもダブルになれる、か。……やるだろな、アイツの性格なら。

 

「氏に対して、あまり良い感情は持っていないようだな」

「んー、まぁ。

 一度仲間に誘われたけど、断ったしな」

「そうだったのか……

 いや、驚くほどでもないか。シングルであるキミを誘うプレイヤーは、いくらでもいただろうな」

「……

 正直、俺の力をアテにするような連中なんて、期待はずれもいいところだよ。

 そもそも信用できるヤツもなかなかいなくてね。このゲームじゃ仕方ないんだけど……

 選り好みした挙げ句、ソロプレイで行き詰まってバカ見ちまったよ」

「なら、なぜツェズゲラ氏と組まなかったんだ?

 彼は間違いなくクリアに最も迫ったプレイヤーだったと思うが」

「キライだから。

 あいつとはウマが合いそうになかった。……金さえ出せば何でも売りかねないヤツに、能力を晒すなんてまっぴらゴメンだよ」

「ふむ、そういうことか。

 いずれにしろ、彼もクリアできなかったのなら、キミの見立ては正しかったわけだ」

「……ハメ組にも誘われたしな」

「連中は誰彼構わず、声をかけていたようだが」

「いや、前のじゃなくて今のハメ組だよ」

「うん? 今のとは?

 彼らは瓦解したんじゃないのか?」

「残党がいる。全員がゲームから出たわけじゃないんだ。

 単に脱出できないヤツもいるだろうけど、中には今回クリアを目指してる連中もいる。今までに得た知識を駆使してな」

 

 ジェイトサリは難しい顔でヒゲをさすり、

 

「ふぅむ……そうか。

 まぁ連中の一部がまだゲーム内に残っているのは知っていたがね。あのニッケスがいるからな」

「ニッケス?」

「キミがハメ組と呼ぶ連中のリーダーだよ。……いちおうな。

 そもそも我々は、彼が率いていると知っていたからニッケス組と呼んでいた」

 

 ……アイシャから聞いた感じ、ハメ組の立役者はゲンスルーだったはずだけどな。でもアイツは後々裏切るつもりだったから、意図的にリーダーの位置から一歩引いてたわけか。

 

「まぁ今は人数が少なすぎて、スペルを独占するハメ技みたいな真似できないだろうから、ハメ組なんて呼ぶのは適切じゃないよな。

 今もニッケスがいるなら、残党のリーダーも結局そいつか……」

「おそらくな。

 相変わらず人数を集めようとしているらしいが、上手くいっていないようだ。

 人海戦術に頼っている限り、今回も連中はクリアできないだろう」

「ずいぶん辛辣なこって。

 前から同じこと何度も聞いちゃいたけど」

「烏合の衆、と自ら喧伝していたようなものだからな。愚か者だよ、彼らは。

 私は、ソロプレイで果敢に挑んでいたキミのような人間こそ、クリアするに相応しいと思っている。

 ……あの連中以前にも、50人でゲームを開始したプレイヤー達がいたしな」

「あー。

 そんなようなこと、ハンターサイトにも書いてあった」

「多分、そいつらのことだ。

 モノの見事に壊滅したらしいがね。当時のゲーム内で、ブラックジョークにすらされていたよ」

「そりゃ……なぁ。

 ゲームの前知識もなく有象無象の念能力者が集まったところで、岩石地帯でボコられてパニックに陥ってオシマイだろ」

「キミが言う通りの結果だな。

 仲間割れして散り散りになった挙げ句、現実に帰還すらできない有様だったそうだ」

「ハメ組の末路と大差ねーよな……」

「まるで実力が伴っていなかったんだ。仕方あるまい。

 プロハンター3人を含んだチームだったようだが、恥晒しもいいところだろう」

「プロっつってもピンキリだもん。

 ジェイトサリに言わせりゃ、プロハンターの沽券に関わる、だっけ?」

「フ……覚えていたか。

 少数で達成できるはずのミッションに大部隊で挑むなど、プロハンターとして恥ずべきことだと私は考えている」

「まぁ……このゲームが少人数適正なのかはさておき、大人数で挑んで全く通じなかったなんてのは、ちと恥ずかしくはあるわな」

 

 

 

 その後も情報交換を兼ねた雑談を続け、とりあえずクリア前後で変わった情報として、美を呼ぶエメラルドの入手方法が変わっていたことも教えてやった。多分取れないだろうけど。

 

 あらかた話も終わり、遠慮するジェイトサリに構わず、俺は2人分のソバ代と土産代を払って、店を出た。

 

 桜花びらの舞う中、俺達は向かい合う。

 

「馳走になったよ。……いや、本当に有意義な時を過ごせた。

 キミを仲間に引き込めなかったことが心底悔やまれる」

「諦めろって……

 いちいち断る俺も心苦しいんだから」

「それは済まなかったな。

 ……またいずれ、トレードの話を持ちかけさせてもらうよ」

「ああ」

 

 近づいてくるジェイトサリ。また握手かと思ったら、今度は速攻で俺を抱きしめてきた。

 

「……こらこら、ジェイトサリ」

 

「健康には気をつけることだ。

 武運を。ウラヌス」

 

 ……ったく。そんなに心配されると、かえって気を使っちまうだろ。……仕方なしに、俺もジェイトサリの身体に手を回し、ぽんぽんと背中を叩いてやる。

 

「心配してくれてありがとな、ジェイトサリ。

 ……あんたもいい歳なんだから、無理すんなよ」

 

「フフ……そうだな。

 私はもう少し花見をしてから帰るとしよう。では、達者でな」

 

 俺を解放して、夜の桜並木の中をジェイトサリは歩いていった。

 

「ばいばい、ジェイトサリ」

 

 そう声をかけると、片手を上げて背中で応えるジェイトサリ。

 

 ……俺も、街の入口まで花見してくか。帰りを待ってるアイシャ達には悪いけどね。

 

 

 

 

 

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