どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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チャンタ編 2000/10/6
第二百八章


 

「千里眼の蛇を知らないか?」

「あー……最近見かけないって話は聞くな」

「一坪の密林を知らないか?」

「一坪の密林? なんだそりゃ?」

 

 

 

「千里眼の蛇を知らないか?」

「そういえばここのところ見かけないな。前に見たことはある」

「一坪の密林を知らないか?」

「一坪の密林? 知らないな」

 

 

 

「千里眼の蛇を知らないか?」

「ああ、千里眼の蛇か。聞いたことはあるよ」

「どこに居るか知らないか?」

「さぁ、そこまでは……」

「一坪の密林を知らないか?」

「一坪の密林? 聞いたことないな」

 

 

 

「千里眼の蛇を知らないか?」

「以前は、街の回りの密林で稀に目撃されてたんだが……

 貴重な蛇だから、あまり獲らないでもらいたいもんだね」

「一坪の密林を知らないか?」

「一坪の密林? さぁ……」

 

 

 

「千里眼の蛇を知らないか?」

「あなた達、密猟者?」

「いや、違うよ」

「そう……昔と比べてずいぶん数が減ってきているそうよ。

 もしかしたら密猟で狩り尽くされたかも」

「一坪の密林を知らないか?」

「一坪の密林? いえ、知らないわ」

 

 

 

 30人ほどチャンタのNPCに聞き込みをしたウラヌスが、樹に寄りかかりながら溜め息とともに結論を出す。

 

「ま、姉貴の言ってた通りだな。

 一坪の密林は元々こんな感じだけど、千里眼の蛇まで取れなくなってる。

 ダメだこりゃ」

「私がソウフラビで、一坪の海岸線の聞き込みをしていた時と全く同じですね。

 条件を満たさないと一切ダメなパターンだと思います」

「うん……

 せめて一坪の方は、長老とやらの居場所を探し出すだけはしとこうか。

 ただ、千里眼の蛇はなぁ……

 姉貴がいちおう密林で探したけど居なかったっつってるし、『名簿』でも0だった」

「ずいぶん欲しがってるけど、蛇って何か使えるの?」

「……ランクC以上のカードを食わすと、代わりに『念視』をくれる。

 競争が激化するゲーム終盤では、必須のアイテムだよ」

「じゃあ早めに取らないと」

「言うが易しだよ。

 美を呼ぶエメラルドのことがあるから、こっちでも聞き込みしてみたけど、これじゃあなぁ……元々が密林で発見するだけのアイテムだったのに、えらく難しくなってる」

 

 実のところ、『道標』で示された場所はここではなかったので、取れないことは分かり切っている。

 千里眼の蛇がある場所は、ソウフラビ。クリア前はチャンタで取れたので、こうやってチャンタでも聞き込みをしてるわけだ。エメラルドの件を考えれば当然だけど。イベント開始地点もソウフラビに変わってるとは限らないからな。

 

「前と同じで、偽物があるとか?」

「……かもな。いや、そもそも蛇の偽物は居るんだよ。明らかに似たようなのが。

 記憶が曖昧だけど、クレアボアって蛇が居て。千里眼の蛇かと思って獲ったらハズレ、ってヤツ。ランクが高くて良い値で売れるから、純粋にハズレでもないんだけど。

 もしかしたら、こいつが必要かもしれないな……」

「千里眼の蛇の情報、トレードショップで聞いてみますか?」

「……うん、まずはそれだね。

 ランクAだから聞けるの忘れてたよ。入手法が変わってるし、アテにはならないけど」

 

 

 

 というわけでチャンタのトレードショップに行き、千里眼の蛇について聞いてみたが。

 

「ソウフラビに居る飲んだくれの親父が、何か知ってるかもしれない、か。

 ヒントにしちゃショボすぎるな……」

「大体お酒飲んでるNPCなんて、いっぱい居るでしょ? 誰に聞きゃいいのよ」

「探しまくるしかないかなぁ……」

 

 うんざり顔でチャンタの街並みを歩く私達。うーん……

 

「……あの」

 

 3人の目が、声を発した私に集まる。

 

「私、心当たりありますけど……

 ソウフラビの夜は酔ってるNPCも珍しくないんですが、1人だけ明るいうちからお酒片手にフラフラ徘徊してるヒトが居て」

「あー……多分そいつだね」

「話しかけても、会話にはならないんですけどね。

 見たまんま、べろべろに酔っ払ってるんで」

「でもそれ、クリア前の話でしょ?

 今なら、話ぐらいしてみる価値はあるんじゃない?」

「アイシャが良かったら、そいつがうろついてた辺りに案内してほしいかな。

 ソウフラビに行くのが嫌なら、無理強いしないけど」

「……いえ、構いませんよ」

「うん。

 じゃあまずチャンタで長老を探して、それからソウフラビに行こう」

 

 だから言いたくなかったんだよなぁ。……ま、いいか。役に立てそうだし。

 

 

 

 ヒマ、という名前のお爺さんについて聞き込みをしたら、すぐ居場所を教えてもらえた。実際行ってみると、そこにあったのは手作り感のすごい、樹の途中に作られた質素なお宅。

 

「なんか鳥小屋みたいよね……」

「でっかい鳥小屋みたいなもんだよ、実際。

 壊れたり落ちたりはしないと思うし、とりあえず登ろう」

 

 というわけで、樹に掛けられた梯子を1人ずつ登る。……ウラヌスは一番最後に。

 登り終えたウラヌスに、メレオロンは呆れ顔で、

 

「覗かれて困るなら、穿きなさいよ」

「うるせぇ」

 

 あーきこえないキコエナィ。

 

 ともあれ、鳥小屋もとい長老の家に入る私達。中も鳥小屋かと思うような質素ぶりで、藁で編んだ敷物の上に、白髪のお爺さんがうとうとしていた。

 

「邪魔するよ」

「んー……

 なんじゃ、おぬしら? 客人とは珍しいのぅ……」

「アンタがヒマか?」

「そーじゃ。ワーシがヒマじゃ。

 この街を築きあげた長老様じゃ。ファッファッファ!」

 

 うーむ……

 

「一坪の密林を知らないか?」

「あー。よく聞こえんのぅ」

「一坪の密林、を知らないか?」

「あー。よく聞こえんのぅ」

「……」

 

 ダメだ。フラグを立ててこないと、一切イベントが進まないパターンだ。

 

「アレじゃないですかね?

 一坪の海岸線みたいに──」

「チャンタに来る時、何かの条件を満たしてないと話が進まない、か……

 でも海岸線の時もそうだけど、そのヒントが無いんじゃなぁ」

「この街で他のイベントをクリアしたら、何か教えてくれるんじゃないの?」

「ソウフラビだと、そういうのもなかったんですよ……」

「そう考えると、こっちも期待薄かな。

 ま、条件を満たしたかどうか確認する相手が分かってるだけマシか」

「……あのさ」

 

 今日は基本黙り込んでるシームが、おずおずと手を上げてくる。

 

「ソウフラビだと、『同行』で15人以上だったんだよね?

 じゃあ、こっちもそうとか?」

「ないとは言い切れないけど、試すのも難しい条件だな。

 頭数を集めて違ったら笑えないし、違う可能性の方が高いから……」

「プレイヤーの人数が条件に絡むと、かなり厳しいですよね……

 人数が多いチームで挑まないと、報酬の奪い合いになりかねないですし」

「それも怖いよね。限度枚数がたった3枚だからなぁ……

 とはいえ、取り方が分からないんじゃどうしようもないよ。

 流石に誰とも協力しないのは、現実的ではないかも」

「そうですね……協力なしで海岸線はまず取れなかったですから。入手条件を探る為にも充分な人手は必要だと思います」

「ソウフラビのケースは、まだ偶然発見することも有り得るけど、こっちもそうなのかな……? いずれにしても、他のプレイヤーと協力しないと無理そうだね。

 ま、同じ条件かどうかは確かめられるけど。いずれソウフラビには挑戦するんだから、そのついでにチャンタへ飛んで、この爺さんに確認すればいいわけだし」

 

 ふむ……。まぁ現状の調査はここまでかな。手掛かりが無い以上、調べても時間の無駄だろう。

 

 

 

 そして、ソウフラビへ飛ぶ私達。うんざりするほど聞いた波の音を耳にしながら、私は例の酔っ払いが居た辺りへと案内する。

 

「確かこの辺に──

 あ、居ました! あのヒトです」

 

 私が指差す先に、ヒゲは伸ばし放題、髪の毛ぐしゃぐしゃ、服もシワクチャの、一言でどうしようもないと説明するだけで終わるおじさんが、酒瓶片手に千鳥足で歩いていた。

 

「ぅわー。

 あそこまで酷いとは思わなかったわー」

「……おねーちゃんも酷いもんだからね?」

「えぇー。あんなに酷くないわよ」

「普通はぶっ倒れるしな、ああまで酔うと。

 アレはNPCだから誇張してるんだよ。……現実でもヒドイのはいるけど」

 

 ともあれ、悪口ばかり言ってても始まらないので、私が話しかける。

 

「千里眼の蛇を知りませんか?」

「あぁー!? ぬぁんだ、いきなりよぉ……

 ききてーことがあんなら、まずだすもんだせってんだよぉー!」

「ぅわあ」

 

 メレオロンがドン引きしてる。対してウラヌスは冷静に、

 

「アイシャ、前の時と同じ反応?」

「いえ、違いますね。

 以前は話しかけても、反応すらしなかったですから」

 

 そもそもグリードアイランドは、話しかけた全てのNPCがまともに応答するわけじゃないからな。沈黙しか返さないゲームキャラもいる。一坪の海岸線で重要な情報をくれる、あの女性キャラもそうだったし。

 

「で、何渡せばいいのよ?」

「トレードショップのヒントでも言ってただろ?

 酒が好きだから、渡してやれば教えてくれるかもって」

「……」

 

 メレオロンに視線が集中する。ぎょっとするメレオロン。

 

「えっ!? ちょっと待ってよ……

 アタ、アタシのお酒?」

「ちょうどいいじゃないですか」

「おねーちゃん、ゲーム攻略の為なんだから協力してよ」

「まま、待ってってば……

 ここでもお酒ぐらい売ってるでしょ? アタシのをわざわざ……」

「アイシャ、試したことある?

 このNPCにお酒渡したりとか」

「いえ、ありません。そもそも以前は会話にすらなりませんでしたから。

 ここにもお酒は売っていますが、あまり上等なモノはなかった気がしますね」

「だとさ。

 酒を渡すだけじゃ条件が緩いし、ここに売ってない酒とか、渡す酒が一定の価格以上、ってのが条件かもしれないからな。アキラメロン」

「えええぇ……

 楽しみにしてたのにぃ。……またバルカン、行ったりしない?」

『行かない』

 

 絶望でしなびたメレオロンの顔は、悪いけど面白かった。

 

 で、メレオロンから徴収したお酒をゲインして渡してみる。

 

「んんー?

 ……いちおーこいつぁもらっといてやっが、このみのさけじゃあねぇなぁ……」

「だったらかえせぇーッ!!」

 

 暴れるメレオロンをウラヌスが取り押さえる。まだ話してる最中なんだから邪魔するんじゃない。

 

「ききてーことがあんなら、あれよ……

 しろざくらってぇ、うめぇーさけがあんのよ……そいつぉもってこいやぁー」

 

 お、ヒント来たぞ。しろざくら……たぶん白桜、か。

 

「ウラヌス。

 白桜なんて銘柄のお酒、バルカンにありましたか?」

「うーん……

 記憶にないかな。見かけてたら覚えてそうなもんだけど」

「だったら、もう一度行って探してみましょうよ!」

「見落とした可能性もなくはないけど……

 イベントクリアで取れる酒だったら難しいな。トレードショップで聞いてみるか」

「だからもう一度バルカンへ探しにー!」

 

 全員、無言で却下した。……行かなきゃいけないならともかく、今のところはねぇ。

 

 

 

 そして、ソウフラビのトレードショップへ来てみたけど──

 

「しろざくら? なんだそりゃ?」

 

 おおぃ。そんなアイテム無いって言われたぞ。

 

「どういうことなんでしょう……?」

「正確なアイテム名じゃないのか。

 マズイな……それじゃ聞き込みもできないし、調べる方法がない」

「ねぇウラヌス」

「なに? シーム」

「桜って名前が付いてるし、エリルにあるんじゃないの?」

 

 ッ!! なるほど、ありえるな!

 

「かもしれないな。

 ……うん、ちょっと探してみるか。酒屋に売ってるかぐらいなら、そんなに調べるのも手間じゃないしな」

 

 

 

 そしてエリルへ飛ぶ。うーん……やっぱりいい景色だなぁ。

 

「ここへ来ると、ほんわかしちゃいますねー……」

「そうだね……

 年中お花見できるし、いいところだよ」

 

 風が吹き、街並みを美しく彩る桜吹雪をしばらく目で追う私達。

 

「……さて、そろそろ行こっか」

「アテはあるんですか?」

「この街は、なんだかんだで結構歩いてるからね。

 完璧とは言えないけど、何となく酒屋のあった場所は覚えてるよ」

 

 それは頼もしい。ここはウラヌス姫にお任せするとしよう。

 

 

 

 華やぐ桜並木の道を、私達は普段よりのんびり歩いていく。

 

「で、お姫様。

 あのおじさんとのデートは楽しかったの?」

「おい、メレオロン……」

「なんだか帰ってきた時、上機嫌でしたよね。

 ぷにぷに姫様、やっぱりおじ様に抱きしめてもらったんですか?」

「ちょっ……アイシャまでー。

 だからデートなんかしてないってば。普通にメシ食って話して帰ってきただけだよ」

 

 どうだか。そのワリには、ずいぶん焦ってるじゃないか。顔も赤いしさ。

 

「ウラヌスって、ここだとお姫様そのものだよね♪」

 

 言ってシームは、ウラヌスの横に並んで腕を絡める。おおぅ。

 

「おっ、シームやるじゃない。

 今から2人でデート?」

「うん!」

「やめぃ。

 ……いやまぁ手ぇ繋ぐくらいならいいけど、腕絡めるのはヤメロ。恥ずぃ……」

「ん。いいよ」

 

 2人は手を繋ぎ、そのまま歩き出す。おーおー、イチャついてくれちゃって。

 

「ほら、アイシャ。

 アンタからもアプローチしないと、ホントに盗られちゃうわよ?」

 

 小声でボソボソとメレオロン。……うるさいな。この空気で私にどうしろって言うんだ。

 

 

 

 

 

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