どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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エリル編3 2000/10/6
第二百九章


 

 手を繋いで楽しげに歩くシーム。ウラヌスも照れてはいるけど、悪い気はしない様子。まぁ邪魔する気にはなれないよね。

 

「そういえばさ。白桜っていう桜はないんだね」

「うん?」

「ほら。トレードショップで聞いても、そういうアイテムはなかったわけでしょ?

 ここで取れる桜にもなかったじゃん」

 

 ふむ……確かになかったな。いかにもありそうな名前なんだけどね。

 

「あー、そういう意味か。

 アイテムとして存在しないのは確実だな」

「ここにないだけで、白桜って現実にはあるの?」

「んー……

 厳密に桜の品種としては、ない。そう呼ばれる桜がないわけでも、ない」

「どういうこと?」

「通称、白桜ならあるってこと。

 正式名称じゃないだけで、別の呼び方で白桜ってのはある。いくつかそう呼ばれる樹があって、ちょっと正確にどれだったかは覚えてないけど」

「へぇー」

「まぁ言葉としてある以上、そういう銘柄の酒があっても不思議じゃないな。

 酒造って植物ありきだから、やっぱり命名も植物からすることが多い」

「ふぅーん」

 

 あれだな。バルカンでお酒の雑学を披露してたの、まだ引きずってる感じだ。シームの教育にいいかどうか微妙なんだよね。

 

 

 

 さて、ウラヌスが案内したのはエリルでも一番大きな酒屋。いかにもありそうな場所として最初に案内してくれた。

 

 で、いきなりあったんだけど……

 

 

 

『12015:銘酒白桜』

 ランクH カード化限度枚数808

 甘口で 透明な味わいが魅力の 純米大吟醸酒

 

 

 

 15万ジェニー……高ぇよ。バルカンでもそうそうなかったぞ、こんなの。

 

「手持ちじゃ足んねぇし……

 くそっ、二度手間になるな」

「アタシもちょっと飲みたかったなぁ、これ……」

「やめとけ、やめとけ。

 基本的に高い酒の味なんて、値段に見合わねぇんだから」

「飲んだこともないくせに、えらっそーに」

「う……

 別にいいだろ、そういう知識を持ってるってだけで。酒に限った話じゃないだろ、料理とかさ」

「まぁそうですね……」

 

 高級な料理が、必ずしも自分の舌に合うとは限らないもんね。美味しくても、値段相応かと聞かれたら首を傾げたくなる料理もあるし。

 

「せめてここで、何かお土産買ってもいい?」

「おねーちゃん?」

「いいじゃない、選び抜いた1本を攻略の為に差し出したんだから。

 こんな高いの買わないからさ」

「……まぁ1本だけな」

「もぉー。

 おねーちゃん、早くしてね?」

「はいはい。

 ……でもここ、カードで並べてるのよねぇ。現物じゃないと選びにくいんだけどなぁ」

 

 バルカンだと現物並べてるお店も結構あったんだけどね。ここはお酒がメインの街じゃないし、仕方ないかな。

 

 

 

 ちゃっかり1本8000ジェニーくらいのジャポン酒を買い、気分良さげなメレオロン。バルカンで買った果実酒より高いじゃないか。

 

「ウフフ、楽しみだわー」

「……」

「シーム、そう邪険にするなって。

 量さえ気をつければ悪酔いしないだろうしさ」

「……でもさ。あれ、ゲインしたら飲み切らないと荷物になるじゃん。

 液体だし、中身あるの持って歩いたら重いと思うんだけど」

「あ、うーん……」

「荷物の邪魔になるだろうし、絶対酔うまで飲むと思う」

「気をつけるってば。心配性ねぇ。

 毎晩飲めば、流石にすぐなくなるでしょ」

「……」

 

 ずいぶん警戒してるな、シーム。分からなくはないけど。

 

「メレオロン。

 オマエ、酔っ払って何かやらかしたら、その酒没収するからな。つか捨てる」

「えーっ!?」

「えーじゃない。

 これだけシームが嫌がってるの強行したんだから、約束を破った時の罰はちゃんと用意しないとな。酔うまで飲まない、それを約束しろ」

「……分かったわよ」

「飲んだことない酒なんだし、よくよく気をつけろよ?

 シーム、これでいいか?」

「うん……」

 

 ま、悪くない落としどころかな。

 

「話が付いたところで、これからどうします?

 このイベント、まだ続けます?」

 

 ウラヌスは面倒そうに首を横へ振り、

 

「んーん。もういいと思う。

 大体イベントの流れは分かったし、情報まとめて姉貴に押し付けようかなって」

「あー。アンタ酷いわねぇ」

「もうこれ以上、酒絡みは勘弁だよ……

 どうせ姉貴なら、恩着せがましくやってくれるし。15万もこっちから捻出すんの、バカくさいしな。うん、姉貴にやらせよ。決定」

 

 なかなかエゲつないな、ウラヌスも。……とはいえ、これ以上あちこち回って修行時間削られるのも困るしな。

 

「アイシャはそれでいい?」

「仕方ありませんね。修行の時間が削れても困りますから」

「あ、はい……」

「ところでお昼はどうします?

 私、希望あるんですけど」

「うん?

 どっか行きたいトコあるの?」

「ほら、昨日おソバ持って帰ってきたじゃないですか。

 そのおソバ屋さん、エリルにあるんですよね?」

「そういうことか。

 うん、アレはエリルのおソバ屋で買ったヤツだよ。

 昨日ジェイトサリとメシ食ったトコ」

「美味しかったんですけど、ちょっと時間が経ってたのもあって……

 どうせなら出来立てをいただきたいなと思いまして」

 

 おソバが乾いてたんだよね。ほぐし水も付いてたけど、それでも少し食べにくかった。

 

「あー、ごめん。なるほど、了解。

 新鮮なおソバが食べたいなら、お昼はそこでいいかな。2人ともそれでいい?」

「いいわよ、別に」

「うん、昨日のおソバ美味しかったし」

 

 ふふ、シームも気に入ったみたいだね。何より何より。

 

 

 

 まだ11時だからお昼にちょっと早いけど、ウラヌスおすすめのおソバ屋『手打ち蕎麦 春雨庵』へ。実に和風な店内で、いかにもおソバ屋な雰囲気が嬉しい。馴染みの感覚だな。

 

「バルカンでも食べ歩いてるし、ソバくらいだと軽くていいかもね。

 ま、これから修行だから、好きに頼んでいいけど」

「やなこと言わないでよー」

「嫌なことってなんですかね、メレオロン?」

「さぁ?」

 

 まったく。ちゃんと修行するクセに、文句もぶちぶち一丁前に言うんだよな。……別にいいけど。私、師匠じゃないし。

 メニューを眺めるシームが、眉をひそめたまま、

 

「……ウラヌスのオススメって何?」

「んー。オススメは昨日食ったヤツなんだよな。

 他のって言われると、甲乙付けがたい」

 

 ふーむ、悩ましいな。昨日の盛りは頼むとして、1枚じゃ絶対物足りないしな。……お、なんか面白いのあるぞ。

 

「昨日食べたのは冷たいおソバだったけど、温かいのは美味しい?」

「うん、もちろん美味いよ。

 ジェイトサリは定番の天ぷらソバ食ってたな。このエビ天って書いてあるヤツ」

「天丼も美味しそうよね」

「ソバ屋に来てソバ以外食うのもアレだけど、それも美味いよ。

 腹いっぱいになっちまうけどな」

 

 目移りしちゃうな。カツ丼は……ちょっとアレか。ここは天丼だな。

 

 あれこれ悩んだ末、全員メニューが決まったので、ウラヌスが店員さんを呼ぶ。

 

「すだち下ろしの盛り1枚、月見ソバ1杯、天丼1杯で。

 後でデザートに、ソバ白玉アイスぜんざいを1つ」

 

 私がそう頼むと、3人が引く気配。

 

「……なんですか」

「いや、色々食べ歩いてたのに、ずいぶん頼むなぁと思って」

「ていうか何よ、ソバしらたまアイスぜんざいって」

「蕎麦粉で作ったアイスと白玉の入った善哉です」

 

 わざわざNPCが解説してくれる。当然ながら、メレオロンが不可解そうに首を傾げる。

 

「そんなに不思議がらなくても、見れば分かりますよ。

 ……私もソバアイスなんて食べるの初めてですけど」

「かー。チャレンジャーだね、アイシャは。

 俺はすだち下ろしの盛り1枚で」

「ボクも同じの」

「アタシは天丼1つ」

「ご注文は以上で?」

「みんな、大丈夫? 特にアイシャ」

「失礼ですね。もう充分です」

「うん、大丈夫」

「アタシもよ」

「以上で」

「畏まりました。少々お待ちください」

 

 

 

 すだちと大根下ろしのソバも美味しかったけど、意外にソバアイスが絶品だった。ふふ、羨ましがってもあげませんよっと。

 

「やっぱりつぶ餡はいいですねぇ……」

 

 私が善哉の感想を口にすると、ウラヌスはお茶を一口すすり、

 

「アイシャ、善哉なんて食べたことあったんだ。

 ジャポンぐらいでしか食べられないと思うんだけど」

「ええ、まぁ……

 これでもジャポン暮らしはそこそこ長いんで。

 個人的にはお汁粉より好きです」

「つぶ餡のお汁粉とか、こし餡の善哉もあるらしいけど、ふつー善哉はつぶ餡らしいね」

 

 へー。私はつぶ餡の善哉しか知らないな。……というかジャポン時代は男性だったから、そんなにしょっちゅう和のスイーツは食べられなかったんだよね。お汁粉はお正月によく食べてたから知ってるけど。

 

「なんとも色気のない会話ね、アンタ達……」

 

 呆れ顔のメレオロンに、ウラヌスが不機嫌な目を向け、

 

「別にいいだろ、ただの雑談なんだし」

「デートらしい会話ってのがあるでしょうに」

「……デートなんかしてねーよ」

「昨日のおじさんとのデートはどうだったの?

 ここでお互いに、愛を語りあったりしたんじゃないの?」

「アホかオマエは。

 ……ジェイトサリのことはそこそこ気に入ってるけど、そんなんじゃねーよ」

 

 まぁジェイトサリさんのそれは、孫みたいな相手に向ける感情だろうしな。ウラヌスがほんわかした顔で昨日帰ってきたから、大体予想は付くよ。

 

 

 

 予定外のエリルの観光も終え、和やかな雰囲気でオータニアへ戻ってきた私達。支度を整えて、修行場へ向かう。

 

「さて今日は、昨日の修行内容を反復しましょうか。

 だらだら繰り返すのではなく、より良くなるよう向上心を保ってくださいね」

 

『はーい……』

 

 元気がないぞ、もう1回!

 

『はぁーい!』

 

 投げやりだな。まぁいいけど。

 

「ウラヌスもそれでいいですかね?」

「いいと思うよ。

 今日はまだ戦ってないから、ある程度実戦形式の方が感覚も鈍らないと思う。昨日より時間が短い分、身体強化は短縮した方がいいかな」

「ええ、そうしましょうか」

 

 

 

 ──しばらく姉弟の組手を眺めていたけど、お酒の件で険悪になっていたのもあって、お互い動きが荒い。とは言えペースアップにも繋がっているので、雑にならないよう修正しつつ、そのまま続けさせる。

 

「ほらメレオロン、また上半身がダラッとしてますよ。

 相手に対して半身になる意識を抜かない」

「はいはい!」

「シーム、集中力がなくなって上半身が傾いてきてます。

 きちんと背筋を伸ばして」

「うん!」

 

 攻防に意識がいきすぎて、姿勢が崩れがちなんだよね。こればっかりはクセが付くまで反復させないと直らない。歩法を磨けばいくらかマシになるはずだけど、まだまだそれはモノにならないだろう。さて……

 

「──他プレイヤーがあなたに対して『交信』を使いました──」

 

 ウラヌスのバインダーが出現。またか、今度こそユリさんか? でもまだ日中だし……

 

『センリツよ』

「お、センリツか。何の用?」

『はーい。お久しぶりでーす』

「ん? ネオンさん、戻ってきたの?」

『ええ。3日ほど前に』

 

 おや、そうだったのか。ネオンさんがいるなら、全員いるのかな?

 

「そっちは全員戻ってきたの?」

『ああ。

 今こっちは、前にアイアイで顔を合わせたメンバーのままだ』

「ダルツォルネもか。

 それは分かったけど、何の用だ?」

『えっとですね。それがですね』

『ごほん。……お嬢様、時間が限られていますので簡潔に』

『はぁい。

 色々あって、ホルモンクッキー取れました!』

 

 うぉっと。やるな、ランクS取れたんだ。

 

「挑戦してるとは聞いたけど、早いなぁー……」

『もうねー、すっごい苦労したんですよ!

 聞いてくれますっ!?』

『ごほん! ……お嬢様』

『んもー……

 それでですね。直接お話をしたいんですけど』

「んー」

『センリツとした交渉の件は聞いている。

 特に問題ないが、もう少し話を詰めておきたい』

「……まぁそうだな。

 いつがいい?」

『できるだけ早くだ。そちらの都合が良ければだが』

「うーん……

 ちょっと待って」

 

 ウラヌスがバインダーから顔を上げ、私達を見る。

 

「どうする?」

「話だけなら、アンタ1人で行ってくれば充分じゃない?」

「……待ってた方がいいなら、ぼく待ってるよ」

 

 姉弟の言葉を聞き、私を見るウラヌス。少し考えた後、私は首肯する。

 

「……オッケ。

 今から行くけど、そっちは大丈夫か?」

『ああ、問題ない』

「じゃあ5分後、そっちに移動スペルで直に飛ぶよ。

 とりあえずセンリツに向かって」

『分かったわ。5分後ね』

「うん。また後で」

『ええ』

 

 交信が途切れ、「ふへー」とウラヌスが息を吐く。

 

「次から次へとまぁ……」

「いいじゃない、順調なんだし」

「まあな……

 もうちょっとのんびりの方が性に合うんだけど」

 

 ふふ。ここのところ快進撃と言っていいほど、カードが集まってるもんな。ウラヌスにしてみれば、自力で集めないと物足りないかもしれないけど。

 

 とはいえ、やっとホルモンクッキーだよ。これでまずは一安心だな。

 

「よかったわねー。2人とも」

 

 メレオロンがニヤニヤしながら言ってくる。……からかってるつもりか?

 

「……心配しなくても、マッド博士の整形マシーンもすぐ取ってやるよ」

「え?

 いや、別にせっついたつもりはないわよ?」

 

 ウラヌスは違う意味で解釈したらしい。……なるほど、乗っかってみるか。

 

「そういえば、それも忘れちゃいけませんね。私達ばかり目的達成に近づくのも心苦しいですから、出来るだけ急がないと。

 ウラヌス、アテはあります?」

「そうだね……

 場合によっちゃ、姉貴に急いで取ってきてもらうのもアリかな。楽しみにしてろよ?」

「だって。

 よかったね、おねーちゃん」

「えぇっと、まぁ、うん、まぁ……」

 

 メレオロンがめっちゃ困惑してる。フフ、こういう時は可愛いよね、この変態も。

 

 

 

 

 

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