どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二百十四章

 

 お昼頃に修行を終え、昼食後は旅館へ戻る。何かあった時に備えて、私達は気力体力を回復させつつ、ウラヌスは若返り薬の調査と除念の準備。最後の詰めに入ったようだ。

 

 気を散らせたくないので、私はメレオロンとシームの部屋で待つことに。休んだり雑談したり遊んだりしながら、夕方まで過ごす。

 

「はぁー……

 お待たせ。みんな、食べに行こ」

 

 準備が完璧に済んだらしい、お疲れ気味のウラヌスを労いつつ、いつもの料亭へ。ユリさんもそこへやってきて、一緒に食事。ウラヌスが無事に除念を終えるまで、ユリさんも私達に付き合う予定だ。

 

 ユリさんの方は『神隠しの洞』をきっちりゲットできたらしい。やっぱり特定の場所で『左遷』を使うのが正解だったみたいだ。取り方さえ分かってればユリさんの独壇場だな。お任せしてよかったよ。

 

 ところが、別のカードを取りに行きたかったのに、今日はやけに他のプレイヤーが接触してきたらしい。それも色んな相手から。あしらうのに手間取ってしまい、全然カードを取りに行けなかったそうだ。

 

 茶碗蒸しや松茸ゴハンを掻き込みながら、その話をするユリさん。

 

「もー。しつこいし、うるさいったらないのよ。

 自分達と組めばどうたら、カードをよこせだの、違う連中がおんなじことばっかり。

 うっとうしかったわぁー」

「そりゃあ、姉貴1人でランクS10枚も持ってるしな……

 誰だってそのカードは欲しいだろうさ」

 

 うん。ハタから見れば一番クリアに近いプレイヤーだろうからね。実際そうだけど。

 

「しかし、組んでくれとか言った連中は断わりゃ済むだろうけど、カードよこせとかアホ抜かした連中はどうしたんだ?」

「戦う気のない連中は、クチだけだから適当にあしらったわ。

 私の挑発に乗って襲ってきたプレイヤーは、景気よくボコったけど。

 むしろカードが増えちゃった♪」

「……はぁ。

 もうちょい穏便にすませてほしかったんだけどな」

 

 んー……でもウラヌス、ラターザからカードを大量に奪おうとしてたからな。あんまり説得力ないというか。

 

「別にいいでしょ、それくらい。

 手の平返して向こうからカードを差し出してきただけで、カードをよこせなんて私から言ったわけじゃないし。

 本気で懲らしめるなら、お金もアイテムも全部奪って港から蹴り出してるわよ」

 

 それこそラターザみたいにですね、分かります。

 

「まぁいいけどな……」

「桜の方で取ってるランクBばっかだし、何の足しにもならなかったけどね。

 ……そんなことよりさ」

 

 ユリさんの目が、筍ゴハンをもりもり食べる私に向く。ん?

 

「アイシャちゃん、オーラ復活したのよね?」

「ええ、まあ」

「もしかして、めちゃくちゃ強くない?」

 

 ……天使のヴェール、使ってるんだけどな。

 

「姉貴も前にアイシャの修行は見ただろ?

 オーラとか関係なしに、そんなこと分かってただろうに」

「いや、見たけどさ。

 それでも今までと、なんか見違えたじゃない」

 

 うーん。どういうことだ?

 

「アイシャちゃん、いま念未修得者のフリしてるんでしょ?

 それだけでも相当だけど、立ち居から全然違うもの。

 もう、全身エネルギッシュっていうか」

 

 むぅ……今は力を持て余してるからなぁ。発散しきれなくてうずうずしてる分が、どうしても表に出てきちゃってる感じか。今すぐそれを隠すのはちょっと無理だな。

 

「ま。姉貴じゃ、100回やったってアイシャに勝てやしないよ」

「ふーん。

 じゃあ桜なら勝てるんだ?」

「……そんなこと言ってないだろ」

 

 ぶすっとするウラヌス。今日は私、一度も負けてないからな。内心くやしがってるのが伝わってくる。

 

「あーあ。そうすると、今までみたいに気兼ねなく話せないか……」

 

 小さく苦笑するユリさん。あ、それを気にしてたんだ。

 

「いえ、今まで通りでいいですよ。ユリさんにはずいぶんお世話になってますし。

 それに、気兼ねされちゃうと私が寂しいです」

「いいの?」

「ええ。……ヘンなことしないのが大前提ですけど」

「やーねぇ。

 今のアイシャちゃんにちょっかいなんて出さないわよー」

「……姉貴、それ以前にだな」

「分かってるって。

 アイシャちゃんに手なんか出すつもりないから」

「その軽いノリはどうかと思うんだけどな」

 

 アハハ……まぁユリさんらしいよ。

 

 

 

 ゴハンの後は旅館に戻り、ひとっ風呂。ユリさんも一緒に入ってるけど、言ってた通り何もしてはこなかった。メレオロンも全くそういうことする気配なくなったし。

 その代わり、ジロジロ見てくるんだよな……。ちょっとは遠慮してほしいよ。別に大差ないのに。

 

 湯船に浸かるユリさんが、長い長い溜め息を吐き、

 

「今の桜の姿も、もうじき見納めなのね……

 なんか寂しいなぁ」

 

 うーん……若返るわけだから当然そうなるよね。いちおう私も意識はしてたけど、正直実感が湧いてこない。

 

「でも子供の頃の桜も見てみたいかなぁ。楽しみー」

 

 どっちだよ。……どっちもか。

 

 

 

 ──すっかり夜も更け。

 

 部屋の中央には準備万端のウラヌスと、それを周りで見守る私達がいる。

 入口付近は私、窓付近はユリさんが陣取り、壁際にメレオロンとシームが固まってる。

 

 そこまで大層な準備をしてるわけじゃない。今はあくまで若返り薬を使うだけだしな。無事若返って問題ないと判断したら、本格的に除念の用意をするらしい。

 

 布団の上にあぐらをかくウラヌス。目の前には、布の上に置かれた8粒のカプセル薬。飲み込む為に、水のペットボトルもすぐそばにある。

 

 いまウラヌスは17歳と半年だから、10歳当時にかけられた念の条件を外す為に9歳まで若返る必要がある。だから飲むのは8粒だ。

 

 十全に調査したと言っても、それはあくまでも若返り薬の効果だけだ。実際ウラヌスがそこまで若返って何の異常も起きないかは未知数。ウラヌス自身も正常な状態と言えないから、2つの念が干渉しあって命に危険が及ばないとも限らない。だから警戒は怠れない。

 

「すぅー…………はぁー…………」

 

 ウラヌスは正座の姿勢のまま、深呼吸を繰り返してる。緊張するだろうな……こっちもドキドキするよ。

 

「──んっ」

 

 意を決したか、両手でカプセルを全部すくいあげ、それを片手で包み込む。もう片手でペットボトルを手にし、親指でキャップを外す。

 

 強く目を閉じるウラヌス。──そして。

 

 目を見開き、じゃららっ、とクチにカプセルを放り込んだ。ペットボトルを傾け、

 

「んぐっんぐっんぐ……」

 

 クチから水を零しながら、喉を動かすウラヌス。

 

 ──1つずつ飲み込んで1歳ずつ若返るより、こうやって1度に若返ろうとした方が、身体への負担は小さいらしい。少なくとも、ウラヌスが調査して出した結論はそうだった。

 

「ぷはっ」

 

 水を飲み干すウラヌス。そして、

 

 

 

 ウラヌスの首が、突然なくなった。

 

 

 

『────ッッ!?』

 

 

 

 ──いや、違うッ! ワンピースの襟から髪の毛が飛び出してる。身長が縮んで、服に潜り込んだのか。あー、びっくりした……心臓に悪いじゃないか! もー。

 

 ワンピースがもごもご動き、小さな手がジタバタもがく。

 

「ぷはっ!」

 

 ウラヌスの頭が出てきた。

 

 え。……え?

 

 いや、うん。なんとなくこうなるかなって、予想はしてたよ。してたけどさ……

 

 くりくりした目で、私達をきょとんと見てくるウラヌス。こ、これは──

 

 ガバーッ! と音が聞こえそうな勢いで抱きしめるユリさん。

 

「きゃあああああーーーーーっっ!!

 桜、アンタ……! きゃあーーっ!」

「わ、わわっ!? ちょっま、はなしてって! やー!」

 

 舌ったらずな言葉とともに抵抗しようとするが、手足が短くなったせいで抱きつかれるままのウラヌス。

 

 いや、これはヤバイ……。なんだ、この可愛い生き物は。ヘンな感情に目覚めそうだよ、うわぁー。

 

 メレオロンはあらやだといった感じで口許を押さえ、シームはめっちゃ顔を赤くしてる。だよね、あれ絶対ヤバイよね。

 

 元々美少女(?)だったのに、それの9歳児状態だもんな……。ウラヌスの子供の頃って、こんなだったのか。しかも着ていたワンピースの寸法が合わなくなったせいで、半脱げになってかなり危険な見た目だ。

 

「はなしてって! ちょっと!」

「あららら。ごめんごめん……

 いや桜、アンタさ。久しぶりに見たけど、いま見たら犯罪的よ?」

「どういう意味ッ!?」

「ほら、みんなの目を見てみなさいよ」

 

 私達を見回して、ぎょっと身を引くウラヌス。おい、どういう意味だ?

 

「アンタいま、飢えた狼の群れに囲まれた子兎なのよ?

 それをちゃんと自覚しなさい」

 

 いや、待て。百歩譲ってそれを認めたとしても、その狼筆頭はユリさんだぞ? あと、その小動物は子兎というよりニャンコです。

 

「と、冗談はこれくらいにして……

 どう、体調は? 大丈夫?」

「…………

 だい、じょうぶ……

 若返りすぎて感覚が追いついてないけど、今すっごい元気な感じ」

 

 ……。はぁぁぁー……

 

 よかったぁ。ということは、少なくとも身体機能の異常は消えたってことか。……幼くなったとはいえ、ウラヌスから感じるオーラ量も格段に増している。

 

「オーラは戻りましたか?」

 

 念の為、確認を取る。ぺたんと座っていたウラヌスは、すくっと立ち上がった。うわ、ワンピースが長すぎて、めっちゃ可愛い。

 

「ちょっと待って……

 ……うん、うん。ばっちり。オーラ量、55万にまで戻った! よしっ!」

 

 おおおおー……。それだけあれば除念も余裕で出来そうだな。可愛らしくガッツポーズするウラヌスが微笑ましい。

 

「で、どうするの?

 すぐに除念始めるわけ?」

 

 尋ねるメレオロンに、ウラヌスはふりふり愛らしい仕草で首を振り、

 

「今の今は、さすがに自信ない……

 この状態でオーラが昔みたいに扱えるか、ある程度確認しないと」

 

 少しずつウラヌスの舌ったらずが直ってきてる。身体の動かし方に慣れてきたんだろう。

 

「じゃあまず、このワンピースを裾上げしないと。私が直してあげる。

 ほら、立って。脱いで脱いで」

「ちょっちょ!?

 待って、なんかおかしいっ!? なんで着てるのを直そうとすんのっ!?

 着替えあるから、そっちを直してよ!」

 

 どさくさに脱がそうとして、怒られるユリさん。うむ。姉弟はいえ、脱がせちゃいかん。本人の了承なしに。

 

 そんな感じで賑やかにドタバタしてたら、突然バインダーが現れた。

 

「──他プレイヤーがあなたに対して『交信』を使いました──」

 

「ちぇっ。いいトコだったのに」

 

 ユリさんのか。……いや、いいトコってなんだ。

 

 ものすごく腹立たしげに部屋の外へ出て行くユリさん。ぽすんと座り込んで、ものっそ溜め息を吐くウラヌス。

 

「……どうしてこうなったの?」

 

 知らないよ。でも鏡見たら、多分そこに答えはあるよ。

 

 しかしまぁ……ちょっとお子様すぎるな。実際見てみるとよく分かるけど、シームより縮んじゃってて、何かを任せる気になれないんだよね。こんなのユリさんじゃなくても、庇護欲が湧くよ。触る前からぷにぷに感が伝わってくる。ぷりちー。

 

 という目で見てたら、ウラヌスがちょっと身を引いた。

 

「なんでそんな目で見るの?」

「あ、いえ。

 ……ちょっと頭撫でてもいいですか?」

「やめてね?」

 

 一段と身を引くウラヌス。うーむ、警戒されとる……。このチビにゃんこの取り扱い、どうしたものか。

 

 悩んでるうち、ユリさんがぷりぷり怒りながら戻ってきた。

 

「もう! くっだらないんだから!」

「早かったですね。

 何の用だったんです?」

「聞いてよ、アイシャちゃん!

 こんな時間に、一緒に夕食どう? とか言ってきて! わざわざスペル使って、そんなこと聞く!?」

「あ、あはは……」

 

 アレかぁ。ユリさん、ナンパもされてるわけか。まぁ美人だもんな。あっちこっちから声かけられて大変だろうに。

 

 ユリさんはウラヌスの近くにドスンと座り、自然にウラヌスの頭を撫で撫でする。

 

「……ちょっとユリ姉、なんで撫でるの?」

「いいでしょ、ちょっとくらい。

 ……今、ユリ姉って呼んだ?」

「あ、うん。

 昔そう呼んでたから、つい……」

 

 そういえば、たまーにそんな呼び方してたな。なるほど、昔の呼び方か。

 

「そっかそっか。

 ……できれば一緒に居たいけど、ちょっと私が他のプレイヤーに絡まれすぎてるから、あんまり一緒には居られないわね」

「そうかもしれませんね。そう度々はありませんが、移動スペルで突然飛んでくることもありますし。

 私達が一緒のところを見られたら、ゲームクリアに近いのがバレてしまいますから」

「そうなのよねぇ。それにハガクシのこともあるし……

 アイシャちゃん、桜のことお願いね?」

「ええ、もちろんです」

 

 話しながら撫でるのをやめないユリさん。やめられない止まらないなんだろうな。……にゃんこ、撫でられっぱなしですごい困ってるけど。

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 
・ウラヌスの変化

 年齢:17歳→9歳

 身長:158㎝→130㎝

 体重:39㎏→25㎏

 潜在オーラ量:45000→550000

 体調:衰弱→健康

 触り心地:ぷにぷに→ぷにぷに




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