お昼頃に修行を終え、昼食後は旅館へ戻る。何かあった時に備えて、私達は気力体力を回復させつつ、ウラヌスは若返り薬の調査と除念の準備。最後の詰めに入ったようだ。
気を散らせたくないので、私はメレオロンとシームの部屋で待つことに。休んだり雑談したり遊んだりしながら、夕方まで過ごす。
「はぁー……
お待たせ。みんな、食べに行こ」
準備が完璧に済んだらしい、お疲れ気味のウラヌスを労いつつ、いつもの料亭へ。ユリさんもそこへやってきて、一緒に食事。ウラヌスが無事に除念を終えるまで、ユリさんも私達に付き合う予定だ。
ユリさんの方は『神隠しの洞』をきっちりゲットできたらしい。やっぱり特定の場所で『左遷』を使うのが正解だったみたいだ。取り方さえ分かってればユリさんの独壇場だな。お任せしてよかったよ。
ところが、別のカードを取りに行きたかったのに、今日はやけに他のプレイヤーが接触してきたらしい。それも色んな相手から。あしらうのに手間取ってしまい、全然カードを取りに行けなかったそうだ。
茶碗蒸しや松茸ゴハンを掻き込みながら、その話をするユリさん。
「もー。しつこいし、うるさいったらないのよ。
自分達と組めばどうたら、カードをよこせだの、違う連中がおんなじことばっかり。
うっとうしかったわぁー」
「そりゃあ、姉貴1人でランクS10枚も持ってるしな……
誰だってそのカードは欲しいだろうさ」
うん。ハタから見れば一番クリアに近いプレイヤーだろうからね。実際そうだけど。
「しかし、組んでくれとか言った連中は断わりゃ済むだろうけど、カードよこせとかアホ抜かした連中はどうしたんだ?」
「戦う気のない連中は、クチだけだから適当にあしらったわ。
私の挑発に乗って襲ってきたプレイヤーは、景気よくボコったけど。
むしろカードが増えちゃった♪」
「……はぁ。
もうちょい穏便にすませてほしかったんだけどな」
んー……でもウラヌス、ラターザからカードを大量に奪おうとしてたからな。あんまり説得力ないというか。
「別にいいでしょ、それくらい。
手の平返して向こうからカードを差し出してきただけで、カードをよこせなんて私から言ったわけじゃないし。
本気で懲らしめるなら、お金もアイテムも全部奪って港から蹴り出してるわよ」
それこそラターザみたいにですね、分かります。
「まぁいいけどな……」
「桜の方で取ってるランクBばっかだし、何の足しにもならなかったけどね。
……そんなことよりさ」
ユリさんの目が、筍ゴハンをもりもり食べる私に向く。ん?
「アイシャちゃん、オーラ復活したのよね?」
「ええ、まあ」
「もしかして、めちゃくちゃ強くない?」
……天使のヴェール、使ってるんだけどな。
「姉貴も前にアイシャの修行は見ただろ?
オーラとか関係なしに、そんなこと分かってただろうに」
「いや、見たけどさ。
それでも今までと、なんか見違えたじゃない」
うーん。どういうことだ?
「アイシャちゃん、いま念未修得者のフリしてるんでしょ?
それだけでも相当だけど、立ち居から全然違うもの。
もう、全身エネルギッシュっていうか」
むぅ……今は力を持て余してるからなぁ。発散しきれなくてうずうずしてる分が、どうしても表に出てきちゃってる感じか。今すぐそれを隠すのはちょっと無理だな。
「ま。姉貴じゃ、100回やったってアイシャに勝てやしないよ」
「ふーん。
じゃあ桜なら勝てるんだ?」
「……そんなこと言ってないだろ」
ぶすっとするウラヌス。今日は私、一度も負けてないからな。内心くやしがってるのが伝わってくる。
「あーあ。そうすると、今までみたいに気兼ねなく話せないか……」
小さく苦笑するユリさん。あ、それを気にしてたんだ。
「いえ、今まで通りでいいですよ。ユリさんにはずいぶんお世話になってますし。
それに、気兼ねされちゃうと私が寂しいです」
「いいの?」
「ええ。……ヘンなことしないのが大前提ですけど」
「やーねぇ。
今のアイシャちゃんにちょっかいなんて出さないわよー」
「……姉貴、それ以前にだな」
「分かってるって。
アイシャちゃんに手なんか出すつもりないから」
「その軽いノリはどうかと思うんだけどな」
アハハ……まぁユリさんらしいよ。
ゴハンの後は旅館に戻り、ひとっ風呂。ユリさんも一緒に入ってるけど、言ってた通り何もしてはこなかった。メレオロンも全くそういうことする気配なくなったし。
その代わり、ジロジロ見てくるんだよな……。ちょっとは遠慮してほしいよ。別に大差ないのに。
湯船に浸かるユリさんが、長い長い溜め息を吐き、
「今の桜の姿も、もうじき見納めなのね……
なんか寂しいなぁ」
うーん……若返るわけだから当然そうなるよね。いちおう私も意識はしてたけど、正直実感が湧いてこない。
「でも子供の頃の桜も見てみたいかなぁ。楽しみー」
どっちだよ。……どっちもか。
──すっかり夜も更け。
部屋の中央には準備万端のウラヌスと、それを周りで見守る私達がいる。
入口付近は私、窓付近はユリさんが陣取り、壁際にメレオロンとシームが固まってる。
そこまで大層な準備をしてるわけじゃない。今はあくまで若返り薬を使うだけだしな。無事若返って問題ないと判断したら、本格的に除念の用意をするらしい。
布団の上にあぐらをかくウラヌス。目の前には、布の上に置かれた8粒のカプセル薬。飲み込む為に、水のペットボトルもすぐそばにある。
いまウラヌスは17歳と半年だから、10歳当時にかけられた念の条件を外す為に9歳まで若返る必要がある。だから飲むのは8粒だ。
十全に調査したと言っても、それはあくまでも若返り薬の効果だけだ。実際ウラヌスがそこまで若返って何の異常も起きないかは未知数。ウラヌス自身も正常な状態と言えないから、2つの念が干渉しあって命に危険が及ばないとも限らない。だから警戒は怠れない。
「すぅー…………はぁー…………」
ウラヌスは正座の姿勢のまま、深呼吸を繰り返してる。緊張するだろうな……こっちもドキドキするよ。
「──んっ」
意を決したか、両手でカプセルを全部すくいあげ、それを片手で包み込む。もう片手でペットボトルを手にし、親指でキャップを外す。
強く目を閉じるウラヌス。──そして。
目を見開き、じゃららっ、とクチにカプセルを放り込んだ。ペットボトルを傾け、
「んぐっんぐっんぐ……」
クチから水を零しながら、喉を動かすウラヌス。
──1つずつ飲み込んで1歳ずつ若返るより、こうやって1度に若返ろうとした方が、身体への負担は小さいらしい。少なくとも、ウラヌスが調査して出した結論はそうだった。
「ぷはっ」
水を飲み干すウラヌス。そして、
ウラヌスの首が、突然なくなった。
『────ッッ!?』
──いや、違うッ! ワンピースの襟から髪の毛が飛び出してる。身長が縮んで、服に潜り込んだのか。あー、びっくりした……心臓に悪いじゃないか! もー。
ワンピースがもごもご動き、小さな手がジタバタもがく。
「ぷはっ!」
ウラヌスの頭が出てきた。
え。……え?
いや、うん。なんとなくこうなるかなって、予想はしてたよ。してたけどさ……
くりくりした目で、私達をきょとんと見てくるウラヌス。こ、これは──
ガバーッ! と音が聞こえそうな勢いで抱きしめるユリさん。
「きゃあああああーーーーーっっ!!
桜、アンタ……! きゃあーーっ!」
「わ、わわっ!? ちょっま、はなしてって! やー!」
舌ったらずな言葉とともに抵抗しようとするが、手足が短くなったせいで抱きつかれるままのウラヌス。
いや、これはヤバイ……。なんだ、この可愛い生き物は。ヘンな感情に目覚めそうだよ、うわぁー。
メレオロンはあらやだといった感じで口許を押さえ、シームはめっちゃ顔を赤くしてる。だよね、あれ絶対ヤバイよね。
元々美少女(?)だったのに、それの9歳児状態だもんな……。ウラヌスの子供の頃って、こんなだったのか。しかも着ていたワンピースの寸法が合わなくなったせいで、半脱げになってかなり危険な見た目だ。
「はなしてって! ちょっと!」
「あららら。ごめんごめん……
いや桜、アンタさ。久しぶりに見たけど、いま見たら犯罪的よ?」
「どういう意味ッ!?」
「ほら、みんなの目を見てみなさいよ」
私達を見回して、ぎょっと身を引くウラヌス。おい、どういう意味だ?
「アンタいま、飢えた狼の群れに囲まれた子兎なのよ?
それをちゃんと自覚しなさい」
いや、待て。百歩譲ってそれを認めたとしても、その狼筆頭はユリさんだぞ? あと、その小動物は子兎というよりニャンコです。
「と、冗談はこれくらいにして……
どう、体調は? 大丈夫?」
「…………
だい、じょうぶ……
若返りすぎて感覚が追いついてないけど、今すっごい元気な感じ」
……。はぁぁぁー……
よかったぁ。ということは、少なくとも身体機能の異常は消えたってことか。……幼くなったとはいえ、ウラヌスから感じるオーラ量も格段に増している。
「オーラは戻りましたか?」
念の為、確認を取る。ぺたんと座っていたウラヌスは、すくっと立ち上がった。うわ、ワンピースが長すぎて、めっちゃ可愛い。
「ちょっと待って……
……うん、うん。ばっちり。オーラ量、55万にまで戻った! よしっ!」
おおおおー……。それだけあれば除念も余裕で出来そうだな。可愛らしくガッツポーズするウラヌスが微笑ましい。
「で、どうするの?
すぐに除念始めるわけ?」
尋ねるメレオロンに、ウラヌスはふりふり愛らしい仕草で首を振り、
「今の今は、さすがに自信ない……
この状態でオーラが昔みたいに扱えるか、ある程度確認しないと」
少しずつウラヌスの舌ったらずが直ってきてる。身体の動かし方に慣れてきたんだろう。
「じゃあまず、このワンピースを裾上げしないと。私が直してあげる。
ほら、立って。脱いで脱いで」
「ちょっちょ!?
待って、なんかおかしいっ!? なんで着てるのを直そうとすんのっ!?
着替えあるから、そっちを直してよ!」
どさくさに脱がそうとして、怒られるユリさん。うむ。姉弟はいえ、脱がせちゃいかん。本人の了承なしに。
そんな感じで賑やかにドタバタしてたら、突然バインダーが現れた。
「──他プレイヤーがあなたに対して『交信』を使いました──」
「ちぇっ。いいトコだったのに」
ユリさんのか。……いや、いいトコってなんだ。
ものすごく腹立たしげに部屋の外へ出て行くユリさん。ぽすんと座り込んで、ものっそ溜め息を吐くウラヌス。
「……どうしてこうなったの?」
知らないよ。でも鏡見たら、多分そこに答えはあるよ。
しかしまぁ……ちょっとお子様すぎるな。実際見てみるとよく分かるけど、シームより縮んじゃってて、何かを任せる気になれないんだよね。こんなのユリさんじゃなくても、庇護欲が湧くよ。触る前からぷにぷに感が伝わってくる。ぷりちー。
という目で見てたら、ウラヌスがちょっと身を引いた。
「なんでそんな目で見るの?」
「あ、いえ。
……ちょっと頭撫でてもいいですか?」
「やめてね?」
一段と身を引くウラヌス。うーむ、警戒されとる……。このチビにゃんこの取り扱い、どうしたものか。
悩んでるうち、ユリさんがぷりぷり怒りながら戻ってきた。
「もう! くっだらないんだから!」
「早かったですね。
何の用だったんです?」
「聞いてよ、アイシャちゃん!
こんな時間に、一緒に夕食どう? とか言ってきて! わざわざスペル使って、そんなこと聞く!?」
「あ、あはは……」
アレかぁ。ユリさん、ナンパもされてるわけか。まぁ美人だもんな。あっちこっちから声かけられて大変だろうに。
ユリさんはウラヌスの近くにドスンと座り、自然にウラヌスの頭を撫で撫でする。
「……ちょっとユリ姉、なんで撫でるの?」
「いいでしょ、ちょっとくらい。
……今、ユリ姉って呼んだ?」
「あ、うん。
昔そう呼んでたから、つい……」
そういえば、たまーにそんな呼び方してたな。なるほど、昔の呼び方か。
「そっかそっか。
……できれば一緒に居たいけど、ちょっと私が他のプレイヤーに絡まれすぎてるから、あんまり一緒には居られないわね」
「そうかもしれませんね。そう度々はありませんが、移動スペルで突然飛んでくることもありますし。
私達が一緒のところを見られたら、ゲームクリアに近いのがバレてしまいますから」
「そうなのよねぇ。それにハガクシのこともあるし……
アイシャちゃん、桜のことお願いね?」
「ええ、もちろんです」
話しながら撫でるのをやめないユリさん。やめられない止まらないなんだろうな。……にゃんこ、撫でられっぱなしですごい困ってるけど。
・ウラヌスの変化
年齢:17歳→9歳
身長:158㎝→130㎝
体重:39㎏→25㎏
潜在オーラ量:45000→550000
体調:衰弱→健康
触り心地:ぷにぷに→ぷにぷに