どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二百十五章

 

「……ぅ」

 

 ウラヌスを撫でていたユリさんが、軽く呻いてフラつく。

 

「ユリ姉、だいじょうぶ!?」

 

 小さな手で支えるウラヌス。ユリさんは近寄ろうとした私に手の平を向けて、頭を振り、

 

「……平気、ちょっと騒ぎすぎただけよ。

 軽く眩暈がしただけ」

「待って姉貴。……オーラが急に減ってないか?」

「……」

 

 私の目には、ユリさんが纏うオーラは見えない。当然『絶』をしてるんだろう。ということは、ウラヌスが言ってるのは潜在オーラの方だな。……ユリさんの具合が悪いのは、私も見れば分かるけど。

 

「ユリさん、無理せず少し横になってください」

「……そうね」

 

 ウラヌスの布団でそのまま横になるユリさん。じっと観察するウラヌス。

 

「……やっぱり。

 姉貴、潜在オーラがまだ10万以上あったのに、いきなり8万に減ってる。

 なんで? ……もしかして、俺の……せい?」

「……」

 

 そっか……ウラヌスにかかっていたのはユリさんがかけた念でもあるから、ウラヌスが復調したことで影響が現れたのか。理由までは分からないけど。

 

「……大丈夫よ。こうなるのは分かってたし」

「どういう……

 そういえば姉貴の潜在オーラ、前に比べて急に増えたよな? 何か関係あるのか?」

「待ってください、ウラヌス。

 今は……」

「う、うん。……ごめんな、ユリ姉」

「……私こそ、ごめんなさい」

 

 ふむ……しばらく様子を見るしかないか。

 

「……ウラヌス」

「どした、シーム?」

 

 おずおずと近づいていくシーム。そばでウラヌスのことをまじまじと見た後、

 

「……ちぢんじゃったね」

「そりゃな。

 ……シームより子供になっちゃったよ」

 

 苦笑するウラヌス。表情を曇らせるシーム。心中穏やかじゃないんだろうな。

 

「除念が終わっても、元には戻らないの?」

「あー……

 元の年齢にってこと?」

「うん」

「……そのつもりはないかな。

 ホルモンクッキーみたいに時間で元に戻らないからこそ、使うのに慎重だったんだし。

 いちおう老化スプレーを使えば年齢は戻せるけど、アレで元の姿に戻れるとは限らないからな」

 

 あー。そういえばあったな、そんなのも。でも確かに、元に戻るか分かんないもんな。どんな歳の取り方をするか、予想がつかない。

 

「じゃあ、ずっとこのまま?」

「……ずっとかどうかなんて決められないよ。

 今まで、とにかく除念しなきゃって焦ってたし。

 これからのことは、これから考えるよ」

「そっか……」

 

 ハタから見ても分かるぐらい残念がってるシーム。アレだもんな。こうなっちゃうと、今までみたいに無邪気に抱きつけないもんな。

 

「シーム。ウラヌスを困らせちゃダメよ」

「……そんなつもりじゃないよ」

 

 メレオロンの言葉に、煮え切らない態度のシーム。……この子はこの子で、どうしたらいいか分からないんだろう。状況に振り回されっぱなしだからね。

 

 ユリさんが、むくりと起き上がった。横になってたおかげで、顔色は良くなってるな。

 

「……ユリ姉」

「桜……。心配かけてごめんね。

 もう大丈夫。除念の準備、始めないといけないわよね」

「そのつもりだけど……

 始める前に、何でオーラが減ったのか、ちゃんと話してくれないと。

 じゃないと不安で除念できないよ」

「……」

 

 目を閉じるユリさん。痛みに耐えるような表情で、唇を噛んでいる。

 

「……そうね。

 今、話すべきよね」

「ユリさん。

 私達が居ると話しづらいことなら……」

「ううん。

 ……桜さえ良ければ、聞いてくれても構わないわ」

「アイシャ。シームとメレオロンも。

 ここに居て、俺と一緒に話を聞いて欲しい。……迷惑じゃなければ」

「迷惑なわけありませんよ」

「ボクはちゃんと聞く」

「嫌だなんて言うわけないでしょ」

 

 私達の言葉に、ウラヌスは天使のような微笑みで応える。

 

「ユリ姉。そういうことだから」

「仲が良くて羨ましいわ……

 あなた達みたいな友達、私も欲しかったな」

 

 自嘲するユリさん。……照れくさいから言い出せないけど、もしここにゴンが居たら、あっさり言ってくれたかもな。

 

「桜にかけた念は……

 元々月隠れの里にあった知識で行っ(おこな )たモノじゃないわ。

 霧隠れ、それも加藤家に伝わる秘伝だって聞いた」

「……道理で。

 里をいくら調べても情報が出てこないわけだ。3人で開発した念なのかと思ったよ」

口伝(く でん)のみの伝承だったらしいから、どこを調べても出てこなかったでしょうね。

 昔は念のことを忍術や呪術の類と(たぐい )解釈していたらしくて、かなり(ゆが)んだ言い伝えだったみたい。まぁその辺は大して意味のないことだけど」

 

 ユリさんは少し沈黙を挟んだ後、

 

「……それでね。

 元々は1人でかける術なんだけど、桜の念が強すぎて3人がかりじゃないと無理だったのよ。オーラ量が多すぎて弾かれるって。

 私はその……

 嫌々手伝わされて。その能力を使えるお父さん主体でかけたんだけど」

「ジョイント型って言うんだよ、そういうのを。

 普通は身体のどっかに、結びつきを示す印とか神字を付けたりする。刺青とかな。

 まぁ血縁なら、そこまでしなくても出来るかもしれないけど」

「……

 お父さんが桜にかけた念は、対象の力を奪い続ける呪い。本来は、わざわざ相手を長く苦しめる為に使うものらしいわ。……言うまでもなく、殺すよりずっと手間だし」

「そんなに俺が(うと)ましいなら、回りくどいことをせずに始末した方が早いもんな」

 

 悲しいことを言うウラヌスに、ユリさんは首を横に振り、

 

「……あなたが大人しくしてくれたら、そんなことしなかったのに」

「俺が荒れてた理由は分かってるだろ?

 相容(あいい )れるわけないじゃないか」

「話して分かってくれるとも思えなかったもんね……

 桜はまだ子供だったから」

「里の連中だって、どうしようもなく幼稚だったよ」

「桜の言いたいことも分かるけど……

 いえ、やめましょ。いま話したいのはそんなことじゃないから」

「うん……」

「桜の言い分はともかく、お父さん達からすれば要は懲らしめたかったのよ。暴れる桜を痛い目に遭わせて、大人しく言うことを聞かせたかった。

 ……結局あなたは今の今まで耐えちゃったんだから、失敗したのよね。それは」

「ということは、あの2人が勝手にやったことなのか?

 里とか関係なしに?」

「いえ……

 散々桜のことを何とかしろって、里の人達からずっと責められてたもの。

 父さんと母さんをそこまで追い詰めたのは、間違いなく里の人達よ」

「……

 余計なことを言いに来てたのは俺も知ってるよ。だから俺が仕返しに行ってたんだし」

「不毛な水の掛け合いだったわね。

 ……それで、桜から奪った力なんだけど、術者側にその力が入るようになってて。

 桜のオーラが、私達3人のオーラに足されていたのよ」

「なんか勘定が合わないな……

 俺から奪ったオーラ量を考えても、姉貴の増えた分ってそこまで多くないだろ?」

「父さんと母さんが、大半を引き受けたのよ。

 ……2人はほぼ隠居状態だったからいいけど、現役で忍をやってる私のオーラが急激に増えたりしたら、里の人達に怪しまれるから……

 あくまで桜の力を封じたっていう建前で、力を奪い続けてるのは秘密だった」

「それでも、少しは姉貴も増えてたんだな」

「父さんと母さんの方が限界だったらしいわ。もうこれ以上引き受けられないって。

 かなり力を持て余して困ってたみたい。オーラ量が多すぎて隠すのもツラそうだった」

「……そういうことか。

 姉貴は鍛えてたからマメに潜在オーラ量を調べてたけど、あの2人のオーラ量は昔からほとんど変わりなかったから、ずっと調べてなかったよ。俺のオーラ量が減った時点で、一度でも調べておけば奪われてることに気づけたのにな……」

 

 なんとまぁ、2人の念能力者ですら限界だと言って持て余すオーラか……。到底子供の持ちうる力じゃないな。ホント、なんなんだろウラヌスって。

 

「桜。私のオーラ量、正確に分かる?

 減る前と、減った後で」

「……

 一番多かった時で、108100。今は、80500」

「うん……そんなもんか。

 なら私はそこまで支障ないわね。じきに慣れると思う」

「ホントに大丈夫か?」

「平気よ。むしろ正常に戻ったんだし。

 ……ただ、きちんと除念を終えるまでは何とも言えないけど」

「まぁな……

 あの2人、気づいたかな?」

「父さんと母さんは気づいたでしょうね。

 急にオーラが減りすぎて、今頃倒れてるかも」

「……それは自業自得だし、知ったこっちゃないな。

 どっちにしろ、さっさと除念しないとマズイか。

 あの2人が里の連中に、俺の念が外れたことをバラしたら面倒だ」

「そんなことしないと思うけどね……」

「信用できないよ。

 ユリ姉が信じたいのは分かるけど」

「桜……

 2人とも、あなたのことを心配してたのは本当よ? ……あなたが死んでしまう前に、能力は解除するつもりだったんだから」

「……信用できないし、だったとしてもありがた迷惑さ」

 

 ウラヌスも分かってはいるんだろうけどね。だって、ユリさんのことは信じたがってるんだし。……許せない気持ちも分かるけれど。

 

「ただ、2人が話さなかったとしても、バレるのは時間の問題でしょうけどね……

 あなたが今まで通り、大人しく振る舞えば別だけど」

「ぜったい、イヤ」

「でしょうね……

 なら私にはどうしようもないわ」

 

 諦めたように言うユリさん。力関係が逆転しちゃったし、言葉通りだろうな。……私が口を挟めることでもない。

 

 

 

 外で軽く身体を動かしたいというウラヌスをそのカッコじゃダメだと慌てて引き留め、ユリさんがチクチクと裁縫して、ワンピースの寸法を応急処置的に直す。

 

 旅館を出る私達。とりあえず入口付近で、運動を始めるウラヌス。自分も確かめたいと言って、ウラヌスとユリさんは組手を始めた。

 ユリさんの『纏』に合わせて、ウラヌスが顕在オーラを微調整している。……ユリさん、最初は動き悪かったのに、すぐウラヌスの小さな身体に慣れたみたいだ。アレは私もやりづらそうなんだけどな。

 

 確認できたと言って、組手を終える2人。再び部屋に戻り、荷物からあれこれ引っ張り出すウラヌス。

 

 宝石の付いた装飾品や、綺麗な糸を縒り合わせた腕輪、いかにも忍者の使いそうな巻物などなど……アレもコレもびっしり神字が刻まれている。

 

 施術の間、相当神経を集中するから1人にしてほしい──そう言われて、私達は部屋の外へ出る。隣のメレオロン達の部屋に行こうかと思ったけど、隣の部屋にいたら気が散るかもしれないから、やむなく廊下を歩いて距離を取ったところで待つことに。

 

「ユリさん、大丈夫ですか?」

「平気よ、アイシャちゃん。

 さっきの組手で、むしろ元気になったわ」

 

 ……確かに、組手を始めたばかりの時は澱んでいたオーラの流れが、終わり際はかなりスムーズになってたからな。復調しつつあるのは本当だろう。

 

「ウラヌスの念って、まだ解けてないんだよね?」

 

 不安げに尋ねるシームに、ユリさんは笑みを消して頷く。

 

「オーラが戻っただけで、念自体は解除されてないわ。

 このまま放置すれば、また10歳半になった時点でオーラの減少が始まると思う」

 

 それが一番可能性が高いと、ウラヌスも予想してたからね。おそらくその通りだろう。

 

「──始まった」

 

 ユリさんの言葉を聞く前に、私も感じ取っていた。ウラヌスがオーラを放ち、ここまで伝わってくる。メレオロンも透き通るようなオーラを練るけど、ウラヌスの放つオーラも穏やかで美しくすらある。除念の為か、それが一段と際立っている。

 

 私達は沈黙したまま、ウラヌスの除念をただ待つ。

 

 

 

「──っあ」

 

 突然ユリさんが声を発した。時同じく、ウラヌスのオーラが急速に収まっていく。

 

「……外れたわ。繋がりが消えた」

 

 どこか喪失感をにじませて、ユリさんがそう告げた。ウラヌスのオーラはもう感じない。

 

「行きましょ」

 

 歩き出したユリさんに付いていく私達。部屋の前で立ち止まり、

 

「……いいよ」

 

 中からの声に、戸を開けるユリさん。軽く覗き込むが、別に出て行く前と特別変わった様子もない。

 

 布団の上で正座し、身に着けた除念用だと思う装飾品諸々を外しているウラヌス。……見た目にも変化はないな。相変わらずお子様だけど。

 

 ウラヌスは落ち着いた様子で、私達へと静かに微笑み、

 

「心配かけてごめんね、みんな。もう大丈夫。

 ……だよね、ユリ姉?」

「ええ、間違いなく除念されたわ。

 あなたはもう自由よ」

「……そんなこと言ってくれるとは思わなかったよ」

 

 目をこするウラヌス。今までずっと苦しんできただろうから、喜びもひとしおだろう。

 

「おめでとうございます、ウラヌス」

「おめでとう。よかったね、ウラヌス」

「おめでとー!」

 

 突然湧いた拍手に、うろたえるウラヌス。

 

「ちょ、ちょっやめてよ。そんなお祝いみたいに……」

「いえ、お祝いですよ?

 もしケーキがあったら、今すぐ出してますよ」

「あー、しまった。

 除念が成功した時のお祝い、すっかり忘れてた。

 仕方ないわね。シーム、いつもみたいに抱きついてあげなさいな。ハグで祝福して」

「……おねーちゃん、ヘンなこと言わないでよ」

 

 そんな私達の様子に、ユリさんがくすくす笑う。

 

「桜ってば、しあわせ者ね」

「やめろってば、ユリ姉ぇ……」

 

 困りはてた顔で涙を流すウラヌス。……今まで苦労してきたんだもんね。報われなきゃウソだよ、ホント。

 

 

 

 

 

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