どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二百十六章

 

 しばらく泣いていたウラヌスが落ち着いたところで、今後の相談を始める。

 

 とりあえず明日は様子見で、調整を兼ねた休養を摂ることに。私と同じく、ウラヌスもまだ元に戻ったばかりだし、調整は念入りに必要だろう。ユリさんも大事をとって攻略は1日休んでもらうことになった。

 

 ゲーム攻略は調整と休養を終えた後に考えるとして、今は里をどうするか相談する2人。

 

「俺としては、やっぱ潰したいんだけど?」

「まだそんなこと言うのー……?

 もういいじゃない、無事除念も済んだんだし。桜の気持ちは分かるけどさ」

「むしろ、ようやく機が熟したってなもんだよ。

 放っておいて、また同じことの繰り返しになってもイヤじゃないか」

「それは……無いとは言い切れないけど」

「だろ?

 ユリ姉は、いつまでも暗殺稼業続けたいのか?」

「……別に暗殺ばっかりじゃないわよ」

「忍者を続けたいのか?」

「……

 やってたら楽しいこともあるけど、仕事だから嫌なことも多いわね」

「だったら──」

「だからって里を潰すのはやっぱり反対よ。

 あの人達はあの人達で、それぞれ人生があるんだし。それを無視して軒並み無くそうとするのは……」

「俺の人生を台無しにしてきた連中の事情なんて、知ったこっちゃない。

 今まで散々他人を食い物にして生き長らえてきたんだ。

 そろそろ報いを受けるべきだよ」

「うーん……」

「少なくとも忍びの掟みたいなクソは、ぶっ潰してやらないと。時代錯誤もイイトコだよ、あんなもん」

「それは私も思うけどさー。

 年寄り連中が現状も考慮しないで、昔はああだったとかこうだったとか、えらっそーにごちゃごちゃ言ってくんのアッタマ来るもん」

「そのくせユリ姉には、現代の火器や兵器も使えとか言ってくんだろ?

 テメーラに都合のいいことばっか抜かしやがる。ダブスタも大概にしろってんだ」

「火器兵器のことを言ってくるのは、ごく一部だけどね。忍具や忍術にこだわれって言う連中も多いし。自分達でも意見がまとまってないのに、下にはガーッて言ってくんのよ」

「適当こきすぎだよな、んっとにもー……

 ユリ姉だって里潰したいんだろ、ホントは?

 えらっそーなジジババどもに、心底ムカついてんじゃねーの?」

「いや……うーん」

 

 ……なんか忍びの里グチ大会みたくなってるな。まぁお互い積もり積もったモノもあるだろうし、吐き出してくれるのはいいんだけど。そろそろ止めた方がいいような気もする。

 

「あの……」

『なに?』

「……えっとですね。

 つかぬことをお伺いしますが、雲隠れの里の場所はご存知ですか?」

『へ?』

 

 仲いいな、さっきから同じ反応して。

 

「なんでアイシャが、雲隠れの場所なんか知りたがるの?」

 

 ……そりゃハンゾーさんの里にアレがあるって聞いたからな。流出させないと約束してもらったけど、所詮口約束に過ぎない。流出とか拡散とか盗難なんて話が聞こえてきたら、真っ先に雲隠れへ行かないとな。

 

「その……ちょっと個人的に用がありまして。

 というよりも、用ができるかもしれないので、先に知れるなら知っておきたいなと」

「え? 忍びの里に用ってなに?」

 

 ウラヌスが遠慮なく聞いてくる。こ、こまったな……変に興味を引いちゃったか。

 

 ユリさんも首を傾げつつ、

 

「月隠れの里の場所を知りたいなら、まだ分かるけど……。桜のこと、手伝うとか止めるとかで。

 ……まさかアイシャちゃん、雲隠れになんか恨みでもあるの?

 確か、アホのハンゾーと知り合いだっけ?」

 

 アホと言い切るか。……いや、うん。なんだか不安になってきたぞ。

 

「その……ハンゾーさんを通じて、雲隠れの里と1つ約束を交わしていまして。

 もし約束を破ったら──」

「破ったら?

 え、まさかアイシャちゃんも忍びの里潰したいとか言うわけ?」

 

 ぅ、うわ。そのものズバリ言われた。いや、うん。可能性の1つとして考えはしたけど。でも黒の書について話したくないし、どうしよ。

 

 私が答えかねてるのを見て、2人ともそれが答えだと思ったらしい。大きく表情を変え──

 

「ぶふぅーっ!」

 

 ウラヌスが噴き出す。それに釣られてユリさんも半笑いで、

 

「え? マジ? アイシャちゃん、マジ?

 私達が月隠れ潰す潰さないで揉めてるのに──」

「アッハッハッハ!

 よりによって、一番おっきい雲隠れッ! 俺より全然ヒデェー! あはははっ!」

 

 爆笑するウラヌス。そ、そう言われると確かに酷いけど、そこまで笑わなくたって……

 

「ちょっと桜、笑いすぎよ。

 アイシャちゃん、この子が月隠れ潰すのは賛成なの?」

「えっと、その……

 2人の故郷がなくなってしまうのは良くないと思いますが、忍びの里を潰すこと自体は別に……」

「ぅわあ」

 

 口許を両手で押さえるユリさん。……正直に言っちゃったけど、やっぱマズかったか?

 

 ウラヌスは布団の上で転げ回って、ちっちゃな手で布団をぱんぱん叩いてる。

 

「あっはははは! おっかしい!

 もういいじゃん、このさい全部潰しちゃおうぜ、忍びの里! アハハハ!」

「ちょっともう、桜……

 冗談よね、アイシャちゃん?」

「……」

 

 困ったな。冗談って言うのは簡単だけど、ウラヌスを引き止める言葉が思いつかない。結構本気っぽいし、どうしたもんかな。

 

「くっふふ……

 教えてやりなよ、ユリ姉。知ってんだろ?

 どうするかなんて、アイシャの自由なんだし」

「無理よ、雲隠れを潰すなんて。

 いくらなんでもアイシャちゃん1人で……」

「1人でやるとは限らないけど、多分アイシャなら単騎特攻しても勝てるよ。

 俺だって、月隠れなら1人で潰せる自信あるもん」

「えええ……やめてよー。

 これで雲隠れの里が潰れたりしたら、教えた私が悪者じゃないの。

 ダメ、ダメよアイシャちゃん。教えないから」

「別に潰しになんか行きませんよ……」

「ダメ!」

 

 あー、聞けるチャンス失ったよ。……チクショウ! 消えうせろ、黒の書!

 

「ケチくせーなぁ。

 アイシャも正直に言ったんだし、教えてやりゃいいのに」

「桜、お願いだから面白半分に戦火拡大させようとしないで……」

「つっても、実際そうなんじゃね?

 俺が月隠れ潰したら、飛び火するかもと思ってたんだけど。

 最悪、忍びの里ぜんぶ敵に回すよ? 俺は」

 

 わ、ちょっと待て。そんなことしたら、雲隠れから黒の書流出が起こりやすくなるぞ。約束守るつもりがあったとしても、それどころじゃなくなるだろ。

 

「あの、真面目な話……

 もし雲隠れが戦争になったりしたら、約束が破られてしまうかもしれないので……

 その時に備えて、ワリと本気で里の場所を教えてほしいんですが」

「ええええ、なになになに?

 アイシャちゃん、なんか目が怖い」

「ハイハイハイハイ。

 ユリ姉の、ちょっといいトコ見てみたいー♪」

「桜、やめなさい!」

 

 

 

 結局教えてもらえず、ユリさんはそそくさと退散してしまった。くぅ……

 

 話についていけなかったらしいメレオロンとシーム。ぼんやりとした表情で、

 

「……いや、アンタ達さ。

 アタシ達もかなり波瀾万丈な人生送ってきたつもりだけど、正直比較にならないくらいムチャクチャよね……」

「しゃーねーじゃん。

 忍びの里に生まれたのは俺のせいじゃねーよ」

 

 うぅ。生まれのことを言われると、私も思うところはあるんだよな……

 

「よく分かんなかったんだけど、アイシャも雲隠れっていうトコ潰しちゃうの?」

 

 シームが困惑気味に尋ねる。くぅ、そんな目で見ないでほしい……

 

「事情はよく分かんないけど、なんか約束しててそれを破ったらってことだろ?

 いや、すげーわ。俺とおんなじようなこと考えてたとか、どんな偶然だよ」

 

 楽しそうなウラヌス。むぅー……そういうので共感してもらっても、私が困るよ。引き止められなくなるからな、ウラヌスのこと。……いや、いっそ2人で協力してやった方がいいのか? それなら確実に……まてまて。危ないこと考えるな、私。

 

「アイシャ、すっごい真剣に悩んでるね」

「ほらアレよ。ウラヌスを止めるべきか、2人で協力して里を潰すべきか悩んでるのよ」

「やっぱり?」

 

 姉弟がこそこそ話してるけど丸聞こえだよ。……その通りだよ、くそっ!

 

「……でもウラヌス。

 本当に本気で、月隠れの里を潰すつもりですか?」

「色々言いたいこともあるだろうけど、今のところ俺はそのつもり。

 ……実際には、里に一度帰ってからかな。そこで結論を出すよ」

 

 ということは、そのまま勢いで里を襲うことも有り得るわけか。……無理にでも付いていった方がいいかなぁ。雲隠れの里の場所を知るチャンスがなくなりそうだし。うーん。

 

「ウラヌスは、他の里の場所って知らないの?」

 

 シームが尋ねると、ウラヌスは肩をすくめ、

 

「……知らないんだよな、残念ながら。

 姉貴は確実に知ってるだろうし、里のジジババどもに吐かせりゃ一発だろ。分かったら必ず教えるからね、アイシャ♪」

 

 そ、そんな素敵な笑顔で言われてもなぁ。……私は助かるけど、なんか違う。

 

 

 

 

 

 ──10月16日。

 

 朝、いちおうアンケート用紙がなくなっていることを確認。すぴょぴょと可愛い寝息を立ててる小動物の鼻を、きゅっと摘まむ。「んにょにょにょっ!?」とか言ってモガくから、朝から爆笑してしまった。

 私とメレオロンはいつも通り、ウラヌスとシームは躊躇いながら一緒のお風呂へ。……なんか2人とも妙に照れてた。いや子供同士だし、そもそも同性だから問題ないはずなんだけど。

 

 朝食の席、顔が赤いままのシームをメレオロンがからかい、ぶすーっとしたウラヌスの愛らしいほっぺを私がつついて、その柔らかさを堪能し。いや、ヤバイ。めっちゃ可愛いってば、もー。

 

 デパートに寄って、サイズが合わなくなったウラヌスの靴を調達し、いつもの修行場へ。まずは修行で調整して、それから休養を摂る予定だ。

 

「さて、アイシャ」

 

 修行場へ着いた途端、子供の姿も馴染んできたウラヌスが声をかけてくる。

 

「組手。俺としたいんだよね?」

「それはもう。楽しみにしていましたから」

 

 笑いかけてくるウラヌス。どうやら同じ気持ちだったらしい。

 

「でも正直言って、俺達が組手するにはココってちょっと手狭だと思うんだよ」

「オーラ有りなら……そうでしょうね」

 

 修行場として使っているここは、具合よく直径10m程度の円状に平らな地面が広がっていた。オーラ無しなら問題ないが、当然私達は復活したオーラを揮って修行したいのだ。場を荒らさないように注意したとしても限度がある。

 

「見物するメレオロンとシームにも充分距離を取ってもらいたいし、もう少し広げようと思うんだけど、どう?」

「ここをですか?」

「そ。あんまり広げて目立ってもいけないし、せいぜい……2倍ぐらいかな」

「それなら問題ないと思います」

「2人はどう?」

「ぼくは反対しないよ」

「アタシも構わないけど、どうやんの?」

「もちろん、邪魔な樹を引っこ抜く」

『へっ!?』

 

 姉弟が変な声を出すが、構わずウラヌスはスタスタ歩いていって、適当な樹の幹に手をかける。

 

「よっと」

 

 草むしりでもするかのように、その樹を根っこごと引き抜いた。強引に抜いたせいで、ものすごいバキバキいってる。

 

 ボンッ! とウラヌスの持ち上げた樹が、煙になった。

 

 

 

『21234:紅葉樹』

 ランクH カード化限度枚数∞

 紅葉した木 平均的な大きさ

 

 

 

「うへぇー。こんなのまでカード化すんのぉ?」

「自生してるやつじゃなけりゃあね。

 オータニアに近いし、ここは植林されてたってことだよ。まぁ助かるけど。抜いた樹をどう処分するか悩まなくて済む」

 

 言って、バインダーにカードを収めるウラヌス。

 

「それって売れるわけ?」

「多分金にはならない。トレードショップにこれだけ持ってくと、買い取れないっつって拒否られると思う。石と同じだな」

「え。じゃあ、どうやって処分すんのよ?

 適当な場所に捨てるの?」

「しないよ、そんなこと……

 こんな目立つもん、適当に捨てて他のヤツに見られたらマズイだろ? もろに見た目、オータニアの樹なんだし。

 そもそもトレードショップで買い取り拒否されるのは、引き取り価格が0なのが理由。

 だから、売れるアイテムと一緒に持ってけば、引き取ってくれるんだよ」

「へぇー。

 ……今さらだけど、アンタそういうのしっかり調べてるわねぇ」

「ま、知ってただけだよ」

 

 うんうん、そういうのを確かめてあるのが実にウラヌスらしいんだよな。

 

「じゃ、手当たり次第抜いてくよ」

「あ、私も手伝いますね」

「うん。俺の反対側からお願いできる?」

「了解です」

「2人は、バインダーにカード収めるの手伝ってくれる?」

「はいはい」

「ぼくはウラヌスの方を手伝うね」

「そんじゃアタシは、アイシャの方ね。

 っていうか、アイシャもああやって引っこ抜くわけ?」

「んー……片手では自信がないですね」

「あれ、無理なんだ?

 余裕でいけそうな気もしたけど」

「いえ。あんなふうにスムーズにはいかないって意味ですよ。

 多分樹の幹を握りつぶしちゃうんで」

「ああ、そう……」

 

 いや、だって。ウラヌス、どう考えたって手慣れてるじゃないか。練習もせずにあんな上手く引き抜けないよ。

 

 

 

 あらかた樹を引き抜き、とりあえず直径20メートルまで樹はなくなった。

 が、地面はボコボコである。そりゃ根こそぎ引っこ抜いただけだからね。これは地均(じ なら)ししないとダメだな……

 と考えていたら、ウラヌスはくるりと指を回し、

 

「そんじゃ皆、一度離れてくれる?

 地面を綺麗にするから」

「なんかするわけ?」

「ん、すぐ終わるよ。

 樹があるところまで下がって」

 

 ほぅ、手っ取り早く綺麗にできるのか。何か面白いものを見せてくれそうだな。

 

 3人で手分けして荷物と修行用品を抱えて修行場の外へ出ると、中心にいたウラヌスがヒョイと片手で倒立した。……ワンピースは重力に逆らい、垂れ下がってこない。それもなんか細工してるんだろう。じゃないと悲惨なことになるし。

 

 ふわっとウラヌスが浮き──勢いよく手を突き出す。

 

 ──バンッッ!! と爆音が鳴る。

 

 樹が抜かれて盛り上がっていた土が、ズンッと一斉に沈み込んだ。これは……手の先のオーラを円盤状にして、真下へ叩き込んだのか。

 

 バンッッ!! バンッッ!! と二度三度、大地が鳴り響く。私達が立っている地面も揺れ──

 

 ウラヌスが倒立を終え、パンパンッと手に付いた土を払った。

 

「ふぅ。……もういいよ。

 地面の感触変わってるから、気をつけてね」

 

 樹を抜いた跡は、もうすっかり均されていた。どころか、修行場の地面が周りより少し沈み込んでるけど。……コレ、やりすぎじゃないか?

 

 怖気(おじけ )づく姉弟を後目に、率先して私が足を下ろすと、地面から返ってくる感触がかなり違っていた。土が相当固く締まってるな。オーラで強化してる気配もないのに。

 

「ぅわ、アンタこれ……

 地面固くしすぎでしょ。転んだりしたら危ないじゃない」

「あー、ごめん。

 ……砂でも撒いた方がいいかな」

 

 どうしようかな。でも足場は固い方が、私は助かるんだよね。

 

「ひとまず、このままにしませんか?

 修行にどうしても適さないなら、何か対策しましょう」

「えー……

 これも修行ってこと? 仕方ないわね……」

 

 ぶつぶつ言いながら了承するメレオロン。シームは特に何も言わず、ウラヌスは苦笑で答えを示す。

 

 にしても、器用なことをするもんだな。20mもの円盤状にオーラを変形させるだけでも、並々ならぬ技量だろう。私が同じ真似をしても、1mですら形が歪むだろうし。身体から遠ざかると、メチャクチャ難しいんだよな……

 

 私が近くに寄ると、ウラヌスはちらりと見上げてきて、

 

「早速やる?」

「……いきなりはちょっと。

 2人の修行もありますし、軽く流してからにしましょう」

「りょーかい。

 俺も軽く流したいからね」

 

 ニコニコと返すウラヌス。……組手、思ったよりも気合いを入れた方がよさそうだな。念入りに準備しておこう。

 

 

 

 

 

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