しばらく泣いていたウラヌスが落ち着いたところで、今後の相談を始める。
とりあえず明日は様子見で、調整を兼ねた休養を摂ることに。私と同じく、ウラヌスもまだ元に戻ったばかりだし、調整は念入りに必要だろう。ユリさんも大事をとって攻略は1日休んでもらうことになった。
ゲーム攻略は調整と休養を終えた後に考えるとして、今は里をどうするか相談する2人。
「俺としては、やっぱ潰したいんだけど?」
「まだそんなこと言うのー……?
もういいじゃない、無事除念も済んだんだし。桜の気持ちは分かるけどさ」
「むしろ、ようやく機が熟したってなもんだよ。
放っておいて、また同じことの繰り返しになってもイヤじゃないか」
「それは……無いとは言い切れないけど」
「だろ?
ユリ姉は、いつまでも暗殺稼業続けたいのか?」
「……別に暗殺ばっかりじゃないわよ」
「忍者を続けたいのか?」
「……
やってたら楽しいこともあるけど、仕事だから嫌なことも多いわね」
「だったら──」
「だからって里を潰すのはやっぱり反対よ。
あの人達はあの人達で、それぞれ人生があるんだし。それを無視して軒並み無くそうとするのは……」
「俺の人生を台無しにしてきた連中の事情なんて、知ったこっちゃない。
今まで散々他人を食い物にして生き長らえてきたんだ。
そろそろ報いを受けるべきだよ」
「うーん……」
「少なくとも忍びの掟みたいなクソは、ぶっ潰してやらないと。時代錯誤もイイトコだよ、あんなもん」
「それは私も思うけどさー。
年寄り連中が現状も考慮しないで、昔はああだったとかこうだったとか、えらっそーにごちゃごちゃ言ってくんのアッタマ来るもん」
「そのくせユリ姉には、現代の火器や兵器も使えとか言ってくんだろ?
テメーラに都合のいいことばっか抜かしやがる。ダブスタも大概にしろってんだ」
「火器兵器のことを言ってくるのは、ごく一部だけどね。忍具や忍術にこだわれって言う連中も多いし。自分達でも意見がまとまってないのに、下にはガーッて言ってくんのよ」
「適当こきすぎだよな、んっとにもー……
ユリ姉だって里潰したいんだろ、ホントは?
えらっそーなジジババどもに、心底ムカついてんじゃねーの?」
「いや……うーん」
……なんか忍びの里グチ大会みたくなってるな。まぁお互い積もり積もったモノもあるだろうし、吐き出してくれるのはいいんだけど。そろそろ止めた方がいいような気もする。
「あの……」
『なに?』
「……えっとですね。
つかぬことをお伺いしますが、雲隠れの里の場所はご存知ですか?」
『へ?』
仲いいな、さっきから同じ反応して。
「なんでアイシャが、雲隠れの場所なんか知りたがるの?」
……そりゃハンゾーさんの里にアレがあるって聞いたからな。流出させないと約束してもらったけど、所詮口約束に過ぎない。流出とか拡散とか盗難なんて話が聞こえてきたら、真っ先に雲隠れへ行かないとな。
「その……ちょっと個人的に用がありまして。
というよりも、用ができるかもしれないので、先に知れるなら知っておきたいなと」
「え? 忍びの里に用ってなに?」
ウラヌスが遠慮なく聞いてくる。こ、こまったな……変に興味を引いちゃったか。
ユリさんも首を傾げつつ、
「月隠れの里の場所を知りたいなら、まだ分かるけど……。桜のこと、手伝うとか止めるとかで。
……まさかアイシャちゃん、雲隠れになんか恨みでもあるの?
確か、アホのハンゾーと知り合いだっけ?」
アホと言い切るか。……いや、うん。なんだか不安になってきたぞ。
「その……ハンゾーさんを通じて、雲隠れの里と1つ約束を交わしていまして。
もし約束を破ったら──」
「破ったら?
え、まさかアイシャちゃんも忍びの里潰したいとか言うわけ?」
ぅ、うわ。そのものズバリ言われた。いや、うん。可能性の1つとして考えはしたけど。でも黒の書について話したくないし、どうしよ。
私が答えかねてるのを見て、2人ともそれが答えだと思ったらしい。大きく表情を変え──
「ぶふぅーっ!」
ウラヌスが噴き出す。それに釣られてユリさんも半笑いで、
「え? マジ? アイシャちゃん、マジ?
私達が月隠れ潰す潰さないで揉めてるのに──」
「アッハッハッハ!
よりによって、一番おっきい雲隠れッ! 俺より全然ヒデェー! あはははっ!」
爆笑するウラヌス。そ、そう言われると確かに酷いけど、そこまで笑わなくたって……
「ちょっと桜、笑いすぎよ。
アイシャちゃん、この子が月隠れ潰すのは賛成なの?」
「えっと、その……
2人の故郷がなくなってしまうのは良くないと思いますが、忍びの里を潰すこと自体は別に……」
「ぅわあ」
口許を両手で押さえるユリさん。……正直に言っちゃったけど、やっぱマズかったか?
ウラヌスは布団の上で転げ回って、ちっちゃな手で布団をぱんぱん叩いてる。
「あっはははは! おっかしい!
もういいじゃん、このさい全部潰しちゃおうぜ、忍びの里! アハハハ!」
「ちょっともう、桜……
冗談よね、アイシャちゃん?」
「……」
困ったな。冗談って言うのは簡単だけど、ウラヌスを引き止める言葉が思いつかない。結構本気っぽいし、どうしたもんかな。
「くっふふ……
教えてやりなよ、ユリ姉。知ってんだろ?
どうするかなんて、アイシャの自由なんだし」
「無理よ、雲隠れを潰すなんて。
いくらなんでもアイシャちゃん1人で……」
「1人でやるとは限らないけど、多分アイシャなら単騎特攻しても勝てるよ。
俺だって、月隠れなら1人で潰せる自信あるもん」
「えええ……やめてよー。
これで雲隠れの里が潰れたりしたら、教えた私が悪者じゃないの。
ダメ、ダメよアイシャちゃん。教えないから」
「別に潰しになんか行きませんよ……」
「ダメ!」
あー、聞けるチャンス失ったよ。……チクショウ! 消えうせろ、黒の書!
「ケチくせーなぁ。
アイシャも正直に言ったんだし、教えてやりゃいいのに」
「桜、お願いだから面白半分に戦火拡大させようとしないで……」
「つっても、実際そうなんじゃね?
俺が月隠れ潰したら、飛び火するかもと思ってたんだけど。
最悪、忍びの里ぜんぶ敵に回すよ? 俺は」
わ、ちょっと待て。そんなことしたら、雲隠れから黒の書流出が起こりやすくなるぞ。約束守るつもりがあったとしても、それどころじゃなくなるだろ。
「あの、真面目な話……
もし雲隠れが戦争になったりしたら、約束が破られてしまうかもしれないので……
その時に備えて、ワリと本気で里の場所を教えてほしいんですが」
「ええええ、なになになに?
アイシャちゃん、なんか目が怖い」
「ハイハイハイハイ。
ユリ姉の、ちょっといいトコ見てみたいー♪」
「桜、やめなさい!」
結局教えてもらえず、ユリさんはそそくさと退散してしまった。くぅ……
話についていけなかったらしいメレオロンとシーム。ぼんやりとした表情で、
「……いや、アンタ達さ。
アタシ達もかなり波瀾万丈な人生送ってきたつもりだけど、正直比較にならないくらいムチャクチャよね……」
「しゃーねーじゃん。
忍びの里に生まれたのは俺のせいじゃねーよ」
うぅ。生まれのことを言われると、私も思うところはあるんだよな……
「よく分かんなかったんだけど、アイシャも雲隠れっていうトコ潰しちゃうの?」
シームが困惑気味に尋ねる。くぅ、そんな目で見ないでほしい……
「事情はよく分かんないけど、なんか約束しててそれを破ったらってことだろ?
いや、すげーわ。俺とおんなじようなこと考えてたとか、どんな偶然だよ」
楽しそうなウラヌス。むぅー……そういうので共感してもらっても、私が困るよ。引き止められなくなるからな、ウラヌスのこと。……いや、いっそ2人で協力してやった方がいいのか? それなら確実に……まてまて。危ないこと考えるな、私。
「アイシャ、すっごい真剣に悩んでるね」
「ほらアレよ。ウラヌスを止めるべきか、2人で協力して里を潰すべきか悩んでるのよ」
「やっぱり?」
姉弟がこそこそ話してるけど丸聞こえだよ。……その通りだよ、くそっ!
「……でもウラヌス。
本当に本気で、月隠れの里を潰すつもりですか?」
「色々言いたいこともあるだろうけど、今のところ俺はそのつもり。
……実際には、里に一度帰ってからかな。そこで結論を出すよ」
ということは、そのまま勢いで里を襲うことも有り得るわけか。……無理にでも付いていった方がいいかなぁ。雲隠れの里の場所を知るチャンスがなくなりそうだし。うーん。
「ウラヌスは、他の里の場所って知らないの?」
シームが尋ねると、ウラヌスは肩をすくめ、
「……知らないんだよな、残念ながら。
姉貴は確実に知ってるだろうし、里のジジババどもに吐かせりゃ一発だろ。分かったら必ず教えるからね、アイシャ♪」
そ、そんな素敵な笑顔で言われてもなぁ。……私は助かるけど、なんか違う。
──10月16日。
朝、いちおうアンケート用紙がなくなっていることを確認。すぴょぴょと可愛い寝息を立ててる小動物の鼻を、きゅっと摘まむ。「んにょにょにょっ!?」とか言ってモガくから、朝から爆笑してしまった。
私とメレオロンはいつも通り、ウラヌスとシームは躊躇いながら一緒のお風呂へ。……なんか2人とも妙に照れてた。いや子供同士だし、そもそも同性だから問題ないはずなんだけど。
朝食の席、顔が赤いままのシームをメレオロンがからかい、ぶすーっとしたウラヌスの愛らしいほっぺを私がつついて、その柔らかさを堪能し。いや、ヤバイ。めっちゃ可愛いってば、もー。
デパートに寄って、サイズが合わなくなったウラヌスの靴を調達し、いつもの修行場へ。まずは修行で調整して、それから休養を摂る予定だ。
「さて、アイシャ」
修行場へ着いた途端、子供の姿も馴染んできたウラヌスが声をかけてくる。
「組手。俺としたいんだよね?」
「それはもう。楽しみにしていましたから」
笑いかけてくるウラヌス。どうやら同じ気持ちだったらしい。
「でも正直言って、俺達が組手するにはココってちょっと手狭だと思うんだよ」
「オーラ有りなら……そうでしょうね」
修行場として使っているここは、具合よく直径10m程度の円状に平らな地面が広がっていた。オーラ無しなら問題ないが、当然私達は復活したオーラを揮って修行したいのだ。場を荒らさないように注意したとしても限度がある。
「見物するメレオロンとシームにも充分距離を取ってもらいたいし、もう少し広げようと思うんだけど、どう?」
「ここをですか?」
「そ。あんまり広げて目立ってもいけないし、せいぜい……2倍ぐらいかな」
「それなら問題ないと思います」
「2人はどう?」
「ぼくは反対しないよ」
「アタシも構わないけど、どうやんの?」
「もちろん、邪魔な樹を引っこ抜く」
『へっ!?』
姉弟が変な声を出すが、構わずウラヌスはスタスタ歩いていって、適当な樹の幹に手をかける。
「よっと」
草むしりでもするかのように、その樹を根っこごと引き抜いた。強引に抜いたせいで、ものすごいバキバキいってる。
ボンッ! とウラヌスの持ち上げた樹が、煙になった。
『21234:紅葉樹』
ランクH カード化限度枚数∞
紅葉した木 平均的な大きさ
「うへぇー。こんなのまでカード化すんのぉ?」
「自生してるやつじゃなけりゃあね。
オータニアに近いし、ここは植林されてたってことだよ。まぁ助かるけど。抜いた樹をどう処分するか悩まなくて済む」
言って、バインダーにカードを収めるウラヌス。
「それって売れるわけ?」
「多分金にはならない。トレードショップにこれだけ持ってくと、買い取れないっつって拒否られると思う。石と同じだな」
「え。じゃあ、どうやって処分すんのよ?
適当な場所に捨てるの?」
「しないよ、そんなこと……
こんな目立つもん、適当に捨てて他のヤツに見られたらマズイだろ? もろに見た目、オータニアの樹なんだし。
そもそもトレードショップで買い取り拒否されるのは、引き取り価格が0なのが理由。
だから、売れるアイテムと一緒に持ってけば、引き取ってくれるんだよ」
「へぇー。
……今さらだけど、アンタそういうのしっかり調べてるわねぇ」
「ま、知ってただけだよ」
うんうん、そういうのを確かめてあるのが実にウラヌスらしいんだよな。
「じゃ、手当たり次第抜いてくよ」
「あ、私も手伝いますね」
「うん。俺の反対側からお願いできる?」
「了解です」
「2人は、バインダーにカード収めるの手伝ってくれる?」
「はいはい」
「ぼくはウラヌスの方を手伝うね」
「そんじゃアタシは、アイシャの方ね。
っていうか、アイシャもああやって引っこ抜くわけ?」
「んー……片手では自信がないですね」
「あれ、無理なんだ?
余裕でいけそうな気もしたけど」
「いえ。あんなふうにスムーズにはいかないって意味ですよ。
多分樹の幹を握りつぶしちゃうんで」
「ああ、そう……」
いや、だって。ウラヌス、どう考えたって手慣れてるじゃないか。練習もせずにあんな上手く引き抜けないよ。
あらかた樹を引き抜き、とりあえず直径20メートルまで樹はなくなった。
が、地面はボコボコである。そりゃ根こそぎ引っこ抜いただけだからね。これは
と考えていたら、ウラヌスはくるりと指を回し、
「そんじゃ皆、一度離れてくれる?
地面を綺麗にするから」
「なんかするわけ?」
「ん、すぐ終わるよ。
樹があるところまで下がって」
ほぅ、手っ取り早く綺麗にできるのか。何か面白いものを見せてくれそうだな。
3人で手分けして荷物と修行用品を抱えて修行場の外へ出ると、中心にいたウラヌスがヒョイと片手で倒立した。……ワンピースは重力に逆らい、垂れ下がってこない。それもなんか細工してるんだろう。じゃないと悲惨なことになるし。
ふわっとウラヌスが浮き──勢いよく手を突き出す。
──バンッッ!! と爆音が鳴る。
樹が抜かれて盛り上がっていた土が、ズンッと一斉に沈み込んだ。これは……手の先のオーラを円盤状にして、真下へ叩き込んだのか。
バンッッ!! バンッッ!! と二度三度、大地が鳴り響く。私達が立っている地面も揺れ──
ウラヌスが倒立を終え、パンパンッと手に付いた土を払った。
「ふぅ。……もういいよ。
地面の感触変わってるから、気をつけてね」
樹を抜いた跡は、もうすっかり均されていた。どころか、修行場の地面が周りより少し沈み込んでるけど。……コレ、やりすぎじゃないか?
「ぅわ、アンタこれ……
地面固くしすぎでしょ。転んだりしたら危ないじゃない」
「あー、ごめん。
……砂でも撒いた方がいいかな」
どうしようかな。でも足場は固い方が、私は助かるんだよね。
「ひとまず、このままにしませんか?
修行にどうしても適さないなら、何か対策しましょう」
「えー……
これも修行ってこと? 仕方ないわね……」
ぶつぶつ言いながら了承するメレオロン。シームは特に何も言わず、ウラヌスは苦笑で答えを示す。
にしても、器用なことをするもんだな。20mもの円盤状にオーラを変形させるだけでも、並々ならぬ技量だろう。私が同じ真似をしても、1mですら形が歪むだろうし。身体から遠ざかると、メチャクチャ難しいんだよな……
私が近くに寄ると、ウラヌスはちらりと見上げてきて、
「早速やる?」
「……いきなりはちょっと。
2人の修行もありますし、軽く流してからにしましょう」
「りょーかい。
俺も軽く流したいからね」
ニコニコと返すウラヌス。……組手、思ったよりも気合いを入れた方がよさそうだな。念入りに準備しておこう。