どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二百十七章

 

 身体を慣らすのに10分、オーラの操作に10分、身体を動かしながらのオーラ操作に10分、くらいの配分で準備を終える。──よし、気合いも充分だ。

 

「ウラヌス」

「終わった? じゃあ俺も終わりにするよ」

 

 ウラヌスの方は、ほとんど準備体操みたいなことばかりやっていた。もちろん合わせてオーラも動かしていた。……遠目で見た感じ、ケチの付けようがない。

 

「2人とも休憩してくれる?

 どこで見物するかは任せるけど、出来る限り距離取った方がいいかも」

 

 姉弟は私達が話し始めた時点で、修行の手を止めていた。ずっと今か今かと緊張してたしな。これ以上待たせるのも悪いだろう。

 

 ──私達は、広がった修行場の中央に向かい立つ。

 

 ウラヌスは私の顔を軽く見上げながら、

 

「ルールはどうする?」

「そうですね……

 とりあえず、外側にある樹のところまで行ったら場外負けにしませんか?」

「場外ね。オッケ。

 後、あの2人に危害が及ぶような攻撃はアウトで」

「それはルールというより、当然の約束事ですね。

 他にあります?」

「んー……

 降参は当然として、気絶はその時点で負け。できればその前に降参してほしいけど」

「それは私のセリフですよ」

「ふふ。アイシャ、楽しそうだね?」

「あなたこそ。

 その小さな身体でどこまで使えるのか、見せてもらいますよ」

「大分ブランクあるし、あんまり自信は無いんだけどね。

 胸を借りることにするよ」

「始めの合図は?」

「……それは公平にいきたいね。

 シーム! 『始めッ!』って合図して! 好きなタイミングでいいから!」

「分かった!」

 

 ふっとウラヌスの気配が途絶えた。両手をぶらんと垂らした、構えとも言えない構え。──次の動きが読めない。

 

 自然と私も風間流の構えを取る。漏れ出る意を逃すまいと、目の前の相手に意識を集中する。ウラヌスの目つきが変わり、私を射抜いているのが分かる。

 

 そのまま、互いに身動(み じろ)ぎもしない。

 

 

 

「────はじめッ!!」

 

 

 

 双方、『め』の音が発せられたと同時に動く──

 

 ウラヌスが歩を進めながら両手を持ち上げる。──掴む動きと察知した私は、体を左に捌きながら彼の右腕を取りに行く。

 取らされる、と判断して私は手を止めた。ウラヌスの右腕が一瞬揺れ、私は一歩下がる。ウラヌスの爪先蹴りをかわし、再度前に出るが私の踏み込みもかわされる。

 積極的にウラヌスへと手を伸ばすが、腕にほんの一瞬接触しただけで弾かれる。合気を徹底警戒されている。完全ではないだろうが、動きを読まれてる。

 

 ──そもそも私は【天使のヴェール】をずっと発動している。よってオーラから動きを読まれることはないが、ウラヌスはその目でオーラが生じる以前の動きを視ている。再び生を得て以来、かつてなかった経験だ──これほど先読みされるのは。

 

 私自身も先読みを駆使しているが、残念ながら小柄になったウラヌスと交戦経験がなく、読む材料が不足している。ウラヌスと似たような実力者との交戦経験もない。なにより、ウラヌスは読ませまいとしてオーラを高レベルな『隠』で捉えづらくしている。『凝』で見えると言っても、見えづらいことに変わりはない。オーラの流れなど到底読み切れない。

 

 ウラヌスの動きが変わる。私の隙を誘うような動きをやめ、積極的に剛拳を繰り出す。だが、深追いしてこない。私の柔拳を事前察知し、後少しのところで微かに押し引きして、ズラしてくる。それだけで合気を無効化できることを理解している。

 どころか、私が少しでも強引な動きをすれば、ウラヌスが柔拳を仕掛けてくる。無論、喰らうはずもない──が、リィーナと比べても遜色ない巧みな柔だ。重心の制御という点だけ見れば、私すら凌駕している。

 

 ともすれば背筋を這い上がってくる悪寒に、必死で堪える。一体どれだけ修行をすれば、これほどの手練れになるのか。ウラヌスの年齢を考慮すれば、天才などという言葉で絶対片付けてはいけない。体術は彼の一面に過ぎないのだ。多彩な技能にも長けていることを踏まえれば、この水準は明らかに異常だ。

 

 

 

 以前浮かんだ疑念──ウラヌスが『転生者』である可能性が、再び頭をもたげてくる。

 

 

 

 視界が回る。──投げられたことを意識する前に、ウラヌスの脚に触れ、私にかかった回転力を押し付ける。ともに回るウラヌス。

 地に足が触れた瞬間、私は距離を取る。ウラヌスは反転した状態から片手で地面を弾き、同じく距離を取った。……私も咄嗟に返しはしたが、投げられたことがショックで動悸が治まらない。

 

「ふぅー……」

 

 あからさまに休む様子で息を吐くウラヌス。隙だらけだが、私も呼吸が整っていない。だからこそ、ウラヌスは息を吐いたのだろう。

 

「……ちょっと、本気でやりすぎじゃない?

 俺、メチャメチャきついんだけど」

「そうですか。私は楽しいですけどね」

「……そのワリに目つきが怖いんだけど。

 なんか俺、ヘンなことした?」

「いいえ」

 

 疑ってかかってるのが伝わってるな。……いけないな、ウラヌスの事情に踏み込むのは。仮にウラヌスが転生者であったとしても、彼からそれを話さない以上、私も聞けるようなことではない。……私自身、自分から話す勇気はない。

 

 ウラヌスが訝しげな目をしている。少し誤魔化しておくか。

 

「私が投げられるなんて、いつぶりかなと思いまして」

「ふぇー。

 なんか、すんごい達人みたいなセリフだね。

 ……いやまぁ、事実その通りだけどさ」

 

 さっき、不覚にも投げられた場面を思い返す。……アレは当て身投げか。動きが見えていたのに、読み違えた。いや、読み違えさせられたのか。

 先読みがなかなか通じないのは、私がどう先を読んでるか薄々気づかれているからか。いや、有り得るか? 私の先読みは、経験から成るものだ。それを読み切ろうとすれば、私を上回る経験が必要なはずだ。──多分。

 

 けど、これ以上探るのは危険な気もするな……。ウラヌスも私の先読みする力に疑念を抱いているだろう。私の年齢に合わないと。体術は優れた師がいれば熟達も速まるだろうから言い訳も出来るが、経験から来る先読みだとバレたら誤魔化し切れないかもしれない。

 

 ウラヌス自身が転生者でなくとも、メレオロンが転生した話を聞いてるからな……絶対見抜かれないという保証もない。

 

「確認するけど、まだ続ける?」

「ええ、もちろんです」

 

 私は再び構えを取る。疑問と迷いを頭の隅に追いやる。今は組手に集中しよう。彼との修行で得られるモノは実に多そうだ。

 

 

 

 しばらく組手を続け、ようやくウラヌスに隙らしい隙が見えてきた。攻撃を決めた直後、僅かに次の動きへの繋ぎが甘い。ブランクがあるせいだと思うが、少しばかり躊躇が覗く。──3本ほど彼の降参で勝利をもぎとり、そこでようやく気がついた。

 

「……私に怪我させまいとしてませんか?」

「当たり前じゃないか。

 俺の怪我は治せるけど、アイシャの怪我は治せないだろ?」

 

 それを聞いた私の中で、様々な感情が渦巻いた。ボス属性の存在を呪わしく思い、そこまで気遣われたのを恥ずかしく感じ、怪我させまいと手を抜かれたことに怒りを覚えた。

 

 私が感情を口にする前に、ウラヌスはバツが悪そうに頬を掻き、

 

「いや、本音を言えばここまでやるとは思ってなくてさ……

 俺としては、もうちょっと試運転的なつもりだったんだけど」

 

 その言葉に、私の闘志が薄れていく。……そうだった。彼はまだまだ本調子じゃないんだろう。私はたかだか1ヵ月のブランクだけど、彼は7年半も弱体化し続けてきて、昨日元に戻ったばかりだった。過去の健全な肉体を取り戻したとは言え、すぐ元通りに動けるはずもない。……手を抜いたのではなく、力加減が上手くいかないと解釈すべきだろう。

 

「すいません……

 ひとまずはこれで充分です。ありがとうございました」

「ごめんね、なんかヘンな気分にさせちゃって。

 でも組手自体はやってよかったよ。楽しかった」

「……こちらこそ」

 

 私も課題が見えてきたからな。少し先読みに頼り過ぎていたようだ。通用しない相手がいる、と想定していなかったのは恥じるべきことだろう。……とても信じがたいけど。

 

 いや、彼も私といずれ戦う為の準備を今までしてきたということか。その点では、私はウラヌスのことをまだ見くびっていたらしい。オーラが見えるようになったんだし、これから観察を深めていかないとな。

 

 ウラヌスが身体を(ほぐ)しながら姉弟のところへ歩いていくのを傍目に、私は身体に異常がないかを確認しつつ、先の戦いで得た情報を振り返る。

 

 顕在オーラは、私と遜色なかった。厳密には、私は『練』をしていたものの、全開にはしていなかった。するつもりもなかったけど。私自身、本調子とは言えないしな。

 ウラヌスは私のオーラに張り合っていたけど、かなり無理な『練』をしていたんだろう、いくらか荒さも見えた。彼が『隠』で隠しそこねていたオーラに、それは見て取れた。

 

 あのまま続ければ、いずれウラヌスのオーラは底を突いたかもしれない。けど、消耗に関しては私もヒトのことは言えない。【天使のヴェール】による損耗を考慮すれば、私が先に力尽きた可能性もあるからな。……ウラヌスに聞けば教えてくれるかもしれないけど、何となく聞きたくないんだよね。

 

 でも、私がそれより疑問視してるのは、ウラヌスの肉体が持つスペックだ。

 

 分からなかった。……ネテロや護衛軍の1人ですら把握できたというのに、ウラヌスに関しては読み取れなかった。

 

 あのメルエムも、計り知れないということだけは理解できた。あれは肉体のスペックが尋常でないがゆえに、私自身を含めた誰とも比較できないから理解できなかったのだろう。……現に大きなダメージを与えてからは、弱ってきた肉体の状態を把握できたのだから。

 

 ところが、ウラヌスの肉体はどれだけ触れても理解できなかった。分からない、という他ない。まさかメルエムほどのスペックを誇るはずもないだろうが、結局何が原因で理解できなかったのか……。ウラヌス自身、私に分からないよう立ち回っていたのだろうか。

 

 ますます謎が深まったなぁ。年齢に見合わない潜在オーラ量といい、あれほどに優れた体術や知識量といい、いったい何をどうすればああなるのか……

 

 はぁー……。修行しよ。考えても分かるわけがない。まだ知り合って1ヵ月だもんな。追い追い知る機会があるといいんだけど。でも私の方はバレたくないな。ムシがいいとは思うんだけどね。

 

 

 

 しばらく修行を続けた後に、ウラヌスが姉弟に長めの休憩を指示する。試したいことがあるからと、私にも休んでほしいと告げてから、ウラヌスは『絶』で静かに休みだした。

 私はまだまだ動きたいけど、何か考えがあるんだろう。私も同じように『絶』をして、心身とオーラの回復に努める。どうせなら禅を組むか。

 

 

 

 ──しばしの禅から意識を戻すと、ウラヌスが広げた地図を閉じて、荷物の上に置いたところだった。

 

「もういい?」

「ええ、構いませんよ」

「ちょっとだけ、ゲーム攻略を兼ねて実験させてほしいんだ」

「……何するつもりです?

 地図を広げてたみたいですけど」

 

 微笑みだけ返し、ウラヌスは小さな指先を宙に躍らせた。

 

最も近(もっと ちか)く (とお)彼方(かなた)へ──」

 

 呪文詠唱とともに風が巻き起こる──ウラヌスを中心に。

 

「──【風の恵み/シルフエッセンス】──」

 

 ふわりとウラヌスが飛び上がった。次の瞬間、姿が消える。──視線を跳ね上げると、木々の天辺より上から見下ろす影。8の字を(えが)いて飛んだり、空中で静止したり、上昇と降下を繰り返したり。徐々に速度が上がっている。

 

 とんっ、と不意にウラヌスが着地した。彼の纏っていた風が霧散し、私達に吹き付ける。

 

「オッケ。

 まぁ除念前も飛べはしたんだけど、これなら行けそうだ」

「……飛べたんですね」

 

 まあ、むしろ飛べない方が不思議ではあるか。単に今まで見たことがなかっただけで。

 

「最近使ってなかったんだよ。オーラの消費が大きすぎるから。

 今なら問題なく使えるけど、それでも多用は禁物かな」

「で、何を試すんです?」

 

 私達をわざわざ休憩させたんだ。何か……ん? まさか……

 

 ウラヌスがちょいちょいと、私を指で招く。

 

「あなた、ひょっとして……」

「わかった?」

 

 ニコニコ笑顔のウラヌス。この流れは……

 

「移動スペルが使えない私を、抱えて飛ぶつもりですか?」

「そのつもり」

 

 やっぱり。……リィーナといい、レオリオさんといい、どうして私を抱えて運びたがるのか。別に頼んでないんだけど……。そりゃ助かるけどね。

 

「でも、2人で飛べるんですか?」

「いちおうは。

 単独で飛ぶだけじゃ、能力として使い勝手悪いからね。2人なら想定内。

 メレオロンとシームは、申し訳ないけど飛んで運ぶ必要がないから勘弁してほしい」

 

 ちょっと不機嫌になるシーム。呆れた顔で肩をすくめるメレオロン。

 

「そりゃアンタ、移動スペル使えないアイシャだけでしょ。

 そんな必要あるのは」

「……すいませんね、足手まといで」

「いちいちそんなこと気にしないの、アンタも。

 で、アタシ達はどうすればいいの?」

「うーん……

 ここで待っててもらってもいいか?」

「……アタシ達が行っても、移動スペルの無駄だから?」

「それが一番の理由かな。

 どうせすぐ行って帰ってくるし、それで『同行』2枚はちょっともったいない」

「はいはい。

 アンタ達が戻ってくるまで、自分達の身は自分で守れってことね」

「向こうにはそんな長く留まらないけど、移動に結構時間かかるんだよ。

 当然スペルほど速くないし、目的地も遠いからワリと待たされることになると思う」

「……他のプレイヤーが来るかもしれないから、休んでた方がいい?」

 

 シームの問いに、頷くウラヌス。

 

「襲撃に備えて、体力を温存してほしい。さっきまで休んでもらった理由もそれだし。

 もし危ないと思ったら、すぐ『交信』使って。

 俺が『同行』で向かうから」

「もしそうなったら、足手まといの私は置いてけぼりなわけですね」

「う、うーん……

 いや、だって、どうしようもないし……」

 

 まぁそれは分かるけどね。もし私達が飛んでいる最中に2人が『同行』で飛んで来たら、どうなるか分からないからな。空中に放り出されたり、激突すら有り得る。試すわけにもいかないし。

 

「万が一飛んでる時に緊急事態になったら、私を地面に落としてくれていいですよ。

 勝手に着地しますから」

「そうならないようにするってば……」

 

 なんだか済まなさそうにしてるけど、別にウラヌスは悪くないんだよね。そもそも私が原因だから……。当たり前に使えてただけに、ホント移動スペルを使えないツラさが身に沁みるよ。

 それをウラヌスがフォローしてくれるんだから、むしろ感謝しないとな。

 

 ウラヌスはポケットから携帯を取り出し、すぐしまう。改めて私を見て、

 

「……えっと」

 

 小首を傾げるウラヌス。だよね。かなり体格差あるけど、どうやって私を抱えるんだ?

 

 ウラヌスの困った様子に、メレオロンが「ぷっ」と吹き出し、

 

「お姫様抱っこすれば?」

「そのつもりだったけど、流石にそれで長距離飛ぶのは怖いかなー……」

「じゃなくて、アンタがされたら?」

「そんな体勢で飛べるか」

「じゃあオンブしてもらえば?」

「二度も言わすな」

「ぎゅってしたら?」

 

 シームの提案に、私とウラヌスは視線を交わす。……うん。それをするとだな。

 

「……確かに邪魔ね、アンタのおっきなオッパイ」

「うるさいですよッ!」

 

 分かってんだよ、そんなことは! ウラヌスと正面から抱きついたら、モロに私の胸とウラヌスの顔が当たる身長差なんだよな、くっそぉ……

 

 ウラヌスは顔を赤くしながら、

 

「こういう時に困るよね、俺の身長……」

「いえ、その……あなたのせいではありませんから」

 

 だからと言って胸が大きいせいにされても困るけど。どうしようもないし。

 

「もういいじゃない。胸に顔埋めて飛べば」

「バカ野郎ッ!!

 ンな目隠ししたまま、飛べるわけねぇだろがッ!!」

「ウラヌスも真面目に答えないでください……」

 

 出来たとしても、却下だよそんなの。

 

「そんじゃアンタが、アイシャの後ろから抱きつくしかないでしょ。

 他に案ある?」

 

 …………。……まぁそうだな。それしかなさげだ。

 

「ウラヌス、どうです?」

「……アイシャがよければ。

 多分、現状でそれより安定して飛べる体勢はないかな」

 

 というわけでウラヌスが私の背後へ。私は後ろ髪を前に回す。ウラヌスが両腕を伸ばし、私の胴を抱きしめる。

 

 ……おおおぉ。密着して分かる、このぷにぷに感。ちっちゃくなった分、また以前とは格別のやわさだ。さっき戦ってた時はピチピチしてたけど、今は極上のクッションだよ。

 

「うわー。写真とりてぇ」

「うるせぇぞ。……こんなもん、ヒトに見せられるか」

 

 まったくだよ。……いや、言われるとメチャメチャ恥ずかしくなってきたぞ。

 

「それじゃ空中デート、いってらっしゃーい」

「楽しんできてね」

「ああ、もう! ……アイシャ、準備いい?」

「いつでも。むしろ早くしてください」

 

 とは言っても、私に出来ることはないけどね。変に身動きして飛ぶ邪魔をしないよう、自然体にしておくぐらいだ。万が一落下した時に備えて、私も即座にオーラを放出できるよう心構えはしておく。

 

 ──浮遊感とともに、空へと浮かび上がった。

 

 一気に上空まで舞い上がり、ある程度の高さで停止する。私の眼下には紅葉した木々の絨毯が広がっている。私達がさっきまでいた林だけでなく、一帯に点在する林も見渡せる。離れた場所にオータニアの街並みも俯瞰(ふ かん)できた。

 

 ……素晴らしい。私がオーラを放出して飛ぶのに比べれば雲泥と言っても差し支えない。空を飛ぶこと自体は、レオリオさんや移動スペルで体験したし、自分でも出来ることだが、空中で静止するのは初めての経験だ。一体どれほど高度な制御をしているのか……

 

 レオリオさんに抱きかかえられて飛んでいる時とも違い、私の身体は風圧や不安定さも感じていない。まるで空中に立っているかのようだ。いや、地上に立っている時よりも楽ですらある。

 だからと言って、特殊な方法で浮遊しているわけでもなさそうだ。もしそうなら、私のボス属性が無効化しているはず。ウラヌスは念の特殊性に寄らず、物理的な手段で飛んでみせている。

 

 私の身体にはウラヌスが抱きつく以上の負担はなく、完全に宙へ浮いた状態だ。周囲はオーラが激しく渦巻き、この状態を維持することの困難さを伝えてくる。……オーラ放出だけで私がこれを実現するのは、おそらく不可能だろう。

 

「アイシャ、大丈夫?

 不安定だったり、気持ち悪くなったりしない?」

「ええ、むしろ気持ちいいぐらいですよ。

 いつでも移動を始めてもらって構いません」

「ん、行くよ。

 ……だんだん横向きになるからね」

 

 水平方向へ移動を開始する。体勢が少しずつ傾いていき、移動が速くなるにつれ傾きが増していく。しまいには進行方向へ頭を向けた真横の体勢になった。顔は地面を向いてるから、どれだけの速さで進んでるか分かる。流石に横移動の慣性はかかるけど、それほど負担にはならない。むしろウラヌスがしっかり抱きついてる感触が、心地よくすらある。地上の景色が、映像を見ているかのように流れていく──

 

 ……っていうか、無茶苦茶スピード出てる気がするけど。もしかして私が全力疾走するより速くないか? うわぁーっ。

 

「アイシャ、平気?」

 

 背中越しに伝わってくる気遣わしげな声と温もりに、胴へ巻きつく彼の腕に『平気』と指文字で返す。

 

 

 

 ……まぁしばらくは、空中デートとやらを堪能するとしよう。

 

 

 

 

 

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