どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二百十九章

 

 ──10月17日。

 

 朝、『交信』でモタリケさんから『モデルは?』と聞かれて、不機嫌なウラヌス。

 

「いや、そろそろベルも描いてやれよ……

 桜を貸しゃいいんだろ?」

 

 その返事に、渋々といった様子で了承するモタリケさん。交信が終わった後、

 

「夜はアントキバですか。私は留守番でしょうね」

「ちょっと遠いもんね……

 夜に長距離飛行するのも怖いし」

 

 無駄にウラヌスを消耗させるのも悪いしな。かと言って、夜中にここからアントキバを往復なんて、私もしたくない。今日はレースの日だしな……

 

 

 

 朝から昼まで修行し、昼食を済ませた後は休憩。レースの開始時刻が近づいてきたので、私1人でスタート地点へ向かう。それより一足早く、ウラヌス達はリサイクルームを購入する為にマサドラへ飛んでいた。

 

 オータニアの入口には、ゲームキャラ達に混ざってプレイヤーの姿も見える。いちおう、いつでも聖騎士の首飾りを手に出来るよう心構えはしている。攻撃スペルを使ってすぐに移動スペルで逃げられたら、私は追えないからな。充分注意しておかないと。

 

 やがて進行役のゲームキャラが、レースのルールを説明し始めた。ここオータニアから出発し、ゴールのエリルを目指す。乗り物は使用してもしなくても構わない。が、道中で移動できるスペルや特殊な移動アイテムなどを使用したら失格。途中3箇所あるチェックポイントを通過しなかった場合も失格となる。

 

 ウラヌスから聞いてたのと同じ内容だな。昨日行った宿場町チアーが1つ目のチェックポイント、カフェウォーク村が2つ目だ。更に進んだ先にあるランナー村が3つ目、その先がゴールのエリルとなる。

 

 秋空に、ポンポン! と賑やかしの花火が上がる。いよいよ始まるようだ。

 

『位置について。よーい…………』

 

 ぱぁんッ! と景気のいい号砲とともに、一斉に走り出すゲームキャラ達。少し離れた場所で、バイクのエンジンを掛けたプレイヤーもいる。どうやって用意したのか気になるけど、ガソリンも売ってるみたいだからな。乗り物もどこかで手に入るのかも。いちおうプラキングがあれば作れるけど、それだと順序が逆さまなんだよね。

 

 さて。安全確認も済んだし、状況把握はこれくらいにして私も走るか。

 

 大地を蹴る。──すぐ耳元で風が唸り、後方にゲームキャラ達を置き去りにしていく。いくらか先に進んでいた乗り物組も、あっという間に抜き去った。

 

 …………。んー?

 

 いつまで経っても、誰も追いついてくる気配がない。待ち伏せもだ。結構警戒してたんだけどな。……まぁいい。道中に怪物も出ないらしいし、純粋に200㎞走を楽しむとしよう。

 

 

 

 ──お、もうゴールか。桜吹雪が舞う街の入口──ゴールテープがある。その向こうに、ウラヌス達の姿も見えた。

 

 急速にスピードを落としながらも、一気にゴールを駆け抜ける。やや靴を滑らせながら、ウラヌス達の前で停止した。

 

『1位、アイシャ選手!』

 

 ぱぁんッ、ぱぁんッ! とゲームキャラが号砲を2度鳴らした。祝福するかのように、桜吹雪が華やかに舞い散る。

 

 なぜか目を丸くしてるお姫様達を見やりつつ、優勝賞品を受け取りに行く。ラッピングされた大きなプレゼント箱が開封されて、中から出てきたのは車の絵が描いてある箱……いやいや、デカいな。乗り物を作ろうと思ったら、これぐらいのサイズは要るかもだけど。アイテム状態のまま運べないよ、これ。

 

 とりあえず手を触れると、ボンッ! と煙と化した。

 

 

 

『91:プラキング』

 ランクA カード化限度枚数20

 組み合わせ次第でどんな乗り物でも作ることができるプラモデルキット

 もちろん1分の1スケールで運転もできる ただし燃料は別売り

 

 

 

 バインダーにカードを収めてると、ウラヌス達がやってきた。

 

「おめでと。それにお疲れ様。

 道中で何もなかった?」

「何もなかったですね。

 妨害も警戒してたんですが、すっかり拍子抜けしましたよ」

「警戒じゃなくて、期待してたんじゃないの?」

「なに言ってんですか、もう」

 

 からかってくるメレオロンに、そう返す。期待なんてしてないよ。……物足りないとは思ったけど。

 

「まぁ何もないに越したことはないからね。

 でも、なんか早すぎない? レース始まって、まだ20分ぐらいなんだけど?」

「だらだら走っても仕方ないんで、道中は結構飛ばしましたね。

 それより、リサイクルームの方は無事買えましたか?」

「う、うん……まぁいっか。

 それよりこの後どうしよっか?

 俺達もさっき来たばっかりで、まだ全然考えてなかったよ」

 

 問われて、桜並木に目を向ける。ふむ……

 

「……せっかくですし、少しお花見していきませんか?

 私は簡単に来れないですし、せっかく来たのに見ていかないのはもったいない気がして。

 他のプレイヤーもまだ来ないでしょうから」

「うーん……

 了解。優勝者の凱旋に付き合うとするよ」

「どっちかって言うと、お姫様とデートする権利じゃない?」

 

 じろりと変態を睨むウラヌス。ふふ、ぜんぜん迫力ないよね。特にここだと。

 

「はぁ……

 こんなトコでのんびりしてたら、他のプレイヤーが来るかもしれないし、もう行くよ」

 

 そう言って歩き出すウラヌスに、私達は付いていく。……後ろから見ると、ちっちゃくなったお姫様の姿がまた街並みに似合う似合う。可愛らしいなぁ。なでなでしたいよ。

 

「……」

「シーム、どうかしました?」

「うん……

 ウラヌスが元気になって、良かったなって……」

 

 言葉とは裏腹に、あまり嬉しくなさそうなシーム。元気がなく、儚げだったウラヌスを懐かしんでるのかもしれない。気持ちは分かるけど、それは望んじゃいけないんだよな。

 

 

 

 花と団子を楽しみながら、私達はこの後どうするか相談する。……とは言っても、私が移動スペルを使えないから遠くに行けないんだよね。オータニアへ戻ろうとすると、まだレース中のプレイヤーとかち合うし。

 

 私は高い方の地図を眺めながらしばらく悩み、

 

「……どうせなら、みんなで走りません?」

『えっ!?』

 

 3人が一斉にそんな反応。

 

「アンタ、まだ走り足りないの?」

「今度はのんびりとですよ。

 ほら、エリルの南西に村があるじゃないですか。

 ここまで行きませんか?」

「マクトシ村があるね。……大体50㎞ぐらいかな。

 レースと違って、怪物出るかもだけど。これぐらいレースのルートから逸れれば、俺がアイシャをオータニアまで空輸できるね」

「ええぇ……ホントに走るの?」

「だって、アイシャを帰さないといけないしさ。

 まんまレースルートを逆行すると、走っても飛んでも誰かに見られそうだし」

「レースルートをある程度離れながら、走って帰っても構いませんけどね」

「いや、流石に手間取ると思うよ?

 レースの直線上は走りやすくなってるけど、そこから逸れると敵の出現エリアも近いし。……やっぱり村まで行ってから、俺が運んだ方がいいね」

「マジかー……」

「ボクとおねーちゃんは、村まで行った後どうしたらいいの?」

「そのまま村で待ってた方がいいかな。

 俺がアイシャをオータニアに運び終わった後で『交信』を使うから、『同行』で飛んでくればいい。今日はそれで終わりにしよう」

「分かった。

 だって、おねーちゃん。エリルで待ってると、他のプレイヤーも来るから危ないよ?」

「あーもう、わかったわよ。

 走ればいーんでしょ、走ればー……」

 

 不満たらたらのメレオロン。修行でも走りこんでるから、うんざりなわけか。それこそ修行に比べたらコレぐらいの距離、なんてことないだろうに。

 

 

 

 私とウラヌスが姉弟の背負う荷物を預かり、マラソンで賑わうエリル入口は迂回しつつ、4人で南東のマクトシ村に向かって走り出す。

 姉弟を早く走るよう焚き付けながら、道中の怪物は私とウラヌスで鎧袖一触し、50㎞のマラソンを1時間ほどで終えた。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁ……」

「つぅかれたぁー……

 シーム、だいじょうぶ?」

「うん……」

「2人とも走れるようになってきましたね。でもまだまだですよ。

 せめて今の2倍ぐらいのペースで……」

『うぇー』

 

 真面目な話、基礎体力はなかなか付いてきたと思うけど、それでも一般人に絶対いないとは言い切れない程度のレベルだからな。当然、念能力者としてはまだまだ未熟だ。

 

「俺とアイシャみたく、ほとんど『絶』で走れたら文句なしだけどな」

「それが理想ですね。この2人にはまだ早いでしょうが」

「いや、無理だからそんなの……」

 

 無理かどうかなんて、やってみないと分からないよ。2人が成長できる限界は、誰にも分からないんだから。

 

 

 

 村で一服した後、私はウラヌスに抱えられてオータニアまで飛ぶ。無事帰還した後に、姉弟を呼んでスペルで飛んできてもらい、カードの換金を済ませたりして旅館へ。

 

 お風呂に入ったり休んだり遊んだり研究したりしながら、私達は夕方まで過ごす。

 

 

 

「はぁぁぁー……

 今日はもう大変だったわぁ」

 

 料亭で合流したユリさんは、珍しく怪我をしていた。ウラヌスに治療してもらいながら、ぐちぐち文句を言ってる。

 

「仕返し商店とか、信念の楯とかはすぐ終わったけどさー。

 もー身代わりの鎧が、メンドくさくて、メンドくさくて。

 ジャロをうろつきすぎたせいで、他のプレイヤーも邪魔しまくってきてさぁ。すっごい大変だったのよ?」

「はいはい大変だったな……」

「そーよぉ、大変だったのよー。

 桜、もっと癒してぇー。ほっぺた、ぷにぷにぃー♥」

「ちょヤメロよ。つか、くっつくな。

 ……だったら、俺達も手伝った方がよかったかもな」

「そんなわけにはいかないでしょ。組んでるってバレたら大変じゃない。絶対今ぐらいの妨害じゃ済まなくなるわよ」

「う、うん……

 そろそろ寝る時も怖くなってきたしな」

 

 なんだよね。それもあって、修行でヘトヘトになるまで体力やオーラを削れないんだよ。……メレオロンやシームの。特にメレオロンは、いざという時のシームの守り役でもあるから、寝る前の『練』も余力を残すようにしてもらってる。

 

「にしても、ずいぶん苦戦したんだな。

 怪我もそうだけど、かなりオーラ減ってるじゃん」

「ちょーっと、ドジっちゃってね……

 オーラが減った影響はなくしたつもりだったけど、まだ調整がいるかも」

「攻略は後回しにするか?」

「ううん、攻略しながら調整するわ。

 のんびりしてる方が、後々怖いじゃない」

「まぁそうだな……」

 

 

 

 ユリさんの治療を終え、美味しい秋の味覚を堪能した後、いつものように攻略の相談をする。まず無いとは思うけど、万が一限度枚数に達したら怖いということで、ユリさんが持ってた『再生』のスペルで予備の聖騎士の首飾りをカード化しておく。

 

 これで遂に94種集まったわけだ。残りは6種。いよいよ大詰めだ。

 

「99種揃った時点でイベントが発生する支配者の祝福は除くとして、実質あと5枚。

 ランクSSの一坪の密林、一坪の海岸線、大天使の息吹。

 ランクSのシルバードッグ、メイドパンダ」

「一通り『名簿』で確認したけど、まだ誰も取ってないわね。

 ていうか、シルバードッグとメイドパンダは取り方が変わってて、分かんないのよね」

「ランクSだから、地味に情報集めも面倒だもんな……

 海岸線はともかく、密林もサッパリだしな。……ここまで来たら、長丁場は避けたいんだけど」

「バレないうちに集め切るのが一番楽だもんねー。邪魔されると本当にキツイわよ。

 でも、どうするの?」

「シルバードッグとメイドパンダはどっちもハイループだし、一緒に情報集めできるけど……

 海岸線は15人集めるのがしんどいし……

 ……前から考えちゃいたけど、そろそろ覚悟決めるか」

「どうするつもりです?」

「大天使の息吹。力尽くで取りに行こう」

 

 ほぅ。でも、どうやって?

 

「今まで金はチビチビ使ってたけど、マサドラで一気にスペルカードを爆買いする。

 店の外に持ち出さない限りはパックから引いたばっかりのスペルカードは消えないから、他のプレイヤーが来ないタイミングとスピードで、『堅牢』が出るまでひたすらパックを開けまくる」

「ついでに『堅牢』も『名簿』で調べたけど、誰かが1枚引いたっきりね」

「前に調べた時と同じだな。

 それなら、金に糸目をつけなきゃ必ず出るはずだ」

 

 ここで真実の剣を売って得た大金が役に立つわけか。まあ、今まであまり稼がずに贅沢するのにも役立ったけどね。

 

「で、いつ決行する?」

「そうだな……

 できるだけ急いだ方がいいけど、俺達も休まなきゃいけないから夜中はキツイし……

 明日の早朝なんてどう?」

「私は問題ないわ」

「早朝ねぇ……早く寝れば大丈夫でしょうけど。アタシもいいわよ」

「ボクも」

「私もです」

 

 オータニアからマサドラまで、直線で150㎞ぐらいだったからな。私だけ30分ほど早起きすれば充分だろう。

 

「オッケ。

 じゃあ今日は、みんな早めに休んでね」

「それはいいけど、アンタ今日モデルなんでしょ?」

 

 メレオロンの指摘に「うっ」と呻くウラヌス。

 

「ま、まぁ大丈夫だと思うよ。

 今から連絡して早めに始めさせるから」

「……またモデルしに行くんだ」

「ユリ姉は来んなよ。今日は俺1人で行くから」

 

 ふむ。まぁそうなるか。メレオロンとシームが行くかなと思ってたけど、2人とも早く寝ないといけないからね。……大勢で行くと、ベルさんと話し込んで長引きそうだし。

 

「どうせなら、あの2人も巻き込んじゃえば?」

「うん? 何に?」

「スペルカード買いに行くのに。

 少しでもバインダーの空き枠と人手は欲しいんでしょ?」

「あー……

 ちょっとリスキーだけどな。いちおう聞いてはみるよ」

 

 メレオロンの提案に、どちらとも言えない返事をするウラヌス。いずれにしろスペルを大量買いするのはリスクがあるから、スピード重視で人手を増やすのも悪くはないか。

 

 

 

 夜。私とシームでひとしきりニャンコ2匹をにゃんにゃん愛でまくった後、ウラヌスは疲れた顔でアントキバへ向かった。ちなみにメレオロンは、ニャンコを愛でる私達に呆れ果てて、隣の部屋に引っ込んでいる。

 

「ウラヌスと桜って、ちょっと仲良くなったよね」

「そうですね……」

 

 ウラヌスが若返った後、サクラと険悪な雰囲気ではなくなったんだよな。子供になったウラヌスにサクラがどういう反応するか気になったけど、最初少し戸惑ってたぐらいで、後はいつも通りだったし。

 

「……今のウラヌス、アイシャはどう思う?」

「今のですか?」

「うん」

「可愛らしいと思いますよ。前もですけど」

「……」

 

 そういうことを聞きたいわけではないらしい。

 

「シームは、今のウラヌスが嫌いなんですか?」

「ううん。違うよ」

「……でも、なんか遠慮してますよね?」

 

 困った顔をするシームに、私もどうしたものか考える。シーム自身、どうしたらいいか分からないんだろうな。多分、ウラヌスも。

 

 ふむ……私が考えても仕方ないのかもな。本人達の問題だと思うし。

 

「さ、早起きしないといけないですから、そろそろ寝ましょう。

 明日もがんばって修行しますからね」

「うん……」

 

 

 

 

 

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