どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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アントキバ編7 2000/10/17
第二百二十章


 

 俺が玄関前で待ってると、家の中からドタドタ聞こえ、扉が開いた。

 

「おう、よく来た──なぁッッ!?」

「……なんだよ」

 

 モタリケが変な反応するのに対し、俺は暗がりから不機嫌な声を返す。

 

「いや、オマエ。それ……」

「……若返ったんだよ。それがどうした」

「あ、ああ……

 そういや、そんなこと言ってたな……

 うん、まぁ上がってくれ」

「……」

 

 ある程度の反応は覚悟しちゃいたけど、こうも露骨な態度見せやがるか……。くそっ、イライラするな。

 

 家に上がらせてもらうと、廊下の向こうからベルが近づいてきた。

 

「どしたの、モリー?

 大きな声出して──え?」

 

 俺の姿を見て、目を丸くするベル。「え? え?」と言いながら近づいてきて、

 

「えぇぇぇーっ!?」

「……なんだよ」

 

 俺の頭上で、手をスカスカと振るベル。

 

「ちぃっちゃあー……

 え? ウラヌスの妹さん?」

「ンなわけあるか」

「ああー……このクチの悪さはウラヌスだわ。

 にしても、驚きのミニマム化ね」

「ミニマムとか言うなや。

 テメーも若返ってんだろが」

「あ、うん。そうね……

 気にしたならゴメンなさい。すごいビックリしちゃって」

「……俺もどんな反応されるか怖かったよ」

 

 そう零すと、夫婦の視線が思いっきり同情的になる。ぐ、いらんこと言った……

 

 ベルが、ぎゅっと俺を抱きしめてきて、

 

「んーもぅ、ゴメンなさいねぇー♪

 モリィー。このおチビちゃんってば、すんごい可愛いんだけど♪」

「それはオレも見て分かってるよ」

「は、はなせって。

 明日早いんだから、できるだけさっさと済ませたいんだし」

「あらら、残念。

 でも一服ぐらいしましょ。モリー、コーヒー淹れてあげて♪」

「そのつもりで沸かしてるよ。

 ……苦いのは平気か? ミルク足して、砂糖増やした方がいいか?」

「子供扱いすんなや。いつも通りでいい」

「味覚が変わってるかもしれないから、苦かったらちゃんと言えよ」

「……」

 

 くそ、完全に見た目通りの扱いしようとしてやがる。……やりづらいだろ、俺が。

 

 

 

「ねぇ、今日からウチの子にならない?」

「ブフゥーッ!?」

 

 モタリケが盛大にコーヒー噴いた。

 

「……ならねーよ。アホか」

「もぉー、冗談に決まってるじゃなーい♪

 モリーもオーバーねぇ♪」

 

 俺の肩をパンパン叩くベル。んなことより、モタリケがゲホゲホむせて苦しんでるが。

 

「……ベル! げぇほっ、ベ、げほげほげほぉっ!」

「オマエはちょっともちつけ。

 ベル、タオル持ってきてやれよ」

「はいはーい♪」

 

 キッチンの方へ行くベルを横目に、口許を拭ってるモタリケを見やり、

 

「オマエは俺より驚いてんじゃねーよ。

 ベルのセリフより、オマエのリアクションでビビったわ」

「い、いや……げふん」

 

 ったく、イチャつくなら俺の居ないトコでやれよ。

 

 ベルが持ってきたタオルで顔とテーブルを拭き、ようやくモタリケが落ち着く。

 

「ハァー……

 あんまり驚かせないでくれよ」

「珍獣みたく扱われて、俺は不愉快だよ。

 さっきも言ったけど、明日早ぇんだからあんまり引っ張らないでくれ」

「何かあるの?」

「……そろそろ大天使の息吹を取りたくて。

 明日の早朝、人が来ないうちにカードパックから『堅牢』が引けるまで開けまくる」

「ああ、なるほど。

 普通には引けなかったから、いよいよ大量買いに挑戦するわけね」

「まぁ素で引けるのが一番楽だったんだけど、こればっかりは運だからな。

 独占される危険性を考えると、これ以上後回しにもできない」

「けど、スペルカードの店って予め金は預けられないだろ?

 引くまで開けるにしたって、買う金はどう用意するんだ? 他の店から金を下ろして、いちいち行ったり来たりしてたら時間かかるだろ?」

「いちおう算段は立ててるよ。

 で、人手がちょっと欲しいんだけど、オマエラ参加する気ある?」

「え?

 ……明日の早朝よね?」

「ああ。いちおう5人でやるつもりだけど、人手がいればより早く片付くからな。

 『堅牢』が出るまで、どんだけ時間がかかるか分かんねーし。他のプレイヤーが来ないうちに片付けたい」

「なるほどね。

 ……わたしは面白そうだから参加したいかな。モリーは?」

「オレも興味あるよ。

 朝早いのはキツイけどな」

「どっちだよ。やるのか、やんねーのか」

「……参加するよ」

「オッケ。みんなにはそう伝えるよ。

 ……助かる」

「その分だと、もうかなりカードは集まったみたいだな。

 残り何枚なんだ?」

 

 うーん。……まぁ教えてやってもいいか。後はスピード勝負だし、こいつらから情報を引き出そうとする輩がいたら、ボコボコにするだけだしな。

 

 念の為、俺は口許に指を1本立てて、声に出すなとジェスチャーしてから、両手で指を6本立てる。

 

「……ぅわーお」

「もうそんなにか……」

 

 だよな。ここのところ、とんでもない速さで集まってるからな。

 

「ただ、こっからは簡単に取れないヤツばっかりなんだよ。

 大天使の息吹がまだマシなぐらいだからな」

「そうねぇ……

 最後の1枚は、例のクイズ大会よね?」

「ということは、実質残りこれだけなわけか」

 

 モタリケが片手を広げて示す。俺は1つ頷き、

 

「今のところ、一番ヤバそうなのは一坪の密林だけどな。

 アレだけはマジでサッパリ分からん」

「誰も自力で取ったことないもんねぇ……」

「一坪の海岸線の取り方は、ヒントにならないのか?」

「ヒントにはなるかもしれないけど、全く同じってことはないだろうし、SSは一筋縄ではいかないだろ。

 本格的に調べるには、それこそ人手が要りそうだからな」

 

 

 

 しばらく雑談した後、2人を急かしてモデルを始めさせる。ベルが時間をかけて気合の入った服装に着替え、地下室に移動。俺はベルに桜を持たせてやる。

 

「にゃーん」

「やーん。こっちも相変わらず可愛いわねぇ♪ いい子いい子ー。撫で撫で」

「にゃ、にゃう」

「うふふ♪

 モリー、可愛く描いてね?」

「その猫は3度目だしな……大丈夫だとは思うよ」

「わたしもよ?」

「……」

「わたしも、よ?」

「……はい」

 

 アホな夫婦漫才に溜め息を吐き、俺は椅子に座って頭を垂れる。こっからは待ちだな。

 

「なんなら、上で仮眠してれば?

 寝床貸すわよ?」

「……そういうわけにもいかないだろ。桜のことがあるし」

「お前が寝ると、この猫って消えるのか?」

「消えないよ。

 つか、今は無補給で3時間くらい保つようにしてるしな」

「なら上で休んでろよ。

 明日早いんだろ? 終わったら呼ぶから」

 

 ……珍しいモタリケの配慮も、こういう時はありがた迷惑だな。

 

「明日早いのは、オマエラもだぞ?

 いいからさっさと描け。のんきに寝てられるか」

「モリー。

 待たせても悪いし、早く描いてあげて」

「……分かったよ。

 久々だから、じっくり描きたいんだけどな」

 

 ベルがくすりと笑う。……こいつら、隙あらばノロケるよな。

 

 

 

 静かに描くかと思いきや、ベルが退屈しのぎに色々話しかけてくる。大体モタリケ相手だけど、突然俺にも話を振ってくるから油断ならない。

 

「……ねぇ、あなたもそう思わない?」

「ん?」

 

 おっと、考え事でウトウトしてた。ほら、聞いてなかったよ……

 

「眠そうだな。

 子供になったから、やっぱり遅くなると眠いんじゃないのか?」

「んー……」

 

 確かに、眠気に逆らいにくくなったな。身体が成長したがってるからか、休養を求めるみたいだ。ちっと困るな。

 

「モリー。後どれぐらいかかりそう?」

「……ベルは普段家にいるから、いつでも描き足せるしな。

 30分もあれば、キリのいいところまで描けるよ」

「じゃあ、そこまででいいから急いであげて」

「分かった」

 

 うーん……本人達がそれでいいって言うなら、俺も構わないけどな。何か眠気覚ましに考えよう……

 

「ウラヌス」

「ん?」

 

 モタリケが神妙な様子で、声をかけてくる。なんだ?

 

「今日はあの子達と一緒に来てないけど、何かあったのか?」

「いや、別に」

 

 アイシャが移動スペルを使えれば、一緒に来たかもな。でも本人の許可なく、俺がそのことを言うわけにはいかない。

 

「オマエ、ずいぶん見た目変わっただろ?

 やっぱり前と今とじゃ、接し方が変わったんじゃないか?」

「……俺は、変わったつもりなんてないよ」

「オマエにそのつもりがなくても、周りがだよ。

 オレ達の反応見ても分かるだろ?

 そんなに変わっちまったら、イヤでも接し方が変わるよ」

「……モタリケ。

 オマエ、俺の今の姿がイヤなのか?」

 

 モタリケは黙ったまま、以前の俺を描いた絵に目を向ける。

 

「モリー。そういうのは良くないわよ?」

「にゃあ」

「ベル、いいよ。言わせてやってくれ。

 モタリケ、怒りゃしないから思ったことを言ってくれ。気になる」

「……

 必要なことだってのは分かってるが。

 ベルが若返って会いに来た経験があるオレだから、言えることかもしれないけど。

 どう接したらいいか分からなくて、困るんだよ」

「……」

「むしろ、今まで通りじゃダメなんだぞ?

 自分が何を考えてるか、どうしてほしいのか、ちゃんと伝えないと。

 今まで通りに接してほしいなら、そう伝えないと相手は分からないからな」

「……そう言われてもな」

「オマエは、相手が何を考えてるか分かるのか?」

「……。

 ちょっと考える時間をくれ」

 

 混乱してきたな。モタリケも上手く説明してくれよ……言いたいことが分かりにくい。

 

 ……つまりアレか。俺の印象が変わりすぎて、周りもどう接したらいいか分からなくて困ってるってことか。んー……

 

 念が解けたから、かなり融通利くようになったもんな。今まで相当我慢してきたから、少しずつ好き勝手やるようになって、その解放感を味わってる。アイシャもそんな感じだ。

 

 そういう意味で、メレオロンとシームは結構困ってるかもしれない。いや、はっきりとシームは様子が変か。この間まであんなにベタベタしてきたのに、今は俺のことが嫌いになったのかと思うぐらい距離を取ってる。前のままでも困るんだが。

 

 そのクセ、桜にはベタベタしてるしな。うーん……

 

「まぁ言いたいことは分かったよ。

 俺の見た目が変わりすぎて、何を考えてるか相手は分からなくなってるから、ちゃんと話して考えを伝えろってことだよな?」

「そういうことだよ。

 特に前のオマエを気に入ってた人間は、内心面白く思ってないだろうしな」

 

 うわ、ハッキリ言いやがる。……それこそ、どうしろってんだ。

 

「とりあえず、オマエが俺のことを気に入らないってのはよく分かったよ」

「怒るなよ」

「……そういう約束だからな。怒らないよ。参考にはしとく」

「元に戻る気はないのか?」

「……。今のところはな」

 

 結局そういう話か。……若返りも色々メンドくせーな。

 

「モリー。ちっちゃい子いじめちゃダメよ?」

「……イジメたつもりはない」

「イジメられたつもりもねーよ」

「気に入らないなんて言われて、落ち込んでるじゃないの」

 

 モタリケに悪く言われたぐらいで落ち込むとか、生き恥もいいトコなんだが……

 

「……これは、若返ったわたしだから言えることかな。

 贅沢になっちゃうのよね。前のように接して欲しい、今に合わせて接して欲しい、2つ求めちゃうのよ。それが周りにも伝わるから、どう接していいか分からなくなるのよね」

「ベルの説明はメチャメチャ分かりやすいな。

 モタリケ、オマエ少し見習え」

「オマエ、やっぱり怒ってるじゃないか。

 思ったことを言えっていうから、そのまま言ってやったのに」

「あー、うん。そういうことな。ごめん……」

「モリー。

 この子も、今までよりずっとメンタルがちびっちゃくなってるんだから、もう少し気を使ってあげて」

「ちびっちゃい言うなや」

 

 ベルの子供扱いだってワリと傷つくからな? モタリケはむしろ、前と近い感じにしてくれてるのに。

 

「要はこの子も決めかねてて、混乱してるのよ。

 周りの接し方もバラバラだろうから、子供らしくすればいいのか今まで通りすればいいのか、分からなくて。

 使い分けが出来るほど時間も経ってないから、見守ってあげるしかないのよね」

「にしても、若返りすぎなんだよ……」

「そんなこと言われたって、俺だって子供になりたくてなったんじゃねーよ……

 17歳から一気に9歳だぞ? すぐすぐ落ち着けるわきゃねーだろ」

「ほら、モリー。

 困らせちゃダメだってば。元々だって若いんだし、繊細だったんだから」

「はぁー……。

 俺も子供に釣られて言い過ぎたな。悪かったよ。

 一度上で休憩しよう」

 

 筆を置いて、席を立つモタリケ。1人で地下室から出ていく。

 

「……」

 

 ベルも席を立って、桜を抱えたままこっちに歩いてくる。

 

「ほらほら、泣かないの」

「にゃう」

「……泣いてねーよ」

 

 うわ、マジで泣いてる。なんで? なんで俺泣いてんだ?

 

「ごめんね。モリーには後で言っておくから。

 ……あなたの姿が変わりすぎて、きっとイライラしてるのよ。よっぽど、前のあなたのことが気に入ってたのね」

 

 

 

 まぶたに溜まった涙が、つぅと頬を流れる。……そっか。俺は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────『今までの俺』が好きだった人間を、裏切ったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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