どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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 決闘の執筆BGM:幽々白書『幽助パワーアップ!』







第二百二十四章

 

 ──10月19日。

 

 私が決闘の場として考えていたのは、ツェズゲラさん達との勝負を行った、リーメイロ南にある山岳地帯だった。確実に大規模な戦いになるだろうし、ああいった場所でないとマズイだろうと思って。

 

 ところがウラヌスに場所を伝えると、『オータニアから遠すぎない?』と指摘された。慌てて地図を確認すると、直線距離で250㎞。しかも海を挟んでいる。これはあかん……。ウラヌスに運んでもらうにしろ、遠回りで陸を走るにしろ、初っ端からオーラを削られてしまう。

 

 慌ててウラヌスと相談し、似たような場所──オータニア北西にある山岳地帯を選んだ。ここなら問題なさそうだ。あっぶな……

 

 比較的近い場所ではあるが、それでも陸路だと手間取る為、ウラヌスにひとっ飛びして運んでもらった。今は早朝の空気を味わいながら、ネテロが訪れるその時を待っている。

 

 この場所は高台になっている大きな岩場で、充分な広さがある。障害物はそれほどなく、これが有利に働くか不利に働くかは微妙なところだろう。

 

 ……短い時間ながら、やるべきことは十二分にやった。私とウラヌスは昨晩、ネテロについての情報を交換し、入念に準備を行った。主にウラヌスの提案だけど……

 

 これで負けたら、どうしようもない。ネテロには悪いが、今回ばかりは負けられない。ゆえに万全の態勢で臨んでいる。

 

「……」

 

 ウラヌスは、早朝の空気の中で静かに佇み、高台からの景色に目を向けていた。正直、私より闘志に満ちている──むしろ私が集中を欠いていた。以前ネテロと決闘した時とは比べ物にならないほどに。主導権をウラヌスに預けてるからだろう。まぁだからといって乗り気じゃないというのは、我ながらみっともない言い訳だ……

 

 ──空から飛行音。来たか。

 

 バシュンッ!! と聞き慣れた独特の音とともに、ネテロが現れる。

 

 私達2人を無言で眺め、薄く笑うネテロ。

 

「待たせたかの?」

「いえ、それほどには」

「……俺は待ちわびたかな。

 こんな形ではあるけど、ようやく4年前の雪辱を果たせそうだ」

「ほほ、そうかそうか。

 これは楽しめそうじゃな」

「……ネテロはいつも通りの服装ですね」

「まぁな。

 お主らこそ、そうじゃろうに」

 

 私は沈黙を返す。ネテロはいつもの着物姿。流石にゲタは履かず、足袋を履いてるけど。私も普段と同じ運動服だ。──以前の決闘とは違うことを、イヤでも認識させられる。

 

 私がネテロと物言わず視線をかわしていると、ウラヌスが溜め息を吐く。

 

「……なんか、俺だけ除けもんっつーか、異物感があるよな。

 そんなに2人で決闘がしたいなら、別の機会にしろよ」

「フン。妬いとるのか?」

「わりーけど、俺が先約なんだわ。

 2人きりでデートがしたいなら、あらかた用事が済んだ後にしてくれ」

「ウラヌス……」

 

 フンだ、という様子で顔を背けるウラヌス。まいったな……

 

「ワシとアイシャがちょっとでも仲良くしてると、オヌシ機嫌が悪いよの」

「そんなんじゃねーよ……

 俺だけ仲間はずれにすんなっつってんの」

 

 思わず笑ってしまう。ウラヌスの見た目が見た目だから、すごく幼く感じるよ。

 

「気持ちは分からんでもないがの。

 しかしワシとアイシャから見れば、お主はまだまだひよっこじゃからな」

「それも納得いかねぇんだけどな……

 オマエはまだ分かるけど」

 

 ウラヌスが私に目を向けないまま、怪訝そうにしている。ネテロの失言を目で咎めると『すまんの』という反応が返ってきた。……ああ、もう。昨晩もかなり疑われてたしな。誤魔化すのがどんどん難しくなってきたよ。

 

「ま、いいや。

 さっさと始めよう」

「それは構わんが、開始の合図はどうする?

 立会人も用意しとらんようじゃし」

「そいつはお互い様だろ? 合図はこれでいいさ」

 

 ウラヌスが、ひょいっと石を投げる。放物線を描いたそれを、ネテロが掴み取る。

 

「……ただの石じゃな」

「さっき、ここで拾ったモンだよ。

 そいつを上に投げて、地面に当たったタイミングでどうだ?

 ネテロの好きなタイミングで投げてくれればいい。いちおう言っとくが、下に向かって投げんなよ?」

「ふん……

 まぁええじゃろ」

 

 始まる気配になり、私は──2人から大きく距離を取った。ウラヌスの後方へ。

 

「む? どういうつもりじゃ」

「なにがだよ」

「あやつ、参加せん気か? それとも様子見か」

「アイシャも戦うさ。これが俺達の布陣だよ」

「……逆ではないのか?

 アイシャが前で、お主が後ろじゃろうと予想しとったが」

「そっちの方が勝算は高かっただろうけどな。

 でも、俺達にも事情があってね」

「……」

 

 私は聴力を強化して、離れた場所から2人の会話を聞いている。……やや険しい表情のネテロ。どう動くか読めないんだろう。ウラヌスの術中だな……

 

 ネテロは物思わしげに手の中で石を弄んだ後、オーラを練り始めた。私もオーラを遠慮なく全開にする。天使のヴェールはハナから無しだ。

 

 ウラヌスだけが、オーラを放っていない。

 

 それに構わずオーラを充実させ、石を真上に放るネテロ。──頂点に達し、あっけなく石は地面に落ちた。

 

 ────ゴバッッッッッ!!

 

 刹那、出現した観音像の手刀がウラヌスの頭頂へ炸裂した。

 

 

 

 

 

 ──初手から百式観音壱乃掌を放ったネテロ。不可解な布陣で何かを狙う様子の2人に、ネテロは正面から叩き潰す手を打った。

 小賢しく何を企んでいようとも、不可避の速攻である百式観音に対処できるはずもない。まして初動前の静止状態から、避けるなど有り得ない。

 

 が、ウラヌスに避けるつもりなどなかった。

 

 ──ぬぅっ!?

 

 ネテロは強い違和感を覚える。確かに直撃した。棒立ちだったウラヌスの頭頂を捉えた百式観音の一撃は、ウラヌスの肉体を大地へと突き刺した。

 

 だが地面を割り裂くはずの一撃は、なぜか大地の岩盤を爆発的に砕いていた。

 

 ウラヌスは、手刀が脳天に炸裂したその瞬間、体内に蓄えたオーラを一点へと集中して防ぎ、全身に負荷がかかり大地へめりこむ刹那、『流』でオーラを両足に集めて、大地を踏み砕いたのだ。

 結果、百式観音の一撃に耐えながら沈みこむウラヌスを、爆砕した岩盤がクッションとなって受け止めた。更にウラヌスは全身を回転させて、周囲に衝撃を散らす。

 

 ──のみならず、砕けた岩石がネテロへ殺到する。ウラヌスはオーラを放出させながら蹴りを放ち、百式観音の衝撃も加えた強化岩弾をネテロへと差し向けた。

 

 ネテロは下がりながら、百式観音の掌で自らに飛来する岩弾を弾き散らす。

 

 オーラ砲がネテロの間近に迫る。

 

 ──うぉっ!?

 

 即座に次の型を放ち、観音の掌でオーラ砲を受け止める。際どいところだった──当然アイシャが放ったモノだ。岩の弾幕に紛れて放たれた為、遠距離からの砲撃にも関わらず、ネテロの察知が遅れた。

 

 ががががッ! と観音の腕が揺れる。アイシャがオーラ砲の放出を止めない。死角から接近するウラヌス。ネテロは急ぎオーラ砲の射線から逃れ、ウラヌスへ更なる型を放つ。

 

 ネテロの斜め上より放たれた掌撃が、接触間近のウラヌスを捉えた。神がかった速度の一撃を受け、ウラヌスは大きく弾き飛ばされ──ない。

 

 ──なにっ!?

 

 距離を取るつもりで放った一撃だったが、想定より退かせていない。通常、百式観音の一撃を受けた相手は、障害物でもない限り大きく吹き飛ばされるものだ──尋常ならざる速度で放たれる観音の無慈悲な御手(み て )は、憐れな犠牲者をその場に留まらせない。挟み込むなどしない限りは。

 

 再び接近するウラヌスを、ネテロは自然に型を取りながら凝視した。ウラヌスの全身、衣服のいたるところに輝くオーラの光。

 

 ──まさか、『神字』かッ!?

 

 再び叩きつける観音の掌打。──直撃こそしたが、これも開いた距離は不十分。途轍もなく重い物でも叩いたかのように観音の腕が震えている。

 

 尋常でない速度で迫るオーラ砲。ネテロはこれを自力で回避する。放たれたことを察知できたからこそ避けられたが、以前の決闘とは比較にならない飛翔速度だ。こうも合間を縫うよう放たれ続ければ、遠からず撃ち抜かれるだろうと想像するネテロ。

 

 両者とも腕を上げていることは分かっていたはずだが、それでもネテロの想定を遥かに越えていた。難敵であることは承知していたつもりだったが、一人一人でも撃破は至難と再認識するネテロ。

 

 ウラヌスの手が、ネテロの片腕を掴み取った。握り砕かんばかりの握力に、構わず型を放つネテロ。横から叩きつける観音の掌。掴んだ手が離れる一瞬、腕にありえない荷重が真下へかかった。見ると、横へ弾き飛ばされるウラヌスの足が岩盤を大きく削っている。

 

 ──そうかッ! こやつ、自身の重量を──!

 

 ウラヌスが纏う神字は、防護を目的とはしない。強い衝撃を受けた瞬間、自動で全身の質量を増大させる為のモノだ──これにより大きく弾き飛ばされるのを防いでいたのだ。

 

 当然だが、そのぶん威力を後方へと逃がすことはできない。事実、ウラヌスの身体には通常よりダメージが蓄積している。自暴とも言えるその行為こそが、ネテロを追い詰めていく。

 

 幾度となく迫るウラヌス。──どこを視ているかも分からないその瞳に、ネテロは戦慄した。

 

 ウラヌスと同時に襲ってきたオーラ砲を、やむなく百式観音で受け止める。射線上にも関わらず、ウラヌスはネテロへ飛び込んでいく──祈りの型を崩せないネテロの全身を、ウラヌスは両腕で抱きしめた。

 

「お、おおおっ──!?」

「……やっと捕まえた」

 

 優しげな声と裏腹に、籠められた力は並々ならない。ネテロも全力で抵抗するが、僅かながら振り解くには足りない。アイシャのオーラ砲は既に止まっているが──

 

「やっぱりな……

 オマエの百式観音は、完全に接触されると撃てないんだろ? 自分も巻き添えを食らうからな。この場合、祈れないってのもあるだろうが」

「お、おのれ……!

 この程度でぇっ……!」

「……流石、くさっても強化系か。

 このまま締め潰すのは無理そうだ。……イヤだったんだけどな、ホントは」

 

 抱きしめたまま、ウラヌスの指が光り輝く。ネテロの背中越しにふわりと宙を踊り、

 

(も )(ひろ)がれ 獣の(けもの )叫声─(きょうせい )─」

 

「待てッ!! きさま、なにをっ……!?」

 

「──【火蜂/ドラゴンフライ】──」

 

 ボゥンッ!! とウラヌスの足元から火柱が巻き起こった。──当然ネテロもウラヌスも、それに巻き込まれる。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁッッッ!?」

「ぎぃぃぃぃぃ……!!」

 

 いくらオーラで強化すれども、そもそも人体は燃焼に耐えうる構造ではない。──ほぼ全ての生物がそうだ。ゆえに2人の全身は容赦ない炎によって焼け焦げた。生半可な火力ではなく、衣服など微塵も残っていない。

 

 だが。ウラヌスはネテロを抱きしめたまま、痛みに震えながらも離さない。

 

「げほっ! げほっ……

 ま……

 まて、ウラヌス……! おぬし……!?」

「……どうした。降参か?」

「──っざけるな!

 これではワシだけでなく、オヌシも……!」

 

「──【火蜂/ドラゴンフライ】──」

 

 ボゥンッ!! と再度火柱が立つ。悲鳴を上げる2人。

 

「ウラヌスッ!! ネテロッ!!」

 

 アイシャが2人の近くへ駆けつける。こんな作戦は聞いていない。当然だろう、聞いていればアイシャは絶対止めていた。こんな無茶をするとは──

 

「あぁっっつ……

 ……ネテロ、はよ参ったしろよ……

 アイシャも心配してるぞ……?」

「かはっ……

 そ……それは……ワシのセリフじゃ……!

 無茶苦茶しよって、いい加減……!」

「あーあ。まぁだ炙られ足りないか」

「まっ──」

 

「──【火蜂/ドラゴンフライ】──」

 

 三度(み たび)、火竜の息吹が両者を舐めた。今度は小さく苦鳴を洩らすだけの2人。──限界が近い。気力だけで持ち堪えている状態だ。火傷の程度は最早致命傷に達しようとしている。

 

「かはぁっ……はぁっ……はぁっ……」

「マジか……冗談キツイな……

 ネテロ、おまえ粘りすぎだろ……?

 それともここで火葬されたいのか……?」

「ふ、ふふ。

 冗談ではないわ……

 お主が耐えとるっちゅーのに、ワシが先に……」

「あっそう。

 じゃあもういい。死んじまえ」

「ウラヌスッ!!」

 

 必死で声をかけるアイシャ。が、手を出せない。2人とも全身はズタボロで、見る影もない。何としても止めるべきだが、ウラヌスの放つ覚悟を籠めたオーラがそれを赦さない。

 

「おぬし……

 なぜ、ここまで……?」

 

「ネテロ……

 オマエには悪いと思ってる……

 俺達のことを心配して、あの2人を預かろうとしてくれたんだろ?

 その気持ちを利用し、こんな不利な決闘を受けさせたのは済まないと思ってるよ……」

 

「……」

 

「──けどな。

 オマエはシームの目の前で、虐待の告白をしたシームの言葉を信じないと言ったんだ。

 大切な友達の心を、オマエは踏みにじりやがった」

 

「……ッ!」

 

「理屈は分かってる。ネテロの言ってることが間違いだとも思わない。

 ……でもオマエは、シームに人体実験をした犯人のことまで庇ってるだろ?

 

 ────だから俺は、オマエのことを決して赦さない」

 

「ま、まてウラヌスッ!! ワシはっ……!!」

 

 

 

白雪(しらゆき)(わか)れを(つ )げる (ひ )(うち)(さ )める(あわ)(はな)(め )

 (めぐ)(きざ)んだ生命(いのち)鼓動(こ どう)で 青雲(せいうん)(ち )(ゆ )彩り(いろど )(そ )め──」

 

 

 

 神字を描き終えたウラヌスの五指に、真紅の火が灯る。

 

 

 

「──【緋桜/フレアボムズ】ッッ──!!」

 

 

 

 ────ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉうッッッ!!

 

 

 

 2人のいた空間を、朝焼けの如き劫火(ごうか )が包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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