決闘の執筆BGM:幽々白書『幽助パワーアップ!』
──10月19日。
私が決闘の場として考えていたのは、ツェズゲラさん達との勝負を行った、リーメイロ南にある山岳地帯だった。確実に大規模な戦いになるだろうし、ああいった場所でないとマズイだろうと思って。
ところがウラヌスに場所を伝えると、『オータニアから遠すぎない?』と指摘された。慌てて地図を確認すると、直線距離で250㎞。しかも海を挟んでいる。これはあかん……。ウラヌスに運んでもらうにしろ、遠回りで陸を走るにしろ、初っ端からオーラを削られてしまう。
慌ててウラヌスと相談し、似たような場所──オータニア北西にある山岳地帯を選んだ。ここなら問題なさそうだ。あっぶな……
比較的近い場所ではあるが、それでも陸路だと手間取る為、ウラヌスにひとっ飛びして運んでもらった。今は早朝の空気を味わいながら、ネテロが訪れるその時を待っている。
この場所は高台になっている大きな岩場で、充分な広さがある。障害物はそれほどなく、これが有利に働くか不利に働くかは微妙なところだろう。
……短い時間ながら、やるべきことは十二分にやった。私とウラヌスは昨晩、ネテロについての情報を交換し、入念に準備を行った。主にウラヌスの提案だけど……
これで負けたら、どうしようもない。ネテロには悪いが、今回ばかりは負けられない。ゆえに万全の態勢で臨んでいる。
「……」
ウラヌスは、早朝の空気の中で静かに佇み、高台からの景色に目を向けていた。正直、私より闘志に満ちている──むしろ私が集中を欠いていた。以前ネテロと決闘した時とは比べ物にならないほどに。主導権をウラヌスに預けてるからだろう。まぁだからといって乗り気じゃないというのは、我ながらみっともない言い訳だ……
──空から飛行音。来たか。
バシュンッ!! と聞き慣れた独特の音とともに、ネテロが現れる。
私達2人を無言で眺め、薄く笑うネテロ。
「待たせたかの?」
「いえ、それほどには」
「……俺は待ちわびたかな。
こんな形ではあるけど、ようやく4年前の雪辱を果たせそうだ」
「ほほ、そうかそうか。
これは楽しめそうじゃな」
「……ネテロはいつも通りの服装ですね」
「まぁな。
お主らこそ、そうじゃろうに」
私は沈黙を返す。ネテロはいつもの着物姿。流石にゲタは履かず、足袋を履いてるけど。私も普段と同じ運動服だ。──以前の決闘とは違うことを、イヤでも認識させられる。
私がネテロと物言わず視線をかわしていると、ウラヌスが溜め息を吐く。
「……なんか、俺だけ除けもんっつーか、異物感があるよな。
そんなに2人で決闘がしたいなら、別の機会にしろよ」
「フン。妬いとるのか?」
「わりーけど、俺が先約なんだわ。
2人きりでデートがしたいなら、あらかた用事が済んだ後にしてくれ」
「ウラヌス……」
フンだ、という様子で顔を背けるウラヌス。まいったな……
「ワシとアイシャがちょっとでも仲良くしてると、オヌシ機嫌が悪いよの」
「そんなんじゃねーよ……
俺だけ仲間はずれにすんなっつってんの」
思わず笑ってしまう。ウラヌスの見た目が見た目だから、すごく幼く感じるよ。
「気持ちは分からんでもないがの。
しかしワシとアイシャから見れば、お主はまだまだひよっこじゃからな」
「それも納得いかねぇんだけどな……
オマエはまだ分かるけど」
ウラヌスが私に目を向けないまま、怪訝そうにしている。ネテロの失言を目で咎めると『すまんの』という反応が返ってきた。……ああ、もう。昨晩もかなり疑われてたしな。誤魔化すのがどんどん難しくなってきたよ。
「ま、いいや。
さっさと始めよう」
「それは構わんが、開始の合図はどうする?
立会人も用意しとらんようじゃし」
「そいつはお互い様だろ? 合図はこれでいいさ」
ウラヌスが、ひょいっと石を投げる。放物線を描いたそれを、ネテロが掴み取る。
「……ただの石じゃな」
「さっき、ここで拾ったモンだよ。
そいつを上に投げて、地面に当たったタイミングでどうだ?
ネテロの好きなタイミングで投げてくれればいい。いちおう言っとくが、下に向かって投げんなよ?」
「ふん……
まぁええじゃろ」
始まる気配になり、私は──2人から大きく距離を取った。ウラヌスの後方へ。
「む? どういうつもりじゃ」
「なにがだよ」
「あやつ、参加せん気か? それとも様子見か」
「アイシャも戦うさ。これが俺達の布陣だよ」
「……逆ではないのか?
アイシャが前で、お主が後ろじゃろうと予想しとったが」
「そっちの方が勝算は高かっただろうけどな。
でも、俺達にも事情があってね」
「……」
私は聴力を強化して、離れた場所から2人の会話を聞いている。……やや険しい表情のネテロ。どう動くか読めないんだろう。ウラヌスの術中だな……
ネテロは物思わしげに手の中で石を弄んだ後、オーラを練り始めた。私もオーラを遠慮なく全開にする。天使のヴェールはハナから無しだ。
ウラヌスだけが、オーラを放っていない。
それに構わずオーラを充実させ、石を真上に放るネテロ。──頂点に達し、あっけなく石は地面に落ちた。
────ゴバッッッッッ!!
刹那、出現した観音像の手刀がウラヌスの頭頂へ炸裂した。
──初手から百式観音壱乃掌を放ったネテロ。不可解な布陣で何かを狙う様子の2人に、ネテロは正面から叩き潰す手を打った。
小賢しく何を企んでいようとも、不可避の速攻である百式観音に対処できるはずもない。まして初動前の静止状態から、避けるなど有り得ない。
が、ウラヌスに避けるつもりなどなかった。
──ぬぅっ!?
ネテロは強い違和感を覚える。確かに直撃した。棒立ちだったウラヌスの頭頂を捉えた百式観音の一撃は、ウラヌスの肉体を大地へと突き刺した。
だが地面を割り裂くはずの一撃は、なぜか大地の岩盤を爆発的に砕いていた。
ウラヌスは、手刀が脳天に炸裂したその瞬間、体内に蓄えたオーラを一点へと集中して防ぎ、全身に負荷がかかり大地へめりこむ刹那、『流』でオーラを両足に集めて、大地を踏み砕いたのだ。
結果、百式観音の一撃に耐えながら沈みこむウラヌスを、爆砕した岩盤がクッションとなって受け止めた。更にウラヌスは全身を回転させて、周囲に衝撃を散らす。
──のみならず、砕けた岩石がネテロへ殺到する。ウラヌスはオーラを放出させながら蹴りを放ち、百式観音の衝撃も加えた強化岩弾をネテロへと差し向けた。
ネテロは下がりながら、百式観音の掌で自らに飛来する岩弾を弾き散らす。
オーラ砲がネテロの間近に迫る。
──うぉっ!?
即座に次の型を放ち、観音の掌でオーラ砲を受け止める。際どいところだった──当然アイシャが放ったモノだ。岩の弾幕に紛れて放たれた為、遠距離からの砲撃にも関わらず、ネテロの察知が遅れた。
ががががッ! と観音の腕が揺れる。アイシャがオーラ砲の放出を止めない。死角から接近するウラヌス。ネテロは急ぎオーラ砲の射線から逃れ、ウラヌスへ更なる型を放つ。
ネテロの斜め上より放たれた掌撃が、接触間近のウラヌスを捉えた。神がかった速度の一撃を受け、ウラヌスは大きく弾き飛ばされ──ない。
──なにっ!?
距離を取るつもりで放った一撃だったが、想定より退かせていない。通常、百式観音の一撃を受けた相手は、障害物でもない限り大きく吹き飛ばされるものだ──尋常ならざる速度で放たれる観音の無慈悲な
再び接近するウラヌスを、ネテロは自然に型を取りながら凝視した。ウラヌスの全身、衣服のいたるところに輝くオーラの光。
──まさか、『神字』かッ!?
再び叩きつける観音の掌打。──直撃こそしたが、これも開いた距離は不十分。途轍もなく重い物でも叩いたかのように観音の腕が震えている。
尋常でない速度で迫るオーラ砲。ネテロはこれを自力で回避する。放たれたことを察知できたからこそ避けられたが、以前の決闘とは比較にならない飛翔速度だ。こうも合間を縫うよう放たれ続ければ、遠からず撃ち抜かれるだろうと想像するネテロ。
両者とも腕を上げていることは分かっていたはずだが、それでもネテロの想定を遥かに越えていた。難敵であることは承知していたつもりだったが、一人一人でも撃破は至難と再認識するネテロ。
ウラヌスの手が、ネテロの片腕を掴み取った。握り砕かんばかりの握力に、構わず型を放つネテロ。横から叩きつける観音の掌。掴んだ手が離れる一瞬、腕にありえない荷重が真下へかかった。見ると、横へ弾き飛ばされるウラヌスの足が岩盤を大きく削っている。
──そうかッ! こやつ、自身の重量を──!
ウラヌスが纏う神字は、防護を目的とはしない。強い衝撃を受けた瞬間、自動で全身の質量を増大させる為のモノだ──これにより大きく弾き飛ばされるのを防いでいたのだ。
当然だが、そのぶん威力を後方へと逃がすことはできない。事実、ウラヌスの身体には通常よりダメージが蓄積している。自暴とも言えるその行為こそが、ネテロを追い詰めていく。
幾度となく迫るウラヌス。──どこを視ているかも分からないその瞳に、ネテロは戦慄した。
ウラヌスと同時に襲ってきたオーラ砲を、やむなく百式観音で受け止める。射線上にも関わらず、ウラヌスはネテロへ飛び込んでいく──祈りの型を崩せないネテロの全身を、ウラヌスは両腕で抱きしめた。
「お、おおおっ──!?」
「……やっと捕まえた」
優しげな声と裏腹に、籠められた力は並々ならない。ネテロも全力で抵抗するが、僅かながら振り解くには足りない。アイシャのオーラ砲は既に止まっているが──
「やっぱりな……
オマエの百式観音は、完全に接触されると撃てないんだろ? 自分も巻き添えを食らうからな。この場合、祈れないってのもあるだろうが」
「お、おのれ……!
この程度でぇっ……!」
「……流石、くさっても強化系か。
このまま締め潰すのは無理そうだ。……イヤだったんだけどな、ホントは」
抱きしめたまま、ウラヌスの指が光り輝く。ネテロの背中越しにふわりと宙を踊り、
「
「待てッ!! きさま、なにをっ……!?」
「──【火蜂/ドラゴンフライ】──」
ボゥンッ!! とウラヌスの足元から火柱が巻き起こった。──当然ネテロもウラヌスも、それに巻き込まれる。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁッッッ!?」
「ぎぃぃぃぃぃ……!!」
いくらオーラで強化すれども、そもそも人体は燃焼に耐えうる構造ではない。──ほぼ全ての生物がそうだ。ゆえに2人の全身は容赦ない炎によって焼け焦げた。生半可な火力ではなく、衣服など微塵も残っていない。
だが。ウラヌスはネテロを抱きしめたまま、痛みに震えながらも離さない。
「げほっ! げほっ……
ま……
まて、ウラヌス……! おぬし……!?」
「……どうした。降参か?」
「──っざけるな!
これではワシだけでなく、オヌシも……!」
「──【火蜂/ドラゴンフライ】──」
ボゥンッ!! と再度火柱が立つ。悲鳴を上げる2人。
「ウラヌスッ!! ネテロッ!!」
アイシャが2人の近くへ駆けつける。こんな作戦は聞いていない。当然だろう、聞いていればアイシャは絶対止めていた。こんな無茶をするとは──
「あぁっっつ……
……ネテロ、はよ参ったしろよ……
アイシャも心配してるぞ……?」
「かはっ……
そ……それは……ワシのセリフじゃ……!
無茶苦茶しよって、いい加減……!」
「あーあ。まぁだ炙られ足りないか」
「まっ──」
「──【火蜂/ドラゴンフライ】──」
「かはぁっ……はぁっ……はぁっ……」
「マジか……冗談キツイな……
ネテロ、おまえ粘りすぎだろ……?
それともここで火葬されたいのか……?」
「ふ、ふふ。
冗談ではないわ……
お主が耐えとるっちゅーのに、ワシが先に……」
「あっそう。
じゃあもういい。死んじまえ」
「ウラヌスッ!!」
必死で声をかけるアイシャ。が、手を出せない。2人とも全身はズタボロで、見る影もない。何としても止めるべきだが、ウラヌスの放つ覚悟を籠めたオーラがそれを赦さない。
「おぬし……
なぜ、ここまで……?」
「ネテロ……
オマエには悪いと思ってる……
俺達のことを心配して、あの2人を預かろうとしてくれたんだろ?
その気持ちを利用し、こんな不利な決闘を受けさせたのは済まないと思ってるよ……」
「……」
「──けどな。
オマエはシームの目の前で、虐待の告白をしたシームの言葉を信じないと言ったんだ。
大切な友達の心を、オマエは踏みにじりやがった」
「……ッ!」
「理屈は分かってる。ネテロの言ってることが間違いだとも思わない。
……でもオマエは、シームに人体実験をした犯人のことまで庇ってるだろ?
────だから俺は、オマエのことを決して赦さない」
「ま、まてウラヌスッ!! ワシはっ……!!」
「
神字を描き終えたウラヌスの五指に、真紅の火が灯る。
「──【緋桜/フレアボムズ】ッッ──!!」
────ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉうッッッ!!
2人のいた空間を、朝焼けの如き