どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二十四章

 

 使用済みバスタオルを、畳んでかたわらに置いたまま。

 

 いまだに眠るアイシャから拝借した白いヘアゴムを、俺は少しいじらせてもらっていた。

 

「なにしてんの?」

「……教えね」

 

 感心ありげなメレオロンに、そっけなく答える。こいつ口軽いから、ぜったい言わね。

 仰向けに横たわるアイシャの身体を、シームがじーっと見てる。

 

「アイシャってさ」

「……」

 

 そこで言葉を切る理由は、予想がつく。どう言おうか悩んでしまうんだろう。

 

「すっごぃオッパイだよね」

「言い方」

 

 悩んでそれかい。

 分かってるよ、んなこと。俺は長時間それを間近で見てたんだよ。つか拭きましたわ。谷間とかエライことになってたぞ。思い出さすな。

 

「アタシが見てる限り、この子はうっとうしがってるみたいね。

 そういう女の子は確かにいるんだけど」

「……」

 

 ぜいたくな悩みとは言うまい。無い物ねだりは世の常だ。なけりゃないで嘆き、あればあったで面倒なんだろう。……貧乳は希少価値とかワケわかんないこと言ってたけど。

 

「……でもさ。なんでこの子、男になんかなりたいんだろ?

 あっ、ゴメン。あんた達オトコでしたー」

「おねーちゃん、うぜー」

「……メレオロン、お前いい加減にしてくれよ。

 都合よく男扱い女扱いされんの、ホントきついんだぞ」

「てへぺろー」

「おねーちゃん、ちょーうぜー」

「絶対反省してないし、これからもする気なのは良く分かったよ」

 

 言い捨てて、アイシャの方を見る。

 

 俺がヘアゴムを外してしまったせいで、床に彼女の黒髪がやや広がってしまっていた。汗は充分に拭き取ったし、床も拭いてあるから大丈夫だとは思うが、あまりそのままにはしたくない。

 ……いや、これを付けたまま寝かせる方が良くないか。これはこれで髪を傷めそうだ。かなり上質な素材みたいだから、気にしすぎかもしれないけど……

 

「で、あんた達はどう思う?」

「何の話だよ」

「さっきの続きよ、男になりたい理由。

 ウラヌスはこの子から事情聞いてないの?」

「……聞いてないよ。

 言いたくなさそうだったし」

「んー……

 でもさ。ゴンは何か知ってそうだったわよね」

「そりゃ付き合いが長いからだろう。

 ずいぶんと親しそうだったし」

 

 アイシャを流し見るメレオロン。

 

「不思議よねぇ。

 普通こんなに可愛くなれたら、男になりたいなんて思わないんじゃない?」

「……」

 

 メレオロンは、ヘアゴムをいじる俺の方をじっと見てくる。

 

「……なんだよ。

 何してるかは教えないぞ」

「ああ、それは気になるけど別にいいわ。

 そういえば、アンタが女になりたい理由は聞いてなかったなって」

「……むしろ今まで何で聞かなかったかって考えりゃ、予想がつくからだと思うんだが」

 

 メレオロンの表情に笑みが混ざる。

 

「そうね。

 アンタが自分で思ってるよりは、可愛いと思うわよ」

「……今の見た目はそうかもな。

 つーか、そういうふうにしてるんだよ。

 でも……見たから分かるだろ。

 中身はガリッガリの骨身だよ。男としても女としても、魅力なんざカケラもない」

 

 実際はそこまでじゃないが、筋肉も脂肪も大して付いてない。男と女、どちらで見たとしても貧相な身体だ。……こうして改めて見ても、そう思う。

 

「もう一度言うわよ。

 アンタが、自分で思ってるよりは、可愛いと思う」

 

 真意が分からずに目を向けると、メレオロンは真面目な顔でこちらを指差す。

 

「ウラヌス。

 あんた自分の姿、ほんとはよく分かってないでしょ。

 鏡に映して見た自分だけが、自分の姿全てじゃないのよ」

 

「……そんなこと言うけど、鏡以外で自分を見れないだろうよ。

 水とかガラス窓とか、そういう話か?」

 

「違う違う。

 アンタは、他人から自分がどう映ってるか分かってないって言ってんの」

 

 ……どうなんだろうな。

 

 俺は、ワリと他人のそういう機微には(さと)いと思ってんだけどな。

 

「おねーちゃん……

 あんまり言わないであげた方がいいと思うんだけど」

「アタシはハッキリ言ってあげた方がいいと思うわよ?

 まぁさっきもしてた話だけど、平行線ね」

「だから何の話だよ」

 

 メレオロンは、人ならぬ顔でも分かるくらい優しく微笑んでいた。

 

「アンタ見てると思うのよね。

 なんで女の子じゃないんだろって」

 

「……」

「ほら、アイシャ見てて思わない?

 なんで男になりたいんだろって」

「……。

 それは確かに、疑問に思うけどな」

「でしょ?

 そう思う理由は、いかにもアイシャは女の子だから。

 男の子っぽい性格ではあるけど、流石に見た目がこれじゃね」

「これ言うな」

 

 アイシャは正直なところ良く分からない性格をしている。何と言うか、色々混ぜこぜになってる感じで、不安定だ。

 ただそれは性格の話であって、見た目は女性らしさしかない。何を着ていても、それは変わらない。……男物の下着を穿かせた時、思いのほか似合っててビビったしな。

 

「で、アンタ見てても思うわけよ。

 なんで女の子じゃないんだろって」

「さっきと同じこと言ってるぞ」

「からかってるわけじゃなくて、褒めてるって分かってほしいのよ。

 アンタが女の子なら、その見た目で充分可愛いっての。

 女がみんな可愛い美しいってわけじゃないのよ。アタシを見てごらんなさい」

「んな自虐してまで力説する理由が分からん」

 

 ふっふーん、とメレオロンは自信ありげに、

 

「ウラヌスが理想とする女性像は、つまるところアイシャみたいな子なワケでしょ?

 で、それと自分がかけ離れてるから魅力がないと。

 でも、みんながアナタを見て魅力的と感じるかどうかは、それとは別問題なワケ。

 分かる?

 女の魅力は一つじゃないのよ」

 

 こいつ、やけに語るな……

 

「……どう言われても、俺は男だしな」

「ホルモンクッキーで女になりたがってるアンタの心は、女じゃないの?」

「……女のつもりだよ。

 だから性同一性障害だって始めに言っただろ」

「便利な言葉よね」

 

 思わず舌打ちしそうになる。……その言葉を使って、(てい)よく理解を押し付けているのは自覚してる。だからと言って、他にどう理解を求めりゃいいんだ。

 

「で、結局なにが言いたいんだよ」

 

「そうね……

 今のアンタは、普通の女の子より可愛いって言いたいの」

 

 顔が少し紅くなるのを自覚する。

 

「……あんまりいじらないでくれよ。

 俺は……」

「アンタは、自分が男だとか、そういう身体だとか気にしすぎ。

 別にいいじゃない、可愛い男の子で。

 もっと自分に自信持って」

 

 ……自信を持て、と言われてもな……

 

 どうしてもアイシャの方に目が行ってしまう。比較対象が居るとな……

 

 

 

 全員が起きていても仕方ないので、1人一時間半ずつ交代で仮眠を取る。

 

 ウトウトしかけていたシームを最初に寝かせ。

 眠そうにウトウトしだしたメレオロンを次に寝かせる。

 結局シームは、起こした後また眠ってしまった。

 だから自分1人で、3人の睡眠を見守り続けている。

 

 アイシャのヘアゴムを手にしたまま、それぞれの寝顔を見る。

 

 なんだろな……

 

 数日前までは1人ぼっちだったんだけど。

 気づけばこんな仲間と一緒か。……人生なにがあるか分かんないな。

 メレオロンはやたら褒めてくるけど、俺はこの見た目で散々な目に遭ってきてる。男の格好をすりゃ、いくらかマシだったんだろうが……

 

 蔑まれるのに、すっかり慣れっこになってしまった。どいつもこいつも──というのが俺の見解だ。俺が男である自分を嫌いなのは、他の男がもっと嫌いだからだ。

 

 厳密に言えば、男の……女に対する考え方が嫌いだった。自分の中にも少しだけあって、その部分を嫌悪している。……おかしいのは、そういうのを嫌う自分の方なんだろうけど。

 

 アイシャは……

 

 男と女の友情を信じてるクチなんだろうか。

 

 彼女が友達になってほしいと口にした言葉を、信じないわけじゃない。けど、なかなかそういう純粋な関係が築けないのが世の常だ。男と女の友情なんて無い、とかいう台詞は聞き飽きた。

 

 

 

 アイシャは……

 

 俺の何が気に入って、友達になりたいとか言ったんだろう。

 

 

 

 

 

「ん……うーん、ん」

 

 なんだか身体が軽い。ふわっと目を開けると──

 

 見覚えのある、幾何学模様の天井が見えた。

 

「あっ! アイシャが起きた!」

 

 シームの声。

 視線を向けると、メレオロンとシームが嬉しそうに私を見てる。

 

「おはようございます……」

 

 挨拶して、上半身を起こす。後頭部に違和感。あれ、ゴムないや。

 

「おはようアイシャ。

 身体の具合、どう?」

 

 メレオロンの問いかけに、身体のあちこちを少し触ってみる。

 

「……えっと。

 なんだか、やけにスッキリしてるんですけど」

 

 全然、前回と違うな。あの時はやたら気だるくて、寝足りない感じだったんだけど。

 今はむしろ来る前より元気かも。

 ああ、でも『絶』は『絶』だけどね。こればっかりはどうしようもない。

 

 視線を巡らせると、横になって寝息を立てているウラヌスの姿がある。なんでか右手に私のヘアゴムを握っていた。

 

「えっと……

 いま何時ですか?」

「さっき時計見たら、午前5時半ちょっと前だったわ」

 

 5時間半か。それにしては快眠だった気がするけど、なんでだろ。

 

「アイシャ。

 ……ウラヌスを起こす前に、ちょっと話したいことがあるの」

 

 神妙なメレオロンの声に、私はうなずく。

 

「あなたがここへ来た後、全身汗だくだったから。

 ……身体を拭いて、着替えさせたの」

 

「……」

 

 ほぅ。それはそれは。なるほど、なんかサッパリしてますわ。

 

「で……ホントはアタシがするべきだったんだろうけど。

 ほら、アタシだと悪乗りしそうじゃない?

 だからウラヌスが……がんばって汗拭き取ったの。その後、着替えもね」

 

「……。はぁ」

 

 ふぅん……ウラヌスが私の全身の汗を拭いて、着替えさせたと。ほぅ……

 

 ……私はどう反応すればいいんだろう。感謝すればいいのか、怒ればいいのか。

 

 別に不問にしていいんだけどな。……下の世話されるのに比べれば、どうってことないですよ。あれだけはホント慣れない。

 

「その……ごめん」

 

「え? どうしてメレオロンが謝るんですか?」

 

「その……アタシがそそのかしたのよ。

 ウラヌスに、あんたの身体を拭かせるように」

 

「……なんでまた」

 

「……」

 

 そこでメレオロンが黙っちゃうと、私もどうすればいいか分かんないだけどな。大体、怒る前に謝られたら、もう怒れないっていうか……

 

 なんとなく察するとすれば、もしかしてコレ、私が悪い? なんかすっごいウラヌスを申し訳ない目に遭わせてる?

 

 ……いや、本当のことを言えば感謝したい。ここから大変という状況で、体調は完璧に整ってる。あ、ちょっとお腹は空いてるけど。

 

 私に遠慮して、汗だくのまま放置されてたら、おそらく前回の気だるい状態を再現していただろう。今回は私も最初から動くことを考えると、ああなっていたらツライ。

 

 しかしまぁ……多分これ全部着替えてるな。運動着だけじゃないぞ。私全部脱がされたのか。流石にキツイな。マジっすか。

 

 ……うん。でも、そのことでウラヌスを責めるのはあんまりだとは思う。メレオロンにそそのかされて、だし。……むしろ、よくそこまでやったよ。彼が甲斐甲斐しく世話してくれたであろう様子が目に浮かぶ。いやダメだ、イメージしちゃダメだ。恥ずいハズい! ぎゃーっ!

 

 ウラヌスの寝顔を見る。安らかな寝顔、とは言えない。くたくたに疲れているのだろう、憔悴の色が残っている。私の白いヘアゴムをきゅっと握ってる姿は、力ない。

 

 ……見つめていると、申し訳ない気持ちしか湧いてこない。

 

 彼が承諾しなかったら、私はここにいないんだから。

 

 ふぅ、と息をつく。怒るにしたって今じゃない。……そんな話、後でいいじゃないか。

 

「メレオロン、気にしないでください。

 短いですけど、2人とも6時まで休んでいいですよ。

 後は私が起きてますから。6時になったら、みんな起こします」

 

 

 

 それなりに仮眠を取っていたらしく、6時になる少し前にメレオロンもシームも起きてきた。ウラヌスは……まだ起きてこない。

 あまり起こしたくはないけれど、起こさず出発が遅れれば、彼は自分を責めるだろう。で、あれば……

 

「メレオロン、シーム。

 まず私から入ります。そこの扉から行ける奥の部屋で、最初にゲームの説明をされます。

 説明を聞いた後、その部屋からこの建物の外へ出られるのですが……

 私は話を聞いたら、外へ出る前にここへ戻ってあなた達に声をかけますので、どちらか1人が部屋に入ってください。

 その1人は説明を聞いた後、私と同じようにここへ戻り、次の人に声をかけてください。

 最後の1人は、説明を聞いた後ウラヌスを起こしに来てください。それまでは起こさず、そっとしておいてほしいです」

 

 2人がうなずくのを確認してから、私は立ち上がる。

 

 んー。後ろ髪が広がって気になるな。ウラヌスの手にあるのを……いや、やめておこう。ゴムを取る時に起こしてしまったら、彼に悪い。となると、リュックが背負いにくいな。背負えなくはないけど……

 

「……あと申し訳ないですけど、私のリュックをどちらかお願いします」

 

 オーラが出せない以上、私が荷物を背負ったりするのは避けるべきだろう。体力温存の意味でも、突発的な事態に備える意味でも。

 

 私は扉へと向かう。ジンから渡された指輪にチラリと目をやる。

 

 さて……鬼が出るか、蛇が出るか。

 

 私はやや緊張しながら、自動で開く扉の向こうを見た。通路の先にある、もう一つの扉。

 

 二つ目の扉を潜ると──

 

 

 

「グリードアイランドへようこそ……」

 

 

 

 室内には、例の女性が宙に浮く椅子に座っていた。相変わらずだな。

 

 ……ん? でも何かちょっと眠そう?

 

 階段を降りて立ち止まると、右手の人差し指に填めた指輪が音を放ち、緑色の光を明滅させた。

 

「あなたは……

 もしやアイシャ様では?」

 

 彼女が尋ねてくる。

 

 最初ここへ来た時と違うな。セーブデータから再開したから? それともジンに貰ったのを使ったから? 分かんないな……

 

「ええ、そうです」

 

「おお……!

 お待ち申し上げておりました」

 

 う、うん。なんだろ。こういうもんなの? それとも特別なの?

 

 私が戸惑っていると、彼女は一旦言葉を止める。

 

 やがて無表情とも取れる顔に、神妙な色が混じった。

 

 

 

「──アイシャ様。あなたがご利用になったメモリーカードのセーブデータは、こちらでスタッフアカウントとして登録させていただいたものです」

 

 

 

「────ッ!?」

 

 スタッフ!? なんだそりゃ?

 

「まず、アカウントについてご説明させていただきます。

 よろしいでしょうか?」

 

「あっ、はい」

 

「グリードアイランドでは、ゲームに入っている全ての人物が、4種類あるアカウントのいずれかに割り振られます。

 1つ目はプレイヤーアカウント。メモリーカードを利用してゲームに参加された方達が、このアカウントに登録されます。

 2つ目はゲストアカウント。メモリーカードを利用せずにゲームへ参加された方達が、このアカウントに登録されます。このアカウントは、ゲーム外へ出た際にセーブデータが残らず、またクリア条件を満たすこともできません」

 

 ふむふむ。

 

「3つ目はゲームマスターアカウント。

 ゴン君から伺ってるかもしれませんが、グリードアイランドにはゲーム開発に携わったジンの仲間、初期メンバーが数名駐在しています。

 ゲーム運営に必要な初期スタッフ達が、ゲームマスターアカウントに登録されています。

 このアカウントは、プレイヤーとして参加することはありません」

 

 ……。これはアレかな。私がクリアプレイヤーであるゴンの仲間だから、こういう話をされてるんだろうか。じゃないと、喋りすぎだろうし。

 

「4つ目はスタッフアカウント。

 開発の初期メンバーではありませんが、ゲーム運営に随時必要なスタッフ達がこちらへ登録されます。ゲームマスターとしての権限は持たず、各自の役割に応じた特別な措置を取らせていただくアカウントとなります」

 

 役割、特別な措置、ね。

 私は先に確認しておくべく、軽く挙手する。

 

「質問よろしいですか?」

「なんでしょう」

「……。

 そのスタッフアカウントは、プレイヤーとしてゲームへ参加することはできますか?」

「ええ、もちろんです。

 本来であればスタッフがプレイヤーとして参加することはありませんが、アイシャ様にご利用いただいておりますスタッフアカウントは、通常通りプレイヤーとしてプレイすることが可能です。クリア条件を満たせば、クリア報酬が受け取れる点も同様です」

 

 ……ふむ。ならいいか。問題は何のスタッフか、だけど。

 

「それでは、アイシャ様への特別な措置についてご説明します。

 まずあなたは、ご自身の念能力によってゲーム内外の出入りや移動の効果が制限されているとお見受けします。……その認識でよろしいでしょうか?」

 

 多分、念押しの確認なんだろう。そこまで分かってるなら、とぼける意味もない。

 

「……その通りです」

 

「また、おそらく同様の念能力によって、進入禁止区域への立ち入りもされていることを確認しております。

 当方運営スタッフと致しましても、そのような想定外の状態でのプレイを望ましいとは考えておりません」

 

 ……言われてるよボス属性。オマエいい加減にしろよ。……解せぬ? 知らねーよ。

 

「その為アイシャ様がスタッフアカウントを使用されている際に、3つの措置を取らせていただきます。

 1つ目は、ゲームから脱出される時。

 通常グリードアイランドからゲーム外へ出る際は、『離脱/リーブ』の効果か、港から脱出することで、ゲーム外へ移動することになります。

 このうち『離脱/リーブ』については対処できませんが、港から脱出される場合のみ、こちら側でアイシャ様が問題なく脱出できるように処置を取らせていただきます」

 

 そういえば……私、真っ当な方法でゲーム外に出てないもんな。レオリオさんがいない状態で脱出するのは、入る時より面倒だろう。今の強制『絶』状態なら出るだけだったら簡単だけど、すぐにゲーム内へは戻れなくなる。『練』が出来ないからね。

 

「……方法を伺っても、よろしいでしょうか?」

 

 聞いておかないと、ゴメン無理でしたテヘペロでは困る。

 

「はい。アイシャ様は自分の身体を直接移動、もしくはワープさせる効果を無効化されているようですので、まず移動する力を持った念獣を作り、その念獣にアイシャ様の身体を拘束し、その上でゲーム外まで移動する、といった対処を取ります。

 その方法であれば、アイシャ様は移動可能であると考えております」

 

 ……つまり。

 

 私がレオリオさんに抱えられて【高速飛行能力/ルーラ】してもらってる、あの状態にするってことか。

 

 まあ、それならいけるか。レオリオさんで実験済みだしな。万が一ダメだったとしても、オーラが復活している状態なら危険回避できるだろう。

 

「分かりました。それで大丈夫だと思います」

 

「では2つ目です。……その説明の前に、確認させていただきます。

 アイシャ様がゲーム内に来られている以上、何らかの方法で移動制限を解除されているのだとお見受けしますが、それには問題が伴うものと思われます。

 その認識でよろしいでしょうか?」

 

「……」

 

 流石に肯定するのをためらう内容だ。ただ……この人、把握はしてるんだろうな。私がゲーム内へ入ってきた時点で、気絶していることを。しかも2回やっちゃったし。

 否定したところで、あまり意味がないのも事実だ。

 

「……その通りです」

 

「ありがとうございます。

 その為やや条件付きとはなりますが、ゲームへと入られる際にゲーム機本体で『練』をして移動するという手段では問題を回避できませんので、スタッフ用の措置として個別のログイン手段をご用意させていただきます」

 

「はぁ」

 

 お? これもしかして、スゴイ助かる話をされてるの?

 

 ……その代わり、レオリオさんの【高速飛行能力/ルーラ】を使わないでほしがってる気配を感じるけど。妙に手が込んでるもんな。

 

「条件をご説明します。

 まず、港から脱出すること。最初の脱出時に、当方運営スタッフから専用バインダーをお渡しします。

 グリードアイランドの入ったゲーム機に、アイシャ様のメモリーカードが刺さっており、かつアイシャ様がその指輪を填めている状態であれば、ゲーム外でも『ブック』を唱えていただくことで、その専用バインダーが出現します。

 その専用バインダーには、一枚の特別スペルが入っています。そのスペルカードは何度ご利用いただいても、その度にバインダーへ補充されます。

 ご利用いただく際は、他のスペルカードと同じく使用をご宣言下さい。但し屋内などの移動を妨げる障害物のある場所では効果を発揮しません。必ず屋外の開けた場所でご使用下さい。

 スペルカードが効果を発揮すると、移動用の念獣が出現します。ゲームからの脱出時と同様の方法で、ゲーム外からこのシソの木へと移動することができます」

 

 ……んーと。

 

 つまりゲームを出たり入ったりするのは、レオリオさんの【高速飛行能力/ルーラ】と似たような方法で出来るようにするよってことか。

 あれだもんな。ゲームマスターやスタッフも、ずっとこのゲーム内にいるわけじゃないだろうし、特別な移動手段があってもおかしくないもんな。これはその一環なんだろう。

 

「分かりました。……3つ目は?」

 

「はい。

 3つ目ですが、アイシャ様が進入禁止区域への立ち入りなど、なんらかの不正規行動を取られた際、私の方から指輪を通じて交信をさせていただきます。

 この交信は、スペルカードの『交信/コンタクト』と同じようにバインダーが出現し、バインダーからお話しさせていただきます。この時、あまり他のプレイヤーに交信内容を聞かれない場所に移動して下さい。その方が誤解も招かないと思いますので。

 交信の用件はその時々で変わりますが、その不正規行動に問題がないかどうかの相談をさせていただくことになります」

 

「……」

 

 不正規行動と言われると、私の心当たりは一つなんだよな。尋ねとこう。

 

「たとえば、その交信の結果ソウフラビのスポーツ対決を行うことはできますか?」

 

 彼女は小さく笑みを浮かべた。お、アタリだな。

 

「以前のプレイで該当イベントを担当していたレイザーから、連絡を受けております。

 あの状況であれば、問題なくご参加いただけるという回答になります。

 但しそれは、アイシャ様が現在のスタッフアカウントを使用されている場合に限ります。通常のプレイヤーアカウントであれば、以前同様ご参加いただけないことになります」

 

 私は自然、頭が下がる思いだった。

 

 なんというか、ご迷惑おかけしてるようで……。ボス属性、オマエも謝れ。特に私にな。オマエのせいで私マッパにむかれたんだぞ、くっそ……この疫病神め(やくびょうがみ )

 

「以上3つが、アイシャ様への特別な措置となります。

 なにか質問ございますでしょうか?」

 

 んん? 肝心なことが説明されてないぞ。これじゃおおむね、私は得しかしてない。

 

「えーと……

 措置については分かりましたが、私のスタッフとしての役割って何なんでしょう?

 不正規行動に対する交信である程度制限を受けるのは分かるんですけど、私は何か要求されたりすることがあるんでしょうか?」

 

 後出しでアレをやれコレをやれと言われても困るので、そこはハッキリさせておきたい。

 

 彼女はつかの間、回答を迷ったようだった。無表情に沈黙しているが、オーラが見えずとも揺らいでる気配が伝わってくる。

 

「……アイシャ様の扱いについては、ゲームマスターの間でも意見が分かれておりまして……

 いっそアカウントを凍結して、ゲーム内への立ち入りを禁止した方がいいという意見も出ていました」

 

 おぉう。マジか。

 

 ……前回、かんしゃく起こして暴れなくてよかったよ。何かやらかしてたら100%アウトだったな……

 

「今回の措置につきましても、正直に申し上げると苦肉の策といったところです。

 アイシャ様へ直接スタッフとしての作業は要求いたしませんが、当方運営としては今後アイシャ様のような方が他にも現れた場合に備え、相談相手になっていただけないか、とお願いしたい次第です」

 

「……」

 

 つまりアドバイザーか。なるほどね……私の対処が困難だから、いっそ味方につけようって腹か。意外に食えないな……

 

 私みたいな能力──ボス属性はホントあれだけども、似たような能力でまた問題が発生しないとも限らない、という危惧は分かる。

 

 ……つぅか、ジン。お前が考えたゲームだろが。なんで運営から離れてるんだ。お前が責任持って考えろや。あいつマジふざけてんな。

 

「……分かりました。ゲーム内にいる間だけであれば、支障のない範囲でお話しするのは構いません。

 その代わり、いくつか聞かせていただいてもよろしいですか?」

 

「ゲーム攻略以外についてでしたら、なんなりと」

 

 うん、しっかりしてらっしゃる。ゲームマスターの鑑だね。ジンしね。

 

「えっと……

 あなたは確か、イータさん……だと思うんですけど。

 あなたはここから動かれたりとかするんでしょうか。ずっとここにいる感じですけど」

 

 目をぱちくりさせた後、彼女は面白そうな笑みを浮かべた。

 

「ゴン君から聞いたんですね。そうです、私はイータと申します。

 私がここから動くことはほとんどありません。が……

 実はしばらくの間、ここを離れていました」

 

 ほぅ。そうなんだ。

 

「ゴン君のゲームクリア後、準備期間を設ける為しばらくゲームへのログインを行えないようにしていました。その間にゲームマスター同士で集まり、相談する必要がありましたので。

 13年間誰もクリアする人が居なかったこともあり、スタッフを交代するかどうかなどの話し合いも行いました」

 

 ……ゲームの運営ってホント大変なんですね……

 

 私は少し気になっていたことを尋ねてみる。

 

「その……

 もしかして、私が起きるまでずっと待ってたりしました?」

 

「お気になさらず」

 

 はっはー。何にも言えませーん。

 

 さて、後は……ていうかあんまり長話すると、メレオロン達まちくたびれるか。んー。

 

「では……最後に一つだけ。

 ジンとのご関係は?」

 

 見た感じ、イータさん若いしな。それが13年間もここにいたって、どういうことよ? 念能力者の見た目うんぬんはあるかもだけど。

 

 イータさんは、おかしそうに口許を手で抑えつつ、

 

「まだ小さかった私をここに縛りつけた、ゲーム好きの変なおじさんです」

 

 ……あの野郎、次会ったらマジでぶっ飛ばす。

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 
 ボス属性対策、説明回ですた。うん、ほんまコレ厄介の極みすわ。



 ボス属性「遺憾の意を表明する次第」

 アイシャ「やろう、ぶっころしてやる」




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