どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二百二十五章

 

 ──月明かりしかない、夜闇の中。

 

 アイシャとネテロが行ったという決闘の一部始終を、俺は聞き終えた。ちょこちょことアイシャが隠しごとしながら喋ってるのが気になったけど、そういう疑問はひとまず横に置いて、必要なことを口にする。

 

「やっぱりか……

 ネテロの百式観音には思いのほか欠点があるね」

「……そうですか?」

 

 疑わしげに聞いてくるアイシャ。言いたいことは分かるけど、知らず知らずアイシャもそこを突いてはいたようだしな。

 

「アイシャは思わなかった?

 ネテロの保有するオーラ量に対して、百式観音は威力も速度もおかしいって」

「……まぁ」

「不可避の速攻と言わしめるだけのことはあるんだよね。

 あの能力発動速度は、他の追随を赦さない。ネテロが祈りの型を取り、観音像が具現化して、攻撃を当てる。この一連の動作をおそらく0.05秒未満で行ってる」

「……」

「攻撃が見えたとしても避けられるわけがない。初動も桁違いで、防御すら間に合わない。

 俺ですら、この目で攻撃の気配を察知して、事前に備えても『堅』の防護がかろうじて間に合うかどうかだもん。……つかアイシャ、なんでアレ防げたの?」

「いいじゃないですか、そんな話は……

 今は対策を考えてください」

「腑に落ちないなぁ……まぁいいや。

 それで、アレだけの威力・速度・精度をネテロの保有するオーラだけで何とかしようと思えば、修行だけじゃ絶対補えない。必ず強い制約を設けてると思う」

「……たとえば?」

「まず、当たり前だろうけど、ネテロの百式観音は100の型しかない。……俺も全部の型は知らないから推測だけどね。

 ネテロはあらゆる攻防に対応できそうに見えるけど、実際は体術と百式観音の限られた型を創意工夫して繰り出してるに過ぎない。型の変更もできないんだろうし。

 戦いが長引くほど、相手に百式観音の型を覚えられ、ネテロは不利になっていく」

「それはそうでしょうね……」

「あと、基本的に一瞬しか観音像を具現化してないだろ?

 なんでだと思う?」

「……ほとんどの相手は、一瞬の具現化、一撃のみで事足りるからだと思います。

 一撃に耐えうる相手であったり多人数が相手でも、手数を増やす方が有効でしょうし」

「相手に合わせた都合としてはそうだろうね。

 ネテロ自身の理由としては?」

「…………」

「おそらく具現化してる間、ネテロは相当量のオーラを減らしてる。特に観音像で攻防をしている間はそう。俺も初戦ではそこまで見る余裕もなかったけど、次にこの目で見れば確信できると思う」

「でも、一瞬しか具現化していないということは……」

「そう。

 オーラが大きく減ると言っても、一瞬だけならたかが知れてる。

 けど、観音像は必ず一瞬しか出ないわけじゃない。──だろ?」

「……私のオーラ砲を防がれた時、その間は具現化し続けていましたね」

「他にも、2本の手で挟みこむ時とかね。必要な時は当然具現化を維持してる。

 アレを多用しないのはオーラを節約する為だと思う。逆に必要じゃない時も混ぜてくる理由は、一瞬しか具現化したくないのを相手に悟られないようにかな。

 だから、アイシャがネテロに特攻し続けた戦術は、間違ってたことになる」

「……」

「ごめん、間違いは言いすぎた。

 そもそも探りを入れなきゃ分かんないもんね……

 とは言え、アイシャならオーラの削り合いに持ち込んだ方が有利だったと思うよ?

 おそらくだけど、アイシャがオーラ砲を放ってネテロが百式観音でそれを防げば、より消耗が激しいのはネテロの方だから。

 ネテロのオーラを削り続ければ、アイシャは余裕で勝てたんだよ」

「そんな勝ち方をしても、納得はできませんけどね」

「オーラの多寡も、戦闘における重要なファクターだよ。

 まぁネテロもアホじゃないから、そのうち戦術を変えただろうけど。

 で、後は百式観音の射程かな。多分アレ、そんなに遠くまで攻撃できないと思う」

「射程ですか……」

「ネテロ自身が移動砲台として動くから分かりにくいけど、実際あの観音像ってネテロの近くに出てるだろ? あの像の手が届く範囲までが射程だよ。おそらく15から25mが限界。

 それ以上離れると、仮に攻撃できたとしても敵に一瞬で着弾しないと思う。特に精度は大きく落ちるだろうね。威力は言わずもがなだけど」

 

 考え込むアイシャ。納得はいかずとも、思うところはあるんだろう。

 

「……断言はしかねますが、可能性としては有り得ます」

「それで充分だよ。

 距離に関しては俺も目分量だから、過信しないでほしいし。

 アイシャはオーラ砲を使ったって言ったけど、念弾を使わなかった理由ってある?」

「……その時、戦術的に有効なのがオーラ砲でしたから」

「うん、念弾は使わなくて正解だったろうね。

 念弾だと百式観音で弾かれたと思う。一瞬しか具現化させられないからオーラを削れもしないし、ヘタすりゃ自分に跳ね返されるおそれもある。明日の戦いでも特別理由がない限り念弾は使わないでほしい。

 最悪、アイシャの念弾を俺に向かって跳ね返してくるだろうから。流石に避け切る自信ないもん」

「了解です。私達に跳ね返される可能性がある時は、基本的に使いません」

「ん。で、明日の戦術だけど。

 アイシャや俺と戦った経験を踏まえて、シンプルにアイシャがネテロに接近を試みて、俺がそれを援護する──とネテロは予想してると思う。

 確かに妥当だけど、あえて俺達はそれをしない」

「……その戦い方ではダメですか?」

「ダメ。

 間合いを詰めてネテロへ一撃入れるまでに、アイシャも最低何回か何十回は百式観音を食らうよね? まず間違いなく重傷を負うと思うけど」

「……」

「アイシャが無傷で勝とうと思えば、俺が接近戦を仕掛けつつ、アイシャは距離を取ってオーラ砲で援護するしかないよ。当然アイシャは、百式観音の射程圏外まで常に離れてることが前提。ネテロがアイシャと距離を詰めようとしたら、全力で離れて。俺も阻止するから」

「んー……」

「そういう戦い方はイヤ?

 アイシャが大怪我せずに勝てるプランが、他にあるのなら聞くけど」

「その……

 いえ。でも、それは……」

「バカの一つ覚えみたいにオーラ砲ってのも、アレだとは思うけどさ。短期決戦なら多分通じるよ。当然ネテロも削り合いは警戒してるだろうから。2人相手にネテロのオーラが保つわけないし、俺の目で潜在オーラ量が常に測られてるのをネテロも知ってるから」

「……

 そのことをネテロが知っているなら、当然オーラの削り合いは避けるでしょうね」

「ネテロにしても、せっかくの決闘がただの削り合いなんて興醒めだろうからね。

 どの程度か確認したいから、試しにオーラ砲を撃ってみてくれる? おっと、もちろん天使のヴェールは解除してね」

「……いいですけど」

 

 天使のヴェールを使いながらだと、オーラ消費がシャレにならないだろうしな。ここはオータニアからも離れてるし、天使のヴェールを解除しても大丈夫だろう。

 

 アイシャの身体から禍々しいオーラが溢れ出す。うへ、やっぱスゴイな。

 

 ゴゥッッ──!!

 

 俺のオーダーに応えて、アイシャは両腕を構えて夜空へ向かって巨大なオーラ砲を撃ち放った。突き刺すような光の帯が星空へと吸い込まれていく。

 

「うはぁー……

 ぜったい直撃したくねー。あんなん喰らったら、普通に死ぬよ。

 なんていうか、アホみたいな放出量だね」

「アホってなんですか! 失礼な!」

「ごめん。

 ……えっと、申し訳ないんだけど色々言わせてね。

 まず収束率が低い」

「……っ」

「ヒト1人飲み込むぐらいに広がってるから、確かにそれだと当たりやすくはある。けど、オーラの密度が下がりすぎてる。命中しても、面積辺りの威力はかなり落ちるよ。

 何より問題なのが、飛翔速度が下がるんだよ。拡散してる分、前に打ち出す圧力が不足するから。離れるほど目に見えて速度が落ちてるせいで、遠くの敵には避けられやすい。

 もっと放出範囲を絞り込んで、前へ圧し出すように放たないと。基本的に速ければ速いほどいい。それだけネテロの余裕を奪えるからね。俺が百式観音の弾幕を潜り抜けようと思えば、いま撃ったぐらいのオーラ砲の速度じゃ、援護としては不十分かな」

「待ってください。

 無理やりオーラ砲の速度を上げることは、出来なくもありません。ですが精度は確実に落ちますし、遠距離から攻撃すれば狙いも怪しくなります。あなたに当たる可能性だって……」

「うーん……

 なら無理やりでなく、無理なく出来るようにするしかないね」

「……今から修行して間に合うとも思えませんが?」

「少しでも改善できればいいよ。

 ダメ元かもしれないけど、やるだけやってみない?

 放出って、言うまでもなく肝心なのは体内オーラの操作だからさ。まず両手じゃなく、片手で──」

 

 渋々ながらもアイシャは承諾し、俺の助言を聞きながら繰り返しオーラ砲の放出を調整していく。

 

 ──10度も繰り返した後には、恐ろしい速度と精度のオーラ砲をアイシャは放っていた。なんとまあ、見違えちゃったよ……

 

「うーわ……

 自分で言いだしといてなんだけど、出来るとは思わなかったよ。とんでもないね……

 まさか、こんなに早くモノにしちゃうか。あー、ビックリした」

「……私は、あなたにこそ驚いていますが。

 私だって修行を積み重ねて、相応に磨き上げていたんですよ?

 それがあなたの助言を受けた途端、ああも……」

「俺は大したこと言ってないって。ただのきっかけ。

 アイシャ自身、これまでの積み重ねがあったからこそ、いま実を結んだだけだよ」

「……

 ありがとうございます」

 

 目を潤ませるアイシャに、俺も貰い泣きしそうになる。……独学であれほどまで磨いたんだろう。素晴らしい才能だよ。俺も手助けできて嬉しいな。

 

 ……いや、14歳とかマジか? ウソやん……少なくとも数十年は念を練り上げないと、あんなん出来っかよ。天才マジこえー。

 

 

 

 

 

「──……ウラヌス! ウラヌス!」

 

「……ぅ……?」

 

「よかった……!

 ウラヌス、気がつきましたか」

 

 視界がぼんやりしている。なぜか全身の感覚が遠い。えっと……

 

「あー……

 夢かぁ……い、いちちちちっ!? あっっつ……

 あは、あはは……てっきり走馬灯かと思っちゃったよ……」

「何をバカな……

 心配、したんですよ……」

「アイシャ、そんなに泣かなくても……」

「あなた、自分が今どんな有様か分かってるんですか!?」

「……見たくもないなー。

 で、そっちに転がってる焼死体みたいなのはネテロ?」

「縁起でもないっ!」

「分かってるよ……

 俺の目で見ても、まだ息はあるから」

「……あなたの心臓は、さっきまで止まってましたからね?」

「え? 甦生してくれたの?」

 

 よく見ると、アイシャの唇から涎が薄く垂れている。あ、まさか人工呼吸した? ……いや、考えるのはよそう。

 

「でも、ネテロも放っとくとマズイかも……

 多分初撃の時に肺も少し焼かれただろうから。……ブック」

 

 

 

 

 

 ウラヌスがバインダーを出現させ、寝転がったままノロノロとページをめくっている。そして、1枚のカードを取り出す。

 

「……ゲイン」

 

 大天使の息吹のカード化が解け、オーラが旋風を巻いて女性の姿を象る。

 

『わらわに何を望む?』

 

「そこの……けほっ。

 ネテロの身体を、元通りに……完治してくれ」

 

 ウラヌス……あなた、さっきまで心肺停止してたんだぞ……? 私が大天使を使う間も惜しんで甦生を優先させるような状態だったのに……今だって……

 

『お安い御用。

 では、その者の体、治してしんぜよう』

 

 フゥー……と優しげなオーラの風がネテロの身体へと吹きつけ、穏やかな光に包まれた肉体が瞬く間に元通りの姿へ癒す。

 

「……うむ?」

 

 すぐ目を覚まして、むくりと起き上がるネテロ。まとめた髪がバサリと落ちて雰囲気は変わっているが、いつもの憎たらしいジジイ面だ。よかった……ホントに元通りだ。

 

「ワシは一体……?」

 

『では、さらばだ』

 

 女性の姿が消えうせる。

 

「ネテロ、大丈夫ですか?

 どこか具合の悪いところは?」

「……いや。全く問題ないが。

 なぜじゃ? さっきまでワシは──ウラヌスッ!? その姿は!?」

「ハハ……

 あんま見ないでくれ……」

「ネテロ、話は後で。ブック」

 

 急いでバインダーからカードを取り出し、「ゲイン」を唱える。再び女性が出現する。

 

『わらわに何を望む?』

「ここにいるウラヌスの身体を完治させてください」

『お安い御用。

 では、その者の体、治してしんぜよう』

 

 フゥー……と息吹を浴びたウラヌスの身体が光に包まれて、その肉体が元の可愛らしいウラヌスの姿を取り戻す。

 

「おおおお……

 なんという速さじゃ……それもここまで完璧に治しよるとは。

 これほどの治癒能力、ワシもお目にかかったことがないぞ」

「私もですよ。

 ……神字の力でしょうけどね」

「なるほどのぅ。……いや、しかしこれほどとはな」

『では、さらばだ』

 

 ウラヌスは上半身をむくりと起こし、自身の身体や髪の毛を確認した後、

 

「すぅー……はぁぁぁー……

 たぁすかったぁぁ……

 マージで死ぬかと思ったよ……」

「っとにもう、無茶苦茶な真似して……

 許しませんからね」

 

 コツンと、綺麗になった額を叩いてやる。

 

「あいてっ。せっかく治ったのに、やめてよー。

 タンコブできちゃう」

「生意気なこと言って……

 どれだけ心配したと思ってるんですか。さっきまで、あんな……」

「……ごめん」

 

 何とも言えない表情で、私達を眺めるネテロ。

 

「……なぜ、ワシを治したんじゃ?」

「分かってるだろ?

 決闘の決着がついたからだよ。

 俺とネテロは戦闘不能。アイシャは無傷。まさか、これでゴネる気か?」

「……まぁそうじゃな。

 決闘の途中で治療を施されておいて、続行を口にするほどワシも厚顔無恥ではない。

 アイシャ、よいな?」

「……当然です。

 完治しているとはいえ、あなたも大変な容態だったんですから」

「うむ……

 では、此度の決闘──」

「待て」

 

 ストップをかけたのは、まさかのウラヌスだった。

 

「なんじゃ」

「オマエはそれでいいかもしれないが、俺達に対して義理を通して終わりにするな。

 少なくとも俺が求めてるのは、この決闘の決着じゃない」

 

 沈黙するネテロ。ウラヌスは言葉を続ける。

 

「肝心なのは、お前がこれからどうするか宣言し、それを遵守することだ」

「……ワシにどうせぃっちゅーんじゃ」

「メレオロンとシームの前で、言うべきことを言え」

 

 ネテロは少し考えた後、

 

「……なるほど、そういうことか。

 相わかった。そちらで場を整えれば、ワシがそこへ赴こう」

「それでいい」

「……にしても、じゃ」

「ん?」

「……オヌシ、やはり男だったんじゃな」

「うわ、ちょ!?

 見んなぁッッ!!」

 

 ばばっと隠すウラヌス。さっきから可愛らしいモノが、目の端にチラチラしてはいたんだけどね。悪いからチラ見だけにしておいた。……うむ。

 

「つかテメーも変わんねぇだろ、この全裸ジジイが!」

「当たり前じゃろ、お主が燃やしよったんではないか!

 まったく、とんでもないことをしよって」

「ホントですよ。

 ……ネテロ、あなたも我慢しすぎですがね」

「え? ワシ?」

「全身大火傷しながら我慢比べなんて、見てるこっちがハラハラしましたよ。

 どれだけ酷い状態だったか、ホントに分かってるんですか!」

「い、いや、そうは言うがな。

 こんな洟垂(はなた )れより先に音を上げるなんぞ──」

「洟垂れとはなんだ、先に死んどけクソジジイ!」

「やかましいわ、このクソガキめが!

 ワシャ完治させられることも知らなんだから、そら恐ろしかったんじゃぞ!

 とんでもない目に遭わせよってからに!」

「……それも悪かったよ。

 でも、確実に勝つ方法が他に思いつかなくて──」

「確実に勝つどころか、危うく死ぬところだったじゃないですかッ!!」

「イタイいたい!

 アイシャ、いたい!」

「まったく……!

 ネテロも、子供の意地に張り合って命を落とす気だったんですかッ!?」

「ま、まてアイシャ。そう怒るな……

 ……ワシもおかしいとは思ったんじゃよ? ただ、コヤツがああも無茶をする以上は、何とかする手段があるんじゃろうと……」

 

 ああもう、2人してとんでもないバカだッ! ……くそっ。腹立たしいけど、気持ちも分かるんだよな……。だからこそ、私も割って入れなかったんだし……

 

「しかし、まさか玉砕覚悟とはのぅ……

 それほどまでにお主がこの決闘に懸けとるとは、ワシも見抜けなんだ」

 

 ……ネテロ、お前が言うか? 前の決闘で放ったあの零とやら、お前自身が瀕死だったじゃないか。もう二度と喰らいたくないぞ、あんなの……

 

「玉砕なんていいもんじゃないさ。

 先にお前がくたばったらいいなっていう、甘い考えだったんだよ」

「口の減らんヤツじゃのぅ……

 しかし、こやつに比べてアイシャよ」

「なんです?」

「不思議に思っとったんじゃが……

 お主、この決闘に臨む気迫がずいぶん足りんかったのではないか?」

「……

 そんなことありません」

「ほぅ?

 ではなぜ、ワシがコヤツに捕らえられてる時、ワシを攻撃せなんだ?」

「っ。それは……」

「待てよ、ジジイ。

 アイシャには、離れて戦ってくれって俺が作戦出してたんだよ」

「じゃがそれでも、ワシの背に向けて念弾でもオーラ砲でも放てたじゃろ?

 なぜ傍観しておった?」

「……なぁネテロ。それはオマエにも言えるんだぞ?

 アイシャが近づいてきた時、どうして百式観音で攻撃しなかった? できたよな?」

「……っ」

「結果、アイシャは無傷のまま決闘が終わった。

 心配して迂闊に近寄ったアイシャを打ち据えるだけの気概は、オマエにもなかったじゃないか」

「む……」

「大体、百式観音を初っ端から撃ってきた時点で、決闘を早く済ませようって魂胆が見え見えだ。

 どうせオマエ、この決闘を楽しみにしてただけで、実際は勝とうが負けようがどうでも良かったんだろ? アイシャのこと、エラソーに言えんのか?

 

 ──気迫も覚悟も足りなかったのは、お前だ。ネテロ」

 

「……」

 

 沈痛な顔のネテロ。……そうだな。ウラヌスほどの覚悟は、私にもネテロにもなかった。その点は反省すべきだな。

 

「ふむ……

 そういう意味では、ワシは昨日の時点で、お主に出鼻を挫かれておったんじゃな。

 認めよう。確かに此度の決闘、ワシは勝敗にそこまで拘ってはおらなんだ。

 ただケジメとして、この場に臨んだだけじゃ」

「……付き合いイイよな、オマエも。

 申し訳ないと思ってるよ」

「謝らずとも良い。

 ……強くなったな、ウラヌスよ」

「上からエラソーにホザくな、クソジジイ」

「まったく、クソ生意気なガキんちょめ」

 

 笑いあう2人。……こういう関係は、ちょっと私には築けないかな。少し羨ましいよ。

 

 

 

 3人で少し雑談をした後、ウラヌスはふと気づいた様子で、

 

「さて、そろそろ戻らないといけないんだけど……」

 

 ……服がすっかり燃えちゃったからな。このすっぽんぽんになったアホ2人、どうしてくれよう。

 

「着替えなんぞ用意しとらんかったからのぅ……しもたわい。

 ワシャ、こんなカッコで街に帰りたくないぞ」

「別にジジイの裸なんざ、誰も好きこのんでガン見しねーよ。そんまま帰れ」

「お主がそうするなら、ワシもそうするが」

「イヤに決まってんだろ!」

「ワシもイヤに決まっとろうが! いいから責任を取らんか!」

 

 あー、立つなネテロ。変なのが目に入ってくる……

 

「来んな、変態ジジイ!

 アイシャが目ぇ逸らしてんだろうが! 気づけや!」

「だからお主が燃やして……

 ……おのれ、なぜワシがこんな生き恥を」

「うるせぇんだよ、粗末なモン見せやがって。

 いいから前を隠せ。岩盤でスリ下ろすぞ」

「恐ろしいことを言うでないわッ!」

 

 ようやくネテロは手で隠してくれた。んもう、やだなぁ……ウラヌスはまるっきり子供だからいいけどさ……

 

「まったく……仕方ないですね」

 

 やむなく私は上着を脱いだ。荷物は持ってきてないし、着替え用の服カードもないから、こうするしかないんだよな。

 

「ネテロ、とりあえずこれを」

 

 私が着ていた運動着の上を渡そうとすると、ネテロは私と服を交互に見ながら、

 

「む? これ、ええんか?」

「なんか、妙に含みがあってイヤなんですが……

 今だけ着ておいてください。すぐ代わりの服を用意しますから」

「ふむ……どれどれ……

 ……ほほ。こういうのもオツなもんじゃのぅ。

 お主の体温が残っていて、ぬくいわい」

「ぬくいのは結構ですが、服の匂い嗅ぐのやめてくれません?」

 

 ホント、エロジジイだなコイツ……貸すのヤメようかな?

 

 で、こっちのバカにゃんこだけど。

 

「……ウラヌス、あなたはこれを」

 

 中に着ていたシャツを脱ぐ。ウラヌスはちっこいから、これで下まで隠せるかな。……私はブラ1枚になっちゃうけど、仕方ない。

 

「おおッ!?」

「なにがおおですか。こっち見ないでください。殺しますよ?」

「ヨソ向けやクソジジイ! 見世物じゃねーぞ!」

 

 おかしな反応をするネテロを2人がかりで非難するが、それでも私の胸や素肌をやたらガン見してくる。

 

「うむ……

 いや、しかしじゃな。これだけの肉体美を前に──」

 

「こ ろ し ま す よ?」

 

「ジジイ。いますぐ目ェ2個とも逝くか?」

 

「そ、そこまで言わんでもええじゃろ……

 いいではないか、ちょっとくらい」

 

 私は大して気にしないけど、オマエの反応が気にいらないんだよ、ったく。……へんなこと思い出しちゃったよ、くそ……

 

 ウラヌスは私のシャツを受け取り、もごもごと着込む。……シャツ1枚姿の可愛らしいウラヌスが、私を申し訳なさそうに見上げてきて、

 

「ごめんね、アイシャ……」

「許すつもりはありません。けど、何度も謝らないでください。

 ……友達は貸し借りを気にしないものでしょ?」

「うん……ありがと」

「ええもんじゃのぅ……

 ワシもずっと借りといてええか?」

「今すぐ返してください!」

「ま、またんか。冗談の通じんヤツじゃの……」

 

 冗談に聞こえないんだよ。さっきからなんなんだ。

 

「しかし、何でワシらに服を貸すんじゃ?

 アイシャが移動スペルでひとっ飛びすりゃ、服くらいすぐ用意できるじゃろ?」

 

 ……あ。ネテロ、気づいてなかったか。説明したくないんだけどな……

 

「その……

 無理なんです」

「うん? なにが無理……

 ──まさかっ! お主、移動スペルすら効かんのかっ!?」

「ええ……」

「うぉぉ、難儀じゃのー……イヤ、無理じゃろ?

 移動スペルも使わんと、どうやってこのゲームをクリアするつもりだったんじゃ?」

「……」

「ああ、なるほど。それでウラヌスの助力が必要だったんじゃな。

 お主ほどの使い手がなぜと思っておったが、納得したわい」

「……恥ずかしながら」

「ふふ。すまんな、恥をかかせて。

 つーことは、ワシかウラヌスのどっちかが、代わりの服を調達せねばならんのか?」

「俺がアイシャを空輸するよ。

 ネテロ、準備できたら『交信』で合図するから、移動スペルで飛んできてくれ。

 すぐ着替えられるようにしておくよ」

「分かったわい。ここで待っとるから、早よしてくれよ?

 頼むから放置だけはせんでくれ」

「分かってるよ。

 すぐ戻ってくるから、ほんの10年待ってろ」

「待たんわッ!」

 

 放っといたら、いつまでも喋ってそうだよな……この2人。

 

「いいから早く行きましょう。3人も待ってるでしょうし」

「うん、アホをおちょくってても時間のムダだもんね」

「オヌシ……」

「そういやネテロ、移動スペルは残ってるか?」

「うん? 『再来』ならまだあるぞ」

「じゃなくて、『同行』か『磁力』。

 でないとプレイヤーのところへ直接飛べないし」

「……

 いや、使い切ってしもとるな」

「あぁもー、『同行』ぐらい常に余分持っとけよ。

 『再来』だと街の入口にしか飛べないから、オマエそのカッコのままで街へ行くことになるぞ?」

「まぁこれならまだマシじゃがな……

 そもそも、オヌシが服を持ってきてくれればええんじゃがの」

「やだよ、往復分の『同行』消費するし。

 ……しゃーない、1枚くれてやんよ」

「すまんのう。……いや、そもそもお主のせいじゃよ?」

「分かってるから、くれてやんだよ。

 さっきから謝ってるだろ。そうしつこく言うなって」

「フン。

 ワシにしてみれば全然恨みごとを言い足りんぐらいじゃがな。危うく火葬されるところじゃったわい」

「ネテロ、もう勘弁してあげてください……

 早く服を買ってこないと」

「うむ……任せたぞ。

 後、履物も忘れんでくれよ?」

「ああ、分かってるよ。……アイシャ」

「……ええ」

 

 そして私の背後から、シャツ1枚のウラヌスが抱きつく。す、素肌に抱きつかれると、流石にクルな……

 

「ほほぅ!

 そうやって運ぶんか。こいつぁええのぅ……眼福じゃわい。

 まるで一晩一緒に過ごした男女のよう──」

「ネテロ、オマエ後でぜったいブチ殺すからな?」

「ウラヌス、いいから早く!」

「うん……」

 

 やっとこの場から、私達は飛び立つ。ネテロが愉快そうに見上げてくるのが、なんとも気恥ずかしかった。くぅ……

 

 

 

 

 

 まるで母娘のような仲睦まじい姿で、早朝の空へ飛び立った2人。──それを見送ったネテロは、やがて1人息を吐いた。

 

 

 

 そうか……

 

 あやつ、アイシャを念で治療できんから、傷つけまいとしてあんな戦いをしたんじゃな……

 

 

 

 決闘に臨んだ理由も、あの2人を救う為。火傷の治療すら、自身よりネテロを優先した。

 

 ただただ他人の為。行動原理がそこへ結びついている。除念を終えた今も、取り戻した力に溺れることなく、その信念に揺らぎはない。

 

 

 

 ……覚悟が足りんのはワシの方、か。そこまで『心』の違いを見せつけられるとはな。

 

 

 

「ワシの負けじゃよ、ウラヌス」

 

 

 

 誰に聞かせるでもなく、ネテロは独りごちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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