どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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 今回、キッツイです。心構えを。







第二百三十一章

 

 アイシャは、桜が落ち着くまで少し待って欲しいと伝え、レイザーもそれを聞き入れた。

 

 しゃがみこんで休憩している桜の周りに、仲間達が集まっていた。

 

「お前さんの気持ちも分かるがよ。

 オレはあいつの言ってることの方が正しいと思うぜ」

「……そんなの分かってるよ」

 

 プーハットの言葉に、弱々しく返す桜。すっかり意気消沈している。

 

「だったら、あそこまで噛み付くことなかっただろ。

 所詮アイツラの内輪揉めじゃねーか。お前さんが首突っ込む必要なんてないだろうに」

「……」

「彼らにとって、ここが現実に存在する島だと暴露されるのは、それほどに痛恨なのかもしれんな。……私も薄々ここは現実だろうと気づいてはいたが」

 

 ジェイトサリの言葉に顔を見合わせる面々。気づいていた者、気づかなかった者、それぞれ思うところがあるのだろう。

 

 そんな中、アイシャは海賊達の様子を見る。

 

 部下の海賊達は、体育館の隅の方に固まっていた。彼らの役目はほぼ終わっているが、ドッジボールが終わり勝敗が決するまでは雑用がまだある。ボポボも不満そうながらも、海賊達に混じり大人しくしていた。

 

 レイザーは、ドッジボールをする予定のコートに1人留まり、腕を組んで待っている。

 

 立ち上がる桜。すたすたと歩いていく──海賊達の方へと。アイシャが付いていこうとすると、桜は断るように手を振り、

 

「いいよ。ちょっと声かけるだけだから」

 

 桜は、14人の海賊がいる前で立ち止まる。ボポボが複雑な表情で睨みつけ、

 

「……なんだガキ?」

「おい、ボポボ。やめとけ」

「何もしやしねェよ。……このガキが何かしてきたら別だがな」

「ドッジボールが終わった後でよかったらさ。

 相撲しよっか?」

「は?」

「レイザーもそれくらいなら許してくれるでしょ。

 まぁさっきボポボがしたことを赦すかどうかは、別の問題だけど」

「……」

「後でちゃんと謝罪しなよ?

 さっきレイザーも言ってたでしょ。ムショに逆戻りって。最悪、それぐらいで勘弁してくれるってことじゃん」

「……てめェ、知ってたのか」

「みんな囚人なんでしょ?

 ここにいる間、刑の執行が止まってるだけで」

「ここだって監獄みてェなもんだよ」

「ボポボ」

「実際そうだろうが。

 ……四六時中、あの野郎が目ェ光らせてやがるから、生きた心地しねェよ」

「でもムショに戻ったら、今度はいつ刑が執行されるか怯えながら生きることになるよ?

 ここでスポーツの練習してた方が、ずっと健全で生き生きしてられると思うけど」

「……なんなんだ、さっきからてめェは」

 

 困惑しながら問うボポボに、桜は小さく首を振る。

 

「長話になっちゃうから、やめよ。

 いいから、相撲するの? しないの?

 どっち?」

「……。

 てめェがそんなにやりてェなら相手してやるよ」

「うん。約束したからね」

 

 ボポボの言葉に、微笑みで応える桜。満足げに立ち去ろうとしたところで、

 

「……おい、キミ」

 

 海賊の1人が声をかける。桜が振り向くと、

 

「なぜ、ボポボを助けたんだ?」

「……助けちゃダメだった?

 死刑囚だからどうとか、そんなの私には関係ないもん」

 

 ──ようやく。死刑囚である海賊の面々は、桜が自分達をまともな『人間』として見てくれていることに気が付いた。

 

「おい、ガキ。

 ……てめェこそ、あんな細目野郎に(や )られんじゃねェぞ。

 絶対にオレと、もう一度相撲取れよ?」

「ぷっ。細目野郎って。

 ……そんなの決まってんじゃん。

 あんな細目くん、景気よくブッ飛ばしてやっから楽しみにしてて。

 その後の相撲もね♪」

 

 手を振り、今度こそ彼らの前から立ち去る桜。

 

 視線を向ける仲間達のところへ戻ると、

 

「まったく……あなたってヒトは」

「ぅぷ。にゃ、にゃに?」

 

 桜を軽く抱きしめるアイシャ。桜は困惑気味に悶えた後、

 

「……センリツ。

 私がなに話してたか、バラした?」

「みんな、あなたのこと心配してたもの。

 あなたも相変わらずね」

「んもー……

 恥ずかしいじゃーん……」

 

 仲間達から苦笑が洩れる。

 

「……ごめんね、みんな待たせて。もう大丈夫だから。

 最後の勝負、始めよ」

 

 桜が宣言した後、ドッジボールをするメンバーが、コートで待ち受けるレイザーの元へ向かう。

 

「待たせてゴメン」

「フ……構わんさ。

 さて、もう分かっているようだが……

 オレのテーマは、8人ずつで戦うドッジボールだ」

 

 レイザーの周囲、体育館の床から滲み出るように人型の念獣が出現する──7人。……こっそり離れた場所に1人出ているので、実際は8人出現していた。

 

「こっちのメンバーは決まっている。

 そちらはそのメンバーでいいのか?」

「ん……?

 ちょっと待って。メンバーって、念獣アリなの?」

 

 アイシャからそこまで詳しい話を聞いていなかったので、レイザーが念獣を参加させることを桜は知らなかったのだ。無論、桜がドッジボールを適当に考えていたのが原因だが。

 

「オレが使ってる以上、当然アリだ」

「……こっちは、参加人数を減らすことって出来る?」

「ダメだ。スターティングメンバーは8人と決まっている。

 減らすことも増やすことも認めない」

 

 桜がそれを確認するのは、思ったより危険だと判断したからだ。レイザーと海賊の部下ならともかく、レイザーとその念獣が相手なら相当なレベルで連携してくると想像がつく。

 

 つまり、参加するメンバーの安全が保障できない。仮に、開始してすぐ内野から外野へ逃げるとしてもだ。

 

 参加する仲間を見やる桜。

 

 アイシャ、ヒソカは無論問題ない。メレオロンもオーラでガードすれば、初撃は何とか耐えられるだろう。……センリツ、ジェイトサリ、シーム、プーハットは怪しい。

 

「はぁ……

 私とアイシャ、ヒソカだけでやるよ。後のみんなは離れてて」

「おいおい、それじゃ後5人はどうすんだ──」

 

 尋ねるプーハットや他の仲間に背を向け、レイザーに見えるよう小さく指を躍らせる桜。

 

 

 

(や )けた(そら)戯れ(たわむ )る (みち)(のこ)りし童の(わらべ )形見(かたみ )──

 

 ──【影法師/シャドウサーバント】──」

 

 

 

 体育館の床に落ちる桜の影が、奇妙に揺れた。

 

 突如大きく影が広がり、やがてレイザーがしたようにその影がいくつもの人影になって、床から立ち上がった。

 

「う、うお……」

 

 呻くプーハット。影は全部で5体。──1体1体が、自分を遥かに越えるオーラで構成されていることに気が付き、思わず身を引く。

 

「私、アイシャ、ヒソカと、影の念獣5人。全部で8人。

 いいんだよね? 自分もやってんだから」

「問題ない──と言いたいところだが。

 それじゃあ困るな」

「あ? なんで」

「見た目が同じでは、個体の識別ができない。

 オレの念獣は、数字と見た目がそれぞれ違うだろ? 区別できるようにしてくれないと、ルール上、問題が発生する。

 個体の識別が出来ないままなら、参加は認められない」

「あーもぅ、メンドくさいな……」

 

 桜が自分の生み出した影の念獣を見やる。と、それぞれの形が変化しだした。

 元々は全て桜と同じ影の形だったが、メレオロン、センリツ、ジェイトサリ、シーム、プーハットの形状に変化した。

 

 プーハットが嫌そうに顔をしかめ、

 

「おいおい、気味わりぃな……」

「仕方ないじゃん、見た目に区別つけろって言うんだし……

 形を借りただけで、別に害なんてないよ」

「アタシ達は参加しなくていいのね?」

「うん。でも流れ弾の危険は当然あるから、油断しないでね。

 レイザー。これでいいんだろ?」

「ああ、問題ない。

 では参加しない者はコートから出てくれ」

 

 

 

 レイザーがルール説明をした後、ドッジボール参加者が配置に付く。

 

 桜達の外野は、プーハットの影。レイザーの外野は、No.1の念獣。

 

 そして審判にNo.0。

 

 コート中央には、互いの陣地に入り込む形でジャンパー役のNo.6とジェイトサリの影が構える。

 

 審判が中心線上でボールを構え、

 

「スローインと同時に試合開始です!!

 レディーーーー……」

 

 高くボールを放る。

 

「ゴー!!」

 

 まさにそのタイミングで、No.6が飛び上がってボールを自陣に叩き込んだ。レイザーが腕を振りかぶり、

 

「──フッ!」

 

 キャッチすらせず、ボールを激しく叩いた。凄まじい勢いのボールは一直線に敵陣内野ではなく、外野へ──

 

「……ぁ」

 

 桜が小さく声を上げた。反応できなかったわけではない。もしやとレイザーの奇襲から仲間を守らんと動こうとはした。が、その意味は全くなかった。

 

 

 

 レイザーの放ったボールは、体育館の隅にいたボポボの頭部に直撃し、その頭蓋を打ち砕いていた。

 

 

 

「…………」

 

 遠くで見ていた桜にも、それが致命傷であることが分かった。

 

 茫然自失でレイザーを見やる桜。薄笑いを浮かべているレイザー。……つまり見逃してやるつもりなど、カケラもなかったわけだ。むしろ桜の邪魔が入らないこのタイミングを狙っていた。

 

 だが、ボポボをいま処刑する必要などない。イベントが終わった後、いつでもやろうと思えば出来たことだ。

 

 このタイミングでわざわざ殺してみせたのは──桜に対する挑発に他ならない。

 

 そしてそれは、あまりにも効果覿面だった。

 

 

 

 

 

「……ぅっ」

 

 思わず私は呻いた。込み上げてくる嘔吐の感触に耐える。

 

 ようやく、私は気付かされた。──自分が初めて、ヒトが殺されるところを見たことに。

 

 長い人生だ。他人が死ぬのを見たことはある。殺された人もだ。でもヒトが殺害される、まさにその現場に居合わせたことだけはなかった。

 

 ──それが起こりそうな時、私は自らの手で食い止めていたから。

 

 桜もそうだったようだが、レイザーがこちらを狙っていないと気づいた時、私は仲間のところへボールが投げられることを警戒した。

 

 確かに一度は狙っていたのだ。だがレイザーは直前で狙いを変えた。おそらく意図的にだろう。仲間を襲うと見せかけて、あのボポボというヒトを処刑した。

 

 ──桜を挑発する為だけに。

 

 全身から失せかけていた気力が、甦ってくる。処刑することの正当性が問題ではない。桜を故意に傷つけた、その事実が許し難かった。

 

 やがて桜はレイザーから目を逸らし、俯いたままドッジボールのコートから歩いて外へ出ようとする。

 

「──タイム!」

 

 私は慌てて宣言し、桜の肩に手をかける。何も言わずに桜は私の手を払い、コートから出ていってしまった。

 

 殺されたボポボのところへ向かう桜。……私は払われた手の感触に怯え、桜の後を追えなかった。

 

 

 

 

 

 ボールが転がるそばで、ボポボが倒れていた。海賊達が離れてそれを見ている。

 

「……どう?」

 

 桜が尋ねる。海賊の1人が首を横に振る。……無論分かってはいても、桜も聞かずにはいられなかった。

 

 ボポボの死体のそばでしゃがみこみ、検分する桜。頭部が大きく損壊している。脳すら破壊されている為、どう見ても即死だった。これでは大天使の息吹も効かないだろう。

 

「……」

 

 死体に手を触れる桜。力なく膨らんだお腹を少し撫で、

 

「…………

 うん、そうだよね。こんな最期、やっぱり納得できないよね」

 

 桜の独り言に、海賊達が怪訝な顔をする。いったい何を言っているのか。

 

「……相撲、取れなくてゴメンね。

 その代わり、ちょっとだけ時間をあげる」

 

 死体に対して奇妙なことを告げ、桜は立ち上がる。

 

 遠くから視線を向けてくるレイザーを、桜は激情を込めて睨みやり、

 

「──あのクソ野郎、一緒にブチのめそ?」

 

 ボポボの死体へ身体を向け、桜は小さな指を大きく跳ねさせる。

 

 

 

(まが)しい残滓(ざんし )(いま)だに宿(やど)す  (ほろ)びの運命(か ぜ )(ま )かれし(モノ)

 (こご)るその(み ) 呪を( まじない )(み )たし

 二度繰(に たびく )る (ゆめ)(つづ)きに(むね)(おど)らせ──」

 

 

 

 桜は自らの憎悪を込めたオーラを、ボポボの身体に手を触れてドロリと流し込んだ。

 

 

 

 

 

「────【不良甦生/ビカムアンデッド】────」

 

 

 

 

 

 力尽きたはずのボポボの肉体から、漆黒のオーラが噴き出した。まるで巻き戻るように、露出した血液や脳がボポボの頭部へ戻っていく。

 

 破壊された頭が復元し、倒れていたボポボの肉体が、不自然な強引さで起き上がった。

 

「グるるるるる……」

 

 唸り声を上げるボポボ。死人が甦ったのかと海賊達は驚いたが、様子がおかしいことにすぐ気がついた。

 

 ボポボは白目を向いたまま、全身を絶え間なく震えさせている。口許から涎が垂れ続け、とても正常とは言い難い。まるで映画やゲームに出てくるゾンビのようだ。よくて、凶暴きわまる獣といった様相。

 

 桜がポンとボポボの身体に触れると、ズン、ズン……とボポボが重い足取りで歩き出す。

 

 ボポボを連れて、コートの手前まで桜が戻ってきた。レイザーは何事か考える素振りを見せ、

 

「……面白い真似をするじゃないか。

 だが、そいつを連れてきてどうする? 当然参加は認めないぞ」

 

 桜は指をくいっと動かす。すると外野にいたプーハットの影が蠢き(うごめ )、ボポボの形に変形した。更にその念獣が、ボポボの足元の影にスゥッと吸い込まれる。

 

「これでいいだろ?」

「……」

 

 確かに人数上は帳尻が合っている。が、

 

「新たな人間をメンバーに加えるのは認められない」

「人間?

 ……違うよ。これは死体。オマエが殺したんじゃないか。

 これはただのモノだよ。念獣が道具を使ってるだけだ」

「ぎィィィィィ……」

 

 ボポボの憎悪が籠もった声を不快に思いながら、レイザーはしばらく考えこむ。やがて審判をチラリと見やり、

 

「──今回は特別に認めます。禁止していませんでしたから。

 が、次から同じように死体を道具として使用するのは、念能力であっても認めません」

「あっそ。別にそれでいいよ。

 もうしないし」

 

 海賊の1人が持ってきたボールを、レイザーが受け取る。それをボポボの足元に放ってやった。

 

「オマエのボールだ。外野から投げるといい」

 

 ボポボが緩慢な動作でボールを拾い上げ、プーハットの影がいた外野の方へ歩いていく。桜は複雑な表情のまま、内野に戻ってきた。

 

「桜……」

「ごめん……

 でも、どうしても許せなかった」

 

 心配そうに声をかけるアイシャに、桜はそう返す。

 

 アイシャも気づいていた──アレは死者の念だ。桜が死者の念を呼び覚まし、自律して動くように仕向けたのだろう。ピトーという前例を知っていたことも大きい。アレは文字通りの、歩く死者と呼ぶべき存在だ。

 

 まごうことなき邪念の所業。アイシャにとっても、本来なら忌むべきものだ。……が、それを為した桜の心情はまるで真逆だった。どんな気持ちでそうしたのか、アイシャにも痛いほど理解できた。

 

 ボールを握り締めたボポボの身体から、強烈なオーラが迸っ( ほとばし )た。死後強まった念が更に増幅し、強大な憎念をレイザーへと向ける。

 

 

 

「……ぉ……おおおおおおおおああああああああああああああああああッッッッ!!」

 

 

 

 憎しみのままに吼え猛り、ボポボは全身全霊を籠め、レイザーへボールを投げ放つッ!!

 

 ──バチィィィィィンッッ!!

 

 両手でボールを受け止めたレイザーの身体が、内野を滑っていく。一瞬足を止めた直後、勢いのままグルリと旋回し、ボポボへボールを投げ返すッ!!

 

 ボグァッッ!!

 

 今度こそ。──直撃を受けたボポボの頭部が、首から上全てが消し飛んだ。

 

 頭を失ったボポボの肉体が、ズズンッ……と倒れこむ。

 

 桜はその様子を見つめながら、静かに息を吐く。

 

 

 

「……うん、そっか。

 

 これで満足できたなら良かったよ。バイバイ、ボポボ……」

 

 

 

 寂しげな桜の独り言に応えるように、ボポボの全身からは完全にオーラが失せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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