どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二百三十三章

 

 桜から自力で離れ、その場に腰を落としたレイザーは、

 

「これでお前達が8勝……負けたよ。

 げほっ! ……約束通、かはッ」

「律儀だにゃあ。

 無理して言わなくていいよ?」

「……言わせろ。

 約束通り、オレ達は、街を、出ていく……」

「はい、お疲れさん。

 さっさと回復したら?」

「……」

「いや。バカにしてるわけじゃなくて、真面目な話。

 ……仲間を殺した自分が、少なからず反感持たれてるのは分かってるでしょ? そんなボロボロのままでいたら、それこそ結託されてリンチに遭うよ?」

「……

 あまり見せたくないんだが、そうも言ってられないな……」

 

 桜、アイシャ、ヒソカの視線が集まる中、レイザーはポケットから1枚のカードを取り出す。

 

 

 

『-019:万能/オールマイティー』

 ゲームマスター専用

 遠距離特殊呪文 ランクなし カード化限度枚数なし

 指定した番号のカードを

 ゲイン・使用したのと同じ効果を得る

 

 

 

「……『万能/オールマイティー』オン。No.17」

 

 カードが消え、大天使の息吹を使用した時と同じく、例の女性が現れる。

 

「なるほど、めっちゃ便利だにゃー。

 それならゲーム中のカード、なんでも使いたい放題だもんね?」

「だが虎の子だからな……そう軽々には使えん」

『わらわに何を望む?』

「レイザーの身体を完治させて」

『お安い御用。

 では、その者の体、治してしんぜよう』

「おいおい……

 勝手に使ってくれるな」

「どうせ自分で同じこと言うでしょ? 手間省いてあげたんじゃん」

「恩着せがましいヤツだ……」

 

 話している間に、息吹を受けたレイザーの身体とオーラが元通りに復活する。

 

『では、さらばだ』

 

 女性の姿が消えて、服や靴だけがボロボロなままのレイザーが立ち上がる。桜をじっと見据え、

 

「完敗だ。

 ……これ以上ないほどのな」

「修行不足だよ。ねぇアイシャ?」

「そうですね……

 以前も私達に負けたのに、あまり強くなっていないのは感心しません」

「ずいぶん手厳しいな。

 これでも鍛え直したつもりだったんだが……」

「ナメプしすぎー。

 ゲームマスターも絶対無敵じゃないんだから、もうちょっと緊張感持ちなって」

「にしても、お前は無闇に強くなったな……

 以前会った時と見違えたじゃないか。何があった?」

「にゃふふ♪

 まぁこっちにも色々事情があるの」

「フン。

 ……アイシャ。キミと少し話をしておきたいんだが」

「私とですか? それは構いませんが」

「ごめん、ヒソカ。

 もうアッチも気づいてるだろうけど、みんなに終わったってことと、少し待ってほしいって伝えてくれる?」

「ボクだけ除け者かい? 仕方ないなぁ……

 アイシャ♥」

「はいはい……

 あなたに1つ借りです。ちゃんとお返ししますよ」

「期待してるよ♦」

 

 嬉々としながら離れていくヒソカ。逆に険しい表情でレイザーは、

 

「……お前も向こうに行ってほしいんだがな」

「ダメー。

 アイシャとする話くらい予想ついてるよ。GMとゲストだからこそする話でしょ?

 アイシャから後で聞きだすし、内緒にしても意味ないよ」

「困ったヤツだな。

 むしろお前に関する相談をするつもりだったんだが」

「にゃ?」

「アイシャ。

 こいつはこうやってオレ達の運営事情に首を突っ込みすぎてる。普通にゲームをプレイする分には構わんが、あまり我が物顔で干渉されると、オレ達も看過できなくなる」

「……だからやめさせろ、ですか?」

「アイシャに注意されたって、私やめないよ?

 お化け屋敷でスタッフオンリーって書いた扉があったら、開けてみたくなるじゃん?」

「桜……

 まあ、本人はこう言ってますが」

「ボポボの処遇については、警告も含めたつもりだったんだがな。

 こちらの内部事情に、これ以上関わるなと」

「……意見が合わないね」

「GMとして正式に警告しておく。

 あまり1プレイヤーから逸脱した行為を続けるようなら、オレ達も強硬手段に出ざるを得なくなる」

「ふぅん。たとえば?

 前もやったみたいに、『排除』でアイジエンに飛ばしてみる? 負けた腹いせにはなるかもねぇ?

 あーでもアレって、正面からちゃんと入ったプレイヤーには効かないのか。

 けど、ゲーム機から入ったプレイヤーでも、不正してたらブッ飛ばせるGM用スペルもあるんでしょ?」

「……

 そういうところなんだがな。オレが言いたいのは」

「うにゃ?」

「レイザーさん。

 私からも警告しておきますが、もしウラヌスを強制排除すれば、私はこの島全てを敵と認識しますよ?」

「…………

 受けて立とう──と言いたいところなんだがな。

 オレの権限で、キミを敵に回すことは出来ん。さっき放ったボールの威力を見た後では尚更だ」

「へいへい♪

 レイザーくん、びびってるぅー」

「桜、煽らないでください。

 ……私からも干渉しすぎないように注意しておきますが、この子もこんな調子なんで、あまり期待しないでください。

 ただ、私もこのゲームにある程度関わりを持った人間です。色々思うところもありますから、のちほど意見として伝えさせていただきます。そのおつもりで」

「……覚えておこう」

 

 立ち去ろうとするレイザーに、桜は軽く手を伸ばし、

 

「あー、レイザー。

 1個聞きたいことがあるんだけど?」

「なんだ?」

「あのさ、この海岸線イベントだけど。いくらなんでも開幕キツくない?

 ノーヒントじゃ分かんないって、こんなの」

「……だが現に、到達者は居るからな」

「多分だけど、ゴンが来るまでは誰もクリアできないような感じに、ジンが仕向けてたんじゃない? だとしたら無茶苦茶じゃん」

「……あまり考えたくはないが、確かにイカレてるからな。ジンのヤツは」

「自分の雇い主にそこまで言う? いや、別にいいけどさ。

 で、海岸線はいいよ。でも密林は、誰もイベント発生すらさせてないよね?

 このままじゃ、また誰もクリアできないーってなりそうなんだけど」

「……それが本題か」

「前はたまたま『宝籤』で引き当てたプレイヤーがいたから良かったけどさ。

 なんか密林に関するヒントってないわけ?」

「例のクイズでも言っていた通りだ。

 長老相手に条件を探ればいいだろう」

「いやいやいや……

 それが理不尽だから言ってるんであって。がんばってこのイベントクリアしたんだし、ちょっとくらい、なんか教えてくれたっていいじゃん?

 十数年間、誰も挑戦すらしてないイベントって、いくらなんでも有り得ないでしょ?」

 

 両腕を組み、視線を逸らして何事か考えるレイザー。ひとしきり黙り込んだ後、

 

「…………

 これはオレの独り言だ。

 今のオマエは、挑戦できる可能性がある」

『──ッ!?』

「せいぜい頑張るといい。じゃあな」

「あ、待ってレイザー。

 もう1個だけ言いたいこと……」

「なんだ、しつこいな。

 ヒントならもうやらんぞ」

「違う違う。

 ……ボポボのこと、ちゃんと弔ってあげてね?

 死んだら善人も悪人もないんだから」

「……

 ずいぶん、あんなヤツのことを気にかけるんだな」

「アンタの為に言ってんの。

 自分に逆らったらどうなるか手厳しく示したつもりなんだろうけど、死んだ仲間を雑に扱うリーダーなんて誰が従うのさ。

 いい加減な真似してると、またそのうち誰か裏切っちゃうかもよ? 二度も裏切り者が出たら、それこそ管理責任を問われるんじゃない?

 しっかり弔った上で、オレに二度とこういうことをさせるなとか言っとけば、いくらか部下の信頼を取り戻せそうでしょ?」

「……今度はオレの心配か?」

「ヒントのお礼。

 ありがとね、レイザー♪」

「……。

 お前はつくづくお人好しだな」

 

 心底呆れたようにそう告げ、今度こそレイザーは海賊達のところへ歩いていった。

 

 それを見送る桜を、アイシャはよく分からないといった表情で見つめ、

 

「……

 桜は、レイザーのことをどう思ってるんです?」

「大キライ。めっちゃムカつく。

 ボポボのことを殺したのは、絶ッ対、許さない。

 ……でも、だからって死んじゃえばいいとまでは思ってない」

「ええ、知ってますよ。

 あなたはレイザーのことも死なせないよう、ちゃんと気遣ってましたからね」

「ふにゃ……」

 

 桜の頭を撫でるアイシャ。レイザーに対する殺意が、なかったわけではないのだろう。ただそれ以上に、彼の事情を理解もしていたからこそ、桜は最後の一線を越えなかった。

 

 

 

 海賊イベントはひとまず終了した。ただ、一坪の海岸線を入手できるイベントは朝日が昇るタイミングで発生する為、夜明けまで待ちになる。

 

 少なくとも海岸線を報酬としない者達は、それを待つ必要はない。そう桜が判断して、攻略チームは解散となった。

 そう判断した理由は簡単だ。海賊達とのスポーツ勝負は事実上のバトルイベントな為、クリア前に死者が出るおそれがある。バトル中に1人でも欠けたら報酬が手に入らないというのは理不尽に過ぎる──ゆえに全員揃って報酬を受け取る必要はないというわけだ。

 

 ただ桜達は、呼び集めた仲間達とそれぞれ個別に話さなければいけないことがあるので、一服もせず(せわ)しく動き回っていた。

 

 

 

 夜の街中。桜達とヒソカが話し、シャーロットが離れて待っている。桜の実力について興味津々だとヒソカは熱心に語り、

 

「──だから、キミとも一度戦ってみたいな♥」

「ん?

 ……別にいいけど。できるならだけど」

 

 ヒソカの要求に、あっさり応じる桜。

 

「でもここじゃダメだからね。現実に戻ってから。

 アイシャと連絡取れるんだったら、私と戦いたい時に伝言して。

 確か私から戦いを挑めば、掟に触れないんだよね?」

「……それで問題ありませんが」

「アイシャは、私がヒソカと戦うのは反対?」

「……」

「もちろん、アイシャともそのうち戦わせてもらうよ。

 この島でもうしばらく鍛えるつもりだけどね♣」

「それは結構なことです。

 次に相まみえる時を楽しみにしていますよ」

「シャーロットさんも、もっと鍛えてあげなよ?」

「彼女は……

 言われなくてもそうするけどね。

 また何かあったら誘ってくれていいよ。今回はなかなか楽しかった♦」

 

 ヒソカはシャーロットの元へ行き、何やら雑談しながら去っていった。

 

「桜は、ヒソカのこと気にいったんですか?」

「今のヒソカはね。

 ……昔のヒソカは酷かったんでしょ?」

「そうですね……」

 

 アイシャの見立てでは、シャーロットの存在がある程度ヒソカのブレーキになっているように思えた。意外にいいコンビなのかもしれないなと、アイシャはひとまず息を吐いた。

 

 

 

「──あの話、ちょっと考え直させてもらえるか?」

「にゃ?」

 

 待っていたプーハットに声をかけると、第一声がそれだった。

 

「断っちゃうの?」

「まぁ慌てるな。

 ……正直、クリアできる自信がなくなっちまってな。

 オレはこのゲームから早く降りてぇんだ」

「ああ……」

 

 あのドッジボール対決を目の当たりにして、完全に意気消沈したらしい。無理もない話ではある。

 

「今の元ハメ組連中の実力じゃ、逆立ちしたってアンタ達には敵わねぇ。

 あのレイザーにもな。そんなザマで、どうやってクリアするってんだ……」

「最後はどうしてもバトルを制しないとクリアできないからね。

 実力不足だと、揃ったカードを最後に全部奪われてオシマイだよ」

「やっぱそうだよな……

 命あっての物種だ。金目当ての集団じゃ、いざって時の戦闘なんざ期待できないからな。今の規模じゃ数に物を言わせることもできねぇし、無理やり集めりゃ前みたいに仲間割れだって有り得るからな。

 だから、アンタ達と組ませてくれないか?」

「んー……

 分け前どうすんのとか、色々あるんだけど」

「ウラヌスがお支払いすると言っていた報酬の件、私からもう少しお出ししましょうか?

 いくらか余裕はありますので」

「おっ、マジか?」

「えぇー。アイシャ待ってよ。

 私がした話だし、私が払いたいんだけど」

「ですが……」

「あー待て待て、揉めるな。とりあえずだ。

 オレは払ってくれる保障さえしてくれれば、それでいい。

 ウラヌスが用意してる2億じゃ、ちと物足りなかったんでな。

 アンタが立て替えてやって、後でウラヌスがアンタに返すなりなんなりしてくれりゃ、オレとしては問題ない」

「えー……

 アイシャに借金とかヤダぁ」

「まだそうとは決まってないだろ?

 さっさとクリアしてくれりゃ、オレもオマエにそこまで請求しないさ。

 ちゃんとリスクと働きに見合う報酬を要求したいだけだ」

「うーん……

 とりあえず、アレだよね? 私達が一坪の海岸線を取ったって情報と、一坪の海岸線の取り方は──」

「そいつをオレの口から言わせたくないなら、口止め料が欲しいな。

 今のハメ組には、スパイとして潜り込んでた方がいいんだろ?」

「……まぁね。

 ちなみに、それでいくら?」

「そうだな……

 あんまりフンだくって、払いを渋られたり、トボけられたら笑えねーしな……

 オマエさん達が一坪の海岸線を持ってるって情報は、そのうち知られる可能性がある。オレが言わなくてもな。だからそいつぁ200万に負けとく。

 だが、一坪の海岸線の取り方は1000万だ」

「……一坪の海岸線の取り方は、しゃべってくれてもいいけど?」

「おいおい、もう値切ろうってのか」

「ちょっとお2人とも……

 共同戦線を張るわけですから、あまり仲の悪いことはしないでください」

「だってよ。

 ……どうする、ウラヌスちゃん?」

 

 アゴをさすってニヤニヤと笑うプーハットに、

 

「ぶぅー。

 ……分かったよ。合わせて1200万、払えばいいんでしょ?」

「まいどあり!」

「もー……いちおう今回手伝ってくれたから、いいけどさ。

 これから手を組むから、ご祝儀込みでね?」

「よろしく頼むぜ。

 で、それはそれとして、スパイとして潜り込むんだから──」

「んー……

 いいけど、それは成功報酬にして。

 だってスパイとしてちゃんと働いたか証明できないでしょ? こっちがクリアできたら、無条件で役に立ったって認めるからさ」

「妥当だな。

 で、いくらだ?」

「……前は3ヵ月で2億なら渋々OKだったんだよね?

 じゃあ1ヵ月ごとに8000万でどう?」

「まぁ悪くねぇかな……

 日割りだと端数が出るだろうが、計算はどうするんだ?」

「たとえば、今日から1ヵ月以内なら8000万、1日でもハミ出たら1億6000万、でどう?」

「オーケィ。

 しかしそうやって期間を区切るってことは、本当にクリアが目前に見えてるんだな。

 大したもんだ」

「一坪の密林が、さっさと取れたらねぇ……

 アレだけは計算が立たにゃいんだよなぁ。

 だから、ちゃんと手伝ってよ? 粘った方が儲かるとか考えられたら困るからね?」

「バカ言え。あんまり長引いても、オレだってキツイさ。早くクリアしてくれりゃオレもこのゲームからオサラバできて助かるからよ。

 協力できることがあるならしてやるから、遠慮なく言ってくれ」

「……お金とるんでしょ?」

「当たり前じゃねぇか。タダ働きなんてまっぴらゴメンだ」

 

 ガッハッハと笑うプーハット。強者2人を前にしてもまるで遠慮がないこの豪胆さに、アイシャと桜も思わず釣られて苦笑した。

 

 

 

 ハメ組の連中に疑われても困るので、連絡はプーハット側からするという約束をして、彼と別れた後。

 今度はセンリツと話をしに行く。

 

 彼女は波打ち際で、潮風を心地よさそうに浴びていた。

 

「あら、もうあたし?

 まだここで待っていてもよかったのに」

「センリツは1人だからね。

 あんまり待たせても悪いし」

「だったら後日でもよかったと思うけど」

「いやー。

 早いうちに話しておきたいかにゃって」

 

 センリツは思わしげな表情で首を傾げる。

 

 ちなみにベルとモタリケは、既にアントキバへ帰還している。メレオロンとシームは、ジェイトサリ達と一緒に待っている。アーカも共にいるが、早く帰りたがっているので、次に相手するつもりだった。

 

「今日はありがとね」

「あたしは何もしてないわよ。

 なんだかスゴイ戦いだったわね」

 

 顔を見合わせる桜とアイシャ。見せない方がよさげな内容だったのは間違いない。

 

「……吹聴しないでね?」

「分かってるわ。

 どう伝えたらいいかも分からないもの」

「ありがとうございます。

 いずれ、何かお礼をさせていただきますね」

「……そうね。

 もしよかったらだけど、探し物があるから気が向いたら手伝ってほしいかしら」

「と言うと?」

「ウラヌス……今は桜だったかしら?

 あたしの探し物が何か知っているから、聞いてみて。

 手掛かりが何もなくて困ってるのよ」

「私もアレ、ちょっとキツそうだなーって思ってる」

「無理して探さなくていいわ。

 ダメ元だもの」

 

 静かな表情で首を横に振るセンリツ。本人も存外諦めかけているのかもしれない。

 

「いつか見つかるといいよね。

 ……で、ちょっと言いにくいことがあるんだけど」

「なにかしら」

「えっとね。

 ……もうじきクリアできそうにゃの」

「あら、すごいじゃない」

「ええと、だからね……」

「分かったわ。もしもテレビがそのうち使えなくなるってことね。

 預かっておくのも無理なんでしょ?」

「ああ、うん……その通りなんだけど。

 でも確実にクリアできるとも限らなくて……」

「伝えておくわ。それだけでも全然心証は違うでしょうし。

 ただ、あたしは構わないけれど、ボス達には何か埋め合わせがいるかも」

「……神字絡みなら、現実に戻ってすぐ調達できるかにゃーって」

「リーダーは喜ぶでしょうね。ここに来なくて済むなら、むしろ万々歳でしょうし。

 でも、ボスはどうかしら?」

「うーん…………

 どうしよ」

「フフ。

 思いつかないなら、無理して考えなくてもいいわ。仕方ないもの。

 ボスに聞いておいてあげるわ」

「うん、お願い」

「……不思議な子ね」

「うにゃ?」

 

 センリツはアイシャの方を見やり、

 

「あたしには、今のこの子の状態がよく分からないわ。こんなこと初めて。

 あなたには分かるの?」

「……」

「前とずいぶん変わってしまって……

 少なくとも、ものすごく力強さが伝わってくるわ。どれだけ強いのか分からないぐらい。

 あなたも有り得ないほど強いけど」

「……買いかぶりですよ」

「またまた、そんな謙遜して。

 あれだけ強ければ、ネテロ会長が病院送りにされても仕方ないわね」

「……」

「ごめんなさい。詮索はしないでおくわ。

 それじゃ、もう帰るわね。おやすみなさい」

「お休み、センリツ。

 今日はありがとう」

「ありがとうございました。お休みなさい」

 

 バインダーを出し、移動スペルで帰還するセンリツ。しばらく2人で波打ち際に佇み、

 

「……桜。あなた、自分の強さを隠していますよね?」

「にゃ?」

「惚けてもダメですよ。

 センリツさんにも分からなかったみたいですし、私にも分かりません。

 どうして隠すんです?」

「そんにゃこと言われても……

 私だって、今日がこの身体初めてだしにゃー」

「……そうでしたね」

 

 桜は、まるでずっとそうであったかのように今の状態に馴染んでいる。……が、そんなはずはない。猫の名残があることからも、それは明らかだ。

 

「……そういえば、まだ男の子に戻りませんね」

「うん、まだだね。

 いつ食べたか分かんにゃいし」

 

 元のウラヌスに戻らなければもちろんマズイが、今はまだ桜としてやるべきことがある。戻ったら戻ったで面倒そうなので、残りの用事もさっさと片付けた方がいいだろう。

 そう考えて2人は忙しなく、みんなの集まる場所へと移動した。

 

 

 

 夜も開いているカフェで、残り8人はゆったり珈琲を口にしていた。メレオロンは遠慮していたが。

 

「ごめんね、みんな待たせて」

 

 駆けつけた桜がそう謝ると、ジェイトサリは静かな表情で、

 

「構わんよ。急ぐ用もないからな。

 もう他のプレイヤーと話は済んだのかね?」

「うん、後はここにいるみんなでおしまい」

「だったら、オレを早く現実に帰してくれよ!」

「分かってるから、ちょっとだけ待って」

「我々はここで待っているから、先に済ませてやってはどうかね?

 キミなら大して時間もかからんだろう」

「あー、うん……」

「桜。私が話をしておきますから、アーカさんを港まで送ってあげてください」

「……いいけど。

 でも、私も話があるから、ジェイトサリ待っててくれる?」

「ふっ……もちろん待つとも。

 だから行ってきたまえ」

「んじゃアーカ、港までソッコー行くよ?」

「よっしゃ!

 待ってました!」

「一番港に近いのはマサドラだけど……

 目立たないのはブンゼンからかな。じゃあ行こ」

 

 桜とアーカが離れ、『同行』で夜の空へ飛んでいく。

 

「さて。

 連れにはもう伝えてあるが、キミにも話しておこう」

「……?」

 

 アイシャが首を傾げると、ジェイトサリは空いた席を引き、

 

「ともかく座ってくれたまえ。

 彼女が戻ってくるまで、しばらくかかるだろうしな」

「……どうも」

 

 あんまりかからないんじゃないかなぁ、とアイシャはぼんやり考えていた。

 

 

 

 案の定、桜は5分で帰ってきた。

 

「……なんだ。ずいぶんと早いじゃないか」

「んにゃー。

 むしろ所長とかアーカとの話で手間取ったくらい」

 

 訳が分からないといった様子のジェイトサリに、額をかくアイシャ。ホントこの桜は、意味が分からない。色々と。

 

「まあ、そんなことはいいか。

 彼は無事現実に戻ったのかね?」

「うん!

 やっと帰れるって、めっちゃ泣いてた」

「そうか……」

「アーカには港から帰ってほしかったし、これでまた問題1個解決!

 気分いいにゃあー♪」

「……ところで、彼に『離脱』を渡さなかったのはなぜだね?

 持っているんだろう? 1枚ぐらい」

「ていうか挫折の弓があるし、ぶっちゃけいくらでもかな」

「ほう。では、なぜわざわざ?」

「アイツが入ってたゲーム機から、私達も入ってるの。

 んで秘密の場所に隠してあるから、アーカが『離脱』で出ちゃうと……」

「なるほど、そういうことか。

 我々もトラブルを避ける為に帰る時は港から出たが、やはり正解だったようだな」

 

 ふぅと息を吐くジェイトサリ。

 

「どったの? そんな疲れた顔して」

「……キミにも伝えておこう。我々は──」

「帰っちゃうの?」

 

 沈黙するジェイトサリ。一同もシンと静まり返り、

 

「……気づいていたのか」

「雰囲気的にね。

 でも、どして?」

「いくつか理由はある。

 ……まず恥ずかしながら初めてランクSSのイベントに参加させてもらったが、我々には到底付いていけるレベルではなかった。これではあと何年ゲーム内に留まったところで、自力でのクリアなどまず不可能だろう。

 2つ目に、ランクSSカードの入手に立ち会ったことで、我々は満足してしまった」

「まだ取ってないよ」

「確かにカードの入手自体はまだだがね。だがここまでくれば確実だろう。

 最高難度のアイテムの1つを取れたこと、これで達成感を得てしまったのが大きい。

 既に初クリア者も出てしまっていることだし、挑戦意欲がかなり薄れてしまった」

 

 アイシャと桜が顔を見合わせる。お互い気まずそうな顔をした後、

 

「そして3つ目だ。

 ……キミ達、もうクリア寸前だね?」

 

 黙り込む4人。ジェイトサリ組の面々が窺うような視線を向け、

 

「やはりそうか。

 であれば、我々がいくら足掻いたところで今回もクリアには届かないだろう。

 だが我々も、ただ無為な時間を過ごしたとは考えたくない。せめて、キミ達にこちらのカードを全て譲ろうと思っている。

 私のような老兵は、才能ある後輩に大人しく道を譲るべき──」

「待って、ジェイトサリ」

 

 桜が請うように声を発する。

 

「なんだね?」

「……本当に、それでいいの?」

「我々も、相談して決めたことだ。

 悔いなどないよ」

「……違うでしょ?

 まだやれること、あるんじゃない?」

「そうかね? 

 特に思いつかないが」

「──私達と手を組む、っていうのは?」

「桜……」

 

 桜の提案に、アイシャは困った顔を、ジェイトサリ達は軽くざわつく。

 

「本気かね?

 キミ達に、我々と手を組むメリットなどないと思うが」

「そんなことないよ。

 私が今まで断ってたのって、分け前の問題があったからだよ。

 でも、もうジェイトサリ達はクリアを諦めるんでしょ?

 だったらせめて……一緒にクリアしようよ?」

「……」

「カードは要らない。

 でも、残りのカード集めを手伝ってほしい」

「……だが、我々など力になれるかな」

「残りのカードにもよるでしょ?」

 

 踏み込んだ桜の提案に、ジェイトサリ達も顔色を変える。

 

「もう一度聞こう。本気かね?」

「本気。

 アイシャ達はどう?」

「……ぼくは、いいと思うよ」

「……

 そうね。アタシも反対はしないでおくわ」

 

 3人の言葉に、アイシャは息を吐きながら頭を振る。

 

「はぁー……

 もう、あなた達は……

 そんなこと言われちゃったら、私1人反対できないじゃないですか」

「アイシャは反対?」

「……。

 ハメ組さん達のやり方は認めたくありませんが、信頼できる仲間は非常に心強いです」

「だって。

 ジェイトサリ、どうする?」

「……

 その返答をする為に、どうしても予め確認しなければならないことがある。

 尋ねてもいいかね?」

「いいよ。カード枚数でしょ?

 一坪の海岸線を取ったら、私達の指定ポケットカードは96種類になる」

 

 具体的な数字を聞いて、ジェイトサリ組から『うおおお……!』と感嘆の声が上がる。

 

「クリア目前と予想はしていたが……

 まさか、それほどとはな」

「分け分けして持ってるから、今この場で証拠は見せられないけどね」

「当然だな。

 そこまで所有しているなら、ランキング対策は必須だろう」

「だね。

 『堅牢』はあるけど、全ページを守るのに必要な枚数の『擬態』を集めきれないし」

「肝心なのは、残りの4種だな……

 教えてもらってもいいかね?」

「2枚は予想ついてるかな。

 支配者の祝福、一坪の密林」

「その2枚は仕方あるまい。

 残りの2枚は?」

「シルバードッグとメイドパンダ。2枚ともランクS。

 どっちもハイループで取れるんだけど、クリア前と取り方が変わってて困ってる」

「ふむ……なるほど。

 その2枚だけに的を絞れば、我々でも情報集めぐらい容易に出来そうだな」

「仲間が1人、もうハイループで情報集めしてるから、そっちに協力してくれると助かるかにゃ」

「ふむ。……その仲間は、信用できるのかね?」

「うん!

 私のおねーちゃん」

「……疑う余地がないな。

 キミが我々を信用できる者だと保証してくれれば、すぐにでもキミの姉に協力しよう」

「……んでさ。

 分け前、どする?」

「ふふ。無粋なことを言うな。

 我々にも、ゲームクリアという本懐を遂げた美酒を味わわせてくれるのだろう?

 それが何よりの報酬じゃないか」

「ええぇ……でも」

「僅かに手伝ったぐらいで、分け前を寄越せなどと恥ずかしくて言えんよ。

 なぁみんな?」

「おお、そうだそうだ!」

「つーかゲームクリアできるとか、夢みてぇだよ!」

「だから誰かと手ぇ組もうって、オレずっと言ってたじゃねぇか!」

 

 1人が賛同の声の代わりに拍手し、なぜか全員が拍手し始めた。

 

「あははは……なにこれ?」

 

 釣られて拍手してる桜が、おかしな笑いを浮かべている。

 

「面白い人達ですね」

「長く苦楽を共にしてきた、戦友達だからな」

 

 アイシャとジェイトサリがそう話し、桜がイタズラっぽい笑みを浮かべる。

 

「アイシャ。

 もう教えちゃってもいいんじゃない?」

「……そうでしたね。

 ジェイトサリさん。まだ私からお伝えしていないことがあります」

「なにかね、改まって?」

「ジェイトサリさんは、グリードアイランドのゲーム機を、サザンピースオークションに預けられていましたよね?」

「ああ、確かにそうだ。

 以前にも話したが、7本のうち6本がバッテラ氏の手に渡り──」

「残りの1本は、私が手に入れました」

「ほぅ?」

「ジェイトサリさんの顔に見覚えがあったんですよ。

 どこだったかなと思ったら、ゲームに入る前の画面上で……」

「……そうか。

 私と同じゲーム機から、キミも入っていたのか」

 

 

 

「ええ。……そして私は、このゲームをクリアしました」

 

 

 

 しぃん──

 

 と。この上なく静まり返る一同。

 

 そんな中、ジェイトサリは身体を小刻みに震わせる。

 

「そうか……

 そうだったのか。キミが……」

 

「才能ある後輩に、ゲームクリアの夢を託す──

 だっけ? ジェイトサリ」

 

 桜の問いかけに、ジェイトサリは小さく「ああ……」と答え、

 

「そうだったか……

 私の夢は、とっくに叶っていたんだな……」

 

「ありがとうございます、ジェイトサリさん。

 あなたがゲーム機を手放してくれなければ、私は今もクリアできていなかったでしょうから」

 

 ──無論、実際はどうか分からない。

 

 が、道を1つ違えれば、どう転んでいたか分からなかったのも事実だろう。アイシャにとって、グリードアイランドへの入島はとても危険な挑戦だったのだから。

 

 深く俯き、手で顔を覆って震えるジェイトサリの背を、桜はぽんぽんと叩き、

 

「……今度は自分の番だよ。ジェイトサリ」

 

「ああ……

 ぜひ協力させてくれ。私の方からお願いする……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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