どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二百三十四章

 

 ──10月21日。

 

 今日の夕食のタイミングでジェイトサリ達をユリに会わせるという約束をして、彼らと一度別れる桜達。心配しているといけないので、軽く現状報告を『交信』でユリにした後。

 

「さーて。旅館に戻って仮眠しよっか」

 

 ジェイトサリ達も、一坪の海岸線入手に立ち会いたいということで、またソウフラビで会う約束をしている。いずれにしても、日の出までまだ数時間猶予がある。

 

 というわけで、4人はいつもの旅館へと帰還した。もちろんアイシャは、アホみたいな距離を桜に運んでもらったが。またその距離を日の出に間に合うよう飛ぶことになるわけだが、その辺りは今更どうこう言っても始まらない。……が。

 

「おのれ、ボス属性……」

「いいじゃん別に。

 私、アイシャと一緒に飛ぶの楽しいよ?」

 

 そう言われるとアイシャも何も言えない。レオリオの時でも気恥ずかしさはあるのだが、何せ飛んでる時間が違うのだ。いくら桜が速く飛べると言っても、レオリオや移動スペルには敵わない。そのぶん抱かれてる時間が長いのが、アイシャ的に色々とアレだった。

 

 

 

 で、お風呂がちょっと妙な感じになってしまった。桜がこんな状態なので、アイシャも遠慮して入っていなかったのだが、なぜか桜が入りたい入りたいと駄々をこね、仕方なく入ることに。

 シームが1人寂しくお風呂なのだが、それ自体は普段もあることだから問題ない。

 

 やはり問題は、アイシャ・桜・メレオロンの女湯チームだろう。脱衣所に入った時から、桜が脱いだ途端にメレオロンやアイシャに抱き着いたりと色々やらかしていた。

 

「にゃっふー♪

 プニッキュマ、プニッキュマ♪ にゃんにゃーん♪」

 

 やたら楽しげに身体と髪を洗った後、湯船で気持ちよさそうにしている桜。この最悪のタイミングで性別戻ったりしないだろうな、とアイシャは内心ハラハラしていた。

 

 今は間違いなく、桜は女性である。目視確認、完了している。

 

 ……自然なんだけどなぁ。

 

 元々そっち寄りだったわけだから、桜が女性である現状はごく自然である。

 が、元男という事実がある以上、よく知る者にとっては違和感が拭えない。性格が違いすぎるというのも大きいが。

 

 本質的には同じである──それはアイシャも理解している。根は優しい。ウラヌスと桜、この点に違いはない。行動原理はやはりそこからだ。

 

 ただ、女性であることを完璧に受け入れている桜の姿が、どうしても違和感を与える。ウラヌスは両性に揺れていたがゆえに、ふわふわした印象を与えていた。

 

 今の桜は天真爛漫だが、妙に抵抗を覚える。アイシャには、その理由が分からなかった。

 

「アーイシャー♥」

「うわ、ちょっ!?」

 

 湯船に浸かったばかりのアイシャに、真正面からめっちゃ抱きついてくる桜。まったくもって遠慮がない。ウラヌスならまず有り得ない行動だろう。

 

「な、なんです桜?」

「ぷにゅー。ぱいぱいすごー。おぼれちゃうー♥」

 

 もにゅもにゅしてくる桜。桜もぷにぷにしてるので、2人してお互いエライ感触を与えあっている。感触が一方的ではないのもあって、アイシャも抵抗しづらい。

 

「ちょ、ちょっと桜……離れてくださいよぉ……」

「えぇー? あっと5っふんー。にゃーん♥」

「かんべんしてくださいってばぁー」

 

 ニヤニヤしている変態の視線にも困りつつ、アイシャは桜の相手に苦慮するのだった。

 

 

 

 ──そして、寝る時も。

 

「……なんで私の布団に潜るんです?」

「あったかいしぃ。にゃん♪」

 

 甘えまくってる桜。ウラヌスの消極さ加減は影も形もない。その代わりと言ってはなんだが、猫の時とそっくりそのままの印象だった。

 

「まったくもう……

 あなたは本当に、あの桜なんですね」

「そだよ?

 一緒に何度も寝てるじゃん。ダメ?」

 

 猫状態の桜とはアイシャも何度か床を共にしている。しかしウラヌスとの同衾は、まぁ抵抗がないと言えばウソになる。それでも他の男性と比べれば圧倒的に抵抗は少ないが。

 

「もう……今夜ぐらいはいいですけどね……」

「うにゅー♥ やったぁ」

 

 心の底から嬉しそうな桜。身体をくねくねさせる。

 

「明日も早いですから、もう寝ましょうね」

「うん♥ おやすみアイシャ♪」

「ええ、おやすみ桜……」

 

 

 

 部屋に落ちる暗闇と静けさの中。

 

「ねぇ、アイシャ……」

「……なんです?」

「私、元に戻るのかな……?」

「……。ウラヌスに、ってことですか?」

「うん……

 そうじゃないと困るでしょ?」

「……そうですね」

「もっといっぱい、みんなと遊びたかったな……」

「……」

 

 もしかしたら、二度と今の桜は現れないかもしれない。今後は会えるとしても、猫状態しか有り得ない可能性がある。無論、それが正しい形ではあるのだが。

 

「……だとしても。

 また私達は会えるじゃないですか」

「うん……そだね」

「だから……

 泣かないでください……」

「泣いてないよ……」

「うそばっかり。可愛いお顔が台無しですよ……」

「……あのね。アイシャ」

「なんです?」

「ボポボ、しんじゃった……

 私、後でお相撲取ろうって約束したのに……」

 

 アイシャは、泣いている桜の髪を優しく撫でながら、

 

「……残念でしたね」

「私ね……

 目の前で誰かが死ぬの、初めて見たの……」

「……私もですよ」

「やっぱり?

 私、やだよ……誰か死ぬのはイヤ。もう会えなくなるなんて……」

「だいじょうぶですよ……

 私達は、またきっと会えます」

「アイシャぁ……こわいよぉ……」

「さくら……」

 

 震える桜の身体を、ぎゅっと抱きしめるアイシャ。お互いの温もりにすがるように……慰めあうように。

 

 先の見えない未来に思いを馳せ、2人の少女は不安と寂しさで泣きあった──……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────セットしていた、携帯のアラームが鳴る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん。

 んー……うん?」

 

 だるい身体をもぞもぞと動かし、アラームを止める。……うわ、早いな。なんでこんな時間に……

 

 アイシャが一緒の布団に寝てる……。ん? また?

 

 あれぇ……? おかしい。なんかずいぶん長いこと寝てた気がする。軽く額をこづいてみる。……ダメだ。寝る前のことが何も思い出せない。

 

「んんっ。うーん……

 あ……おはようございます」

「おはよう……

 ていうか、なんで俺達一緒に寝てんの?」

「ああ。えっとですね、桜が……

 ──え?」

「え?」

 

 布団に寝そべったまま、アイシャがぱちくりと目を瞬く。

 

「……あなたは、ウラヌスですか?」

「え? なに聞いてんの。

 俺の名前、忘れちゃったとか?」

「まさか。

 いえ、その……

 桜では、ありませんよね?」

「当たり前ジャン。

 なにタチの悪い冗談言ってんの?」

「……冗談ではありませんよ。

 昨日、何をしていたか覚えてますか?」

「……昨日?」

 

 しばらくぼんやり頭を巡らせると──

 

 まるでフラッシュバックするように、色んな情報が痛みを伴って一気に入ってきた。

 

「つっ……!」

「大丈夫ですかっ!?」

「ん……ん。待って、今はちょっと……ぃちち」

 

 度々痛みが走り、様々な情景が頭に飛び込んでくる。この痛みは情報処理が追いつかず、脳が悲鳴を上げているからだろう。しばらく頭痛に耐える。

 

 ……いや、待て。なんだこの記憶。待て待て待て。このにゃんにゃん言ってるアホは、どこのどいつだ??

 

「────俺じゃねぇかッッ!! うそぉぉぉッ!?」

 

 アイシャを見ると、あー……という顔をしてる。

 

「え? え、マジ?

 ……もしかして俺、しばらく桜に乗っ取られてた?」

 

「……。

 そーゆーことに、なりますかね……」

 

「──ふんぎゃぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!」

 

 布団から飛び出て転げ回る。ぐわぁーッ!! 待てコラ生き恥なんてもんじゃねぇぞッ!! 表歩けねーレベルの大惨事起こしまくってやがるッッ!! ぎゃああああぁぁぁッッ!!

 

「ウラヌス、ウラヌス大丈夫ですかッ!?」

 

 ガチ心配やめて、悶えてるだけだからッ!! あ、でもダメ、俺もう今すぐ死にたいッ!!

 

 どしんっ!

 

 壁まで転がって、そこで回転を止めてピクピク痙攣しながら、

 

「アイシャ……

 もういっそ、俺のことコロコロして」

「なに言ってるんですか、ホントにもう……

 元に戻らないんじゃないかって、心配したんですよ?」

「……」

 

 気持ちがどこかへ、深く深く沈みこんでいった後、

 

「戻らない方がよかったんじゃないかな……」

「バカなこと言わないでください。

 ……ほら、ちゃんと起きて。本当に何も問題ないか、確認しないと」

「うん……」

 

 やだなぁ……。もう誰とも顔合わせたくないよ。

 

 

 

 

 

 何だか恥ずかしそうにしているちびっこの全身を周りからじっくり観察する。……ふむ。

 

「大丈夫そうですね。問題ありません」

「ホント?」

「ええ。一昨日のあなたと同じですよ」

 

 相変わらず可愛らしくはあるけどね。……寝起きで暴れて、けちょんけちょんだけど。小動物ここに極まれリ。

 

「よかったぁ……

 自分だと、どこか変じゃないかとか良く分かんなくてさぁ。

 今まであんなこと一度もなかったし……」

「……災難でしたね」

 

 今みたいにどことなく怯えてるような感じは、桜にはほとんどなかった。……ウラヌスらしくて結構なことだけど、私の中であの元気いっぱいだった桜を惜しむ気持ちもある。

 

「でもさ。

 桜、めちゃくちゃやらかしたみたいじゃん?

 俺もう、みんなに合わせる顔がないんだけど……」

「そんなこと言わないでください。

 桜はよくやってくれましたよ」

「だけど……」

「そりゃ、あなたが恥ずかしがるのも無理はないと思いますけどね」

「うぅ……」

「でも、あなたと桜は違うんですよね?

 ならしっかり自信を持ってください。別に桜のように振る舞う必要はないんですから」

「いや、そもそも無理だよ。俺にあんなの……

 あぅぅぅぅ」

 

 色々思い出してるのか、ぷるぷる震えるウラヌス。……困ったなぁ。私をソウフラビへ運んでもらわなきゃいけないのに、こんな様子で大丈夫か?

 

「だいじょうぶ……?」

 

 部屋の戸が開き、シームとメレオロンが入ってくる。ウラヌスが騒いだからな。心配もするだろう。

 

「あ、う、うん……

 ごめんな、2人とも。昨日は迷惑かけて」

「……アンタ、ウラヌスなの?」

「まぁ……」

 

 シームが駆け寄り、ウラヌスに抱きつく。

 

「うわっと!? ちょ、シーム……」

「どこにも行かないって言ったじゃんか!

 ばかぁ……」

「あー……そうだったな。

 いや俺も、そんなつもり全然なかったんだけど……

 でも、ホント、ごめん……」

 

 シームの頭を撫でて慰めるウラヌス。不安で仕方なかったんだろうな。無理もないか。桜の手前、ずっと我慢してたんだろう。

 

「……そうだ。桜はどうなったの?」

「それは俺も、ちょっと気になってる。

 呼んでみるか」

 

 そう言って、呪文詠唱するウラヌス。

 

 もにゅん。という感じで、かわい子ちゃんの頭上にニャンコが現れた。

 

 なんだか気持ちよさそうに、目を閉じて寝そべっていたが──

 

 目をぱちくりさせ、キョロキョロ周りを見る桜。

 

「うにゃ?」

「桜……」

 

 シームがその身体を手にして、軽く抱っこする。

 

「にゃう。ふにゃ……」

「よかった……桜も何ともなさそうだね」

「桜……

 昨日のこと、覚えてますか?」

「にゃん! にゃんにゃん♪」

「この様子だと、覚えてるみたいねー」

 

 メレオロンの言葉に、私も頷く。そうすると完璧に元通りか。……結局、なんだったんだろうな。

 

「ウラヌスから見ても、桜は特に異常ありませんか?」

「うん……

 どこも変わった様子ないけど。……強いて言えば、主張がいつもより激しいというか」

「にゃにゃ。にゃっにゃ」

「まぁ昨日のことがありますからね……」

 

 桜自身、元に戻ったことに不満がないならいいけどね。昨日もにゃんにゃん鳴いてたんだし、猫の自覚はあったんだろう。どっちもにゃんこみたいなもんだけど。

 

「つーか、こいつ散々好き勝手やらかして、後の面倒ぜんぶ俺に丸投げかよ……」

「にゃっ!? にゃっにゃ!」

「まぁまぁ。

 桜も代わりを務めることになるなんて思いもしなかったでしょうし。

 突然だったにしては、よくやってくれましたよ」

「何もしてくれない方が俺的には良かったよ……

 ドッジボールくらい、俺とアイシャでどうとでもなっただろうに、無茶苦茶して……」

 

 うーん……その場合どういう結果になったか、ちょっと怖くはあるけどね。少なくとも桜は、何だかんだで味方に被害を出さなかったわけだし。

 

「そうだ。

 桜も一緒に、一坪の海岸線を入手するところ見ます?」

「にゃん!」

「ええぇー……」

「一番の功労者は桜ですよ?

 それぐらい良いじゃないですか」

「いいけどさぁ。

 どっちかっつうと、俺だけ除けもの感あるし……」

「それは仕方ないですよ」

 

 気が付いたら取っちゃってたようなもんだろうからな。……その分、一坪の密林の方で頑張ってもらうとしよう。

 

「さぁ、あまりぐずぐずして日の出に間に合わなかったら大変です。

 急いで支度しましょう」

「にゃんっ♪」

 

 ……いや、桜は支度とかいいからね?

 

 

 

 

 

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