どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第二百三十六章

 

「アヤツラに合わせる顔がないわい……」

 

 数日前とは打って変わり、すっかり元気を失くしたネテロが、街並みを歩きながらそう零した。

 

「らしくねぇな、ジイサン。

 これから1戦やらかそうってんだから、気合い入れろよ」

「モラウ、そうとは限らないだろう。

 無論そうなるかもしれませんから、気を引き締めてはいただきたいですが」

「むぅ……」

 

 NGLでのこともあり、抜け駆けは許さないとばかりにネテロの両脇を挟む2人。正直ネテロはやりにくくて仕方なかった。

 

 

 

 

 

 ──時は少し遡る。

 

 10月19日、ウラヌス・アイシャとの決闘に敗れ、手を引くと約束して別れたネテロは、その日のうちに港から現実へと戻った。

 

 スワルダニシティにほど近い港を選んで戻り、陸路で帰還したネテロ。

 

 ネテロが自分のゲーム機を回収する為に来たその場には、なぜか『キメラアント発見の報を受けて駆けつけた討伐隊』が待っていた。

 

 よりによって、NGLでネテロ自らが討伐隊として召集をかけた、モラウとノヴである。

 

「ぅん?

 なぜオヌシラがここにおるんじゃ?」

「発見した巨大キメラアントを、会長が単身で討伐に向かわれたと聞きつけましてね」

「ボスが片付けりゃソレでよし、もし仕留め損なったら……」

「我々の手も必要かと思いまして」

「……もう会長ではないと、何度言えば分かるのかのぉ」

「これは失礼を」

「でもよ、ジイサン」

「お主は気安すぎやせんか?」

「そんなことより、結局キメラアントはどうしたんだ?

 このゲームの中に入ってたんだろ。仕留めたのか? 捕らえたのか?」

「……見逃したわい」

『は?』

 

 想定外の返答に、思わず固まる2人。

 

「……どういうこった、ジイサン?

 逃がしちまったなら有り得るかと思ったが、見逃したとは聞き捨てならねぇぞ」

「まぁ待て。

 事情は説明してやるが、立ち話で済ますようなことでもない。特にこんな場所ではな」

「では、マンションで話しましょうか?」

「うむ」

 

 ネテロが倉庫内に設置したゲーム機を回収する。突入を急いでいたのもあり、利便性を考えて、スワルダニシティの端にある倉庫を借りてゲーム機を置いていたのだが、それが失着だったと悔いるネテロ。そのせいで容易く動きを掴まれていたようだ。

 

 ノヴの【4次元マンション/ハイドアンドシーク】へと入る3人。白い床に座り込んだネテロは、2人にコトの経緯を語り始めた──

 

 

 

 ネテロは、情報源がパリストンであることを伏せつつ、NGLから逃亡した巨大キメラアント、及び管理下から逃亡した巨大キメラアントが、揃ってグリードアイランドにいること──更にはアイシャとウラヌスのプロハンター2名がその逃亡を幇助していると知り、説得の為に一度顔を合わせたことを伝えた。

 その2名は説得に応じることなく、やむなくネテロが提案した決闘で、身柄をどちらが預かるか決することになり、その結果ネテロは敗れた。よって、巨大キメラアント2体の身柄は、その2人に預けたままである──と告げた。

 

 それを聞いて、信じられないものを見る目でモラウは、

 

「おいおい……

 ジイサン、自分から決闘を申し込んで負けました、はいサヨナラって。

 そういう問題じゃねーだろ。まさか、わざと負けたのか?」

「……そんなことはせんわい」

「つーか、なに考えてんだ、その2人は。

 ハンター協会が、ひいては政府が追ってるんだぜ。プロハンターが政府のバックアップなしじゃ有り得ない存在ってのが分かってねぇのか?

 この件が表沙汰になったら、ヘタすりゃ国際問題だ。ただじゃ済まねぇぞ?」

「……いや、それは流石に分かっとるじゃろ」

 

 そうは言いつつも、アイシャは怪しいモンじゃがな、と腹の中で付け足すネテロ。特にアイシャはプロになって日が浅く、新米のプロハンターがその辺りを理解してないというのは往々にして起こり得る。──協会の黒い部分でもある為、リュウショウ時代も言及を避けていたことだ。

 

 ノヴは何事か考えながら、

 

「では、匿いきれる算段でもあると?」

「ふぅむ……どうかのぅ。

 ワシも時間の問題じゃと、何度も説得したんじゃがな」

「ウラヌスもそこまで愚かではないでしょう。

 何か考えがあると見てよいかと」

「つっても、アイツはガキだろ? まだまだよ。

 一時の感情に流されて、暴走してるだけじゃねーのか」

「……少なくともウラヌスは、オマエより頭はいいよ」

「なにぃっ!?」

「別にオマエのことを蔑んではいない。

 子供などと見くびれるようなヤツではないと言っている」

「チッ。

 ……で、ジイサン。どうするつもりだ?」

「その前に、オヌシラはどこで情報を得てきた?

 ワシとて不確実な情報を元に、アヤツラを発見できたに過ぎんのでな」

「おそらく情報の確度は、我々も同等でしょう。

 ……情報源は疑わしいものでしたが、ネテロさんのゲーム機の在り処については間違いありませんでしたから」

「まったく、不確実な情報でヒトを動かすのは勘弁してほしいんだがな」

「仕方がないだろう。

 私とて半信半疑だったが、ネテロさんとウラヌスが絡んでいるとなれば、何も確認せず放ってもおけん」

「まぁオマエが運んでくれる分には、オレは楽だけどよ」

 

 ネテロは、2人の情報源もパリストンだろうと推測した。ネテロとアイシャが衝突して、ネテロが勝ってキメラアントを確保できれば良し。それが叶わずとも、2の矢で討伐隊を組ませて再衝突を図り、何としてもネテロとアイシャの関係に決定的な亀裂を入れようとしている。

 

 ネテロとしては、いっそ黒幕がパリストンであることを暴露して、巨大キメラアントに人体実験をしていた証拠を全力で掴みに行きたいところではあった。実際ここにモラウとノヴが来ていなくとも、自分から声をかけて協力を仰いだ可能性もある。

 

 が、逃亡中の巨大キメラアントの捕縛が喫緊の問題であることも事実だ。何より、最悪ハンター協会そのものが敵になりかねない事態である以上、この件で軽々に動くわけにもいかない。

 

 いずれにしろ決して表沙汰にしてはいけない件だ。パリストンもそのように動いているだろう。だからといって、パリストンの思惑通りに動くわけにもいかない。

 

 今やネテロにとって、アイシャは欠かすことの出来ない好敵手だ。ウラヌスにしても、あれだけの奇手を打てる強者は見つからないと言い切れる存在にまで成長していた。──両者ともに、これまでの関係を手放したくないというのがネテロの本音だった。

 

「ワシは決闘で敗れた手前、あやつらとはコトを構えられん。

 それに気になることもあるでな。そっちの調査に行きたいんじゃが……」

「なんです、それは?」

「……まだ言えん。確証がないからの」

「ジイサンよぉ。

 NGLの時もそうだったが、アレもコレも隠されちゃオレ達もどうにもならないぞ?

 だったらオレも好きにさせてもらうぜ」

「待てモラウ。

 ……ネテロさん。この件にはアイシャ=コーザも関わっていると聞いています。もしや、NGLとネテロさんが調査されようとしている件は、密接な関わりがあるのですか?」

「……」

「ネテロさんらしくない慎重さです。明らかに、この件を表に出したくないという意図を感じます。あの2人を気遣ってのことではないのですね?」

「……それもあるが、それだけではないの」

「モラウ、この件は相当大きなヤマかもしれん。

 やはり慎重に動くべきだ」

「……事前調査はしっかりすべきだな。

 しかし、表沙汰にしたくないとなると人手がなぁ」

「口が堅い者達だけでやるのであれば、弟子達を使うしかあるまい」

「つってもなぁ。

 ……パームはやめとけよ」

「ああ。……ウラヌスが関わる件に近づける気はない。

 時折り周囲の目を気にしなくなるからな、アイツは」

 

 うんざりそうに言う2人。よほどのことが過去にあったようだ。

 

「そうすると、ナックルとシュートか。

 ジイサンにも勝っちまうような相手となると、ナックルしか使えねぇかなぁ」

「シュートは相変わらずなのか?」

「相変わらずだな。

 なんとかなんねぇのか、あの肝心なところでヘタれる性格」

「オマエの弟子なのだから、オマエがなんとかしろ」

「刺激しあうライバルも居ねぇからな。ナックルもサジ投げちまってるし」

 

 がりがりと頭をかくモラウ。

 

「しかし、ナックルも因縁がある相手だからな。

 どっちもどっちの甘ちゃんだから、ヘタすりゃ敵さんに取り込まれちまう」

「だが、仲は悪いだろう?」

「あいつらの仲の悪さは、喧嘩友達のソレだからな。

 殴り合いはしても、命の取り合いはしねぇのさ」

「……いずれにしろ、キメラアントを捕縛するなら念を封じる役は必要そうだからな。

 ナックルだけでも連れて行くべきだろう」

「おうよ。そのつもりで、もう連絡はしてあるぜ。

 後はオマエが迎えに行くだけだ」

「……始めからそのつもりなら、そう言え」

「かかかか!

 いや、アイツもウラヌスが絡んでる件と聞いた途端、すっかり落ち着きがなくなってな。

 連れて行くべきか悩んでたんだよ。まぁでもこれで決まりだな」

「ネテロさん。

 私とモラウとナックルの3名で、グリードアイランドへ向かおうと思います。

 あなたはどうされますか?」

「ふぅー……

 分かったわい。ワシも入るしかあるまいよ。このゲーム内は特殊なルールがあっての。そいつを教える役がおらんと色々面倒なことになる。

 ワシがレクチャーしてやるから、ナックルも連れてこい。

 いずれにしろ、このゲーム機で自由にセーブできるのは4人までじゃ。メモリーカード3枚と、マルチタップも用意せんといかん」

「その用意は私の方でしましょう」

「ジイサン、ゲームの中にオレのキセルは持っていけそうか?」

「おそらく大丈夫じゃと思うが、試してみんと分からんの」

「こいつがないとオレは戦力にならねぇからな。

 持って入りてぇもんだぜ」

「私の能力で出し入れできるかも分からないしな。

 一度直接持って入って、持っていけなければ私の方も試してみよう」

 

 

 

 モラウ、ノヴ、ナックルの3名を相手に、ネテロはグリードアイランドに関する情報、及び現在のアイシャ、ウラヌス、そしてキメラアント2体の情報をある程度伝える。

 説明を終えた後、夜までに各々準備を整え、ネテロを含む4人はグリードアイランドへログインした。

 

 更に1日が経過し、4人はマサドラへ到着。スペルカードを集めるなどして、ネテロがどうしたものかと考えを巡らせているうちに──

 

 

 

 

 

「偶然オマエのことを見かけちまったんだよ」

 

 時代錯誤な不良スタイルをいい歳こいて続けている青年を前に、ウラヌスはうんざりとした表情で、

 

「イヤーな偶然だな、まったく……ついてない。

 ネテロ達は今どこだよ?」

「アントキバってところだ。

 オレはスペルカードの買い出しついでに、この街をうろついてたんでな」

 

 ということは、ネテロはどうするか決めかねてるのか、と推測するウラヌス。……結局ネテロは約束を破っているわけだが、かといってネテロが討伐隊の手綱を握らなければ、もう少し面倒な事態になっていたかもしれない。

 

「にしても、討伐隊か……

 また物騒な名前だな」

「オレはロクに確認もせず、いきなり殺したりしねェぜ?

 魔獣みたいなもんなんだろ? 巨大キメラアントってのはよ」

「……そうだな。

 俺も最初はそう思ってたし、今もそんな感じだよ。話しゃ分かるさ」

「魔獣でも、話して分かるヤツなんざゴロゴロいるからな。

 まぁアレよ。オマエが庇いだてするような連中なら、オレはオレなりに判断してェな」

「そっか……

 とは言え、ハイそうですかと会わせたりしないぞ?」

「なんでだよ?」

「今、俺とお前は敵同士だって分かってるか?

 手を引くっつったネテロが、討伐隊を引き連れて戻ってきたんだぞ? で、お前はその討伐隊の一員だ。

 そのハンターにノコノコ情報渡すバカがいるか? 狩ってくれって言ってるようなもんだろうが」

「……じゃあ、どうすんだよ」

「ひとまず、ネテロともう一度話さないとな。

 ブック」

 

 バインダーを出して、指先でトントントンと操作するウラヌス。

 

『む? 誰じゃ』

 

「俺だよ、嘘吐きジジイ」

 

『むぅ……ウラヌスか。

 いや、いきなり嘘吐きとはご挨拶じゃな』

 

「うっせーよ。さっき偶然ナックルと遭って、軽く事情は聞いた。

 やってくれたもんだな……どうしてほしい?」

 

『ま、待たんか! ……ワシとて、もう関わりあいになりとうなかったわ。

 じゃが、放っておけばオヌシラ殺し合いを始めかねんじゃろうが。ワシはそれを止めに来ただけじゃ』

 

「どうだかな……

 そういや、ノヴはそこにいるか?」

 

『ここにいる。久しぶりだな、ウラヌス』

 

「久しぶり。ところで、アレは使えたか?」

 

『いちおうな。何度か試したが、ひとまずは問題ない』

 

「ゲームのルールに抵触するおそれがあるから、濫用は避けろよ?

 とは言え、今回は1つ頼みたいかな」

 

『何をだ?』

 

「内緒話がしたい。とりあえず、こっちは俺1人で。

 そっちはネテロと……」

 

『当然、私は参加する。──む』

 

 バインダーから何やら抗議する声が聞こえ、

 

『──オレもだ!』

 

「……モラウか。

 で、ナックルはどうするんだ?」

「まさか、オレだけ除けモンにする気か?

 ありえねェだろが、コラ」

「へいへい。

 これで全員なんだよな?」

 

『我々は4名で来ている。セーブできるのが4人までらしいからな』

 

「なるほどな。

 まぁ長丁場になるかもしれないし、セーブできた方がいいわな。了解」

 

『では、どこで会う?』

 

「そっちがアントキバの外へ出てくれるか? 人目に付かないところまで移動してくれ。

 15分したらまた交信するから、それで問題ないことを確認したら、こっちから行く」

 

『分かった。15分で移動を終えよう』

 

「じゃあ15分後。ブック」

 

 ウラヌスはバインダーを消し、やる気のない目でナックルを見やる。

 

「はぁ……

 一難去って、また一難と」

「あぁ?

 ずいぶんとやる気ねェじゃねェか」

「相変わらずなオマエのツラ見てたら、疲れちまったんだよ。

 ……疲労回復に、甘いモンでも行っとくか」

「おう!

 ……けど、15分で済むか?」

「買うだけだよ。食うには流石に時間足りないし。

 確か、旨いケーキ屋があったはずだからな。土産に持ってって、一緒に食うさ」

「そうか……」

「ん。

 ほれ、さっさと行くぞ」

「お、おぅ……」

「?」

 

 

 

「つーわけで、おみやげのロールケーキとシュークリーム。

 ドリンクは好きなの取ってくれ」

 

 15分が経ち、『交信』でやりとりした後に『同行』でネテロの元へと飛んだウラヌスとナックルは、そこから【4次元マンション/ハイドアンドシーク】の中へ移動した。

 

 相当警戒していたモラウが拍子抜けするような気安さで、ウラヌスは土産の入った袋をかざしてみせた。

 

「なんだよ、えらくフレンドリーだな」

「喧嘩腰の方がよかったか?

 相変わらず似合わねぇネクタイしてんな、モラウ」

「ああっ!?

 ネクタイならノヴもしてんだろうが!」

「ノヴは似合ってるからいいんだよ。

 お前がネクタイなんざ締めてると、グラサンも手伝ってマフィアにしか見えねぇよ」

「ケッ!

 相変わらずクチの悪ぃガキだ!」

「自分の弟子にも言ってやれよ」

「んだと?

 おめェに言われたくねェぞ、コラ! チビガキの分際で!」

「俺だってオマエになんか言われたくないな、このクソ不良め」

「……いい加減にしないか、ウラヌス」

 

 ノヴに窘められ、小さく肩をすくめるウラヌス。

 

「はいはい。ほら、喧嘩腰なんてロクなもんじゃないだろ?

 俺が悪かったから、甘いモンでも食って落ち着け」

 

 調子よく乗せられていたモラウとナックルが、不機嫌そうに押し黙る。

 

「ま。

 いきなり喧嘩売ってきたネテロにゃ、こんな差し入れ要らなかったかもな。

 あーあ、嘘吐きジジイに腹が立つ」

「お主、根に持つのぅ……」

「冗談だよ。

 今回は反省を踏まえて、手順踏んでくれたんだろ?

 ただ、あんまりこの中に長く留まらない方がいいかもな」

 

 ピクンと眉を上げるノヴ。

 

「なぜだ? ここにいる限り、安全だと思うが」

「さっきやったみたいに、移動スペルで他のプレイヤーの居場所へ飛んでくことが出来るからな。

 この中にいるプレイヤーに対して、誰かが移動スペルを使った場合、どうなるか怪しいもんだよ。ブック」

 

 ウラヌスがバインダーを出してみせる。

 

「ふぅーん……

 いちおうグリードアイランド内にいる判定だな。予想はついてたけど。ということは、移動スペルを使われたとしても、さっきいた場所に飛ぶだけか。

 ……ノヴ、こっから直接ゲーム外に出ようとするなよ? ゲームマスターに何されっか分かんねーから」

「ずいぶん警戒しているな。さっきもそうだったが」

 

 ウラヌスは【4次元マンション/ハイドアンドシーク】に入る前、バインダーに収めたカードが消えたりしないか実験をしていた。もしもゲーム外へ出た判定になっていたら、指定ポケットカードが消えてしまうかもしれないからだ。

 

「ここは相手の腹の中みたいなもんだからな。

 ヘタなことして敵に回したら、グリードアイランドのシステムをフル活用された場合、ここにいる全員でも負けると思うぞ?」

「……それほどのものか」

「神字を使えば、オーラや能力の貯蓄はいくらでも出来るからな。

 あのジンとその仲間が、時間をかけて作ったゲームだ。ヌルくはないさ」

「さすが神字ハンターは、背が縮んじまってもご慧眼(けいがん)だな。

 まぁ同業他社みてぇなモンだから、見抜いて当然か」

 

 モラウが皮肉混じりにそう言うと、ウラヌスはフンとそっぽを向き、

 

「いいから(ぬる)くならないうちに、さっさと食うぞ。

 あんまピリピリすんなよ、モラウ」

「あぁ?」

「ネテロもソワソワすんな。とりあえず落ち着け」

「うむ……」

 

 ひょいとウラヌスはしゃがみこんで、お土産を広げる。仕方ないといった様子で全員が腰を下ろし、甘いモノに手を伸ばした。

 

 

 

 甘味を堪能した後、真面目に話し始めるウラヌス達。

 

 ネテロも乗り気ではなかったが、やはり協会に身柄を預けるべきだという主張は曲げず、モラウとノヴも同意見。ナックルは会ってから判断すると主張していたが、当然のごとく会わせられないとウラヌスが突っぱねたので、そちらも進展なし。

 

「……結局ふりだしに戻るだわな。

 信用できる、できないだ」

 

 平行線とばかりに諸手を上げるウラヌス。不機嫌な顔を隠さずノヴは、

 

「お前達が庇いだてし続けるのに無理があるのは、分かっているだろう?」

「そもそも、庇うってなんだよと言いたいんだけどな。

 俺達が大丈夫っつってんのに、強引に危険を主張して身柄を拘束しようとしてんだから。お前らが信用できないんじゃ、預けるなんて出来っこないだろ?」

「お前の言うように無害な存在であれば、我々が身の安全を保障すると言ってるだろう」

「同じことをネテロは言って、ほんで負けてんのな。

 俺達より弱いヤツが何言ってんだ、って話さ」

 

 矛先を急に向けられたネテロが気まずそうに頭をかく。モラウが呆れた顔をした後、

 

「たかが一度勝った負けたぐらいで、何ほざいてやがる。勝敗は揺蕩(たゆた)うもんだろうが。

 俺達をまとめて敵に回して、勝てるつもりでいるのか?」

「……。勝つだけならな」

「言うじゃねえか。だったら今からやるか?」

「待て、モラウ。

 ……ウラヌスも、今どこにいるか分かった上で言っているのか?」

「ここはノヴの念空間であると同時に、グリードアイランド内でもある。

 どうなるか分からないのに、迂闊な真似はしない方がいい」

「……」

「全員の戦闘用能力を俺は知ってるからな。

 逆に、俺の能力の全容をお前達は知らないだろ?

 ご覧の通り、俺は念を封じられる10歳以前、全盛の力を取り戻したからな。まだ見せてない手札ならいくらでもあるぞ?

 ──あまり、魔法使いをナメるなよ」

 

 ウラヌスの言葉に、沈黙する4人。実際、ここにいる4人とウラヌスを比較した場合、4人のオーラ量の合計はウラヌスと同程度。技量も大きく変わるわけではない。

 

 が、能力を知る者と知らざる者。念能力者同士の戦いにおいて、この差は歴然と現れる。百式観音ですら例外ではない。

 

「しかしじゃな、ウラヌス。

 仮に戦って勝ったとして、次はどうする? 我々が敗れたところで、またすぐ誰か来るだけじゃぞ。オヌシラ、延々と逃げ続けるつもりか?」

「時間をくれっつってんだよ。

 何とかするにしても、こう横槍を入れられちゃたまんないっての。

 今はゲームクリアするのに集中したいんだ。いいから放っといてくれ」

「ガキの使いじゃねーんだ。

 ゲームで忙しいから後にしろ、なんて聞けるわけねーだろ」

「ノリノリで討伐に来たのに、肩すかしで空回ってる感じだなモラウちゃん?」

「ちゃん付けはヤメろ。

 ウラヌスちゃんって呼ぶぞ」

「あ、ごめん。やめて。

 ……どうあれ、お前らが信用できないんじゃ預けるなんて提案は呑めないな。

 ましてや、仕留めた方が安全確実、手っ取り早いなんて考えてるヤツがいるんだから」

「やけにオレに絡むじゃないか」

「この中じゃ、俺と一番付き合い浅いしな。

 ナックルですら会わせられないって俺は言ってんだから、なおさら有り得ないよ」

「だがウラヌス。

 我々でも信用できないとすれば、お前は誰なら信用できるんだ? そもそも信頼関係の構築を拒んできたのはお前自身だぞ?」

 

 ノヴの言葉に、ウラヌスは表情を暗くし、

 

「……それは……その通りだけど。

 でも、今回の件はちょっと違うよ。ネテロだから、ノヴだからどうって話じゃない。

 俺が言いたいのは、そのバックにある協会に対する不信だから」

「漠然としすぎているな」

「それは俺のセリフだよ。

 ノヴ。今回、逃亡している巨大キメラアント発見の報、どっから聞きつけた?」

「……」

「ほら、言えないだろ?

 ネテロも自分で調べたとか嘘吐いてるし。信用できる要素ゼロじゃねーか」

「ノヴよ、いい加減オレにも教えてくれよ。

 雲行きがずいぶん怪しいじゃねーか。どうにも動きづらくていけねぇ」

 

 モラウが抗議し、ノヴが沈黙したまま白い床に視線を落とす。

 

「……

 あまり褒められた話ではないんだがな。

 匿名で情報が何件か寄せられていた。ホームコード、ハンターサイト内のマイページ、泊まっている部屋への手紙もあったな」

「匿名なぁ……」

「全て同じではなく、だが断片的な情報を合わせると、さっき話した内容になる。

 NGLから逃亡したキメラアントと、NGLで降伏した後に管理下から逃亡したキメラアントが、プロハンター2名に匿われており、それをネテロさんが追っていると」

「前のことがなけりゃ、オレもそんな情報じゃ出向かなかったけどな。

 NGLで、ボスに置いてけぼりにされた時はどうしようかと思ったぜ」

「すまんかったの。

 あの時は一刻を争ったでな」

「まぁアレだけデカいオーラの衝突を感じとったんじゃ、無理もないですがね……」

 

 そのやりとりを聞いて、ウラヌスは幾ばくか考え込んだ後、

 

「ノヴに寄せられた匿名の情報に、プロハンター2名が俺とアイシャってのは含まれてたんだよな?」

「そうだ。

 だからこそ、私も真偽確認に動いた」

「俺関連だったから動いたってのは分かるけど、アイシャとノヴって知り合いなのか?」

「……一方的にな。

 彼女は私の顔を知らないだろう。名前も知らないかもな」

「?」

「ウラヌスよ。

 アイシャがNGLで死にかけたことは知っておるか?」

「マジ?

 NGLで巨大キメラアントの王と戦ったのは知ってるけど……」

 

 そこまで言って、ウラヌスは思い直した。アイシャの肌にうっすら残っていた、重傷を治療した痕跡。あれはやはり──

 

「いや、心当たりあったわ。

 そっか……」

「彼女の身体は、念能力による治療を受け付けないとネテロさんから聞いてな。

 瀕死の重体だった彼女を、私の能力で病院へ搬送した」

「へぇ……ノヴの能力で運べたのか」

「うん? そんなに不思議がることなのか?」

「あ、ううん。別に……」

 

 コロン、と転がり込んだ重要な情報を掴むウラヌス。4次元マンションは、アイシャのボス属性でも防げない。知らないままでいれば、今後敵対した際にマズイ展開が有り得ただろう。

 

 ノヴがボス属性の詳細を知らなかったことについては、あまり有利にならないだろうとウラヌスは考えていた。ネテロがおそらく知っているはずだ。そちらから伝われば有利は消えるし、今後もネテロは秘密にするだろうとタカをくくることも危険でしかない。

 

「まぁ俺とアイシャ両方に関わりがあって、なおかつネテロが追ってると知れば、ノヴは動かざるを得ないよな……」

「ただならぬ事態と判断したからな。

 この様子だと、間違いではなかったようだが」

「ノヴが嘘を吐いてないのは分かったよ。

 ……ただ、ネテロはな」

「そう言われてものぅ」

「お前は決闘に負けたクセに、まだそうやってしらばっくれるのな。

 ……言っとくけど。

 俺はもう今回の黒幕、予想はついてんだぞ?」

「む?」

 

 視線が集まる中、ウラヌスはその幼い顔つきに似合わない沈痛な面持ちで、

 

 

 

「──パリストン。だろ?」

 

 

 

 

 

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